機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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25:転落

 宇宙世紀0083.10.14 17:40 アルビオン、RX-78GP02Aガンダム試作2号機サイサリス奪還作戦のため、アフリカに向け、トリントン基地を出航

 

 0083.11.1 15:30 第00特務試験MS隊、デラーズフリート地上部隊の掃討の任を受ける。

 

 俺たちは地上部隊の掃討作戦の説明のため、艦橋へと集まっていた。

 

 

 

「作戦を説明するぜ!」

 

「俺たち第00特務試験MS隊は現在、トリントン基地から出撃し、現在敵が潜伏しているであろう北米大陸へと向かっている」

 

「移動期間はおおよそ6日くらいだな」

 

「そんなに掛かるものなのか?」

 

 道夜が不思議そうに言う。

 

「いや、実際はそれほど時間は掛からないだろうが、何があるかはわからないからな」

 

「……なるほどな」

 

「それじゃ、後は現地で説明するつもりだから、各小隊は隊長の指示で解散してくれ。以上だ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 第一小隊のメンバーが俺の目の前に立つ。もちろんイーサンもいる。

 

「……第一小隊は……今は特にないな。よし、作戦は現地でする。解散してくれ」

 

「「了解です!」」

 

 そう言って、オペレーターのマーフィーは艦橋の椅子に腰かけ、ほかの二人は艦橋を後にした。

 

 そしてイーサンは、ちいさく舌打ちした後、艦橋から出て行った。

 

「……ふう……」

 

「お疲れですか?ムゲン隊長」

 

 と、マーフィーが作業をしながら聞いてくる。

 

「ああ。昨日はやけに眠れなくてな……」

 

「昨日というか、最近ずっとじゃないですか。どうしましたか?」

 

「……いや、気にしないでいいさ」

 

「…で、ですが…」

 

「…ま、お前さんも頑張れよ!」

 

 

 

 艦橋を出た後、ふと、何かを思い食堂へと向かった。

 

 食堂に入ると、少女が一人、椅子に座ってコーヒーを飲んでいる。

 

 遠目からだが、短髪で茶髪。目は、たぶん黒であろう。

 

 顔は可愛い。何と言えばいいのか。見ていると安心させられる。

 

「……うっ…苦いぃ……」

 

 どうやら苦かったようだ……。

 

 俺はそれとなく、コーヒーを入れた後、ガムシロップを自分のと合わせて2個持ち、彼女の正面に立つ。

 

「前、いいかい?」

 

「あ……は、はい」

 

 少し緊張しているが、俺は気にせず腰を掛ける。

 

「ほれ、こいつを入れないと苦すぎないか?」

 

 そう言ってガムシロップを1個差し出す。

 

「……これは…?」

 

「…まああれだな、砂糖のシロップだ。入れると丁度良くなる」

 

「…な、なんで…?」

 

「いや、さっき苦いって言ってたから…」

 

「はっ…!」

 

 思い出したのか、急に彼女は顔が真っ赤になる。

 

「ま、なんでもいいさ。入れてみな?」

 

「は、はい…」

 

 彼女はシロップをコーヒーに入れる。スプーンでコーヒーを混ぜた後、一口。

 

「あ……。甘い」

 

 彼女に笑顔が出てくる。

 

「そりゃあよかった」

 

「…あ、あの…」

 

「うん?」

 

「エミリー・ブライトウェル軍曹です!第3小隊のオペレーターをしています!」

 

「……俺はムゲン・クロスフォードだ。第一小隊で、一応小隊長を務めている」

 

 エミリーは深くお辞儀をした後、再び席についた。

 

 それから、しばらくは他愛のない会話で盛り上がった。

 

 ふと、俺は、自分が悩んでいる話を、エミリーにも聞いてみる。

 

「……エミリー」

 

「はい!」

 

「聞きたいことがあるんだが、いいかい?」

 

「いいですよ!」

 

「……エミリーは、理想だけで戦う人をどう思う?」

 

「…理想…ですか」

 

「ああ」

 

「…そういう人は、なんか…形がない気がします…」

 

「と、いうと……?」

 

「えっと、なんて言うか。流されてばかりいそうで…」

 

「そうか…」

 

「あ、あ!悪く言うつもりはないんですよ!」

 

「いや、わかってる。聞いただけだから」

 

「……理想だけではだめだと思うんです」

 

「どうして?」

 

「だって、理想は、人が心に描き求め続ける、それ以上望むところのない完全なもの。そうあってほしいと思う最高の状態ですから」

 

「確かに理想は必要です。理想は高くとも言いますし」

 

「でも、理想だけだったら、疲れちゃいます…。たぶん、苦しくて投げ出してしまうと思います…自分だったら…」

 

「……そっか」

 

「大きな理想のために、小さな目標を立てて戦う人なら、わたしはその人を尊敬します」

 

「…エミリーには理想はあるのかい?」

 

「……そりゃあありますよ!」

 

「どんなんだい?」

 

「パパ……、お父さんと会うことです」

 

「お父さん…?」

 

「はい。昔、私が小さいころ、ある事故でお父さんと離れ離れになってしまって。その時にお母さんは亡くなって…」

 

「…そっか…。大変だったな…」

 

「いいえ!お父さんは生きている!そう信じて今までずっとやってこれました!」

 

「だから……お父さんに会うことが、わたしにとっての理想です」

 

「そのために、連邦のオペレーターになったんですし…」

 

「どんな人なんだい?そのお父さんは」

 

「朧げですけど、とてもやさしく、温かかった記憶があります」

 

「…そうか……いいお父さんだったんだな」

 

「はい。それで、お父さんなんですけど!」

 

 エミリーが父の話をするときは、子供のように目がキラキラと輝いていて、それだけ信頼しているのだと分かる。

 

「第一小隊に、イーサンというパイロットがいますよね…?」

 

「ああ。いるぞ」

 

「えっと、じゃあ伝言を……」

 

 突然船が揺れる。俺はエミリーの手をつかみ、揺れが収まるのを待つ。

 

「……な、なんだったんでしょうか…」

 

「…MSだ」

 

「え?ここ、空中ですよ!?」

 

「落とされたか。それか、バレたから着陸したかのどちらかだな」

 

「…わたし、ブリッジに戻ります!」

 

「ああ。俺は格納庫へ行く!」

 

「はい!」

 

 エミリーは足早に去っていった。

 

 俺は急いで格納庫へ向かう。

 

 

 

「ムゲン!」

 

 俺に気づいたリナが叫ぶ。

 

「何があった!?」

 

「船が緊急着陸したの!たぶん、MSの攻撃で…!」

 

「やはりか……。先に出撃する!MSを出してくれ!」

 

「で、でも!ピクシーは左腕がまだ治ってない…!」

 

「いいから出すんだ!」

 

「……わかった。生きて帰ってきてね…」

 

 リナはしぶしぶながらMSのハッチを開く。

 

 俺は急いで機体に乗り込む。

 

 システムを起動しながら無線で艦橋に通信を送る。

 

「艦長!ムゲン・クロスフォード少尉だ。出撃させてくれ!」

 

[なんだと!?だ、だめだ!出撃は許可できない!]

 

「何故だ!?」

 

[今、第4、第3の出撃準備をさせている。ムゲン少尉が出る必要はない]

 

「だ、だが…!!」

 

[以上だ。通信終わる]

 

「……くっ…!」

 

 強引に通信を切られてしまった。

 

「ムゲン……」

 

「………」

 

 このまま待っていれば、グロリアスが被害を受けるのは目に見えている…。それを黙ってみているわけにはいかなかった。

 

「リナ。出撃ハッチを開けて」

 

「え…!?でも、出撃は…!」

 

「いいから開けるんだ!」

 

「……。わかった…」

 

 ハッチが開き、俺は、機体を移動させ、出撃する。

 

 

 

 戦場に出る。目視で確認できるのは3機ほど。

 

「この数ならいける…!」

 

 早速移動し、1機のザクを発見と同時に、マシンガンで牽制。

 

 ザクは素早く回避し、反撃とバズーカを放つ。

 

「見えた!そこだな!!」

 

 ダガーを引き抜き、バズーカの砲弾を真っ二つにした後、そのまま流れるように敵を切り裂いた。

 

「よし、次だな!」

 

 ザクの爆発に気づいた敵兵が、こちらへと足を向ける。

 

「予想通りだな…」

 

 今頃になって、第3小隊が出撃する。

 

[ムゲン、何故お前が戦っている!?]

 

 道夜からの通信。俺は軽く笑いながら言った。

 

「グロリアスに被害を負わせるわけにはいかないからな…!」

 

[命令無視は痛いぞ…?]

 

「わーってるよ。行くぞ!」

 

 俺は道夜と合流し、残りの敵を掃討した。

 

「…。もう大丈夫だろうか……」

 

[各機に次ぐ!現在本艦は、敵からの被害を受けた。しかし、MS隊の迅速な行動により、その危機を脱した]

 

[ダメージが軽微ではあるものの、しばらくの間この付近に潜伏し、修復を行う。MS隊は帰還後、自由に行動してくれ]

 

[この付近には小さな町がある。そこで買い物をするのもいいだろう。出航予定は明日の夜だ。以上!]

 

[よし、第3小隊帰投する]

 

 全員が撤退しようとするところ、レーダーに反応。1機だけであったが、撤退しようとしているようだ。

 

「まだ…いる!」

 

[ムゲン!?]

 

 俺は敵に突撃、敵をダガーで切ろうとした瞬間。横からの衝撃。

 

「ぐああああ!?」

 

 見て気づいた、囮だったのだと。

 

「くっ…!」

 

 左腕が動かず、うまく立ち上がれない。

 

 ザクがヒートホークを振り上げる。

 

「駄目なのか!?」

 

 目を瞑る。もうだめなのか…!

 

 しばらくしても何も起きない。恐る恐る目を開くと…。

 

「……!」

 

 ジムスナイパーが正面からヒートホークを受け、ヒートホークが刺さったまま、相手コックピットにサーベルを刺していた。

 

「ユ、ユーリ!?」

 

[………ム…ムゲンさんは……死なせま……せんよ………]

 

[ユーリ!しっかりしろ!!!ユーリ!!!!]

 

 道夜が寄ってくる。

 

[大丈夫……だいじょ……]

 

[ユーリィィィィ!!!!!!!]

 

「ユーリ!!!!」

 

 敵はこちらの数に気づき、撤退していく。

 

 俺たちはユーリの機体を連れ、母艦へ帰還した。

 

 

 

「ぐっ…!!」

 

 機体から降りた後、道夜に一発殴られた。

 

「すまない…。道夜…」

 

「お前があんな無茶しなければユーリはあんなケガを負わないで済んだんだぞ…!!」

 

 道夜は怒りを露わにし、手は震えるほど強く握っている。

 

「……す、すまない……」

 

「すまないだと……!?そんなので許されるものか!?」

 

「……」

 

「お前一人の行動で、小隊員が被害を受けたんだぞ!?それをすまないで済ませるのか!?」

 

「そ、そういうわけでは……」

 

「3年経ったあの時から、確かにリナやユーリ、この部隊は成長した。だがお前は何も変わっちゃいない!!」

 

「……!!」

 

「お前の甘さで、その無鉄砲な戦い方のせいで、今度は俺が、皆が死ぬかもしれない!!!」

 

「だから…。この際はっきり言わせてもらう。……ムゲン」

 

「…な、なんだ…」

 

「お前がいなくても、俺たちは戦える。正直今のお前は()()以外の何でもないんだ!!!」

 

 全身から崩れ落ちそうなほど苦しい。俺は……この部隊には必要ないのか……?

 

「……わるかった……。すまなかった…」

 

 ただ謝ることしかできない自分を、呪った。

 

「お前はもっと冷静だと思っていたんだがな。ガッカリだよ。……本当にな」

 

「……」

 

 道夜からの冷たい視線が痛い。

 

「お前さえ……いなければ…。あの時出撃さえしてなければ!!」

 

「…!!」

 

「今のお前に、俺たちのことなんて見えてないんだろう!?」

 

「そんなことは…!!」

 

「だったら!!!」

 

「…!」

 

「だったらなぜ、仲間を傷つけるようなことをした!?」

 

「……」

 

 言い返す言葉も出ない。

 

「何故仲間の言葉を聞かなかった!?なぜ俺たちと行動を共にしなかった!!!!」

 

「……」

 

「何とか言えよ!!!ムゲン!!!!!」

 

 彼は俺の胸ぐらをつかむ。彼の瞳は、怒りに満ちていた。

 

「……すまん…」

 

「俺はお前から謝りを聞くために聞いてるんじゃない!!!」

 

「俺たちはそんなに頼りないか!?リナも、俺も!部隊全員が頼りないってのか!?」

 

「ち、違う!そんなことは…!」

 

「だったら何故俺たちの言葉に耳を貸さない!?」

 

「……!」

 

「無意識だったから、だから許されるなんて思うな!」

 

「俺は……お前を信頼していたんだぞ!?」

 

「俺だけじゃない。リナや、ファング、この部隊の全員がお前を信頼していたのに!」

 

「……お、俺は…」

 

「何も見えていないじゃないか!お前だけが!!現実を見えてないじゃないか!!!!」

 

 そして、再び彼の言葉が蘇る。

 

『お前。軍やめちまえよ』

 

「……ごめん……。本当に……」

 

 彼は胸ぐらを掴む手を緩める。

 

「……すまん…。言い過ぎた。少し頭を冷やしてくる」

 

 そう言って去っていく道夜の背中は、今まで見たどんな時よりも悲しく見えた。

 

 

25 完




今回登場した新キャラです


名前:エミリー・ブライトウェル(U.C.0083)

年齢:18

階級:軍曹

説明

地球連邦軍所属の新人オペレーター。あるパイロットを探すために入隊し、第00特務試験MS隊の第3小隊のオペレーターを任される。

何事もきっちりと仕事をこなし、状況判断能力が高い。

そのため、オペレーターとしての能力がとても高く、作戦中は味方への指示が的確だと第3小隊以外でも人気である。

見た目は、飛びぬけて可愛いわけではないが、小奇麗で、華奢である。

性格は、極度の照れ屋で、人からの注目を浴びるのはあまり好きではない。だが、人と話すのが大好きである。

そのため、第3小隊のユーリからはよく弄られている。

しかし、小隊長の道夜に対しては、特別な感情があるとかないとか。
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