任天堂にちょび髭降臨。
サーモンランの前日譚。イかれたサケの群れがイカたちを蹂躙するより少し前。

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間違えて消したので再うp。

\クリーク!クリーク!クリーク!/


帰ってきたヒトラー 怒りのサーモンラン

  隔離エリアの奥深く。特殊な磁場が発生し誰も近寄ることはない。とうの昔に忘れ去られ、誰も覚えていないその場所にありえない光景があった。

  それは、整然と並んだ夥しい数の醜悪な生き物たち。廃材のリサイクル品であろうか、彼らは様々な武装がされており、それぞれの装備ごとに違う列を作っていた。或いは、兵科と呼ぶべきなのかもしれない。

 また彼らのいる足元が一切の塗り残しもなく緑とオレンジに埋め尽くされていた。そして皆同じように列前方のある一点を向いていた。ただの一匹も他所を向くことはない。彼らは、まさしく極めて高い水準に訓練された一個の軍隊だった。個の集合に留まらず、全体で一つの生命をすら形作っているように見える。

  じっと見据えるその先には、全員が見えるように配備されたお立ち台。そしてそこには一人の男が静かに姿勢をピンと正し立っている。全身を包む衣装は威厳に満ちながらも、彼の掲げる現場主義が伝わって来るような軍服姿。

 醜悪な怪物、シャケたちの視線にたった一人晒されているにも関わらず、その所作には全く隙が見えず、同時にどこか余裕すら感じられる。彼の全身からは指導者としての恐ろしいまでのカリスマが滲み出ているが、それでいてこの場で最も不自然な存在は彼自身であった。

 それもその筈、この場を埋め尽くすのは、彼一人を除いてシャケなのだ。醜悪極まるシャケ達の中にあって自分一人だけが異物であるにも関わらず、さも当たり前のように指導者としてこの場に立っているのである。

 

  静かに佇むこと数十秒が経過すると、それまで保ち続けていた沈黙を遂にとく。ゆっくりと、そして静かに右手を掲げてみせた。整然と並んだシャケ達に緊張が走る。目の前の偉大な指導者の声を聴き逃すまいと全神経を集中させているのだ。

 そして限界まで引かれた弓の如く場の緊張が限界に達したその瞬間、彼は口元に携えたちょび髭を震わし静かに語り始めた。

 

「親愛なる戦友諸君。我らはようやくここに立った」

 

  指導者である男を、これまた廃材を修理したと思われるマイクの数々が囲んでいる。そしてその声は会場全体に効率的に設置されたスピーカーによって、全ての者に届く。

 

「諸君がこの忌々しい世界の片隅へと隔離されて随分と長い時が過ぎた。それはそれは長い月日である。

 諸君をこの地に追いやったあのイカ共は、とっくの昔に諸君の事など忘れ去っていることだろう」

 

  彼は此処で残酷な一言を告げた。“お前が憎むあんちくしょうはお前のことなど覚えちゃいない”と言ってのけたのだ。

 静かに、そしてあっさりと告げた言葉がシャケ達の心を奮い立たせる。少しずつ、それでいて確実にシャケ達の心に火を入れていく。

 

「さて、諸君らはそれが許せるのか?当たり前のように平和を享受しているあの連中を、許せるのか?」

 

  無言を貫くシャケ達。しかしその瞳は灼熱の怒りを灯している。

 

「然り。許せるはずがないのだ!諸君はその怒りを抱きながら長い時をよくもここまで耐え抜いた。私は諸君に敬意を表する。

 ……だがしかし、いい加減代わり映えのない海を眺めてばかりではいられない」

 

  すると突然彼は東の方向を指さした。シャケ達がそれに追随するように同じ方向を一斉に向いた。

 

「遥かなあの地へ、約束のあの地へ。今こそ遂に諸君は進撃する。

 諸君は最早、アルバイト気分の浮かれたイカなんぞに全てを奪われるだけの奴隷ではない。唯一つの軍として新たに生まれ変わったのだ。

 故に諸君らは群にして個である。

 諸君ら一人一人こそが我が軍に他ならない。

 そして諸君は軍であり、また国家だ。

 ……さて諸君。諸君は今まで自らを示す名を持たなかった。名のない存在とは、自らが何であるか、という確かな証明が為されていない事を意味する。

 ならば今こそ、諸君の帰属する国家を名付けよう。やっとようやく一つの生命として生まれ変わる時がきたのだ」

 

  静かに男の演説に心を傾けていたシャケ達が、皆一様に動揺の色を見せる。だがそれを口にする事はなく、整然とした場は未だ保たれている。

 この事実は、一つの軍となるべく彼らが潜り抜けてきた訓練の密度の高さを雄弁に物語っていた。

 

「では、名乗りをあげるとしよう。諸君らこそが……」

 

 それまでの穏やかな語り口とは一転し、全力を込めた拳と共に彼は高らかに宣言した。

 

 「シャケ第三帝国」

 

  瞬間。その場を恐ろしい奇声が支配した。シャケ達の放つ、声にもなれないまさしく奇声と表するしかないような奇妙な声が一斉に放たれたのだ。

 放つ声は個々のシャケに様々であり、纏まりが無く雑然とした印象を与えるのかと思えば、彼らの声は唯一言“歓喜”のみを雄弁に語っていた。そう、唯々歓喜のみが彼らの心に強く浮かんでいたのだ。

  この瞬間を迎えるまで長きにわたり、シャケ達は原始的な小集団を形成するのみで、自らが何者であるという大きなアイデンティティ(或いはナショナリズムと言うべきかもしれない)が存在しなかった。

 しかしその隙間に指導者たるちょび髭の男が名前を付けたのだ。いや、付けてしまったのだ。

  つまりシャケ達は自らの帰属する国家を得たばかりか、彼らの種が誕生してからの長い時の中で始めて、自らが何者かを示す名前を得たのである。

  最早、考え無しに散発的に現れてはただイクラを分捕られるだけの惨めな存在では無くなったのだ。彼らはシャケの軍隊。世界中をその緑とオレンジのインクで塗りつぶすことだろう。

 

「諸君の成すべきことは一つのみ。それはすなわち、諸君ら自身であの地を取り戻すことである。

 思い出せ。諸君が奪われた地のことを。

 思い出せ。なす術なく奪い去られたイクラ達のことを。

 諸君の怒りはこの私も共有している。

 だからこそ諸君に私は問いたい。……一体何を望む?

 諸君はこの私に一体何を望む?」

 

 一斉に、そして整然と叫び始めるシャケ達の声は、ある一言だけを告げる。“領土”。彼らは男に領土を望んだ。

 

「宜しい!諸君が望むのは領土だな?ならば私は今こそ諸君を、あの約束の地へと連れて行こう。遠い遠い東の果て、あの麗しき約束の地へ!

 これこそ諸君の東方生存圏。

 嘗てと今とを結んで繋ぎ、諸君に安住の地を約束しよう。諸君の流した血の数々が、ようやっと諸君をあの約束の地へ送るインクとなる時が来たのだ。

 そしてその為の力を諸君は既に持っている。あの地獄のような訓練の日々を過ごし生き抜いた戦友諸君。左右を見渡すといい」

 

  シャケ達の視界に映ったのは、それぞれ異なる兵装に身を包んだシャケ達だった。

 

「分かるだろう。諸君は真実一つだ。同じ時を生き同じ訓練を生き同じ目的を共有する。これは紛れもなく一つの生命なのだ。故に諸君は一人ではない。

 諸君の屍はまた別の者の礎となるのだ。故に死線を渡る戦友諸君よ、その死を決して無駄にはさせない事を私が確約する。諸君の造ったインクの川をまた別の者が渡り、そして新たな川を造るのだ。

 つまり諸君は百万にして一つ。

 私と共に、総勢百万と一人で一つの軍集団と化す」

 

  真実一つとなったシャケ達は、皆同様に笑みを浮かべていた。心の底から可笑しくてたまらない、そんな笑いながら何もかもを殺してしまえる笑みであった。

 そして同時に、自らが朽ちる時もその笑みを欠かすことはないだろうと確信を抱いた。最早自らの進退は問題ではなく、“我が軍”が悲願を達成するかのみが問題なのである。

 それ故に彼らは同じ笑みを浮かべたまま死地に迎って飛び込める。死ぬその瞬間すらも笑えてしまうのだ。

 

「はてさて諸君。あの忌々しいイカ共はすぐそこに居るぞ?

 呑気にオモチャをその手に握り、楽しく塗り合いしているぞ?

 だったら諸君と私で、未だ寝ぼけ眼のイカ共を叩き起こしてやろうではないか。

 “貴様の天下は終わったのだ”、“もう我らの朝が来たのだ”と夜明けをインクで告げてやろう。

 諸君らを忘却の彼方に追いやった報いを、その身にたんと与えてやろう。身構えもしないその横っ腹に、思いっきりインクをぶつけてやろう。

 きっと楽しいぞ。それはそれは楽しいぞ」

 

  言いながら男は右手を前に突き出した。その手にはゆっくりと、そして渾身の力で拳が握られていく。

 

「見えるか諸君?諸君と私は、今まさに渾身の力でもって振り下ろされんとしている拳なのだ。諸君の嘗て流した血と、今からぶちまけるインクで出来た凶器なのだ。

 なれば私は、この拳を何処に振ればいい?

 今まさに放たれんとする弓矢は、どこへ向かえばいい?

 ……当然奴らだ。諸君と私を散々に貶めたあのイカ共だ。奴らのお遊戯では、小さな小さな塗り合いを楽しんでいるようだが、私と諸君は地図を塗りかえるのだ。一つ二つと小さく纏まらず、あの地全てを塗りかえて見せよう。

 故に諸君はシャケ第三帝国。夜明けと共にインクを散らし、世界の色を変えるのだ。

 さぁ諸君」

 

 男は下にいるシャケ達を一人一人見つめた。

 

「塗りつぶすぞ」

 

  演説を終えたイカ、アドルフは堰を切ったように補給を開始したシャケ達を、お立ち台の上から威厳たっぷりに眺めていた。自らが簒奪し口だけで作り上げた軍隊を見やり、これから攻め込む地で繰り広げられるであろう地獄絵図に期待を隠せずにいた。

 

 ◆◆◆◆

 

  始まりは、受験に落ちたことだ。意気揚々と受けた海女美術大学。しかしデッサンに不備がある、として物の見事に落とされたのだった。アドルフは未だにその怒りを抱えたままである。

 しかしその不備というのがとるに足らない話であり、課題として指示されたイカのデッサンを行わなかったというだけの話であった。アドルフがイカのデッサンを拒んだのは、単に彼の芸術性と合わない課題だったからであった。尤も受験でそれをやらかした挙句に自らを落とした教官陣を逆恨み、と言うのが客観的に彼を見た結果得られる彼の姿である。

 つまりは、このアドルフという男は芸術を自己顕示欲と一緒くたにまとめどこか取り違えた男なのである。

  このように端的に言って扱いに困る人種であったから、アドルフのとった行動もそれにふさわしい意味不明なものであった。何を思ったか、法律で禁止されているシャケとの単独接触を目的に隔離エリアへと単身突貫。そしてそのままシャケと合流してしまったのだ。

  勿論、通常ではこんなことは不可能である。シャケはアルバイトと称しイクラを分捕っていく憎っくきジャイアンであるイカを見れば、果敢に攻撃を仕掛けるからだ。

 だが、この時普段とは事情が異なっていた。アドルフが来る少し前に行われたアルバイトにて、キンシャケが戦死していたのである。

 キンシャケは、一万匹に一匹の割合でしか生まれない存在であり、普通のシャケより長生きで知恵を持っている。この当時、シャケは原始的な小集団を作るのみであったため、この集団における意思決定は戦死したキンシャケが行なっていたのだ。

 いわば長老と言った役回りである。

  さて、このキンシャケが死んだことでパニクっていたシャケ達は、一人で突っ込んで来た意味不明なイカを見ても普段と違って攻撃しなかったのである。

 そしてそれが運の尽きだった。

 このアドルフという男は、異常なほど弁舌に優れていたのである。あれよあれよという内にシャケの小集団を説き伏せると、自分をシャケの集まる場所へと連れていくように言った。

 そして意思決定能力のないシャケ達はこれを快諾。

 シャケがイカを運ぶ現代の浦島太郎の図が、ここに完成したのだった。

  あとは野となれ山となれ。まるで過去に経験したことがあったかのようにシャケ達をその弁舌で説き伏せ一気に指導者となると、シャケ達がそれぞれ持っていた武装ノウハウを集約、そのまま兵科ごとに分けていった。

 これにより、彼らが細々と先祖から受け継いでいた廃材で出来た武装の数々は、統一された基準による量産体制へと移行したのだ。

 次にそれぞれの階級を決定すると、教練を開始。

 それぞれの兵科ごとに訓練を行わせることで、自分はただ口を動かしただけだというのに気付けば総軍百万の軍隊を手に入れてしまった。

  嘗て古代文明の数々は、散発的なシャケ達の進撃により幾つも滅びたと言われている。唯でさえそれほどの脅威を秘めている訳だが、それが一つの指揮系統を持った軍として機能したその日には、何が起こるか火を見るより明らかである。

  アドルフは、あっさりとそれをやってのけてしまったのだ。火遊びと言うにはあまりに火力が強すぎる。世界を塗りつぶし焼き尽くすまで、彼らの進軍は最早止まりはしないだろう。

 

 そして恐ろしい事にこの男の考えていることは、ただ一つ。

 “海女美術大学をぶっ壊す”だけであった。

 結局のところ、シャケに約束の地を与える、とか言う事にはあまり関心がない。

 ただただ、自分の芸術を貶めた(と勝手に思っているだけだが)憎き大学を、ひいては大学の連中に連なる退廃芸術(勿論アドルフが勝手にそう思っているだけであり、どちらかといえばアドルフのそれの方が余程退廃しているように見える)を信奉する輩を散々に塗りたくってやろうとしか考えていないのだ。

 偶々世界中を塗りつぶしたりするのが自らの芸術的感性に一致したからおまけでやっているところがあるわけだ。その結果世界がどうなるとかはあまり関心がないあたり、全方位に害しかばら撒かない類の男であることははっきりしている。

  しかし、誰も止められなかった。それだけが事実である。

 

 かくして、電撃戦は発動された。世界がシャケの緑とオレンジのインクに染まる日は、そう遠くない。

 




ヨシフおじさん呼ぼう(提案)

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