彼は愛する人のため軍人となった。
そして、彼はムゲンに出会う。彼と出会ったことで、零次にはどんな変化が……?
これは、零次がムゲンと別れてからの話。
宇宙世紀0096.7.15に行われた大型MA鎮圧作戦は無事、俺たちの勝利に終わった。
しかし、素直に勝利を喜ぶ気が起きない。
あのカイルの悲しい声を聞いてしまっては………。
[……エヴァ………!!!エヴァぁあああ!!!]
[俺は!!どうして!!彼女を救えなかったんだ!!!!]
悲痛な叫びが無線から響き渡る。
「……カイル…」
勝利の歓声が響く中、カイルの声はだんだんとかき消されていった。
それから数日後、俺は数年ぶりに故郷の日本へ帰り休暇をもらえることとなった。
ムゲンが上層部に掛け合ってくれたおかげで、ガイも、カイルも同じく休暇が貰えたらしい。
嬉しさ半分、前の戦闘のショックが半分。そんな状態でありつつも、俺は迎えのシャトルに乗り込み、日本へと向かった。
久々の故郷は、昔よりも荒れてはいるものの、変わらないところもあって少しだけ安心できた。
街を見渡すたびに心がワクワクして、いつの間にか、自分の悲しい気持ちもどこかへと吹き飛んでいるのに気が付く。
「…あ……」
歩いていて見つけたのは、昔よく来たパン屋。
丁度いいタイミングだったので、パン屋へと足を向けることにした。
扉を開くと、パンの良い香りが鼻腔をくすぐる。
「いらっしゃい。よく来たね。―――って…お前…零次か!?」
俺の顔を見て、目を大きく開くこの男は、俺の友人。
数年前までは彼の親が店を切り盛りしていたはずだが、と考えつつも笑顔で言葉を返す。
「ああ。久しいね。元気だった?」
「元気も何もよぉ……。お前がどっか行っちまってから、皆どことなーく元気なくてさぁ……」
あからさまに悲しそうな顔をして落ち込む彼。
「…そっか…。迷惑かけたね」
「まあ気にすんなよ!お前、軍人だもんな。忙しいだろうし、仕方ないだろ?」
「…そう言ってもらえると助かる。…ところで、親父さんは?」
「……親父?……ああ、死んだよ。一昨日な」
「えっ………」
この街で一番元気で豪快な人が…。誰かに殺されたとか…?
「いや、酒の飲みすぎだ」
「え……」
俺の心を読んだかのような返しと、亡くなった理由で二重に驚いた。
「まぁ、仕方ないよなぁ。最近はさらにひどかったし。……だから、今は俺がこの店の店主ってことになってる」
「立派だな」
「立派なもんかよ。面倒ばかりさ。…けどま、親父にまともな恩返しをしてやれなかったからさ」
「………」
「ま、そういうわけで今はパン屋の店主さ」
彼には夢があった。確か、一流の起業家になって、毎日豪邸でパーティーするんだと豪語していた。
「……売れ行きはどうだい?」
「ぜーんぜん。来るのは向かいに住んでるばーちゃんくらいさ」
「相変わらずだな……」
苦笑しながらパンが並んでいる棚を見て回る。
「お、何か食ってくか?」
「数年ぶりに食べてこうかな」
「おっしゃ!なんでも好きなヤツ選んでくれよ!おごってやるからさ」
「え、いやでも……」
俺は首を横に振るも、彼は頑なに
「いいから!お前はもっと食って頑張れや!」
「……そこまで言うなら……」
彼の頑固なところはきっと親父さん譲りだろう。
子供のころ、よくイタズラをして叱られたっけ。
そんなことを思い出しながら、パンを選んで彼へと持っていく。
「これだな。よし、今包むから待ってな」
「分かった」
彼は手慣れた手つきでパンを包んでいく。
「よし、出来た。ほらよ!これから蒼花んとこに会いに行くのか?」
「そのつもりだけど?」
「んじゃ、よろしく伝えてくれよ!また来いよな!」
「分かってるよ!それじゃ!」
俺は彼に手を振った後店を後にした。
ゆっくりと街を歩きながら、懐かしい思い出に浸る。
こんな時間だけでも、良いモノなんだと軍人になってから思うようになった。
歩き続けていると、いつも見ていたその景色が遠くに映る。
「………あ…!」
なんだか嬉しくなって、俺は夢中で走った。
過ぎていく景色なんかに構わずに、緑の屋根の家へと走る。
「はぁ……はぁ……!」
辿り着いた場所は、前に家を出たときと変わらないものの、人の気配がして、生活感があった。
きっと、ここに彼女はいる。
そう確信しながら、俺は自宅へと歩みを進めた。
木の棒で作った簡素な物干し場には、真っ白なシーツが掛かっていて、風が抜けるたびに楽しそうになびいている。
「………」
シーツの下から映るほっそりとした女性の脚。
どうやら、シーツを取り込むところだったのだろう。
「………間違いない」
俺は呟き、物干し場に向かい、女性の背後にひっそりと回った。
青空のように綺麗なロングの髪。俺は彼女に声をかけた。
「いい天気ですね」
すると彼女はビクッと驚き、その場で硬直している。
「………だ、だ、だ…誰……?」
震える声で恐る恐る尋ねてくる。
俺は微笑みながら言葉を返した。
「蒼花。久しいね。もしかして、俺の声、忘れちゃった?」
「ま、まさか…れい―――うわぁっ!?」
振り向こうとした少女は突然体勢を崩す。
「危ない!」
思わず彼女を支えるために体が動いた。
倒れそうになる彼女の手を取ったことで、少女は何とか無事で、それを見てから胸を撫で下ろす。
「……あ、ありがと……。やっぱり、零次だ……」
彼女の瞳から沢山の涙が零れ落ちていく。
「ど、どうして泣くんだ?」
彼女を引き起こし、心配そうに見つめる。
すると彼女は
「……嬉しいから…。帰ってきてくれたから……」
「………蒼花」
彼女は
蒼花は、片親で育てられた子で、姉弟なんかいなくて、寂しい思いをしてた。
唯一愛してくれた家族でさえ、戦争に巻き込まれて亡くなった。
蒼花の親父さんは、軍人で戦闘中に殉職。
俺の姉ちゃんは、海外の出張中に、反地球連邦のテロに巻き込まれて亡くなったと報告を受けた。
お互いに境遇が似ていて、たまたま家が近かったのもあって、それ以来俺たちは二人で生活をすることになったんだ。
大変だけど、生きるために必死で……。
俺が軍に入ったのも、それが理由。
金を稼いで、彼女に楽をさせたいから。
そのせいで彼女が一人になってしまうのは本末転倒な気もするが、それでも俺は戦うことを決めた。
蒼花を……幸せにしてあげたいから。
「とりあえず、中に入って!そこで話をしよう!」
「ああ」
俺は彼女に言われた通り自宅へと足を踏み入れた。
「好きなところ座って」
「そうするよ」
椅子に腰を掛け、家の中を見回す。
昔と何ら変わってない。
懐かしくて涙が出そうなほどに。
「帰って来たってことは、休暇?」
最初に口を開いたのは彼女。
青いロングヘアーに、少しだけつり目。でも口元は優しく、可愛いというよりは美人。
久々に彼女の顔を見れて素直に嬉しがっている俺がいる。
俺は頷いた後に
「そうだよ。隊長の計らいでね」
「そっか。いい隊長なんだね!」
「…ああ。すごい良い隊長だった」
「だった……?もしかして……」
「あ、いや、隊長は亡くなってないよ!自分の本来の基地に帰っただけ」
すると彼女はなるほど、という顔をして
「そっか。それで、休暇はどれくらい……?」
「ここに着いてから1週間だってさ」
「わぁ!!そんなに一緒にいられるんだ!!嬉しい……!」
彼女は飛び跳ねるくらいに喜んだ。見ているだけで俺も嬉しさが込み上げてくる。
「俺も嬉しい。隊長には感謝しきれないよ」
「だね!…また、会えたら感謝しないとね!」
「うん。また会えたら……」
そのあと、彼女に出先の事を話してその日は盛り上がった。
1週間なんてあっという間に経ってしまうもので
最終日、俺は蒼花と共に街へと出かけた。
「今日で……最後なんだね」
「ああ。…でも、二度と会えないわけじゃないからさ」
「……う、うん………」
二人の間に一時の静寂。
ただ聞こえるのは二人分の歩く音。
それが、彼女との別れを現しているようで、怖くなる。
もう二度と会えないのではないか。
そんな不安が頭によぎる。
「………」
彼女はさっきから俯きながら黙り込んでいる。
「な、なあ…蒼花…―――」
「あうっ……!?」
俯いていた彼女と、前から歩いてきた大柄の男性がぶつかった。
思わず彼女はしりもちをついてしまう。
「うぅ……」
「蒼花。大丈夫か?」
「う、うん……」
「す、すいません。こっちの不注意で―――ぐあっ!?」
一瞬自分でも何が起きたのか理解できなかった。
だが、今はっきりとわかるのは、俺は宙を舞っているということ。
「っっ………な、何を…―――がはっ!?」
直後腹へ蹴りを入れられ、一瞬意識が飛びそうになった。
「零次!!!」
「……ぐぐ……!お、お前……!」
「人にぶつかっておいて、それだけで済むと思うなよてめぇ!!」
フラフラになりながらも立ち上がり、彼女を守るようにする。
「ほう?まだやられたりねぇか?」
「違う……。ぶつかったのは悪かった。こっちの不注意だった…―――ぐっ!」
頬に一発。痛みに堪え、耐える。
「そう思うなら!!謝れよぉ!なぁ!?」
「ぐっ…!ぐはっ…!!あぐっ……!?」
殴られているのに、俺の体は倒れることを許さない。
蒼花だけは………守らなきゃいけない。
「地面に、手をついて!謝れよ!!!」
「がっ…!!!」
腹に一発。強烈な痛みで、膝をついてしまった。
「ぜぇ……ぜぇ……う、ぐぐ……!」
「謝れよ!!」
足で踏みつぶそうとしてくる。もう……立てない…。
「零次……!!」
「もうやめておいたらどうだ?」
トドメを阻止したのは、おそらく男性。足元しか見えないが、スーツ姿。
「ああ!?なんだよてめぇ!!」
「子供いじめて楽しいか?大人げないぞ?」
煽るようにその男性は言う。
その態度に腹が立ったのか、大柄な男は
「な、なんだとぉ…!?」
「や、やめときなよクロノード君。面倒ごとは嫌いなんでしょ?矛盾してるよ、君」
「言うなよ。俺だってアイツに会う前にこんなことはしたくないんだ。だが、こんな光景を見てて見逃すわけにはいかんだろ」
「ま、そうだろうけど。そこの大柄な兄さんや、やめといたほうがいいよー?クロノード君は強いんだから」
相手を挑発するように言うもう一人の男性。
「ああ!?ぶっ殺されてぇか!」
「おぉ、怖い怖い。最近はピリピリしてるねぇ。日本は平和だと思ってたけど……」
見なくても分かるが大きめのリアクションを取りながら彼が言うのが目に見える。
「てめぇ……!!!ふざけんなぁあああ!!」
大柄な男が走り出す。
何とか体を起こして、その場を見ると、細身の男性2人が呆れているのが分かる。
「ったく。おい、面倒だから任せるぞ」
「ええ!?なんで俺!?俺は喧嘩が苦手なんだけど?」
大きめのリアクションを取りながら彼は言うが、クロノードと呼ばれる人物は首を横に振りながら
「それ、嘘だろ?」
「いやいや!俺はそう言う野蛮なこと嫌いですねー。なんせ危ないからさぁ」
「……焼き鳥1本おごるからさ」
すると彼は突然目の色を変えて
「お、マジ?じゃあやるわ!!」
すると彼は男性の前に立ちふさがり、大柄な男の拳を片手で受け止めた。
「なっ!」
「……はぁあ…なぁんで俺がこんなことをさぁ……」
「てめぇ!真面目にやってんのか!?」
「真面目?喧嘩にマジになっちゃってどうすんのよ、兄さん」
「この野郎…!!ぶっ殺す!!!」
だんだんと押され始める。
「あ、あれ?ちょっと力強くない!?お、おーい!クロノード君!ちょっときついんですけどー!?」
「知らん。さっさと片付けろ。遊んでいる暇はないだろう」
その言葉は大柄な男に油を注いだのか、大声を上げ
「てめぇら殺す!!!死にやがれぇええええ!!」
「ぐ……!!ちょ、ちょっとたんま!!ギブギブ!!や、やめてー!!」
そう言いながらカカサという男は拳を受け止めながら膝をつき始める。
一方クロノードという男は大きくため息をついている。
その足元からひょこっと現れた小さい女の子。
その子が突然大声で
「頑張れー!!カカサ
その言葉はカカサという男にしっかりと聞こえたようで………
「……だ・れ・が………」
「あぁ!?聞こえねぇ――――のわぁああああ!?」
瞬間、大柄な男が宙を舞い、地面に叩きつけられた。
周りで見ていた人々も呆気に取られている。無論、俺も。
「誰がおじさんじゃああああああああ!!!!俺は立派なお兄さんだ!!!」
小さい女の子を指さしながら叫ぶ。
すると少女は笑いながら
「でも、パパはカカサのこと、『
「クロノード君!?」
「気にするなよ。俺もお前もアラサーじゃないか」
「待て待て!!確かにアラサーかもしれんがだね、ボカァまだ肌もピチピチよ!!新鮮な魚くらいねっ!!!!」
なんなんだ。この人たちは。
助けてもらってなんだが、おかしな人たちだ。
「まったくクロノード君という奴は……」
そんな彼を無視しながら、大柄な男のほうへ向かう男性。
「……伸びてるな。……ったく。相変わらずだな」
「―――だから……。って、なんだって?」
「何でもないさ……。ルナを頼む」
「お、おう?」
すると、クロノードという男がこちらへ歩み寄ってきて手を差し出した。
「立てるか?」
「……あ、はい」
彼の手を握ると、一気に引っ張り起こしてくれる。
「……あ、ありがとうございます」
「……そっちの子も無事で何よりだ」
蒼花のほうを見ると、彼女は自分で立ち上がり、俺のほうへと走ってくる。
「零次!大丈夫!?」
「ああ……なんとかね…」
「ひどくやられたみたいだな。丁度いい。これから病院に行くんだ、一緒に来い」
「え、でも………」
「気にするな。怪我人を見捨てる事なんか出来ない性格でな。金もこっちが出すから、さあ、行くぞ」
「あ、いや……でも―――」
「君、この子を支えながらついてきてくれ」
「…はい」
蒼花は頷くと
「零次、行こ?」
俺は渋々ながらも頷く
それを見てから少し微笑み、続けて
「よし、おい!カカサ!!行くぞ!!」
そう言って彼はゆっくりと歩き始める。
俺と蒼花は遅れないように歩き出した。
歩いている間は、前を進む二人が楽しそうに会話しているだけで、俺たち二人は会話する気も起きなかった。
ふと何かを思ったのか、カカサというほうの人物は立ち止まり
「そういえば、後ろの二人に自己紹介し忘れてた。やぁ!俺はカカサ・キヤモイ!趣味は―――」
なんだかおもしろくなって、無視して進むと
「って無視かーい!!!」
案の定のツッコミで、思わず笑ってしまう。
「ははは!!!」
「な、なんだよ!?何かおかしいのか!?」
「ふふふ………」
それを見てなのか、蒼花も笑いだした。
「ったく。まあ、そうだな。俺はクロノード・グレイス。この子はルナだ。よろしく」
クロノードさんは振り返り、そう言って手を差し出した。
「朱雀零次です。彼女は蒼凛蒼花」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくなー!!!」
元気よく小さな手を上げて笑うルナちゃん。なんだか見ていて微笑ましかった。
自己紹介を終えると、気づけば俺も蒼花も彼らと共に会話に混ざっていた。
そして、話している間は、痛みなんか感じなくて、蒼花の支えなしでも歩くことが出来た。それだけ楽しかったのかもしれない。
不思議と、彼らとは何の違和感もなく話せる。
ただ、そこにいるだけでいい。そんな感じの友人みたいに思えた。
「……零次…だったか」
クロノードさんが口を開く。
「…は、はい」
「お前、連邦軍だろう?」
「えっ……!!」
「まあ、身構える必要はない。今は、連邦もジオンも関係ないからな」
「…………ということは、あなたは……」
すると、彼は少し躊躇いながら
「……ああ。ジオンの軍人だ」
「………」
「ジオンは嫌いか?」
唐突な質問で呆気にとられたが、少しだけ考えた後
「……分かりません」
そう答えた。
「分からない……か。不思議な奴だな」
「分からないんです。俺は親をジオンに殺されたわけじゃないですし」
「ま、そういうものか。では、どうして軍に?」
「…そうですね、彼女を………幸せにしてあげたいから……」
そう言って前を歩く彼女を少しだけ見る。
「なるほどな。……良い事だと思うぞ」
「え?」
「……戦うことも必要だ。だが、純粋なその気持ちは大切にしたほうがいい」
「………」
「そうして、いつか君たちに子供が出来たのなら、幸せにしてあげるんだ」
「
そう言う彼の瞳は、どこか哀しみを秘めていた。
「あの……」
「うん?」
少し躊躇ったが、俺は、彼に聞いてみる。
「どうして……優しくしてくれるんですか?」
すると彼は微笑みながら
「どうしてか……。そうだな、それだけ辛いことを体験してきたから……だろうな」
「え……?」
言葉の意味が理解できなかった。
「よく聞かないか?『傷ついた分だけ人は優しくなれる』って」
「あります」
「……そういうことだ。痛い思いも、辛い思いもしてきたからこそ、優しくできる」
「……」
「昔の俺では、きっと思いつきもしない事だよ」
「……そうなんですか」
「ああ。妻を持って、子供を持つことで知った。守らなければいけないという【意志】」
「友を持ち、人生を再び歩き出した。信じるということの【強さ】」
「………敵である者とでも、【
【分かり合う】。その言葉が、ムゲンの事を思い出させた。
彼も言っていた。AIとも人間は分かり合えると。
でも、実際は叶わなかった。
俺は……それでも信じてみたい。
「全て、【生きている証】だ」
彼は優しく微笑んでくれた。
「クロノードさん……」
病院に着くと、俺はさっそく診察を受け、軽い治療を受けた。
幸い重症というほどのモノではなく、擦り傷程度。
病室を後にすると、椅子に腰かけて待っていたカカサさんがいた。
俺が出てくるのを見ると立ち上がり
「よっ!どうだった?」
「…ええ。軽い擦り傷で済みました」
「そうかー。あ、クロノード君が言ってた通り、お金はこっちで払っておくから」
「いいんですか…?」
「いいっていいって!気にしないで!こういう時は大人を使えばいいのサ」
「さてと、じゃあ行こうか?」
「え、っと……どこへ?」
首をかしげると
「ま、ついてきて。丁度いいからさ」
困惑気味に彼についていくと、病室へと入っていく。
名札には【フィア・アッシュベリー】と書いてある。
「……」
俺は彼に誘われるがままに病室に入った。
すると、そこにはクロノードさん、カカサさん、蒼花がいた。
そうして、心配そうに誰かを見つめる彼女。
ベッドの近くまで行くと、その誰かを理解することが出来た。
「お、零次か」
「あ、はい」
クロノードさんは微笑んだ後、ベッドで眠る一人の女性の頬へ触れる。
「……ここで眠っているのは、俺の妻だ」
「え………」
「もうすぐ2年になるか。眠り続けて」
「そんなに……?」
蒼花は堪らず声を上げた。
「ああ。ある作戦で、彼女は俺を庇ってな……。死んではいないが、いつ目が覚めるかは分からないと言われた」
「………」
「俺は彼女に何もしてあげられなかった。だから、仕事がない日は、毎回ここに来るんだ」
「クロノード君、フィアちゃんにゾッコンだもんねー?」
「……ああ。否定なんか……出来ない……」
「あ、悪い……そういうつもりで言ったわけじゃないんだ」
「分かっているさ………」
「わり、俺、外出てるわ。ほら、ルナ、行こう」
「……うん」
カカサさんはルナちゃんの手を引いて病室を出て行った。
「わ、私、カカサさんたちの様子見てくるね」
耳元でそう言い残して、蒼花は彼らを追うように病室を後にした。
「………」
病室で眠る一人の女性は美しく、まるで、おとぎ話のヒロインのように静かに眠っている。
「……こうやって、彼女といる時間が、幸せと感じれる」
彼はそう呟いた。
「……だから……」
俺は理解した。彼は、だからさっき………。
「ああ。俺は、君に押し付けようとしたのかもしれない。……でも、分かってほしい」
「親は、簡単に離婚するなどと言うけれど、それで一番心を痛めるのは、子供だ」
「………」
「片親が辛いからとかじゃない。幼いころにこれを体験すれば、きっとトラウマのように残り続けてしまう」
「親は、父親と母親、揃って親であると…俺は信じたいんだ」
「……俺も…信じたい」
「零次…?」
クロノードさんは不思議そうに見つめている。
俺は、静かに言葉を続けた。
「俺には、姉ちゃん以外に家族はいなかった。両親の顔も覚えてないんです」
「…そ、それは……。悪かったな。お前の気持ちも知らずに…」
「いえ、いいんです。姉ちゃんは、俺を寂しくさせないために、毎日身を粉にして働いていました」
「でも……姉ちゃんは、仕事の時、テロに巻き込まれて亡くなったんです」
「………」
「それから、蒼花と一緒に暮らしていました…。寂しくないように二人で」
「お前も……苦労しているんだな」
「……だから、俺は……親は、父親と母親が揃って親であると信じたい」
「………」
クロノードさんは突然立ち上がり、俺の前まで来たと思うと、俺を抱きしめ、優しく頭を撫でた。
「ちょ、ちょっと!?く、クロノードさん!?」
「………俺は、お前の父親にはなってやれない。だが、少しでもお前の気持ちが軽くなるのなら」
「俺は、お前の気が済むまでこうしてあげたい」
母親に抱かれた時とは違う感覚を覚えた。
そう、父親に抱きしめられたら、きっとこんな感じなんだろう。
……父さんは……ひどい人と近所から言われたりもしたし、母さんもそう言っていた。
けれど、それでも、俺の唯一の父親であることに変わりはないんだ。
「………少しだけ……このままでいいですか?父さん…」
気持ちが溢れて、堪えられなかった言葉を口にする。
すると
「ああ。気にするな。………お前は強い子だ」
暖かさが伝わって、涙が出そうになる。
けれど、泣くわけにはいかない。
俺は、前に進まなきゃいけないんだ。
少しだけ父親に抱かれた気分を満喫した後、俺はゆっくりとクロノードさんから離れた。
「もういいか?」
「はい」
「よし、お前は強い子だ。前を向いて進めよ?彼女と一緒に、な?」
その微笑みは、父親の顔ともいうべき表情だった。
大きく頷いて見せると、彼はにっこり微笑み、未だ眠り続ける女性へ
「……また来るよ、フィア」
そう言って先に歩き出した。
彼に続こうと思った時、ふと彼女の口元が少しだけ動いているように見えた。
が…………ん…………ば…………れ
全てが聞こえていたかのような、『頑張れ』という言葉を、俺に向けて言ってくれた。
俺は
「はい。頑張ります」
そう言った後お辞儀をし、病室を出る。
病院を出ると、既に夕暮れ。
もうすぐ夜が来て、次の日にはこの街を出なければならない。
その寂しさが、俺を悲しくさせる。
「さて、俺たちもそろそろ帰る。二人とも、元気でな」
「元気でなー!!」
クロノードさんに続いて、ルナちゃんが手を上げながら言った。
「んじゃあ、まったねー!って、忘れてた。零次君」
カカサさんが何かを思ったのか近づいてきて
「……信じ続ける事って、大切だよ」
「え?」
「会えるとか、会えないとかに限らず、信じてみるのって大切だよ。そんじゃーね!」
俺の心を読んだかのようなアドバイス。少し怖かったが、嬉しかった。
遠くへと消えていく3人の影。それを見送って
「俺たちも帰ろうか」
「……うん」
帰りの道で、俺は彼女とゆっくりと話をした。
「ねぇ、零次」
「うん?」
「……また、帰ってくるよね」
「もちろんだよ。帰ってくるさ」
帰ってこれるのなら、帰ってきたい。
この街には、懐かしい思い出や、愛する人が居て
ちょっと不思議な家族がいるのだから。
「……信じてみるよ。クロノードさん」
俺は小さく呟き、空を見上げた。
守るという【意志】も、仲間のために戦うという【強さ】も、誰かと【分かり合う】ということも
全ては信じなければできない事だ
あの人は、どこかムゲンに似ている
だからかもしれない、不思議と敵と思えなかったのは
俺も………彼らから何かを【受け継いだ】のかもしれない
Episode of Reiji 完