IS ~義を纏う犬娘~   作:中澤織部

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境ホラ好きなんだがあまり二次創作もなく、好きなキャラを突っ込んだ不定期更新作品。
頑張りたいから応援よろしく。


学舎の新入生たち

日本国 千葉県 館山市

 

 

 

古くは戦国時代から在った城跡を望む館山の市街から外れた郊外の麓に、ある古風な屋敷があった。

時代劇によく登場する武家屋敷を彷彿とさせる造りのそれは、曾ては大名として知られた里見家に残された数少ない資産の一つである。

その屋敷のそれまた古風な門の手前に、一人の少女がぎりぎりで持ち運べるほどの多くの荷物を携えていた。

少女は犬耳に似たインテークが特徴的な髪型に、動きやすい薄手のパーカーの下にはシャツとホットパンツといった活動のしやすい服を着ており、肩からは大きめのボストンバッグを下げている。

少女の対面、門の敷居から屋敷の内側には和装を着こんだ青年が腕を組んで立っている。

鍛えられた身体に長身で端正な風貌と、犬耳に似たインテークの髪をした正木憲時という名の青年は、少女に落ち着いた調子で話しかけた。

 

「……義康、今一度訪ねるが忘れ物はないな?」

 

「大丈夫だ。昨日の内には確認し終えている」

 

青年の問いに少女、里見義康は肩を竦めて答えと、姿勢を整えて言葉を重ねた。

 

「大分家を開けることになるが、姉さんのことは任せてるぞ。憲時」

 

「解っているよ。……けれど、任されずとも彼女は強いからなぁ」

 

それもそうだ、と二人して苦笑し、

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「ああ、行ってくると良い」

 

そう互いに言葉を掛け合うと、義康は生家に背を向けて歩き出した。

彼女の向かう先は館山市街。そこから鉄道で適度に乗り継ぐことで東京から神奈川辺りへと向かう道程だ。

 

(これから先、私の行く末は其処で決まる筈だ……)

 

目的地は世界でほぼ唯一となる専門校、IS学園だ。

インフィニット・ストラトスーー通称ISが登場したことにより作られたそこは、ISの希少性と独自性によって、必然的に世界各国から選ばれたエリートが集まる女子高でもあった。

義康がそこに通うことを決めたのは、単的に語るのであれば家のためである。

古くは室町時代前後に名前が記録され始めた里見家は、それこそ歴史の在る名家だ。しかし、実態は幾度も取り潰しや断絶の危機に会い、今では館山近郊の幾つかの土地と古い屋敷ぐらいしか残っていない。

父の代で傾いた事業も、彼女の姉の義頼とその友人である憲時の手腕でどうにか安定させたものだ。

義康はそんな一族の苦労を知っているからこそ、それを支える力になりたいと考えていた。

そんな最中のことだ。ISが世に現れたのは。

圧倒的な性能と特異性を持つ、世界でも467機しか存在しない希少なISの搭乗者ともなれば、それは最上の箔が付くだろう。

それに、義康にはもう一つの理由があった。

ISは様々な武装やオプションパーツによって多種多様な戦場やスタイルに合わせた応用の利く兵器であり、多くの者は重火器を中心にすると聞く。

だからこそ、と義康は思う。

今だ未熟ながらも、磨き、鍛えた唯一とも言える己の腕が通じるのかどうか、それを望んでいるのだ。

足早に歩を進め、不意に遠くを見る。

視線の先は海の向こう、僅かながらに観ることの出来る対岸には恐らくIS学園が存在する。

まだ見ぬ好敵手に心踊らせ、義康は視線を前に戻し、歩みを進めた。

 

 

……

 

 

織斑一夏という男がいる。

小学生の頃は剣道に努め、中学になると三年帰宅部だった普通の少年である。

成績はそれなりのもので、運動神経も良い方という健康優良児の彼は、IS学園の教室で頭を抱えていた。

 

『世界初の男性操縦者』

 

ひょんなことからその事実が発覚し、一夏は保護という名目で強制的にこのIS学園に入学させられていた。

しかもこのIS学園、ISを基本に学ぶということもあって女性ばかりしかいないのだ。

謂わば女の園に紛れた男。世の男ならばハーレムだの羨ましいだのと言うだろう。

しかし、実際に体験中の織斑一夏からすれば、そんなものは甘い楽観的意見にすぎなかった。

周りからの視線はさながら見世物小屋の猿のような、好奇の視線であることを思えば、その程を解ってくれるだろうか。

唯一例外があるとすれば、窓際にいる幼馴染と真後ろの席には座る少女だろう。

幼馴染はツンとした態度で顔をそらし、此方が助けを求めようとすると、それは一層露骨になる。

一方で真後ろの彼女は一夏に構う暇が無いのか、入学式前に配られた教科書や参考書を開き、こまめに予習している。

と、

 

「おい」

 

真後ろの少女は此方の視線に気付いたらしく、俯いたままで、しかし他には余り聞こえないように声を出した。

 

「あ、あぁ。えーとだな……」

 

咄嗟に言えるような上手い返しが齢16の一夏に言える訳もなく、やはり言葉に詰まった。

しかし、少女の方は溜め息一つ混じりに予習していた手を止めて、此方を見た。

 

「何故、此方を見ていたのだ?」

 

そう問うた少女に、一夏は辛うじて答える。

 

「いや、まあ何て言うか……此処に来てからずっと物珍しいって視線ばっかだったんだけど、ほら、えーと「義康でいい」……義康は別に気にしてなかったし」

 

少女、里見義康に一夏がそう答えると、彼女は視線のみで教室を見回すようにして周囲を伺う。

周りの席に座るクラスメイト達は、皆一様に一夏の方を伺うように好奇の視線を向けていた。

義康は呆れたように息を吐くと、一夏に言葉を放つ。

 

「別に、貴様が世界初の男性操縦者だということは知っている。連日報道もされれば、な」

 

だが、

 

「私は性別ではなく力量を重視すべきだと思っているし、加えて言うならば、貴様に対して必ず興味を持つ道理はないだろう?」

 

自らの価値観を主軸に答える義康に、一夏は成る程と理解して感心を含んだ同意をする。

と、教室の戸口が開き、入ってきた担任であろう女性が教壇に上がった。

緑髪の、眼鏡を掛けた小柄な彼女は教室を見回しながらチョークを手に取り、黒板に字を綴りながら言葉を作った。

 

「皆さん初めまして。今日から一年の間、副担任を努める山田真耶です。よろしくお願いしますね」

 

彼女、山田真耶はそう自己紹介をすると、左手に持っていた出席簿を開き、

 

「それでは、名簿順で自己紹介を始めますね。えーと、まずはーー」

 

 

……

 

 

義康は他の生徒の名乗りに注視した。

仮にも全国……いや世界から集まった彼女達は、将来を期待されたエリートに違いない。

自らも期待され、そしてそれを誇りにしている以上は此処で友人を作るのも良いだろう。

そう思って耳をすますと、何時の間にか織斑一夏の番が回ってきていた。

今朝こそは慣れないことへの固さがあったが、少しは解れているように感じる。

だが、それでも緊張していることには変わりないので、早々に言葉に詰まっていた。

 

「挨拶もまともに出来んのか馬鹿者」

 

そんな言葉とともに、突然一夏の頭頂部に出席簿が叩きつけられる。

出席簿から出たとは思えない異音を受けて一夏は痛みに堪えて動けずにいた。

叩きつけた相手は長身の、モデルのような肢体に漆黒のスーツを着こなした黒髪の女性で、切れ長の目は相手を射ぬく鋭さが特徴的だ。

この学園に通う者ーーいや、ISを知っている者ならば誰もが知るその姿は、義康にとって一種の憧れを抱く存在でもあった。

 

ーー織斑千冬。

 

彼女は第1回モンド・グロッソにおいて、ただ一振りの剣のみで強豪を破り、今でも世界最強のブリュンヒンデとも称されている程の人物だ。

義康は初めて織斑千冬の活躍を見たときから、憧れというよりは敬意……リスペクトというべきものを彼女に感じていた。

 

「い、いや待ってくれよ千冬姉ーー」

 

出席簿と一夏の頭頂部から有り得ない音がもう一度。

 

「ここでは織斑先生だ、馬鹿者」

 

「は、はい。織斑先生……」

 

まるでコントのようなやり取りの後、千冬は教室全体を見回すようにして、告げる。

 

「さて、私がここの担任となった織斑千冬だ。始めに言っておくが、貴様らはこの学園に通うことを許されたが、だからと言って驕ることは許されん。態度や素行によっては即退学すらあり得る話だからな。これから3年はしごいてやるから覚悟すると良い」

 

おおよそ教師というよりは鬼軍曹の名が似合うような台詞を吐いた直後、教室内で歓声が響く。

 

「本物の千冬様よ!?」

 

「私、貴方に会うために北九州から来ました!!」

 

「私はロードランから来ました!」

 

「どうぞ、しごいて罵って!!」

 

「でも、時には優しくしてください……!!」

 

危険な反応しか確認出来ないような歓声を聞きながら、義康は始まりから禄でもないことになるという危機を直感した。というかロードランって何処だ。

見れば、千冬も眉間に手を当てて愚痴を溢していた。

 

「全く、何故私のクラスにはこんな奴等が集められるのだ?」

 

義康は思った。有名になるとはこういうことか、と。

織斑千冬に向けて、彼女は初めて同情という哀れみを感じたのだった。

 

 

……

 

 

山田先生のとりなしで教室が静まると、自己紹介が再開された。

当たり障りのないものから自己主張の激しいものまで、多種多様な挨拶が行われ、緩やかに進行していった。

義康の場合は、

 

「私の名は里見義康だ。早朝の武術や剣術の鍛練を日課としている。これからの3年間を、皆と共に競っていきたい」

 

という物だった。

紹介を終えた義康はそれなりに満足気であった。

やや簡潔に過ぎるきらいはあるが、要所を抑えた紹介が出来たことを喜んだ。

そうして全員の自己紹介が終わり、最初のHRが始まろうとしていた。

そんな時に、義康は自身の背後から敵意ある視線を感じた。

ちらりと見れば、数席も後ろのそこにはウェーブのかかったブロンドの長髪と碧眼の少女。

見知らぬ彼女に、義康は敵意を向ける先が、恐らく己の前にいる織斑一夏へのものだと咄嗟ながらに理解する。

 

(織斑との間に何かあったのか?)

 

ふと感じた疑問だが、義康は己に関係のないものとわかると意識を教壇の千冬に向けた。

まさか、その少女ーーセシリア・オルコットの敵意がすぐ後になって自らを巻き込むものになるとは、この時の義康にわかる筈もなかった。




キャラの掛け合いとか色々助言とかアドバイスがあったら下さい。
誰と絡ませようか悩む…。

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