IS―地這い鴉の答え   作:ゲバラ

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 先ずは感想と、ご心配頂いた
“oota”さん
“(´作`)(空牙刹那”さん  に感謝と謝意を

待っていて下さる方が居る事に大きな嬉しさと、責任みたいな物を感じる出来事でした。


Mission14

 

 

 日本、IS学園。

学園に於いて、放課後のIS操縦練習は生徒個人の自由であるのだが、そうもいかない連中が居る。

「今日は飛行中の安定性をテストをしますね」

「うーい」

「アレクぅ? お仕事なんですから、もっとシャキッとして下さい」

「へーい了解だ」

「約束ですよ? では、お願いします」

 アナトリア研究所の二人、アレックスとフィオナだ。

 既にISを展開したアレックスは直立を維持したままに上昇する。今回の試験は、先程フィオナが言った通り“飛行中における安定能力”のテスト。

安定性は攻守共に影響する重要な項目だ。移動中・被弾時に安定性が低下すると銃身にブレが生じて弾丸は当たらない、振動した装甲での防御性能は静止状態より劣り、追加のダメージを許す上、強過ぎる衝撃下では運動性能の低下も在り得る。更には射撃に際し反動が掛かれば――。

「? 問題あるか?」

「いえ、ちょっとウルサイのが」

「じゃあ射撃耐衝に……huh? お譲ちゃん(ラウラ)と織斑センセが居るぞ」

「えっ? 本当!?」

「そんなに驚く事か?」

「だって、昔の師匠と弟子ですよ? なんだか訳ありそうでイイじゃないですか。何よりですね」

「何より?」

 何より、

「ラウラちゃん、カワイイじゃないですか!」

「What?」

「あぁ、ラウラ・ボーデビィッヒちゃん。可愛いなぁ」

「マジかよ……あまり仲良さそうには見えないけど」

 言うとフィオナが両手を広げてこちらに伸ばしているのが見えた。

「連れて行って下さい。私、視れますから」

 フィオナの言う“視る”とは読唇術の事だとアレックスは認識する。

「安定性能試験はどうなる?」

「私が双眼鏡で二人を確認出来ればオーケーです」

「なんつーアバウトな……」

「さぁ、早く早く」

 仕草は子供のそれだが、覗きをしようとしているのだから何も言えない。

「お、落としたら泣きますからね」

「こんだけ綺麗(きれい)に飛んでて落ちられたら、こっちが泣くぞ」

 ……実際、泣き顔を見たい気がしないでも無いが

「見えましたよ―、バッチリです。じゃあ読んでみますね―」

「答えて下さい、教官!」

 声色まで変えて話す必要があるのだろうか。控え目に見てもフィオナはノリノリである。

「なんども言わせるな。私には私の役目がある、それだけだ」

「あの時の事も仕事だったと言うのですか!?

 私をあんなにしておいて!」

「騙すようで悪いが、仕事なんでな」

「私はただひたすらに、教官の事を……!」

「寮に戻れ、私は忙しい」

「クッ……」

「――駄目なんだラウラ。私達、昔のようには、もう居られない」

「…………で、どっから捏造したんだ? フィオナ」

「あ、バレてました? しょうがないですよぅ、日本語では出来ないんですから」

「ったく飛んだ無駄骨……」

 気が付くと、千冬が明らかにこちらを見ている。

「オイ嘘だろ? 2キロは有る筈だ」

「? えーっと“また後でな”……ひぃっ!」

 彼女はそのまま歩き去ってしまった。

「いつ見ても圧倒的だな、あのセンセ」

 

      ●

 

【教官……】

 ……あの時、私は“この目”を疑った

【貴女の圧倒的な力。私の目標であり、存在理由】

 照明の落ちたアリーナに一人、ラウラだ。カタパルトの先端に立つ彼女が左眼に掛かるHMDを外すと、金の色が暗闇に光を発した。

 ……ISの適合実験に失敗し、望まぬ光を放ち続けるこの目でも、貴方の完全無比な力は私に映り、文字通りに私を目覚めさせた

【そんな貴方が! あの男(一夏)の話になれば腑抜けてしまう!】

 教官(千冬)に汚点を与えた張本人。モンド・グロッソ第二回IS競技大会連覇と言う、彼女の夢を奪った忌まわしき弟、織斑一夏。

【排除する。どのような手段を使ってでも……!】

 

 「行ったかな……だってさ、どーするユリちゃん?」

「どうするか決めるのが君の役割だと思うが?」

 ラウラにとって残念な事にアリーナは貸し切りで無かった。彼女から完璧に隠れていた位置にジュリアス、一緒に楯無がいた。

「どうしたもんかなぁ、喧嘩にいちいちケチ付けてもねぇ?」

「だが終わった頃には死者一名、とも成りかねない」

「そこなんだよねぇ。ま、グーちゃんに任せちゃえばいいかな。その上でイイ感じに誘導できれば……よーし良い感じだね。今日もいい仕事だったよユリちゃん隊員」

「私は情報を集めてリークし、その分君はその目を閉じる。より大きな正義の前に小さな悪を許容する姿勢は中央情報局の様で好まないが、利用するだけだ」

「フフン、いずれ尻尾を掴んであげるよユリア・シルヴィアさん? 経歴は完璧に白。それどころか何でも無いただの一般生徒だ」

 しかし、

「貴女を見た時、分かっちゃったんだよね」

 明らかに変だ、情報から得られる人物像から実際の物が離れるのはよくあるが彼女の場合は度が過ぎていた。調べて見たが、それでも彼女の本質は霧の様に隠れたまま。それでも楯無はユリアを使い続ける。

「いやー面白い事が絶えないなー、特にこの年は派手になりそうだねぇ」

 

      ●

 

 「君達の仲間一人、アンジェと真改、グラズノフは其処(IS学園)にいるのか」

「えぇそうですMr.――」

「私は企業軍人に過ぎない」

「しかし貴方は我々ORCAの求めた理想、その象徴とも言える存在だ」

「……分かった。それ以上は言わない事にしよう」

 カフェBIGBOX(ビッグボックス)、その夜の姿であるバーBIGBOXのカウンターに男が一人座っていた。客は彼だけでは無かったが、他は皆エイが担当している。

彼女(アンジェ)は、今どうしている?」

「我々とは勝手が違うようだ。詳しくはグラズノフに直接聞かないといけないが、少なくとも彼女が単独で此処に来る事はないだろう」

「変わらず舞台の中心で踊り続けている訳か」

「彼らはあくまでも学生だ、舞台の中央に居るが主動では無い。その役を担うのが国家であり企業であり我々(ORCA)だが……」

「足りないパーツがある。君達には戦力が必要では?」

「それが故のレイレナード再興、“イノベーションプロジェクト”に繋がる」

 言って、メルツェルがスマートフォンを取り出す。

「先日、グラスノフから連絡が有った。旅団長とのコンタクトに成功、プロジェクトの起動を決定した。パトロンとしての候補も選出されてある」

 彼がBIGBOXまで招かれたのは一重(ひとえ)にこれだ。

「目的はレイレナードの技術と取引する事であって、つまり我々が直接手を回すのは不味い」

「そこで私が出てくる、か」

「もし、良ければだが。グラズノフが提示したプランも提供出来る。適任は三名、その内アンジェ=オルレア・アーロン=ファーロングは動けない、貴方しかいないのだ。

 ――Mr.ベルリオーズ」

 

      ●

 

 『ハンター、こちらオーバーロード状況は?』

「オーバーロード、こちらハンター。何時(いつ)でも行けます」

『そうか、急な変更だったがアリサワも対応している。始めてくれ』

「ハンター了解」

 ――土だ。

 乾いた土の層とこれまた土色の壁が並ぶ大地に、姿の見えない声が放たれる。

「ゴーストは装備(ギア)を確認」

 もう一度言葉が発せられると、五人の兵士が現出(げんしゅつ)した。それぞれ異なる装備をしているが、彼らは共通して防塵布(ぼうじんふ)とヘルメット・ニットやキャップに、ARサングラスで完全に顔を覆っている。

「ARをオンラインに」

 すると、彼らのサングラスに表示が現れた。各員が持つ武器の装弾数がそれぞれトリガーの横に、作戦地域の情報が空中に映し出される。

()ずは通信塔を破壊する。市街を抜けて600ヤード先、基地の北東部だ。撃つ時は静かに、相手をよく見ろ。迷彩を起動」

「了解、迷彩起動」

 再度、五人の姿が周囲に溶け込む。

 

 太陽が容赦無く照りつける中、任務は順調に進行した。

「クリア……フゥ、バレずに済んだな」

「遺体を隠蔽(いんぺい)する時間は無い。集中を切らすな」

 通信塔は開けた土地に一基。周囲をコンクリート壁の遮蔽(しゃへい)にしたのが、彼らにとって裏目に出た。ゴ-ストチームは周辺部を制圧、(かこ)いの内部を残すのみである。

「出入り口は?」

「正面と背後に一つ」

「中の状況が知りたい。マグネティックを起動」

 ARグラスに探知された金属が表示され、壁の向こう(がわ)(あら)わになる。

「敵2、アサルトライフルを携行(けいこう)、塔の正面。もう一人、LMG(ライトマシンガン)だ」

「敵3、アサルトライフル二人とLMG、同じ装備だ。裏口の(そば)

 内部は一階建ての小屋、その上に通信塔が有る配置だった。

「俺とコザック、サーティが正面。ペッパーとアーロンが背後だ」

「了解」

 二人が背後に回る。M110(セミスナイパーライフル)を持つペッパーとVector(サブマシンガン)を構えるヴィクトルだ。

 背後の三人の内、LMGが小屋に近寄る素振(そぶ)りを見せていた。ペッパーがその意図を理解した。

「マズイな一人が屋上に行く。死体が気付かれるぞ」

『分かった。二人が配置に着き次第、突入する』

 ヴィクトルが装備をVectorからGSh-18(ハンドガン)に切り替える。

「私が下の二人を担当する」

「頼む、背後は配置に着いた」

『コザック、フラッシュ準備…………Go、Go』

 フラッシュグレネードの起爆音と同時に侵入。ヴィクトルは正面の方向、つまり自分に対し背を向ける一人に左腕の隠し刃を相手の左背に差し入れる。同時に男の肩()しに奥のもう一人へ照準(しょうじゅん)、引き金を引いた。

 起爆後数秒の内に消音された五発の弾丸が飛び、それぞれが目標(ターゲット)に命中した。

『正面クリア』

「後方、クリア」

『集合、コザックは工作準備。ペッパー・サーティ・アーロンは安全確保。

 オーバーロード、こちらハンター。通信塔を(おさ)えました、これから敵通信網の偽造(ぎぞう)を行います』

『了解、アリサワに攻撃指示を出した、派手になるぞ。少し待機して基地内部へ侵入してくれ』

「了解、アウト」

 

 『有澤重工機甲化(きこうか)前衛-第一・第二小隊、攻撃開始』

攻撃開始の号令が出される。ここから南に2km程の位置で有澤重工の飛行場に対する攻撃が始まっただろう。

『アリサワ重工。こちらはどのタイミングで動く?』

 己のオペレーターであるマグノリア――愛称はマギー――が指示を(あお)ぐ。

『変更は無い。こちらの前衛部隊による敵との接触報告があった時点で“ステイシス”、“メリーゲート”のVACは起動、南北の両翼を破砕。中央は有澤重工機甲化自走砲中隊が担――接触確認』

「ステイシス、起動。戦闘を開始する」

「了解だオッツダルヴァ」

 ファットマンの一声がして大型トラックの後部が開かれる。

『メリーゲートも同じく起動。展開中の敵左翼側を叩きます』

 主戦場での戦闘が開始された。

 

 有澤重工主導の戦端が開かれてから、十数分。主戦場から東におおよそ3km、東の基地中枢部をゴースト分隊が進行していた。

{どうなってる!? 広域無線が全部トんでるぞ!}

{飛行場にはVACをまわす、そっちは通信塔の確認に行け!}

 四人の武装した男が走って行く。

「今のは何と言っていた?」

「解らん、恐らくはベクール語だ。此処(ここ)の公用語はアラビア語だが、地方出身者はベクール語の話者が多い」

「通信塔に向かっているな……コザック」

「プログラムと物理回路を操作しました。直すより建てなおす方が早いくらいですよ」

「どちらにせよ奴らが帰ってくれば厄介な事になる事間違い無しだ、急ごうぜ」

「終わらせるぞ、突入準備」

 分隊長ゴーストリードの号令で各員が配置(はいち)に付いた。

「見えてるか?」

 ドア()しに敵の姿が映し出されている。

「――よし、行け!」

 コザックが蹴破(けやぶ)った扉に、反対側のア-ロンが侵入する。敵の三人がこちらに振り向くが、既に配置が分かっているアドバンテージは大きかった。

 反応と共に銃口を向けた一人にVectorをショット。左手を離し右手だけで一人を照準、ショット。その間に左手は右腿に掛かるGSh-18に手を――

「クリア」

 声はアーロンの後ろから、サーティだ。

「手は出さない方が良かったか?」

「いや、助かった」

「中枢を確保、情報収集を開始」

「了解」

 コザックが中央のパソコンに向かう。

「帰りの足はどうなる?」

「市街地まで1マイルも無い、歩いて行けるさ」

「データを送信……ッ!? マズイ!」

 声に全員が振り向く。

「システムがクラッキングされてます、クロスコムが食われ掛けてる!」

 言う間にサングラスの表示がブレ始めた。

「クソッ、コンピュータを放棄(ほうき)、物理的に切断」

 即座にアーロンがパソコンに弾丸を撃ち込んだ。

「ARに被害は?」

「なんとか、クロスコムを捨てずに済みそうです。ですが……」

「このクラッキング技術、PMC(民間軍事会社)の技術ではあり得ない」

「相手が相当厄介だって分かっちまったな」

「それだけの相手なら、なおのこと成功しないとな」

「オーバーロード、ハンターです。物的情報の収集に移行します、時間はどれ位ありますか?」

『ハンター、西で問題発生だ。飛行場で未確認兵器の起動を確認。損害は、アー……』

「一難去って、か」

「最も効果が有る情報は、貨物機のブラックボックス(飛行記録)だろうな」

「でも飛行場のド真ん中だ。こういうのもなんだが俺は長生きしたい」

「俺も同感だ。オーバーロード、これより電子情報以外の情報を集めます」

『解かった。幸運を』

「ハンターアウト」

「南西に貨物保管庫がある様です、商品は恐らく其処に」

 地図を見下ろすコザックが言った。

「その線で行こう。ゴースト移動――」

『…………』

 スマートフォンのバイブレーションが鳴った。出所(でどころ)は、アーロンである。

「後から追いつく」〈コード“アーロン”だ〉

『もしもーし、英語大丈夫?』

手短(てみじか)に頼む」

了解(りょーかい)、先ずは自己紹介ね、(アタシ)はロザリィ。ミグラントよ。カラードの“首輪付き(カラード)”で合ってる?』

「恐らくそうだ」

『アンタの所のアジア人から、仕事の打診(だしん)があったわ。私はその仲介兼依頼主(クライアント)

「具体的には何を?」

『さぁ、アンタなら直ぐに解かるって言われたけど? 一分でピックアップ出来るわ、どうする?』

「……リード」

『こちらゴーストリード。どうした、アーロン』

「これより別行動を取らせて貰う、(企業連)からの指示だ。君達の作戦が終了するまでに片付く。その後再合流する」

『リード了解、行くぞゴースト』

『オッケー、後50秒くらい待ってて』

 

 ……あら?

 “荷物”の回収は、彼女にとってだが少々の驚きを持って迎えられた。

「あなた、もしかして……?」

「実弾防御重視の重量二脚に背部ミサイル、緑のカラーリング……メリーゲートか?」

 やはり彼女、メイの予想は当たりだった。防塵布をずらした顔は、昔より若く――ともすれば幼くも――見えるが、

「ヴィクトルじゃない。お久し振りね」

『ナニナニ? アンタ達知り合いだったの?』

「えぇ、彼を雇って正解だったわねロザリィ。私が保証するわ」

「高く買って頂き光栄だ」

『メイ、おしゃべりも良いけど状況は忘れないで下さい』

「そうね、急ぎましょ」

 メリーゲートはヴィクトルをコアの上に乗せて西へ引き返す。

「はい、私達の通信と貴方のとをリンクさせたわ」

「了解。オペレータ、状況は?」

『第一の敵は情報の通りです。彼ら(ベク人)の方は戦力を逐次(ちくじ)投入して前線の維持(いじ)を試みていますが、こちらは障害にはなりません』

「そっちは潰そうとすれば有澤の砲撃ですぐ潰せるわ、ただの時間稼ぎね」

『問題なのは私達VACの部隊が戦闘に参加した辺りで、飛行場の数機から無人兵器群が起動を始めた事です』

『言っても、所詮相手は無人機だから、一機一機はそう厄介(やっかい)でも無いんだけど』

「ちょっと数が多いの。戦闘終了前に弾切れしちゃう。だからECMユーザの類いが来るんだと思ってたわ」

『違うの? せめてVACでも無いと話にならないんじゃない? まさかISでも持ってくる訳じゃあるまいし』

 言ってから、ロザリィははたと気付いた様だ。

『“ヴィクトル”って、あの?』

「そうよ。企業連所属傭兵にしてカラード最初のISパイロット。他にもいろいろあるけど、それが彼よ」

『へぇ、こんな若い子だったの……』

「分かってるでしょ? 私達と出自(しゅつじ)は同じ。今では私の方がお姉さんね」

『はいはい、分かってるってば。じゃ今度はお金の話ね、先ず今回の報酬は出来高(できだか)制だから、メイとアンタの撃破数を一緒に貰うわ』

経費(けいひ)はそちらで持ってくれ」

『いいわ、経費を引いた後の取り分で計算しましょ』

「二対八でどうだ?」

『はぁ!? 何言ってんの! いくらIS様が優秀でもぶんどり過ぎよ!』

「いや、私が二割の方だ」

『へぇっ、ホント!? なんだ案外(あんがい)良い奴じゃない』

 金でころりと見方が変わるのは非常にロザリィらしい。

『良いんですか? スペックでは貴方の方が上。メリーゲートには時間のアドバンテージが有りますが、撃破率は貴方の方が高くなります』

『良いって言ってんだから良いんじゃない? イーブン(五分)狙いが思わぬ誤算ね、最高よ』

「ではこれよりISを展開、戦闘を開始する。メイ、私は展開に少し()かる。その間の安全確保を頼む」

「了解、まかせて」

 

 企業・民兵・無人機が作る三つ(どもえ)の戦場を、金属色の塊が飛び()う。弾丸はおろか砲弾を超える大きさ、一機のISである。

 ……確かに、おびただしい量だな

 各所に配置された――と言うより刺さっている――ミサイル型のコンテナから断続的に小型機が射出、無差別に自爆攻撃を繰り返しているため、空中は青白い光と爆発の煙で埋められている。

 ヴィクトルは両の腕にスナイパーライフルをコールする。

「有澤の前衛はどこまで耐えられる?」

『アリサワ重工業の前衛二個小隊の装甲車計六台それぞれの損害は10%、第三装甲までが効力を失っています』

 全21層中の、三層である。

 縦横(じゅうおう)に飛ぶ自爆兵器をスルリと回避、コンテナをスナイパーライフルの一撃を持って破壊する。回避した自爆兵器が相次いで有澤の装甲車に殺到するがヴィクトルに気にする素振りは無い。

 ……この程度、あれ(有澤製)の超装甲に入る筈が無い

 有澤重工と幾度となく敵対し共闘した彼の確信は、確かに的中した。度重(たびかさ)なる爆発を物ともせずに装甲車は攻撃を続ける。

『なんかヤバそうなの来たわよ!』

 VAC一個部隊が(ひし)形陣形を維持して飛行場から疾駆(しっく)する。

 全四機のVACは同一の機体構成である上、全く同じ動きをしていた。

「確認した。種別は?」

『解からない、随分(ずいぶん)訓練されている様に見えるけど』

『いや、ただの人形だ』

「ステイシスか。心当たりが?」

UNAC(UNmanned Armord Core)と呼んでいる。システム構成に()っては化けるが大抵は数任せの雑魚と変わらん』

「了解、三機で当たるぞ」

 四脚型ISが民兵の作る前線中央を突っ切りUNAC四機に向かい、両翼にステイシス、メリーゲートが続く。

「初撃から潰していく。巻き込まれるなよ」

『フン、空気で構わんがな』

『いつものね、サクッとお願い』

アンロックユニットを展開、内蔵式のKEロケットをコール。

「敵陣中央に制圧攻撃を掛ける。両翼を頼んだ」

『『了解』』

 イェシュリツァの両肩から、莫大量のロケットが射出。面で(もっ)て敵へ向かう。

 両翼の二機が外側に回避するが、正面の二機には逃げ場が無い。迫るロケットに対し前方の一機が加速、自ら激突し自爆する事で後方の一機に対し安全圏を作り出した。

 爆煙の内を抜けたUNACを待っていたのは二丁の銃口。ヴィクトルは両肩に向けて同時に発射、至極(しごく)精密(せいみつ)に放たれた高速弾丸は敵両肩部の接合部を撃ち抜き、両(わん)を空中に飛ばす。

〈Ypaaa!!〉

 腕を失ったVACに、四脚のISが落下加速を加えたブーストチャージを繰り出す。後脚のアンカーパイルをもぶち込まれたVACが仰向けに崩れ落ちる。

『一機撃破』

『こっちも完了したわ』

 左を向けばヘッドパーツに何重もの熱線と弾丸を受け機能を停止したVACと、ステイシス(停滞)の名の通りに敵の弾丸を当然の(ごと)く避け切ったオッツダルヴァ。

 右を向けば跡が残らぬ程の攻撃で真っ黒く焼けた戦場に、深緑の装甲を際立(きわだ)たせるメイ。

 今の戦場に()いて、この三人に勝てる者など居なかった。

 

 「オーバーロード……こちらハンターです。荷物を確認」

『了解だハンター。何か(つか)めそうか?』

「えぇ、この量は小物の武器商人に扱えるとは思えません。事前に何か分からなかったのですか?」

 数にして貨物コンテナ十基。銃器の他にもHEAT弾や手榴弾が見受けられる。

「納品書でもあれば手っ取り早いんだがなぁ」

「確認、次のコンテナだ」

 このまま目的地に運び込むつもりだったらしく、各コンテナの内容物の種類は多彩だがコンテナごとの変化は無い。

「次ので最後だ。開けます」

 重い音を立ててコンテナの扉が開かれる。

「? さっきまでのとは雰囲気違うな」

 コンテナの入り口近くはこれまでと同様、雑然とした様相(ようそう)だが中央にはまた別の箱が設置されている。箱はコンテナの高さの限界まで在り内容物までは分からないが、彼らの目標物は発見出来た。

「書類を発見……アラビア語だ。取り敢えず回収します」

 コザックが書類を回収したのを横目にゴーストリードが箱の中身を確認。ヘルメットに付いている小型カメラのスイッチを入れた。

「オーバーロード、見えてますか。これは一体……?」

『――!? ハンター、それはデイジーカッター(BLU-82爆弾)だ』

「まさか、十年以上前に退役した筈では?」

『あぁ、私も今この瞬間までそう思っていたが。その延長信管は特有のものだ』

「あの……“デイジーカッター(雑草を刈るもの)”とは一体?」

 コザックの問いにはペッパーが答えた。

「延長信管付きの対地表目標爆弾だ。もしこれがBLU-82だとすると、爆発半径は1マイルを下らないぞ」

「時々戦術核と間違われるくらいの大型爆弾だ」

 6tを超える重量爆弾が、ゴースト分隊の目の前に横たわる。

「しかし、何故こんな(ところ)に?」

『恐らくそれが、今回の作戦の核心だろうな。精査してくれ、何か分かるかも知れん』

 

 『アーロン、こちらリード聞こえるか? アーロン!』

「こちらアーロン。終了か?」

『BLUを発見、爆発まで時間が無い状態だと推測される』

「半径約1700m……基地全域、市街地も巻き込むな」

『攻撃を事前に察知した何者かが仕込んだと考えられる。直ちに作戦を終了、撤収する。今ならまだ――』

「いや」

『――どうゆう事だ?』

「証拠ごと我々を潰すためのBLUなら、遠隔操作式だ。それのルートは、恐らく広域無線」

『先行して潰したのは僥倖(ぎょうこう)だったな』

「相手は6t級の爆弾を用意して、電子部隊並みのクラッキングをする相手だ。通信塔が潰れた程度で諦める訳が無い。

 こちらで脱出の足を用意する。荷物を(まと)めて待機してくれ」

『信じるぞアーロン。アウト』

 聞いた後、一拍開けてヴィクトルが口を開く。

「コード“アーロン”より各員へ通達。裏側の作戦は終了した。繰り返す、裏側の作戦は終了。これより全部隊は撤収を開始。事前のプランで変更は無い、有澤の自走砲中隊は援護射を開始」

 数秒の後に、規則正しく並んだ鉄の雨が降り始める。

「オッツダルヴァ、メイ、頼みが有る」

『何かしら?』

『早くしろ』

「ゴースト分隊に問題発生。君達に隊員の移送をお願いしたい」

『と言うと?』

「ならず者の一発が、証拠(基地)ごと彼らを消そうとしている。安全域まで退避させてくれ」

 勿論、移送にしくじった場合は作戦の全体が失敗となる。

『この仕事の総仕上げね』

『……らしいな。GAの衛星が高速飛翔体を確認。相手もなりふり構っていられない、と』

「私に任せろ。四人は基地南西の貨物保管庫にいる、始めてくれ」

 

      ●

 

 画面上で、砂漠の風景が流れていく。その前には所謂(いわゆる)ゲームパッドを構え眠たげな眼をこする女性が居るが、見た目に反してゲームをしている訳ではない。

〚よーし、見せて貰うよ。バーサーカーの実力をさ……〛

 カメラをズーム。鉄色をした四脚ISが既にこちらを向いているのが分かる。

 ……やる気満々じゃん

 ボタンを入力し、遠隔操作状態のISに指示を出す。画面の中央で背面を向ける人型ISの武装が変わる。左腕には腕部一体型のレーザー砲、右腕には収束の強いパルスガンを装備、左腕のチャージを始める。

〚っ……と〛

 彼女が咄嗟(とっさ)にISをのけ反らせると頭が有った位置に徹甲弾(APFSDS)が突き抜ける。当たった時点で、人が入っていたら脳震盪(のうしんとう)では済まないレベルの弾丸である。

 ……ホント、()る気満々じゃん

 再度確認すると、スナイパーキャノンを展開した上にTEシールドを構えている。

〚無人機なら、近づく前に偏差(へんさ)射撃で終わりだったね〛

言う間に、弾丸がISすれすれの位置を通り抜ける。

〚さぁ始めようか〛

 照準をセット、チャージの最大値まで終わった左腕レーザーをぶち込んだ。

 

      ●

 

 予期していた最悪の敵と、見た事も無い敵との戦いで、彼の肉体は既に満身創痍(まんしんそうい)の状態だった。

 最期(さいご)の力を振り絞ってコンテナの扉を開く。

〔我々の理想のため……真の自由主義と秩序のため〕

 朦朧(もうろう)とする意識の中で(つぶや)く。

〔神の御加護が有らん事を……〕

 もうひとつの扉に、彼は手を掛ける。

〔我らが祖国に永遠の安寧(あんねい)を〕

 最早自身が英雄では無く捨て駒として亡くなる事に気付く事はあるまい。

〔くたばれ、企業め……!〕

 極限まで高められたカタルシスの内に、男は地獄の引き金を引いた。

 

 数瞬の内に起爆、デイジーカッターはその名の通りに基地の全てを焼き払うのだった。

 

      ●

 

 〈ボリス・イヴァーノヴィチ、来ました、カナダ人です〉

〈相手は何と?〉

〈“鴉の使いが来た”と。その……私には意味が〉

 ……まさか

〈本当にやるとはな。解った直ぐに向かう〉

ロシア人、壮年(そうねん)の男が(みずか)らの威厳を示す重厚な椅子から立ち上がる。

 彼の名はボリス。

 イクバールの人間には“アブー・ヴィクトル”と、

 リンクス達には“ボリスビッチ”と呼ばれたリンクスである――

 

 





 ムッ、皆の中に「最後にボリスビッチかよ」と思った人が居るな? 正直に右手を上げなさい。
誤魔化しても無駄です。と言うか居ない方がびっくりです。
しかし! タグをよく見れば分かる筈。そう、この作品はテクノクラートのロケット信者によって書かれた代物なんですよ。

 それはともかく、今回の基地と飛行場の戦闘は地図を自前で作って出来る限り正確に書いてみました。ご都合にならないように努力したつもりです。
秘密作戦として書き始めて、終いには四つの勢力・八つを超える構造体が入り乱れる乱戦にまで発展しました。何がどうなったかについては皆様のフロム脳とこちらの書きます続きにご期待下さい。(決してめんどくなって爆発オチ、では無いので一つ

 作中に登場頂いた“ゴースト分隊”の彼らについてですが、元ネタは有ります。未来兵士の皆さんのそのまんまですね。積極的に出て頂くアレではないので「誰が誰だか分からん」となっても大丈夫です、多分もう出ませんから。

 ではまだ次回!
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