機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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外伝:Episode of Etoile

「おーい!!早く来てくれよー!俺ぁ、腹減っちゃってさぁー!!!」

 

 カカサさんが大声で叫ぶ。

 

「ああ!!今行くよ!!」

 

 それに対して、ムゲン隊長は言葉を返した。

 

 

 

「…………変わりましたね。本当に」

 

 私は、過去の彼の事を思い出していた。

 

 

 

 最初の出会いは、私がこの部隊に入隊したとき。

 

 戦艦の中を探索していた時、甲板に彼はいた。

 

「ここにいらっしゃったんですね」

 

 空を見上げていた彼に、私は声をかける。

 

 短髪の黒髪。黒く全てを飲み込むような瞳は、どこか悲しみを秘めている。

 

「ん……?お前さんは……」

 

 私は、新人で、それなりに緊張していたこともあり、ビシッと敬礼して名前を名乗った。

 

「第00特務試験MS隊所属のエトワール・ブランシャール二等兵です」

 

 その時の彼は、少しだけ困った顔をしていた。

 

「そうか……。それで、お前さんは、俺に何か用か?」

 

「……。そろそろファング部隊長から召集をかけられていたので。その報告だけ」

 

 淡々と説明する。特にそれ以外する必要も感じなかった。

 

「んじゃあ、行くか。お前さんも来い。場所わからないだろ?」

 

 ……正直、少しだけホッとした。実は格納庫への行き方が分からなかったからだ。自分でも情けないと思う。

 

「逆にムゲンさんのほうが覚えていなさそうで心配ですけれど」

 

 念のため、確認のつもりで聞いてみる。

 

「そんなことはないぞ?グロリアスの司令室だろう?」

 

 …………呆れた。こんな人がパイロットなんて…。状況判断もできない素人にしか見えない。

 

 ため息をついた後、私は言う。

 

「やっぱり聞いてなかったんですね……。グロリアスの格納庫です。……まったく」

 

 本当に……困った人だと、その時は思っていた。

 

 私はそのあと、第三小隊のメンバーとなった。ムゲン隊長は第一小隊の隊長になった。

 

 

 

「……」

 

 彼らの幸せそうな場を眺めた。

 

 その顔は、心から幸せそうだった。

 

「エトワール」

 

 背後からの声。私は振り返りながら言葉を返す。

 

「道夜様……何か?」

 

「いい加減その呼び方を止めてくれ。もう、『さん』でいい」

 

 その言葉を聞き、私は少し躊躇(ためら)いつつ言葉を返した。

 

「で、では……道夜さん。どうしました?」

 

「いや。お前は、【()】を見ていたのかと思ってな」

 

「……彼らです。それがどうかしましたか」

 

 きっぱりと言い切る。特に何かを思ったつもりはない。

 

「そうか……。それにしても、お前も随分変わったな」

 

「そうでしょうか」

 

「ああ。なんだろうな。前より緊張感が抜けたというか……。人と接することが苦ではないように感じる」

 

「………」

 

 意識はしていなかったが、思い返せばそうかもしれない。

 

「お前との付き合いも6年になるか…」

 

「そうですね。それを言うなら、ユーリさんのほうが付き合いが長いのでは」

 

「それはそうかもしれないが。俺はお前との話をしている。……6年経てば、人は変わるってことか……」

 

「………」

 

 彼との出会いは、第三小隊に配属された時。

 

 

 

「………八雲道夜だ。よろしく頼む」

 

 不愛想に彼は私たちに挨拶をした。

 

「道夜。なんで今更小隊なんです?」

 

 小隊長を呼び捨てで呼ぶ女性。なんて礼儀知らずなんだ……。それとも、長年の付き合いなのか……。

 

「ファングの命令だ。仕方ない。新兵も補充されたから、一括で指揮するのが難しいんだろう」

 

「へー……。面倒そうなので任せましたー」

 

「……言うと思ったよ。……ああ、すまないな。彼女はユーリ。この小隊の一人だ。こう見えても狙撃の腕は一流だ」

 

 彼の言葉を信じれない。こんな人がパイロットなんて………。

 

「あ、今私の事疑いましたね?」

 

「…ええ。あなたみたいな人がパイロットなんて、務まるのか、正直心配です」

 

「それが、務まっちゃうんですよねー…」

 

「……それで、お前は?」

 

 道夜さんがこちらを見る。私は、丁寧に挨拶をした。

 

「エトワール・ブランシャール二等兵です。よろしくお願いいたします。小隊長」

 

「………その呼び方は止めてくれ。道夜でいい」

 

「かしこまりました」

 

「…調子が狂うな…。そうだな、エトワール。少し見ていてくれ。コイツの腕に関しては、見てもらったほうが早い」

 

「………見る、ですか」

 

「ああ」

 

 彼はそう言うと、それこそ手のひらに収まるくらいの小さい的を取り出す。そして、それを外まで持っていき、置いて戻る。

 

 距離的には100mか140mはあるだろうか。

 

「さてと…。エトワール。あの的が見えるか?」

 

 視認するにはさすがに無理があった。私は静かに首を横に振る。

 

「…当然だな。だが、彼女はここから、拳銃で的の【()()()()】を撃ち抜けるんだ」

 

「そんなバカな」

 

 理解できない。それができるなら、相当のエース…。

 

「じゃ、早速やってもらうか。ユーリ、頼む」

 

「えー…。お菓子があるのなら別ですけど…?正直得にも何にもならないじゃないですかー」

 

「……わかった。後で自販機で好きな菓子買ってやるから……」

 

 その言葉を聞くと、彼女は目を輝かせる。

 

「本当ですか!?…それならやりますよ」

 

「商談成立だな?」

 

「ええ。まあ、私にとっては朝飯前ですけどね?」

 

 彼女は拳銃を取り出し構える。そして、ほとんど狙いをつけずに引き金を引いた。

 

 1発、2発、3発、4発、5発。

 

 撃ち切ると、彼女は拳銃を腰のホルスターにしまった。

 

「はい、これで終わりですよ。全部真ん中です」

 

「エトワール、見に行ってみろ」

 

「はい」

 

 私は格納庫の外へ出て、小さい的を見る。

 

 ど真ん中に穴が開いている。そして、その後ろには5発の弾丸が。

 

 ……この人は、相当な腕のようだ…。間違いない。

 

 

 

「この時は、私はいまいちあなたたちを信頼していなかった頃ですね」

 

「ああ。警戒しているのは、それなりには気づいていた」

 

「……」

 

 少しだけ怪訝(けげん)そうな顔をしてみる。すると、彼は微笑みながら言った。

 

「ま、それからは随分と丸くなったな」

 

「ええ。道夜さんを尊敬に値する人物と知りましたからね」

 

「特別なことは何一つしてないがな?」

 

「そういうところも、信頼される要因の一つでしょう」

 

「そういうものか」

 

「ええ」

 

 彼を信頼に値するきっかけ。……それは、私には忘れられない出来事だった。

 

 

 

 私達は、廊下を歩いていた。このトリントンでは、私たち以外の部隊も含み、共同で生活する決まりがある。

 

「……おい。あれ…」

 

 道夜さんが歩くたび、ほかの部隊員からヒソヒソと声が聞こえる。

 

「ああ……。例の人工ニュータイプだろ?」

 

「アイツがいるとロクなことない」

 

「…………」

 

 道夜さんはただ静かに歩き続ける。

 

「道夜隊長」

 

「気にするな…。いつもの事だ」

 

 いつもの事……とは、どういうことなんだろう。理解できなかった。

 

「そもそも、あの部隊がロクでもない部隊だしなぁ?」

 

 声を上げて、一人は叫ぶ。わざと聞こえるように。

 

「違いない。あの部隊は、所詮モルモットだしな!!はっはっは!!!」

 

「……撤回しなさい」

 

 私は我慢できなくなって、彼らに詰め寄る。一言言ってやろうと思った。

 

「おっ!?やるってのか!?二等兵!!来いよ!!」

 

 彼は拳を構える。それに構わず、彼らの所へ歩み寄る。

 

「エトワール!」

 

 彼の一声。私はその場で立ち止まった。

 

「構うな。お前まで同じ立ち位置にいる必要はない」

 

「………ですが」

 

 納得がいかない…。こんなことが許されるわけがない……。

 

 だが、彼は静かに首を横に振る。そして、目で『もういい』と言った。

 

「へっ!首輪をつけておけよ。道夜隊長?」

 

「へへっ!!そうだぜ!こんな(しつけ)の悪い奴には、お仕置きだよなぁ?」

 

 彼らは、私に殴りかかろうとする。

 

「……」

 

 寸での所で、道夜さんが彼らの手を受け止めていた。

 

「……もう十分楽しんだだろう?もう止めておけ。あんまり騒ぎが大きいと、それこそムゲンが来るぞ?」

 

「……ちっ!アイツは面倒なんだよ!………わーったよ。これくらいで我慢してやるさ」

 

 彼らはつまらなそうに私たちに背を向けた。

 

「………申し訳ありません。私も少し頭を冷やしてきます」

 

 そう言って、私は道夜さんを置いて歩き始める。

 

「待て」

 

 彼の制止。私は立ち止まる。

 

「……」

 

「…よく、抑えたな」

 

「…!」

 

 その時の彼の言葉は、私の脳裏にある、【あの人】を思い出させた。

 

 

 かつて私には、恩師とも言える、命の恩人がいた。

 

 

 その名は、連邦軍ではちょっとした有名な名前。

 

 

()()()()()】と言えば、誰であってもその名を知らない者はいないほどだ。

 

 

 私は、彼に救われた。

 

 

 

 私が物心ついた時には、既に一人だった記憶がある。だいたい、5才くらいだったであろう。

 

 両親の顔も知らず、その温もりさえも感じたことがなかった。

 

 地球でも、貧困や、差別は有って、私も虐げられる側の人間。

 

 別にそれをどうとは思わない。私自身、盗みも沢山働いたし。

 

 だが、そうでもしなければ、私の明日は無かったと言っても過言ではない。

 

 ある時、私は白衣を着た研究者たちに連れていかれそうになったのを今でも覚えている。

 

 しかし、その時に待ったを掛けたのがレビル将軍だった。

 

 彼が一言いえば、彼らは黙って手を引いた。

 

 そして、そのあと彼は私に手を差し伸べ、言う。

 

『……立てるかな?』

 

 尻もちをついていた私に、微笑みながらそう言ってくれた。

 

 それから私は、彼の養子としてしばらくの間、彼の身の回りの世話を手伝った。

 

 彼は私の知らないことを沢山教えてくれて、解らなければ何度でも同じことを説明してくれた。

 

 私が言われたことをやってみせると、彼は我が子のように私を抱き上げて、喜んでいたのが今でも忘れられない。

 

 彼の指導のおかげで、私はある程度の礼儀作法、人との接し方、料理などの家事全般をこなせる様になったのが9才。

 

 それから6年後。【一年戦争】の開戦。レビル将軍と別れる前日の話。

 

 私が、パイロットになったきっかけでもある。

 

 それは、将軍がもう、この家には帰ってこれないという話だった。

 

 私は納得がいかなかった。だが、彼は静かに言う。

 

『…戦争だから、仕方のない事なんだよ』

 

【戦争】…。その言葉は、まだ私には理解できかねる言葉だった。

 

 今まで聞いたことのない言葉が、彼から放たれる。

 

 その言葉は少しだけ、私の胸に刺さった。

 

 チクリとした痛みを、確かに感じた。

 

 彼はさらに言葉をつづける。

 

『エトワール。君はもう、独り立ちできる』

 

 突然言われても、理解が追い付かない。つまり、もう彼とは会えないということだろうか。

 

『私は、レビル様を置いていくなどできません』

 

『……嬉しいが、駄目だ。君がそうでなくても、私にはやるべきことがあるのだ』

 

『…………』

 

 泣きそうだった。それを見た彼は、私の頭を優しく撫でた。

 

『いいかいエトワール。君は、君がしたい事、やるべきと思ったことをして生きていけばいい』

 

『やるべきこと……?』

 

『そう。私の手を離れ、そして、自分で選択し、その道を進む。そうやってこれからは生きていくんだ』

 

『………』

 

 彼は、昔の時のように微笑んでくれた。

 

 

 

 それから、私は連邦軍の訓練学校へ入学。

 

 多大な戦績を挙げ、首席で卒業した。

 

 そのころには、もう一年戦争は終戦。

 

 レビル将軍は、亡くなったという話も聞いた。

 

 私は、その4年後、地球連邦軍所属第00特務試験MS隊と呼ばれる部隊に配属されることになり、今に至る。

 

 

「………」

 

 彼の、『よく抑えたな』の一言の雰囲気が、レビル将軍と同じものだと、感じ取った。

 

 そして、その時から私は、彼への忠誠を誓う。

 

「道夜様」

 

「……急になんだ…?!」

 

 ……おかしいな。尊敬する人には『様』を付けろと学んだのだが。

 

「…あなたは尊敬に値します」

 

「…よ、よくわからんが……」

 

「私に、すべてを教えてくださった方と、あなたから同じ雰囲気を感じました」

 

「そして、あなたは仲間を思いやる気持ちを忘れていない。連邦軍にしては珍しい事です」

 

「……俺は、人の命を奪ってきた。だから、せめて仲間を守ることができればいい。そう思っているだけだ」

 

「………なおさら、私はあなたを尊敬してしまいました」

 

 彼についていけば間違いない。私はこの時確信した。

 

「…ま、まあ…。いいか。改めてよろしく」

 

 彼は手を差し出す。私は、彼の手を両手で取り、深々とお辞儀した。

 

「…………」

 

 道夜様はそれに対し、非常に困惑していたのを今でも覚えている。

 

 

 

 その数時間後、ガンダム試作2号機が奪われ、【デラーズ紛争】の火蓋が切って落とされた。

 

 私はその時、グロリアスの護衛をユーリさんと共に務めることとなる。

 

[第三小隊、グロリアスの護衛。俺はムゲンを追う!]

 

 道夜さんからの命令が下される。

 

[了解ですよー]

 

「かしこまりました」

 

 そして、道夜さんは機体を動かし、ムゲンさんを追って行った。

 

「………」

 

[エトワールさんでしたっけ?]

 

「…なんですか」

 

[面白い事言ってください]

 

 任務中に何を言い出すんだこの人は。

 

「…任務中です」

 

[えー。つまんないー。あーあ……お菓子の雑誌でも持ってくればよかった…]

 

 本当になんなんだこの不真面目な人間は。正直、心の中で腹を立てていた。

 

 でも、お菓子の雑誌をチョイスする所は嫌いではない。

 

「レーダーに反応………さん………」

 

[1機撃墜しました。後2機、やりますよ]

 

「……」

 

 状況把握できていないのは自分だったのか…。それとも彼女が余程反応がいいのか。

 

 それから、私達は協力し、敵を撃破する。しかし、相手の奇襲と、グロリアスへの被害で、次第に圧されつつあった。

 

「これ以上……!!」

 

 流石に度重なる爆撃で後退せざるを得ない…。

 

 横方向から増援。ムゲンさんが道夜様の機体を引っ張りながら接近していた。

 

[少尉!まずは正面の敵を!グロリアスをやらせてはなりません!]

 

[オーライ!任せときな!代わりに道夜を回収してやってくれ!]

 

[了解!エトワール二等兵。道夜機の回収を!]

 

「……了解」

 

 私は道夜様の機体に接近し、回収する。幸いそれほど被弾はしていない。

 

「道夜様。しっかりしてください」

 

[ぐっ………。エトワールか………?]

 

「無事なようですね。立てますか?」

 

 私は機体を動かし、手を差し伸べる。

 

[あぁ。すまない。助かった]

 

「当然のことをしたまでです。あなたの部下ですから」

 

[………]

 

 そのとき、彼はどう思っていたのだろう。

 

 

 

「思えば、一年戦争から悲劇は繰り返されている。……ニュータイプが増えなければ……」

 

「そうでしょうか」

 

「エトワール……?」

 

 確かに、人は愚かで、馬鹿で、融通が利かないかもしれない。

 

 しかし、それでも【彼】を見ていると、そうでもないと信じてしまう。

 

 きっとそれは、道夜さんも同じなはず。

 

「ニュータイプというものがいれば、そんな愚かなことは起こらなくなるのでしょうか?」

 

「どう、だろうな……」

 

「そんな確証はどこにもありません。あっても、それは可能性に過ぎません」

 

「……」

 

「私は思います。彼がニュータイプであろうがなかろうが、一人の人間であることに変わりはありません」

 

「それならば、未来を作るのも、繰り返していくのも、結局はニュータイプを含む全ての人類です」

 

「……私は、【最後の戦い】で聞いた声が……」

 

 

 

 それは、グリプス2付近で戦っていた時のこと。

 

 声は、無線ではない、脳内に直接響く声。

 

 私自身にその能力が無いのは自覚していた。

 

 だから尚更混乱してしまう。

 

 だが、声を聞いたのは私だけではない。

 

【ムゲン・クロスフォード】という人物と関わった全ての人に、その声は聞こえたはずだ。

 

 声の主は、ムゲンさんではなく、彼と戦っていた…ゼロという人物。

 

 その声を聞くまでは、名前どころか声すら知らなかったであろう。

 

 しかし、その声は確かに、主が【ゼロ】であることを確信させた。

 

 

 

『お前は……ニュータイプなはずだ。なら、何故……地球に残ろうとする彼らの味方をしたんだ……!』

 

『………それは……。きぼうが……あると……………しんじたかったんだ………。かはっ………』

 

『希望………?』

 

『かれらも…………まだ……くさりきってないと………しんじたかった………』

 

『…たったそれだけの理由で!?虐殺を…!』

 

『うん………。ゆるされないことは……りかいしてる………』

 

『でも………ね………。ニュータイプがさ…………ちきゅうにすむひとを…………じんるいを……しんじなくて………どうするの……さ……』

 

 彼から伝わる。その悲しい心が。何故だが、自分までもが苦しくて。

 

 ただ、信じていた。それだけで戦っていた。彼も、私達も。

 

『かわらないと……………わかっていながら…………。それでも………って………さけばなきゃ、さ………』

 

 叫ばなければ……。だれも聞いてはくれないから。

 

 ニュータイプとは、本来の姿はこうではないと、私は思う。

 

『きみは………やさしい………。てきなのに………ないてくれるんだ………』

 

『………ないてない……!』

 

『………ふふ……。でも…………ぼくは……やっとすくわれる………。おなじ………ニュータイプをみつけたから……』

 

『俺は……』

 

『うん。………かんぜんじゃない……。でも、きみにも…………このじんるいすべてに………その【可能性】はあって……』

 

【可能性】…。その言葉は、今の人類にとっては重過ぎる言葉。

 

 私でさえ、重すぎる。それを一人で背負うには…。

 

『………でも、きみは……その資質が……開花しかけてた………』

 

『でも………。きみはそれを消されてしまった………。過剰な薬物投与………身体の強制的な調整で………』

 

『……人工のニュータイプを作るのに…………ほんとうのニュータイプを使ってしまって……その結果その資質をけされる………。はは………じつに……皮肉だ……』

 

『もしかしたら………ぼくたちは……ちがうかたちであえてたら………【分かり合えた】……かもね……』

 

『ニュータイプが持つ……本来の力…。共感し、隣人でさえも大切にできる力……』

 

 本来そうあるべきニュータイプを変えたのは、間違いなく戦争だ。しかし、戦争が無ければその才能は開花しなかっただろう。

 

 それは……あまりにも皮肉な話だ。【分かり合うため】に、【罪を重ねる】こと……。

 

『きみは………【無限】で………ぼくは【零】………。けっきょく………まじわることはない………』

 

 違う。始まりは全てゼロから。そして1へ…最後はムゲンへと。

 

 交わらないように見えて、交わっている。

 

『ふざけるな!だったら、【零】がなければ【無限】も!1もないんだ!!君は必要だったんだ!!!』

 

『ひつよう………か……。はじめていわれた……そのことば………』

 

『………【暖かいね】…………その言葉………』

 

 その言葉と共に、私は宇宙の遠くで【虹】を見た。

 

 その光は、私の機体を優しく包み込み、そして、通り過ぎていった。

 

 これは奇跡なのか。それとも、ニュータイプの力なのかは分からない。

 

 でも、それはあまりにも…切ない光だった。

 

 

 

 まだ少し肌寒い風が私たちを追い越していった。

 

 空を見上げれば、快晴に映る綺麗な七色の【虹】。

 

「…虹ですね」

 

「そう、だな」

 

 私にはその【虹】が眩しく見えた。

 

 だから、【今】は目を背ける。

 

 いつか……私自身で見つめることが出来るように。

 

 

 ただ、今は……。【現在(いま)】だけは目を背けていたい。

 

 

 見てしまえば、私は彼等を守りたくなってしまう。

 

 

 守ろうとすれば、また再び繰り返す。

 

 

 それだけは避けたい。その一身で。

 

 

「……綺麗だな。虹は」

 

「………」

 

 

 交わるようで交わらない。

 

 

 しかし、それでも人はどこかですれ違う。

 

 

 それは偶然か、それとも神の悪戯か。

 

 

 いいや。違う。

 

 

 必然だ。

 

 

 その過程で、再び彼らと交わる時があるのなら……。

 

 

「……守ります。それが私の意志です」

 

 

外伝  完

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