機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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62:家族の形

 宇宙世紀0095.5 第00特務試験MS隊、ジオン残党殲滅のためにトリントン基地から出発。ムゲン・クロスフォード、エトワール・ブランシャールは基地にて待機。

 

 

 資料を片付けていると、俺に面会を望む人が来ているというので、グロリアスの待合室へと向かった。

 

 そこに居たのは、白衣を着た男性。昨日、俺の家に来た人物であった。

 

 男性は俺に気づくと、来たか、と言ってこちらへ手招きをする。

 

 俺は彼に近づいて、口を開く。

 

「俺に何の用ですか」

 

 男性は静かに口を開いた。

 

「うむ、君と話がしたくてね。まあ、座りなさい」

 

「はい」

 

 俺は椅子に腰かけ、男性の対面に。

 

 すると、男性はふうっと一息はいて、言う。

 

「さて、ムゲン・クロスフォード君。昨日の言葉が忘れられないんじゃないかと思ってね」

 

 まさにそうだ。"昔から君を知っている"と、今目の前にいる白髪の生えた男性は言う。しかし、俺には彼と会った記憶、そして彼の姿を一度たりとも見たことが無かった。

 

 それなのに、何故彼は俺を知っている?

 

 何故……。そう思うと、モヤモヤしていて、正直仕事にもならなかった。

 

 俺は静かに頷くと、彼はうんうんと頷き、言う。

 

「そうだろうね。……そうだなあ、どこから話したらいいだろうか。おっと、まずは名前だな。私は"オービット・アーヴィング"。今はMSの研究者をしているよ」

 

「オービットさん……ですか」

 

「さて、君は覚えていないだろう。いいや、"分からなかった"だろうね。…あれからもう10年以上になるか。あれは、一年戦争の時だよ」

 

「………」

 

 俺は黙って彼の言葉を待った。

 

「当時私は、特殊な研究所にいてね、人体実験なんかもしたことがある」

 

「え………?」

 

 一年戦争、そして人体実験。その言葉で、何かを感じる。

 

 何故だろう………。

 

「君は、あの研究所の101番目の実験体として送られてきた連邦軍のパイロットだった」

 

「もしかして……俺を改造したのは…」

 

 不安とか、そういうのじゃなく、純粋な興味。それで怨念返しをしようとは思わなかった。

 

 いいや、今更そんなことをしてもどうにもならない事を理解していたからかもしれない。

 

「ああ、その時、私もそこに居た」

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 その少年は、まだ15才。両親をジオンに殺され、その恨みで連邦軍に入隊したという。

 

 この少年に行われる実験は、人工的にニュータイプを生み出すための実験になるはずだった。

 

 そして、少年の脳波データを採取した時、その場にいた誰もが驚愕した。

 

 それは、"普通の人間ではありえないほどの脳波を発していて、それが尋常ではない事をすぐに理解できた"。

 

「すごい……まるでこれは本物のニュータイプじゃないか…!」

 

「しかし、ニュータイプなどいるはずがないだろう…!?だからこうして俺たちは実験で造り上げようとしているんじゃないか」

 

 本来はそのまま実験をして、人工ニュータイプとして改造する予定だったがその実験に待ったをかけた人物がいた。

 

 その男は、不敵な笑みを浮かべてこう言った。

 

「この少年に、今試作している薬を投与してみようじゃないか」

 

「その薬は……?」

 

「その少年が本当にニュータイプならば、この薬を投与すれば、"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()"」

 

「抑制剤……ですか」

 

「そういう事だ。所詮この少年も、いつか使えなくなれば捨てるまで。試してみろ」

 

「ですが……シゼル様が…」

 

「ほう、私よりシゼルが偉いと?」

 

「……申し訳ありません」

 

 そして研究者たちは、その少年に薬を投与した。

 

 結果は大成功。少年の脳波は半分以下まで抑えられることになる。

 

 成果を見るため、脳を弄ることはせずに、身体のみを改造することとなった。

 

 そして、その日からその少年は"()()()"と呼ばれるようになったんだ。

 

 驚いたのはそれからだ。少年は、"()()()()()()()()()()()()()()()()()()"という力を得た。

 

 "骨が折れたとしても、半日で治り"、"MSが爆散しても、肺に破片が刺さっても、その生命力と驚異的な回復力が彼を生かし続けた"。

 

 それは、誰もが予想していなかった。薬を投与するよう命じた男でさえも。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「それが、君だ。ムゲン・クロスフォード君」

 

「俺は…………」

 

 言葉が出てこない。何て言えばいいのか、ただ、固まって言葉を聞くほか何もできなかった。

 

「君は、"ニュータイプ"だ。そうだな、半分の力を抑えられているから、"()()()()()()()()()"と呼ぶべきかな」

 

「俺が……ニュータイプ……?」

 

 自身が見届けようと誓った存在が………?

 

 俺が……ニュータイプ……?

 

 記憶の中で、かつての言葉が蘇る

 

『おなじ――ニュータイプをみつけたから――きみはその資質が開花しかけてた』

 

『信じてるぞ……。目覚めかけのニュータイプ。私に【虹】を見せてくれ』

 

 

「本来なら、私は君に顔を合わせるのさえ許されない男だという事は理解している。だがそれでも、君には真実を伝えておきたかった」

 

「今を生きている、君には。本当の事を」

 

 オービットさんは、悲しそうな顔で、そう言った。

 

 俺は首を横に振り、口を開く。

 

「……いいんです。この体になって、良かったと思える場面が何度もありましたから。……それに、ちゃんとそう言ってくれたことが嬉しいです」

 

「……クロスフォード君………」

 

「俺は、自分がニュータイプであるとは認めていません。ニュータイプにしては中途半端すぎるし、足りないところもあると思うから」

 

「だから俺は、"ハーフニュータイプ"で十分です」

 

「クロスフォード君…!」

 

「…………ありがとうございました。なんだか、スッキリできた気がします」

 

 すると、オービットさんはにっこり微笑んで

 

「……そうか。……そうだ、君にお詫びとして、受け取ってほしいものがある」

 

「お詫び……ですか……?」

 

「そうだ。いいや、きっと渡してしまえば、"戦いを強いる事になる"。それでも、君なら正しく使ってくれると信じて」

 

「何を………」

 

「君は、サイコフレームというのを知っているかな?」

 

「ええ、少しは」

 

「それなら話が早い。サイコフレームを使用した機体フレームを、君に託したい」

 

「え………?」

 

「……その力で、世界を、君が信じる道を進んでほしい」

 

「……オービットさん……」

 

「詳しくはまた後日話そう。では、今日はこの辺で失礼するよ」

 

 彼は軽く手を振った後、グロリアスを後にした。

 

 

 廊下に出ると、エトワールが何か考えるようにその場で立っていた。

 

 彼が悩み事なんて珍しいと思い、俺は声をかける。

 

「エトワール?」

 

 青い髪が揺れ、こちらを赤い瞳が見据える。

 

 そして、はあと溜息を吐いた。

 

「なんで溜息を吐いたんだよ」

 

「いえ、ムゲンさんでしたので」

 

「なんで!?」

 

「ふふふ、冗談ですよ。どうしましたか?」

 

 彼は首を傾げ聞いてくる。

 

 俺は小さく頷いた後答えた。

 

「いや、何か悩んでいるようだったから」

 

 すると、エトワールは先ほどと同じ難しい顔をして言葉を返した。

 

「………ああ、さっきの、オービットさんでしたっけ?……何か引っかかるんですよ」

 

「引っかかる?」

 

「はい。見たことも、会ったこともないのに、何か胸に引っかかるんです」

 

「………へえ。なんでだろうね」

 

「わたしにも分かりませんよ。でも、何でしょうかね………」

 

 胸に手を当て、彼は天井を見る。

 

「……今は答えが分からなくても、いつかきっと、見えるさ。その答えが」

 

「……そうだと、いいですね」

 

「そう信じればいい。きっと、叶うってさ」

 

 彼は肩を竦めた後

 

「私はこの部隊に来て随分と変わったようです。ちょっとだけ、信じてもいいかもしれないと思ってしまいしたよ」

 

「素直に信じたらいいじゃないか」

 

「素直に信じたらなんか腹が立つので信じません」

 

「あー!お前なあ!人が親切に言ってやってるのに…!」

 

「大きなお世話って言うんですよ、ムゲンさん。それで、資料は片付きましたか?」

 

 にやにやと笑いながら、エトワールは言う。

 

 こいつ、俺の痛いところを突きやがって……!

 

「ぐっ……そ、それはだなあ……。後数時間待ってくれ」

 

 すると彼ははあ、と溜息を吐いて言う。

 

「仕方ありませんね、私も手伝うので仕上げましょう」

 

「本当かい?それはありがたい!」

 

「ただし、今日の夕飯はご馳走になりますからね」

 

「そりゃあ構わないが、家は騒がしいぞ?」

 

「構いませんよ、ああいう雰囲気も、悪くないと思えましたから」

 

 かつてのエトワールであれば、きっとそんな言葉は出てこなかっただろう。

 

 だが、今の彼だからこそ、見て、体験した彼だからこそ、そう言えるのだろう。

 

 

 そうして、俺はエトワールに協力してもらい、資料を仕上げる事になった。

 

 作業中、俺はふと思ったことを聞いてみる。

 

「なあ、エトワール」

 

 彼は資料にペンを走らせながら、言葉を返した。

 

「君の両親って、どんな人だったんだい?」

 

 流れていたペンが止まり、静かになる。

 

 一時の沈黙の後、再びペンを走らせ、口を開く。

 

「…………覚えていませんよ」

 

「……そうか。エトワールは物心つく頃には両親が居なかったんだっけ」

 

「ええ。でも、悲しさや寂しさというのは感じませんね……。何故だかは私にもわかりません」

 

「…きっと、君を救ってくれた人がそれだけ君の支えになっているのかもしれないね」

 

「かもしれません。……レビル様は、私に多くの事を教えてくれました。私は、誰の子でもない、レビル様の子として育ったのですから」

 

「………」

 

 その時のエトワールの顔は、ひどく悲し気で、見ているこっちまで心が苦しくなった。

 

 レビルという人物をとても信頼して、親と思っていても、どこかで気にしているのかもしれない。

 

 "自分の本当の親は誰なのか"、"自分はどんな人の子供なのか"、気になっているのかもしれない。

 

 でも、そんな心中を聞けるわけなくて、ただその悲しい瞳を見つめることしか出来なくて。

 

「……逆に聞かせてもらってもいいですか」

 

 エトワールがぽつりとつぶやく。

 

「え……」

 

「ムゲンさんの両親は、どんな人でしたか?」

 

「………俺の両親かあ……」

 

 頬杖を付きながら、記憶をたどりながら言葉に出していく。

 

「俺の両親は、MSの研究者だった。もっとも、それを知ったのは一年戦争の終戦間際、ある男から知った話だけれどね」

 

「父は厳格で、どんなことに対しても、誠意をもって行動していたよ。間違えたことがあれば、どんなに小さい子供にだって頭を下げていた」

 

「かつては情けないと思っていたけど、しっかりと謝ることのできる人間だったんだと、今では思うよ」

 

「…そんな父を、俺は確かに尊敬していた。家族として大好きだったからね。俺が一人息子だったのもあって、随分可愛がってくれたよ」

 

「……そうなんですか。……それでは、母は…?」

 

「母さんか……。あの人も、父さんと同じで研究者だったよ。だからたぶん、研究所で知り合って、それでお互い好きになったんだろうね」

 

「母さんは優しくて、どんなに苦しくても、辛くても、俺を第一に考えてくれた」

 

「父さんと母さんが喧嘩をしているところは、一回も見たことが無い。せいぜいあってもMSの研究で衝突することくらいさ。家族の中だったら、夫婦円満だった気がするよ」

 

「…そうですか」

 

 俺の言葉を聞くたびに、エトワールの表情は悲しさを増した。

 

 どうしたのだろうか。今日のエトワールは、いつもより感情が顔に出やすい。

 

「……なあ、エトワール。どうした?オービットさんとすれ違ってから、なんか変だよ?」

 

 エトワールはふう、と息を吐いて

 

「わたしにも分かりませんよ。ただ、あなたのように両親の事を鮮明に語れるほど、覚えていないだけという話です」

 

「エトワール……」

 

「すいませんね。急にこんな話をして」

 

「気にしないでいいよ。……そういう時もあるだろうに」

 

「……ええ」

 

 涙をこらえているようなその言葉、俺は彼のほうを見ずに静かにペンを走らせた。

 

 そのあと、エトワールのおかげもあって順調に資料を片付けることが出来た。

 

 エトワールはまだ仕事があるとかで、後で家で合流するらしい。

 

 

 その日の帰り道、俺はリナと共に街を歩いている。

 

 夕暮れに沈む太陽が、街を照らし、仕事帰りの人や、犬と散歩する人もいて、まだ賑やかだ。

 

 子供と手を繋いで帰る両親の姿、その子供の表情は穏やかで、そして幸せそうだった。

 

 そんな光景を見ながら、リナは小さく呟く。

 

「……なんか、平和だね」

 

 俺は小さく頷いて言葉を返す。

 

「ああ、平和だ」

 

「…懐かしいね。昔、デートした時のこと覚えてる?」

 

「覚えているさ、リナが大泣きした時の事だろう?」

 

「………真面目な話なのに」

 

 そう言ってぷいっとそっぽを向く彼女。

 

 俺は小さく笑い、言葉を続ける。

 

「冗談だって。…楽しかったよね。そうだ、今度またデートでもするかい?ロイにアウロラを任せて、二人っきりで」

 

「もう、あなたって人は……。でも、いいね。それじゃ、今度一緒に出掛けようか」

 

「ああ」

 

「……ふふっ、デートかぁ……楽しみだね!ムゲン!!」

 

 その時の彼女の笑顔は、かつて俺が惚れたリナ・ハートライトという子の笑顔そのままであった。

 

 彼女の出会いが、俺の心を、世界を変えてくれた。

 

 この感覚だけは、どんなに汚れても、傷ついても消えやしない感覚。

 

「それで、何の話だっけ?」

 

「……うん。私達、あれからちゃんと家族になれたよね」

 

「リナ……?」

 

 リナは立ち止まり、俯きながら言葉を続ける。

 

「……時々ね、怖くなるんだ。……私達って本当に家族なのかなって」

 

「それは、どうして?」

 

「……ううん。理由も分からないんだけど……少しだけ不安になっちゃって」

 

 俺は空を見上げる。夜の空と夕暮れの空、そのどちらもが混在するその世界を見つめながら、彼女に言う。

 

「不安……か。なら、リナ、君は今、幸せかい?」

 

「…え?」

 

「俺や、アウロラ、ロイ達といる事、幸せと思えているかい?」

 

 少し考えた後、リナは口を開く。

 

「……幸せ……かな。あなたと、子供たちと居れる時間が、一番安心でき……あれ……?」

 

 自身でも思ってもない事を口にしたように驚く彼女。

 

「君の本心がそう思っているのなら、それでいいじゃないか。俺たちは、本当の家族になれたんだよ」

 

「……ムゲン………」

 

 俺は、彼女を見て微笑みながら言った。

 

「もちろん、俺も同じさ。リナと、子供たちと居れる時間が何より幸せで、安心できる」

 

「……うん」

 

「帰ろうか。アウロラが、子供たちが待っているよ」

 

 俺は彼女に手を差し伸べる。

 

 しばらくぽかんとしていたが、彼女は俺の手を握り返してくれた。

 

 

 家族の形なんて、人それぞれで、他人がどうこう言えることじゃない。

 

 そして、その形がどんなものでも、その人にとっては一番安心できる居場所。

 

 俺にも、そしてエトワールにも、その居場所がある。

 

 俺はその居場所を守れれば、それでいい。

 

 世界を変える事ではなく、居場所を守るために、力を使う。

 

 それはきっと正しい事ではないかもしれない。それでも、俺は構わない。

 

 

 今日も夜が明ける

 

62 完




今回登場したオービットさんの設定です。

名前:オービット

年齢:65

性別:男

説明

ムゲン達に依頼を頼んできた男。

経歴、過去の事を話そうとせず、そう言う話をするとすぐにかわされてしまうとか。

なんとなく、エトワールを気にしているようだが……?
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