MSから見る宇宙は、前に見たキラキラと輝く世界ではなく、そこにあるのは暗黒と静寂が支配する世界。
だがそれよりも今は敵を撤退させることが先だ。
…エトワールはどうしているか…、俺より先に出撃しているはずだが…。
レーダーを確認するも、旧式のせいか精度が悪い。いまいち分かりづらかった。
「……レーダーはダメそうだな。…ならば目視で行くしかない」
目視で確認できるのは…4機か。しかし、ここに来る敵だ、バカじゃないはず…。
こちらの武装はあまりにも心許ないが、やれるだけやるしかないだろう。
「…行くぞ、ジム…」
機体を動かし1機に接近、気付かれる前に…一撃を叩き込む!
しかし、機体の性能差ゆえに、即座に反応されてしまう。
「なら…!!」
シールド代わりの鉄板を構えながら1機のジェガンに突っ込む。そしてそのままデブリまで押し込み、両腕の間接めがけてレンチを叩き込む。
両腕が動かなければ、最悪攻撃はできはしない…!
抵抗できずに居るジェガンの頭部を叩き潰す。その後素早く間合いを取り他の敵に目をやる。
「……後3機…!!」
動き出そうと操作をするも、反応が遅くワンテンポ送れてジムが動く。
「動きが…!!くそっ…!」
そうしている間に間合いを詰めながら射撃してくるジェガン。
鉄板を構えて防ごうとするが、所詮は鉄板。ビームを防ぐことなど不可能で…呆気なく鉄板がぶち抜かれる。
シールドの代わりに持ってきたが、余りにも粗雑過ぎた。
鉄板を放り投げ、ジェガンへと突っ込む。
それに合わせて射撃。…落ち着け…相手の攻撃を予測するんだ。
攻撃の予測と機体のラグを合わせて…動く!!
針の穴を通すような繊細な動き――細いその穴を、突く!!
「見えた……!!そこだ…!!!」
ビームを避しながら間合いをつめ、ライフルを持つその手をレンチで叩き潰す。
続けて頭部、そしてシールドを強引に剥ぎ取り装着。そのままシールドミサイルで左腕目掛け発射。
爆散していくジェガンを見終えた後、再び敵を捉えようとした瞬間だった。
背後からの殺気で機体を動かし、反転、シールドを構えた。
その一射はシールドに直撃し、シールドが吹き飛ぶ。
「何……!」
遠くから接近する1機を見て驚いた。それは……黒いガンダムであった。2年前にクロノードと俺の間に介入した白いガンダムと同じ形をした機体…。これは一体……?
驚きから一瞬動きが止まってしまう。その隙を逃がさずガンダムが続けて一射を放つ。
反応できない…?!
しかし、そのビームが俺に届くことは無く、目の前で何かが爆発する。
「…これは……」
[何をしているんです、ムゲンさん!!]
間に入り牽制するガンキャノン。
「エトワールか…!?すまない、助かった!!」
[気にせず。それよりこの機体は…!]
「……よりによって最悪の時に出会ったな…」
ガンダムはシールドを構えると圧縮されたビームがシールドから放たれる。
「来るぞ!!」
[……っ…!]
俺もエトワールもなんとか回避したものの……あの機体相手では勝率は皆無なのは目に見えた。
[ビームライフルで!!]
ガンキャノンがビームを放つがガンダムは悠々とシールドを構え、ビームをかき消した。
「…何…!?ビーム兵器が効かないのか!?」
[なら、キャノン砲を使います!!]
両肩のキャノンから弾丸が射出され、ガンダムへと迫るが、ガンダムは胸部からミサイルを発射し撃ち落す。
「まずいな……武装が効かない…!」
[…!いけない!]
呆気に取られた俺にガンダムの放つメガ粒子砲が襲い掛かる。
寸でのところで、エトワールが割って入りガンキャノンが破砕。
「エトワール!?」
[…ぐっ……!!]
「…このままじゃ……!!」
絶望的だった。だが…何か手は…何とかしなければ…
そんな中に、無線が入ってくる。
[ブランシャール君、聞こえるか。]
「……オービットさん…?」
[そのままではダメだ、一度こちらへ戻れ]
[ですが、そうしたらムゲンさんが……。…いえ、解りました。一度撤退します]
[聞こえているね、クロスフォード君。しばし耐えるんだ。今は……]
「……何か手があるんですか?」
[ここはどうか、私に任せてはくれないか。………少しでいい]
真剣なその声に、俺は断ることなんかできなかった。
「分かりました。出来るだけやってみます」
[頼んだぞ…。さあ、エトワール、こっちに!]
エトワールの機体が施設へと後退して行くのを見送り、ガンダムと相対する。
「…おまえの相手は、俺だ!!」
機体を動かし、ガンダムへと突っ込む。
ガンダムは、何もせず俺を待っているかのように…。
やつの前まで近づきレンチを振り上げ、腕の関節目掛けて殴りに掛かる。
それに対応するようにガンダムはシールドを構えて受け止めた。
「くそっ……!ジムだからって…舐めるなよ…!!!」
間合いを取って再び殴りにいこうとするが、その攻撃を察知してかガンダムはビームサーベルを引き抜き右腕を切り落とす。
「しまった!?――いや、まだだ!!」
切り落とされた右腕を掴んで、殴りに掛かる。
相手は余裕を持ってシールドを構えるはずだ。それなら、真正面から行かせてもらう!!
右腕を振り下ろすとガンダムは再びシールドを構えた――今だ……!!!
刹那、右腕の掴んでいたレンチを掴み、ガンダムの横腹に叩き込む。
その攻撃で体勢を崩したところを見逃さない。
ガンダムの間接目掛けて再び殴りかかる。
「でええい!!!」
振り下ろそうとした瞬間、ガンダムの瞳が一際強く輝いたと思うと振り下ろそうとしていたその場にガンダムは既に居なかった。
「なっ……後ろ――」
振り向くと、ガンダムと目が合い、対応するまもなく左腕を切り落とされ、腹部を蹴り飛ばされた。
「ぐあああああ!!!」
死ぬのか………?俺は………!!
[……死なせませんよ。あなただけは]
追撃が目の前で止まる。
「……エトワールか…!?」
俺の目の前に割って入ってくる1機のMS。紫にカラーリングされた、ジムともガンダムともいえない機体。
その機体が両肩のキャノンと両手に装備したビームライフルを一斉発射、その攻撃を次々と回避するガンダム。
しかし、その機体が狙っていたのはガンダムではない。周りに居たジェガンだった。
状況が悪いと感じたのか、ガンダムは踵を返して撤退していく。
「………なんとか…なったのか…」
[ええ。何とかなりましたね]
その姿は、ジムでありながらガンダムのブレードアンテナを付けた不思議な機体であった。
「その機体は……」
[
「…あ、ああ。分かった」
何とかガンダムを退けた俺たちは、施設へと戻った。
ボロボロのジムから降りた後、エトワールが乗っていた紫の機体に向かう。
「エトワール!」
エトワールはこちらに気付くと、優しく微笑んで見せた。
「無事のようで安心しましたよ、ムゲンさん」
「……ありがとう。助かったよ」
「礼は私ではなく、この機体に言ってください」
「……V-アルバ…だっけ。どんな意味が込められてるんだ?」
V-アルバを見上げながらエトワールに問うと、背後から
「それについては私が説明しよう」
「オービットさん……」
「無事のようだね。ハートライト君が心配していたよ」
「…は、ははは……」
「さて、名前の意味、だったね。Vは
「ヴァイオレット……?パープルじゃないんですか?」
「パープルと言うのは過去の色のことを言うそうだ。逆に、ヴァイオレットは"未来の色"を言うそうなんだよ。だから過去ではなく、未来へと願いを込めてヴァイオレットにしたんだ」
「……未来の色…か」
「そして、アルバは、"夜明け"と言う意味を持つ。どちらも、未来へと進んでいくモノだろう?この機体は、未来を切り拓き、人々に繋いでいく機体となってほしいからそう名付けたんだよ」
「……夜明けと未来か……。良い意味ですね」
「所詮は過去の人間のエゴさ。でも、今を生きる君たちにそれを背負わせることはしちゃいけない。だからせめて、私に出来ることで若者に力を貸したかっただけなんだ」
「オービットさん……」
「さて、もうすぐ機体の搬入も終わる。そろそろ地球へ戻るときだ。……それまでにはまだ時間が掛かるだろうから少し休憩しているといいよ」
「…はい、ありがとうございます。ほら、エトワール、行こう」
俺が促すとエトワールは首を横に振った後
「私は少しこの人と話があるので、先に休んでいてください」
「………そっか。分かったよ」
そうして俺は二人と別れて休憩することにした。
「……んーっ!……っはぁ……」
ベンチに腰かけながら身体を伸ばす。さて、休憩すると言ったが何をするか決まっていない。
少し見回ろうかと思い立ち上がった瞬間、目の前に立つ女性と目が合った。
「あなたは…レナさん、でしたっけ?」
俺が聞くと、女性は小さく笑った後
「ええ、そうですよ。何していたんですか?」
「いえ、ちょっと休憩して、暇だったから見回りでもしようかな、と」
「そうですか……。あ、丁度いいですし、少しお話しませんか?」
「俺は構いませんけど……。それじゃあ、ここで話しましょうか」
俺がベンチに腰掛けると、レナさんも隣に並ぶように腰かけた。
「それで……お話って言うのは?」
「大したことじゃないんです、本当にただ一緒にお話がしたかったんです。……他人と話す機会なんかほとんどありませんから」
それはどういう事なんだろう。恐る恐る聞き返してみる。
「他人と話す機会がない……?」
するとレナさんは少し悲しそうな顔をしながら言葉を続けた。
「ええ、私とア……オービットはここへ来て何年くらいですかね……。少なくとも10年以上は経っていると思いますよ」
「そんなに……。他の研究員とかは――」
言いかけてすぐさま言葉を詰まらせた。…たしか……
「言いたいことは分かりますよ。RE:RX計画が始まってから来た研究者はほとんどが異動か行方不明になってしまいましたからね」
「…私達は彼らがここへ来る前までも、そして計画が白紙になった後も……ずっと二人で研究をしていたんですよ」
「こんなこと…言っていいのかわからないですけど…。何の研究を……?」
レナさんは目を伏せながら言葉を続ける。
「MSの研究です。それも、"
「……戦うことを前提としない……MS……」
「ええ。でも………あの子の瞳を……決意を見据えてしまったから…」
「どういうことです?」
「先ほどエトワール…じゃなくてブランシャールさんが出撃した機体、あれこそが私達が10年という年月をかけて造り上げた"戦わない"MS……」
「でも、あれには武装が――」
「はい、とは言っても、急遽搭載したものですから、両肩のキャノンは先ほどの戦闘で使い物にならなくなりましたし、本来デブリの破砕を目的としたビームガンを強引に出力を上げて使ったものですから、これも…」
「………本当は…戦わせたくなかったですよね…」
「本心で言えばそうですけど、でも、それ以上に"
「大切な……モノ……?」
「エトワール………。あの子は、私とオービット…いえ、アッシュの息子なんです」
「え………?」
エトワールも両親を見たことが無いと言っていたが……まさかこんな形で出会っていたなんて。
「あの子と別れた日の事を、昨日のように覚えていますよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私とアッシュは、元々連邦軍でMSの開発、研究を携わっていた者でした。
本当は戦う兵器何て造りたくもない、ですが、"ある男"に脅迫され、従わざるを得なかったんです。
彼はエトワールを人質に私達を働かせました。
そして、ある時彼はこう言ったんです。
「いずれ来る計画のために、お前たちには宇宙へと上がってもらう」
「そんな!そうしたらエトワールは…!!」
「お前たちが従えば子供の命は保証されている。たとえ野に放ったところで、簡単に死にはしない」
「そ、そんな……それはあまりにも…」
「従えないのなら今この場で、子供を殺したっていい。私はどんな場所でもあの子供を殺せるんだからな」
「……………」
仕方がなかった。あの子を、エトワールを守るために、私達は一度も行ったことのない宇宙へと放り出されたんです。
そして、送られたのがこの何もない研究施設。そこで彼から送られるデータを基に機体の解析や開発を行ってきました。
苦しい日々も、あの子の為と思えば何とも思わなかった。
最初のうちは日にちを覚えていましたが、いつの頃からか、それさえも数える暇など無くなり、毎日夜遅くまでデータの解析、そして終われば眠る。それの繰り返し。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「気づけば私もアッシュも、こんなに歳を取ってしまったんです。私達は、外の事を一切知らされず、この辺境の宇宙でただ訳も分からないデータを解析していたんです」
「……ひどすぎる……」
「戦争があったのは知っていましたが、地球の存亡まで危ぶまれているなんて知りもしませんでしたよ」
虚しい笑い声が、俺の心を抉っていく。
こんな生き方が…こんな辛い日々があっていいのか……?
オービットさんや、レナさんの受けた悲しみも、苦しみも、俺が理解できる枠をはるかに超えているだろう。
……理解しようとしても、その絶望の深さは、もはや他人の言葉では届かないかもしれない。
「ですが……。私達もただ黙っているつもりはありませんでした」
「それじゃあ、何か物申したり……?」
「いえ、そんなことはしませんよ。私達がやったのは、まさにV-アルバなんです」
「V-アルバが……?」
「あの機体の本当の目的は、"ここから逃げるための手段"だったんですよ。だから、一応のビームガンも持たせていたんです」
「………」
「V-アルバが完成した時、きっとあの子に……エトワールに会いに行けると、そう信じて」
言葉が見つからなかった。どうにかいい言葉を探そうにも、すぐに泡となって消えていく。
苦しかった。理解できないからこそ、その痛みを俺も受けられない事……なにより、エトワールへの想いがここまで彼らの意志を強くしていたことに。
「でも、そんな矢先、あなた達が此処へとやって来た。エトワールを連れて。……私は見た瞬間あの子だと、理解できたんです」
「だからV-アルバがエトワールを連れてきてくれた…と」
「はい」
「……エトワールには、自分たちが親であることを伝えたんですか?」
レナさんは俯きながら首を横に振る。そして、震える声で続けた。
「出来るわけないですよ……。あの子は、きっと私達を恨んでいます。……それに、彼の意志をブレさせるわけには…いきませんから……」
「…なら、どうして俺にそんな話を……?俺が話してしまう可能性だってあるはずですよ」
「私にも分かりません……。ただ、何故か貴方には全てを打ち明けたくなってしまった。それだけなんです。…もしかすると、全て吐き出したかったのかもしれないですね…」
何か…言葉を探さなければならないはずなのに……それよりも、ただ涙が零れる。
「…俺は………やっぱり無力だ……。…こんな…こんな……!!」
「ムゲンさん………」
「…それは違うよ、ムゲン」
聞きなれた声、優しい声ながらも、強く、安心させられる声。
見上げれば、そこに立っていたのはリナだった。
「リナ………」
「ムゲン、あなたは無力なんかじゃない」
「…でも、俺はただ聞いている事しか……」
「じゃあムゲンは世界の全ての人の声を聞いて、その全ての人の願いも、過去も救えるの?」
「…………」
「出来るわけないよ。貴方も、私も…皆人間なんだから。この手で出来る事なんか、限られてるから……」
「そうですよ、ムゲンさん。あなたが泣いてくれて、私は本当に救われました。本当に久方ぶりに共感してもらえた。……ちょっとでも理解してくれた。それで、十分なんです」
「……レナ…さん……リナ………」
「さあ涙を拭いて。ムゲンには、ムゲンにしかできない事がある。そうでしょ?」
「………そう…だな……」
「ふふっ、頼もしい彼女ですね。ムゲンさん」
「ええ……本当に……」
……そうだ。どんな過去があれ、未来を作るのは、生きている人間だ。
今からだって遅くは無いんだ。……レナさんだって、エトワールとも和解できるはず。
どうして、こうまで他人の家族を想ってしまうようになったのだろう……。
いいや、分かっている。"俺と同じ気持ちを味わってほしくない"。そんな俺の"
その足は、運命に引き寄せられるように、その場所へと俺を導いた。
真っ暗な格納庫に足を踏み入れると、室内の明かりが灯され、"それ"を照らす。
「……これは…………」
俺がこの機体とここで出会ったのはきっと、偶然なんかじゃない。
お前は―――
「お前は………俺を待っていたのか……」
その機体は、ただ乗り手を求め、静かに待つのみだった。どれほどの時間、彼は此処に居たのだろう。
……お前も……こんなところには居られないんだ。
機体に乗り込んでシステムが動くのを確認する。ふと、コンソールに小さなディスクを見つけ、気になってみてみる事にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………これは………」
静寂。機内に響くのは、この機体の鼓動のみ。
小さく微笑んだ後、機体を降りて近くにあった電話を取って格納庫へと連絡を取る。
[はい……?]
運よく出てきてくれたのはリナだった。…彼女でないと頼めない事……。俺は静かに機体を見上げながら口を開く。
「リナ、ムゲンだ。……もう一機、輸送船に格納してくれ。……地球が恋しくてたまらないヤツが居るんだ」
いよいよ、この施設を出る時が来た。たったの数日間の出来事のはずなのに、こんなにも長く感じるとは思わなかった。
しかし、不思議な事に、オービットさんとレナさんは輸送船に入ろうとせず、不思議に思ったのかリナが首を傾げる。
「どうしたんだろ……オービットさんにレナさん……」
「…俺が見てくるよ」
席から立ち上がり、輸送船から降りると、二人の元へと向かう。
「オービットさん、レナさん、どうしたんです?もう機体の格納は終わったはずじゃ……」
オービットさんは静かに首を横に振った後
「いいや。……まだ終わってない。最期の仕上げをしなければ」
「…どういうことです……?まさか……!!」
オービットさんは地面に座り込むとフッと笑い、俺を見ながら続ける。
「君の思っている通りだ。この施設を破壊する。そして、私達もこの施設とともに消える」
「そんな…!そんなのあんまりですよ!!やっとエトワールに……息子に会えたんでしょう!?」
「そうだ。だからこそ、あの子を想っての―――」
「それは違う!!親が子にしてやることは、他にもたくさんあるはずです!!それから目を背けて、何が……何があの子を想ってですか!!」
「君に言われずとも、そんなことは分かっている。だがね、私達は何一つあの子に親としてしてあげられていなかった」
そうかもしれない……。でも、違う…本当は…!
「…レナさんは……どうなんです。オービットさんと同じ気持ちなんですか……」
俯くレナさんに問う。……レナさんも、オービットさんも分かっているはずなんだ。こんなこと間違っているって。
「…私は…………」
「レナさん言ってたじゃないですか、エトワールに会うために、V-アルバを造ったんだって。だったら……!!!」
レナさんの頬を伝う涙が、こちらからも見えた。俺は静かに彼女の返答を待った。
「…私は………………あの子と―――
あの子と……居たい……!!!」
レナさんの必死な声が、格納庫に響く。
「レナさん……。それでいいんですよ。…間違ってなんかないです」
「例えあの子が私を恨んでいようと……私を知らなくても…それでもいい。私は、私だけがあの子の母親なんですから。……だから……」
レナさんは涙を流しながらオービットさんのほうを向いて
「…だから、帰りましょう。あの子と一緒に、地球へ」
「レナ………」
だが、彼は首を横に振り
「すまない。…私には、あの子に顔向けできる人間ではない。……私はあの子を捨ててしまった。望んでいなくとも、彼はきっと私を恨んでいる。だからこそ…私はオービットとして、ここで死ぬ」
「アッシュ……!!」
彼の意志は固かった。……でも、こんな別れ…やっぱりだめだ…!
イーサンの時と同じことを繰り返しちゃいけない。
もう、目の前で家族が離れ離れになるなんて…!!
「…レナ、輸送機へ乗るんだ。直にこの基地も爆発する」
「アッシュ…!!」
「………エトワールの事は――――」
「ふざけないでください」
格納庫に響く凛とした声。その声の主を、この場にいる皆が理解した。
「エトワール………」
「何が息子のためにここで死ぬですか。何が何一つしてあげられなかったですか。…そんな……そんな小さなことを気にして、逃げるんですか」
「だが…私は…」
「なら、私が貴方を許すと言えば、貴方はそれで満足するんですか?違いますよね。貴方は、そんな事で満足する人じゃない。むしろ、言われたくないから今まで私に親であることを黙っていたんでしょう」
エトワールは、声こそ震えてはいなかったが、その瞳は確かに潤んでいた。
「……初めて私が貴方を見た時、少しだけ違和感を感じたのは、親だからじゃない。"私に似ていたから"ですよ」
「私が…エトワールに……?」
「ええ。きっと、私も歳を取れば、貴方のような口調になり、もっと物腰も柔らかくなるでしょう。……何より、頑なに自分の意志を曲げない所を見て確信しましたよ」
「"
「………!」
「いいですか、死ぬことは、罪滅ぼしでも何でもありません。貴方はただ目の前の"私という存在"から逃げようとしているだけです」
「過去が無ければ未来は無い。そして、貴方の未来を作るのは誰でもない、貴方自身。それとも、今目の前で手を差し伸べている人さえも振り切り、死を選ぶんですか」
「しかし………」
「貴方は……!!!」
俯くオービットさんの胸ぐらを、エトワールは掴み、声を震わせながら続ける。
「なら貴方は何故あの機体に、未来と明日の意味を込めた!!!!」
「っ………」
「貴方が未来と明日の意味を機体に込めたのは、貴方自身が"生きたい"と思っている証拠なんじゃないのか!!!」
「恨みつらみで命を捨てるのは、逃げる事と同じだ!!」
「戦え!!!意地でも生きて未来を見つめろ!!!貴方が男なら――いいや!私の父なら!!!!」
肩で息をしながら、その手を離すエトワール。
そして一時の間が空いて、オービットさんが小さく笑う。
「ははは……。そうだな。私も歳を取ったという事か……、我が子に説教を食らうことになるなんて、思いもしなかった」
「アッシュ……」
アッシュさんはレナさんのほうを向いて微笑みながら言った。
「…死ぬことは、未来から目を背ける事になる。……彼らのおかげで目が覚めたよ。私も地球へ降りよう。……構わないかな?」
「…もちろんですよ、あなた……」
涙を流しながらレナさんは笑っていた。良かった……今度は間違えずに済んだのかもしれない。いいや、間違えてなんかない。
レナさんの嬉しそうな表情や、エトワールの穏やかな表情を見て確信した。これで、良かったのだと。
こうして全員で輸送機に乗り込むことが出来て、俺自身もとても嬉しい。
家族の再会は、こうでなければ…ね。
リナの隣の席に戻ると、リナがハッとして目元を隠す。
「…どうした?リナ」
「………ううん。ちょっと…エトワールさんの話を聞いちゃってさ……何でだろうね……涙が止まらないんだ…」
「そっか……」
俺は彼女の肩に手をまわして軽く撫でてやる。
「あ………」
「俺もリナと同じ気持ちさ。これで良かったと思っているよ」
「……そうだね…。両親かぁ………」
「恋しくなった?」
「…ちょっとだけね。でも、もうそう言っていられる時じゃないからさ。今じゃ私がお母さんで、あなたがお父さんになっちゃったんだから」
「…そうだね。………帰ろうか、地球に」
「うん」
輸送機が施設を脱出すると同時に施設が爆破。その光景を、輸送機の中から見送った。
それから数日後、何事もなく宇宙の航海を続け、地球圏へと戻ってくる。
しかし、問題はそこからだった。俺たちを乗せた輸送船の前方に、戦艦とMS部隊が展開していた。
「……一体どういうことだ…?!」
「……リナ、識別は?」
「アンノウンだけど……見たところ連邦のMS……?」
「連邦ならあんし―――」
言葉を言い切る前に、頭の中で、声が響いた。
『――降下してくる連邦機は――だ!!』
『先生……助けて……!!』
最初の声は聞き取りにくかったが、二人目の声はハッキリと聞こえた。……リリーの声…!!
居てもたってもいられなくなった俺は、席を立つ。
「何をするつもり!?」
「………呼んでいる…。地球でリリーが助けを求めてるんだ。……今すぐにでも降りないと」
「そんな!降りれる機体なんか無いよ!!」
「"アイツ"を使う」
「無茶だよ!あの機体は大気圏突入能力は無いんだよ!?」
「それでも…!声が聞こえて、助けを呼んでいる人がいるのに黙ってみている事なんかできない!!」
リナに叫ぶと、エトワールが静かに立ち上がり言う。
「ムゲンさん。……その声は確かにリリーさんの声だったんですね?」
「…ああ。間違いない。最初に聞こえた声は…恐らくファングのだ」
「分かりました。機体で準備を」
「エトワールさん!?」
今にも飛び掛かろうとするリナをエトワールは首を横に振り制止する。
「大丈夫です。ムゲンさんでも安心して大気圏を突破させて見せます。父上、V-アルバのシールドは」
「…ああ、ある。試作で1セット造ってあったのを持ってきた」
「十分です。早速性能テストを兼ねて彼に"飛んで"もらいましょう」
「…なるほど。よし、分かった。クロスフォード君。聞いた通りだ、機体に乗り込んだらいつも通り機体を動かしてくれ」
「……了解」
格納庫に佇むMSに乗り込み、システムを起動させる。この視界や機体の感覚、まるで"エッジ"や"ミラージュ"に乗っている気分を思い出させた。
周りを確認すると、V-アルバがこちらへシールドを装着している姿が見えた。それと同時にアッシュさんから通信が入る。
[クロスフォード君。その機体に装備させたシールドは、単機での大気圏突破能力を持つシールドだ。大気圏突破時には機体を摩擦熱から守るようにシールドを前に展開してくれ]
「……了解」
[……君のタイミングで出撃してくれ。……後は、強化人間――いや、"ハーフニュータイプ"である君の勘を信じるよ]
「ありがとうございます。……リナ」
[………何]
俺が強引に出撃しようとしているのを彼女は快く思っていないだろう。それに、この機体は地上戦用の機体だからなおさらだ。
…それでも、やらなきゃいけない。
「必ず帰る。君の元に」
[……嘘ついたら許さないから]
「…ああ、絶対だ」
正面のハッチが開き、一歩ずつ踏み出していく。そして、深呼吸した後
「ムゲン・クロスフォード、ガンダム・ピクシー、出撃する!!!」
ディスクに入っていた音声データを思い出す。
『ムゲン、随分久しいなあ。覚えてるかも分かんないが、これを見てるって事は、ピクシーを見つけたんだな』
『ソイツは俺からのプレゼントだ。持っていってくれ。…今じゃ、俺にとっては無縁の代物だからな。それに、お前さんならこの機体を扱えると確信しているからな』
『……お前さんには、沢山の仲間がいる。忘れるなよ、リッパーも、ボマーも…そして俺も、お前の仲間だ。だからお前さんの信じる道のためにソイツを使え』
『お前さんには"
「……ああ、トラヴィスさん。レイスの皆の想い、確かに受け取った。俺は、大切な仲間のために……ピクシーを使う!!」
シールドを正面に展開し、大気圏を突破していく。
「背中は……支えてもらってる。……恐れはしない…!!」
大気圏を突破し、地上での射撃の軌道が確認できる。……そこか…!!
「皆……今行く!!!」
ダガーを引き抜いて、真下にいる1機目掛け投げつける。
頭部に直撃すると同時にもう一方のダガーで両断し、地面に着地する。
爆風の中、16年という時を経て、解き放たれた"
「……俺が…相手だ!!」
64 完
今回登場した新型機、V-アルバとエトワールの両親の設定になります。
名前:アッシュ・ブランシャール
年齢:65
性別:男
説明
エトワールの実の父で、妻であるレナと共に10年以上施設で監禁状態で研究を行っていた。
V-アルバの開発、建造を行った人物で、機体名の名付け親でもある。
エトワールの身のためとは言え、彼を捨ててしまったことを心から後悔しており、機体フレームの譲渡後は施設ごと自爆しようと考えていた。
しかし、エトワールの本当の気持ち、彼自身からの言葉を聞き、再び世界と向き合う決意を固める。そして施設を爆破し、妻とエトワールと共に地球へ降りた。
コードネーム:レナ
年齢:64
性別:女
説明
オービットの施設にいた唯一の研究者。
おしとやかで優しい性格。エトワールと似た特徴を持ち、蒼いロングヘアー。
その正体はエトワールの実の母で、夫であるアッシュ(オービット)と二人で10年以上エトワールのことを想いながら施設で研究を行っていた。
本名はレナ・ブランシャール。
長い間話す機会が無かったため、話すことが少ないが、本来はお話が大好きなお母さんである。
機体名 V-アルバ
正式名称 Violet Alba
型式番号 RIX-8080
生産形態 ワンオフ
所属 第00特務試験MS隊
全高 23.5m
頭頂高 20.4m
本体重量 21.3t
全備重量 54.6t
出力 1,900kW
推力 78,000kg
センサー 22,000m
有効半径
武装 専用ビームライフルx2
ビームサーベルx1
アルバ・キャノンx2
脚部6連装ミサイル・ポッドx2
シールドx2
搭乗者 エトワール・ブランシャール
機体解説
アッシュ・ブランシャールとレナ・ブランシャールが10年もの時間をかけて完成させた機体。
元々は二人が施設から脱出するために開発された。そのため本来であれば非戦闘用MS。しかし、施設襲撃防衛の際中破したガンキャノンに代わりエトワールに託されることになる。
頭部はジェガンタイプのメインカメラを持ちながら、V字のブレードアンテナを持つ不思議な機体。胴体は脚部や各場所にスラスターの増設が見られるものの、ジェガンタイプと変わりはない。
その後地球に降りてから武装が再開発され、専用のビームライフルを2丁、今までの戦闘データを解析し、調整を施したランドセルに2門装備される低反動キャノン砲、そして脚部に6連装ミサイル・ポッドを搭載した。
なお、シールドは追加武装として装備可能で基本的に使い捨て。このシールドを両腕に装備することで防御力の向上が見込め、さらにシールドを二重に重ねる事でV-アルバ単機で大気圏突破が可能。
塗装は紫を基調に、一部赤とグレーで塗り分けられている。
機体名のVは紫を意味するヴァイオレット、アルバは"夜明け"を意味する。アッシュはこの機体に"明るい未来への夜明け"を願って込めたのかもしれない。