機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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38:虹の花

 宇宙世紀0089 俺はある日、リナと共に街へ買い物へ。

 

 足りない物を買ってこいとファングに頼まれたからなんだが……。

 

 

 

「お前は無理してついてくることなかったんだぞ……?」

 

「だってさ、『一人にしない』って言ったでしょ?」

 

「……まあ、そうだけどさ…」

 

「嫌だった……?」

 

 ちょっと悲しい顔をするリナ。そんな顔されちゃあ、俺が断れないのを知っててやってる…。

 

「………いや。いいよ……」

 

「ふふっ……。そう言ってくれると思った」

 

「ったく…。それで、何買うんだっけな…」

 

「えっと………」

 

 彼女が必要なものを読み上げる。

 

 食材と、後……ユーリのお菓子…。正直、後者が一番お金かかるんだよな…。

 

「よし、じゃあ先に食材買いに行くか」

 

「うん」

 

 俺たちはゆっくり歩き始めた。

 

「……そういえば、今日の夕飯どうしようか…?」

 

「あー。皆が何食べたいかによるんじゃないか?」

 

「そうだね…。私的にはお鍋が食べたいかな…」

 

「…まあ、楽だし、それもアリだな」

 

「でしょ?一応買っておこうか」

 

「そうするか」

 

 俺達は、プラスで鍋の食材も買いそろえる。

 

 

「ま、これくらいでいいんじゃないか?」

 

「うん。……次は、ユーリちゃんのお菓子……かな?」

 

「……お前、ユーリの事『ちゃん』付けで呼ぶんだな…」

 

「え…?な、なんかおかしかったかな……?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど…」

 

 彼女は『ちゃん』付けってイメージが湧かない。

 

「まあいいや…えっと。まあ、この書いてあるヤツ買えばいいか」

 

「うん。とりあえず……ね」

 

 彼女も少しだけ苦笑している。流石に多い…。これを3日あれば全部食べてしまう彼女が恐ろしいよ…。

 

 カゴ一杯のお菓子と、食材を買って俺たちは艦に戻る。

 

 店を出ると、もう太陽が沈みかけていた。

 

 

 

 グロリアスに戻るには、丘を越えなければならない。だからあまり彼女を連れて行きたくはなかったのだが……。

 

「あ……。夕日だ」

 

「ああ…。そうだな」

 

「ねぇ。ちょっとだけ…休憩したい…」

 

「ん?ああ。そうするか…。丘の上だし丁度いい…」

 

 流石に彼女にはこの丘でさえ辛いだろう…。

 

 彼女はゆっくり座り込む。

 

「大丈夫か…?」

 

「……うん。ちょっとだけ……疲れただけだから……」

 

 見るからに調子が悪そうだ。無茶しすぎたんじゃ………。

 

「リナ。本当に大丈夫か……?」

 

「はは……。大丈夫だよ…。心配しすぎ」

 

「…心配にもなるさ…」

 

「ありがと……。でも、ちょっとだけ休憩したら動けるから」

 

 苦しそうだ…。どこか、横になれる場所があればいいんだが……。

 

「ん?その背中は……。お前さん、ムゲンじゃないか?」

 

「……えっ…?」

 

 振り向くと、随分と懐かしい顔。

 

「おお!やっぱりかぁ!!でかくなったなぁ!!もう6年ぶりか?」

 

「ヘンリーさん……」

 

「おっ!覚えてたか!どしたんだ?また悩んでるのか…?」

 

「いや……。実は――――」

 

 彼女の事情を説明しようと、彼女を見ると彼女はその場で倒れていた。

 

「リナっ!!!」

 

「どうした!?まずいな……!手を貸す!家まで運ぶぞ!!」

 

「は、はい!!」

 

 彼は自分の荷物を投げて、彼女の所へ駆け寄る。

 

 俺は彼と共に彼女を家まで運んだ。

 

 

 

 そして、ゆっくりとベッドへ寝かせた。

 

「………」

 

「この子は、あんときの子じゃないか…」

 

「ええ。………」

 

 やっぱり艦で静かにさせておくべきだった。

 

「大丈夫だ。疲れて眠っているだけだ」

 

「……」

 

「心配か…?」

 

「当然ですよ……」

 

「見た感じ、もうすぐって感じだな」

 

「はい……。安静にしててほしかったんですけど…。やっぱり、強引にでも艦で休ませればよかった…」

 

「まあ、起きてしまったことは仕方ないさ。彼女が起きるまで、ここにいればいい」

 

「すいません……」

 

「気にすんなよ。コーヒー出すけど、暇ならうちのガキ共構ってやってくれないか?」

 

 彼は俺の肩に手を置き、微笑む。

 

「ええ。いいですよ」

 

 俺は、子供達の所へ行き、彼らを眺めた。

 

 

 

 すると、それに気づいた一人の子供がこちらへ歩いてくる。見た感じ、まだ7才くらいの少年。

 

「おい!お前!!」

 

「……な、なんだい?」

 

 なるべく優しく対応する。

 

「お前!昔も来たよな!!」

 

「えっ……。覚えてるのかい…?」

 

「あったりまえだろ!!このオレサマだぞ!!」

 

 少年は、両手を腰に当て、エッヘンと胸を張った。

 

 見ていて、なんだか可愛かった。

 

「……ふっ…」

 

「なんで笑うんだ!」

 

「いいや。俺の知ってるやつに似てただけだよ」

 

 カカサが子供だったら、こんな感じだったんだろうか。

 

 いや、もっとうるさかったかもしれないな…。

 

「へー。どんな奴なんだ!!教えろ!!!」

 

 彼が詰め寄る。ちょ、ちょっとだけ身を引いてしまった。

 

 すると、それに気づいたヘンリーさんが、彼にゲンコツを与える。鈍い音がこっちにも聞こえた。

 

「コラ」

 

「いてぇっ!!な、なにすんだよぉ!!!」

 

「初対面のやつに挨拶もなしにお前とか言うんじゃねえ」

 

「ま、まあまあ……」

 

 彼と少年の間に割って入る。

 

「うぅー……。だからって殴ることないじゃんかよー!」

 

「お前がちゃんとしてたらそんなことしねぇよ」

 

 彼は俺に向き直り、言う。

 

「すまんな。俺一人で育ててるから、どうも俺に似てしまってな…。すまんが、少しだけ相手してやってくれ」

 

「ええ。もちろんですよ」

 

 彼はそう言って再び台所へ向かった。

 

「うぅ……。いてぇ……」

 

 少年は殴られたところを(さす)っている。……そういえば俺……父さんに殴られたことなかったな…。どんな感じなんだろ…。

 

「大丈夫かい…?」

 

「べ、別に!いたくなんか……ないし」

 

「その割に、ずっと殴られた場所(さす)ってるじゃないか」

 

「ぐっ……。うるさいなぁ…!!」

 

「どれ、こっちにおいで」

 

 俺は少年に手を広げた。

 

「な、なんだよぅ……。オレはべつにそんなの……」

 

「…じゃ、こっちから…!」

 

 俺は少年を抱き上げた。

 

「な、なにすんだ!はーなーせーっ!!!」

 

「良い子だ……。痛かったな?」

 

 抵抗する彼に笑って見せる。

 

 すると、彼は泣きそうな顔をしながら言う。

 

「うっ……ぐっ…!痛いぃ……!」

 

「さ、さすがにきつかったろう…?ほら、いい子だ」

 

「うえーん!!!」

 

 ついには泣き出してしまう。

 

「よしよし。泣かなくていいんだぞ」

 

「ぐすっ。ズズッ……オレの事なんか……」

 

 しばらく撫で続けていると、だんだんと落ち着いてきたようで。

 

「ヘンリーさんも、君が嫌いで殴ったわけじゃないよ」

 

「でも、いっつもオレ殴られる…」

 

「ああ。君が好きだからね。それだけ、愛を持って育ててるのさ」

 

「……そんなのわかんない」

 

「いつか、きっと理解できる時が来る」

 

「……お前……じゃなくて…えっと…」

 

「ムゲンだ。……どうした?」

 

「ムゲンも……そういうことあったの?」

 

 彼はすっかりしょぼくれて、強気の口調ではなくなっている。

 

「…あるよ。君みたいな時期もあったんだから」

 

「そうなんだ…。オレ……いろんな話聞きたい……」

 

「ああ。いいよ…。どんな話がいい?ロボットの話でもするか?」

 

「ロボット!?あれでしょ?もびるすーつ!」

 

「…ああ。良く知ってるね」

 

「聞く!!ききたい!!」

 

 少年は、目を輝かせて俺に詰め寄った。

 

「わかった。聞かせてあげるから、もう泣くな?男だろ?」

 

「……うん!」

 

 すると、陰でコソコソこちらを見守っていた子供たちも俺の周りに集まってくる。

 

「何の話するのー?」

 

「ぼ、ぼくも…き、ききたい……」

 

「わたしもきくー!!」

 

「色んなことを話してあげるよ。さあ、皆座って」

 

 俺はそれから、色んな話をした。

 

 MSの話…。俺と家族の出会い。

 

 リナとの馴れ初め……なんかも話したりした。

 

「まあ、こんな所かな……」

 

「おもしろー!!」

 

「むげんってすごいねー!」

 

「凄くなんかないさ。もしかしたら、君たちは俺よりすごい事を出来るかもしれないんだから」

 

「そうなの?」

 

「ああ、そうさ。自分がしたい事、それのために必死に頑張れば、いつか叶う」

 

「あ、そうだ。君たちは、ニュータイプという言葉を聞いたことはあるかな?」

 

「なにそれー!」

 

「にゅーたいぷ…?」

 

「ニュータイプっていうのは、簡単に言えば凄い奴なんだ。ちょっとした先の事を予測出来たり」

 

「ニュータイプ同士なら、黙っていても会話が出来たりとか……」

 

「すっげー!!」

 

「いいなあ!なってみたいー!!」

 

「ああ!なれるとも!ここにいる全員に、その素質があるんだからね」

 

「すげー!!オレもニュータイプか!?」

 

「ああ。沢山学んで、沢山経験する。辛いことがあったって、仲間で共有して乗り越える」

 

「きっと、それだけで皆…ニュータイプだ。人の痛みを、ともに共感する…。それは、誰にでもできる事じゃないから」

 

「うーん…。むずかしい……」

 

「はは。ごめんね。ちょっと難しかったかな」

 

 首をかしげる少年に、俺は微笑んだ。

 

「お前らー。片付けの時間だ!さっさと片付けないと、飯食えねぇぞー!」

 

 その言葉と共に、子供たちは片づけを始める。

 

「待たせたな。ムゲン、コーヒー出来てるぜ」

 

「あ、わかりました」

 

 

 

 俺は立ち上がり、椅子に腰かける。

 

 そして、コーヒーを一口。あの時と変わらぬ味だった。それがなんだか懐かしくて…。

 

「どうしてこの街に?」

 

「あ、食材を買いに来たんですよ。たまたま近くに停泊中で…」

 

「なるほどな。…にしても、随分大きくなった」

 

 彼は、久々に会った息子を見るような目で、俺を見ている。

 

「……にしても、あん時の坊主が、もうすぐ父親か……。長生きってのはしてみるもんだな」

 

「まだまだヘンリーさんは若いですよ」

 

「おっ!言ってくれるねぇ。まあ、少しは自信あるけどな?」

 

「ははは!自分で言うなんて!」

 

「だろ、でもまあ……おめでたいことだよ。まったく……」

 

「ええ…。最初聞いた時、驚いて声が出ませんでしたよ…」

 

「ま、誰だってそういう反応になるさ。…予定日とかはもう聞いてるのか?」

 

「はい。……確か、3()()1()2()()……」

 

「もうすぐじゃないか。楽しみだな?」

 

 彼は、微笑みながら言う。

 

「……まだ、実感がわかなくてですね……」

 

「まあ、良い事じゃないか。あんな可愛い子の子供なんて」

 

「俺は……幸せ者ですよ」

 

「自分で言えるくらい……成長したんだなぁ……。なんか、嬉しくなっちまうよ」

 

「ったく…。数年前までしょぼくれてたガキが、ここまで大きい背中になってるなんてな……」

 

「………懐かしいですね」

 

「しかも、前とは雰囲気が全く違う。……お前の中で色々変わったんだな」

 

「はい。あなたのおかげでもありますよ。もちろん、ほかの人にも助けてもらいましたけど」

 

「……俺でよければ、また力になるさ。それが―――」

 

「大人の責任。ですよね?」

 

 遮ってその言葉を言うと、彼は声を上げて笑った。

 

「ふっ……はっはっは!!!そうだ!お前も大人になったんだ。今度は伝える側に立つんだぞ?」

 

「……はい。まだ、何を伝えたらいいか分かりませんけど…」

 

「まあまあ。人ってのは不完全だ。親ってのは、逆に子供から教えられることもある。これは、俺も体験があるから言える話だよ」

 

「……価値観の変化…とかですかね?」

 

「いや、そんな具体的かどうかは分からん。だが、学ぶべきことはあるはずだ」

 

「…ええ。わかります…」

 

「そうやって、人ってのは成長を繰り返す。だから、伝える事とか、意識する必要はない」

 

「ええ。ただ、辛いときは傍にいてあげて、悩んでいたら優しく背中を押す。それだけで……」

 

「ああ。それだけでいい。親って言うのは、それを自然にしているものさ」

 

「………」

 

「まあ、気張るなよ。これは、素晴らしい事なんだからな」

 

「…はい」

 

 俺は、静かにコーヒーを飲んだ。

 

 

 

 ふと、一つだけ思い出したことを口にする。

 

「あ、ヘンリーさん…」

 

「ん?どした?」

 

「……俺、孤児院を作りたいんです」

 

「孤児院を……?そりゃまたどうして?」

 

「…あの時、あなたと子供たちを見て、少し憧れを覚えました」

 

「それで、それから…両親がいることの幸せを、少しでも感じてほしい。失うだけじゃなく、それを埋めてあげたい……」

 

「お前………」

 

「……」

 

 両親を失う辛さ……。【()()()()()()()()】俺の…せめてもの償い…。

 

 互いに、寄り添うだけでも、人は寂しさを消せるから…。

 

 それを、今度は俺が伝えたいから…。

 

「……わかった。俺も協力しよう」

 

「え……?」

 

「とりあえず、家だな。孤児院を作るにしたって。土地は必要だ。場所は決めてるのか?」

 

「………ええ。少しは」

 

「なら、まあ今日は無理だが……また今度会おう。そしたら、俺が孤児院を建てるのを手伝ってやる」

 

「ヘンリーさん……」

 

「これは、俺がお前にしてやれる最後だ。お前はもう既に……()()()してるんだからな」

 

「………ありがとう…」

 

「本当に大きくなったな……。お前から伝わる。お前は一人じゃないってな。お前のその笑顔が、すべて教えてくれている」

 

「………」

 

「さて、そろそろ彼女の様子を見に行ったらどうだ?」

 

「…そうですね。ちょっと見てきます」

 

 俺は、彼女の所へ向かう。

 

「………」

 

「……ん…?」

 

「リナ、目が覚めたか…?」

 

 ゆっくり彼女の目が開いた。

 

「……ここは…?」

 

「懐かしい場所さ。とは言っても、リナは一瞬だけしかいなかったけれど」

 

「………そっか。ごめんね、迷惑かけちゃった」

 

「気にするなよ。俺も迷惑かけてきたんだし、お互い様だろ?」

 

「…ありがと。そう言ってくれると助かるよ」

 

 彼女は微笑んだ。

 

「お目覚めかい?嬢ちゃん」

 

「あ………。あの時の…」

 

「あぁ。久しいね。ムゲンから話は聞いた。おめでとう」

 

「……ありがとうございます」

 

「さて、ムゲン。彼女を連れて、帰るんだろ?」

 

「ええ。流石に長居させてもらったので、そろそろ帰ろうかと」

 

「そうか。んじゃ、また今度、会いに来い」

 

「……はい」

 

 その日は、彼の家を後にした。

 

 

 

 彼女の手を引きながらゆっくり歩く。外は既に夜で、彼女は少しだけ震えていた。

 

「……リナ…?」

 

「ムゲンは……」

 

「うん?」

 

「こんな私でも……。迷惑かけちゃう私でも…好きでいてくれる?」

 

「…当たり前だろ。今更嫌いなんか言えないさ」

 

「………あり、がと………」

 

「…なあ、リナ」

 

「……?」

 

「子供が生まれても……孤児院を経営したいって言ったら……許してくれるか…?」

 

「……」

 

 少しの沈黙。

 

 そして、彼女は言う。

 

「……いいよ。ムゲンの夢だもの。私も協力する」

 

「……ありがとう……リナ」

 

 綺麗な月の光が、俺と彼女を照らしていた。

 

 

 

 後日、俺は再びヘンリーさんの所へ向かった。

 

「さて、孤児院の話だったな?」

 

「……はい」

 

「でも、いいのか?もうすぐ子供が生まれるってのに……。彼女が許さないんじゃないか?」

 

「……彼女から許可はもらいました。子供が生まれたら、我が子が一番になってしまうのは当たり前ですけど、それでも……」

 

「まあ、お前の決意が変わらないのなら……。それで、どこに建てるんだ?」

 

「…えっと、トリントンの港の近くに、海と街が見渡せる丘があるんです。そこに、建てたいと思ってます」

 

「なるほど。トリントンってーと、オーストラリアか。結構あるな」

 

「……」

 

「まあいい。なら、こっちで材料を用意して送っておく。トリントンに戻ったら、いつでも建てられるようにな」

 

「……ありがとうございます」

 

「すまんな。材料しか手配できないが」

 

「いいえ。構いません」

 

「……しばらくは会えなくなるな」

 

「はい……」

 

「それじゃ、元気でな」

 

 俺は扉を開く。歩き出そうとしたその時。

 

「彼女によろしくな。体は大切にしろって、言っておいてくれ」

 

「…はい!!」

 

 俺は歩き出した。

 

 

 

 トリントンへ戻った俺たちは、孤児院の話を全員に打ち明けた。

 

 すると、ファングが…。

 

「ああ。いいぜ。協力しよう」

 

「ファング…」

 

 フユミネはあまり乗り気ではない。

 

「まあ、いいじゃないか?フユミネ。ムゲンの頼みだ。断るわけにはいかないだろう?」

 

「………わかった。俺も手伝う」

 

「それじゃ、ムゲンの孤児院を部隊の全員で作るぞ!!!」

 

 ファングが、主となり、全員で作業をする。

 

 

 丘の上には何も遮るものはなく、そこから海を一望出来るのは気分がいい。

 

「さーて!組み立てるぞー!!」

 

「「「「「「おー!!」」」」」」

 

 それから、俺も組み立ての手伝いや、丸太を運んだ。

 

 途中でオペレーター達が差し入れしてくれたり。

 

 きっと……戦争がない時代は、こうやって仕事をしていた人たちがいたんだろうな……。

 

「ムゲン。俺も手を貸す」

 

「道夜!?」

 

「たまたま通りかかってな。それに、もうすぐだろ?」

 

 リナの事だ。もう予定日まで2,3日もない。

 

「ああ…」

 

「さっさと仕上げるぞ。それまでに完成させて、ここで軽くパーティーでも開こう」

 

「お前、そんなキャラだったか?」

 

「……嬉しいのさ。大切な友が、子供を持つって聞いて……」

 

「道夜……」

 

「子供は、祝福されて生まれてくるべきだ。今度は、()()()()祝福する番だろう?」

 

「………ありがとう。相棒」

 

「よせ…。照れる」

 

 彼は、心から喜んでいたんだろう。それが、言葉から…表情から伝わった。

 

「ふっ!!よし!終わらせるか!!!」

 

「ああ」

 

 それから、気が付けば、周りには部隊の全員が協力して、家を作り上げている。

 

 その光景で胸が一杯になる。……ただただ嬉しかった。

 

 

 

 そして、3時間後。ログハウスのような、木造の家が完成した。

 

 しかもおしゃれなベランダ付き。これはリナが喜びそうだな。

 

「……できたぁ…」

 

「さすがに疲れたな…。普段こんなことはしないから、使わない筋肉が痛む」

 

「俺もだ……」

 

「さて、この家のお披露目は、もう少し先だな?」

 

「ああ。今は、見せない。ところで、道夜…。お前はどうするんだ?」

 

「出産の予定日までは俺も艦にいることにしてる。そこから3日くらいでまた仕事さ」

 

「そうか、大変だな……」

 

「お互い様だろ?」

 

 俺たちは顔を見合わせて笑った。

 

 

「さて……艦に帰るか」

 

「みんなありがとう!!さあ、帰ろうか!」

 

 全員がゆっくりとグロリアスへと戻っていく。

 

 

 

 宇宙世紀0089.03.12 ………この時が来た。エトワールがグロリアスへ。どうしても、この日だけは仕事を入れなかったらしい。

 

 さらに、事情を知ったエトワールが、かつて仲間だったエミリーを呼んでいた。

 

「………」

 

 すごいソワソワする。病室には女性以外入ってはいけないと言われ、扉の近くをふらふらと歩く。

 

 エミリーは俺を心配して残ってくれた。

 

「落ち着けムゲン」

 

 腕を組んだ道夜が静かに言う。

 

「あ、ああ………わかってはいるんだが……」

 

「まあ、気持ちは理解できなくはないが……」

 

「まあ、ムゲン。とりあえずソファに座れ」

 

 ファングが俺を強引に座らせる。

 

「あ、ああ……でもな……。うぅん……」

 

「緊張するのも無理はない。だが、彼女を信じてやれ。彼女は強い。お前が一番知ってるはずだ」

 

「………」

 

「まったく…落ち着きがないのは良くない事です。それで父親が務まるのか、私は心配です」

 

 エトワールは目を瞑りながら、冷静に言い放つ。

 

「いや、なんというか……だな…」

 

「いいですか?あなたは、もうすぐ父親なんです。その責任と、重さを持って行動してください」

 

「まあまあ、エトワール。彼の気持ちも理解してやれ」

 

「……女性の出産は、母親の命にも関わりますからね。あなたの気持ち、少しは理解できます」

 

「………リナ…」

 

「彼女も今戦っています。私達が、死線を潜り抜けるよりも、凄まじい戦いを」

 

「ですが、それを信じて待つのも、あなたの役目です」

 

「……そうだな」

 

「ムゲンさん。大丈夫ですよ!きっと丈夫で可愛い子が産まれてきますよ!」

 

「エミリー……」

 

「こういうとき…お父さんは確か、あ!思い出した!」

 

 彼女は俺の手を取り、両手で強く握った。

 

「………」

 

「エミリー……?」

 

「祈りましょう。無事に生まれてくることを願って」

 

「………ああ」

 

 俺は祈った。どうか……彼女が無事で……そして、子供も無事に生まれてきてほしい。

 

 

 

 それから、1時間くらい経っただろうか……。

 

 病室で、赤ん坊の泣く声が聞こえた。

 

「………!!!」

 

 俺は思わず立ち上がった。

 

「やっとか…!ムゲン!!」

 

 ファングは大声をあげて俺へ言った。

 

「……あ、あ……!」

 

「行ってやれ。お前の子だろ?俺たちは後で会えるからさ」

 

 道夜は微笑んで、それだけを言う。

 

「おめでとうございます。さあ、その目で、その手で…見てきてください」

 

 エトワールは、丁寧にお辞儀している。

 

「わぁ!生まれたんですね!!!早く会ってあげてください!!!」

 

 エミリーは飛び跳ねている。

 

「ああ……!行ってくる!」

 

 俺は……ゆっくりと扉を開いた。

 

 

 

「……おお!ムゲン中尉………いや、ムゲン君!!」

 

「サムさん!リナは…!?」

 

「……頑張ったよ。元気な女の子が生まれたよ」

 

 夢じゃない……現実だ……。

 

「ムゲンさん。ほら、こっちです」

 

 ユーリが俺の手を引き、小さい子の所へ案内してくれた。

 

 その子は、リナの腕の中で、静かに眠っていた。

 

「…………リナ…」

 

「…ムゲン…?ほら、見て………あなたの子だよ」

 

 涙で……前が見えない…。

 

「リナ……良く、頑張ったね…」

 

「当たり前でしょ…?………私のお母さんも…こんな気分だったのかな…」

 

「……ああ。きっと…そうだ」

 

「ほら、抱いてあげてよ…」

 

 俺は、ゆっくり彼女の腕から、その子を抱き上げる。

 

 その子は、とても可愛い…女の子だった。

 

 俺の子だ。正真正銘……。俺は…親になったんだ。

 

「アウロラ……」

 

 俺は、彼女を優しく撫でた。

 

 涙が、止まらない。

 

「リナ…。ありがとう………!この子に会わせててくれて……。お前が生きていてくれて……」

 

「もう…。ムゲンってば…」

 

「おおー!可愛いですねー!!これがムゲンさんの子ですかー!」

 

 ユーリも、この時はふざけるつもりはなさそうだった。

 

「………」

 

 顔を見つめる。リナに、よく似ている顔だ。特に、眠っているその寝顔は彼女そっくりで……。

 

 その温もりが伝わる。

 

「可愛いな。本当に………」

 

「ええ……。リナ。あなたは凄いですよ。本当に……」

 

 ユーリが珍しく涙を流している。

 

「ううん。ユーリちゃんが、皆がいたから頑張れたんだよ?」

 

 彼女はユーリの頬を撫でた。

 

 ……アウロラ…。その名の通り、【()】のように美しく、かわいい子だ。

 

 だめだ、胸が一杯で…どうしたらいいかわからない。

 

「リナ、アウロラを…」

 

「もう、いいの?」

 

「ああ。なんか、感動してしまって…。俺、少し外に行ってくる」

 

「気を付けてね…?」

 

「ああ。ちょっと空気を吸ってくるだけだよ」

 

 彼女の腕へアウロラを戻し、病室を出る。

 

 

 

「……どうだった?」

 

 全員が期待しながら答えを待っている。

 

 俺は、笑顔で答えた。

 

「とっても可愛い女の子だよ…。まったく……リナは凄いよ……本当に…」

 

「そうか……。そうかぁ!!!やったな!!ムゲン!!!!」

 

 ファングは、大喜びで叫ぶ。その目には少しだけ涙が。

 

「これで、お前は父親か…。おめでとう。この日を共有できた俺は、幸せ者かもしれないな」

 

 道夜は、素直に笑ってくれた。

 

「ムゲン隊長。あなたは、もう父親です。その責任と、誇りを持ってください。本当におめでとうございます」

 

「ありがとう…エトワール」

 

「……当然のことを言ったまでです」

 

 彼は、少しだけ照れていた。

 

「可愛かったですか!?私も早く見たいです!!」

 

「ああ!すっごく可愛かった!……君のお父さんにも…見せたかった」

 

 いいや。本当は…グレイにも、フィアさんにも……。そして、父さんと母さんにも……。

 

「…お父さんの分まで、私が見ますから!それで、ちゃんと伝えます。これは、生きている人にしかできないことですから」

 

「そう、だね……」

 

 

 

 外に出て、思いっきり深呼吸していた時。

 

「よぉー!ムゲン!!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「…カカサ!?どうして…!?」

 

「いやー。どっかの風のうわさで、君の子供が産まれる予定日は今日だって聞いてさー」

 

「……どうだった?ムゲン」

 

「クロノード…」

 

 二人まで会いに来てくれた。

 

「凄い、可愛かった。小さい花のように……綺麗だったよ」

 

「そうか……。おめでとう。お前ならいい父親になれる」

 

 クロノードが俺の肩に手を置いた。

 

「……ありがとう」

 

「ムゲンー!!」

 

 クロノードの後ろから、少女が走って寄ってくる。

 

 そして、俺に飛び掛かった。

 

「おっ!?…はは!ルナちゃんじゃないか!久々だね!!」

 

「ムゲン!お久しぶり!!!」

 

「ああ。久しぶり!」

 

「ムゲン、子供出来た?」

 

「……ああ。出来たよ」

 

「じゃあ、ルナとはもう遊んでくれない…?」

 

「そんなことないさ。ルナちゃんはルナちゃん。アウロラはアウロラ。どちらも大切だ」

 

「そっか!うれしい!!ねえ、パパー」

 

「なんだ?」

 

「ルナもアウロラ見たい!!」

 

 それを聞くと、彼は少し難しい顔をした。

 

「……少し難しいかもしれない……」

 

「なんでー?」

 

「俺たちは―――」

 

「ああ。会わせてあげるよ」

 

 彼の言葉を遮って、彼女に言う。

 

「ムゲン!?」

 

「誰も、君たちを止めはしない。もう、俺たちは仲間だろ?戦う場所が違うだけだ。一度なら、目を瞑ってくれる」

 

「………お前が言うなら…」

 

「わーい!アウロラ見る!!」

 

 俺は、彼らを連れ、再び艦内へ。

 

 

 病室の前へ。

 

 扉を開き、彼女の所へ行った。

 

「どしたのムゲン……?あれ……。ルナちゃん…?」

 

「リナだー!久しぶり!!」

 

「久しぶり…!元気にしてたかな?」

 

「うん!!!とっても元気ー!!」

 

「ほら、ルナちゃん。この子がアウロラ…。ルナちゃんとは5才の差があるよ」

 

「ってことはルナはお姉ちゃん?」

 

「……ああ。そう言うことになるね」

 

「そっか…。ルナ、お姉ちゃんなんだ……!」

 

「ふふ……。かわいいでしょ?」

 

「うん!!すっごいかわいい!!」

 

 

 後から入ってきたカカサがリナに駆け寄った。クロノードは少しだけそれを見て呆れていたが。

 

「りなっち頑張ったねー。どうだった?痛くなかった?」

 

「えっ!?か、カカサさん…!?それに、クロノードさんまで…?!」

 

 ちょっと驚いている彼女。

 

「すまない。だが、この日だけは敵味方関係ない。ムゲンがそう言ってくれた」

 

「で?どうだったのさ?痛かった?ねぇねぇ!」

 

「うるさいぞ」

 

 クロノードがカカサを引っ張たく。

 

「あいたっ!?ちょ、それ卑怯っしょー……痛いなぁ…」

 

「あはは!!!…………ちょっとだけ痛かったよ。でも…ね」

 

「それ以上に、今は嬉しさが勝ってるかな」

 

「……しばらくは安静にしているんだぞ。……ああ、これはムゲンのセリフだったな…。すまん、フィアがルナを生んだ時を思い出してしまって…」

 

 彼は、微笑みながら彼女に言った。

 

「ふふっ……。ありがとうございます」

 

 

 

「ムゲンー!」

 

「うん?」

 

 ルナちゃんがこっちを見て、ニッコリ笑いながら言う。

 

「今、幸せ?」

 

「ああ。幸せだ……とってもね」

 

 

 

 それから、2週間ほど経った。

 

 リナは、病室から出てもいいという許可が出たので、俺はアウロラを抱いた彼女を丘の上へと連れて行った。

 

「どうしたの?グロリアスの中に誰もいなかったけど……何かあるの?」

 

「ああ。そこへ行けば分かる」

 

 ゆっくりと彼女を連れ、丘の頂上へ。

 

 そこでは、俺たちが建てた家。その前にテーブルが広げられ、皆が俺たちを待っていた。

 

「……な、なにアレ……。家……?」

 

「ああ。……孤児院…。いや、俺たち【家族】の家だ」

 

 そう。これは【家族】全員で建てた家。だから、皆の家だ…。そして、その家は新たな【家族】を作る家になる。

 

「……すごい……」

 

「みんな、皆が手伝ってくれた。俺だけじゃない。皆でやったんだ」

 

 

「お!来たぞー!!カカサ!引っ張れー!!」

 

 ファングの指示。それを受けたカカサは。

 

「あいよー!!!……おらぁあ!!!」

 

 大げさに叫びながらくす玉の紐を引っ張る。

 

 中から、文字が書かれた布が出る。

 

「……新たな家族を迎える会」

 

 リナが小さく呟いた。

 

「ああ。この布に刺繍(ししゅう)を入れたのは、オペレーター達なんだ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。この家は俺たちが設計して、材料はヘンリーさんが送ってくれた」

 

「………」

 

「気づけば、皆が手伝ってくれてたんだ。クロノードやカカサは、この日のために食材から小物まで全部買ってきて…」

 

「はは……。すごいや……みんな……」

 

「皆、自分にできることをしたんだよ。リナは、リナにしかできない、アウロラを産んでくれた」

 

「……ありがとう…。私……嬉しいよ…」

 

 彼女から涙が零れた。

 

「さあ、行こう…皆待ってるよ」

 

「おーい!!早く来てくれよー!俺ぁ、腹減っちゃってさぁー!!!」

 

 カカサが大声で叫ぶ。

 

「ああ!!今行くよ!!」

 

「うん。行こう…ムゲン」

 

 

 

 俺たちは、辛い思いもする。苦しい思いもする。それでも、こんなに素晴らしいことだってある。

 

 

 世界を作るのは、人間だ。天才でも、ニュータイプでもない。

 

 

 だが、【虹】は………どんな人にも平等にその目に映ることができる。

 

 

 ニュータイプでも、天才でもそれは例外じゃない。

 

 

 俺たちは……寂しさをなくすために生きている…。

 

 

 時代が変わっても、人が変わっても。

 

 

 俺たちは……生きているんだ。俺たちが生きる理由はまだ分からない。

 

 

 それでも一つだけ言える。俺たち人間は、この幸せを共有するためにも生きているのだと。

 

 

38 完

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