警司「どうも、時雨警司です。四大元素はこの世の物質を構成する概念と言われてるけど、RPGやファンタジー小説なんかだと他にも色々な属性があるよな」
政実「主に雷や氷、後は光や闇だね。それを含めるなら光が一番ではあるけど、四大元素に限るなら水が一番になるかな」
警司「そっか。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・警司「それでは、第2話をどうぞ」
「ん……」
外から聞こえてくる雀の眠そうな
「ふあ……もう朝か。それにしても……昨日は本当に驚いたな……」
そんな事を独り言ちながら昨日――配属初日の出来事を寝起きでボーッとする頭のまま思い出した。俺――新人警察官の
「……まあ、皆良い人達ばかりだから、そこだけは安心できるよな。昨日だって、俺の配属祝いだという事で、飲み会だって開いてくれたわけだし。ただ、あそこには昨日見たリザードマンのグランさんとか大猫の
まだ見ぬ『次元街』の住人達との出会いについて思いを馳せていると、突然大きな腹の音が部屋の中に響き、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「……っと、まずは朝飯だな。時間もまだまだ余裕がありそうだし、今日は少しだけ手の込んだ奴を作るのもありかな?」
そして布団から体を出した後、俺は朝食を作るために台所へと向かった。
「いただきます」
目の前に並んだ朝食を見ながら俺はしっかりと食事の挨拶を行い、そのまま朝食を食べ始めた。目の前には茶碗に盛られたホカホカと湯気を立てる白飯や香ばしい匂いを漂わせる所々に焦げ目が付いた焼き鮭、そして嗅ぐだけで気持ちが落ち着いてくる味噌汁とほうれん草の煮浸しと色々な品目が並び、見ているだけでも楽しくなってくるような気がした。
「……うん、トーストとかコーンスープみたいなのも良いけど、やっぱり和食は和食で気持ちが落ち着いてくるよな」
コクのある味噌汁で少し温まった口内をほうれん草の煮浸しでさっぱりとさせ、その後に箸で少しだけ身を崩した焼き鮭を載せた白飯を口へと運んで、焼き鮭の塩味と白飯の素朴な味わいのコラボレーションを楽しむ。ただそれだけの動作なのだが、俺にとっては至福の一時を与えてくれる物のように感じた。そしてそうやって食べ進めていた時、俺の中である疑問が湧いてきた。
「そういえば、警部達は朝食をいつもどんな風に取ってるんだ……?」
昨夜の飲み会の際、『次元街』の事を中心に色々な会話をしながら飲んでいたが、そういった事については一切触れていなかった。別に訊いてはいけないわけでは無いが、その時はそれよりも『次元街』で日々起きている出来事についての方が興味を惹かれたため、正直そちらの方まで頭が回っていなかった。
「昨日の事を考えると、警部は『次元街』の方で基本的に朝食を取ってるみたいだけど、家はこっちの方にあるって飲み会で言ってたよな。そして、十文字さんは不明だけど、あの感じだとよく留守番を頼まれてるみたいだから、簡単に食える物――コンビニで買える物やファーストフードみたいな出来合いの物が多い気はする。後は天王寺さんだけど、天王寺さんはイメージ的にオシャレな朝食を自分で作って食べてる感じがするんだよな……」
まだ1日しかあの人達と仕事をしていないのもあるが、警部も含めてまだまだあの人達には謎が多い。そのせいなのか、よほど酷い生活以外であれば、どんな生活をしていても何だか納得できるような気がしてしまう。
……まあ、それだけ時之派出所のメンバーや『次元街』という存在にはまだまだ謎が多い。けど――。
「言ってみれば、それを知る楽しみがまだまだある事になるわけだし、そういう部分も楽しみながら今日も俺なりに精一杯頑張ってみるかな」
今日の職務に向けての小さな決意を口にした後、今日の仕事へ向かう元気をつけるために再び朝食を食べ始めた。
およそ1時間後、準備を終えた俺は、警察官としての装備が置かれている警察署へと来ていた。もっとも、ここに来たのは装備を取りに来たからだけでは無く、現時点ではここに来る以外の方法で
「昨日は錠前警部が別の道から連れて行ってくれたけど、流石にそっちの道まではまだ知らないからなぁ……それに、装備は勤務中以外はここに置いておく決まりになってるし、余程の事が無い限りはここから行くのがベストだよな」
そんな事を独り言ちながら警察署の中へ入り、そのまま男性用更衣室へと向かった。そして、更衣室のドアをゆっくりと開けると、そこには楽しそうに談笑をする二人の男性の姿があり、その二人へと近付きながら俺は挨拶をした。
「おはようございます、錠前警部、十文字さん」
「……おや、おはようございます、時雨君」
「おっす、警司! 昨日はよく眠れたか?」
「はい、思いの外グッスリと眠れましたよ」
その答えに錠前警部がニコリと優しく笑いながら頷く中、十文字さんは「へへっ、それなら良かったぜ!」と、朝からとても元気の良い声で言いながら俺の肩を軽くポンポンと二回ほど叩いた。穏やかで物静かな錠前警部に対し、十文字さんは体育会系な性格をしている上に人間と魔人のハーフというだけある力の強さがあるため、スキンシップとして軽く叩かれるだけでも結構な衝撃と鈍い痛みを伴うので、こう接してくれるのが嬉しい反面、少しだけ力を抑えて欲しいとこっそり思っている。
まあ、二人とも良い人なのは間違いないし、少数精鋭の時之派出所を今まで回してきた実績はあるわけだから、ゆっくりでも良いから俺も慣れていかないといけないよな。
そんな事を思いながら肩に走る鈍い痛みを表に出さないようにニコリと笑っていると、錠前警部がチラリと腕時計に視線を向け、「おや……」と小さな声で呟いたかと思うと、俺達の方へ視線を戻してから穏やかな声で話し掛けてきた。
「二人とも、そろそろ良い時間のようですので、時之派出所へ行くとしましょうか」
「うっす、ゲンさん!」
「あっ、はい!」
俺は二人を待たせないように急いで制服へと着替えながら装備を整え、更衣室にある姿見で軽くチェックを行った後に時之派出所へ行くために必須な道具――『マギア・ブレス』を右腕につけた。
「お待たせしました、準備完了です」
「分かりました。それでは、行きましょうか」
「はい!」
「うす!」
そして、俺達の返事に錠前警部が頷いた後、ゆっくりと更衣室のドアを開けると、そこには先ほど通ってきた警察署の廊下では無く、俺達が勤める時之派出所の廊下が見えていた。
「……やっぱり、この技術ってかなりスゴい……ですよね?」
「んー……まあな。言ってみれば、魔術一つで別の時空同士を繋げ合ってるわけだし、一般的な魔導師程度には到底出来ない方法なのは間違いないよな」
「ふふ……そうですね。因みに、私も一度どういう仕組みなのかを聞いてみた事はありますが、その時に『彼』から中々興味深い話をしてもらいましたよ」
「彼……『次元街』を創った創造主、ですよね?」
「ええ、その通りです。最近は全く会っていませんが、彼の事ですから今でもどこかで同じような街を創り、そこで楽しい生活を送っているような気がします」
創造主の事を話す錠前警部の表情には、懐かしさや楽しさといった感情が浮かんでおり、創造主との触れ合いが錠前警部にとってとても楽しい物だった事がそこから感じ取れた。
『次元街』を創った創造主……か。どんな人――いや、そもそも人なのかすら分からないけど、いつかは会えるのかな?
まだ見ぬ創造主の姿を想像しながら錠前警部達と一緒に廊下を進んでいき、事務仕事などを行う部屋へ着いた時、机の上に何やら難しそうな本を広げながら真剣な様子でそれを読んでいる女性――天王寺千代さんの姿が見えた。
「千代さん、おはようございます」
「うっす、おはようさん、千代」
「おはようございます、天王寺さん」
「……あ、おはようございます、ゲンさん。ケンさんと時雨君もおはよう」
「あはは……相変わらずゲンさんには丁寧だけど、階級上は上の俺にはフランクだよな、お前」
「確かに私の方が下ではあるけど、これはあくまでも形式的な階級だから。それに、
「へいへい、了解しましたよ。ところで、その様子だと今日も勉強中だったのか?」
十文字さんが千代さんの机の上に広がる本を指差しながら訊くと、千代さんは静かに頷きながらそれに答えた。
「ええ、そんなところよ。私は魔女の一族の末裔でもあるわけだから、日頃から様々な魔法やその理論なんかを覚えておかないといけないのよ」
「ふーん……まあ、俺は正反対な感じだけどな」
「え、そうなんですか?」
昨日の十文字さんの様子――真剣な表情で炎の壁を作っていた様子を思い出しながら訊くと、十文字さんは頭をポリポリと掻きながら小さく笑った。
「あはは……俺は勉強とか理論って奴があんまり得意じゃなくてな、だから昨日の魔術も感覚で覚えた奴なんだよ」
「……そう考えると、確かに十文字さんと天王寺さんは正反対みたいですね」
「ええ。前に一度だけケンさんにこの中の魔導書を読ませた事があるんだけど、1分も経たない内に眠り始めたのよ。でも、目の前で実演してみせると、それをいとも容易く再現出来るから、ケンさんが見て覚える派なのは間違いないわね」
「そうなんですね……」
理論派で勉強家の天王寺さんと感覚派で天才肌の十文字さんか……この二人って実は良いコンビなんじゃないのかな……?
天王寺さんと十文字さんの二人を見ながら心の中でそう思っていた時、話を静かに聞いていた錠前警部がゆっくりと前へと進み出、俺達の事をゆっくりと見回しながら穏やかな口調で話し掛けてきた。
「さて……それでは、そろそろ今日の朝礼を始めましょうか」
「「はい」」
「うっす!」
そして、俺にとって勤務2日目の朝礼が静かに始まり、錠前警部の話を聞きながら今日の勤務へ向けてやる気とワクワク感を静かに高めていった。
朝礼後、俺は初日と同じく十文字さんとのパトロールへ行く事になったため、軽く身嗜みを整えてからやる気充分な様子の十文字さんの横へと静かに並んだ。
「それじゃあ、二人でパトロールに行って来ます」
「はい。二人とも、気をつけて行ってきて下さいね」
「はい!」
「うす!」
そして、揃って派出所を出た瞬間、目の前に突然何かが降ってきたため、俺は「おっと……!?」と言いながら瞬時に後ろへと飛び退いた。すると、それを見ていた十文字さんが「おっ、ナイス判断だな」と感心した様子で言った後、降ってきたものの方へと再び視線を向け、少し呆れた様子でそれに話し掛けた。
「……んで、お前達は今日もイタズラをしに来たのか?」
「へへっ、まあな!」
「正しく言うなら、ここに新しい人が来たって聞いたから、挨拶代わりのイタズラをしに来た、だけどね」
「あははっ、今の声はスゴく面白かったよね!」
「うんー……本当にスゴかったよねぇ……」
その声を聞きながらそちらへ視線を向けると、そこにいたのは炎のように赤い髪の少年を始めとした4人組の子供であり、十文字さんの口振りからこの子達が時之派出所ではよく知られた子達なのが何となく分かった。
「えっと……十文字さん、この子達は……」
「あー……簡単に言えば、この町に住んでるイタズラ好きの四精霊だよ。もっとも、まだガキだから大掛かりな事は出来ねぇんだけどさ」
「四精霊……確か、炎のサラマンダーに水のウンディーネ、それと風のシルフに土のノームでしたよね?」
「ああ、大正解だ。コイツらにはちゃんとそれぞれに親がいるんだが、両親が共働きなのを良い事に大好きなイタズラをするために街中を駆け回ってるんだよ」
「……つまり、これも日常茶飯事なんですね?」
「……そういう事だな」
十文字さんが軽く溜息をつきながら答えると、サラマンダーの子供が両手を腰に当てながら少し怒った様子で話し掛けてきた。
「なんだよ! イタズラは楽しいんだから仕方ねぇだろ!」
「……そうは言うがな、ソロ。お前達にとっては楽しいイタズラが、された奴によっては迷惑になる時だってあるんだぜ?」
「う……それはそうだけど……」
「まあ、ガキが遊び回る事について反対する気はねぇけどさ。少しは落ち着いた行動を――」
「……ふん! 落ち着いた行動なんて俺達には似合わねぇんだよ! 行くぞ、ルウ、リーン、ブラウ!」
「「うん!」」
「うんー」
そして、イタズラ好きの四精霊達はそのまま走り去っていき、その様子に十文字さんは深く溜息をついた。
「はあ……やっぱりアイツら、最後まで話を聞いていかねぇなぁ……」
「やっぱりって事は……いつもこんな感じなんですか?」
「そうだよ。だけど、何故かゲンさんの話だけは素直に聞くんだよな……」
十文字さんがチラリと錠前警部の方へ視線を向けると、錠前警部はクスクスと笑いながらそれに答えた。
「しっかり彼らと向き合ってあげれば良いだけですよ、ケンさん。それに、彼らはエネルギーが有り余っているわけですから、どうにか発散させてあげるのも手だと思いますよ?」
「エネルギーの発散、かぁ……。流石の俺でもアイツらに着いていけるかは分かりませんけど、その意見は参考にさせてもらいますね」
「ふふ……分かりました。それでは、今度こそ気をつけて行ってきて下さいね」
「はい」
「うっす!」
そして、俺達は今度こそ『次元街』のパトロールをするために、様々な種族が行き交う街の中へと出ていった。
数時間後の昼過ぎ、俺達は簡単な腹拵えをした後、事務仕事をしている錠前警部達と派出所の留守番を交替するために、一度派出所へ向かって歩いていた。
「はあ……アイツら、今日はいつもより元気が良いなぁ……」
「あはは……もしかしたら、それは俺が来たからかもしれないですね。いつも通りの反応を返す十文字さんに対して、俺の反応が彼らにとって新鮮な物だったかもしれませんし」
「なるほどな……」
十文字さんが先程までの四精霊達のイタズラ――上からの落水や突然の強風などを思いだすように頷いていたその時、先の方から何やら大きな音が聞こえ、俺はその音の正体を探るために耳を澄ませた。すると、それが寝息である事が分かり、それと同時に寝息の主が誰なのかもしっかりと分かった。
「この寝息は……大猫の珠音が出してる物みたいですね」
「おっ、よく分かったな。昨日はちょっとおいたが過ぎたが、普段はこの時間帯になると、スッゲぇ気持ち良さそうに昼寝してるんだよ」
「へぇ……そうなんですね」
「ああ。……そうだ、せっかくだしちょっとだけ見てくか。どうせ通り道にいるわけだしな」
「はい」
そして、そのまま先へ進むに連れて珠音の寝息は大きくなり、目の前に1メートルを超える大きな三毛猫の姿が見える頃には、寝息の衝撃波が体全体に伝わり、思わず仰け反ってしまう程だった。しかし、珠音自身はとても安らかな寝顔をしており、その様子は見ているこっちまで穏やかな気持ちになってくる程に平和な物と言えた。
「珠音のこの姿……こうして見ると、普通の三毛猫の昼寝風景みたいですね。大きさ以外は」
「ああ、大きさ以外はな。けど、珠音はスゴく大人しい奴だし、知らない奴を襲う事は無いんだが、寝ているところを無理やり起こされるのは大嫌いらしいんだよな」
「あはは……まあ、その気持ちはよく分かりますけどね」
「全くだ。人が気持ちよく寝ているところを邪魔されるのは、本当に許せないからな」
十文字さんが少し怒った様子で腕を組みながら言ったその時、後ろから「……へへっ、良い事聞いたぜ!」と、とても楽しそうな声が聞こえ、そちらへ視線を向けると、そこにいたのはソロ達イタズラ好きの四精霊達だった。
「君達……まだ俺達の後をついてきてたのか……」
「なんだよ! 悪いのか!」
「いや、悪いわけじゃないけど……暇なのかなと思っただけだよ」
「暇……と言うよりは、お兄さん達についていったら面白そうだったからだよ」
「そうそう。お兄ちゃん達なら何か面白そうな事に巻き込まれそうだしね」
「面白そうな事って、お前達なぁ……」
十文字さんが呆れた様子で溜息をつく中、ソロが気持ち良さそうに寝ている珠音の目の前まで静かに歩いていくと、そのソロの行動に十文字さんは少し慌てた様子で声を掛けた。
「おい、ソロ! 起こすなよ、絶対に今の珠音を起こすんじゃないぞ!」
「起こすなよって……それは振りって事だよな?」
「振りじゃなくマジだよ! 良いから、早く離れろ!」
「ははっ、離れろって言われて素直に離れる奴なんていないだろ? コイツが寝ているところを無理やり起こした事はまだ無かったから、ちょうど良いぜ!」
ソロは楽しそうな様子で言いながら右手に小さな火球を生み出すと、十文字さんの制止を無視しながらそれを珠音の鼻先へと近付けた。すると、珠音は大きな金色の目をゆっくりと開き、目の前にある物の正体に気付いた瞬間、驚きから目を大きく見開き、後ろへ飛び退きながら大きな鳴き声を上げた。そして、怒りで我を忘れている様子で再び大きな鳴き声を上げると、怒りの原因であるソロの事を睨みながら毛を大きく逆立てた。
「十文字さん……もしかしなくてもこれって……!」
「ああ……完全に怒りで我を忘れてやがる……! マズいな、この状態ならまだ俺でも何とか出来るが、その前にコイツらをどうにかしないと……」
十文字さんが緊張感に満ちた様子でチラリと視線を向けると、ソロ達は珠音のあまりの気迫と恐怖で動けなくなっており、早めに手を打たないと、ソロ達が怪我をするだけではすまなくなるのは明らかだった。
……こうなったら、もう仕方ないよな。
ソロ達の怖がる顔を見て、ある決心を固めた後、俺は珠音から視線を逸らさずに十文字さんに話し掛けた。
「十文字さん、ソロ達を連れて先に戻ってて下さい」
「先に戻っててくれって……警司、お前まさか……!?」
「ええ。皆さんのような力は無いですけど、出来る限りやってみようと思います」
「バカな事を言うな! 今の珠音が危険なのは、お前も分かって――」
「分かってます。でも、ソロ達を守りながら無事にこの場から離れられるのは、魔法が使える十文字さんしかいないんです」
「警司……」
「だから、早く行って下さい。住民の平和を守るのは警察官の使命ですから」
「……分かった。だったら、コイツを使え」
十文字さんは左手に水球を生み出して珠音を牽制しながら、もう片方の手で制服のポケットから1枚の紙を取りだし、それを俺に渡してきた。
「これは……?」
「前に千代から貰った物だ。ここには主に誰かを守ったり癒したりする魔法が書かれてる。まあ、時之派出所に配属されたお前ならどうにか使う事は出来ると思うが、あくまでも初級魔法に過ぎないから、あまり無理はするなよ?」
「……ええ、もちろんです」
十文字さんから受け取った紙を手に、ソロを庇うような形で珠音の前に立ちはだかると、 珠音は少しだけ戸惑った様子を見せたが、すぐに再び毛を大きく逆立てながら俺に向かって威嚇をしてきた。
「に、兄ちゃん……」
「ソロ、君がやってしまった事は、確かに良い事なんかじゃない。けど、だからと言って君が傷を負っても良い理由にはならないし、その様子を見る限り、君は既に自分がしでかした事の重大さは分かっているようだしね。だから、この命に代えても君や友達の事は俺達が絶対に守ってみせる」
この状態の珠音に立ち向かうのは、本当なら無茶も良いところだ。けど、俺も新米とは言え警察官の一人であり、この『次元街』の住人の平和を守る時之派出所のメンバーの一人だ。だからこそ、ソロ達に怪我をさせないのはもちろん、珠音に怪我をさせないように問題を解決する事を目指すしか無い。
さて……そのためには、まず十文字さんにソロ達を――。
その時、上からとても綺麗な声が聞こえてきた。
「……ふふ、どうやらタマちゃんがご機嫌斜めになっちゃったようですね」
「……え?」
今の状況には似付かわしくないその穏やかな声に、疑問の声を上げながら視線をそちらへ向けると、そこにいたのは和やかな笑みを浮かべながら宙に浮いているクリーム色のロングヘアのハーフエルフの女性だった。
「貴女は……珠音の飼い主の……」
「はい。タマちゃんがお昼寝をしている間にちょっとだけお散歩をしてたのですが、タマちゃんの声を聞いて戻ってきたんです」
珠音の飼い主――ミントさんは、そのまま静かに俺と珠音の間に降り立つと、怒りに満ちた目をしている珠音に対してクスクスと笑った。
「タマちゃん、今落ち着かせてあげるわね。『
ミントさんが珠音の頭を撫でながら魔法を唱えた途端、珠音の表情が徐々に柔らかな物になっていき、程なく珠音はすっかり落ち着いた様子でミントさんに話し掛けた。
『……ミントさん、お帰りなさい。そして……ありがとうございます』
「ふふ、ただいま。そして、どういたしまして」
かくして、ソロが引き起こしてしまった珠音の怒りの一件は、俺達時之派出所のメンバーでは無く、飼い主の力によって解決した。そして、珠音とミントさんにしっかりと謝ったソロを含めたイタズラ好きの四精霊達を家まで送り届けた後、俺と十文字さんは今度こそ錠前警部達と交替をするために時之派出所ヘと向かった。
翌日、十文字さんと天王寺さんがパトロールに行っている中、錠前警部と一緒に派出所で事務仕事を行っていると、突然錠前警部がクスリと笑い出したため、俺は作業の手を一度止めて錠前警部に声を掛けた。
「錠前警部、どうかされましたか?」
「いえ、2日続けて珠音さん関連の事に巻き込まれる辺り、時雨君は本当に珠音さんやミントさんに縁があるのだなぁと思っただけですよ」
「あはは、確かにそうですね」
「珠音さんとミントさんも時雨君には良い印象を抱いているようですし、また近い内に何か珠音さん関連の出来事に巻き込まれるかもしれませんね」
「それは……楽しみなようなちょっと怖いようなというところですね。十文字さんからもらっている紙や天王寺さんから借りている魔導書もまだ全てを読めているわけでは無いですし」
錠前警部の言葉に苦笑いを浮かべながら返事をした後、俺は昨日の事を思い出した。あの日、仕事が終わったタイミングで十文字さんから渡されていた紙を返していると、それを見ていた天王寺さんが理由を聞いてきたので、俺は正直に話をした。すると、天王寺さんは「……そういう事ね」と納得した様子で頷き、魔力量の少ない人間でも扱える魔法が載っている魔導書を幾つか取り出すと、俺が魔法を使う事に興味があるならこれらを貸しても良いと言ってくれた。俺はこの『次元街』で働く以上、自衛目的や珠音の件のように誰かを守るために魔法を使えるようになっておきたいと思っていたので、その申し出を喜んで受けた。そして、魔導書は異世界の言語で書かれていたため、千代さんが俺のために翻訳の魔法を魔導書へと掛けてくれた。そのため、少しずつではあるが、時間がある時に魔導書を読むようにし、近い内に俺の魔力量を増やすための特訓を十文字さんも交えて行う約束をしている。
十文字さんと天王寺さんを超えられるとは思ってないけど、少なくとも
そう心の中で強く思いながら再び作業を始めようとしたその時、「……なあ」という声が聞こえ、そちらへ顔を向けた。すると、そこにはソロ達イタズラ好きの四精霊達の姿があったため、俺は小首を傾げながらソロ達に声を掛けた。
「ソロじゃないか、どうかしたのか?」
「……昨日はありがとうな、兄ちゃん。俺が悪かったのに、あの大猫から守ってくれたのは本当に嬉しかったよ」
「ふふ……どういたしまして。でも、あんな事はもうしない方が良いぜ? 一応、気付く事が出来たら助けてやれるけど、そうもいかない時もあるからさ」
「う、うん……そうするよ」
「うん、それなら良いよ。昨日も言ったけど、お前達も含めてこの街の住人の平和を守るのが俺達の役目だからな。何か困った事があったら、遠慮無く言ってくれよ?」
ソロの頭を撫でながら言うと、ソロは少し俯きながらコクンと頷いた。そして、静かに顔を上げると、ソロは恐る恐る話し掛けてきた。
「あの……さ、兄ちゃん」
「ん、何だ?」
「えっと……改めてこれからよろしくな、
「……ああ、こちらこそよろしくな」
ニコリと笑いながら答えると、ソロを始めとした四精霊達は揃って満面の笑みを浮かべながらコクンと頷いた。この『次元街』には、まだまだ俺が知らない住人がいるだろう。けど、珠音やこの四精霊達のように何かのきっかけで関わる事は間違いないし、こうしてしっかりと仲良くなる事も出来る。
……だからこそ、これからも警察官としての職務も魔法の特訓も精一杯頑張っていかないとな。
太陽のように明るいソロ達の笑顔を見ながら俺は心の中で改めて強く決意をした。
政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
警司「今回の話で、俺が作品内で魔法を扱う事が決まったわけだけど、この様子だと実際に使うのはもう少し後の話になりそうだな」
政実「そうだね。ただ、使わせられそうなタイミングがあったら、使わせる事があるかもしれないけどね」
警司「ん、了解。それで、次回の投稿予定は未定で良いのか?」
政実「うん、大丈夫」
警司「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
警司「ああ」
政実・警司「それでは、また次回」