そのころ地上ではジオン残党が着々と反抗の準備を進めていた。
それに追われるムゲン達、第00特務試験MS隊。
そして動き出す、最後の敵。
虹の軌跡最終章が幕を開ける。
65:進む者と止まる者
宇宙世紀0096――誰にも気づかれぬ場所で、事は胎動を始める。
―――いや、それよりももっと前から始まっていた。
男は、モニターを見つめながら不敵に笑う。
「……これで、25部隊目だ。見事な戦果じゃないか」
資料を机に投げ、横にいる補佐官らしき男に言う。
「ええ。"ネズミ刈り"の隊員も良くやってくれています」
「………そうだな」
一瞬男が言葉を返すのに時間が掛かったことなど、補佐官は気にも留めなかった。
「…それで、"リファースト"のほうはどうなった」
「はい。昨日、月のグラナダ付近にいた模様です。そこからは再び消息が途絶えました」
「流石に一筋縄ではいかないか……。流石、
「しかし、どうしてあの機体を追うのです?あれは連邦にとっては邪魔かもしれませんが、特務部隊では……」
「そうだ。…が、しかし、放置しておくのはもったいないだろう。とらえてデータを取るんだ。そしてさらに強い機体を作る、というわけだ」
「なるほど………。しかし、そのための人員は……」
「人は気にすることはない。"
その言葉に、補佐官である男は心底恐怖を感じた。
理由は分からないが、彼の言葉から伝わる底なしの恐怖が、彼をそうさせたのかもしれない。
「…さて、そろそろ本命を叩くとしようか」
「という事は……ついに…?」
「ああ、"ネズミの親玉"を叩くとしよう」
資料に映る男の写真を見ながらニヤリと笑い、言う。
「さあ、ラストダンスの時間だ、ムゲン・クロスフォード」
宙域に存在する機体は1機。あの機体を落とせば作戦は終了だが…
「……向こうも特務隊か……!なら!!」
バズーカを拡散式に変更、2発放つ。
相手の緑の機体はそれをいとも容易に回避し、接近してくる。
「…肩部ミサイル1から3番、発射!!」
肩部に搭載されたミサイルを発射、しかし、これも容易く回避。
「……っ!!」
ファンネルの感覚、肩部のミサイルラッチをパージし、サーベルを引き抜きながら"
「この距離ならファンネルは使えない!!」
お互いにサーベルとサーベルがぶつかり合う。
切り抜けあい、反転し、再び火花を散らす。
「易々とやらせるものか…!!」
バズーカを近距離で放ち、四枚羽に煙をまとわせた瞬間、一気に斬りかかる。
「…墜とせる!!!」
大きく振りかぶったのが災いした。次の瞬間、煙の中からモノアイが怪しく光り
大きな振動と共に俺の視界は真っ暗になった。
「…っはぁ…!!………墜とされたのか………」
モニターの真ん中にでかでかと撃墜の文字が浮かび上がる。
正直、そんな簡単に倒せる敵じゃないのは分かっていたが……
「はい、終わり。残念だったね、ムゲン」
コックピットが開き、銀髪の長い髪を帽子に入れた彼女が顔を出す。
「……もう少しだったんだけどな、油断したよ………」
「実戦ではやめてよね、本当に死んじゃうんだから……」
「…分かってるさ、そうならないためのシミュレーターだったんだからさ。…丁度良かったさ、これから俺たちが相手にする"袖付き"の実力を見れて」
俺が行っていたのは、先日特務部隊のジェガン3機が四枚羽と呼ばれる機体に襲撃された時の戦闘を基にしたシミュレーター。
リナがいち早く解析して、シミュレーターにしてくれたものだ。
部隊の皆この四枚羽にコテンパンにされたそうで、唯一倒せたのはリリーくらいらしい。
あんなのとは実際に会いたくは無いが、もし会ったら、今度はやられるわけにはいかない。
「……さて、今日はこれくらいにしておくか」
「分かった。やりたくなったらいつでも言って」
「ああ。ありがとう」
コックピットから降りて、格納庫を後にする。
廊下で青い髪の女性とすれ違う。素知らぬ顔でそのまま食堂へと向かおうとしたら、その女性に手を掴まれた。
「先生、何で無視するの?」
「え、いや無視したわけじゃないよ。は、ははは……」
振り返ると、少し長めの青い髪の可愛い子が、頬を膨らませてこっちを見ている。
「嘘だ!ぜっったい気づいてたもの!!」
彼女は軽く地団駄を踏みながら問い詰めてくる。
リリーは昔では考えられないほど明るい女性になった。誰とでも話してくれるようになったし、教育担当だった俺としては何よりもうれしい事だ。
なんて幸せそうに頷いていると
「ほら、また聞いてない!!」
おでこを人差し指で軽く突かれてしまう。
「は、ははは……ごめんごめん。食堂でコーヒーでも飲もうかと考えてたからさ……」
「もう……。ま、いいや、私も一緒に行っていいよね?」
「ああ、構わないよ」
昔では嫌っていた食堂でさえも、何ら抵抗なく行けるようになっている。
我が子が成長するかのごとく嬉しい。
「…今日は何奢ってもらおうかなぁ………」
「…………はぁ……」
少し……わがままに育ってしまったかもしれない………
「………ふう……」
コーヒーを一口。ゆっくりと落ち着ける時間の一つだ。
「先生、ケーキありがとね」
紅茶とショートケーキに舌鼓を打つリリーが言う。
「気にしないでいいよ。いつも頑張っているから、これくらいはしてあげないとね」
「……私、皆と同じ事しかしてないけど?」
「かもしれない。けど、昔の君じゃそれすら難しかったからね」
「今と昔は違うよ、先生」
「そうだね……」
静寂。何も考えず、ただ静かに時間が過ぎるのを感じる。
ふと、リリーがフォークを置いて口を開く。
「そういえば、先生もあのシミュレーターやったんだっけ?」
「ああ、さっきやってきた」
「どうだった?四枚羽、倒せた?」
そんな彼女の期待の眼差しに対し首を横に振る。
「……そっか………。やっぱり、強いよね………」
「でも、リリーは倒せたんだろう?凄いじゃないか」
「……そう…なんだけどね……」
リリーは少し寂しそうな顔をしながら言葉を続ける。
「…私だけが倒せて、みんな倒せない……それは何だか嫌……」
「…どうして」
「独りだって………皆とはやっぱり違うんだって……思っちゃうから……」
彼女はきっと、普通じゃない事が嫌なのかもしれない。
皆倒せない中一人、リリーだけが四枚羽を倒せて孤独を感じている。
「いいかい、リリー。確かに、皆倒せない四枚羽を倒せたリリーは凄いさ」
「……先生…?」
「だからって、それでリリーが特別だなんて誰も思わない。…俺が負けたのは、リリーより技術が劣ってたのと………油断さ。だからリリーは、今のままいればいい。虐める人がいるなら、俺が守ってあげるから」
「ほんと……?」
今にも泣きそうな顔で彼女は俺を見る。
それに対し俺は静かに頷きながら言う。
「ああ、本当だ。俺はリリーの先生なんだからな」
「……ありがと……」
「気にしないでいい、リリーはリリーらしく、ね」
「うん……」
「おやおやぁ?ムゲンさんがリリーちゃんを泣かせてますねえ」
その言葉で食堂の全員がこちらを見た。こういう面倒を持ってくるのは大体……
振り返るとやっぱりそこに彼女は居た。
黒の短髪に眼鏡をかけてニヤニヤとこっちを見る女性が。
「違うよ、ユーリ。リリーを励ましてたんだ」
「本当ですかぁ?だってほら、リリーちゃん、まだ泣いてるじゃないですか」
「えっ?」
リリーのほうへ振り返ってみる
「うぅ……えぐっ……先生が……先生が…!!」
「リリー…!?」
何でこうなったの!?
「あーらら、完全に泣いちゃってますねえ……。リリーちゃん、どうしたらムゲンさんを許してあげられます?」
するとリリーは、泣きながら言う。
「ショートケーキをあと一個奢ってくれたら……」
その言葉を聞いてユーリはこっちを見てにっこり笑いながら
「だそうですよ?」
「な、なんで……?」
リリーのほうを見ると、目元は両手で隠しながらも、俺の方に向けて舌をちょっと出して笑っていた。
「……はぁ……分かったよ。もう一個だけだからね」
「やったぁ!先生大好き!!」
俺の言葉を聞くや否や今まで泣いていたのが嘘のように明るく笑顔を見せてくれる。…いや、実際嘘なんだが………
「あ、私の分のもお願い――」
「却下」
「えー、ケチですねえ、相変わらず」
「ケチじゃないからな、まったく……」
穏やかな午後の休憩時間。こうやって弄られたりしながらも、平和だと感じれるから、俺は嫌いじゃない。
戦い続ける日々よりずっとマシだ。
でも実際にそんな事言えばユーリがつけあがるだけだから心のうちに留めておこう。
宇宙世紀0096、シャアの反乱から既に3年が経過し、地球圏は穏やかな生活に戻るかと思われた。
しかし、ジオン軍残党袖付きが宇宙で連邦軍に攻撃を仕掛けているという。
そこにはラプラスの箱とかいうよくわからないものまで出始めて、連邦は、そのラプラスの箱の鍵であるユニコーンガンダムと共にラプラスの箱の在りかを探しているらしい。
実際に俺が見たわけじゃないから何とも言えないが、話によれば、ユニコーンのパイロットはまだ若い少年だという。
……ガンダムには、一種の呪いでもあるのだろうか……、若き少年を戦場へ駆り出すような…そんな呪いのようなものが…
一方の地球に住む俺たちは、袖付きに感化されたジオン残党を倒す任務に日々明け暮れ、遠征を繰り返している。
とは言っても、どれもこれもが小規模で、大した問題にはならないモノの、相手が相当な手練れなだけあり、一年戦争からの生き残りが多い俺たちが駆り出される回数がとても多い状況だ。
だから、少しの休憩や、コーヒーブレイクでもあるとだいぶ気が楽になる。
やはり人間は血や死体ばかり見ていると気が滅入る。
ただ、上の人間はそんなことなど一切構ってはくれない。
「敵MS部隊確認。リリー、何機いる」
[………2機……いや、3機…。今回も小規模みたいだね]
「…小規模でなければ困るよ、今回は俺たち二人だけの出撃なんだから」
[そうかなあ…私とこの子だったらあんな相手……って、地上だとファンネルは使えないんだった…]
「そういうことだ。……俺が斬り込む、リリー、援護は任せるよ!」
[分かった!!]
スラスターを起動し一気に相手との距離を詰める。
相手の機体も型の古いドムとザク……機体性能ならこっちに分がある。
相手の前まで接近して一気に横へ、その瞬間、背後からビームが飛び、ドムのコックピットを貫いた。
呆気にとられるザクに、ダガーを引き抜いて斬りかかる。
咄嗟に対応したザクがシールドで防ぐも、二射目で足を貫かれ地面に横たわる
「…可哀想だが…!!」
ダガーで相手のコックピットを刺し、ザクが動かなくなるのを確認後もう一機を捉える
相手にとって数では不利だ、俺は通信を開き相手のパイロットへと口を開く。
「ザクのパイロット、聞こえるな。今すぐ投降しろ。状況は分かっているはずだ」
するとザクのパイロットからの返答が来る
[悪いが、たとえ状況が悪くとも、退くことは出来ん!ジオンの軍人としての意地がある!!]
「その意地で命を無駄にする気か…?!」
[軍人の誇りを愚弄するのか!!俺はジオン軍の軍人として今まで戦い続けてきたんだ!!]
「そんなの、見ればわかる。その機体を見ればな」
[………何……]
「だが、その誇りを、お前が生きた証を誰が覚えていてくれる。誰が記憶してくれる」
[………]
「誇りのために死ぬのも構いはしないが、生きて掴む未来だってあるはずだ。…投降して、機体を破棄しろ」
[………未来……か]
「お前の残りの命を、戦争以外の事に使うんだ。これからは、ジオンの軍人としてではなく、一人の人間として。そして、もう戦争なんかに関わるな。でなければ、俺はお前を殺す事になる」
[……アンタ、良い奴だな]
「…そんな事ない。人間誰だって、そういう生き方をしたっていいってだけだ」
[……そうだな。……でも、悪いがその誘いは断らせてもらう]
何となく理解はしていた。誇りに生きる者に何を説いても、その意思は曲がらないことくらい。
「………………そうか。リリー、撤退の準備だ。この機体は、俺がやる」
[…分かった、なるべく早く戻ってね]
先にリリーの機体を離脱させ、ザクと相対する。
[すまないな、俺の最期に付き合ってもらう事になって]
「……仕方のない事さ、俺は連邦、お前はジオン。戦う宿命なんだから」
「…でもいつか来る、分け隔てない世界を見届けるために、今は……」
もう一本のダガーを引き抜き
[期待はしていない。だが、この最期の戦い、楽しませてもらう!!!]
互いに詰め寄りダガーとヒートホークがぶつかり合う。
「そうだろうな!長い間誇りと意地で戦ってきたお前では、そうなるのも当然だ!」
間合いを取って頭部バルカンを放つ。
それをシールドで受けながら突っ込んでくるザク
腕を交差させ受け止める。
機体と機体がぶつかり合い、ギシギシと機械が擦れる音が響く。
[意地だけでこの17年…!!一年戦争の敗北から、俺は何度も苦汁をなめさせられた…!!]
「それだけの人生で……!!」
[お前も似たようなモノだろう…!!!]
お互い間合いを取って、再び切り結ぶ。
「奪って奪われて…!その繰り返しで……!!」
[俺もお前も互いに奪った!!だから今がある!!]
「そうかもしれない……だが決定的に違うのは…!!」
力で押し切り、ザクの体制を崩したところを見逃さず、一気に胴体を両断する。
「………そこで諦めるかどうかだ」
「…未来を信じるか、そうでなく立ち止まるか……。それだけの差だ」
両断されたザクを見下ろしながら言う。
[………………信じたかった……でも、信じることが出来なかったんだ………]
「言うな、そんなのは、分かってるんだ」
[………俺も…本当は生きたかったさ………。だが……戦争という呪縛……ジオンという存在は……俺を逃がしてはくれなかったんだよ………]
「…………」
[……………話を聞いてくれて……ありがとう………]
「お前の誇りも、生きた証も、俺が記憶し、背負おう。それが、生きる者の務めだ」
[……嬉しい……ねぇ………]
その言葉を最期に、機体は爆散。俺の目の前でザクは粉々に消え去った。
「………もう何度、これを繰り返すんだ……」
ジオン残党と言えど人間であることには変わりないだろうに……
虚しさを胸に覚えながら、帰還する。
基地へと戻った俺たちは、早速今回の戦闘の報告を隊長であるファングへと伝えるために司令室に向かった。
「……今回の戦果は3機、残党の動きとしてはこの前と同じような小規模なモノだった」
「そうか。それにしても、残党も妙な動きをする……」
赤髪の青年が口元に指を添えながら眉をしかめる。
「どうしてそう思う?」
「毎回小規模で問題を起こす必要はないだろう、地上で蜂起するならもっと多くの残党を集めてからでも遅くはないはずだ」
「……確かにそうだが……、それなら、何を目的にあんな動きをする?」
「この前のダカールの問題への注意を逸らすのが目的……?いや、早計か……」
先日の事だ、ダカールの司令基地が巨大なビーム兵器で焼かれた報告は、こちらでも入っていた。
警備部隊は全滅。中には残党のMSも確認されたとはいえ、警備隊に破壊されている。
あれだけのビームを放てる機体が残党にあるとは思えないが………。
では一体何があの基地を壊滅させるに至った………?
「………今は…まだ何とも言えない状況だが……、近々何かあるのは間違いなさそうだ。…港の警戒強化を基地司令に相談しておく。今日は良くやったな」
「……分かった」
「ああ、そうだムゲン」
部屋を後にしようとした俺をファングは止めた。
「なんだい?」
「これから休憩だろう、この資料を
資料を受け取りながら、不思議に思い質問する。
「別に構わないが、どうしてまた」
「個人的なものさ。前に増援を頼んだことがあったお礼って奴だな。頼んだぞ」
「分かったよ、俺も丁度彼らに会いに行こうと思っていたんだ」
軽く手を振りながら司令室を後にする。
ファングは前よりも考える事が多くなっているようだ。まあ、残党がこれだけ活発に動き出せば怪しむのも当然だが。
パーシヴァル商会
シャアの反乱後、軍をやめたカカサが創設した傭兵派遣会社。
その後、メキメキと成長し今では宇宙産業の手助けも行っているというもっぱらの噂の大企業。
彼のおかげもあってか、トリントンの居住区外れには、子供たちが勉学を学ぶことのできる学校が設立され、トリントンのみならず他の国からも入学者が来ている。
トリントン居住区には似合わない大きなビルを見上げながら、随分彼も頑張っているのだと今一度理解する。
「さて、カカサに会わないとな」
エントランスへと足を運び、受付の人へ会長へ渡したいものがあると伝えると、すぐに応接室へと案内される。
やっぱり企業というだけあって、応接室も中々に緊張感がある。
暫く待っていると扉が開き、スーツ姿の女性が姿を現す。
黒く腰まで伸びた髪を一本の赤いリボンでポニーテールのように結っている、凛々しい女性。
「なんだ、ムゲンじゃないか、どうしたんだ急に」
彼女は俺を見るや否や堅苦しい態度を止めて椅子に腰かける。
「いえ、大したことじゃないんです、隊長から資料を渡すように頼まれてまして」
「おいおい、そんな堅苦しいの必要ないぞ?お前は私の弟分なんだからな!」
「いや…確かにそうだけど……、一応企業と軍というものが……」
「確かに、お前の言う事も一理あるか…。まあ、ムゲンならカカサも簡単に出てくるだろう。しばらく話でもしながら待っていようか」
フィア・グレイス、かつてはアッシュベリーと名乗っていたが、夫であるクロノードの死去後、
曰く、娘のルナのため、そして自分が彼を忘れないために、自らをグレイスと名乗るようになったとか。
第一線を退いてなお、その力強さで商会の副会長を務めている。
「それで、アウロラはしっかり勉強に励んでますか?」
「ああ、随分物覚えが良くてな、ルナと仲良く勉強しているよ」
彼女は、俺やリナが忙しい時、代わりに孤児院の管理をしてくれている。前まではエミリーがしてくれてはいたんだけど、如何せん人数が増えてきてしまった手前、人手が足りなかったのだ。
「それは良かった…」
「最近は出撃に駆り出されるのが多いみたいだな。もう4日もパパとママを見てないって、アウロラが悲しんでいたぞ」
「すいません……」
フィアさんは首を横に振って言う
「こればかりは仕方がないだろう、私やカカサのように夜になれば家に帰れる仕事ではないのだから。それについても一応説明してあるんだろ?」
「ええ……。孤児院の事や娘の事は大丈夫だとは思うんです。ロイもずいぶん大きくなりましたし、けれど、父親として、アウロラに構ってあげられないのが少し……」
「…お前の気持ち、痛いほど理解できるよ……。私が眠っている間、ルナはずっとそんな思いを抱いていたんだろうし……」
フィアさんは俺を見据え真剣に口を開く。
「でも、今のお前は軍人だ、やるべき事がある。それは全て、あの子たちのためになる。それだけは忘れちゃいけない」
「分かってます。俺は、俺に出来る事をやるだけです」
その言葉を聞いて、彼女は優しく微笑みながら
「…お節介だったな。だが、その意気だ。……っと、来たか」
その言葉と同時にフィアさんの背後の扉が開くと、スーツを着た男性が姿を見せた。
「待たせたね、ムゲン君。まあ座って座って。 じゃ、遠慮なく―っと」
一人芝居をしながら椅子に腰かけるこの男こそ、この商会の創設者、カカサ・キヤモイ。
弱小の商会を、ここまで大きなビルを建てるまでに至った手腕を持つ社長。
ただ問題としては………うるさい事。
「久々だね、カカサ」
「おうおう、てめえ、どの面下げて来やがったんだぁ?ってな!はっはっは!久々だねえムゲン君」
「カカサ、一応客人だ、真面目にしろ」
堪らずフィアさんが会話を遮る。
「分かってるよ、さて、渡したいものだっけ?ファングっちからの資料だよね?見せてちょー」
カカサは俺から資料を受け取ると、パラパラとめくり読み進めた後、フィアさんに渡して言う。
「うんうん、大体理解できた」
「……それで、どんな内容だったんだい?」
「大したことは書いてないよ。この前のお礼は普通に基地から頂いたし、後は、トリントンの警戒を強化してほしいってことくらいかな」
「やっぱりファングは………」
「ま、こっちでも情報は結構集まってはいるよ。残党の動きが妙だっていうのも随分前から報告に入ってた」
「そうなのか…?じゃあ、ダカールの襲撃も…」
「ああ、あれも残党の仕業なんじゃないかって僕ぁ睨んでいるよ。そして、次のターゲットが……ここさ!」
人差し指で地面を指さすカカサ。
「じゃあ、ファングの憶測は……」
「まあ、ほぼ的中するだろうね。ただし、いつになるのかは俺達でも分からない」
「…………」
「君たちはまたしばらく残党の鎮圧のために遠征するだろうし、やっぱりここはこっちで兵を集めておくしかないかな。相手が相手だし、警備隊じゃ相手にならないだろう」
「…それは、実際に戦って理解した。機体の改修や修理も完全ではないはずなのにあれだけの実力だ…」
「その時が来たら、私も出よう」
「フィアさん……!?」
「街が襲われるのを、黙ってみているわけにはいかないだろう。それに、相手は手練れなんだろう?なら私も出るしか――」
「ダメだ」
それを遮ったのは意外にもカカサであった。彼は普段とは違う真剣な表情で言葉を続ける。
「襲撃された時、フィアは、学校の子供たちと居住区に住む人々の避難に専念してほしい。戦う必要はない」
「……私では力不足か?」
そんな彼女の問いに、彼は無慈悲にも言い放つ。
「そうだ。数年眠っていたブランクに加え、最近ではまともにMSを扱っても居ない人間を、戦場へ行かせるわけにはいかない」
「…………そうか。………資料を片付けてくる」
肩を落とす彼女を見送り、カカサと二人きりになる。
「…あんなにきつく言う必要は無かったんじゃないか?」
「ああでも言わなければ、きっとフィアは出撃する。これでも優しくしたほうさ」
「………もし君が言わなかったら、俺が止めてたさ」
「それは無いな、俺は絶対に彼女を危険には晒せない。晒させるわけにはいかないのさ……」
「クロノードの為か?」
彼はふっと笑うと
「それもあるが、ルナの為でもある。いま彼女が居なくなったら、また俺たちのような境遇を受ける事になる。……それだけは、避けなきゃいけないんだ」
「……そうだな」
「だからムゲン、お前もリナっちも、何があっても帰ってこいよ。アウロラちゃんのために」
「言われなくてもそうするさ。……邪魔したね、そろそろ帰るよ」
「ああ、ファングっちによろしく頼むよ」
彼の言伝を受け取り、俺は再び基地へと帰還した。
それからすぐに、出撃の命令が下された。またオーストラリアの各地で小規模の蜂起があったらしい。
今回は俺が単独で作戦に向かうことになり、また、他の場所へも部隊のメンバーが鎮圧へと向かう。
俺は、その時に何かを感じていた。
違和感……………街へ何かが起きる予感が………。
その時は近い――
65 完
今回登場したキャラクターの設定です。とは言っても、ほとんど変わりませんが。
コードネーム:ムゲン・クロスフォード
年齢:32
性別:男
主な搭乗MS:ピクシー ???
階級:少尉
説明
第00特務試験MS隊に所属するパイロット。
多くの出会いと別れを繰り返し成長を遂げたハーフニュータイプの男性である。
自身が守れるモノを、守れるだけ守るというのが信条で、無理な事をしようとはしない。
しかし、仲間の為なら命を危険にさらす覚悟がある。
コードネーム:リナ・ハートライト
年齢:32
性別:女
階級:技術少尉
説明
第00特務試験MS隊に所属する整備班の整備長を務める女性。
様々な開発や設計を行うエネルギーがあり、他の部隊からも整備の応援を頼まれるほどの技術者。
ムゲン・クロスフォード専用機の開発や、リリー・クリーヴズ専用機の開発も彼女が主導で行った。
全ては大切な人と静かに暮らすために。
コードネーム:リリー・クリーヴズ
年齢:25
性別:女
主な搭乗MS:ジェガン(第00特務試験MS隊仕様F型) ???
階級:准尉
説明
第00特務試験MS隊に所属するニュータイプの女性。
かつては対人恐怖症であったが、自身に手を差し伸べてくれる人たち、優しく見守ってくれる大人たちのおかげでそれもだいぶ緩和された。
最近では人と話すことが楽しいらしく、誰とでも嬉しそうに会話している姿が良く見られる。
コードネーム:ユーリ
年齢:34
性別:女
主な搭乗MS:λガンダム
階級:中尉
説明
第00特務試験MS隊に所属するパイロットで、部隊内きっての狙撃手。
MSを降りれば音楽とお菓子の大好きな女性。
個性的な部隊の中でも一番の困り者的存在。しかし、部隊の皆が「彼女なら仕方ない」と片付けてしまうので問題にならないとか。
同期の八雲道夜が失踪したことを機に、周りを率先して引っ張っていくことを意識し始めている様子。