一方のエトワールは、彼らの事をどう見ていたのか。
そして、エトワールは決意を新たに前へと進む。
―After the war 0095― 最終話
初めてその人を見た時、私は一瞬何か他人とは思えない"違和感"を感じた。
その時はまだ、理由なんて分かりはしなかった。
ただその違和感が、私の胸の中でずっと引っ掛かり、忘れられない。
ある時、ムゲンさんと話をしていた時、話題は両親の話になった。
「君の両親って、どんな人だったんだい?」
そう聞かれた時、私は一瞬思考が停止した。
当然だ、覚えていないのだから。私も、何度も考えた事だ。
私の父はどんな人だったのか、母は、皆が言うような優しい存在だったのかと。
けれど、どんなに考えたところで、私には両親の記憶というモノが無い。確かめる術などありはしなかった。
私は動揺を隠しながら口を開く。
「…………覚えていませんよ」
「……そうか。エトワールは物心つく頃には両親が居なかったんだっけ」
「ええ。でも、悲しさや寂しさというのは感じませんね……。何故だかは私にもわかりません」
「…きっと、君を救ってくれた人がそれだけ君の支えになっているのかもしれないね」
「かもしれません。……レビル様は、私に多くの事を教えてくれました。私は、誰の子でもない、レビル様の子として育ったのですから」
その言葉に嘘や偽りはない。レビル様に拾われて、私は沢山の事を教えてもらい、学び、
―――けれど
心の奥底では、望んでいたのかもしれない。本当の家族というモノを。
優しい母親に、厳しくも私を想ってくれる父親というモノに。
思ってしまえば、ひどく悲しい気持ちになった。
「………」
ムゲンさんの両親は、どんな人たちだったのだろうか。
素直な気持ちとして、私は口を開く。
「……逆に聞かせてもらってもいいですか」
「え……」
「ムゲンさんの両親は、どんな人でしたか?」
「………俺の両親かあ……」
彼は頬杖を付きながら、言葉を続けた。
「俺の両親は、MSの研究者だった。もっとも、それを知ったのは一年戦争の終戦間際、ある男から知った話だけれどね」
「父は厳格で、どんなことに対しても、誠意をもって行動していたよ。間違えたことがあれば、どんなに小さい子供にだって頭を下げていた」
「かつては情けないと思っていたけど、しっかりと謝ることのできる人間だったんだと、今では思うよ」
「…そんな父を、俺は確かに尊敬していた。家族として大好きだったからね。俺が一人息子だったのもあって、随分可愛がってくれたよ」
「……そうなんですか。……それでは、母は…?」
「母さんか……。あの人も、父さんと同じで研究者だったよ。だからたぶん、研究所で知り合って、それでお互い好きになったんだろうね」
「母さんは優しくて、どんなに苦しくても、辛くても、俺を第一に考えてくれた」
「父さんと母さんが喧嘩をしているところは、一回も見たことが無い。せいぜいあってもMSの研究で衝突することくらいさ。家族の中だったら、夫婦円満だった気がするよ」
「…そうですか」
「……なあ、エトワール。どうした?オービットさんとすれ違ってから、なんか変だよ?」
私はふう、と息を吐いて
「わたしにも分かりませんよ。ただ、あなたのように両親の事を鮮明に語れるほど、覚えていないだけという話です」
聞かなければよかったと、少しだけ後悔した。
これだけ幸せそうに家族を語ることのできる彼に
私には無いものを、彼は持っている。
……それがとても……苦しかった。
多くの別れも体験した、出会いも…、それでも、この気持ちは、初めてだった。
「エトワール……」
「すいませんね。急にこんな話をして」
悔しかった。満足に両親の記憶を持たない自分に。
悲しさが胸を支配して、気づけば自然と涙が零れていた。
「気にしないでいいよ。……そういう時もあるだろうに」
「……ええ」
それがきっかけだったのかも知れない。
私は、すれ違った人物、オービットさんの事を少し意識してしまうようになった。
理由は、まだ分からなかった。
でも確かなのは、なぜか懐かしさを覚えたという事。
レビル様に抱き上げられた時の懐かしさのような……そんな何か。
でもその"何か"という疑問は、だんだんと私の中で確信に変わっていく。
それは、ムゲンさん達と共に機体フレームを受け取りに施設に行ったときだった。
ムゲンさんは機体フレームのデータ取りのためにしばらく動けず、またリナさんも同じで、何かあったら私が何とかしなければならない。
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、白衣を着た女性とすれ違う。
はっとして、振り返ると、その女性もまた、私を見てはっとした表情でこちらを見ていた。
白髪で、華奢な体、整った顔、そしてガーネットの瞳。
その時、何かが……私の中で眠っていた何かが呼び起こされた気がした。
かつて私は、"
女性は震える声で言う。
「エ、エトワール……さんですか?」
ただ名前を聞かれただけなのに、なぜか緊張してしまい…
「はっ、はい……そうですけど…」
声が上ずってしまった。
私がエトワールだというのを理解した女性は、安堵の表情をした後、微笑みながら言葉を続けた。
「そうですか……。私は、レナ。短い間ですけど、よろしくお願いしますね」
「…エトワール・ブランシャールです。よろしくお願いします」
それから、私達は二人で何てことのない話をした。
ほとんどレナさんからの質問ばかりだったが、何故かそれも苦には感じず、むしろ話すたびに安心感を覚えた。
……私の母親も、こうして話を聞いてくれたのだろうか………。今では確かめようがないが。
ふと、レナさんがこんな質問をした。
「エトワールさんには、家族はいらっしゃるんですか?」
「……いえ。覚えてないんです。覚えているのは、一人だった私を拾ってくれたレビル将軍の事だけです」
「……そうですか……。随分寂しい思いを……」
寂しいと言えば寂しいかもしれない。けれど、後悔はしていない自分がいる。
「寂しい時もありますが、この痛みや、この感覚が無ければ、私は今この場所にはきっと立っていません。だから、後悔はしていませんよ」
けれど……
けれど――
「もし、両親が生きているのなら、もう一度会ってはみたいですね」
「…どうして」
それでどうというわけでは無い。ただ会いたいだけ。
そんな感情が、自然と口から零れだす。
「……会いたいだけですよ。会ったことが無いんですから。私の両親が、どんな人なのか、それをこの目で見たい。想像ではなく、本当の両親を」
レナさんはにっこり微笑んで、私に言う。
「大丈夫。きっと会えますよ」
その笑顔は、不安や悲しみを消してくれて、胸に小さな温かさをくれた。
「…そう、ですね……。きっと……」
それから私はレナさんと別れ、ムゲンさんが出てくるのを椅子に腰かけて待った。
暫くの時間が経った後、彼は部屋から出てくる。私はにっこり微笑みながら彼に言葉をかけた。
「ムゲンさん、目が覚めましたか?」
その時の彼の表情は良く覚えている。
何て言うんだろう、幽霊を見たかのような表情だった。
「……あ、すまない。……隣、いいかな」
「ええ。構いませんよ」
彼は私の横に腰かける。
「………」
お互いに何かを話すわけでもなく、静寂。
それに耐えられず、ムゲンさんは口を開いた。
「…えっと……なあ、エトワール」
「なんです?」
「……君は、レナさんって人には――」
「会いましたよ」
彼の言いたいことは分かっていたから、言いきらせる前に遮った。
「………そ、そうか……なんか、あの人、似ているね。エトワールに」
「そうですか?………私はそうは思いませんでしたけど」
なんてことない返事をして見せたが、私は似ているというより、懐かしさを感じた。
「……そっか。なら、俺の気のせいかもしれないな……」
「それにしても、どうしてそんなことを言い出したんです?似ているなんて、急ですね」
「…ああ…何て言うんだろう……言葉にしにくいけど、似ているように感じたんだよ」
そんなに似ているのだろうか……似ているのならどこが似ているのだろう…。少しだけ気になった。
「へえ……。不思議な事もあるものですね……」
「エトワールは、あの人と会ってどう感じた?」
「どう、と言われても……特に何も思いませんでしたよ」
「…そう…か……俺の考えすぎ…かな」
そんな彼の疑問も、私自身の悩みの疑問も、もうすぐ晴れる事になる。
突然の施設襲撃に対応するため、私は戦場に出た。
ガンキャノン、この機体とも随分長い間一緒に戦ってきたと思う。
彼も、きっと私の家族の一人かも知れない。
……さあ行こう、彼らを護るために。
宙域では既にMSが施設を包囲している状態で、数は5機ほど。
「……やれるだけやりましょう。……まずは!!」
ビームライフルを構え、一射。続けてキャノンを発射する。
ビームを回避し、位置に誘導させたところをキャノンで狙い撃つ。
作戦が見事に的中し、直撃を受けるジェガン。
気づかれたのか、こちらにMSが集結してくる。
でも、敵が誤算だったのは、こちらが遠距離機体だという事を知らない情報不足。
バルカンで敵のレーダーを誤認させ、ビームライフルで1機ずつ撃ち抜いていく。
残り2機になったであろうタイミングで友軍機の反応。…ムゲンさんなのか……?
「…彼は一体何を…!?…くっ!!」
さらにこの状況で型式不明機の接近。間が悪すぎる…!
キャノンを放ち、位置を誘導させる。そして、ビームライフルで一射。
敵の練度は低いようで、2機まとめて墜とすことが出来た。
急がなければ!
間に合ってきてみれば、ジムに黒い機体がビームを放とうとしてた瞬間だった。
咄嗟にキャノンを2機の間に打ち込み、ビームを相殺させる。
[エトワールか…!?すまない、助かった!!]
「気にせず。それよりこの機体は…!」
黒い機体は、かつてアクシズの戦いのとき一度だけ目撃されたと言われるガンダムタイプと同形状の機体だった。
[……よりによって最悪の時に出会ったな…]
ガンダムはシールドを構えると圧縮されたビームがシールドから放たれる。
[来るぞ!!]
「……っ…!」
お互いなんとか回避したものの……あの機体相手では勝率は皆無なのは目に見えた。
「ビームライフルで!!」
ビームを放つがガンダムは悠々とシールドを構え、ビームをかき消した。
[…何…!?ビーム兵器が効かないのか!?]
「なら、キャノン砲を使います!!」
両肩のキャノンから弾丸が射出され、ガンダムへと迫るが、ガンダムは胸部からミサイルを発射し撃ち落す。
[まずいな……武装が効かない…!]
「…!いけない!」
ジムの前に立ちふさがり、直撃を受ける。
[エトワール!?]
「…ぐっ……!!」
機体が頑丈だったおかげで、私自身にはそれほど怪我は無かったが、これでは勝ち目がない。
……どうすれば……。
そんな中に、無線が入ってくる。
[ブランシャール君、聞こえるか。]
オービットさんの声……。
[そのままではダメだ、一度こちらへ戻れ]
「ですが、そうしたらムゲンさんが……。…いえ、解りました。一度撤退します」
状況が状況なだけに、今の私では足手まといなのは自分でも理解できた。
それに、彼は何か手があるようで、ならば、信じてみるしかない。
[聞こえているね、クロスフォード君。しばし耐えるんだ。今は……]
[……何か手があるんですか?]
[ここはどうか、私に任せてはくれないか。………少しでいい]
[分かりました。出来るだけやってみます]
[頼んだぞ…。さあ、エトワール、こっちに!]
……今…私を呼び捨てに……?
迷いを振り切り、誘導された位置から施設へと入る。
コックピットから脱出し、オービットさんの元へ。
「無事だったか…良かった……」
「私は何とも……。でも、急がないとムゲンさんが」
彼は大きく頷き、こちらへと言いながら歩きだす。
「今から見せる機体は、元々は私達が使う予定だったのだが……君に託そう」
「………」
オービットさんは機体を覆う布を取り払う。
そこに現れたのは紫の色をしたジェガン…のような機体だった。
「…これは……」
「V-アルバ。元々は私達が施設から脱出して我が子を探すために造った機体だった。だが、それももう"
「………」
要らなくなった…とはどういう事なんだろう。…いいや、何故か自分の中での疑問も少しずつ晴れ始めているのが理解できた。
「時間が無い。1回きりだがビームライフルとキャノンは使えるようにしてある。うまく使って切り抜けてくれ」
「…了解」
機体に乗り込みシステムを起動させていく。
凄い……ガンキャノンより全てにおいて段違いの性能……。
これなら、彼を守ることも出来る…!
「エトワール・ブランシャール、V-アルバ、出撃します!!」
再びの戦場。だが、今度は違う。
ボロボロのジムを捉えると、小さく微笑み
「……死なせませんよ。あなただけは」
[……エトワールか…!?]
ガンダムとジムの間に割って入り、ガンダムを見据える。
両肩のキャノンと両手に装備したビームライフルを一斉発射。狙うのはガンダムではなく、周りのジェガン。
数を減らすのは戦場では当然の行動だ。後はガンダムという所で、ガンダムは踵を返して撤退していく。
相手も人間だ、数的不利では分が悪いと感じるのは当然だろう。
その後私達は施設へと帰還。なんとかムゲンさんを守れてよかった。
機体から降りると、元気そうな彼の声が飛び込んでくる。
「エトワール!」
あの嬉しそうな表情を見るのも悪くは無いと、最近思い始めている。
「無事のようで安心しましたよ、ムゲンさん」
「……ありがとう。助かったよ」
「礼は私ではなく、この機体に言ってください」
「……V-アルバ…だっけ。どんな意味が込められてるんだ?」
意味……考えたことなかった。すると、背後の声の主が
「それについては私が説明しよう」
「オービットさん……」
「無事のようだね。ハートライト君が心配していたよ」
「…は、ははは……」
「さて、名前の意味、だったね。Vはviolet…つまりまあ機体の色のヴァイオレットの略称だ」
「ヴァイオレット……?パープルじゃないんですか?」
「パープルと言うのは過去の色のことを言うそうだ。逆に、ヴァイオレットは"未来の色"を言うそうなんだよ。だから過去ではなく、未来へと願いを込めてヴァイオレットにしたんだ」
「……未来の色…か」
「そして、アルバは、"夜明け"と言う意味を持つ。どちらも、未来へと進んでいくモノだろう?この機体は、未来を切り拓き、人々に繋いでいく機体となってほしいからそう名付けたんだよ」
ヴァイオレットアルバ………夜明けと未来……悪くない。
「……夜明けと未来か……。良い意味ですね」
「所詮は過去の人間のエゴさ。でも、今を生きる君たちにそれを背負わせることはしちゃいけない。だからせめて、私に出来ることで若者に力を貸したかっただけなんだ」
「オービットさん……」
「さて、もうすぐ機体の搬入も終わる。そろそろ地球へ戻るときだ。……それまでにはまだ時間が掛かるだろうから少し休憩しているといいよ」
「…はい、ありがとうございます。ほら、エトワール、行こう」
ムゲンさんが促すが、私は静かに首を横に振り
「私は少しこの人と話があるので、先に休んでいてください」
「………そっか。分かったよ」
彼は少しだけ残念そうに格納庫を出て行った。
「……V-アルバ、良い名前ですね」
私は改めて彼にそう言った。
「ああ。…私もそう思うよ。でも、さっきも言ったが所詮は人間のエゴさ」
「いいんじゃないですか?」
「…ブランシャール君…?」
「貴方は、この機体に夜明けと未来の意味を込めたのは、きっと貴方の願いなんでしょう。願いまでエゴというのなら、何が正しいと言えるのでしょうか」
「だから、貴方は誇っていい。この機体に込めた意味を」
「……ありがとう、ブランシャール君」
彼に礼を言われて、なんだか急に恥ずかしくなって、恥ずかしさを紛らわすために、背を向けて言う。
「それでは、私も少し休憩しますよ」
「……ああ、お疲れさま」
疑問は、もう…晴れた。彼は……彼らは……
「ふざけないでください」
いつまでも強情で、一度決めたことは絶対に曲げない。
「エトワール………」
「何が息子のためにここで死ぬですか。何が何一つしてあげられなかったですか。…そんな……そんな小さなことを気にして、逃げるんですか」
「だが…私は…」
そんな覚悟が、私とよく似ていて―――
「なら、私が貴方を許すと言えば、貴方はそれで満足するんですか?違いますよね。貴方は、そんな事で満足する人じゃない。むしろ、言われたくないから今まで私に親であることを黙っていたんでしょう」
その疑問は、確信に変わった。彼は、"私の父"だと
「……初めて私が貴方を見た時、少しだけ違和感を感じたのは、親だからじゃない。"私に似ていたから"ですよ」
「私が…エトワールに……?」
「ええ。きっと、私も歳を取れば、貴方のような口調になり、もっと物腰も柔らかくなるでしょう。……何より、頑なに自分の意志を曲げない所を見て確信しましたよ」
「"流石家族だな"と」
やっと、言えたんだ。この言葉を。
私にも家族が居たんだと。そんな父親が目の前で死のうとしているのを止めない息子は居ない。
「………!」
「いいですか、死ぬことは、罪滅ぼしでも何でもありません。貴方はただ目の前の"私という存在"から逃げようとしているだけです」
「過去が無ければ未来は無い。そして、貴方の未来を作るのは誰でもない、貴方自身。それとも、今目の前で手を差し伸べている人さえも振り切り、死を選ぶんですか」
「しかし………」
「貴方は……!!!」
「なら貴方は何故あの機体に、未来と明日の意味を込めた!!!!」
「っ………」
「貴方が未来と明日の意味を機体に込めたのは、貴方自身が"生きたい"と思っている証拠なんじゃないのか!!!」
「恨みつらみで命を捨てるのは、逃げる事と同じだ!!」
「戦え!!!意地でも生きて未来を見つめろ!!!貴方が男なら――いいや!私の父なら!!!!」
皆が静寂に包まれる。
肩で息をしながら、地面を見つめると、自然と涙が零れてきていた。
そして一時の間が空いて、父が小さく笑う。
「ははは……。そうだな。私も歳を取ったという事か……、我が子に説教を食らうことになるなんて、思いもしなかった」
「アッシュ……」
父上は母上のほうを向いて微笑みながら言った。
「…死ぬことは、未来から目を背ける事になる。……彼らのおかげで目が覚めたよ。私も地球へ降りよう。……構わないかな?」
「…もちろんですよ、あなた……」
ムゲンさんのほうを見ると、とても幸せそうな表情をしていた。
まるで、自分の家族みたいに………
いや……私が気づいていなかっただけなのかもしれない。
本当の家族は……既にいたんだって。
「エトワール、良かったな」
小声で彼が言う。
私は涙を拭きながら
「ええ………。ありがとう、ムゲンさん」
一言、そう言った。
数日後、地球圏へと戻った私達だが、何やら様子がおかしい。
連邦の船とMSが地球へと降下していく……。
それと同時にムゲンさんが立ち上がり
「………呼んでいる…。地球でリリーが助けを求めてるんだ。……今すぐにでも降りないと」
父上が言っていた通り、彼は本当にニュータイプだったんだろう。だから、私達には聞こえない"声"を感じた。
それが偽りだったらそこまでかも知れない。
けれど、私は………
「そんな!降りれる機体なんか無いよ!!」
「"アイツ"を使う」
「無茶だよ!あの機体は大気圏突入能力は無いんだよ!?」
「それでも…!声が聞こえて、助けを呼んでいる人がいるのに黙ってみている事なんかできない!!」
私は静かに立ち上がり、彼に問う。
「ムゲンさん。……その声は確かにリリーさんの声だったんですね?」
「…ああ。間違いない。最初に聞こえた声は…恐らくファングのだ」
「分かりました。機体で準備を」
信じたい。彼を、大切な家族を信じたかった。
「エトワールさん!?」
今にも飛び掛かろうとするリナさんに対し、私は首を横に振り制止する。
「大丈夫です。ムゲンさんでも安心して大気圏を突破させて見せます。父上、V-アルバのシールドは」
「…ああ、ある。試作で1セット造ってあったのを持ってきた」
「十分です。早速性能テストを兼ねて彼に"飛んで"もらいましょう」
「…なるほど。よし、分かった。クロスフォード君。聞いた通りだ、機体に乗り込んだらいつも通り機体を動かしてくれ」
「……了解」
そう言って彼は格納庫へと走り出す。
まったく、彼女へのケアが先だろうに……。
私は俯くリナさんに口を開く。
「リナさん」
「……なんです」
「信じてください。夫である彼を、そして、"私達家族"を」
「………エトワールさん………。分かった、貴方を信じるよ」
私は力強く頷き、格納庫へと向かう。
V-アルバでその機体を見た時、本当に彼は
でも、そんな彼だからこそ信じたいと思えたのかもしれない。
V-アルバのシールドを、その機体に装着しながら想う。
私の家族を繋げてくれた彼を、今度は私が支えなければ。
今の私に出来る事を
正面のハッチが開き、一歩ずつ踏み出していく。そして、深呼吸した後
[ムゲン・クロスフォード、ガンダム・ピクシー、出撃する!!!]
その背中を見送りながら、父上に通信を送る。
「父上、彼は…ムゲンさんは凄い人です」
[……かも知れないな。だが、私にはエトワール、君も十分凄い人だ]
「…何故です?」
[命を捨てるような行動を、彼がしても、動じずに信じようとした。本来ならハートライト君みたいになってしまうはずなのにな]
「大体は、彼と、部隊のおかげですよ。それに、やっと私にも理解できたんですから。"家族"というものを」
「後、私はV-アルバを造った父上と母上を信じています。私を探すためにこの機体を造ったんですから。きっと…」
[……よ、よせ。恥ずかしい話だよ]
「……ふっ」
地上に降りる頃には、既に事は終わりを迎えていた。
荒野に佇むピクシーの背中には、多くの重荷があるように思えた。
彼はとてもたくさんの重荷を力に変えている。
前の私ではとても追いつけないと思っていた。
でも違った。
追いつく追い付かないではないんだ。
彼にも背負うものがあるように、私にも、背負うものがあったんだと―――
彼のおかげで知ることが出来た。
私は、私に乗っている荷物を守るために、戦おう。
そして、信じよう――"明るい夜明けの未来を"
外伝 完