IS―地這い鴉の答え   作:ゲバラ

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 先ずは感想をいただいた
“oota”さん    に感謝の意を

 いやっと書けたァ――!
細かい事は、後で活動報告にてご報告いたします。


Mission15

 

 

 「さて、モスクワにようこそ。ベルリオーズ」

 クレムリン内の一室、シンプルだが洗練された気配の漂うそこには男が二人、机を挟んで座っている。

「“鴉の使い”、だったかな?」

 ごく軽い調子でボリスビッチは言ったが、彼の目に温和な色は見られない。

「レイレナード社最高のリンクスである君が吾輩と(ヴィクトル)に何が有ったか、知らぬ訳ではあるまい」

「……国家解体戦争末期、企業主導の新秩序形成に際し、首輪の付けられる英雄、すなわちリンクスと異なり、レイヴンはその名の通り渡り鴉、首輪(AMS)の必要が無い。(ゆえ)に――」

「故に、イクバールは飼いきれない最後の伝説を伝説のまま消そうとした。吾輩(テクノクラート)もそれに従った。それを知った上で彼の使いを(かた)るのか?」

 ……その罪、忘れた事など無い……!

 その目は、(いか)っていた。

「あぁ、そうだ。グラズノフはロシアに対する情で申し出に応じたのではない」

 あえて言おう。

「グラズノフは君達を利用するつもりで私を此処に(つか)わした様なものだ。このプランを持たせてな」

 言って、ベルリオーズは低い机に資料を置く。

「――ほう、テクノクラートとレイレナードの統合案か」

 内容としては至極(しごく)簡潔であった。

「提携としてレイレナード社を設立、同時にテクノクラートグループとして二社を結ぶ。外面としては子会社に見えるだろうが私達の知った事ではない」

「君らは資本を、我々は技術の補完と言う事か」

「レイレナード社の初期計画として高度水素燃料の再現、水素吸着合金についても同様だ。並行して現行の内燃機関の改良を進める」

 ボリスがベルリオーズを直視する。

「それは――」

「あぁ、そうだ」

「まさか、何故知っている……?」

「確証は無いが、恐らくは彼の勘だ。何とも言い難いが、彼も“それ”を考え、望んでいると言う事だろう」

〈そうか……〉

「一度、上層部での検討をお願いしたい」

「その必要は無い。老人達に聞くまでも無い条件だ、即決するだろう。国内はこちらで対処しよう」

「分かった。では――」

「ちょっと待ちいや!」

 扉を蹴り込む様にして、着崩(きくず)した戦闘服の男が突貫(とっかん)して来た。

〈ド・ス、何をしている? 貴様に同席を許した憶えは無いぞ〉

「じゃけどボリスん旦那ぁ、わしにゃあ納得できん」

「……君は?」

「ド・ス言おります。テクノクラートんリンクスじゃ」

 非常に(なま)りの強い男はド・スと名乗った。

「わしゃあ忘れとらんけえのう。あんたがおらんよなった後んレイレナードぁ、オーメルに吸収された見せかけて内側から喰いよった。あっこん後期んフレームう見りゃあ明らかじゃ。うちゃあそがいな手にゃあ掛からんぞ!」

「……アー、その、言っている意味が正確に掴めないのだが」

「ド・ス、言いたい事は解かったから下がれ。話がややこしくなる」

 彼はまだ何か言いたげではあったが、言われるままに下がる他無かった。

「我々の後の世代で何かあった事は確かだ」

 だが、

「吾輩の目が黒いうちは、いかなる内応(ないおう)も、許しはしない。我が祖国、喰らうと言うならば喰らってみるが良い」

 リンクス独特の殺気と、ボリスの威圧感が場を満たす。その風格は誰であれ彼に敬意を(いだ)いて十分な物がある。

バガモール(カマキリ)の鎌は未だに健在だな。盟友として出会えた事に感謝しよう」

 

      ●

 

 『――次は、緊張の続くアフリカA国の話題です』

 バーBIGBOX、コーヒーをカウンターに置く青年は無表情なままに手元のラジオに耳を傾ける。

『X日、現地時間の正午頃に発生した戦闘の詳細は明らかになってきました――』

「首尾はどうだ?」

「危なかった、正直に言えばそうなるな」

 BLUは基地全体と市街地の一部を破砕し、一帯の証拠を全て抹消(まっしょう)した。

「あれで証拠を(ほうむ)るつもりだったらしいが、思惑通りには行かなかったらしいな」

「今回の一件は企業連が一枚上手だったと」

「どうだろうな、メルツェル」

『爆発に使用されたのは米国のBLU戦術級大型爆弾の複製品とみられており、合衆国は機密情報の漏洩(ろうえい)先を調査すると共に声明を発表しました』

 

   先日の爆発、及びそれに際して発生したとみられる戦闘に関して、我々は反乱勢力に対する

   兵器供給の情報を事前に入手し諜報員を送りその精査(せいさ)を行っていた。合衆国は今回の爆発に

   ついて、反乱勢力と将軍との戦闘において一方の意思による情報の隠蔽(いんぺい)(はか)った工作で

   であったと考えている。現在、調査を行っていた諜報員四名との連絡が付かない状況であ

   り、何らかの形で一連の戦闘に巻き込まれたものと見て四名の安否を確認している。

   また、この戦闘に際した爆発によって市街地に甚大(じんだい)な被害が発生し、多数の一般市民が犠

   牲になった事を確認している。亡くなった彼らに深い哀悼(あいとう)の意を示すと共に、この卑劣な

   テロ行為を強く非難する。

   更に、同地域において、飛行場に向かうISと思われる飛翔(ひしょう)体が確認されており、仮に事実

   であった場合、これはアラスカ条約に規定されるISの軍事利用についての条項に対する違反

   行為であり、ひいては全国民国家の平和と安定を(おびや)かす挑戦であると受け止め、これに対

   し、断固とした対応を実行すると共に、勢力均衡、及び戦略級戦力による抑止(よくし)を視野に入れ

   た対抗策を検討せざるを得ない――

 

 『また、一部週刊誌に報じられた、爆破後の同地点で日本の有澤重工株式会社の物と見られる戦闘装甲車両の部品が発見されたとする記事に対し、同社は“詳細な情報が分かるまで発言は差し控える”との意見を示しており、戦闘の原因の究明が急がれます。次は、ロシアの国有企業である――』

 そこまで聞いて、メルツェルはヴィクトルに意識を向けた。

「始めから合衆国の仕込みだったと? それにしては芝居がかかり過ぎたプランだ」

「同意だ、メルツェル。芝居にしてはクサ過ぎるし、円滑さに欠ける」

「それも()り込み済みなら完敗だな。とするとこれは、二重の仕掛けか?」

 ん、とコーヒーを口に含んだ彼が頷く。

「ありえなくは無くは、無い程度だが。このシナリオ、途中までは自前のプランで、不可分な領域で第三者の手に移ったのかもしれん。これは一つの計画では無く――」

「スタンドアローンの複合体、合衆国は見えないプレイヤーの……いや、達のベットを自分のチップとして扱ったか。ム、すまない」

「くどいようだが、可能性の(いき)を出ない論だぞ」

「次は、誰がレイズを始めるか、だな。アンティの高いゲームだ、例え亡霊(ぼうれい)でも、姿は見えよう」

「……そう願いたい所だ」

 言って、ヴィクトルは席を立った。

 

      ●

 

 それから数日、総計で二週間(ほど)して傭兵は学園に帰った。

「二週間ぶりの学園はどうだ?」

「おおよそ私の居場所では無い気がするな」

 1125号室の二人とスミカが廊下を歩く。最早ヴィクトルに制服を着るつもりは無い様で、白い制服は部屋のクローゼットに()けたまま来校時と同じスーツ姿が(かた)にはまっている。

此処(こちら)に変わり無いか?」

「そうだね、二組にドイツの候補生が来たくらいかな」

 彼は事前に受け取った情報をスマートフォンで確認する。

「あぁ、確認している。軍属の少佐、実戦経験無し。時期のずれはあるが産業スパイの疑いは薄いか。では早い内に“招待”しよう、シャルルの覚悟は?」

「――はい」

「セレン、異論は?」

「彼女の意思を尊重する、元来レイレナードにレオーネとの確執(かくしつ)は無い。それに娘一人の離脱(りだつ)程度だ、ユニオンは私が黙らせてやるさ」

「後はデュノア社だけですね……でもあの、なんで僕のために……?」

 彼は迷い無く言う。

慈善(じぜん)事業では無い、その分の仕事はして貰うつもりだ」

 なんとかして“こちら側”にくい込みたいORCAにとって、企業間競争――または抗争(こうそう)――中でACの技術を手札に使える、その上でIS開発権限を持つ開発企業は十分な取引相手と言える。

「それに、アンジェの見込んだ相手だ。信頼に足りる要素への投資は(この)ましいと考えている」

 言うと、すぐにスミカが“フン”と反応した。

「相変わらず面倒な奴め、見た目が好みだと言えば良いだろう」

 聞いてか聞かずか、ヴィクトルはさっさと教室に入ってしまう。シャルロットは何か言いたそうに口を開けたり閉じたりしたが、結局(うつむ)加減(かげん)に行ってしまったので、スミカも黙るほか無かった。

 

      ●

 

 〚ねぇ聞いた!?〛

 IS学園一年一組の教室内はとある話題――と言っても一つでは無かったが――で持ちきりになっていた。

〚“あれ”、本当なの?〛

〚あれ、ってだけじゃどれの事か分かんないよ〛

〚トーナメントの噂の方さぁ〛

〚優勝したら、指名した相手と付き合えるって話? 本人達には話が行ってないみたい〛

〚じゃあ、女の子の中だけの取決めかぁ〛

 と、話題の種が教室に入ってくる。

〚あ……〛

 皆どことなく入口から目を逸らす。

〚おはよう!〛

 遅れて、ヴィクトルの後ろからシャルルが入ってくる。

〚あれ? みんなどうしたの〛

 言っても周囲の反応は鈍い。(しび)れを切らしたようにセシリアが前に出た。

「皆を代表して、貴方に問いますわ。その、二週間の“仕事”、どちらにいかれましたの?」

 数日前から流れ始めているニュースが事の発端(ほったん)だ。民族紛争における大規模爆発は大事(おおごと)ではあるものの高校生達の会話を席巻する程の衝撃力は無い。しかしながらこれにISが絡んでいる故に話が変わる。

周知(しゅうち)の通り、ISを戦闘力として使用する事はアラスカ条約によって、競技上の緊急事態状況を除き、禁止されていますわ。そしてISが実際に使用された場合――」

「直接的な殺傷行為が個人の意思によって行使(こうし)されるな」

 その言葉にセシリアの表情が(くも)る。

「いや、先の爆発に対する関与、か?」

 教室の空気が無言の肯定を示す。

「私の依頼に関しては、守秘義務が発動する。“行っていない”という情報も含め、あらゆる情報開示の要求は受け付けられない。しかし傭兵の職務内容そのものに関して否定するつもりは無い、つまり軍事的行為についてだが」

 要はあらゆる意味での戦力行使と、最終的には“殺し”の職を彼は肯定した。

「…………」

 今度はシャルロットの口が開く。

「わ、わぁ、なんだが難しい話してるみたいだね。とっ、ところでヴィクトル君のリョカン視察はどうだったのかなぁ……?」

〚旅館? じゃ、お前二週間かけて旅行かよ!?〛

〚仕事だ馬鹿者〛

 驚く一夏に、スミカを伴った千冬が答える。

〚グラズノフには臨海学校の宿泊施設を視察する依頼をしていた。HRを始める、席につけ〛

 有無を言わさず、と言った具合に千冬が指示を飛ばしていく。

 

      ●

 

 ……なぜだ?

 箒は一人自問する。外の空気を吸えば多少考えも整理されるかと思って屋上に出ては見たが大した効果はなさそうだ。

〚なぜ、あのような話に変わっているのだ……?〛

 疑問の中心は、(きた)る学年別トーナメント大会の噂、ある晩自身の勇気をありったけにした例の日に一夏と交わした――少なくとも面と向かって宣言した――約束“もし、大会で優勝した時は、自分と付き合って貰う”、最早愛の告白と大差ないそれだがこの約束、箒と一夏の間に成立した物であって学園内全生徒の事ではない筈だ。さらに一夏以外の男子生徒全員をも巻き込んだ話になっているのも予想外である。

〚と、とにかく私が優勝すれば〛

 優勝すれば彼女の約束通りに事が運ぶ。

〚しかし……あいつ(一夏)はどう思っているのだろうか〛

 一夏は約束の内容をいまひとつ理解していないように見えた。

 ……それに、私は一夏に釣り合うのか?

 ネガな考えが心に浮かぶ。

〚大丈夫、大丈夫な筈だ〛

〚…………〛

 箒は見なくとも理解出来た、無言ながら十分な存在感を表す彼を。

〚真改〛

 今日は真改が剣術指導をする日だ、わざわざ探しに来てくれたのだろう。

〚私は、見誤(みあやま)らずに勝てるかな……〛

 彼だったら、何と言わずとも分かってくれる気がした。

〚応〛

たったの一言、真改は背で語るかのようにして屋上を後にする。

〚道場、行くか――〛

 多少なりとも、箒の気分は晴れた。

 ……懸想(けそう)か。誰とは知らんが、助力せん……!

 真改の決心と引き換えだったが。

 

      ●

 

 〘あ……あぁ〙

 その時、鈴音の顔が曇りを示す。その理由としては彼女の前、

〚あら、(ファン)さん。奇遇ですわね〛

 鈴音が自主練習の為、アリーナに入ると既に先客がいたのだ。それもイギリス代表候補(セシリア)、中国代表候補としては第一のマーク対象である。

〚邪魔したわね、(アタシ)別のとこ使うから〛

〚あ、いえお気遣いなく。(わたくし)は所用がありますので〛

〚アンタこそ気遣い無用よ〛

〚本当に用事がありますの。大会を楽しみにさせて頂きますわ〛

〚あぁ、そう……〛

 互いに候補であるものの、国家代表の名前が邪魔して喧嘩とも牽制ともつかない会話を繰り広げる二人だったが、今日はよりぎこちなさが目立つ。

〚アンタ、なんかあったの?〛

〚いえ……大したことでは〛

〚調子狂うわねぇ、いつもの軽口はどこ行ったのかしら〛

 ……リリウム、貴女を独りには致しませんわ

 セシリアは今日に件の喫茶店、BIG BOXへ行くことを決めていた。

〚私も、立ち止まってはいられませんの〛

〚……“アイツ”みたいに?〛

〚んなっ!?〛

〚へぇ、アンタにも“そういう”相手が居るんだぁ〛

 鎌をかけた鈴音の目はいつものちょっかいを掛けるそれである。

〚貴女って人は私を小馬鹿にしないと気が済まないようですわ――〛

〚っ! セシリア、展開!〛

 瞬間に、二人の表情が戦闘する者のそれに変わる。ほぼ同時にISを展開、飛翔する弾丸を視界に捉えた。ちょうど二人の間を飛翔体が通り抜ける。

〚フン、腐っても代表候補と言った所か〛

〚ラウラ・ボーデヴィッヒ、アンタ何のつもりかしら……!〛

これ(IS)が何なのかお判りになって?〛

〚分かっていないのは貴様らだ〛

 不快感を隠す事無くラウラが()き捨てた。

〚ここの粗忽者(そこつもの)共がIS乗りを(しょう)するなど、IS操縦者育成の最高峰が聞いて(あき)れる。パイロットがこれでは、所詮子供遊びだ〛

〚言いたい事はそれで結構ですの? 正直貴女の持論など聞いていませんわ。なんにせよ、これ以上の示威(じい)・挑発行為はこちらに対する故意の危険行為と判断致します〛

〚ほぉ、つまり?〛

〚戦闘の正当性がアタシらに発生するって事、思考停止の軍国主義者様には分からないお話でしょうけど〛

〚正当性? ハッ、それは“勝てる者”が気にする事だろう。これが私と同じ第三世代機乗りとは、随分と人材に恵まれんと見える〛

〚競技者に有るまじき物言い、そんなに撃たれたいんですの……!〛

「失礼する」

 スーツ姿の青年がアリーナのグラウンドに入ってくる。

 ……見つけたと思ったらこれか

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だな?」

 ラウラは無言で続きを促す。

「じきに本国から話が回るだろう」

 彼が言い終わらぬ内に彼女がコールされる。

『少佐、ハルフォーフです』

【続けろ】

『恐らく既に接触しているとは思いますが、学園のセキュリティコンサルタントから依頼があります』

【受けろと? どんな裏がある?】

『上層部の働きかけです。それと、その男が“例の”……』

【フゥン?】

 ラウラが画面からヴィクトルの方へ向く。

「貴様がヴィクトル・グラズノフか。もう少し大きい奴だと思っていた」

「少佐、その言葉そのまま返そう。十五で少佐とは素晴らしい才能だ」

 まるで息をするようにして挑発を回避し話を続ける。

「端的に言うと、私の指揮下に入って貰う」

「私より兵を扱えると?」

「であれば実力を示す事だ。貴官が少佐であるのは理解しているが、現在の所属最高位である私に階級が存在しない以上、判断基準には出来ない」

【大尉、()()の軍務経験はどうなっている】

『正規の記録には存在しません、ですが英国より特務上級下士官位級の評価を保証する文書が提示されています。恐らく非正規の戦闘を(おこな)って来たのでしょう』

 送られた資料を見ると、様々な技能資格を保証しているようだ。

それ(セキュリティコンサルタント)は、園内で武器を携行できる権限を有する機関です。実態が明らかでないNo,3(ヴィクトル)を探るにも好都合と考えたのかと』

【示された最終目標はなんだ】

『“我らが国家の益とせよ”と』

【分かった】「良いだろう。働いてやろうじゃないか、主任殿?」

 ラウラは挑戦的な目を、彼に向けるのだった。

 

 




 長い間、何していたのか?
A.受験してました
浪人にならずに済みました。三月まで続くとは思わなかった……
書いている時間の総量は変わってないので、量もそう多くないです。

 こんだけかかると話の内容がおぼろげになってしまいますね、
これからは書き方を変えることにします。
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