β Ewigkeit:Fragments   作:影次

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評価数が20越えたよ記念に連投。
皆見ててくれてるんやな、よっしゃ頑張ったろ。尚失速する模様。

時系列はドラマCD、Todestag Verlorenの時。
マキナ列席に際し散らばってた黒円卓が初めて一同揃うことになったっぽい時の話ですね。
ベルリンを拠点に仕事しまくってたヴァルターの列席後を知ってるのは度々城に帰還してたエレオノーレとベアトリス、同じくベルリンを拠点にしてた非戦闘員のヴァレリアンとリザ。
ナウヨックスの場合ここにシュライバーが追加されます。

さて今回のフラグメントは。
1:ナウヨックス、死す
2:ヴァルター、神父に友情を語る
の二本になります。



Fragments:黒円卓招集Ⅰ

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 ヴェヴェルスブルグの廊下をアルフレートは駆けていた。

 なるべく長々とした直線ルートではなく、曲がり角の多いルートを選別し、駆け抜ける中常に後方に袖口から球形の兵器を落としながら。

 袖から落としたものたちは数秒後光と衝撃を撒き散らし、それをまともに受けたであろう声も混在している。

 だがそれでも、状況は全く好転などしていない。

「視覚、嗅覚、聴覚を同時に潰して、霊的感覚まで鈍らせてようやくちょっとばかり距離を稼げるかどうかか……効果があるのは嬉しいけれど、こりゃもう駄目っすね!」

 既にアルフレートは右腕を失っていた。

 脇腹も大きく抉られ、鮮血がとめどなく流れる。

 魔人たる身であれば肉体の欠損に関わらず生命活動を持続することは可能だ。

 足二本残っているだけでも上等といえる、だがその上等も後何秒保つか。

 背後で狂ったように四方八方に突撃を繰り返している存在が感覚を取り戻すか、当てずっぽうの突撃が正確無比にこちらに向けばそれで終わりだ。

「ッ、っと!」

 右隣を駆け抜ける轟音。

 その衝撃波を丁度曲がり角を左側に飛ぶことで回避する。

 べしゃりと自身の体か叩きつけられ血が吹き出す音は、城の壁を粉砕する轟音にかき消される。

「ごふッ、はは……ちっぽけなもんだぜ」

 それでも何とか体勢を立て直し、次の直線距離を稼ごうとするが。

「……あは、治った」

 背後から、想定外の一言が聞こえた。

 思わず足を止めそうになるが、走り出したままアルフレートは頭を整理する。

「え、冗談でしょ? 早すぎない? 嘘だよね嘘」

 汗を吹き出しながら、アルフレートは振り向くことなく言葉を投げかける。

 そう、この問も聞こえているはずがない、少なくとも後数分は保つ筈が。

「嘘じゃないよ、慣れた。いやー、面白かったよ。色々手先が器用なのは知ってたけど、まさかこんなものを作ってるなんてね。こんなに距離を稼がれたのは久しぶりだ」

 あ、これあかんやつだ。

 アルフレートはこのタイミングで使うつもりの無かった次を袖から取り出そうとして。

 しかし、それはあまりに遅すぎた。

 後数秒判断が早ければもう少し生きながらえていたかもしれないが、それは過ぎ去った分岐点でしかない。

「じゃあね、アルフレートお兄さん。イヤッハアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「が、ぅ」

 アルフレートを追う白い暴風、ヴォルフガング・シュライバーが遂に、その背の中心を捉え――

 

 

 

 

 

「一体何が……!」

「分からん、だが直ぐに分かることだ。それも、誰が暴れているのかという事実しかない」

 その轟音を、エレオノーレとベアトリスが聞いていた。

 黄金の招集により城に参陣した二人は、その廊下の先に血の匂いを感知していた。

 その喧騒の正体を知るため、二人は廊下を駆けている。

 進むごとに、何かを砕くような轟音は近づいている。

「近い、この先か」

 その曲がり角の先に原因がある。

 二人はその角から頭を出そうとして。

 

 その角の向こう側から轟音とともに何かが吹き飛ばされ、眼前の壁に激突したのを見た。

 

「なッ!?」

 その何かは人だった。

 血に塗れ、最早人の原型を留めていない犠牲者だ。

 右手を失い、体の半分は抉れ、今の激突で残る半分の体表も粗方潰されただろう。

 その死体としか思えない人型は、首だけを緩慢にこちらに向ける。

「……ああ。エレちゃんとベア子ちゃん。久しぶり」

「ナウヨックス少佐……」

「貴様、何事だナウヨックス」

 ベアトリスはその惨状に息を呑み、エレオノーレはその顔を認識するも容赦なく現状の説明を求める。

「はは……まあ、何というか。参ったねこれは……簡潔に言うと、たすけ、」

 その言葉は轟音にかき消された。

 容赦のない追撃が瀕死のアルフレートに突き刺さったことによって。

 常軌を逸した速度の突進から繰り出される獣の爪の如き腕がその首を捉えたのを、二人はかろうじで目視した。

「あはあ、つーかまーえた♪」

 そして、捩じ切った。

 アルフレートの首は宙を舞い、シュライバーの手の中に納まる。

 目玉が裏返った生首を、シュライバーは嬉しそうにその髪を掴んで手の中で回していた。

「な……ナウヨックス少佐!?」

「貴様は……確か」

 二人にとっては黎明以来の接触となるか。

 獣の爪牙になったとて、全ての団員が接触を済ませているわけではない。

 こうして城に招集されるまで好き勝手に過ごしている団員もいる。

 ヴォルフガング・シュライバーはその最先端と言ってもいいだろう。

 ただひたすら戦場で敵を殺し貪っていたのだから。

「んー? ああ、久しぶりだねお二人さん。君たちも黄金の爪牙になったんだ。つまり、これからは同僚ってわけか。うん、いいね。悪くないよ」

「何を……一体何をしているんだ!」

 ベアトリスは激昂のままに形成し、その剣をシュライバーに向ける。

 しかしシュライバーはそんな対応もどこ吹く風と、アルフレートの首を見せびらかすように掲げる。

「何って言われても……鬼ごっこだよ。アルフレートお兄さんとの鬼ごっこはね、とっても面白いんだ。お兄さんは足が遅いくせに色んな小細工で僕から逃れようとするから、追いかけてて飽きないんだよ。まあ、今回は僕の勝ちだね」

 そんな、目の前で仮にも同じ軍服を着る仲間を虐殺した態度に、ベアトリスは嘗ての邂逅を想起し、その時と何ら変わっていないということを思い知る。

 その怒りを雷と変えて、シュライバーを威嚇する。

「今すぐその首を置け。その人は死んで当然の人かも知れないが、そのような扱いを受ける謂れは誰であろうとないはずだ!」

 ベアトリスにとってアルフレートはたちの悪い上司だ。

 奔放で悪辣、規律破りで忠誠心は皆無。

 一体何故軍人などやっているのか。

 どちらかと言うと狂人側の住人であることに間違いはなく、聖槍十三騎士団への参入もまあこの人なら別に何の不思議もない程度には外道だと思っている。

 憧れの先輩も何があってこの人の相棒発言を受け入れているのか、正直理解に苦しむ。

 それでも、あのカズィクル・ベイや目の前のシュライバーに比べればマシな人だとは思う。

 何を考えてるかいまいち分からない道化でも、先輩について笑ってる時は不思議とそれが悪いものではないと思える。

 それはエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグに対するリザ・ブレンナーのような。

 たとえ外道に堕ちた人であろうとも、嫌いきれない人というのは存在するのだ。

 僅かばかりの思い出でも、それさえ投げ出して憎むだけとなれば益々人から遠ざかっていく、ベアトリスはそう思うから。

 だから、その弔いのために剣を向ける。

「そんな怒らなくてもいいじゃん。ここはあの人の殿堂なんだし、むしろこれこそが本懐じゃない? ねえ、そっちのお姉さんはどう思う」

「ここがあの黄金の君の殿堂であり、この場に集う爪牙がその意に従うべきという意味では否定はしない。だがそれはそれとして、貴様の狂犬ぶりに同調するつもりもない。貴様の牙には誇りが感じられん」

「そりゃあ仕方がない。僕は頭のおかしいヴォルフらしいからね」

 エレオノーレも既に砲撃を撃ち込む準備を整え、その砲門をシュライバーに向けていた。

 この男は何をしでかすか分からない、狂気を人のかたちにしたような存在であれば。

 その迎撃に否はないことに一抹の喜びを、そして敬愛する上官がこの修羅道を否定しなかったことに一抹の悲しみを覚えつつ。

「ヴィッテンブルグ少佐、やりましょう」

ベアトリスは切っ先の雷を鳴らす。

「まあ、待ってよ。君たちとやりあうのも楽しそうだけどさ。とりあえずこれを見てよ」

 シュライバーはアルフレートの頭を突き出し、二人が何のつもりだと訝しむ前に、その行動を実行に移した。

 アルフレートの頭はシュライバーの手で握り潰され、その肉片が飛び散った。

「……どこまで! 死を冒涜するつもりだ!!!」

「待てキルヒアイゼン」

 その行いにベアトリスが踏み込もうとするも、エレオノーレが静止する。

 それに文句を付ける前に、エレオノーレが直感した何かが始まった。

「あは」

 ドクン、となったそれは、心臓の鼓動か。

 或いは、何かの駆動音か。

 その場にいた三人は、世界が歪み、不気味な停滞に沈んだのを知覚した。

 キィ、キィ、と歯車の軋む音。

 世界の果てより鳴り響く冒涜的な機関音が、耳元に残留する。

 

 チク・タク、チク・タク。

 チク・タク、チク・タク。

 カチリ。

 

「……え」

 ベアトリスは踏み出した足の勢いを止めた。

 視界に映る情報が一変していたからだ。

 

 そこにはシュライバーがいた、それは変わらない。

 しかしシュライバーが今しがた握り潰したアルフレートの頭部が、綺麗さっぱり消えていた。

 飛び散った肉片も、血の跡さえも。

 砕けた壁の中に沈んでいたはずの首無し死体も。

 先の空間を襲った違和感の直後、まるでコマ落ちのように、そこに誰もいなかったかのように消失しているのだ。

「あはは、何度見ても面白いね、お兄さんのこれ」

「いくら復活するからって死ぬ時は痛いんだから勘弁して欲しいんですがねえ……知ったこっちゃないですかそうですか」

 そして、その声が背後から聞こえて、ベアトリスとエレオノーレは振り返る。

 そこには、今しがた死んだはずの存在が立っていた。

「ナウヨックス、少佐?」

「今日も酷い目にあったぜ。改めてグーテナハト、お二人さん」

 無かったはずの右腕も、抉れていた脇腹も、捩じ切れた首も全て全て無かったかのように、身奇麗なアルフレートがそこにいた。

 げんなりした顔で首の調子を確かめているそれは、決して夢幻ではなかった。

「ちょっとイザークくんよー、助けてくれてもいいんじゃないの? いくら僕が『ルフラン』で復活するからってさー。お兄さん悲しいです」

『お前が犠牲になることに疑問を挟む意義が感じられない』

「あの頃の素直なイザークくんはどこに行ってしまったのか。誰も敬ってくれないなら生まれたばかりの子供に僕の偉さを刷り込んでやろう作戦さえも失敗に終わってしまった、僕はシュピーネ君以外の誰を虐めればいいんだ」

 いじけ始めるアルフレートを無視し、幼気で無感情な声が城に響き渡る。

『そこの愚か者はおいておけ。ヴォルフガング・シュライバー、満足したなら鼠狩りもここまでだ。エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ、ベアトリス・フォン・キルヒアイゼン。お前たちも矛を収めよ。黄金の命あらば、今は何よりをそれを尊べ。闘技場にて、黄金の君がお待ちだ。我が名はイザーク、イザーク・アイン・ゾーネンキント。このヴェヴェルスブルグの核にして、黒円卓の第六位、黄金の歯車である。総員、即座に参陣せよ』

 一方的に言い切り、言葉を終える。

 その宣言に、場の空気は一転し狂騒が終わりを告げたことを誰もが悟った。

「第六位……か。ナウヨックス、貴様が影として守っていた存在だな」

「そうだよー。イザーク君。バビロンが捧げた、ヴェヴェルスブルグの歯車さ」

「その当たりのことは後でじっくり聞かせてもらおう。今はハイドリヒ卿の御前へ。貴様もそれで否はないだろうな、シュライバー、それともあの人の命すら聞けぬほど狂っているか」

 エレオノーレがそう問うと、シュライバーは笑いながら答える。

「まさか! あの人は絶対にして至高。僕のすべてを捧げた黄金の輝き! それに、アルフレートが相手してくれてもう満足したからね。今日は十分満喫させてもらったよ。また鬼ごっこしようね、おにーさん」

「やだよ。ああちょっと掴むな自分で歩くって! 助けてエレちゃんベア子ちゃん!」

 アルフレートの首をひっつかみ、シュライバーは意気揚々と踵を返していった

 助けを求めるアルフレートの言葉はエレオノーレもベアトリスも無視した。

 大変不名誉な俗っぽい仇名で呼ばれることを二人は特に許してはいない。

「……何だったんですかね、さっきの。ナウヨックス少佐、確かに死んでいました、よね?」

 或いは自分の感覚が狂っていたのか。

そう疑問に思いベアトリスはエレオノーレに問いかける

「貴様と同じ景色を私が見ていたのかどうかは知らんが。少なくとも、私の目にもあの男は死んでいたように見えた。シュライバーに首を断たれ、その頭を握りつぶされ、魂さえ完膚なきまでに砕け散る、そのように見えた」

 そう、問題はそこから先。

 正に魂が砕け散る、その瞬間のことだった。

「世界が歪み、錆びついた、とでも言おうか。まるで出来の悪い映画のように世界が切り替わり、次の瞬間奴の死体は消え失せ、我らの背中に無傷で現れた。貴様もそう見えたか」

「はい、私も同じです」

「『ルフラン』、などと呼んでいたか。或いは、正体を見せぬ奴の能力の一端か」

 第六位代行、アルフレート・ナウヨックスは不気味な存在だ。

 魔人らしさを感じない、強さを感じない。

 脅威も恐れも、何も感じない。

 その能力の片鱗さえも、活動位階の身体能力以外見えるものがない。

 しかしただの雑魚と切って捨てるには、あの男は厄介に過ぎる。

「あれは不愉快で腹ただしい、誇りの何たるかを知らない下衆だ。だが、奴はそう在る為の研鑽を欠かさない。そこは唯一認めるべき部分だ」

 遠回しに、蔑みこそせど油断ならない存在だとエレオノーレは思う。

 果たして、その内に抱えるものとか何なのか、今はまだ、見えてこない。

「水銀より直に『裏切り者』の烙印を押された異端。キルヒアイゼン、貴様も警戒しておけ」

「……はい」

 常軌を逸した復活劇。

 それを記憶に刻み、二人は闘技場へと向かう。

 そこで、更なる『不死』の可能性を知ることをまだ知らず。

 

 

 ヴェヴェルスブルグ城にて 第七位列席直前の一幕 時記す歯車(ツァイトグロッケ)

 

 

 

 

「……どうやら、察するにナウヨックス卿がまた『死なれた』模様ですね。こうも繰り返されると、感覚が麻痺してきますよ」

 城全域に響いた声を聞いて、ヴァレリアンは何が起こったのかを大まかに察した。

 彼はアルフレートの能力を事前に知っていた、というか、それを見た一人だ。

「イザークを任せる手前、ああも軽々しく自分の身の上を扱うのは控えて欲しいのですが。いえ、無論彼が好き好んで死んでいるわけではないというのは分かっているのですがね」

「……イザーク」

 アルフレートは第六位代行、戦闘能力を持たない太陽の御子(ゾーネンキント)に代わり矢面に立つ存在だ。

 生まれたばかりのイザークの養育をしていたのもアルフレートである。

「私、時々思うの。彼にイザークを預けたのが、正しかったのか」

「リザ、それは……」

 困り顔をするヴァレリアンに、リザは頭を振り自嘲する。

「分かってる、自分から捨てておいて、自分から目を逸らしておいて、何を言ってるんだって。イザークは、彼に対してだけはちょっぴり辛辣で。それは、彼に対する誰もがそういう反応をするけど、他でもないイザークがそうすることは、悪くないことなんじゃないかとも思うわ」

 イザークは正に、レーベンスボルンから生まれた完璧な超人だ。

 その完璧さ故に、リザは直視することができなかった。

 しかし、その完璧な黄金色に、新たな色を生む程ではなくとも変化を与えたのだとしたら、それは一体何を意味するのか。

「でも、それでも思うの。彼は、見る人をひたすら不安にさせる。まるであの日のように、私は致命的な何かを犯してしまったのではないか、顔を合わせるたびにそう語りかけてくるようで。私は、正直彼とは余り長い時間顔を合わせていたくはないわ」

「それは、私も同じですよ。あの御仁は、色々とおかしい。双首領とは別の意味で。マレウスはむしろそれが興味深いと言ってはいましたが、私には藪をつついているようにしか思えませんね」

 人の心と感情を読むヴァレリアンから見て、アルフレートは恐るべき未知だった。

 輝きに圧され読むことすら叶わなかった双首領とは違い、読むこと自体はできたのだ。

 だがその読んだ先が。

「……どう見えたの?」

「言えません。言いたくない。言葉にしてしまえばリザ、貴方もそれを直視してしまうような、そんな怖気が背中を走る」

(時計の音。ただひたすら、四方八方から。チク・タク、チク・タクと。私には彼が分からない。いいえ、なまじその表面が分かってしまうからこそ)

 その時、ヴァレリアンは確かに聞いてしまったのだ。

 あらゆるものは意味を持たない、アルフレートの深淵から響いたその声を。

 それを思い出し身震いし、ヴァレリアンは『もう一人』に話を振ることにした。

「……貴方は、どう思われますか。シェレンベルク卿」

「……ん?」

 ヴァルターは書類を眺めながら、ヴァレリアンとリザの三歩後ろを適当に歩いていた。

 この招集にいかにも面倒くさいという顔をしていた彼は今も手元で仕事の中身を改めながら。

 一応話を聞いてはいたようだが、文字の上を滑らせていた視線をようやく向ける。

「貴方とナウヨックス卿は懇意の仲だ。彼と最も親しい人間は誰かと言えば、それが貴方であることは疑いようもない。次点でアイヒマン中佐でしょうか。貴方は、何を思って彼と友誼を結んでいるのでしょうか? 相棒、親友と呼ぶ彼を受け入れ、共にあるのか」

「あいつが訳分からん奴だというのは同意する」

 律儀に書類にチェックを挟み封筒に入れ、ヴァルターはそれに答える。

「何を考えて魔人になったのかだの、その正体は何かだの。そんなことは俺も知らない。お前らはそれが不安だって言うんだろう。気味が悪いと。全く同感だ、あれはいつか碌でもないことを起こすだろうよ」

 ヴァルターは、ヴァレリアンの言い分を一切否定しなかった。

 アルフレートは不気味で、得体が知れなくて、信用ならなくて、その内に正体不明の闇を抱えるおぞましき何かであると。

「では、何故」

「俺にとっては、そんなことはどうでもいいことだってだけだ」

 ヴァルターはヴァレリアンの抱くまっとうな不安感をばっさりと切捨てた。

「碌でなしで気持ち悪くて人の迷惑になるようなことばかり好き好む外道だが、俺にとっては友人だ。あいつのすべてを知ろうだなんて思わないし、あいつもそれを分かってて俺の前では少しばかりやりすぎるのを慎む。俺はそれでいいと思ってる」

 不快げに、しかし否定はしない。

 ヴァルターにとって、そんなことは重要な事ではない。

「道化者で笑い上戸で馬鹿ばっかりやる面倒くさい同僚。それだけ分かってればいい。ベルリンに来てからの付き合いだが、あいつは真っ先に俺との友誼を望んだ。俺はあの時それを受け入れて、今もこうして続いてる。それだけの話だ。きっとこの関係は、あいつが俺にとって譲れない一線を越えるときまで続くんだろうさ」

 もういいか、と言って思わず歩みを止めたヴァレリアンの先に進んでいく。

 ヴァレリアンはその背中を暫し瞠目し見つめていた。

「何と、やはり彼は」

「私は、何となく分かるような気がするわ。馬が合わなくても、嫌い合っていたとしても、一緒にいる。エレオノーレっていう身近な例がいるから」

 ヴァルターとアルフレート。

 その関係は、まるで血盟の絆を思わせた。

 どれだけおぞましかろうと、不可解であろうと。

 或いはいつの日か、その本質から来る裏切りを受けようとも。

 彼はきっと真っ向からそれを受け止め、怒りに行くのだろう。

 そして、ヴァレリアンにはそれ以上のことが見えた。

「よもや彼は……あの御方にも……」

「? 何か言った、ヴァレリアン」

「……いいえ、何も。足を止めてしまい申し訳ない、さあ、行きましょうか」

俺にとっては友人だ、そう言ったヴァルターの心の中の影には、もう一つの姿があった。

(シェレンベルク卿、貴方は。あの黄金の君にさえ。玉座にあって敵対を宣言をして尚、友としての影を今も抱いているのですか)

 嘗て、底知れぬ漆黒の渦の如きその精神を見た。

 中央に微かに差す光は時が経つに連れ輝きを失い一時期漆黒に染まると思われたが、彼が列席したその時に漆黒の渦に大きな光が差した。

 彼の心の中は、正しき道で構成されている。

 ただそれを執行する根源が、血の通わぬ鋼鉄の機関の如き絶対性を有していたが故に、ヴァレリアンはアルフレートと同じくヴァルターも恐れていた。

 今は、あの時ほどの恐れはない。

 何があったのかは分からない、そのまばゆき輝きはその先だけを遮っている故に。

 しかし、その輝きに触れたからこそ、ヴァレリアンは思った。

 それは狂気なりし、恐るべき『尊さ』であると。

 その輝きは『愛』と呼ぶべき、また彼自身がそう定義しているものであると。

 

 

  ヴェヴェルスブルグ城にて 第七位列席直前の一幕 拒絶せし大黒天(シェイドウィルダー・マハカーラ)

 

 

 




時記す歯車、ツァイトグロッケ。
拒絶せし大黒天、シェイドウィルダー・マハカーラ。
そんな感じの魔名。

ナウヨックスはエインフェリアじゃないよ。
エインフェリアを見て、エレちゃんあたりは小僧の不自然さに気づいたりする、多分。

ヴァルターの友情論は剛三さんとセージに似てる。
そりゃあまともな人間がまともなスタンスとってたらあんな裏切りマンと付き合えないよ。

神父の評価
総首領:この世で一番やべーやつ
ナウヨックス:存在そのものが気持ち悪いやつ。すげーとかやべーよりきめえが勝る。
ヴァルター:つい先日までナウヨックスと双首領の中間だったけど、何か暖かい方向に……?


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