宇宙世紀0089.7.15 第66特殊戦闘小隊による、大型MA鎮圧作戦決行。
全員がテントの外で俺を待っているだろう。
張り裂けそうな胸の鼓動を必死で抑える。
俺たちは、戦うだけの存在じゃない。エヴァはそう言ってくれた。
小さく息を吐いた後、テントを後にする。
眼前に広がる数機のMSの下、戦士たちはただ静かにその時を待つ。
ゆっくりと歩み始め、全員が俺に気付いた頃、足を止め叫ぶ。
「皆、聞いてくれ!」
胸の鼓動が早くなっていく。それでも伝えなければならない。この小隊の隊長として。
「俺たち第66特殊戦闘小隊は、これより大型MA鎮圧作戦を決行する。戦力を温存したおかげでこの短期間で戦えるだけの力は備わった」
「けれど、この作戦は俺を含めた戦う者全ての命を掛けることになる。それだけ相手は強大だ」
「だから、無理に戦う必要は無い。嫌なら逃げるのも構わない」
「しかし、逃げずに戦うというのなら、その命、俺に預けてくれ」
「あのMAには、核が2発搭載されている。それが放たれれば、再び多くの人が失われてしまうんだ」
「それだけは……絶対に繰り返させるわけにはいかない。俺たちが未然に防がなければいけないんだ」
「………皆、すまない。こんな状況で、俺は何も策が無い。……けれど、それでも俺に付いて来てくれるのなら―――」
「隊長」
声を上げたのはガイだった
「ガイ……?」
「私は、隊長に励まされてから、努力もそれなりにしてきました。そして、少しずつですが変わってきたと自分でも思います」
「それも全て、あなたを信じて進んできたからこそ可能だった。私はもう、あなたに命を預けていますよ」
「…お前……」
「それ、俺も同じだわ」
手を挙げたのはカイル。
「俺さ、初めてAIと戦って、自分の無力さを思い知らされた。けど、そん時の隊長の言葉で、皆同じなんだと気付けたんだわ」
「それに、今は守りたい人もいるんだ。…戦わず逃げるのはかっこ悪いっしょ?」
「そうかもな。お前らしい考えだ」
「俺は……」
零次は小さく声を上げ、俺を見つめた。
「零次?」
「ムゲンと出会って、ムゲンの過去を聞いて、色々な事を知ったんだ」
「世界には沢山の人がいて、いろんな考えを持った人がいるけれど、それでもその中で、同じ考えを持つ人がいるんだって」
「俺は、ムゲンを信じてる。……行こう、ムゲン。俺もあなたに命、預けますよ」
彼等を皮切りに全員が賛同の意見を述べ、誰一人として逃げるものはいなかった。
「…まったく、お前らは……。いいだろう。そこまでの覚悟があるなら、この作戦も成功させよう!」
「生きて、またここで会おう!!」
全員が敬礼する。
そして動き出す。次々にMSに乗り込み、出撃の準備を始める。
ジェガンを見上げた。
少しだけ、笑っているようにも見えた。
「……よし、行くか、相棒」
機体に乗り込みシステムを起動していく。
「ムゲン」
コックピットの外からひょっこりと顔を出したのはエヴァだった。
そういえばこの前一緒に行くと言っていたのを思い出す。
「…行くのかい?」
「うん。行くよ。だから、乗せてね!」
「…わかった」
彼女をコックピットへと招き入れた後、ハッチを閉じる。
モニターが森林と小さなテントを映し出す。
「わぁ…!これがMSの中なんだ!」
そんな光景を見てなのか、エヴァははしゃいでいる。
「…そ、そんなに暴れないでくれ」
「えへへ。ごめん」
「まったく…。……よし、ムゲン・クロスフォード、ジェガン出るぞ!!」
機体を動かし、アダムの待つ決戦場へと進んでいく。
この先、何があったとしても、俺は止まるわけにはいかない。
友を守るため、家族を守るために、少しだけ、彼女の言葉に騙されることにした。
『守りたい人たちがいるから―――そのために殺す。なら、自分を言い訳で守ってもいいじゃない』
目の前で天真爛漫に笑うAIは、そう言ったんだ。
眼前に広がる景色は、俺が見た景色とは違い、凄惨な状況だった。
周辺の木々は燃え落ち、AI搭載型であった機体が無残にもバラバラで地面を横たわっている。
そんな光景を見たエヴァは
「ああ………これは……!」
「エヴァ…」
エヴァからすれば家族を殺されたような気分なのだろうか。
……アダムはきっとこんなことを望んでたわけじゃないはずだ。
少なくとも、AI同士は傷つけるようなことはさせなかったはず。
ビルダ・オルコット……。自らの欲のためだけにAIを作った挙句、彼らの進化を自らで否定する。
許せない。彼は………悪だ。
「…………こんなことをするのはビルダしかいない」
エヴァの声は微かに震えていた。怒りでなのか、悲しみでなのかは分からない。
「……エヴァ、行こう。アダムは……待っている」
「…うん。つけよう。決着を」
周りは何もなかった。
既に燃え尽きた葉や花。
大きく目を見開くようにその姿を見せるモノアイ。
さながら要塞のような風格。
「…………アダム」
エヴァが小さく呟いた。
[待っていたぞ。ムゲン・クロスフォード。そして、イヴよ]
その声は待ちくたびれたかのような、そして、嘲笑うかのような
それが余計に俺を腹立たせた。
「ビルダ・オルコット……!!」
ビームライフルを構え、叫ぶ。
「お前だけは…許してはおけない!!」
それに続けてエヴァが
「そう。あなたが殺した私たちの仲間の……アダムのためにも!」
すると彼は大きく笑った後
[ならば、どうする?この、ライノハーテッドを墜とせるか!!]
「……墜としてやるさ!全員でな!!」
MAに一射。それに合わせ、零次とカイルが前へ前進、一気に間合いを詰める。
さらに背後からのガイの狙撃と、仲間の斉射攻撃。
[その程度の豆鉄砲、なんともない!!]
射撃は着弾するものの、敵はビクともせず余裕にその場に居座る。
[間合い、もらった!!!]
[行くぜ、零次!]
二人がサーベルで斬りかかるも、ビームをもってしても装甲を焼き切ることが出来ない。
[くそっ!なんて厚さだよ!]
「零次、カイル!間合いを―――」
その言葉が届く前に、MAの機関銃とマシンガンによる反撃。
直撃を受ける2機。
「カイル!!!」
エヴァは立ち上がり叫んだ。
「エヴァ、座るんだ!俺たちも行くぞ!!」
ビームライフルを乱射しながら相手へと攻め寄る。
マシンガンと機関銃の射撃を回避しながら確実に相手との距離を詰め、相手の正面で飛び上がった。
「で、でも装甲が……」
「装甲がダメなら………」
ライフルによる射撃3発放った後、すぐさまサーベルを引き抜き、相手のアーム目掛けサーベルを振り下ろす。
機関銃を持っていたアームを切断、さらにシールドミサイルで搭載しているマシンガンを1基破壊。
「……武装を潰すだけだ!」
[ふん!その程度で!]
機体内にアラート音が響き渡る。
「……ミサイルか!!」
「あのミサイルは誘導式ミサイル。無理に逃げたらそっちのほうが危険だよ」
「なら、迎え撃つまでさ!」
サーベルを構え、ミサイルと相対する。
瞬間、目の前でミサイルがはじけ飛び、爆発。
「なんだ!?」
[隊長、私が居る事を忘れずに。あなたは一人じゃない。援護は任せてください]
「ガイ………」
「次来るよ!!」
すぐさま間合いを取る。
左側からの射撃。咄嗟にシールドを構え、ガードする。
「ちっ……!!」
「ムゲン!正面!」
「なっ!」
正面からミサイル。防ぎきれない。
直撃を貰い、機体が吹き飛ぶ。
「うぐぅううう!!」
俺はエヴァを守るように抱きかかえた。
[隊長!!]
[てめぇ!隊長をよくも―――うわぁああ!!]
「くっ…!」
彼らの声を聞き、早く立ち直らなければと機体を起こす。
「大丈夫か……エヴァ」
「うん。それより、敵が増えたみたい……」
その声からは、どことなく元気がない。そうか……この場合の敵は…
正面を見ると、要塞を守るようにこちらへと近づいてくるザク。数は6。
全てAI搭載型だろう。
「……やるしか…ない!」
サーベルを持ち直し、構える。
大きく振りかぶり、攻撃してくるザクを胴体から半分に両断。
「ああ……!!」
エヴァが悲しそうな声を上げる。
「くっ……!!」
シールドミサイルで相手の頭部を破壊。頭部を破壊されたザクは力なく膝をつき、倒れた。
「うぅ……皆……!!」
「………エヴァ……」
胸が苦しくなった。AIにもこんな悲しい景色を見せなければならないのか…?
味方を撃墜され、AIであるのにも関わらず、怯えている1機目掛けサーベルを振り上げる。
「………」
「や、やめて!!!」
それを止めたのはエヴァだった。
「…エヴァ……」
「もう…………やめて……」
この声は全員に聞こえていた。
[エヴァ!?どうして隊長の所にいるんだ!?隠れて居ろって言ったっしょ!?]
カイルが慌てながらこちらへと無線を送る。
「ごめんなさい。カイル…。私は……私の決着をつけるためにムゲンに頼んだの。…けど……私」
「エヴァ……」
隙を見せていたジェガンに、タックルをしてくる。
寸での所で気づき、何とか回避。
「くっ……!!」
「やめて!皆!!」
エヴァは叫ぶ。それに構わず、攻撃を続けるAIたち。
左からの射撃をシールドで防御。
正面からの近接攻撃をサーベルで受け止める。
「なんで……!戦わなくていいんだってば!!!やめてよ!!」
「くそっ!!…エヴァ…!」
彼女は首を振りながら叫び続ける。
「攻撃を止めて!!戦う必要なんかないんだよ!!」
シールドが吹き飛ばされ、射撃を直撃した。
「ぐあっ!!」
「ああ……ムゲン…!」
「……か、構うな。それより……彼らは……もう無理だ。もう…自らの意志を持っていないただの【
「でも…!でもぉ…!!」
[ムゲン・クロスフォードの言う通りだ。イヴよ、彼らはもうAIではない。ただの機械だ。そして、俺の駒なんだよ]
まるで自分だけは別の位置でのんびりと観戦でもしているかのような口調でエヴァに現実を突きつける。
「うぅ……!!」
腹部に蹴りが直撃し、機体が宙を舞った。
「くぁ……!!」
エヴァを庇いきれず、俺は機体の中で背中を強く打つ。
エヴァも頭をぶつけた。
「アがっ……!!」
「エヴァ…!!」
「ダ、大丈夫……。まだ……」
泣きそうになりながら見つめる俺に、優しく微笑んで見せた。
[これで終わりだよ!ムゲン!!イヴと共に塵になるがいい!!]
ミサイルとマシンガン、そのすべてがジェガンへと放たれる。
機体を立て直す時間などなく、俺は目を瞑った。
しかし、その攻撃は俺たちに当たることは無く、目の前で爆音が広がる。
目を開くと―――
「……お、お前は……!」
目の前には両手を開き、MAから放たれるすべての攻撃を受けきったザクⅢ……ヨハネがいた。
「ヨハネ!?」
[……ああ……イヴ……か…]
「うん……!あなた、また無茶を…!」
[いいんだ]
「え……」
[オレは……嬉しかった…。イヴ、君と話せて。君が笑ってくれて]
[……そして、ムゲン。お前に出会えて]
「な、何言ってるんだ!これからじゃないか!!」
[それは……慰めか?…すまない。回路が故障してうまく思考できない]
「……ヨハネ…!!」
涙が零れていく。止まらない。
[ムゲン……クロスフォード……]
[オ、オレの……いのちは………輝いていたか?お前が俺を記憶に残すほどの強い光だったか?]
「お前…!!」
[オレは………知った。この世界はまだ……
[そして、それをイヴに知ってほしかった。いいや、アダムにも……]
[ムゲン、お前は……【
「………俺は……お前さえ守れなかったんだぞ!?」
[違う。守れた……。お前は、オレを守った……確かに残っている……その記憶が]
[暖かった。……人の温もり。戦いの中でも伝わった。お前の優しさ]
「……そんな…!!」
[だから、今度はオレがお前を守った。それだけだ]
[これで……貸しは無くなったな?]
「……くっ…!!」
「ヨハネ………また面白い話を聞かせてくれるんじゃないの……?」
エヴァは静かに言った。
[申し訳ない…。俺が話せる事は全て話してしまった。また……探さないといけない]
「ヨハネ………」
[……【
[…ムゲンや、イヴと………離れたくない。…死にたくない]
「…ヨハネ!!」
[もし、生まれ変われるのなら……と、ここまで願ったのは初めてだ……]
「ヨハネ……」
[俺は……この世界に生を受けたい。…生きていたいんだ……]
[騒ぐ森や、歌を歌う小鳥。……共に笑って…泣いて…。その全てを【共感】したい]
[……今度は、人間として……この世界を生きたい……]
「…願えば…きっと叶うよ。ヨハネ」
エヴァは震える声で言う。
[そうだな……。叶えば良いな……]
[……もう…行かねばならない……。帰ってきたら……イヴ、また歌を歌って―――]
言葉を言い切る前に、ヨハネの機体は爆散した。
「………!!!!」
「あ……ぁあ…!ヨハネ……!」
胸が痛かった。人が死んだかのように、胸にポッカリと穴が開いた消失感。
「……ヨハネ…。お前の命は……輝いていたよ。……おかげで、前がしっかり見えるんだ。あいつへの道が…ハッキリと!!」
涙を拭き、MAを睨みつける。
[ふん、面白いことをしてくれる。まあいい、【
「…その失敗作が……お前への道をしっかり残してくれたよ。ビルダ……覚悟はできたか?」
[言ってくれる!!沈むがいい!!]
ミサイル、マシンガンが再び放たれる。
構わず機体をMAへ
「ガイ!!二人の援護を!!カイル、零次はAIを抑えろ!!背後の味方に近づけさせるな!」
[でも、あのMAは――]
「俺が引きつける!!!」
ヨハネのためにも、アダムのためにもやらなければならない!
マシンガンを回避しながら、地面に転がるシールドを拾い、正面に投げる。
シールドに反応したミサイルがシールドへと迫った。その間に相手への頭部へと迫る。
「うおおおおお!!!」
[ちっ!!甘い!!]
頭部付近に搭載されたアームがこちらを掴もうと迫るが、素早く見切り、切り落とす。
「これで終わりにしてやる!!!」
相手のコックピットは頭部より少し下の位置。目の前に立ちふさがり、MAを見下ろした。
いつもより、憎しみがこもっていのが自分でも分かった。
[こ、この俺がぁあああ!?]
「お前は人間で言うところの……【
それだけを言って、サーベルを逆さにし、コックピット目掛けて突き立てる。
それっきりMAからは何も喋らなくなった。
「……おわった……のか……?」
「…ムゲン………ありがとう。アダムと、ヨハネ、そして皆を救ってくれて」
エヴァは静かに言った。
「俺は……何もしてあげられなかったよ」
「でも、彼らも救われたはずだよ」
「そうだといいんだけれど……」
唐突に地面が揺れる。
「な、なんだ!?」
MAから間合いを取った。MAは姿をどんどん変えていき、大型の砲台が現れる。
「あ、あれは……!!!」
「なんだ!?」
「2連式の核砲台……」
「あれが!?」
「あれが起動したってことは……もう時間が無い!!」
エヴァは俺に向き直り、真剣な表情で
「お願い。あのMAの頭部へ連れてって。早く!!」
エヴァの剣幕に圧され、俺は頷く。
「分かった、しっかり掴まって」
ジェガンを動かし、MAの頭部へたどり着いた。
エヴァはコックピットを開き
「……ムゲン、降ろしていいよ」
「そんな!!何をするつもりだ!?」
「……核を止める」
「どうやって!?」
「私にしかできないから。あなたには無理だから」
「……エヴァ……」
「時間が無いんだけど、お願いしていい?」
「う、うん……?」
エヴァは少しだけ照れくさそうな顔をしながら
「…カイルと……話がしたいな……」
「…わかった」
俺は無線を開き、カイルと繋いだ。
「カイル。ちょっといいか」
[ん?どしたの隊長]
「さ、エヴァ……」
俺は静かにエヴァに微笑んで見せた。
エヴァは頷くと
「カイル?」
[…エヴァか?!どうした!?]
心配そうなカイルの声。そんな声を聴いて、彼女は笑っていた。
「ふふふ。……ちょっと声が聞きたくて」
[な、なんだよ。だからって隊長の無線使うことは無いんじゃね?]
「…そうかもね…。ごめん」
[…ま、まあ……俺も……お前の声が聞きたかったって言うか……]
「ほんと?嬉しいな!」
[それより、早く逃げろ。もう時間が無い]
「……うん。カイルも逃げて」
[な、何言ってるんだよ!お前を置いていけるか!!]
「ごめんね。一人で行って」
[お、お前……何するつもりなんだよ…]
「私、やることが出来ちゃってね……」
[そ、そんなの……後でだっていいじゃないか…]
「そうしたいんだけどね、無理なの」
[………嫌だ]
「えっ……」
[お前が逃げないのなら、俺も逃げるわけにはいかない]
「もう……あなたって人は……」
その時、エヴァの瞳から……一滴の涙が零れ落ちた。
「……エヴァ…」
今目の前にいるエヴァという少女は、決してAIなんかじゃなく、一人の女の子だ。
……好きな人と別れる時、涙を流さない【
「でも、わかって。あなたにも無事でいてほしいから」
[ふざけんな!!好きな女がどこか行っちまうのに、それを止めないでどうすんだよ!!]
「カイル………」
「ありがとう。でも……ごめんね」
エヴァは、涙を拭いて言葉を続けた。
「…もし、人間に生まれ変われたら……もう一度あなたを好きになってもいいかな」
[…あ、当たり前じゃねえかよ!!お前を、何度だって愛してやるよ!!!]
「…ふふ……ありがと。……元気でね、カイル。………愛してるよ」
そう言って、静かに無線を切るエヴァ。
「……もう、いいのかい…?」
「うん。もう十分だよ」
「……エヴァ……」
「ムゲン、泣かないで。泣いてたら、前に進めない。辛い時や、悲しい時こそ笑わないと」
彼女は俺の頬を伝う涙を拭きとる。
「……そうだな。君の言う通りだ」
「うん。……そうだ、あなたに渡したいものがある」
「なんだい?」
彼女は、自らの心臓の位置にある部分から小さなディスクを取り出し、俺に差し出してきた。
「これは……?」
「時間が無いから説明はしきれない。けど、簡単に言うなら、【これを使えば私とまた会える】ってものだよ」
「カイルに渡してあげるほうが………」
すると彼女は首を横に振った後
「ううん、いいの。彼とは…本当にまた会える気がするから」
「そうか……」
「でも、あなたとは…これっきりになっちゃうと思うから、渡しておくね」
「……少し、寂しいな」
「私も、寂しい。初めて世界を見たときは、そんな気持ちも湧かなかったのになあ……」
コックピットの中を照らし始める夕日。それは、あの時エヴァと見たものと変わらない光。
「……ねえ、ムゲン」
「うん?」
「感情って……こういう時は嫌になっちゃうね…」
「……そうだね。……何度味わっても…嫌なもんだよ」
「でもさ、私、人間大好きだよ!確かにビルダの言う通り、残虐だったり、モノを大切に出来ないところもあるけどさ」
「それ以上に、こんなに素敵な気持ちが味わえるんだから。……人を好きになるって…良いモノだね」
「………ああ」
「そろそろ行かなきゃ。……今まで、本当にありがとう」
「…気にしないでいい。俺も、それなりに楽しかったよ」
「…ふふ。………後は任せて、皆を連れて帰ってね」
「分かっているさ」
分かっている。分かっていても、別れは辛いんだ。
胸が苦しくなって、涙が勝手に零れるんだ。
笑って別れてあげなきゃいけないのに。
「………泣かないで、私も……泣いちゃうからさ」
その時だけは、いいや、出会った最初から、彼女はAIなんかじゃない。
人間だったんだ。
ちょっと不思議で、天真爛漫な少女。
でも………
分かってる。
そんな彼女は、AIで、自分の使命を果たそうとしていることを。
「……行かなきゃ」
彼女はジェガンの手に飛び乗って
「……降ろして」
「ああ。…また、会おう」
「うん!今度はとびっきり可愛い子になって皆に会いに行けたらいいな!!」
「…それは……楽しみだな」
そして、彼女は俺に背を向け叫んだ。
「私!生きててよかった!!世界に出てよかった!!人を愛してよかった!!」
流れる風が、俺の額に冷たい雫を運んでくる。
「いっぱい……もっと…いっぱい……生きてたかった……な……」
俺は、ただ静かに、彼女をMAへと降ろし、背を向けた。
「………エヴァ……」
振り向かない。それが生きている者の役目だから。
何より振り向けば、きっと泣いてしまうから。
エヴァと……笑って別れたいから。
「全機、撤退。大型MAの沈黙は確認した。……俺たちは…勝ったんだ」
そう言って歓声が響き渡る中、俺は泣いた。
我慢できなかったんだ。
それから数日後―――
俺は約束通り、トリントン基地へと戻ることとなった。
嬉しい気持ちと、悲しい気持ち、そんなごちゃごちゃとした気持ちが混ざっている。
「…………みんな、今まで俺についてきてくれてありがとう」
丁寧にお辞儀すると
「こちらこそ、ありがとうございます」
ガイは静かに礼を言う。
「ムゲンのおかげで、俺たちは生き残れた。本当にありがとう」
零次は笑顔でそう言うが、俺は納得が出来なかった。
俺は何もしてあげられなかった。ヨハネにも、アダムにも。……彼女にも
「俺は何もしていない……。何も…してあげられなかった」
「そんなことなくね?」
そう言ったのはカイルだった。
「カイル…?」
「エヴァは言ってた。『幸せだった』ってさ。というか、あんたのおかげでつまらなかった生活がガラッと変わっちまったんだ。感謝しきれないぜ」
「………」
「悲しくないと言われれば否定はしないけどさ、俺、アイツにまた会える気がすんだよな」
「……会えるといいな」
「ああ。ムゲンちゃんも、妻と子供に会えるんだ、少しは笑えって。な?」
そう言って俺の肩を軽く叩いてみせた。
「……ああ」
輸送機に機体を搭載し、俺自身も輸送機の椅子に腰かける。
「長期にわたっての任務、お疲れ様です。ムゲン中尉」
「…ああ。ありがとう」
「では、離陸し、トリントンへと向かいます」
「頼む。……少し眠らしてもらうぞ」
「ええ。到着しましたら起こしますので、ごゆっくりどうぞ」
目を瞑り、俺はこの1か月の出来事を思い出していた。
……そうして考えているうちに、どんどんと意識が落ちていく。
流れるままに俺は眠りに落ちていった。
『今度はとびっきり可愛い子になって皆に会いに行けたらいいな!!』
……少し楽しみだな。
48 アジア前線編 完
ビルダの設定と、大型MAの設定です。
機体名 ライノハーテッド
正式名称 Rhino Harted
型式番号 不明
生産形態 試作機
所属 不明
全高 不明
頭頂高 不明
本体重量 300t以上
全備重量 500t以上
出力 計測不能
推力 計測不能
センサー 34,000m
有効半径
武装 核弾頭搭載2連式砲台
腕マシンガンx4
機関砲x4
ミサイルポッドx8
搭乗者 ビルダ・オルコット 完成型AI-01[Adam] 完成型AI-02[Eve]
機体解説
ビルダ・オルコットが、ジオンにいたころにデータを盗み、それを基に開発、製造した試作大型機動兵器。
開発の年月は、本機に搭載するAI含めて8年掛かっている。
基になったMSは、一年戦争に1機生産された、大型機動兵器「ライノサラス」をベースにしている。
ホバー走行の移動砲台であるが、砲塔部分にザクⅢのボディを流用し、機関銃内蔵のアームを設置しているのが特徴である。機体後部には機関砲砲塔4機を装備する。
ミサイルポッド、マシンガンで武装しており、非常に強大な火力を持ち、装甲もある程度厚いが、冷却システムに問題があったライノサラスとは違い
冷却システムの見直し、装甲の強化を図ったため、ある程度の時間であれば運用が可能になっている。
基本的に、動かず、要塞のような形で、ビルダ・オルコットの研究所を守っている。
砲塔部は、基本的に格納され、周りからは視認できないようにしてある。
砲台には、核弾頭を搭載した2連式のキャノンが搭載されているものの、彼が核弾頭をどこで入手し、何に使用するかは未だ不明である。
なお、AIである[Adam]と[Eve]は、彼曰く、『AI研究人生において、これ以上の存在を作ることが可能であろうものか』と言っている。
このAIには、ザクⅢに搭載している試作AI[John]のデータを基に戦いにおいて感情の不必要な一部分を完全に欠如させることで、残虐性の増大と躊躇いを消している。
欠如させてはいるものの、完全にAIにその不必要な部分を消去したわけではない。
敵と味方と判断するときに影響が出るからである。
彼らは、自らの意志で、敵と味方を判断し、さらには、[対話]を行おうとする。
AIのベースとして、[Adam]は男性をベースにしたため、一人称がオレに。さらに、暇なときには口笛が機体から聞こえてきたりする。
[Eve]は女性をベースにしたため、一人称は私。彼女は、気分がいい時には、彼女のお気に入りの音楽を歌いだす。
プログラムされた言葉だけでなく、それを学習し、さらには、それを人間に問う。
それはまるで、本当の人間と話しているかのような気分になる。
言葉を聞こうとしない者には、この機体を以って、破壊する。
機体の操作および被弾コントロール、積極的に対話を行おうとするのは[Eve]が。攻撃、敵か味方かの判断および敵への報復判定を行うのが[Adam]。
それはまさに、人類初の人間を超越し、自らが神であるかのように、目の前にいる人類を試す。
名前:ビルダ・オルコット
年齢:35
性別:男
主な搭乗MS:ライノハーテッド
階級:不明
説明
ジオン軍の元技術者で、現在はAIの専門家であり、研究者。
MSにAIを搭載する実験などを行っており、目標は『人を一切必要とせず、MSを運用できるAI』のため、日々AIを作っては実験を繰り返している。
特別な研究所を一人で持っており、近辺の護衛は、唯一成功したAI数機によって防衛されている。