ムゲンと道夜が二人きりで話し合う。
一年戦争で見てきたもの、そして未来に何を想うか。
二人が願う未来とは何なのだろうか。
宇宙世紀0080 一年戦争と呼ばれる戦争が終わって俺達はしばらくぶりの休暇を満喫していた。
「はぁ…」
何故ため息が出るか?簡単だ。リナに俺の部屋を占領されたからだ。
理由はこうだ。
「ムゲン、部屋…掃除してないね…」
「ん?あぁ。最近忙しかったからな。あと面倒だしなぁ」
「……」
「ん?どうしたリナ」
「そんなんじゃだめ!!」
「へ……?」
「私が掃除してあげるから!ささ!ムゲンは出て行くの!!」
「お、おい俺はまだ許可して…」
「しようがしまいが関係ない!私は掃除する!!!」
と、強情なリナが今部屋を掃除しているせいで、俺は部屋に戻る事ができないでいた。
そんなわけで、俺はただふらふらと艦内を彷徨っているわけだな。
「……コーヒーでも持って甲板にでも行くか…」
ふと俺は何か思い立ったかのように呟いた。
夜風はとても涼しくて、空を見上げると綺麗な月が昇っていた。あの時、研究所で見たあの夜空のような…。
そんな光景に、思わず見とれてしまう。
「…ムゲンか」
視線を戻すと、道夜がこちらへ歩み寄ってくる。どうやら、先客として道夜が居たみたいだ。
「よっ!とりあえず、向こうのベンチで話でもどうだ?」
道夜は静かに頷き、先にベンチに腰掛けた。
「…座れよ、ここ」
「おう。サンキュー」
俺は勧められたベンチに腰をかけ、コーヒーを一口飲む。何故か、今日は昔のことを思い出しそうな予感がした。
「…静かだな…」
「そうだなぁ…。戦争がこの前まであったなんて信じられないくらいだ」
「なぁ。ムゲン」
「何だ?」
道夜は夜空を見上げながら呟く。
「……この戦いで、俺は随分と変わった。人として、仲間を信じる事を」
俺は道夜の言葉を待った。すると彼は続けるように言葉を発した。
「…こんな事言ったらお前が怒ると思うが…。実はな、あの戦争が終わったら、自決しようと思っていたんだ」
「え…?」
正直驚く事はなかった。今まで互いにゴミのような扱いをされてるんだ。そうなるのも無理は無い。俺もその気持ちは理解できる。
「…だがな、お前とか、ユーリとか、この部隊の奴らと関わっていくうちに、この場所を
「…道夜…」
「俺の事だけじゃなく、あのリナでさえ、お前は変えた。彼女はお前が居るから、お前の前だけ普通の女性としていられるんだ」
「そうなのかねぇ…あんまりよく分からんね」
そういって俺は頭を軽く掻いた。
「……人は変わる。いや、変われるってことを俺はムゲン。お前から教えてもらったんだ」
「…な、なんだよ…照れるな…」
「だからさ、感謝…してるんだ」
道夜はそう言いながらフードを深くかぶった。
しばらくの沈黙が続いた後、俺は口を開く。
「確かに、俺もこの戦いで随分と変わったって思うなぁ」
道夜は静かに俺を見つめる。俺はさらに続けた。
「両親が殺されて、最初は恨みだけで戦ってた」
「一時期ジオンに渡った時があってな。そこで知ったんだ」
「
「だからこそ、何のために戦うか、俺はハッキリしてきたんだ」
「人間にとって必要なものは、互いを恨んだり憎しみ合うことじゃないんだ。互いに分かり合い、助け合う。そんな当たり前のことなんだよな」
「でもな、道夜。俺もお前に感謝してるんだぜ?」
「……俺が何かしたか?」
「あぁ。あの時、別れた時、強い何かで背中を押された気がしたんだ」
「…?」
「それが、お前の強い意志だった。だから俺はあのデカブツやシゼルと戦えた。お前が戦っているのに、俺が戦わないでどうするってな」
「……そうか」
道夜は静かに目を伏せながら呟く。
「…やっと…って感じだよな…」
「ん?どういうことだ?」
その言葉を理解するのには、少しの時間がかかった。そして、道夜は続けて
「……終わったのは戦いだけじゃないってことさ…」
そう言った。
「……戦いだけじゃない……ねえ……」
「……答えは人それぞれだろう。…だが、俺の中で終わったのは戦いだけじゃなかった」
「…へえ…」
「俺は、自分の過去もあの戦いで終わったと思っている…。人工で作られたニュータイプ……。使われるだけの存在じゃなく、一人の人間としてやっとスタートに立てた気がするんだ」
「……そう考えると、立ち止まってなんていられないんだって思った」
「……なるほどなあ。…たしかに言われてみれば道夜……。お前ちょっと変わったよ。」
「そ、そうか……」
そして道夜はしばらく黙った後、言葉を探りながら言い出した。
「なんて言うんだろうな……。未来は変えられないとか、良くそんなことを言うやつがいるだろう」
「あー。いるなあ……」
「…最近思うんだよ。もしも、この世界に少しずつでもニュータイプっていうのが生まれるのなら…きっと世界はいい方向に変わっていってくれるんじゃないかって…」
「……」
俺は黙って道夜の言葉を待つ。そして、彼は少し微笑みながら言葉を続ける。
「……俺は信じてる。人が…ニュータイプが世界をいい方へ変えていってくれると…」
「……確かになぁ……そうかもしれないな。今は可能性がゼロだとしても、希望がないとしてもさ…」
「ああ。人は変われる…。どんなに小さな望みでも、それを捨ててはいけないと…身をもって体験したからな」
言い終えた後、道夜は恥ずかしくなったのか再びフードを深く被った。
道夜の想い…。それは、人として生きていけることなのだと思う…。
人間には可能性がある。
どんな絶体絶命な状態でも、諦めなければ…。自分自身を、仲間を信じることでその状況さえ打開できる。
互いに少しばかりの沈黙が続いた後、俺は口を開いた。
「なんて言うんだろうな……。俺は思うんだよ…。道夜、お前だけじゃない。この戦いで生き残った全ての奴らが、やっと今…スタートに立てたんだって……」
「……。かもしれないな」
「道は違えど、確かに俺たちは今生きてその足で前に、未来に進もうとしてる」
「ああ。だからこそ……」
「「未来を信じよう――――」」
言葉が被って、俺と道夜は互いに見合った後笑いあった。
この、冷たい夜空にも負けないくらいの声で……。
人は、いつまでも孤独で、全てを触れることはできないかもしれない。
それでも、人は手をつなぎ、言葉で互いを主張できる。
そして、分かり合えることができる。
その可能性が……はたして人にあるのかは、今の俺たちには理解できないだろう。
だが、それでもと…ただひたすらに問い続ければ、答えは見つかる…。
そして、未来を信じ、仲間を信じ続けるだけでいい…。今は、それだけで……。
外伝 完