“Dragoon”さん に感謝の意を
と、言う訳でどぞ。
IS学園の生活に慣れ始めた春の日に、各クラス代表委員同士のトーナメント形式で行われるのが“クラス対抗戦”だ。
実質的には新入生に在籍するオリジナルユーザーのお披露目と言った
「
[中心では知りえぬ事もある、とも言いますし]
「お前の事とかな?」
「口説くなら相手を考えるんだな」
いつものリンクス三名が居るのはアリーナのロビー。対戦表の表示枠になるであろう大型画面の前だ。
適当な会話もそこそこに、予定時刻となった。
「組み合わせが出たぞ。って」
[一戦目から織斑さん対凰さんですね]
ヴィクトルは別の所を見ている。
「簪……」
彼にとっては少々予想外だった。実力はあるが引っ込み思案の彼女がトーナメントの出場を受けるのは。
先ず気付いたのはアレックスだ。
「噂をすれば、来たぜ」
「あ、あの……グラズノフ、さん」
「おっ、来たなヴィクトルの嫁ぇ」
[よ!? よmっ! どう言う事ですか!?]
リリウムの食いつきが早い、一体なんだと言うのか。と考えるのはヴィクトルと一夏位しかいないだろう。
「落ち着けリリウム、ストレイドの冗談に過ぎない」
……全く、歳の差が理解出来んのか
精神的にはおおよそ半世紀分の隔たりが……いや、解るだろうか、それはそうとしても外見として健全だ。
「それで? なんか用が有ったんじゃないのか」
「え? う、うん……その、この試合で勝てたら――」
「グラズノフさーん? どこですかー?」
フィオナの声だ。
「済まない簪、仕事だ」
「うん、解った……」
「当たりでした、グラズノフさん」
「嫌な予感ばかり現実になるのだな」
ヴィクトルの発した一つの打診、応じた企業連の答えは“YES”だった。
「情報は掴めていない、と言うより秘匿されているような印象ですが……。
非常に高い可能性を示唆されています」
つまりは、荒事だ。
「
予測位はあるだろう?」
「はい、IS学園のセキュリティから考えて敵はIS戦力になるだろう、と」
「本気か? 直ぐに元が割れるのに……」
「それでも、此処に攻撃するためには他に策が無いでしょう」
「了解した」
彼は踵を返し部屋を後に、
「待って下さい、問題が一つ」
「……と言うと」
「その、学園の規定で……ISの展開許可が下りていないんです」
基本的に学園に於いて武装は所持禁止だ、更にIS の展開も規制が掛かっており、非常事態になったとしても許可無しには展開できない。
「なんだか生徒会長さんの所で止められているみたいで」
「…………」
「そっ、そんな目で見ないで下さいよぅ。その、何でこんなに生徒会長の権限が強いんですかね……?」
「わかった。失礼する」
……結局、“あれ”の所に行かねばならないのか……
彼は部屋を後にする。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『それでは両者、既定の位置まで移動して下さい』
アリーナの座席はほとんどが埋まり試合の開始を今かと待っている。
『今謝るなら、少し痛めつけるレベルを下げてあげるわよ?』
『そんなの要らねぇよ。全力で来い』
アリーナ中空では二機のISが相対する。
〈――例え生徒会長でも、観客席は変わらんようだな〉
〈想像と違った? 役職は使うものだけど驕るための物では無いでしょ?〉
席に座る楯無の真後ろにヴィクトルが腰を下ろす。
〈情報は来ているな?〉
〈今の所、目立った動きは無いから、恐らく外部だと思うけど〉
〈展開許可が欲しい〉
〈あら、私との会話は嫌い?〉
〈勿論だ〉
〈えぇー、お姉さん悲しいなぁ〉
〈何処まで本気だか知れた物では無いな、こちらはカラード傘下の傭兵として要求している〉
〈まぁまぁ、試合が始まるから。ちょっと見て行かない?〉
〈……ッ〉
……だろうと思ったが……
『それでは両者、試合を開始して下さい』
試合が始まる様だ。
……まぁーったく、気持ちいい位に殴り合う機体同士だな
アレックスはオペレーティングルームで試合開始を確認した。
〚……なんでお前らは此処にいるんだ〛
千冬が声を発する。
〚席見つかんないし〛
〚こちらの方が観戦し易いですしね〛
リリウムが言うが、少し語弊がある。
この部屋はアリーナを直接確認出来ないため、“観戦”には向かない。
リリウムやアレックスにとっての“見る”を指す意味が異なるのだ。
彼女らが見るのは
二人は手慣れた様子で表示を変更していく、その度に表示される数値の量は増減を繰り返す。
〚ウォルコットは解るが、
〚えぇ。あの子にはそういう才能が有るみたいで、始めてコンソールに触れた時からこの様な感じでしたの〛
箒が言うと、まるで自分が褒められたかの様にセシリアが胸を張る。
〚そうだ、良い感じに流せよ……〛
画面の向こう側での戦闘は互角、よりは一夏に勢いが有る。
鈴の青龍刀を受けずにいなし、攻撃の瞬間に雪片のブレードを展開する。
急に変化する間合いに鈴は戸惑っている様子だ。
〚極厚の刃との打ち合いはきついからな、手数で勝負だ。離されんなよ、一夏ぁ〛
落ち着いた様子でアレックスが言う。
〚あの、アー、じゃなくてグラズノフさんはどちらに行ったのでしょうか?〛
〚そう言えば見掛けませんわね……〛
〚確かに、ある意味“戦闘狂”のあいつが居ないのは妙だな〛
……
一人解っていたアレックスが思う。
奴は口下手だしなぁ、なんて考えつつ画面に戻った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……そろそろ合わせて来たな
ヴィクトルは歯痒いながらも観戦に興じていた。
〈この試合、どうなると思う?〉
楯無は振り向いた状態で言う。
ヴィクトルにとってはそれどころでないのだが、
〈近接戦の立ち回りを理解している鈴が相手だ、立ち合いの技術で勝てるとは思えない。
〈へぇ、随分あの子を持ち上げるのね〉
〈悪いが
と、試合が動いた。甲龍の肩部が展開、数瞬後に一夏が吹き飛んだ。
宙返りして体制を整えた一夏だが、不意の攻撃が理解できていない。
〈空射砲か〉
〈衝撃砲ね、以外に火力が有るみたい。倉持製でもあそこまで吹き飛ぶなんて〉
〈だが、一夏も良く堪えた〉
……予想以上かも知れんな
彼は一夏への評価を少し上げた。
代表戦第一試合は局面を変える。
〚砲身が見えないのか……〛
『そうよ、だから死角は皆無って事』
〚当たれば、な〛
『なっ――』
一夏は取り敢えず焚き付けて思考時間を確保する。
……見た感じ、自動発射じゃないみたいだな
砲身を必要としない事による無限射角とISの機能であるハイパーセンサ―による無限視角。
これを組み合わせた結果の“理論値による0死角”と言う事なのだろう。
『だったら避けてみなさいよ!』
時間切れだ。
……確か、射撃武器の特性の見分けは……
一夏は動き出す。距離を取る様にして真っ直ぐ右に動く、
『ハン、そんなので避けられるって!?』
……肩部の大気が微量に揺れた、これが発射の合図なんだろうな
戦闘時に失ってはいけない物は冷静さと分析の努力だ。一夏は多少の被弾を犠牲に分析に徹した。
『さっきのは口だけだったようね!』
……だったら
一夏は発射兆候を確認、今度は発射の瞬間だけ加速し止まる。
不可視の弾丸はまたも当たった。
〈ほぅ……〉
〈? 一夏君何してるのかしら、避けてる様子では無いわね〉
……流石に解るか
周囲では“これは決まったかな”といった空気が広がる中、後方の二人は別の可能性を示唆する。
〈あれが“グーちゃん式”の戦い方?〉
〈グ……一夏の仕込みはストレイドの物だ〉
だが、何をしているのかは解る。
〈敵の得物に目当てを付けているのだろう。この域なら五発目には避ける〉
ヴィクトルは彼の胆力を評価していた。どんな火事場でも一夏の目がぶれる事は無いだろう。
一発目は発射兆候と弾丸の速度、二発目は偏差射撃の有無、三発目はその精度……。
〈来るぞ……此処から回避と接近だ〉
ヴィクトルが言うが早いか、一夏の目が変わっていた。
〚じゃあ行くか……〛
『なんどやっても――』
肩部兵装“
『――ッ!?』
外した。
〚不可視ってとこでカバーしている見たいだが、
更に一発を避けて一夏は続ける。
〚空気に圧力を掛ける以上、弾丸を俺の所位に飛ばす時砲身を大きく出来ない上に距離の減衰が
〈そして致命的なのは衝撃砲に偏差射撃能力が無い点にある。
唯一持つ射撃兵装としては癖が強いな〉
〈まぁ、使い方次第ね〉
〈それを鈴が物にしていないのが問題だな。後は……〉
……クイックブーストの完成度に
近づけば、それほど火力が上がる龍砲相手に近接戦闘を挑むのは危険だ。
だが、
『……信じるぜ、
「そうだ、お前に奇策なんて似合わない、行けよ白式」
〚一夏……なんだか、人が違うみたいだな〛
……まるで別人だ、私が知らない他人の様で……
“私はこのままで良いのだろうか”、箒は自問する。
特に、此処のプロフェッショナル達と居ると、時々“自分が居て良いのだろうか”と悩んでしまう事がある。
〚箒さん? なにか気になることでも?〛
〚あ、いや特には――〛
「アレクッ! 大変!」
風雲急を告げる一報が入る。
『グラズノフさん、来ました!』
「了解した」
〈やっぱり裏方だけでは片づけられなかったみたいね〉
〈時間が惜しい、何を取引する〉
〈ん? 別になーんにも〉
〈ふざけるのも大概にしろ。今いる二人になんとか出来る問題では無いのは明白だ〉
〈でも、可能性って信じて見たく無い?〉
……おかしい
異常だ、この生徒会長ならばあらゆる事を己が利益にしようと行動する筈。
“権力は使うためにある”、この言葉に偽り無いのは確実だ。
……私を、いや、企業連を相手取って何の利益が?
此処で己がISを展開しなかった場合、今後のイベントに於いても“動かなかった”実績が尾を引く事になる。
それ以前に契約不履行と取られてもおかしくない。
傭兵に必要な物は信用に尽きる。失ったら最後、企業連の尖兵になり果てる他に……
〈――
……依頼だと!? 笑わせる、最初から騙されていた訳だ
真の目的は“最後のORCAを封殺する事”、
彼は自分の檻を自分で守っている訳だ。
激震が走った、不意にアリーナを貫いたレーザーはグラウンドに黒煙が噴き上がらせる。
〈――!〉
最悪のタイミングで敵が来た。
〈もう、時間切れみたいね〉
そして今、彼は条件を提示しなければならない。その
だが、彼が持つのはこの身一つしか無い。
……クソッ!!
〈“対価”は俺自身だ! 展開許可を寄こせ!〉
〈と言うと?〉
〈全部だ全部!〉
〈じゃあ、カラダもココロも?〉
ヴィクトルに、自身の背筋が凍る感覚が走る。
……だ、だめだ、そんな事は……
〈契約成立だな……!〉
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〚システム破損、何かがアリ-ナの遮断シールドを貫通して来たみたいです!〛
オペレーションルームは瞬く間にアラート音で埋まる。
〚試合中止! 織斑、凰、直ちに退避しろ!〛
[ではこれは……]
「はい、所属不明のIS一機がアリーナ内に侵入したようです」
〚い、一夏は!?〛
〚モニタを見る限りは無事だな〛
全くもって平然とした様子でアレックスが言う。
[Ms.フィオナ、他にも?]
「えぇ、アリーナに入りそびれたのが一機、エネルギーの充填中の様です」
〚二機は不味いかもなぁ〛
〚じゃあ、何でそんなに落ち着いているんだ!?〛
〚箒さん落ち着いて、既に彼が対策をとっている筈です〛
『――こちらは、カラード所属=ヴィクトル・グラズノフ。オペレーション聞こえているか?』
「オペレーションルーム管轄の織斑だ」
『これよりISを展開、所属不明機の迎撃を行う』
「傭兵とはいえ、学園生徒の実戦投入は認められない」
『私はカラード管下の傭兵として通告している。許可は既に得ている』
「そんな事を認める奴は何処にも――」
『更識生徒会長の承認を得ている。イェルネフェルト、情報は?』
「アリーナに一機、上空に一機、上空の方をお願いします」
『了解、
〚な? これで一安心だ〛
〚だが何もしないで良いのか!?〛
〚何も出来ません〛
リリウムがきっぱりと言い切った。
〚見えますか? アリーナに通じる通路は全て物理的に封鎖されています。
あの人ならともかく、先ず私達には権限が有りません。
彼だって相当な手順を踏んでいるんですよ?
何も出来ないんです、何も……〛
〚待つしか無いなんて……歯痒い物ですわね!〛
〚先生達もISで制圧しに行きます、心配ありません〛
真耶が操作一つでアリーナの二機に通信を繋ぐ。
〚一夏ぁ聞こえるか〛
『アレクか? どうなってんだ』
〚こっち見ないで敵見てろ。外にいるのはヴィクトルが行ったから気にしなくて良い。
そっちにも教師のISが行く。やる気なんだろ?〛
『あぁ』
〚なっ、駄目です織斑君! 早くピットに――〛
〚あいつが聞きゃぁしませんよセンセ。良いか一夏、そっからは命のやり取りだ、舐めて掛かると本気で死ぬぞ〛
『解ってる』
〚いいや解っちゃいねぇな、鈴ちゃんだっけか?〛
『えぇ』
〚そこの馬鹿が無理するようなら殴ってでも引っ張って逃げるんだ、無理しなくても待ってりゃ勝てる〛
『解ったわ』
〚っと、後はあいつらを信じてやれよ〛
〚…………くっ……〛
〚若いねぇ、ったく〛
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
赤黒い警告光に覆われた階段を一人の男が駆けあがる。
……こんな所か
最上階の隔壁を前に、彼は右腕を部分展開、手にはヒートパイルが握られていた。
〈フンッ〉
ヴィクトルは右腕の一振りで隔壁を爆散させた。
〈IS=イェシュリツァ、起動する〉
肉体がISに変換され、中量型の四脚が姿を現す。
『ごめんね、私が出ると
楯無の言葉を聞き流し、鴉は飛翔する。
〈周囲へのダメージは?〉
『勿論少ない方がいいわね』
武装を展開、右腕にスナイパーライフル、左腕にEN収束型のエネルギーブレード、肩部にはサブコンピュータを装備する。
『十時方向、距離300です』
言うが早いか、右腕のスナイパーライフルを構える。
……右か、左か
敵は両腕についている腕部一体型のレーザーライフルの充填をしていたから、即座に攻撃するならおあつらえ向きだ。
数瞬して、こちらを認識したらしい。
二時方向を向く機体をゆっくりとこちらに向け、照準を、
〈遅すぎる、その機体は〉
サブコンピュータの高速演算を経て、既に発射された高速弾は、火力を重視するあまりに肥大化したレーザーライフルの砲門を貫く。
……充填していたのが祟ったな
エネルギーで満たされた腕部の中心を弾丸が貫いたために、機体の右腕が爆発を起こした。
右手はもう機能しないだろう。
そのままOBを起動。身体に掛かるGに耐えながら高速で接近する。
腕部の誘爆で停止している敵機の腰部目掛けて、躊躇い無く刃を振り抜いた。
二脚と同様の挙動で振り抜かれたブレードが敵機腰部を両断する。
〈次だ……〉
戦闘で躊躇してはいけない。中の人間を確実に仕留める太刀筋を、彼は迷い無く選択した。
……だが、なぜ絶対防御が働か無かったんだ?
『待って下さい! まだ――』
ハイパーセンサーで確認。六時方向の敵は、確かに左腕の砲をこちらに向けている。
〈ッ!〉
即座に右方向へハイブースト、慣性が働く内にQT、今度はヘッドパーツを撃ち抜いた。
〈やはり、防御系統が働いていない。ただの鉄を被ったのと変わらない……っ〉
左腕が持って行かれたらしい。
〈火力だけは無駄にある〉
『左腕損傷、もう使えないでしょうね……』
〈中はどうなっている?〉
『戦闘は継続しています』
〈了解、侵入を試みる〉
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ハッハー! ファーロングもなかなかやるじゃあねぇか!』
「聞こえてるから大声を出さなくても良い」
彼女の脳裏に、受話器を手に取る大男がありありと浮かぶ。
「流石に企業も
『舐めて掛かった結果が“ORCAの反動”だ、出過ぎた真似はしないだろう。
それにしても……』
「あぁ、完成していたとはな」
『独自開発とは思えん。“ジョーカー”は既に彼らの手にあるかも知れんな』
「“
『御褒めに与り光栄だ』
『だがよぉ、問題はこっからじゃねぇか? どうやってあの壁を破るんだ』
『そのために、彼女はそこにいるんだ』
「出来るんだろうな? お前を信じていない訳ではないが……」
言って、彼女はアタッシュケースを開く。
中身には妙な機械が一つ。
ジュリアスは手筈通りに装置を操作、伸ばしたプラグを
「……んぁっ……っ」
『君が官能的な声を出せるとはな』
「喧しい」
もう一方にあるプラグをアリーナの施設に接続する。
『小細工開始ってか! 悪くないぜぇお前ら!』
『……はぁ』
オペレーションルームは、凍りついていた。少数の者に因る物ではあったが。
「さって一安心。流石は一流、無駄が無いねぇ」
[うそ……そんな……]
セシリアは驚愕の表情を隠せない。
[目標の排除を確認、イェシュリツァは左腕に損傷が有りますが、十分継続可能ですね]
「そうね、後はこの壁をどう抜けるのか……確か隔壁のレベルは――」
「レベル4だ。こちらの操作を受け付けない」
「ummm、どうしたもんかなぁ」
[そうじゃなくて!]
[? 何かありましたか? 御姉様]
[グラズノフさんは、あのパイロットを……]
「あぁ、ヤったな。完璧に中身を仕留める所がえげつないが、
それが“命の遣り取り”だ」
[何も感じませんの!? 殺しをさせるなんて!]
[それがあの人の仕事なんです]
「俺達は
アレックスはボタンを外したシャツの内側に着込んだ
「何処まで行っても兵器に変わり無い」
要は、
「――殺しの道具なんだよ、これはな」
そう言ったアレックスの目線は、何処か別の方を向いていた。
〚一夏、今の内に!〛
〚うおぉぉぉ!〛
アリーナ内二人の作戦は簡単だ。
龍砲の着弾に合わせて一夏が突撃する、と言うものである。
〚クッ……〛
しかしながら、タイミングが合わずに回避される。
〚一夏遅い! これで四回目じゃない!〛
〚無茶言うな! 龍砲がどこで当たるか分かんないんだよ!〛
合わさせようとはしているが流石に無理がある。
そうこうする内に、白式のSEが100を切った。
……やばい、さっさと決めないと……
『織斑さん、凰さん聞こえていますの!?』
〚セシリアか? どうしたんだ〛
『はっ、早くっ! 急いで下さいまし!』
〚どう言う事? こっちはどうにか拮抗に出来てるけど。
まさか……ヴィクトーの方が!?〛
鈴の表情が青ざめ――
『違います! あの人はもう敵を倒しましたが……』
〚じゃあ、何が?〛
『彼は……ヴィクトルさんは搭乗者もろともISを撃破したんですの!』
そう、つまりは
『――敵機パイロットを殺害するつもりでそちらに来ますわ!』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アリーナ上空に一機の影が下りている。
……どうする、手詰まりだな
彼はアリーナの遮断シールドに苦心していた。持てる兵装を打ちこんだが、一向に手応えが無い。NEXT級の火力であれば難なく破れるが、無い物を言っても仕方が無い。
更にアリーナ下部を見やると、数機のISと生徒が作業をしている。恐らくはシステムクラックで隔壁をこじ開けるつもりだろう。
「無理だろうな。国家級のシステムがそう簡単に破られても困る」
『確かに、大問題だろうな。でも実現するならどうだ?』
応える声が通信に割り込んで来た。
『準備出来てるか?』
「シルヴィアか? ISアリーナなんて普通、
『何を今更……。開くぞ、十一時,俯角十五度、そう大きく出来ない』
「了解した。――イェルネェルト、状況を」
『はい、一夏君がそろそろ限界です』
「そうか……」
見計らったようにエネルギーシールドが開く。
「――こちら、ヴィクトル・グラズノフ=イェシュリツァだ。
これより戦闘を引き継ぐ。任務機以外は退け、正式な要請だ」
〚ヴィクトー!〛
〚ちょ、ちょっと待ってくれ!〛
「何を待てと?」
彼は既に敵機の方を見ていた。左腕が肘から熔解仕掛かっている、前例からも考えて中途半端な火力では仕留め切れないだろう。
……試作、使って見るか
機体の右腕
〚ぁ、一夏……ヴィクトーの左手が〛
〚え? あいつの腕がなんだっ――〛
……なんなんだよ、あれ!?
先ず、左腕が熔けている。装備関連の物では無い、損傷だ。彼が一体どれ程の痛みで居るのか二人には解らない。
その代わりなのか、右腕が二つに分裂している様に見える。
……武器腕=ヒートキャノン、腕が二つになるのか。また妙な物を……
そうして変換した右腕にはパイルバンカーが握られた。
その状態でハンガーシフト、腕部がそのまま砲塔になったそれを前方に向ける。
〚待てよ!〛
「…………」
無機質なヘッドパーツのみが一夏の方に向く。
〚ヴィクトルお前! あの人をどうするつもりだ!?〛
「排除する、他にあるまい」
〚――殺してか? アァ!?〛
〚ちょっと一夏! そんな場合じゃないわよ!〛
『は、はーいはーい! 先程のISに関する解析結果が出ましたっ!』
フィオナが割って入る。
『あれは“無人機”、中に人は居ないんです』
「了解、繰り返すぞ、任務機以外は退け」
〚えぇ、解った――〛
〚待ってくれ〛
〚一夏! もうアタシらの領分じゃないのよ?〛
〚後一回、一回だけチャンスをくれ。あれが無人機なら……全力で行ける〛
「フン、ぬる過ぎる。機械相手なら本気を出すと?」
〚ああもう! なんでヴィクトーも焚きつけるのよっ!〛
『グラズノフ』
千冬だ。
『お前の任務については理解している、ここでお前が動かないとならない事もな。
今回は私に免じてあいつにやらせてくれないか? 頑固な奴で曲げようとしないだろう』
彼女が示したのは逃げ道だ。
千冬はそう踏んでの判断だ。
「良いだろう、こちらの裁量で介入する。――好きにやれ」
〚あぁ。鈴、俺が合図したらあれに向かって衝撃砲を撃ってくれ、最大威力だ〛
〚良いけど、当たんないでしょうね〛
〚良いんだよ、当たらなくても。じゃあ――〛
〚一夏!!〛
アリーナに大音響が響いた。
声の主はカタパルトレーンの先端、制服姿で立つ箒だ。
〚男なら……男ならその位の敵に勝てなくて何とすグッ!〛
〚馬鹿野郎が!〛
彼女の背後、恐らくは付けていたのであろうアレックスが箒に
《―――――》
反応したのは三人だけでは無い。例の無人機が
〚逃げられんぞこれは……!〛
〚アレク、箒!〛
「チィッ、
ヴィクトルは腕部を構える。
……弾速からして此処から撃っても確実に避けられる、であれば
発射する。高速とは言えないが致命的なHEAT弾頭がアリーナを突っ走るが、
無人機に反応は無い。
「やはりな」
だが、それが彼の狙いだ。
当たらない弾をわざわざ回避する必要は無い。例の低速弾はこちらに当たらないと予測を出したそれは回避を取らなかった。
飛翔する弾丸が穿ったのは無人機の足元だ。
「当たらなくても効果が有る事は往々にある」
そしてHEAT弾が爆発を起こす。急に地面の感覚が無くなった敵機がバランスを崩した。
「行け、貴様の本気を見せて貰おう」
〚いくぜ白式! おぉぉぉ!〛
白式の背面にエネルギーが収束する。ヴィクトルはこの現象に憶えがあった。
……オーバードブーストか
鈴の陽動はヴィクトルが代わりに行ったわけだ。
狙うは下振り、相手の左脇から右肩に掛ける袈裟切りだ。
収束したブレードを展開限界まで引き延ばす。
〚いっけぇぇ――!〛
打つその刹那、敵機の左足が微量に下がった。まるで反射の様な、恐怖が出たかの様なそれは、
……本当に無人機なのか?
一夏は迷ってしまった。瞬間に握りを変え、振りも変え、雪片は相手の右腕を切り落とした。
『――――』
それでも無人機は止まらない。引いた左足を返す動きで左フックを繰り出す。
〚グァッ!〛
〚一夏!〛
打撃に倒れる白式に、無人のISは左腕を向け、
〈だから温いと――〉
その目の前に銃口が“落ちて”来た。
〈言ったんだ……!〉
敵機の正面に着地した四脚は迷い無くヒートキャノンを発射した。
HEAT弾が相手の胴を爆散させる。
〚く……済まないヴィクトル〛
「まだ後処理が残っている、気を抜くな」
彼は再度、腕部を換装する。もうひとつの手に持つパイルを撃ち込むつもりだろう。
〚はぁ、何度心臓が止まると思ったか……〛
鈴は既にISの展開を解きこちらに歩いてくる。
「鈴、まだ終わって無い――」
『――――!』
奴はやはり死んで無かった。足さえも付いていない左腕が向くのは、
……鈴!
無防備な対象、彼女が今からISの展開をしても間に合わない。
ヴィクトルは武装の換装中でまだパイルが使用できない。
〈クソッ――!〉
それでも、彼は敵の前に立つ。この男の仕事は生徒を守る事に他ならない。
限界までダメージコントロールを計算する。
……普通に受ければただでは済まない、余波が後ろに行ってもアウト……蹴る、か
即座に右前足を繰り出し敵機左腕を蹴り上げ、
『――――――』
TEの波が彼の上半身を打った。痛覚が自動で閉じてゆく中で、波が上方に抜けた事を確認する。
〈ガア゛アァァ!〉
最後の一撃だ。パイルの装備が完了した右腕を相手に叩き込む――
〘ヴィクトー!!〙
鈴はISを再展開、全速力で彼の元へ飛ぶ。
彼の身はパイルの発射衝撃に耐えきれず、そして過負荷によるISの解除で空中に投げだされていた。
最高点に着くのに合わせて彼を受け取る。
〘ア、アンタ……〙
〈温いのは、私だった様だな〉
かすれた声が応える。
〈前とは逆か、君に抱えられるとは〉
〘もう何も言わないで!〙
目に見える外傷は何故か見当たらない。だがあれだけの攻撃を受けて無傷で済む訳が無い。
……急がなきゃ、アタシのせいだ……!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――まだ感覚が戻って無いが十分生活出来るレベルだ」
「お疲れ様です、大会の方は中止になりました。それと学園側から提案が来ています」
「学園のセキュリティコンサルタントに昇進だとよ。
学生しながらいつでもISを展開し放題、その他武装も携行可だ」
「代わりに有事では働けと? 望む所ではあるな」
「ハァ。お前、会長殿とどんな契約したんだ?」
その一言に、彼の顔が苦くなる。
「守秘義務が発動する」
「冗談だよ、聞けるとは思ってねえ」
白い部屋と聞くと病室や保険室を連想するが、此処はそこまで白くない病室だった。
広いその部屋に数人かの生徒が居る。
〚本当に心配したんだからね!〛
[鈴さん、泣きそうな顔で部屋をグルグルしてたんですよ、“アタシの
[訳になっていませんがそんな感じですわ。わたくしも“多少は”心配してましたのよ?]
「嘘つけ、ベットにひっついてた癖に――」
[わぁぁあ!! ささ、回復は何時ごろになりますの?]
「今からでも大丈夫――」
[[休んでいて下さい(まし)!!]]
「さっすがイギリス姉妹ですね……?」
「それで? 何時まで黙ってるつもりだ?」
落ち着いた頃、ヴィクトルは一夏と箒に言った。
「あ、いや、その……」
「元を辿れば、あれは私の軽率な行為が引き起こしたのだ。済まない」
「俺も、斬る時迷っちまった。“もし人が乗ってたら”ってさ……」
「てっきり殴り掛かられる物だと思っていたがな、私も熱くなり過ぎていた」
〔全くだ。最近、歳が身体に引っ張られてないか?〕
〔返す言葉も無い〕
〚ああもう! 分かんない言葉使わないでよ、意味不明じゃない!〛
〚悪い悪い、気が向いたら気を付ける〛
なんにせよ、今日の危機は去ったらしい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『――はい、なんとか迎撃出来ました。彼に損傷はありません』
[御苦労、後は頼んだ]
『了解しました』
……肝が冷えたな
[敵機に心当たりはありますかな、博士]
「ちょっと無いかなぁ」
いや、ある。
……まさかね、流石の装甲って事かな。彼にだけは“特別製”の触媒を使ったレーザーだったんだけど
イェシュリツァの左腕を奪った攻撃と、最後の一撃。他とは明らかに火力が異なっていた。
そして、束の思考はその男には隠せていない。
……この女、まだ裏があるな。この素知らぬ素振りの手口、インテリオルの連中が私の依頼に目を付けた、と言う所か
四足の梟に隙は無い。
えーと、【祝・UA数10000】です。
有難う御座います。
“頑張らないと”と思って今回の文字数はいつもの二倍で御座います。
アレク「アン? そりぁただ切り所が作れなかっただkブベラァ!」
ゑ? いやぁ何でもないですよぉ何でも
では、これからもよろしくねっ!