機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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52:血濡れ ―救い―

 宇宙世紀0089.8.5 第00特務試験MS隊旗艦グロリアス、トリントン基地に着艦。

 

 ムゲン率いるトリントン全部隊は、大規模な作戦に打って出る。

 

 

 遡ること1時間前。

 

 食堂に集まる兵士たちへ叫ぶ。

 

「皆。もうすぐグロリアスがこの基地に来る。その前に作戦をおさらいしておこうと思う」

 

 全員の視線が集まる。小さく深呼吸した後

 

「今回の作戦はこうだ。MS部隊と、グロリアスに突入する部隊に別れて行動する。今、トリントンの部隊は少数の人しかいないけど、この作戦で行こうと思う」

 

「まず、MSが前線で敵部隊と交戦する。その隙を狙って突入部隊はグロリアスに侵入。そのまま一気に戦艦を制圧。内部から敵を潰す」

 

「敵の情報が少ない中でこの作戦は無謀かもしれない。それでも、この基地を守るためにも、やるしかないんだ。…皆、力を貸してくれ!」

 

 全員に思うところはあるかもしれない。それでも、その場にいた誰もが何も言わずとも従ってくれた。

 

 ……それが逆に少し怪しいとも感じる。

 

 だが、今は疑っている時間さえない。

 

 この先、何があってもその場その場で対応していかなければ。

 

『大丈夫。何があってもあなたは守るから。』

 

 そんな紙を渡して微笑むマヤ。

 

「……できれば、そういうことにならなければいいんだけれどね」

 

『未来は誰にも分からない。でも、ムゲンは一人じゃないから。』

 

「…そうだね。さて、行こうか。マヤは俺と前線での攻撃を頼むよ」

 

『任せて。MSの操縦には自信がある。』

 

「……生きよう。勝つために戦うのではなく、負けないために戦おう」

 

 彼女は小さく頷く。

 

 

 

[前方、180m先に第00特務試験MS隊旗艦、グロリアスを確認!!]

 

 司令塔からの伝達を聞いた俺は

 

「全機、行動を開始する!まずは前線で敵MS部隊と交戦。切り込みは俺とマヤで行く!!」

 

「ほかの者は基地の防衛を少数と後続の部隊で分ける!……生きよう。この戦い」

 

 決着は……この手で―――

 

「………っと…」

 

 ポケットから赤いリボンを取り出し握りしめる。

 

 目を瞑り、大きく深呼吸。

 

 一息ついた後

 

「…行くぞ!!!」

 

 

 スラスターを起動。グロリアス目掛け突き進む。

 

[グロリアス、ハッチオープン!敵MS確認!数は3!!]

 

「了解した。一気に駆け抜ける!」

 

 ビームライフルを構え狙いもつけずに発射。牽制でいい、相手がこれで動くなら。

 

 ビームライフルを左手に持ち替え、サーベルを引き抜く。

 

 戦艦から飛び降りこちらへと迫る3機。

 

 そのうちの1機は紫のMS。ユーリが駆っていたλガンダム。

 

 狙撃型のλと、近接型のジムが2機。

 

 確かに距離のバランスは良い組み合わせだ。

 

 だが―――

 

 1機のジムとすれ違う瞬間、サーベルで切り払う。

 

 背後に抜けたジムの両足が切断され、地面へと転がった。

 

「……」

 

 ビームライフルを転がるジムへ向け、トリガーを引く。

 

 背後からの爆発。恐らくパイロットは死んだだろう。

 

 その光景を見て怖気づいたのか、ジムが後ずさりし始める。

 

「逃がすか……!」

 

 シールドミサイルを放ちながら、相手の死角へ。

 

 素早くサーベルでコックピットを貫く。

 

 サーベルを引き抜くと、ジムは力なく地面へ伏した。

 

「残りはお前だけだ」

 

 サーベルをλガンダムへと向け睨みつける。

 

[……だから、何だ?]

 

「…何……」

 

[兵士など【()】だ。使い捨てなんだよ。分かるか?]

 

「……その駒は、お前の目の前に転がっているだろう」

 

 するとλガンダムに乗る男は大きく笑った後

 

[ほう…。面白い。なら君に問う。君はいつから―――]

 

 瞬間、機体内にアラート音が響き渡る。

 

 背後からの攻撃―――!?

 

 素早く振り向きシールドを構えた。間一髪で射撃をガードすることが出来たが………

 

 見ると、トリントン基地から煙が上がり、さらに後続の部隊がこちらへと迫りながら俺を狙ってきている。

 

 そうか……裏切られたのか。

 

[そちらが有利だと思っていた?甘いんだよ。こちらがノコノコ騙されに来ると思うなよ]

 

「何故そうまでして……人の名を騙ってまで……!」

 

[金だよ。世界を作るのも、動かすのも。決まって必要なのは金なんだよ]

 

[彼らもそうだ。金をポンと出せばすぐに手の平を返す。分かるだろう?世界ってのは単純なんだよ]

 

「……くっ……!」

 

[さて、この状況でも戦おうと思うか?素直に抵抗しなければ―――]

 

 俺は迷うことなく背後から迫る敵に引き金を引いた。

 

 放たれたビームは、1機のジムを貫き、虚空へと消えた。

 

[……この白いMSを潰せ!!!徹底的にな!!!]

 

 俺の行動に腹を立てたのか、λガンダムのパイロットは叫ぶ。

 

 それに呼応するように射撃がこちらへと降り注ぐ。

 

 銃弾の雨をガード。収まったと同時にスラスターを起動。

 

「…まずはお前たちからだ」

 

 ビームライフルを乱射しながら1機のジムへと間合いを詰め、切り抜ける。

 

 続けざまにもう1機のジムを足払い。転んだジムへサーベルを突き立てる。

 

 背後からの殺気。素早く振り向き左手で受け止めた。

 

 ビームライフルが両断され、手元で爆発。

 

 間合いを取り、もう一本のサーベルを引き抜き、斬りかかる。

 

 相手も負けじとサーベルで応戦。

 

 互いの得物がぶつかり合いを繰り返す。

 

 俺は相手の隙を作るために左手で持っていたサーベルを空高く投げる。

 

 気を取られたジムが空を見た。……今がチャンス!

 

「今だ……!」

 

 サーベルを両手で構え、一気に振りぬいた。

 

 ジムは両断され、その場で爆発。

 

 

「……はぁ……はぁ……これで―――ぐぁっ!?」

 

 背後からの射撃が、ジェガンの右腕を貫いた。

 

[……これで終わりだ]

 

 背後から突き立てられる狙撃銃。

 

「……俺は……諦めない……。アルマやジャックのためにも………!!」

 

 諦められない。

 

 死んでいった仲間のため―――

 

 俺は―――

 

 俺は!!!!

 

 

[……が………]

 

 唐突に響く女性の声。

 

[私がムゲンを………守る…!!!]

 

 その声と共に背後から爆音。

 

[ぐあっ!貴様……!!!ふざけるなぁあああ!!!]

 

 振り返ると、そこにはボロボロのジムが、λガンダムへとマシンガンを放っている光景。

 

 あのジムに乗っているのは間違いない……マヤだ。

 

「マヤ!」

 

[……やらせないから…!あなたは死なせないから!]

 

 彼女はそう言いながら射撃を続ける。

 

[この雑魚がぁ!!黙っていろ!!!]

 

 λガンダムがマヤの乗るジムへと狙撃銃を構える。

 

 隙が出来た…!!

 

「うおぉおおおお!!!」

 

 左腕でサーベルを握りしめ、振り上げた。

 

[しまっ―――]

 

 振り上げたサーベルが、綺麗にλガンダムのコックピットだけを切り裂いた。

 

 それっきり反応のなくなるλガンダムの横で、ボロボロのジムが膝をつく。

 

「……マヤ!!」

 

 返事は無かった。

 

 コックピットを貫かれていたのだ。生きているはずがなかった。

 

「……そ…んな……なんで……どうして俺の周りの人ばかり……!!」

 

[……お笑いだな。ムゲン・クロスフォード]

 

 機体内に響く、【嫌な声】。この声には聞き覚えがある。いいや、何度も聞いた憎たらしい声。

 

「……ベルベット・バーネット」

 

[どうだい?楽しんでいただけたかな?この【()()】を]

 

「舞台………?」

 

[そうさ。私の道に、君たち第00特務試験MS隊は邪魔なのでな。いいや、むしろ必要ないのだからな]

 

[君があの時取引を仕掛けてきたときから、既にその舞台は始まっていたのさ。君たちの最後の舞踏…素晴らしいじゃないか]

 

 絶望というのを感じることは何度もあった。しかし、今回ばかりは―――

 

 騙されたことへの絶望ではない。これは―――

 

 大切な仲間を傷つけられ、そして救えなかった。己の非力さ。

 

 ジャックは……罰と言い、アルマは役割と言った。

 

 でもマヤは……何も…何も言えなかった。

 

 俺がもっと早く行動できていれば……!!

 

 もう……死なせない。

 

 誰一人。たとえ【()()()()()()()()()()()()()】仲間を……救う。

 

[……さあ。君のために用意した舞台だ。せいぜい楽しむがいいさ。フフフ……ハハハハハハ!!!]

 

 高らかな笑い声から伝わる悪魔のような感覚。

 

[それでは、ムゲン・クロスフォード。君とはもう二度と話す機会が訪れない事を願うよ]

 

 その言葉を最後に、通信は途切れた。

 

 

 グロリアスから4機のMSがこちらへと迫る。

 

「………お前たちに……救いなんか必要ない」

 

 4機のMSの射撃。怯えているのか、射撃は当たることなく通り過ぎていく。

 

 一歩ずつ歩み寄る。

 

 1機がサーベルを握り、振り上げた。

 

 素早くサーベルを握る腕を掴み、握りつぶす。

 

 ギギギと、機械音が聞こえ、相手の腕が破砕。

 

 応戦しようとライフルを構える相手に、潰した左腕で頭部を殴る。

 

 射撃はあらぬ方向へ飛んでいく。左腕だった物を投げ捨て頭部を掴み、力を籠める。

 

 相手の頭部からバチバチと電流が飛び、ジムのカメラアイが割れた。

 

 そこから頭部を引き抜き、投げ捨てる。

 

 そして、抵抗できぬジムのコックピットを強引に機体から隔離させ、手のひらに収まるコックピットを睨みつけ

 

「……どんな気持ちだ。抵抗できずに死ぬっていうのは。…お前たちがやっていたことは、そういうことだ」

 

 その言葉と共にコックピットを握りつぶした。

 

 白く塗装されたジェガンに、コックピットから溢れた血が返り血のようにこびり付く。

 

 コックピットを投げ捨て、次の敵へ。

 

 相手にはもう既に戦意は無いように見える。当然だ。

 

 目の前であんな死に方をしたやつがいれば。

 

「……」

 

 もう1機のジムを殴る。殴られたジムは、その反動で地面へと伏した。

 

 コックピットを引き抜き

 

「……なあ、人ってのは、簡単に死んじまうんだよ。人の命をもてあそんだお前にも、同じ事を教えてやる」

 

 そう言って、コックピットを地面へと思いきり叩きつけ、踏みつぶした。

 

「……痛いだろうな。でも、マヤはそんな痛みさえ言葉にできずに死んだ」

 

 続いてもう1機のジムを睨みながら

 

「おい。コックピットを開け」

 

 すると、素直にコックピットを開きそこからパイロットが

 

[た、頼む……殺さないでくれ……!!]

 

 聞いていて虫唾が走った。

 

 今まで嫌というほど人を騙し、金を略奪してきたヤツが、今度は命乞いなんて。

 

「……」

 

[か、金ならいくらだってやる!!頼む……!俺には妻と子供が―――]

 

「だから、なんだ?」

 

 言葉を遮り冷たく言い放つ。

 

[え……]

 

「妻と子供がいる。それは良い事だな。で、それがなんだ」

 

「俺にも妻と子供がいる。その戦艦の中に、俺の娘がいる」

 

[わ、わかった!娘は返す!だから―――]

 

 もうこの男の言葉を聞く気が起きない。

 

「……黙れ。今更そんな事言っても無駄だ」

 

[ひっ……!!]

 

「なあ、ジャックは何で死んだと思う?」

 

[え………?]

 

「彼は、俺を庇って死んだ。しかも、それを俺を庇った罰と言った。彼の罪とはなんだ?……そして、お前の罪って、何だろうな」

 

[お、俺は…………]

 

 それっきり言葉が返ってこなくなる。……そうか

 

「罪の意識を感じないヤツを生かす意味もないな。……でも、罪の意識を感じるのなら――」

 

 左腕に装着しているシールドを構える。

 

[ああ……や、やめっ―――]

 

 シールドからミサイルが放たれ、コックピットの中へ直撃し、爆発。

 

「元から、民間人から金を奪ったりしないか」

 

 最後の1機。それは、ファングが駆るガンダムだった。

 

 この機体を傷つけるわけにはいかないな。

 

 俺の中に眠る悪魔が微笑み、口を動かす。

 

「なあ、コックピットを開けてくれ。アンタだけは助けてあげるから」

 

 その言葉に反応したのか、ガンダムのコックピットが開く。

 

 コックピット前へ手を差し出す。

 

 彼は左腕に飛び乗り

 

[ありがとう。……でも、どうして俺を……]

 

「理由?それは―――」

 

 ゆっくりと左手を動かす。

 

[な、何を……!や、やめてくれ!!]

 

「……なあ、アルマは建物の下敷きになって死んだんだ。きっと、人生で初めて人を好きになった矢先の事だ」

 

「攻撃したのはアンタじゃないことは知ってるし、たまたまそうなったというのも理解できる。けどさ―――」

 

「アルマが死んで、お前が生きていて良いわけないだろ」

 

 じわじわと握る力を強めていく。

 

[ア……ぐぁ……]

 

「………そういえば、理由だったか。何故助けたか。それは―――」

 

「アルマなんかよりももっと地獄を味わいながら死んでほしいからさ」

 

 そして、左手を完全に握り、カメラアイが血に染まる。

 

 血によって左手を見ることが出来ないが、間違いなく死んだだろう。

 

 俺は左手から人であったものを投げ捨て、グロリアスへと足を向けた。

 

 最低というなら言えばいい。

 

 軍法会議にかけられようが知ったことではない。

 

 俺はこの手で仲間を守るために、今回だけは鬼になる。

 

 今だけは【()()()()()()()()()】で構わない。

 

 

 格納庫内に入り、コックピットを開く。

 

 胸のポケットから拳銃を取り出し、外へと飛び出す。

 

「お、おい!なんだお前は―――」

 

「邪魔だ」

 

 ジェガンに気づいてこちらへとやって来た兵士の頭を撃ち抜く。

 

「………」

 

 一人の兵士と目が合った。怯えている。

 

 そんなこと構わず俺は口を開いた。

 

「……俺の仲間はどこにいる」

 

 声をかけられたことへの恐怖によって、兵士は声が出せないようだった。

 

「そうか。ありがとう」

 

 軽く礼をのべた後、怯える兵士に引き金を引いた。

 

 銃声と共に目の前で広がる血飛沫。力なく地面へと倒れる兵士。

 

 今、俺の感情に優しさというものは必要ない。

 

 俺のこの手が血に染まろうとも、仲間を救ってみせる。

 

 廊下を歩き、仲間がいる場所を探していく。

 

 途中出てきた兵士を何人殺しただろうか。

 

 気づけば俺の制服は多くの返り血を浴びて、赤黒くシミとなって残っている。

 

 頬に付いた血を拭い、独房のある部屋の前へ視線を向ける。

 

 兵士は二人。……全員殺せばいい。

 

 俺から奪っていったヤツを、生かす理由などない。

 

 ゆらりと兵士の前へと姿を晒す。

 

「き、貴様…!いつの間に…!他の兵士は―――」

 

「殺したよ。全員な」

 

 言葉を遮り怪しく笑って見せる。

 

「ぜ、全員……!?」

 

「…そうだ。この服を見ればわかるだろう?随分と赤く染まってしまったよ」

 

 銃を構え、一人の兵士の足を撃ち抜く。

 

「あがっ!!あ、足が……!!!いてぇ……いてぇよぉ……!」

 

「痛い?……今まで散々弱者を傷つけてきたんだ。これくらいなんともないだろ」

 

「てめぇ!!」

 

 もう一人の兵士が足を撃たれた兵士の前へ出て銃を構える。

 

 しかし、手が震えていて一向に引き金を引こうとしない。

 

「……邪魔」

 

 容赦なんて必要ない。ただ前にいて邪魔だから殺す。障害だから殺す。それだけのこと。

 

 引き金を引く。弾丸は庇って銃を構える兵士の右腕を撃ち抜いた。

 

「うがぁああ!!う、腕がぁああ!!!」

 

「どうした。さっきまでの威勢は。お前たちがしてきたことに比べればなんてことないはずだが」

 

「わ、悪かった……。独房は開けるから…だか―――」

 

 言葉を遮ったのは俺が放った弾丸。

 

 前に立つ兵士が膝をつき地面へと伏した。

 

「ひっ……!!ま、まて…!!―――あがっ!」

 

 怯えている兵士の口へ銃を突き付ける。

 

「さっきからうるさい。少し黙れよ」

 

「あ……た、たすけ……」

 

 今更命乞いをするこの兵士を見て腹が立った。その苛立ちから俺は

 

「いい加減お前、死んでいいよ。もう鬱陶しいから」

 

「あ………あ……くま…め―――」

 

 言葉を言わせる気も起きず引き金を引いた。

 

【悪魔】と呼ばれても構わない。俺は罪を背負うと決めたのだから。

 

 

 独房への扉を開くと、少女のすすり泣く声が聞こえてきた。

 

「………リリー……。今……行くから」

 

 先生として、助けてあげなければ。

 

 

「うぅ……えぐっ……!」

 

「まったく。2ヶ月前から泣き虫なのは全く変わってないね」

 

 俺の声を聞いて、彼女ははっと立ち上がり俺を見つめ

 

「せん……せい………!!!」

 

 俺は優しく微笑みながら

 

「……お待たせ。やっと、帰ってこれたよ」

 

 独房の扉を開き、彼女を解放する。

 

 彼女は泣きながら俺へと飛びつき

 

「せんせぇ……!ごめんなさい!!私……わたし……。約束守れなかった……。皆を……」

 

 俺は首を静かに横に振り

 

「良い。君は良くやった。【()()()()()()()()()()()()()】」

 

「せん……せい……?」

 

「さあ、先にグロリアスのブリッジに向かって。そこで、待っていてくれ」

 

「…で、でも……」

 

 俺は静かに目を伏せる。彼女は何かを察したのか

 

「……うん。でも、ちゃんと戻ってきてね」

 

「…もちろんだよ」

 

 彼女を出口へと促し、俺は独房の奥へと進む。

 

 

 次の独房には、静かに横になっているフユミネがいた。

 

「…フユミネ。すまない、時間をかけた」

 

「……遅かったな。……」

 

 彼は俺の姿を見ても何も言わず、小さく微笑んだ後

 

「ありがとう。先にブリッジに行ってるぞ」

 

 扉を開き、自分からブリッジへと向かっていった。

 

 

 自然に俺の足が速くなる。アウロラが見当たらない。

 

「……その足音……ムゲンか!?」

 

 この声には聞き覚えがあった。彼の前へ姿を見せ

 

「すまない。遅れたね、ファング」

 

 そう言いながら扉を開く。

 

「…そんなことない。……それより、お前……これは……」

 

 血だらけの俺の姿を心配そうに見つめるファング。

 

 俺は軽く苦笑しながら

 

「…まあ、気にしないでくれ。【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】」

 

 ファングは少しだけ怪訝そうな顔をしたが、小さく頷いて

 

「………分かった。じゃあ―――」

 

「皆、ブリッジに向かった。先に行って待っていてくれ」

 

「ああ。………そうだ、ムゲン」

 

 歩き出そうとした俺の背にファングは

 

「忘れているぞ、お前の大事な子を」

 

 振り向くと、ファングの腕には愛する我が子、アウロラの姿があった。

 

 俺はアウロラに触れようと思った。しかし、俺の理性がそれを拒否した。

 

「……今は、ほかの皆を助けることが先だよ。……アウロラを頼む」

 

 彼の返事を待たぬまま、俺は独房の奥へと進む。

 

 

「ユーリ」

 

 彼女は独房で捕まっているのにも関わらず、ヘッドフォンで音楽を聴いている。

 

 そんな光景を見れたことが、幸せと思えた。

 

 一瞬彼女と目が合った。

 

「……やあ、ユーリ」

 

「おやおや、ムゲンさんじゃないですか。お久しぶりですねー。アジアはどうでした?美味しいお菓子はありました?」

 

「……ユーリは相変わらずだね」

 

「当然じゃないですか。私が変わってしまったら、私じゃなくなりますし?それに―――」

 

 彼女は目を細め微笑みながら

 

「私くらい、明るく勤めようかと思いましてね。…でも、もうその必要も無いみたいですね?」

 

 俺の制服を指さしながらニヤリと微笑んだ。

 

「……ああ。もう心配いらない。………【()()】」

 

「…そうですか。では、私も先に出ますよ。ムゲンさん、また後で」

 

「ああ。また後で」

 

 彼女と軽くハイタッチをした後さらに奥へと進んだ。

 

 

 次の独房には、オペレーター達が全員入れられていた。

 

「……皆…お待たせ」

 

 扉を開くと、全員が喜びの声を上げている。マーフィーは俺の様子をみて大層驚いたようで

 

「ム、ムゲン隊長……その姿は一体……」

 

 俺は小さく鼻で笑った後に

 

「何でもないよ。何も心配はいらない。【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】」

 

 彼らにもブリッジに向かうよう伝え、先へと進む。

 

 

 最後の一部屋。ここにいるのは―――

 

「……トクナガさん」

 

 扉を開き部屋へと入る。

 

「う……く……ムゲン……か?」

 

「ええ。さあ、手を」

 

 彼の手を引き、体を起き上がらせ、彼を支えながら独房から脱出する。

 

「……お前……その姿は……」

 

「トクナガさん。何も心配いらないですよ。【()()()()()()()()()()()()()】」

 

 

 こうして、全員を助け出し、ブリッジへと集まった。

 

 後から来た道夜、エトワール、カカサ、俊太郎は俺の姿を見てひどく驚いていた。当然だろう。

 

 

「良かった。皆……無事で」

 

 全員を見渡すと、やっと【ここへ帰ってこれた】と思えた。

 

「皆……ただい―――」

 

 背後からの物音。振り向くと、グロリアスを占領した兵士の残党が逃げようとしていたところだった。

 

 兵士と目が合う。兵士は怯えた表情で

 

「ひっ……。こ、殺さないで……!」

 

「……」

 

 俺は銃を構える。そして冷酷に言い放つ。

 

「お前たちも、そういうことをしてきただろうに。今更なんだ。……もう消えろよ」

 

「し、死にたくない……!!」

 

「………」

 

 引き金を引こうとした瞬間、銃を握るその手を優しい手が包み込む。

 

「……!」

 

 その手は、リナの手、そして、アウロラの小さな手であった。

 

「もう、いいんだよ。殺さなくていいんだよ。家族のために、全てを背負う必要も」

 

「……リ……ナ……」

 

「目の前で死んでいった仲間のために、泣いていいんだよ。もう……いいんだよ。ムゲン」

 

 気持ちが溢れ、その場で崩れ落ちる。

 

 今まで堪えて、耐え続けた気持ちが一気に崩壊していく。

 

「あ……ああ……!!俺は……!俺はぁ……!!」

 

 勝手に涙が零れ、止まらない。

 

 

 アルマ、ジャック、マヤ……俺は……俺は……これでいいのか?

 

 

 役割を引き継ぐことも……罪と罰を背負わなくても……。

 

 

 もう一度仲間と前へ進んでいいのか?

 

 

「いいんだ」

 

 ファングが笑う。

 

「一緒に、進もう。俺もお前と一緒に背負うから」

 

「ファ……ン…グ…」

 

 

 また……笑っていいのか?

 

 

「いいんですよ」

 

 ユーリは静かに

 

「笑っているムゲンさんのほうが似合っていますよ」

 

「ユーリ………」

 

 

 誰かを……愛していいのか?こんなにも血に染まってしまった俺は

 

 

「いいんだ」

 

 道夜は微笑み

 

「人を愛すること……それは、生きている証だ。生きている以上お前は人を愛していいんだ」

 

「道夜……」

 

 

 また、皆の元へ帰っていいのか……?

 

 

「いいんだよ、ムゲン」

 

 リナは大粒の涙を流しながら満面の笑みで

 

 

 

「私たちはあなたの帰りを待っていたんだから」

 

 

 

 

 この日、トリントン基地での内乱騒動は終結し、ムゲン・クロスフォードおよび、八雲道夜、エトワール・ブランシャールが第00特務試験MS隊に再入隊することとなった。

 

 

52 完

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