IS―地這い鴉の答え   作:ゲバラ

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Mission17

 

 

 時刻は二十一時を回り、BIGBOXの客は食べる者から飲む者へと移り変わっていく。響きわたるヴァオーの声を一種のBGMにした店内に三人が加わる。

「BIGBOXへようこそ、アナトリアの傭兵」

「おう、オルコットのお嬢様じゃねぇか。なんで怒ってんだ?」

「あ・な・た・も・ですの……!」

 セシリアが“あなたも”と言う訳だから同じ奴がもう一人いることになる。アレックスと共に入ったフィオナが見まわすと、金の後ろ髪を見つけた。

「シャルル・デュノアくん? どうしてここに?」

「あっ、いや、アハハ……」

 こんな時間に外に出歩くのだ、何か(ゆえ)あるに違いないのだが、

「アー。んまぁいいか。ラムコーク一つで」

「ん、私達は教師ではありませんからね。カシスのソーダをお願いします」

 アレックスは我関せずの言った具合にカウンターに向かう。フィオナがそれに()いて行き、残った一人、簪が呆然と立ち尽くす。

「Ms.カンザシ、かな? 何処かで見た覚えがある。君は何にするかね?」

「えっ、あのっ、こ、紅茶はありますか……?」

 

      ●

 

 「――以上です。オリムラ教諭」

「分かった……で、どうなんだ?」

 学生寮の一室、ヴィクトルは今日の宿直を担当する千冬にセキュリティコンサルタントとしての報告をしていた。

「……はい?」

「ハァ、お前はそういうやつだったな。ラウラのことだ」

 何を隠そう、ドイツがセキュリティコンサルタントへのプッシュに彼女を使っていたのである。

「私が教官として訓練をした内の一人だ。腕は悪くないと思うが」

「えぇ、本国から来た個人特技表を信頼すれば、少佐であることも頷ける」

 但し、と彼は繋げる。

「これに人物評価が付いていれば、の話ですが」

 ヴィクトルがこう言う事を分かっていたのだろう。千冬は目を閉じ、深く息を吐いた。

「……まぁ、そうだろうな」

「自分で考える駒は最高の駒だが、(ぎょ)せないならば駒ではなくなる」

「お前には負担を掛ける事になるかも知れん」

 彼女にしては弱気な意見だった。

「気になりますか」

「私は、あれ(ラウラ)がドイツIS作戦群の隊長に成れる程度には鍛えたし、実際あいつはそうなった。しかし能力に経験が追いついていない、背負う責任に対して若すぎる」

「学生を警備責任者に置くのもどうかと思いますがね」

「そこについては安心しろ、学生なら制服を着る」

 こう言われてはたまらない。ヴィクトルは降参だと言うように両手を広げる。

「では、定期報告を終了します」

 彼は軽く礼をして、身を振り返す。

「いや、ちょっと待て。伝えることがある――」

 少ししてから部屋を出てきた彼の表情は、(うかが)い知れない。ただ彼の手は既に携帯に向かっていた。

 

      ●

 

 『私だ、Ms.イェルネフェルト。――おい、聞こえているのか?』

「ふぁい、聞、ますよぅ」

『……また、明日かけ直そう』

「いえっ! 大丈うでしゅ!」

 フィオナはだいぶ酒が回っているようにしか見えない。電話の向こうの人物も、彼女の応答と背後の喧騒から察したらしい。

『では、近くにまともな人間はいるか?』

 その声を聞いて、フィオナが辺りを見回す。フロアの中央でアレックスとヴァオーが腕相撲をしており、どうやら周りは賭けでもしているのか随分な盛り上がりをしている。自分の座るカウンターの端にはここのマスター(メルツェル)とセシリアが神妙な顔で話しており、この二人と自身の間にはシャルルとエイが盛り上がっている。そしてフィオナは顔を反対側に振る。

〚カンザシしゃん! ちょうどいい所に!〛

〚はひっ!?〛

 フィオナはそのまま携帯を差し出す。

〚細かい()()はウィ、トルさんにきいてください〛

 言いたいことだけ言って、彼女はカウンターに崩れ落ちる。ふにゃりと作った笑みのまま眠り始めてしまった。

 ……どっどどどうすれば!?

『簪? そこにいるのか?』

〚はいっ、あの、どちらさまですか……?〛

『アー、すまないが日本語では――』

 英語で答えが返ってくる。この時点で簪は電話の相手を理解した。

「あっ、ごめんなさいグラズノフさん。簪です」

『そうか。ところで、そこは酒場のようだが何故君が?』

 あの時、フィオナに声を掛けたところ“せっかくだし”と言って簪はフィオナにBIGBOXまで連れられてきた訳なのだったが、場の雰囲気に流されていた彼女は、自分の目的をすっかり忘れていた。

「その、フィオナさんにお話しを……」

『そうこうする内に彼女が落ちてしまったか』

「はい。それで、御用件は……?」

『あぁ、ちょっとした手配を頼みたくてな。ファイルをプロテクトして届けてほしい』

 聞いて、簪の技術的な好奇心が首をもたげる。

「……どんな内容か、聞いても良いですか?」

 考えたのだろう。十秒と少しして彼が答える。

『アルゼブラに、いや、今はイクバール=アルゼブラか。ともかくそこに指定したフレームと武装をIS規格に加工してこちらに輸送してもらう』

 簪の頭の中を企業の名前が駆け抜けたが、どうしてもIS関連の企業でその名は見当たらなかった。

「あの……」

『何かあったか?』

「それって、簡単ではないと思うんです、けど」

『聞かせてくれ』

「ISの技術・規格は独立性が強くて、その、IS専門の技術者が必須の筈です。でも、さっきの会社は、聞いたことがなくて……」

 数瞬して、電話から嘆息(たんそく)の音が漏れる。

『忘れていた。厄介だな』

「だったら――」

 考える前に、彼女の口が動いていた。

「もの自体はできているんですよね、私、出来ます。その加工」

 自分の身に染み付いた技だ。自分が一人でISを作るために、幾度となく今ある技術の転用を試みた。これに関しては何度もやって、結局の所、(かんば)しい結果を得られなかった事実だけが積みあがっている。簪は、幾分卑屈ながらもIS規格への規格変更作業には自信があった。

 ……こんな私でもできることがあるかも知れない

 自分が、多少なりとも役に立てる。何故かは分からない高揚感が簪の足元に迫る。

『いや、その条件ではだめだ』

 しかし、返ってきたのは否定の言葉だ。だんだんと彼女の視線が下がる。

「やっぱり、私じゃ駄目、ですよね。あはは……」

『待て、前にもあった気がするが、そういう事では無くてだな――』

 ……あぁ、そうだった

 心なしか小さくなり始めていた体の動きが止まる。

「契約、ですか?」

『そう、それだ。対価として何が欲しい?』

「えっ? えと――」

 ……そんな事、急に言われてもわかんないよ!

 しかし、言わないとヴィクトルはこちらの申し出を受けてはくれないだろう。

「その、例えば……?」

『働きに応じて、応分に対処しよう。等価とできるものなら、何でも』

「な、何でもっ!?」

 (せば)めるつもりが、逆に選択肢が増えてしまった。

「じゃあ、その、保留、じゃ駄目ですか……?」

『貸し(ひと)つ、か? まぁ、良いだろう。依頼書のファイルをその端末に送るから、必要なプロテクトをかけて所定の場所に送ってほしい』

「分かりました」

『頼んだぞ、では――』

「はい……」

 結局その日は、フィオナと話せず(じま)いだったが、簪は大して気にすることは無かった。彼女はそれよりも自分が浮いてしまったような感覚を抑える事に難儀していた。一気に紅茶を飲む自分の後ろで歓声が沸く、腕相撲の決着がついたらしい。ヴァオーが派手な音を立てて倒れる音も、彼女は気にならなかった。

 




 好久不见。どうも、お待ち……している人がいるのかどうか、お持たせ致しました。
その上、待たせた割に話は一向に進まないってのがまた申し訳ない。戦闘シーンに入ると文字数吹っ飛ぶので幾分か早く投稿できるかと思います。

 物語の軸になる所が増えてきました。ここでまとめておきます。
(1.IS学園
 原作の舞台です。ここについては言わずもがな。
(2.北アフリカ-マグリヴ紛争地域
 本作第二の大舞台。基本的にはこことIS学園の出来事が話の中心です。
(3.ロシア-武器商ルート
 テクノレナード逆襲の地、武装の話はここに集約していきます。何?「お前ロシア好きなだけだろ」って? だから筆者はテクノクラート社員だと……
(4.BIGBOX
 喫茶店兼酒場、もとい集会所。ORCAの面々が登場するのは大体ココ。
(5.企業連-カラード本部
 主に王小龍やら束さんやらがお茶会する所。企業主導の作戦とかはここでの話。

 今回は簪さん回でした。どうもヴィクトルとの技術屋コンビになり易い彼女ですが、恐らくシャルさんの次にキャラクター性が変わってしまう予感、ファンの人ごめんよ。
と言うか、セシリアさんの重大シーン流しちゃったよ、Anotherエピソード行きですね。

 他、近況報告。
大学の勉強はなかなか楽しいです、キラキラキャンパスライフをほっぽって教授と話し、図書館にこもる生活が苦にならん位には。語学・思想・神学・文化とか面白いです。
未だにVDやってます。この頃は雇われることなく今日のVD終了、とかなってきて辛いですね。
フィギュヘッズのテスターしました。プレイヤーがちょっと硬くてもっさりしているFPSみたいな感じ。戦略性とメカ要素は望み薄かも。

 以上、また次回―
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