機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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宇宙世紀0093年3月 第二次ネオ・ジオン抗争。

それは、アムロ・レイとシャア・アズナブルの決着をつける戦いであり、

地球へと落下するアクシズを押し返すという奇跡が起きた戦いでもある。

その裏で、ファング・クラウド率いる第00特務試験MS隊も、第二次ネオ・ジオン抗争へと参加する。

4年の年月を経て、ムゲンは地球を、家族を守るために再び剣を取る。

そして彼との決着をつける男もまた戦いへと身を投じていく。

長きにわたって戦い続けた男との決着が今―


第二次ネオ・ジオン抗争編
56:戦いへの躊躇


 0090.03

 

 連邦軍、外郭新興部隊ロンド・ベル隊設立。第00特務試験MS隊、一時的にロンド・ベルの傘下へ。

 

 0093.02.27

 

 ネオ・ジオン総帥、シャア・アズナブル、インタビュー番組内で連邦政府に対し事実上の宣戦布告。「第二次ネオ・ジオン抗争」勃発

 

 0093.03.01

 

 ムゲン・クロスフォード少尉、4年の謹慎処分から解放。第00特務試験MS隊に復帰。

 

「順調か」

 

 格納庫に佇む機体を眺め、青年は呟く。

 

「そうね。全員の機体の武装も完成したし、これでジオンとも戦えるよ。あ、今はネオ・ジオンだっけ?」

 

 緊張をほぐすような口調で、銀色の髪をした女性が笑って見せる。

 

「……そうだな、俺の中でやるべきことは決まっている。俺は俺の役目を果たす」

 

 一方の青年の表情は硬く、どことなく暗い。

 

「無茶だけはしないでね」

 

 女性は彼の身を案じるように手を合わせる。それに対して青年は女性の頭に手を置いた後

 

「……もちろんさ。……そろそろ時間だ」

 

 青年は機体に乗り込む。青年が乗り込んだ機体が動き出し、他の機体もそれを見て動き出す。

 

[ムゲン・クロスフォード、ジェガン、出るぞ]

 

 発進する機体たちを見送りながら、彼女は願う。

 

「どうか……皆無事に…。ムゲン……生きて帰ってきて……」

 

 MSが噴射する青いスラスターが宇宙(そら)へ軌道を描きながら消えていった。

 

 

 

 0093.03.02 第00特務試験MS隊、新型MSの戦闘テスト完了。帰還中にネオ・ジオンと交戦。ムゲン・クロスフォード少尉は復帰後初の戦闘となった。

 

 レーダーに映る敵影は6機。おおよそ小隊規模の敵であるということが分かる。

 

 こちらの戦力は、俺を含めて4機。数ではこちらが不利だが、ここで戦力を叩いておきたいという気持ちもある。

 

[先生…!]

 

 リリーの声で現実に引き戻される。こうしている間にも敵はこちらへとまっすぐ迫ってきているのだ。

 

「す、すまない。……よし、小隊員に告ぐ。これより敵のMSを叩くぞ。少しでも数を減らす!」

 

[いいのか?俺たちの任務は偵察だろう?]

 

 道夜が若干呆れ気味に言葉を返してくる。彼が軽く肩を竦めながら言っているのが見なくても理解できる。

 

「そうだが、こちらに被害が無ければ、ファングだって許してくれるさ」

 

[そういうもんか]

 

「そういうものさ」

 

[先生の命令なら……やるよ]

 

[えー、面倒です]

 

 実に面倒くさそうな声でユーリがぽつりとつぶやいてくる。するとリリーが

 

[先生の命令聞かないの……?]

 

 リリーはどことなく声が低い気がする。ユーリは軽く笑いながら

 

[まー、どうせ嫌でもやれって言われるだろうし、後でお菓子をおごってもらうということで、今は戦いますか]

 

[……ずるい]

 

[リリーさんもおごってもらったらいいんですよ。ほら、ムゲンさんに]

 

「……お前なあ……。どちらにせよ、今は敵に集中するんだ。お菓子も生き残ってからだ」

 

[おごってくれるの……?]

 

 リリーが目をキラキラさせながら聞いてくるのが容易に想像できた。

 

「まあ、考えておくよ」

 

[……やった!]

 

「さっさと終わらせる。全機、散開して各個で撃破を、状況次第で後退する。行くぞ!」

 

[了解]

 

 俺を含めた全員が散開すると、それに反応するように相手も散開し始めて追撃を開始する。

 

 ここまでは予想通りというか、案の定というべきか。

 

 俺が数年前に乗っていたジェガンとは違い、今ではレーダーに敵の型式番号なんかも書かれていて分かりやすくなっている。

 

 さらにシートも、MSの視界以上の範囲を見ることが出来るようになっているため、宇宙での戦闘の対応も容易だ。

 

 レーダーに表示されるMSのデータは、連邦の上層部が収集したものを全MSに送っているらしい。詳しい事は分からないが、なんにせよ、戦いやすくなったのは変わりない。

 

 正面からの敵が2機。レーダーに表示された型式番号はMSX-011とMSX-011[02]であった。そして、遠目からでも分かる白い機体。

 

 俺はその機体を知っている。そして、その機体がいるのなら、当然―

 

 瞬間、アラート音と共に、背後からの殺気を感じ取る。

 

 振り向きざまにシールドを構え、刀を受け止めた。黒にコーティングされたザクのモノアイが赤く光る。

 

「やはりか……!カカサ!!」

 

[おや、その声は……いやぁ、久しいね、ムゲン君!]

 

 シールドで強引に押しのけ、間合いを取る。シールドを構えつつ、ビームライフルで牽制。

 

 続けて誘導した位置へと素早くグレネードランチャーでの攻撃。

 

 ザクは直撃を受けると感知してか、素早く手で受け止めた。

 

 サーベルを引き抜き、一気に黒いザクと間合いを詰める。

 

「今更ジオンで何を!」

 

 ザクも負けじと刀で応戦し、鍔迫り合う。

 

[俺っちもやりたくてやってるわけじゃあないんだけどネ]

 

「ならば何故!?」

 

[それは……まあ、色々とね]

 

 強引に力で押し切られる。素早く宙返り、間合いを取りながらシールドミサイルとバルカンを放つ。

 

 カカサはショットガンを取り出し、数発。互いの正面にミサイルの爆発の光が広がった。

 

 再び切りかかり、互いに得物がぶつかり合う。

 

[やるねえ、射撃の腕も上がったんじゃない?]

 

「良く言う……。腕を上げているのはそちらも同じ事だろう!」

 

[あ、気づいちゃった?いやぁ、こう見えても沢山練習したんだよ?焼き鳥食べたりしながらさぁ]

 

「ふっ……そんな冗談が―っ!?」

 

 背後からの一射。対応に遅れ、シールドに搭載したミサイルが爆発。

 

 咄嗟にシールドをパージし、腕で機体を庇う。

 

 その爆発に、カカサも少しだけ怯んだのか、隙が出来る。

 

「見えた……!そこだ!!」

 

 サーベルで刀を強引に焼き切り、そのまま右腕を切り落とした。

 

[くっ……!やっちまった…!?]

 

「これで……」

 

 サーベルを構えようとした瞬間、背後から、射撃される予感を感じ取る。

 

 振り向き、左腕で防御。しかし、それによって左腕が撃ち抜かれ、使い物にならなくなった。

 

「くそ……!」

 

 白いザクは一直線にこちらへと迫り、サーベルを勢いに乗せて振りかぶる。

 

 応戦し、サーベルで受け止めるが、相手は左腕でライフルを構えて

 

[この程度か?ムゲン]

 

「言ってくれるな……クロノード!」

 

[今回は、加減容赦無くお前を殺しに来たぞ!]

 

「何……!」

 

[俺は……お前を…!!]

 

『先生、下がって!!』

 

 頭の中でリリーの声が響く。

 

 サーベルを吹き飛ばし、宙返り。

 

[ちっ……!ファンネルってやつか…!!]

 

 クロノードの機体をリリーが操るファンネルが射撃するが、それを見切るように回避していくクロノード。

 

[クロノード、さすがに限界だ。損害が大きすぎる]

 

[くっ……。ムゲン、次こそ…!!]

 

 カカサとクロノードは機体を反転させ、戦線から離脱していった。

 

 彼らが撤退するのを見送ってから、俺は大きく息を吐いた。

 

 久々の戦闘でカカサやクロノードと戦うことになるとは思ってもみなかった。彼らはどの時代でも変わらない強さを持っている。

 

 それを再びこの身で感じることになろうとは。

 

 彼らが乗っている機体はグリプス戦役時代に作られた機体だ。当然ジェガンと比べれば天と地ほどの差があると言っても言い過ぎではないと思う。

 

 それなのにあそこまで戦えるなんて……、敵ながら見事としか言えない。

 

 俺が弱いだけなのかもしれないが。

 

「……よし、帰還するぞ。損害は――」

 

 何にせよ、これはリナに叱られるな。

 

 

 

 クラップ級巡洋艦―サラミス級に代わる地球連邦軍の主力艦艇。

 

 宇宙へ上がる際に俺たちの部隊へ配備された新型艦だ。

 

 グロリアスでは主力艦のラー・カイラム級の速力に追いつけず足枷となる可能性があったため、上層部が用意してくれたのだとか。

 

 当然と言えば当然なのだが、グロリアスは一年戦争に建造された戦艦だ。さすがに性能で負けてしまうだろう。

 

 クラップ級に搭乗して最初に驚いたのは通常用と戦闘用の2つのブリッジがあるという事。

 

 時代は少しずつでも進化しているというのを実感できた気がする。

 

 MSから降りると、格納庫全体に響き渡るような声が―

 

「ちょっとムゲン!!!」

 

 案の定だ。普段は優しい雰囲気を思わせる目も、今は釣りあがっていて、両手を握りしめて、地面に足をダンダンと打ち付けるたびに銀色の髪が揺れている。

 

 体つきもどちらかと言えば華奢なほうだし、普段から笑顔を絶やさない彼女がここまで怒っていたとは思いもしなかった。

 

 俺より少しだけ身長が小さいからか、少しだけ微笑ましいというか……正直()()()()()()()()()()()()けども。

 

「わ、悪い……」

 

「いっつも言ってるじゃん!モビルスーツは大切に扱ってって!!!」

 

 言葉を叫びながらも地団駄を踏んでいる。彼女が言っていることは正しいから、悪いとは思うのだが……

 

 いかんせん、子供が怒っているように見えて、笑いそうになってしまう。実際に笑ったら大変だけれど。

 

 彼女が子供っぽいということを抜きにしてもMSを破損させたことに変わりはない。俺は素直に頭を下げた。

 

「……悪かったよ、リナ」

 

「あ……そういうことさせるために怒ってるわけじゃ……」

 

 すると彼女から少しだけ悲しそうな声が聞こえてくる。

 

「えっと……そ、そこまでする必要ないから……頭上げて…?」

 

 彼女が悲しそうな顔でこちらを覗き込んでくる。彼女の表情はさっきとは打って変わり、悲しそうな表情で、眉もしょんぼりとしている。

 

 俺が頭を上げると、俺の体を見て回り、俺の顔を見ながら

 

「怪我、してない?どっか打ったとかは?」

 

 俺は首を横に振りながら

 

「大丈夫。怪我したのは俺のジェガンだけ」

 

「……そっか」

 

 彼女は安堵して、胸をなでおろした。

 

「機体は材料があれば何度だって直せるけど、あなたの替えなんてないから……」

 

 俺は彼女の頭に手をのせ、軽く微笑みながら

 

「分かってるよ。けど、それは俺以外の皆もそうだ。リナ、君の代わりになれる人なんかいないから。だから、俺が守っていかなきゃいけない。ちょっとくらい無茶してでもね」

 

「……あなたの無茶は信用できる時と出来ない時があるからなあ……」

 

「ど、どういうこと?」

 

「無茶するって言ってしない時もあれば、本当に無茶をして死ぬ手前まで頑張っちゃう時もあるでしょ?だから、信用出来たり出来なかったりって」

 

「……そういうことか」

 

 いつの間にか、彼女の表情も和らいで、普段の彼女通りにもどっていた。

 

 前よりも髪が伸びて、今では髪を帽子に入れるのも少し苦労するとか。だいたい背中くらいまでの長さ。

 

 強そうな女性の雰囲気を持たせる眉に、全てを包むような優しさを感じる垂れ目。

 

 少し身長が伸びて、……まあ、あとは色々成長してる。色々の部分?聞いてくれるなよ。

 

「でも……ね」

 

 リナは少しだけ俯きながらぽつりと呟いた。

 

「うん?」

 

「あなたがこうやって毎回ここに帰ってきてくれるだけで、私は嬉しいよ」

 

 彼女は笑顔を俺に向けてくれた。この笑顔を何度見て、何度救われたんだろう。

 

 きっと、彼女の笑顔があるから、彼女の笑顔を守りたいから、戦えているのかもしれない。

 

 守っていかなきゃいけない。この笑顔を、皆を。この手が血に染まることも、もう躊躇いは無い。

 

 なんて、カッコいい事言ってもユーリや道夜に笑われるだけなんだけどね。

 

「ありがとう。リナ」

 

 すると彼女は首を横に振った後

 

「当然だよ、だって私はあなたの妻なんですもの」

 

 彼女の一言に少しだけドキッとしてしまった。……単純だな、俺も。でも、嬉しいんだ。

 

「そう、だな……。俺も、アウロラやリナのために生きて帰ってくるよ。どんな戦いでも」

 

「無茶だけは…しないでね」

 

「もちろんだ」

 

 俺たちはしばらくの間、その場で時間も気にせずくだらない話で盛り上がった。

 

 

 

 最近は前より笑えるようになってきていると実感している。

 

 理由はきっと、この部隊の皆といられるからなんだろう。

 

 自然と笑みがこぼれている。あの事件の後では考えられないくらいに。

 

「先生?」

 

 リリーが顔を覗き込むように首をかしげている。

 

「ああ、すまない。それで、何の話だったかな」

 

「もー!先生、ちゃんと聞いててよー!」

 

「いやはやすまない。少し考え事をしてたものでね」

 

 頬を膨らましながら怒るリリー。前に会った時よりも少しだけ背が伸びただろうか、肩に掛かる程度だった髪は変わらないが、後ろをリボンで結んでいる。

 

 キラキラと輝く薄い緑色の瞳は、相も変わらず純粋そのものであった。

 

 優しそうな雰囲気を整える顔つき、それに対して眉はどこか大人っぽく細い。

 

 その溢れんばかりの行動力や、言動その全てから4年前とは違い【感情】というものを端はしから感じることが出来た。

 

「先生って、いっつも考え事ばっかり。つまんない」

 

「ははは……それは申し訳ない」

 

「……別にいいけれど。それでね、ファングさんが驚いてね、コーヒーこぼしちゃってさ!」

 

 思えば彼女も随分と成長した。見た目もそうだが、性格も変わった。

 

 今では彼女もすっかりこの部隊に馴染んでいるようで安心できた。こういう時、人は鼻が高いって言うんだっけな。

 

 彼女を指導する立場として、これ以上に嬉しい事は無いと思える。

 

「ファングもたまには失敗するんだな……」

 

「うんうん!皆をじーっと見てるとね、色んな事が分かって楽しい!」

 

「そうか。それじゃあ、俺はどうだろう」

 

「先生かぁ………。先生はね、前までいっつも上の空だったよね。それに、悲しそうだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうか……」

 

 ……さりげなくひどい事言われた?

 

「でも……ね、今は違うよ。今はすっごく楽しそう。何て言うんだろう、幸せそうな顔してるよ」

 

「リリー……」

 

「だから私、嬉しい。先生が笑ってるし、皆がいるから」

 

 当時の彼女では出る事のない言葉を俺は今聞いている。それがたまらなく嬉しくて、涙が出そうになるほど。

 

「そっか。リリー、俺も嬉しいんだ」

 

「なんで?」

 

 彼女は首を傾げる。

 

「君が他人と関わってくれているから。…それに、ちゃんと【約束】守ってくれたからだよ」

 

「本当はね……今でもちょっと怖いんだ。話そうとすると手が震える時もあるよ」

 

「そうか……」

 

「でも、他人と話すこと、嫌いじゃないから……。むしろ、楽しいんだよ」

 

 俺は小さく頷いた後、彼女の言葉を待った。

 

「約束もね、だから守り続けられたんだ。もう、先生から【()()()()()()()()()】じゃないから。私が私の意志で【()()()()()()】だったから、頑張れたんだ」

 

「ほんと……良く成長したな……」

 

 零れそうになる涙を拭きながら、俺は彼女にそれだけを言った。

 

 悲しい涙じゃない。嬉しい涙なんだ。

 

 すると、頬を伝う涙を彼女の指が拭ってくれる。

 

「ありがとう、ムゲン先生。私のために泣いてくれて……。先生になってくれて……ありがとう」

 

「リリー、俺のほうこそありがとう。俺は、今凄く嬉しいんだ。君が、こんなにも立派になってくれたことが」

 

「ふふふ。もう、先生の足を引っ張るつもりは無いからね。戦闘でも、日常でも」

 

「ああ。…なら、もう先生はいらないかな?」

 

 すると彼女は首を大きく横に振り

 

「ダメ!!!」

 

「え……」

 

「私は……先生って呼びたいから」

 

「な、なんで……?」

 

「だってそのほうが親密かなって思って」

 

 彼女は少しだけ顔を赤くしながら言った。

 

「……リリーがそれでいいなら」

 

「うん……!」

 

 その笑顔は間違いなく、輝いていた。……軍に戻ってきたのは間違いじゃなかったのかもしれない。

 

 

 

 リリーと別れてから、俺は食堂でコーヒーを飲んでいた。

 

 前と変わらず、少し薄いコーヒーを喉へと通す。

 

「……もうこんな時期か……」

 

 もうすぐアウロラの4才の誕生日。本当は一緒にいてあげたかったが、こんな場所にあの子を連れてくるわけにはいかない。

 

 心配こそしているが、あの子一人というわけではない。ルナちゃんも、エミリーも、それに、()()()()もいる。

 

 帰ったら沢山祝ってやらないとな。……皆でパーティーでも開いてもいいかもしれない。

 

「ムゲン」

 

 その男も、前とは少し見た目が変わっていた。サッパリと髪を短く整ている。キリッとした目つきに見えるが、実は垂れ目なんだよな、彼。

 

 そして優しさを感じることのできる眉。髭も少し伸ばして、昔の彼では考えもつかないような容姿になっている。普通にモテるであろう見た目。

 

 ロンド・ベルの青色の制服がよく似合っている。

 

「おや、道夜か。どうした?」

 

「いいや。少し話でもしないか?」

 

「ああ、構わないよ」

 

 すると彼は俺の前の椅子に腰かける。

 

「なあ、ムゲン」

 

「どうした?」

 

「いいや、また、彼らと戦ったそうだな」

 

 彼の言う「彼ら」というのは、間違いなくカカサとクロノードだろう。

 

「ああ。これで何度目になるだろうな」

 

「つくづく彼らとは縁があるな?」

 

「そうだな。……腐れ縁って奴なのかな」

 

「どうだろうな。なんにせよ、そろそろ()()をつけないといけないんじゃないか?」

 

「……決着……か。考えたこともなかったな」

 

「時代は変わっていく。そしていつか訪れる終わりもな」

 

「確かにな……」

 

「お前なら、どうするべきかは分かっているはずだ。だから俺は何も言わない。全てお前に任せるさ」

 

「……考えておくよ」

 

 少しの間沈黙が続いた後、俺は口を開く。

 

「そういえば、今度アウロラの誕生日なんだ、この戦いが終わったらパーティーでも開かないか?」

 

 道夜は暗い顔をした後

 

「……そう、だな。少し考えておくよ」

 

「道夜……?」

 

「気にするなよ。お前は前を向け」

 

「……」

 

 彼は何かを隠しているようだったが、詮索はしないでおこう。

 

 

 

 俺は道夜と別れた後、一人廊下で宇宙(そら)をぼーっと見つめていた。

 

 決着……道夜から言われた言葉が何故か頭から離れない。

 

 俺は……クロノードと決着をつける事を恐れているのか……?

 

 いいや、恐れているんじゃない。恐れ以上に、躊躇いが大きい。

 

 戦ってもいいのか?ルナちゃんの父親を……何より、家族を……。その躊躇いが、俺を悩ませている。

 

「……お前は本当に考えるのが好きだな」

 

「うわぁ!?」

 

 唐突に背後から声が聞こえて心臓が飛び出そうになった。呼吸を整えた後、振り返る。

 

 そこでは、驚いた俺を見て笑いをこらえるフユミネの姿があった。

 

 黒の短髪で、整った顔つき、キリっとした釣り目。クールな雰囲気を思わせる細い眉。

 

 そんな彼も、ここまで笑えるようになっていることに、俺は素直に驚いている。

 

 普段が真面目なだけに、笑う姿なんかほとんど見たことが無いのだから当然と言えば当然だろう。

 

「ふっ……年齢を重ねたところで、お前は変わらないな」

 

「……それは……褒め言葉かい?」

 

「さあ、どうだろうな?」

 

 フユミネは廊下の手すりに軽く腰を掛け俺を見据えた。

 

「何で考えているか、俺には皆目見当もつかない。だが、一つアドバイスをやるなら、お前の悩みは、【人に打ち明けて良い】悩みだ。……困った時は誰かに相談すると良い」

 

「……打ち明けて良い……か」

 

「お前はいつもそうやって、一人で悩むからな。そういう時はきまって失敗してる」

 

 確かにそうだ。一人で悩んで、行動した。それで待っていた結果は、少なからず良い結果ではなかった。

 

「まあ、お前がどうするかは、お前次第だからな。……これ以上は言わん。ではな」

 

 背を向け進もうとするフユミネに俺は一言だけ言った。

 

「……ありがとう」

 

 フユミネは振り返ることもなく、軽く手を上げて部屋へと入っていった。

 

「人に……聞く……か。難しい事を言ってくれるなあ……」

 

 軽く頭を掻きながら、小さく呟いた。

 

「とりあえず……機体の調子でも見に行くかな」

 

 と、軽い独り言をつぶやいた後、俺は格納庫へと向かった。

 

 

 

 格納庫では、先ほどの戦闘で破損した機体の修復に追われていて、とても忙しそうな様子だった。おそらくリナも今は整備をしているだろう。

 

「おめぇらぁ!!!手ぇ抜くんじゃあねえぞ!!次の戦闘で生き残れるようにきっちり仕上げろ!!!」

 

 格納庫全体に響くその声。トクナガさんの声だ。

 

「おお!ムゲンじゃねえか!!どうした!!!」

 

 俺に気づいたトクナガさんがこちらへと近づいてくる。

 

「ああ、いえ……」

 

 髪は黒に所々白が混ざっていて、厳格ながらも優しさを秘める目に、男性らしい強さを思わせる眉。そして豪快な性格。

 

 この部隊で何年も整備長として働き、保護者的立ち位置から見つめてきた人物。そして、リナが本当に心を開くことが出来た数少ない人。

 

「なぁんだ。忙しいってのに。……ちと待ってな。もうすぐひと段落つくんだ」

 

 まるで俺が何か言ったかのように彼は言う。……また顔に出てたのだろうか。

 

 彼の言われた通り、俺は格納庫の隅で整備をただ静かに見つめながら彼を待った。

 

 しばらくすると、仕事を終えたのか、彼はこちらへと寄ってきて手を上げる。

 

「待たせた。んで、悩みだっけか。言ってみな」

 

 ……やっぱり顔に出てたんだ……。

 

「え、っと……先ほどの戦いの時の事です。…かつて仲間だったクロノードとカカサと戦ったんです」

 

「ああ。あのザクは見間違えねぇ。あいつ等だろうな。んで、どうした?」

 

「……俺は……彼らと決着をつけるのを躊躇っているんです…。戦っていいのかと」

 

「……何をもって戦ってはいけないと思う?」

 

「それは……俺にも分かりません」

 

「そうか。言葉にできないが、戦うことへの躊躇いがあるわけか」

 

 うーん、と唸った後、トクナガさんは

 

「そうだな、それはお前が優しいからなんだろうな。恐らくお前が躊躇う理由は、クロノードに言われた言葉を今でも忘れずにいるからだろう」

 

「彼の言葉…?」

 

「そうだ。彼からもファングと同じ感じがしてな、人を惹きつける力っていうのかな、そういうのがあるんだよ。自然と周りに人が集まって」

 

 きっと、その力が、皆を、俺を繋いでくれたのかもしれない。だから……俺は……

 

「……そうですね」

 

「そんな彼は、きっとファングと同じことを言ったはずさ。『俺たちは家族』ってな」

 

 そうか……家族。その言葉が、俺の心で引っかかっていたのか。だから、彼らを傷つける事を……

 

「だがな、結局はお互い【()】だ」

 

「でも……!!一度は―」

 

 言葉を続けようとしたとき、ある言葉を思い出す。

 

『だったら何だ!―戦争で家族が何だというんだ!?―それをわかってお前はこっちに来たんじゃないか!!』

 

 その言葉が、俺の言葉を遮った。俺は首を横に振った後

 

「……そうだ。戦争で家族が何なんだ。敵である以上は……敵なんだ」

 

「お前は堅いなあ」

 

 彼は俺の頭にぽんと手を置く。その手は、父のように優しい手。大きく、安心感がある。

 

「……え…」

 

「確かに、敵だし、戦争で家族がってのもわかるがよ、俺が言いたいのはそういうことじゃない」

 

「……?」

 

 さすがに理解できず首を傾げてしまう。

 

「いいか?そうやって自分に言い聞かすんじゃなく、自分の【意志】をもって彼らと対峙しろって言ってるんだよ」

 

「あまり……解決になっていないような……」

 

「解決にはならんが、気が楽になるだろ。それに、言い聞かされたからで戦ったら、クロノード達に失礼だろ?」

 

「……」

 

「戦争でも、礼儀やルールってもんがある。それは昔っから変わんねえ。あいつ等は、あいつ等の【()()】で戦っているんだと思うんだ」

 

「だから、お前も【覚悟】、決めねえといけねえんじゃないか?」

 

「覚悟……」

 

 胸に手を当て、静かに考える。

 

「お前が躊躇う理由はきっと、そこにある。彼らと【()()()()()()】を決められていないんだろう」

 

「……向き合う……覚悟…」

 

「次の戦場、きっと彼らは来る。その時一度、彼らをしっかりと向き合って見つめてみろ。何かが分かるんじゃないか?」

 

「………はい」

 

「なんだ、懐かしいな、ここまでお前と話したのも」

 

 俺の頭に乗せた手を降ろしながら彼は笑ってみせる。

 

「そうですね」

 

「…懐かしいなあ。お前が脱走した日以来だなあ」

 

「あれからもう10年か……そりゃあ白髪も増えるわけだよ」

 

 と、目を細めながら俺を見る。

 

「ははは……。でも、トクナガさんはまだまだ、現役ですよね」

 

「バカ言うなよ。もうそろそろ引退時期さ。最近腰がなぁ……」

 

「え……」

 

「悲しそうな顔をすんなよ。そういうのは誰にだって来るんだ。仕方ねえことさ」

 

「………でも、あなたが辞めたらこの部隊の整備長は……」

 

「ああ、気にすんな、それは決めてるんだよ」

 

「えっ……。まさか、リナ……ですか?」

 

「ま、妥当だろうな。あいつの腕も、俺ほどじゃあ無いが、他の部隊の整備兵よか全然上だからな」

 

「リナが一生をかけて超えないといけない壁みたいな言い方ですね」

 

 すると彼ははっはっはと大きく笑いながら

 

「あいつが超えられっかなあ。腕は上がってきてはいるが、俺と比べたら天と地ほどの差があるね」

 

「そ、そんなにですか!?」

 

「そうよ。俺ぁ、まだあいつに超えられるわけにはいかねえんだよ。まだ、あいつの親父の代わりとして教えてねえ事が沢山あるんだ」

 

「……それは…」

 

「俺の腕を上回ったって時はな、ムゲン、あいつが本当に()()()()()()って事さ」

 

「トクナガさん……」

 

「ふっ、柄にもねえ事言ったなあ。ま、あいつが成長しているのは嘘じゃあない。それに、素直に嬉しいのさ」

 

「そうなんですか?てっきり、実力を認めてないんじゃないかと思ってましたよ」

 

「そんなわけないだろう?あいつは俺自慢の整備士さ。人間としてもしっかり成長しやがって……っと、これは夫の前で言うことじゃあないな?」

 

「ははは……。リナは、俺が守りますから。大丈夫ですよ」

 

「おお!そりゃあ楽しみだ。……ったく、あん時のしょんぼりした青年が、今では立派な父親か。つくづく歳を取ったと実感するわ」

 

 彼は機体を見つめながら、何かを考えている。

 

 少しの沈黙の後、彼は口を開いた。

 

「なあ、ムゲンよ」

 

「……なんです?」

 

「……歳を取るって言うのも、悪くないもんだな」

 

「俺にも、少しだけ分かる気がします」

 

「ほお?」

 

「子供が出来て、成長して、今では喋れるようにも、立って歩くことだって出来る。それに、今まで誰とも話そうとしなかった子が、4年でここまで成長するなんて」

 

「俺は、純粋に思うんです。……俺は、苦しい思いもしたし、沢山の犠牲を払ってここまで生きてきた」

 

「だからなおさら、彼らが成長している喜びを、今ここで生きている幸せを分かるんです。生きていて……良かったと」

 

 彼の瞳は、成長した子供を見つめるような目をしていた。彼はふっと笑うと

 

「言うようになったな。でも、そうだな……。生きているっていうのは、素晴らしい事だよな」

 

「はい……!」

 

 俺の中で、少しだけだが、何をするべきかが分かった気がする。

 

 

 彼らと向き合う、彼らを見れば、何か分かるのだろうか?覚悟を決める理由が……?

 

 

 悩んでいても、時間は、戦いは待ってくれはしない。

 

 

 そして結局、問の答えが分かるのは皮肉にも戦場なのだ。

 

 

 今はただ、前を向く。

 

 

56 完




CCA版のキャラ設定です。今回登場した人と機体のみ。(ファングとフユミネ、トクナガは除く)


名前:ムゲン・クロスフォード

年齢:29

性別:男

主な搭乗MS:ジェガン(第00特務試験MS隊仕様A型)

階級:少尉

説明

第00特務試験MS隊の第一小隊の隊長を務めるパイロット。現在はロンド・ベルに所属している。

トリントンの内乱でしばらくの間軍へ戻ることが出来なかった時期があったが、最近復帰した。

復帰したてであるにもかかわらず、戦闘センスは変わっておらず、格闘の能力も抜群に高い。

前よりも敵を倒すことに抵抗がなく、何か吹っ切れたようにも見て取れる。

戦闘時と非戦闘時で口調が変わる。

今回の戦いで、ある人物と決着をつけるため、再び剣を取る。


名前:リリー・クリーヴズ

年齢:22

性別:女

主な搭乗MS:ジェガン(第00特務試験MS隊仕様F型)

階級:曹長

説明

第00特務試験MS隊に所属するニュータイプのパイロット。現在はロンド・ベルに所属している。

ムゲン・クロスフォードの後押しもあり、今では部隊の人たちとも打ち解けることが出来ていて、グロリアスのアイドル的存在になっている。

それを彼女自身はあまり嬉しくは思っていない。

中距離と近距離での戦闘を得意としており、ファンネルでの攻撃も可能。

仲間を傷つけさせないように立ち回るが、仲間が傷つけられると怒り、止められなくなってしまうという欠点もある。


名前:八雲 道夜

年齢:29

性別:男

主な搭乗MS:ジェガン(第00特務試験MS隊仕様A型)

階級:中尉

説明

グリプス戦役を経て「人造」ではない本当のニュータイプとなったが、

何回も重ねられた改造によって精神面も肉体面も非常に不安定な状態。

肉体は強化され、どのような大きい負荷がかかるマシンであろうと搭乗することが可能。

しかし「パイロットであるがため」に強化された身体であるため、

普段の生活では身体のバランスを取ることが不可能に近い。

精神面でも、強化人間からニュータイプとして覚醒したために、

本来のニュータイプのように精神を通わせたり鋭い直感を働かせることが可能なのだが、

それが全て「悪い方向」に強く働いてしまう。

例えば悪意を持った人物に、自我の関係なしに共感をしてしまったり、

自分への悪意のみを直感的に感じ取ってしまう、等。

(ただし本人の意志で「共感はしても推奨はしない」「悪意は当然との考え」等ある程度は抑えられる。)

そのため自分の周囲に対する配慮は非常に徹底している。

「隣人との共存」という意味では、確かに真のニュータイプと言えるだろう。

しかしある時、黒い何かに出会うことで、この能力が暴走してしまうことになる。


名前:クロノード・グレイス

年齢:36

性別:男

主な搭乗MS:プロトタイプザクⅢ(ホワイトカラー)

階級:大尉

説明

そのカリスマ性から、ジオンでは有名であった人物。現在はネオ・ジオンに所属。

強化人間の副作用として記憶障害が起きており、今ではほとんどの記憶が曖昧になっている。

人を惹きつける力があるため、他人からの信頼が厚く、次の作戦でも小隊長として推薦の声が多く上がっていたりする。

この0093年の戦いを自身の最後の戦いと見定めており、全てはある人物と決着をつけるために戦っているとか。


名前:カカサ・キヤモイ

年齢:32

性別:男

主な搭乗MS:プロトタイプザクⅢ(ブラックカラー)

階級:大尉

説明

一年戦争、デラーズ紛争を生き残り、グリプス戦役でも活躍したエースパイロット。

圧倒的な戦闘技術と、抜群の情報収集能力で、クロノードを補佐する。現在はネオ・ジオンに所属している。

ムードメーカーとしての役割を果たしつつ、常にクロノードを見張っている。

彼自身、クロノードはこの戦いである人物と決着をつける事だけを考えているのを知ったうえで彼と共に行動し、いざという時はその戦いを仲裁しようと考えている。



機体名  ジェガン(第00特務試験MS隊仕様)
正式名称 JEGAN

型式番号  RGM-89
生産形態  量産型
所属    第00特務試験MS隊
全高    20.4m
頭頂高   19.m
本体重量  21.3t
全備重量  47.3t
出力    1,870kw
推力    12,700kg×1(バックパック・メインスラスター)
      9,200kg×2(バックパック・サブスラスター)
     8,800kg×2(脚部)
(総推力)48,700kg
センサー  14,200m
有効半径

武装    ビームサーベル
      ビームライフル
      シールド(2連装ミサイルランチャーx2)
      バルカン・ポッド・システム
      グレネードランチャー装備型ビームライフル(A型)
      肩部3連装ミサイルランチャーx2(B型)
      肩部大型キャノンx2(C型)
      大型ビームスナイパーライフル(S型)
      ファンネルx6(F型)

搭乗者   第00特務試験MS隊メンバー

機体解説

U.C.0089年に制式採用された地球連邦軍主力量産型MS。ムゲン・クロスフォード少尉の駆った初期生産試作型の戦闘データで得た情報を特務試験隊独自で解析し、開発された機体

コンセプトは【パイロットが合わせるのではなく、機体がパイロットに合わせる】というコンセプトの基、制作された。

この機体の性能は他のジェガンと差は無い。武装や、頭部の形状が少しだけ異なるという部分以外を除けば。

ジェガンのカラーは共通して白を基調として、黒やグレーを所々に入れている。

機体のバリエーションは、指揮官型のA型、バランス型のB型、キャノン型のC型、狙撃型のS型、ファンネル装備型のF型とあり、それぞれで武装が異なる。
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