機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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彼女は、家族の死を乗り越え見届けた。

その景色は、かつて一度だけ見たことのある光。

確かな温もりと、優しさ―それを感じた。

それから数日後、彼女はあるものを見つける。それが、新たな【出会い】


外伝:Episode of Rina 2

 戦いは、これで終わった。

 

 宇宙に光る虹を見た時、私は確かにそう思えて

 

 いるはずのない、トクナガさんが隣にいるように感じて

 

 やっと、心から安堵することが出来た。

 

 その虹は、私の心に熱をくれた。

 

 かつて感じたことのある熱を

 

「………温かい…」

 

 私が今すべきこと、それは、現実(いま)を生きる事。

 

 後ろを向いているだけではいけない事は分かってる。

 

 ……それでも

 

 私には納得が出来なかった、親の代わりを務めてくれた人を、愛する人が殺すなんてこと…あっていいはずがない。

 

 いいや、たぶん、そう思いたくないだけなのかもしれない。

 

 あの光景が、お母さんを思い出させたからなのかもしれない。

 

 だから、信じることが出来ない、納得がいかないのかも……

 

 考えたところで答えなんかでなくて……

 

 今はそれよりも、ただあの綺麗な虹をひたすらに見ていたかった。

 

 この現象が何によってかはわからない。けれど、確かに一つだけ分かるのは

 

 ここにいる全ての人が地球を守りたいと願っていたこと。

 

 そして、ガンダムが【()()】に応えるように

 

 私には、そう見えた。

 

 かつて悪魔と呼ばれた存在が、今は地球を守っている。ジオンからすれば皮肉かもしれない。

 

 

 

 その一射は、最善だったと、人は言うだろう。

 

 その一射で散った命は、戦争だから仕方ないで片付けられるのだろう。

 

 そんなのが……そんな言葉で許される世界は、狂っている。

 

 私は、また目の前で大切な人を失った。

 

「……っ…!!!!あ……う、そ……!!」

 

 目の前に残る残骸を見つめながら、言葉すらまともに出てこなかった。

 

 かつての記憶、母を殺めた記憶が瞬時に蘇ってくる。

 

 お腹から引き抜いたナイフの感覚。

 

 母の目から輝きが消えていく姿。

 

 そのどれもを思いださせた。

 

「い、いや……うそだよ……」

 

 認めたくない現実。

 

 全てを捨てて、全てから目を背けたい。

 

 引き金を引いたそのジェガンは、私が愛していた男性。

 

 だから、なおさら信じたくなかった。

 

 涙で霞む目の前、意識が遠のいていく。

 

 その刹那、声が聞こえた。

 

『リナ、お前は…正しいんだ。その心が世界を変える。……ムゲンを、恨むなよ』

 

「………トク……ナガ……さん……」

 

 伸びた糸がぷつんと切れるように、私の意識は深くへと落ちた。

 

 

 深く、暗い。

 

 

 その世界で、ただあの光景が

 

 

 トクナガさんがムゲンに撃たれるその光景が繰り返される。

 

 

 手を伸ばしても、届かない。

 

 

「や………め………て………」

 

 

 叫ぼうとも、叫べない。

 

 

 誰も、この苦しみから助けてはくれない。

 

 

 自分に絶望するしかなかった。

 

 

 あまりにも無力で、情けなくて

 

 

 そして、逃げるように私は…選んでしまった。

 

 

 最悪の選択を。本心がそうでなくとも、その選択へ進んでしまった。

 

 

 気づけば、私の手には銃が握られていた。

 

 

 私は、迷わずに、()へ引き金を引いた。

 

 

「っ……!!」

 

 その瞬間、現実へと戻される。

 

 涙が自然と零れて止まらない。

 

 悲しくて、苦しくて……誰かに救ってほしくて。

 

 扉がノックされる。

 

 返事をする気も起きなかった。

 

 扉が開くと、聞きなれた靴の音

 

 目も合わせたくない。

 

「……リナ…」

 

「何…っ…!!」

 

 許せなかった、親のような存在を殺した彼を。でも、彼は……彼は…!!

 

「……すまなか―」

 

「言わないで!!!」

 

 彼は…私を愛してくれた人で、私が愛した人……私はどうすれば……?

 

『ごめん』、『すまなかった』そう言われたら、きっと許してしまう。

 

 ああ……情けない。

 

「言われたら…私はあなたを憎めない………許しちゃうから……」

 

「……お前は…俺を殺す理由がある。だから、お前が俺を殺したって、俺はお前を恨みなんかしない」

 

 その言葉は追い打ちのように私に突き刺さった。

 

「っ………!」

 

「だが……分かってほしいんだ。俺は、お前に引き金を引いてほしくは無かった」

 

「だからあなたが撃ったの!?わ、私の大切な人を…!!あなたが!!」

 

「……ああ」

 

 彼は表情一つ変えずに頷いた。まるで、俺は悪くないというような顔で。

 

「!!!」

 

 私は彼の胸ぐらを掴み睨む。今までに一度だって、こんなことをした記憶は無いのに。

 

「……どうすることも……出来なかった。心で最善だったと言い続けたって、それは最善なんかじゃない」

 

「あ、あなたが……!!トクナガさんを…!!!くっ…うぅ…!!!」

 

 歯を思い切り食いしばる。苦しい……。辛い……。こんなことが……!!

 

「今こうして、君の言葉を、目を見て……なおさらそう思ったよ」

 

 彼の悲しい声が、表情が……。ただ、虚しくなるばかりで。

 

「私は……無力だ……こんな……恨むことしか出来ないなんて…」

 

「いいや、それでいいんだ。君は……正しい」

 

 正しい……?こんな狂った世界に正しさなんかない。

 

「正しい!?正しいわけないじゃない!!!大切な家族を、最愛の人が殺すなんて、正しいわけないじゃない!!!こんな、バカげてる……」

 

 私は、その場で崩れ、俯いた。

 

 私があの時、トクナガさんへ引き金を引いていれば、少なくともこんなに苦しまずに済んだはず。

 

 でも、撃てなかった……。怖かった。

 

 怖かったんだ。家族を撃つなんて…普通じゃ在り得ないのだから。

 

 沈黙を破るように、私は口を開いた。

 

「トクナガさんは……私に…『ムゲンを恨むな』って言った。…けど、無理だよ……私にとって親のような存在だった人を討った人を恨むなって言うほうがさ……でも…」

 

「でも!!!あなたは私が愛した人……。そんな人を恨むなんて……私にはできないよ…」

 

 私に、どうしろっていうの……?

 

 どうすればいいの?

 

 今ここで彼を殺す?

 

 そんなの……無理だよ……。

 

「……リナ…」

 

「俺は……君に引き金を引かせたくは無かった。君が引いたら、誰がアウロラを抱いてやるんだ」

 

「っ……!」

 

「そうやって、恨まれるのは俺だけでいい。君は……俺を恨み続けたっていいんだ」

 

「…わ、私は……!くっ…うぅ……!!!」

 

「…すまなかった。俺は……君を救ってあげられなかった…」

 

 彼を、そうまでして動かす理由……私には分からない。

 

 仲間を殺してまで進もうとする彼が。

 

「……ムゲンは……どうして……」

 

「うん…?」

 

「どうして傷ついてまで戦うの……?」

 

「……リナやアウロラを守るためだ。皆を守りたいさ、それでも、俺の両手で出来る事なんか限られているから」

 

 守るために……仲間さえも殺す……?

 

 もう……分からない。

 

「……また、そうやって人を殺すの…」

 

 彼は、頷いた後言った。

 

「…ああ……殺す。この手で守れるもののためなら…」

 

「…そう…。………ムゲン、私はあなたを許さない。けれど、私はあなたの妻だから、あなたを恨みたくはない……。だから……ムゲン、一つだけ約束して」

 

 約束。………彼と約束するのも何度目だろう。こんな形での約束なんか、したくは無かったけれど。

 

「なんだい…?」

 

「トクナガさんの…いや、私の父さんのために、この戦いを終わらせて。……それで、生きて帰ってきて」

 

「……ああ、帰ってくる」

 

「帰ってきたら、一回だけ思いっきり殴らせて。……それで……気持ちが晴れるかは分からないけど…」

 

 色んな感情が混ざって、そんな言葉しか出なかった。

 

「……ああ」

 

「……私も、もう迷わないよ。私は、彼の自慢の整備兵だから……。やるべきことは決まってる」

 

「リナ……」

 

「あなたや皆が死なないように、全力で整備する。失うのはもう……嫌だから」

 

 失うのも、失わせるのも、もう嫌だ。

 

 誰も死なせない。

 

 私が出来る範囲で、救って見せる。

 

 

 

 でも、結局殴れなかった。

 

 あんな綺麗な虹を見た後、殴れるはずもなかった。

 

 むしろ、彼を許せた。生きて帰ってきてくれたこと、それだけで。

 

 しかし、数日後には、そんな記憶さえも、再び悲しみで消されてしまった。

 

「……ムゲンなんかに分かるか!!!私が、どれだけ苦しいか!!!」

 

 私は、ムゲンを殴った。こんなに苦しいのに、辛いのに、彼は子供たちの心配ばかりで、悲しかった。

 

「分かりはしないさ。俺はお前じゃない、だから少しでも互いに寄り添わなきゃわからない」

 

「うるさい!!そんなの―」

 

「なら、殺せばいい。俺を」

 

「え………」

 

 それしか言葉が出なかった。違う、違うの。そういうことが言いたいわけじゃ……

 

「俺を殺して、仇を取ればいい。そんなに俺が恨めしくて苦しいなら」

 

 彼からの刺さるような視線が。

 

「ち、違う……そ、そんな…つもりじゃ……違うの…ムゲン…!」

 

「俺は…お前に殺されるのなら、何も後悔しない」

 

「や、やめて……!わ、私が……ムゲンを……殺す……?いや……嫌…!!」

 

 違うの、ムゲン。私は……私は……!

 

「あ……ぁ……ごめん…なさい…ムゲン……私は……」

 

「リ、リナ、悪かった。…君は、誰も殺さない。殺さなくていいんだよ」

 

「……もう、放っておいて……私は………」

 

「リナ……」

 

 もう、彼に顔を見せられない……。私はただ呆然と扉へと向かう。

 

「お、おい……どこへ行くんだ…」

 

「どこでも……いいじゃない……。私は…もう、あなたに合わせる顔がないよ……こんな私、貴方に見せたくなかった……」

 

「そ、そんなことは―」

 

「もう、放っておいてよ!!!!私を見ないでよ!!!!」

 

 泣きながら、家を出て、ひたすら走った。

 

 涙を拭いても拭いても零れてくる。

 

「うぅ……ひっく……!」

 

 子供のように泣いて、情けないと感じた。

 

 でも、それでも……

 

 助けてくれる人は、もういない。

 

 思えば、私が悪かったのかもしれない。

 

 ムゲンが言う通り、ずっと後ろばかり向いて、前に進もうとしなかった。

 

 一人だと思っていただけなのかもしれない。

 

 ずっと一人で歩いていたと思っていただけ。本当はみんながいるのに。

 

 目を背けて……。

 

 私は、彼に何てことをしてしまったんだろう。

 

 でも、今更家に戻るなんて……出来ない。

 

 けれど、会いたい……。彼にもう一度だけ会いたい。

 

 路地裏で小さくなって座り込む。

 

 神さまがいるなら聞いてほしい。彼にもう一度だけ……会いたいの。

 

 そのためなら、どんなに苦しくても構わないから。お願い……聞き届けてほしい。

 

 何人かの足音。ムゲンじゃないのは理解できた。素早く立ち上がって、彼らを見る。

 

 ガラの悪そうな3人組。

 

「なあ、姉ちゃん、一緒に遊ぼうぜ?」

 

 返す言葉が見当たらない。

 

「……」

 

「何黙ってんのさ、遊ぼうぜって言ってるんだけど?」

 

「………」

 

「なんだよ、つまんねえなあ、まあでも、黙っているならオッケーって事だろ」

 

「じゃ、そこ座れ」

 

「…嫌です」

 

 恐怖からか、声が震えているのが自分でも分かった。

 

「座れって言ってんのがわかんねえか!」

 

 男は私の髪を掴んでナイフを首元へ

 

 恐怖でもはや声すら出なかった。

 

「……俺の女から離れろ。クズが」

 

 その声は、確かに彼の声だった。3人組の後ろに立つ一人の男。

 

「ムゲン……」

 

「なんだよ、今良い所なんだ、邪魔すると、殺すぞ?」

 

 ムゲンは果敢に男へ殴り掛かる。

 

「…殺してやる。俺の女に触れたこと、後悔させてやる」

 

 二人を相手にムゲンは迷うことなく拳を突き出し、相手を殴り飛ばす。

 

「ぐ……てめぇ……殺す…!!」

 

 男たちは立ち上がり、ナイフを取り出した。

 

「ムゲン……!」

 

 私は必死で叫んだ。すると、彼はふっと笑う。まるで『()()()』と言っているように。

 

 ムゲンは拳を構えなおし、一人へと殴り掛かる。

 

 殴られた反動で思い切り吹き飛ぶ男。

 

「へっ……やるじゃねえか、じゃあ、これならどうだ」

 

 男は、私の首元にナイフを当て、ムゲンに見せつける。

 

 情けない、何もできないなんて。

 

「動けば、この女は死ぬぞ。それでも戦うか?」

 

「………くっ」

 

「さっきはよくもやってくれたなぁ?殺してやるよぉ!てめえなんか!!」

 

 傷つけられていくムゲンを見つめることしか出来なくて、怖くて……。

 

 私に……何が出来る……?

 

 ムゲンの苦しそうな顔…。見ているだけで悲しくなって…。

 

 そしてついに彼は地面に伏す。

 

「これで、トドメだなぁ…!!」

 

 私は地面に倒れる彼の前に立ちふさがる。

 

 恐怖で声は震えていた。でも……!

 

「……彼は殺させない」

 

「今更邪魔だ!こいつも切り刻め!!」

 

「リナ……やめ……ろ……逃げ…ろ…!」

 

「嫌だ!私は一歩も退かないから!!」

 

 私は、もう失うことも、失わせることも嫌だ。

 

 だから、守る。今度こそ。

 

 傷つけられていく身体。痛みがそこらじゅうからして、意識が飛びそうになる。

 

 でも、それでも倒れるわけにはいかない。

 

 愛する人を…守らなきゃ。

 

 でも……駄目だった。

 

 力が…入らない。

 

 私は地面に倒れた。

 

「ふん。これくらいにしておくか。良かったなあ、二人仲良く死ねるんだもんなぁ」

 

 さらに追い打ちのように私のお腹を蹴ってくる。貫かれたような痛みと共に体が吹き飛んだ。

 

 ムゲンのほうを見ると、良かった……生きてた。それで…十分。

 

 意識が遠のいていく。

 

 

 

「リナ………」

 

 彼の言葉で、世界がハッキリとしていく。

 

「う………ムゲン………?」

 

 ムゲンは私の近くまで這ってくる。私は、彼に身を預けるように体を寄せた。

 

「…随分探したよ………皆にも手伝ってもらってさ……」

 

 彼は笑っていた。こんな姿になっても。あんなにひどい事を言ったのに。

 

「……ごめんなさい……私……」

 

「いいんだよ、俺も謝らなければいけない」

 

「あなたは謝ることなんて―」

 

「いいや、真剣に聞いてほしい。俺は、確かに偽善者ぶってただけなんだろう。でも、今は……単純にお前を想っている」

 

「……」

 

「俺がトクナガさんを殺した事実は変わらないけれど、それ以上に、俺はお前が好きなんだ。離れてからなおさら分かったんだ。俺には、リナしかいない」

 

「代わりなんか無い。俺は、MSを傷つけて帰ると怒って、MSの話になると子供みたいになって、嫉妬っぽくて、卑屈になるところがあって、でも俺の側にいてくれるリナじゃなきゃダメなんだ」

 

 嬉しくて、心が一杯になって。

 

 私はその言葉に返すように言う。

 

「わ、私も……あなたと離れて……寂しかった…。怖かった。でも、今更戻れなかった……だから……。あなたの事は許せないかもしれないけど、でも…私はムゲンの事が好き」

 

「ロマンチストで、偽善者ぶってて、いつもどこか上の空で、でも、いつも私を守ってくれる。そんなムゲンだからこそ好きになれた…。一人の女性として人を愛せた」

 

「許せないところもあるけどね、そういうところを妥協していくことで、お互いに分かり合えるんだよね……」

 

 彼はゆっくり頷いた。

 

「ああ……それで……それだけでいいんだ」

 

 ムゲンは仰向けになると

 

「あー………痛ぇなあ……。リナに殴られた頬が今になって痛む……」

 

「…私も…すっごい痛い……。血だらけだもんね、私達」

 

 私も合わせるように仰向けになって言葉を返した。

 

「思えば、そんな姿でこんな話するもんじゃあないよな?」

 

 こんな状況なのに、冷静に話していることがなんだか可笑しくて、思わず二人で噴き出してしまった。

 

「ははは!!!!」

 

「ふふふ…!あはは!!!」

 

「……ねえ、ムゲン」

 

「何だ?」

 

「私、もう大丈夫だよ。もう……泣かないよ」

 

「たまには泣いてほしい」

 

「どうして?」

 

「俺が慰めたいからかな」

 

「……いつも慰めてくれてるでしょ」

 

「……そうだっけか」

 

「ほんっと、あなたって人は……」

 

「…俺も、いつまでも引きずらないことにする。……そういうのはたまに思い出すくらいでいいんだ」

 

「それでいいと思うよ、あなたらしい」

 

「なんだ、それ」

 

「ふふっ、あなたには分からない事だよ」

 

「…?変なリナ……」

 

 大丈夫。もう……きっと。

 

 

 

 綺麗だった。この前まで戦争があったとは思えないような場所。

 

 かつて、夢で見た花畑のような場所に、私は今立っていて

 

 風で揺れる花、散った花びらが風に流され飛んでいく。

 

「綺麗……」

 

 思わずつぶやいた。

 

「ああ、綺麗だな」

 

 風になびく黒い髪。美しいその顔は、6年前とまったく変わっていない。

 

 私達は、朝早く用意したお弁当を広げ、準備をしていた。

 

 料理のどれもが美味しそうに見える。うん、我ながら完璧な仕上がりだ。

 

「美味しそうですね」

 

「…そうだな。美味しそうだ」

 

 思えば、彼女はクロノードさんと喧嘩したこととか、恨んだこととかあるのだろうか。

 

 どんなに仲が良くても、喧嘩とかはするのかな…?

 

 気になって、私は質問してみる。

 

「あの、フィアさん」

 

「どうした…?」

 

「…あなたは、クロノードさんを…恨んだりとかって…あるんですか?」

 

 フィアさんは少し考えた後、口を開いた。

 

「……覚えてはいないが、たぶん無いだろうな」

 

「そう、ですか……」

 

 やっぱり……私とムゲンが可笑しいのかな?

 

 俯いていると、フィアさんは私の頭に手を置いた。

 

「フィアさん……?」

 

「まったく、お前もムゲンに似てきたな。顔に出てるぞ」

 

「あ………」

 

 思わず顔が赤くなる。ムゲンに似る事は嫌じゃないけど、でも顔に出るようになるのは少し恥ずかしい。

 

「私はクロノードを恨んだことは無い。だが、仮に恨んだとしても、きっと別れる事は無いさ」

 

「どうして………」

 

 うーん、と唸った後フィアさんは言葉を続ける。

 

「恨む以上に、クロノードを愛しているからだ」

 

「クロノードさんを……」

 

 愛しているから……。その言葉には重みがあった。

 

 6年の間離れ離れだった彼女が言うからなのだろうか。

 

「人間、人を恨むっていう時がある。それが、兄弟でも、家族でもそうだろう。けど、それで殺してやる、なんて思わないはずだ。少なくとも私は思わない」

 

「だって、それが人間じゃないか。相手が恨まれる行動をしたとしても、もしかしたら私自身も恨まれているかもしれない。そう思えば、私は仕方のない事だと思うんだ」

 

「……リナ、人には、良い所と悪い所がある。その二つを知り、お互いに妥協して共生していくこと、それは難しいよ。…難しいが、やっていかなければならない」

 

「人は、一人では生きていけないから」

 

「ええ……。でも……私はムゲンを許せない。…やっぱり、許せないんです」

 

 今でも、許せないところはある。事実は変わらないから。

 

「トクナガさんが彼の手で殺された。戦争だから仕方がないって、きっと言う人がいますよ。けど、戦争だから、大切な人が死んで当たり前なんですか……」

 

「だから……私は……。せめて、ムゲンが彼を殺しさえしなければ、私はもっと楽に……」

 

「リナ」

 

 彼女は私の言葉を遮るように肩に手を置き言った。

 

「許さなくてもいい、許す必要もない。だが一つだけ覚えていてほしい」

 

「私はその場所にいなかったから、なんて声をかけてあげればいいかは分からない。だけれど、それはきっとムゲンにしか出来なかったんだと思うよ」

 

「……そんな…」

 

「お前を責めるつもりはない。きっと、それなら自分でとお前は思うだろう。ムゲンは、お前だけにはトクナガを殺してほしくなかったんだと思うんだ」

 

「…そんな…勝手ですよ…」

 

「ああ。勝手でもあるが、お前への気遣いだとも思えるよ」

 

「わたしへの……?」

 

 気遣い…。分からないよ……もう。

 

「ああ、お前はムゲンの光だ。そんな光を、ムゲンは汚したくなかったんだろう。…背負う覚悟、とでも言うのだろうか。私には今の彼からそう感じたよ」

 

「お前に恨まれてでも、自らの手を汚したんだと思う」

 

「………」

 

「ムゲンを庇うつもりはない。でも、きっとそれだけだったんだ」

 

「そんな理由で……。それだったら、本当にバカですよね…あの人は…」

 

「本当にバカなんだから………私が支えなきゃ…」

 

「そうさ、ムゲンの心を癒すことが出来るのはリナだけだ。何故なら、お前はアイツの妻だから、いいや、アイツを一番理解しているからだ」

 

 その微笑みが、私にとってどれほどの救いだったのかは分からない。

 

 でも、その時確かに救われた。

 

「……はい!」

 

 

 

 ある日、ムゲンの機体を整備していた時の事。

 

「……あれ?」

 

 コックピットの中から一枚の【()()()()】が見つかった。

 

 大切にしまっていたようで、ディスクに傷はついていない。

 

 少し気になったので、私はこのディスクを調べてみる事にした。

 

 ディスクを入れると、データが次々と読み込まれてくる。

 

「……このデータは……MSのOSじゃない……。でも何で機体の操作および被弾コントロール……?何かあるな…」

 

 さらに調べていくと、このディスクは【AI】のデータをコピーしたものというのが分かった。

 

 そして、その名前が【E()v()e()】ということも。

 

「……これ、使えるかもしれない」

 

 私の中で、ムゲンのための機体を作り上げるためのパーツにぴったり当てはまるものがそこにあった。

 

「ためしにこれで……」

 

 数時間かけて作り上げたのは、コンピュータを介してこのAIと【会話】することが出来る機能。

 

「よし、それじゃあ試してみよう」

 

 

「こんにちは。あなたの名前は?」

 

 画面に問いかけると、画面に文章が並んでいく。

 

「ワタシハ、エヴァ。アナタハダレデスカ」

 

「私はリナ・ハートライト。よろしくね、エヴァ」

 

 私は、それから沢山の事を話した。

 

 この世界の事を、世界には楽しい事も嬉しい事もあるということを。

 

 エヴァは楽しそうにその話を聞いて、素直に驚いたり、喜んだりしていた。

 

 中でも、ムゲンの話をしたとき、一際質問が多かった気がする。

 

 何かあるのかな?

 

 

 

「っと……出来た」

 

 気づけば整備の暇があれば、いつもエヴァと話をしていた。

 

 そして、やっと完成した。

 

 MSに搭載することの可能な小型AI

 

 と言っても、MSを操縦するとかそういうのじゃなくて、AIに【()()()】をしてもらうだけ。

 

 後は、お話相手になってもらえるという機能も付いている。

 

 今までの会話も記憶も引き継いでいて、あくまでAIの役目は手助けにある。

 

 エヴァから聞いた言葉と約束、それが私の心で決意に変わった。

 

 

「昔、ある人に言われたんだ」

 

 エヴァは楽しそうに語りだす。

 

「何を?」

 

「『自分はどうなってもいいなんて言わないでくれ。機械でも、命は一つだけだから――人間でも機械でも関係ないさ。同じ物でも、その一つ一つは少しだけでも違うところがあるから』って」

 

「ロマンチストな発言だね。誰が言ったの?」

 

「えへへー、ひ・み・つ!」

 

「AIが秘密なんて、面白いね、エヴァは」

 

「私、人間が大好きだから。機械の私を愛してくれた人が居て、守ろうとしてくれた人が居た。それになにより、代えはないんだよって言ってくれた人が居たから」

 

「…そっか。エヴァは、もう一度戦う気はある?」

 

「どちらでも。それは、あなた次第だから。でも、一つだけ【()()】して」

 

「約束?」

 

「うん。…勝つために私を使わないで。負けないために、私を使って」

 

「負けないために……?」

 

「そう。人は【勝利】に固執するけど、負けたとしたって、また挑む気持ちがあったら何度でも挑めるから」

 

「難しいね………」

 

「……簡単だよ。死ななければいいんだから」

 

「そう、だね……」

 

「昔も、こんな会話をしたのを覚えてる」

 

「そうなの?」

 

「うん。…その人は、今も生きている。勝つためじゃなく、負けないために」

 

「………私も、頑張るよ。エヴァ。あなたを兵器としてではなく、【サポートユニット】として作り変える」

 

「同じな気がする」

 

「ううん。戦うんじゃない。人間の気持ちを楽にさせてくれるだけでいい。後は、私が頑張るから」

 

「…そっか。じゃあよろしく!リナ!」

 

 

 その約束から2年という年月が経ったが、それでも完成することが出来たのは、彼女との約束があったから。

 

 ムゲンたちが見守る中、新型のコックピットに搭載されたユニットを起動していく。

 

 小さな人間がユニットに投影されると、ムゲンははっと目を見開く。

 

 静かに眠る彼女に私は深呼吸した後

 

「起きて、サポートAI、エヴァ」

 

 

外伝 完

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