機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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ムゲン達が宇宙で戦う一方、地上でもまた、一つの決着が付こうとしていた。

フィアとカカサの前に立ちふさがる"あの男"は、今の世界をどう見るのか。


71:決着―愛―

 グロリアスが宇宙へと上がって数日後、私達はいつもの生活を送っていた。

 

 私に出来るのは、彼らが戻るまで、この子たちを守ること。

 

 ……それが、ムゲンとの約束。

 

 

 

「これで全部だ。被害総額の資料はこれと、これ」

 

 カカサに一枚ずつ渡す。カカサは一通り目を通してから、机に資料を投げた。

 

「ま、こんなもんだろうね。いやぁ……バカにならないもんだねえ…」

 

「今月は中々忙しかったからな。それに、トリントンの襲撃もあったから、修繕費が掛かるのは仕方ない」

 

 頷きながらカカサはコーヒーを口に運ぶ。そして、天井を見上げながら呟く。

 

「……そういえば、もう3年か。……アイツが死んでから、時間が進むのが余計に早く感じる」

 

「……そうだな。私も同じだ」

 

「なあ、フィア」

 

「なんだ?」

 

 彼は真剣に私を見つめ、言葉を続けた。

 

「もし、アイツが生き返ったら、どうするよ」

 

「急にどうしたんだ、現実主義者のお前が言うセリフとは思えないぞ」

 

 彼はふっと笑って言う。

 

「まぁ、そうなんだけどさ。でも時々、そう考えちまうんだよ…。俺の中でどれだけアイツの存在が大きかったのか、今になって理解できる」

 

「……確かにな。私にとっても、アイツは大きすぎる存在だった。……だから、お前がそんな事を考えるのも分からなくはないな」

 

 カカサは、じゃあと言って私の答えを待つ。

 

 アイツが……クロノードが生き返ったら、私は……。

 

 伝えたいことも、したいことも沢山あった。けれど、唐突にそんな事を言われても、答えなんか出るわけが無かった。

 

 私は小さく首を横に振ってカカサのほうを見る。

 

 すると、彼は肩を竦め、口を開く。

 

「ま、そうだよな。……でも、俺はあるんだ」

 

「へえ、どんなことをしたいんだ?」

 

「…アイツに、今の世界を見てほしい。俺やムゲンが歩んでいる、現在(いま)という世界を」

 

「見せてどうする。アイツが思ってた世界とは違うかもしれない」

 

「そりゃあね。でも、見て、答えが欲しいんだ。何だっていい、ダメ出しだって、罵倒だって構わない。それで俺はまた前に進める気がするんだ」

 

「……なるほどな。……でも、私が思うに、今の世界、小さく見れば悪くは無いと思うぞ」

 

「フィア………?」

 

 大きく見れば、戦いは終わらず、ただ今までと同じことの繰り返しにも見える。

 

 でも、カカサが守り、築き上げてきたこのトリントンという街だけで見れば、私からすれば、凄い進歩していると思う。

 

「アイツならきっと、"よくやった"って言ってくれるさ」

 

「……どうだろうな。……結局のところ、俺の妄想さ。……クロノードはもう生き返りはしないんだから」

 

「……………ああ……、そうだな……」

 

 3年という月日が経てば彼の死さえも受け止められると思っていた。

 

 でも、実際は違う。

 

 カカサも、私も…、あの時、あの場所でアイツを看取ったムゲンもリナも……まだ受け止め切れてはいない。

 

 どうしても、彼の話になると、悲しくなってしまう。

 

 いつまでも、このままで居るわけにはいかない。そうは思っても……。

 

 

 あの時の……アイツの笑顔が忘れられないんだ…。

 

 大雨だったあの日、アイツは笑ってたんだ。

 

 何一つ、後悔のないような…そんな笑顔で。

 

 今まで、そんな笑顔、見たことなかったのに。

 

 

 もう一度……アイツと会えたなら………。

 

 後悔は無かったのか、それを…聞きたい。

 

 ……クロノード………。

 

 

 

 それから、カカサから休憩を貰い、子供たちの所へと足を運ぶ。

 

 丘の上にある小さな孤児院で、子供たちが勉強するのをただ見るだけ。

 

 …私にも知識があれば、教えてあげられるのだが、残念なことに、ルナに教えてあげられることは何一つなかった。

 

 母親として、これほどまでに悲しい事があるだろうか、最愛の娘に何も教えてあげられない事が。

 

 ルナの横に座り、ムゲンの娘であるアウロラも、一緒に勉強している。

 

 それをただ静かに、見ている。

 

「………」

 

 ルナは真剣な表情で、学校以外の時間も机で勉強を続けている。

 

『私、頑張って勉強してお医者さんになる!!お医者さんになって、パパの病気を治すんだ!!そうしたら、ずっとずーっと幸せだよね?』

 

 華のような笑顔で、目の前にいるこの子はそう言った。

 

 そして、その日以来、いままでずっとこうして勉強し続けて、気づけば医療の事は私やカカサ以上に覚えている。

 

 けれど、いつかはルナにも伝えなければいけない。"あなたのお父さんは、死んだ"。その一言を。

 

 どれだけ傷ついてしまうだろう。もう、立ち直れなくなってしまうんじゃないだろうか……。

 

 そう考えれば考える程、言葉に出来ない。

 

 この子の意志を折る事など…親である私が出来るわけない。

 

「――……さん。お母さん」

 

「っ!!」

 

 ルナの言葉で現実へと引き戻される。

 

「ど、どうした?」

 

「ううん。ちょっと、気になって」

 

 ルナは机に向かいながら言葉を続けた。

 

「お父さん、いつ帰ってくるのかなって」

 

「っ………!」

 

「だってほら、帰ってきてくれなきゃ、何の病気かもわからないから。でしょ?」

 

 そう言って振り向く彼女は、私を見ると驚いて

 

「ど、どうしたの?お母さん?何で泣いてるの?」

 

 知らずのうちに、涙が流れていた。

 

 胸が苦しくなる。……あの時の記憶が……蘇った。

 

 なんでもない、その一言すら言えなくて、ただ地面に崩れ落ちるしかなかった。

 

「お母さん………」

 

 何かを察したのか、後ろからドアが開き、その主が言う。

 

「ルナちゃん、アウロラ、気にしないでいい。気にせず勉強しててね」

 

「……分かったよ、ロイ兄さん」

 

 ルナは頷いた後、再び机と向き合った。

 

 私は、ロイに肩を借りながら、子供部屋を出て、椅子に腰かける。

 

 

 ロイは何も言わず、私の前にコーヒーを置いた。

 

「……すまない……ロイ…」

 

 彼は首を横に振り、言う。

 

「大丈夫です。……あんな事言われたら、返せるはずないですよね」

 

「…聞いていたのか」

 

「ええ。………父さんから、クロノードさんの話は聞いてますから…」

 

「………君のフォローが無ければ、私はどうすればいいか分からなかったよ」

 

「俺には、本当の親は居ないから、本当のところは分からないけど……でも、それでも何かできるはずだから…って」

 

 その複雑な表情は、かつてのムゲンを思い出させた。

 

 この子は孤児のはずなのに、そう感じさせた。

 

 やはり、子は親に似るものだな。

 

「…ありがとう。だいぶ落ち着いたよ」

 

「気にしないでいいよ。俺は、父さんのように、出来る事をできるだけやるだけだから」

 

 私は小さく頷き、言う。

 

「それでいい。……まったく、ムゲンはいい子供を持ったな」

 

「…父さんと母さん自慢の息子ですから」

 

 

 瞬間、地面が大きく揺れる。

 

 その振動で、全てを察して叫ぶ。

 

「ロイ!ルナとアウロラを!」

 

「……えっ……。は、はい!!!」

 

 

 駆けだし、外に出ると、遠くで煙が上がっているのが見える。

 

「……やはり来たか……!!」

 

 急いで商会の格納庫へと走り出す。

 

 手遅れになる前に、カカサが築いたこの街を守るために……!

 

 

 

 格納庫では、ほとんどの連中が出撃の準備に手間取り、動けずにいる。

 

「…見てられんな…」

 

 機体に覆われた布を剥いで、機体に乗り込む。

 

「……まだ動けそうだな。……よし、行くぞ、プロトザク」

 

 カメラアイが光ると、機体が動き出し、外へと向かう。

 

 それを見たのか、カカサから通信が入る。

 

[フィア!!]

 

「周りが手間取っている、私が敵を引きつける、お前は奴らを統制し、動かせ」

 

[出撃するなと――]

 

「市民の命を見捨てる気か!!!」

 

[っ……!]

 

「私の命と、多くの市民を秤にかけて、お前はそれで満足か!?私を死ぬまで守る事、それが、お前とクロノードがした約束か!」

 

「違うはずだ。アイツなら、そうは言わない。……私にも、守るべきものがある…!!!」

 

 そう言い切り、強引に通信を切った。

 

 

 …私にとっても、これが本当に最後の出撃だ。

 

「…フィア・アッシュベリー……いや、フィア・グレイス、プロトザク、出撃する!!」

 

 

 市民街の一部は、既に炎に焼かれていて、そこにジオンの巨人が立っている。

 

「……くっ…!連邦の警備は何をしているんだ…!!!」

 

 接近する1機をサーベルで切り伏せ、先へと進む。

 

「こんな…こんな戦いを、誰が望む…!!平和なこの街を……何故…!!!」

 

 憎しみよりも悲しみが押し寄せる。

 

 どれだけ繰り返せば、世界は変わる…?

 

 どれだけ人が死ねば、世界は許される……?

 

「答えろ……!!!」

 

 ビームライフルで、敵のコックピットを貫いて呟いた。

 

 誰が悪いわけじゃない……でも、それでも…。

 

 遠方からの狙撃。寸での所で防御。……この的確な狙撃…中々のエースが居るようだ。

 

「…そこか…!!!」

 

 視線を合わせると、そこに立つのは、狙撃銃を構えた白いザク。

 

「お前が……街を…!!」

 

 ビームライフルを放ち、牽制しながら接近する。

 

 その射撃を、相殺するように白いザクは狙撃していく。

 

 目の前でサーベルを振りかぶると、それを受けるように白いザクもまた、サーベルで受けた。

 

 バチバチと火花を散らす。

 

「何故……なぜ今になってここを狙う……!?多くの人が生きる街を…!!また戦争を繰り返すのか!ジオンは!!!」

 

[…………何故…]

 

 白いザクの声を聞いて、思考が固まった。

 

 その隙を逃がさず、白いザクは押し切って、機体を蹴り飛ばす。

 

「ぐぅっ……!!……その…声……お前……」

 

 態勢を立て直しながら、再び白いザクを見る。

 

 そうだ、この機体は……。

 

[……………何故お前がここにいる。フィア]

 

 紛れもない、"()()()"の声。

 

 

「……クロノード………」

 

[何故…お前が戦っている……!!]

 

「お前こそ、何故生きている!?」

 

[……俺にも分からないさ。だが、俺は言ったはずだぞ、お前は、もう戦う必要は無いと]

 

「……戦わなければ守れないモノも、ある。そう言ったのはお前だ」

 

[だから戦う……、それはいい。だが、それ以上にお前がしなければならない事があるだろ…!!]

 

「ルナを守るために、今ここにいるんだ!!」

 

[お前がしなきゃいけない事は、そんな事じゃないはずだ!!俺は、カカサに託した……]

 

「……お前は……お前はいまさら何をしに私の前に現れた!!!そうやって説教するために、現れたのか!!!」

 

[……俺は、連邦の基地を破壊しなければならない。それが、命令だ]

 

「クロノード…!!そんな命令、聞く必要はない!ベルベットの命令など…!!!」

 

[悪いが、俺にも、一応恩がある。だから……そこを退け、フィア。でなければ、お前を討つことになる]

 

「退くわけないだろ……!この背中に、何人の命がいると思っている!!」

 

[……市民には被害は与えない。だから、退くんだ]

 

「………お前は……変わらないな。いつも、そうやって戦場では冷酷に務めている」

 

[……退かないなら、討つしかない]

 

 クロノードがスナイパーライフルを構える。

 

「……討てるか、私を……!」

 

[討つさ、お前を]

 

 機体を動かし、射程外へ、そしてなるべく市民街へ被害が無いようにする。

 

「……なら、私も……お前を討つ……!クロノード・グレイスは……3年前に死んだ!!!」

 

 ビームライフルを構え、放つ

 

「ならお前は……クロノードじゃない!!!」

 

[何を言われても、事実は変わらない。ただ、それでも、此処に居る理由は、命令を遂行するためだ!]

 

 それを受けるように、ビームライフルを放ち、相殺させる。

 

 ビームがぶつかり合い、小さな爆発が起きる。

 

「その命令は、また人を争いへと巻き込むことになる事が分からないのか!!お前だってそれを望んでるわけじゃないだろ!!!」

 

[そうだ。だから、基地だけを狙う。そう言ったはずだ]

 

「違う……!基地にいる奴らだって人間だろ!!!」

 

[…連邦とジオンの間に生まれた溝は、簡単には片付けられないことくらい、お前も知っているはずだ]

 

 再びビームライフルを構える。しかし、それを予測していたかのように、ビームライフルだけを狙い撃たれ、手元で爆発。

 

「くっ……!!だが――」

 

[どんなに時代が進んでも……これだけは、ムゲンもカカサも変えられなかった…。この世界を見て、そう思った]

 

「違う………!!」

 

 ムゲンとカカサが変えようとした世界は…!!

 

「違う……!あいつらは、変えたんだ!!この世界を少しずつでも…!!」

 

[どう変わった。宇宙では袖付きと連邦がラプラスの箱を求めて戦い、そして少年が巻き込まれる。何一つ変わっちゃいない]

 

「違う!!!!」

 

「この街は、アイツらが変えようと頑張ってきた証なんだ…!!お前は、何も見ちゃいない!ただ、言葉を聞いただけだ!!!」

 

 バズーカに持ち替え、放つ。そして、一気に背後へと周りサーベルを振るう。

 

 それを予測して、再びサーベル同士がぶつかり火花を散らした。

 

[………]

 

「大きく見れば、変わりはしないさ!たった三年だ。その中で出来る事なんか限られてるだろ!!」

 

「でも、お前が死んだあと、アイツらは自分たちが出来る精一杯をやってきたんだ!!それを見ずに否定するのか!!」

 

[…………]

 

「リナも、ムゲンも、カカサも……私も!!!お前が死んだことを、どれだけ苦しんで、涙を流したか!!!」

 

「それを今になって……!!今更……!!!私達の前に現れて……!!!」

 

[……………]

 

「何とか言ってみろよ……!!」

 

 自分でも珍しく怒りを露わにしているのが理解できた。

 

 アイツらしくない――そう思ったから。

 

[………]

 

「何とか言えよ…!!クロノ――」

 

 アイツの背中から複数の機体が迫ってくるのが分かった。

 

 そしてその機体の動きが妙な事も。……クロノードを狙っているのか…?

 

「…!!くっ……まだ来るって言うのか!!」

 

 白いザクの横をすり抜け、ビームライフルを構え牽制、一気に突っ込む。

 

 それに気づいたザクがこちらを取り囲むように接近する。

 

 続けてバズーカを放つ。

 

 相手は軽々と避けるが、避けた先を見越し、もう一発撃ちこむ。

 

 そこに相手は直撃し、機体が爆散していく。

 

「…よし、次――ぐぁっ!?」

 

 背後からの衝撃。運が悪く機体が地面に倒れてしまう。

 

「まだ………!まだ…!!!」

 

 フラフラになりながら立ち上がる。

 

 左からの攻撃。直撃。

 

 バランスをなんとか保とうとする。

 

 そして、反撃にサーベルでコックピットを貫こうとするが、それを回避され、左腕を切り落とされる。

 

「…まだ………私は…!!終われない……終われないんだよ……!!!」

 

「私には………帰りを待たなきゃ……!リナとムゲンを待たなきゃ……、何より……!!!」

 

 腹部を蹴り飛ばし、間合いを取る。

 

「ルナを……守るためにも!!!」

 

 私自身、危険な事も十分わかってる。それでも………

 

 それでも!!!

 

「うぉおおおおおお!!!!」

 

 正面の敵をタックルで吹き飛ばし、サーベルでコックピットを貫く。

 

「私がやらなきゃ……誰が……誰がこの街を守る!!!ムゲンとカカサの……戦いの証を!!!!」

 

「私じゃなきゃ……いけないんだよ!!!あの日……アイツが死んだその時から!!私はその役目を託されたんだ!!!」

 

 カカサでも、ムゲンでもない。私がやらなければならない。たとえ、命を喪うことになったって。

 

 守らなければならない命が、私の背中にもある。

 

「だから……!!!来い!!お前ら全員相手になってやる!!!」

 

 ボロボロの緑のザクが咆える。魂の叫び。

 

 その覇気に圧され、動けるものは居なかった。

 

 

 

[…………お前という奴は]

 

「……はっ…!」

 

 横からビームが飛び、目の前から迫る敵が撃ち抜かれる。

 

 そして、白いザクが私の右に並ぶと、こちらを見た。

 

「………何を…」

 

[俺がいつ、お前にその義務を託した。……それは、俺がすべきことだろう?]

 

「クロノード……」

 

[すまなかったな、俺だけが一人……]

 

「……いいんだ。それでも、私も彼らも前へと進んだんだ。…だから、誰もお前を責めはしない」

 

[………もう一度、お前と共に戦える日が来るなんて思わなかった]

 

「……私もだよ、クロノード」

 

 

[まったく、良い雰囲気だねえ、お二人さん]

 

 その言葉と同時に左に紫のイフリートが並ぶ

 

[…カカサか……。お前にも…]

 

[言うなよ。それに、お前が何で生きてるかなんてのも、聞きはしない。ただ、今は目の前の敵を倒す事だけに集中しようぜ]

 

[………そうだな。やろう、三人で!!!]

 

「…ああ!!」

 

[任せとけよ、相棒!!!]

 

 アイツと別れる前以来聞いたことのない彼の嬉しそうな声。

 

 …私も嬉しい。形はどうあれ、私は死んだ夫と話しているのだから。

 

[援護する、カカサ、切り込んでくれ。フィアは中距離から遊撃を]

 

[オーライ!いつも通り頼むぜ!!]

 

「…いつも通りか、9年越しの"()()()()()"、任せておけ」

 

 正面からさらに迫る機体へビームライフルで牽制。そのままカカサと共に相手の懐へ接近。

 

「行くぞカカサ!!ついてこい!!」

 

[任せろ!フィア!!!]

 

 正面の敵……。分かるぞ、アイツが撃つタイミングが、あの時と同じだ。

 

 3、2、1……今!

 

 同時に頭部が貫かれる。

 

「今だ!!!」

 

 サーベルに持ち替え、胴体目掛け振り、切り抜ける。

 

 カカサも同時に、切り抜け、斬撃が交差する。

 

 背後で爆散。久々だが、やはりやるじゃないか、二人とも。

 

「ふっ……」

 

 思わず笑ってしまう。

 

[どうした、フィア]

 

「いいや、懐かしくてな、お前たちと連携が取れる事が」

 

[そんなこと考えてる暇じゃない、次が来るぞ]

 

 会話を遮りながらクロノードが狙撃。

 

 それに合わせビームライフルを発射してコックピットを撃ちぬく。

 

[良い腕だ。変わってないな]

 

「…一応な、カカサに黙って腕を慣らしてはいたからな」

 

[え!?ちょっと困るよフィアちゃーん。君は大事な人なんだからさぁ……]

 

[…ふっ、それでこそカカサだな]

 

「…まったく…だ!!」

 

 会話をしながらも、敵の攻撃を受け止め、反撃に蹴りを入れ間合いを取る。

 

 吹き飛んだ機体を逃すことなくカカサがコックピット目掛けナイフを投げ、直撃。

 

 

 私達の戦いのおかげか、守備隊が到着した時には既にほとんど片が付いていた。

 

[……久々の戦闘で疲れちまったなぁ……]

 

 カカサが背伸びをしながら言う。

 

「流石に、堪えたな」

 

[ふっ……随分お前たち仲良くなったじゃないか]

 

「そうか?前と変わらないと思うが」

 

[そうともクロノード君。僕とフィアちゃんは前から仲良しさ!]

 

[……俺には分かるさ。何だろうな、俺とカカサみたいになってる]

 

「…………」

 

[今のお前たちを見れて、良かったよ]

 

[クロノード………]

 

 一時の静寂の後、クロノードが言う。

 

[なあ、フィア]

 

「なんだ?」

 

[……あの子に……ルナに会わせてくれないか]

 

「え………」

 

[もう一度だけ、あの子に会いたいんだ。どうせお前たちは俺が死んだことなんて言ってないんだろう?]

 

[だから、久々に帰ってきたって言ってやりたいんだ]

 

「………分かった」

 

[カカサも、構わないな?]

 

[……………ああ]

 

 カカサにしては珍しく渋々といった感じの返事だった。

 

 私はコックピットから降り、歩いてあの子の元へと向かった。

 

 

 

「………ルナ」

 

「お母さん……?どうしたの?」

 

「…少し、会わせたい人が居るんだ」

 

 私はルナの手を引き、歩き出す。

 

 もし、本当に彼が蘇ったなら、もっと伝えたいことは沢山あった。

 

 でも、実際に目の前にすると、何も言えなくて、むしろ、怒ることしか出来なかった。

 

 だが、この子は違う。

 

 本当にまだ生きていると信じているこの子にとっては……

 

 

 白い機体の前までルナを引く。

 

 そして、白い機体は片膝をつき、ルナの前に手を差し伸べた。

 

「……お母さん……?」

 

「大丈夫、私も行くから」

 

 手に乗り、だんだんとコックピットの前まで手が上がっていく。

 

 そして、前まで来ると、コックピットが開き、一人の男性が現れる。

 

 それは、死の直前と全く変わらない、夫の姿。

 

「お父……さん……?」

 

 ルナが思わず口を開く。

 

「ルナ」

 

「お父さん……!!」

 

 ルナはクロノードに駆け寄り、抱き着いた。

 

「久しいな、ルナ」

 

「……お父さん…私、頑張って勉強したよ。難しい数学も、言葉も、全部全部、お父さんのために…!」

 

「…ああ、知ってるよ」

 

 ルナの頭を撫でながら優しく微笑むクロノード。

 

「………だからこそ、言わなきゃいけない事がある。ルナ、よく聞いて」

 

 彼は彼女の目線まで膝を折ると、静かに口を開く。

 

「もう、お父さんのために勉強しないでいい」

 

「えっ……?」

 

「今までは、お父さんのために、頑張ってきたけど、これからは、そうする必要はない。お前が、思うままに勉強しなさい」

 

「どうして……」

 

 彼の突然の言葉に、私は驚いて言葉が出なかった。

 

 まさか、お前は………

 

「待てクロノ――」

 

「お父さんは、3年前に死んだんだ」

 

 私の言葉を遮り、彼は言いきった。

 

「…………え」

 

「俺は……もう、この世界には居ない」

 

「じ、じゃあ……今目の前にいるあなたは……」

 

 彼は小さく笑って言う。

 

「そうだな、皆、お前のためにこの事実を隠してきた、お前を傷つけさせないため、そしてお前の夢を壊さないために」

 

「でも、お前も大人になる時が来たんだ。だから、知る必要がある。…それを伝えるために、俺は天国からやってきたんだ」

 

「…………お父さん…死んじゃったの……?」

 

「残念だけど、そうなんだ。……だけど、誰も恨まないでほしい。仕方のなかったことなんだ」

 

「なんで………」

 

「戦争だから、かな。……お父さんは、この機械で戦うことしか出来なかったんだよ」

 

「……お父さん……」

 

「いいかい、どんなに苦しくても、投げ出しちゃいけない。お前なら、出来る」

 

「……………」

 

 ルナの頬を伝う涙を拭いて、言う。

 

「いずれ、人間は死んでしまう。人間だけじゃない、動物も、植物も。そして、時代も」

 

「でも、それだけで終わらない。人は子を作り、次代へと伝えていく。植物も動物も同じだ」

 

「そして時代も、誰かが語り継ぐことで、未来でも受け継がれる」

 

「この行為こそ、君がしなきゃいけない事なんだ」

 

「でも………」

 

「そのためにも、勉強するんだ。多くの事を学んで、今度は君が子供を持った時に、それを伝えられるように」

 

「…っ……うぅ……!!」

 

「辛いよな、こんな事。でも、立ち止まっちゃいけない。どんなに苦しくても、一歩ずつでもいいから進んでほしい」

 

「その一歩は、一生の宝、経験になるから。だから、この痛みを、絶対に忘れないで」

 

 クロノードはルナを抱きしめながら

 

「お前なら、出来る。俺とフィアの子なんだから。大丈夫、何一つ心配いらない。皆がお前を見守ってくれる」

 

「そして、いつかは、お前が皆を見守るんだ。月のように優しい光で」

 

「……パパ……」

 

「…………ほら、これを」

 

 クロノードが手渡したのは、小さなネックレス。

 

「辛くなったら、これを握っていなさい。俺が寂しさなんか消してあげるから」

 

「……うんっ……!うんっ……!」

 

 彼は私に視線を向けると、頷いた。

 

 そして、コックピットに乗り込もうとした時、ルナが叫ぶ。

 

「待って!!!」

 

「……ルナ……?」

 

「どうした、ルナ」

 

 クロノードが振り返り、片膝をついてルナを見る。

 

 すると、彼女はクロノードを抱き寄せて頭を撫でた。

 

「………!!!」

 

「……()()()()、お父さん。…今まで、私とお母さんを守ってくれてありがとう」

 

「これからは、二人で頑張るから、お父さんはゆっくり……ゆっくり休んでね」

 

「も、もうっ……な、なかないからっ……さびしくっ……ないから……!」

 

「心配しないでいい……から…!」

 

 

「………」

 

クロノードは涙を流しながらルナの頭を撫で言う。

 

「……ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 今度こそ、コックピットに乗り込むとルナと私を降ろすと、背を向けて歩き出す。

 

「どこに行くんだ!クロノード!!」

 

[……過去の人間でしか出来ない事をするだけだ。カカサ、ルナを頼むぞ]

 

[………言われなくたってやってやるさ。今までも、これからも!]

 

[……こんな苦しみ、もう終わりにしなきゃいけない。俺も、ムゲンも…。 いや、終わりにするんだ。俺の手で]

 

[何を……]

 

[俺の役目、俺が蘇った場所を破壊する]

 

[………なら、俺も…!!]

 

[ダメだ。 分かってるだろ、俺が生きてちゃいけない存在だって事は。だから、これは俺にしかできない事なんだ]

 

 遠ざかっていく、白い巨人の背中。

 

「クロノード!!!」

 

 歩みを止める。私は、叫ぶ。

 

「お前は……お前は後悔してないのか!!!」

 

 それを聞くと歩き出しながら言った。

 

[後悔なんか、するわけないだろ。俺は、筋書きや物語が大嫌いだ。だから、最期くらいはもう一度筋書きに"()()()()()"]

 

[……フィア、愛してる]

 

「……っ…!!バカ野郎……………!!!」

 

 ゆっくりと消えていく背中を見つめながら、ルナは言う。

 

「お母さん」

 

「………ルナ……」

 

 ルナは、決意を秘めた目で私を見て、言葉を続けた。

 

「私、医者目指すよ。お父さんの為じゃなく、"みんな"のために」

 

「ルナ……」

 

「人はいずれ死んでしまう。お父さんはそう言ったけど、でも、きっとその命の時間を増やすことくらいは出来るはずだから」

 

「……それが、お父さん……ううん、"父"が残してくれた言葉だから」

 

「少しでも多くの人が、私と同じ痛みを負う事の無いように。……応援してくれるよね」

 

 私はただ涙を流しながらルナを抱き寄せた。

 

 クロノード、お前の子は強く成長した、誰でもない、お前のおかげで……。

 

 

 

 その後、トリントン付近で巨大な爆発を確認。

 

 もし、これが神様の悪戯なら、あの子にとっては変わるチャンスをくれたのかもしれない。

 

 あの子だけじゃない。いつまでも燻ったままの私達に、もう、前を進んでいいと言ってくれたのかもしれない。

 

 未来を歩んでもいいと。

 

 

 それにしても……お前は…。

 

 私が愛してると返す前に逝ってしまうなんて。

 

 ロマンチストじゃないな……。

 

 

71 完

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