2022年 11月6日
この日、人類は新たな一歩を踏み出した。
株式会社アーガスが開発した、VRゲーム機《ナーヴギア》と、VRMMORPG《ソードアートオンライン》によって。
このゲームは、世界初のVRゲームとして注目が集まり、発売前のベータテストですら、すごい倍率だったという。
俺、佐藤和真は、生まれもっての並外れた幸運によって、そのベータテストに当選した。
夏休みに行われたベータテストで、寝るときでさえも仮想世界にダイブしていたほどだ。
そのおかげで、度々脱水症状で死にそうになりながらも、最強プレイヤーの一人と言われるまでになった。
残念ながら、そのプレイヤーデータはリセットされたが、今日この日、俺は再び仮想世界に舞い戻る。
ベッドの傍らに、水の入ったグラスと、カップラーメンを用意して、ナーヴギアをかぶる。
色々な設定はもう終えてあるので、時間になれば、コマンドを唱えるだけで仮想世界にダイブできる。
そして、サービス開始時間、一時になった。
俺は剣の世界に行くためのコマンドを唱える。
「リンクスタート!」
目を開けると、日の光が入ってくる。
現実なら、真っ先に日陰に隠れるところだが、ここは仮想世界だ。
日差しは感じるが、それさえ意識していれば、日差しなんて怖くない。
辺りを見回すと、初期スポーン地点にの広場に、何百人もの人達が、送られてきていた。
全員同じ顔は無く、髪もまばらだが、服装などの雰囲気が共通している。
俺は大きく伸びをして言った。
「異世界だなぁ」
とりあえず、装備を揃えるために、武器屋に行く。
「ちょっと、待ちなさい!」
今、走りだそうとしていた俺に声がかかった。
俺は振り返って、応じる。
「なにか用か?」
俺に声をかけたのは、水色の髪の美女だった。
アバターの見た目は可愛いが、現実では、どうせネカマかブスだろう。
「あなたのその迷いの無い走り、ベータテスターね?」
「ほう、よくわかったな」
「私の曇りなき眼なら当たり前じゃない。私の名はアクア。水を司る女神、アクアよ」
と言って、ドヤ顔で長い髪をかきあげる。
現実なら「は?お前、精神科行けば?」と、言いたくなるが、ここは仮想世界だ。
そう、ロールプレイだから、当たり前だ。
だから、目の前の奴を、今にも殴りかかろうとしている、俺の右手よ、静まれ。
俺は一瞬の葛藤を終えて、答える。
「俺はカズマ。ご存じの通りベータテスターだ。よろしく」
と言って、手を差し出すが、
「え?初対面の人にいきなりボディタッチなんて、セクハラですよ?」
と言って、クスクス笑うアクア。
どうしよう、マジで殴りたい。
再び葛藤して、手を戻す。
「そ、そうだな。流石にそれはダメだよな」
「本当よ、本当。だから、お台として、私にレクチャーして頂戴」
「まあ、レクチャーくらいならいいぞ。誰かに教えるのはタダだし」
この言葉が、後に壮大なブーメランとなって、帰ってくることをこの時の俺はまだ知らない。
「じゃあ決まりね。それじゃ、おすすめの武器屋教えて」
と言って、アクアが路地に向かって、走り出す。
そんなアクアを見て俺は、
「そっち、逆だぞ」
と、教えた。
その後、羞恥で顔を赤く染めたアクアが、殴りかかってきたのは、また別のお話。
カラランと、音を立てて、ドアを開く。
店の中には武器の陳列してある棚と、無愛想な店主のいる、カウンターしかない簡素な店だ。
俺が、中に入ろうと、
「いちばーん!」
するより早く、アクアが飛び込んでいった。
店に入ったアクアが、早速こける。
「ぷぷっ、ざまあ」
「ううっ、うわあーん」
顔を床で強打したアクアが泣き始める。
え?原因は他にあるって?知らないなぁ。
「大丈夫か?」
「ううっ、大丈夫......」
アクアに手を貸し、立ち上がらせる。
周りの奴らも、少しこちらを見ていたが、すぐに何事もなかったかのように武器を選び始める。
俺達も、近くの棚を覗きこむ。
「なあ、アクア。お前、なんの武器買うんだ?」
「え?槍だけど」
「槍か。槍だったらコレがオススメだぞ」
と言って、近くの棚からアクアに長い槍を手渡す。
「これねえ。なにかパッとしないのよね」
「パッとしないって。なら、何がいいんだ?」
「うーん、これね」
アクアが、近くの棚から違う槍を取る。
先の方につぼみが付いた槍で、ぶっちゃけ攻撃力は低い。
「なあ、それ攻撃力低いからこっちに」
「攻撃力低くても、私が真の力を出せばモンスターなんて雑魚よ、雑魚!」
あ、こいつ、ダメな奴だ。
俺が、厄介な奴に声かけられたと、後悔している間に、アクアが精算に向かっていく。
「はぁ、俺もなんか買うか」
俺は現実から逃避する事にした。
結局、武器屋で俺はベータテストと同じショートソードを、アクアはポンコツの槍を買った。
「ほら、カズマ早く行くわよ」
俺達は今、街から少し離れたフィールドを歩いている。
何をしにいくかというと、
「お前、所持金無いからって、意気込みすぎだろ」
「仕方ないじゃない。あの槍、高すぎるんだから」
「だからって、クエストが無茶すぎるだろ」
そう、アクアが受けたクエストのせいである。
アクアが、金に困って受けたのは、ここ周辺に生息する、あるモンスターの討伐。
始めたばかりのプレイヤーには、強敵と言っても過言じゃないレベルで、今の俺達には無理に近い。
普通なら、依頼を取り消せばいいのだが、
「そうは言っても、三日以内にクリアしないと、罰金だからね」
このクエストは期限付きなのだ。
三日以内にクリアしないと、報酬の半分が、罰金として徴収される。
「くっそ、このクエスト作った奴を殴ってやりたい」
「そんなこと言ってないで行くわよ」
「お前のせいだろうがー!」
流石にムカついたので、アクアを一発叩く。
「痛ったい!よくも女神様の玉のお肌に傷つけたわね!」
「玉のお肌って、それが無いと、汚い中身が丸出しだもんな!」
「何ですって!」
そう言って、槍を振り回すアクア。
長い槍を器用に回して、攻撃してくるが、バックステップでかわす。
「そんな無駄に長い槍当たんねえよ!」
「むぎぎぎぃ......それならこれはどうよ!」
アクアが、今度は突きを繰り出してくるが、剣先でパリィする。
その拍子に槍が空に跳ね上げられる。
「あ!」
「は、勝負あったな」
空に飛んでった槍が、上空で折り返して落ちてくる。
そのまま、地面に近づいていき、
「あ痛っ!」
アクアの頭に当たった。
流石に今のは痛かったのか、アクアが頭を抑えてうずくまる。
「おい、大丈夫か?」
「グスンっ」
アクアさんが、ガチ泣きモードに入ってしまいました。
「えっと、ごめんな。ちょっと調子に乗ってやりすぎた」
「グスン、わかった、許してあげる」
上から目線だな、おい。
今ので泣き止んだのか、アクアが涙を拭いて立ち上がる。
「さ、時間使いすぎたから、早く行きましょ!」
「はぁ、そうだな。頼りにしてるぞ」
「あったり前でしょ。私は女神なんだから」
上機嫌なアクアの鼻歌を聞きながら、俺達は歩いていった。
それから数十分歩いて、俺達は目的のカエルを発見した。
固有名《ジャイアント・トード》
こいつは、名前の通り、すごくデカい。
しかし、攻撃方法は丸呑みだけだから、結構簡単だろうと、思っていたが、
「カズマさん、助けてパクッ」
アクアが開始早々食われた。
何故なら、作戦もなしに突っ込んでいったからだ。
槍で少なくともダメージは与えれたものの、相性が悪かったのか、一桁台だ。
「おーい、アクア大丈夫か?」
流石に、返事はない。
俺はため息を吐きながら、剣を構える。
すると、構えた剣が青く光り出し、俺の体がすごい速さで動く。
そして、青く光った剣は、
「ゲロォォォォ!」
カエルの腹を斜めに切り裂いた。
この攻撃で、カエルに少なく無いダメージが入る。
「ゲロッ」
「あ」
カエルが、耐えられないとばかりに、アクアを吐き出す。
口から吐き出されたアクアは、放物線を描いて飛んで行き、
「ぐへえ」
頭から着地した。
まあ、ゲームの中だから骨が折れたりはしてないだろうが、精神的には来るだろう。
「うええ、生臭せえ」
アクアの臭いが、ここまで漂ってくる。
卵が腐った臭いが、さらに悪くなった臭いだ。
茅場も、作り込みすぎだよな。
そんなことを考えていると、
「ゲロォォ」
カエルが起き上がり始めた。
そのまま、こちらに跳ねながら近寄ってくる。
カエルが一回跳ねる度に、地面が揺れる感覚がする。
「ゲロオォォ!」
着地した瞬間、長い舌をこちらに向けてきた。
速度はまあまあだが、生理的にあまりいただけない。
俺は剣を振り、舌を切る。
だが、
「あれ?」
剣は、舌の弾力に跳ね返された。
そのまま、舌はこちらに飛んできて、俺の体に巻きつく。
そして、
「うわああああああ」
口に持って行った。
カエルの大きな口が、俺を吸い込んでいく。
俺は体を回転させながら、ソードスキルを発動させる。
ソードスキルとは、決まった動きをすると、システムが体を動かし、攻撃する、いわば必殺技だ。
ソードスキルが発動すると、剣が緑色に輝き、
「てやああああああ」
カエルの頭に突き刺さった。
刺されたカエルは、HPをどんどん減らして行き、最後にはゼロになった。
カエルが断末魔をあげて、ポリゴンに変わっていく。
もちろん、持ち上げられていた俺の体は、
「うわああああああ」
垂直落下していった。
頭からでは無かったが、背中から落ちて、痛くはないが衝撃が走る。
「はあはあ」
しばらく、草原に横たわる。
遠くを見ると、アクアが首を回して体操していた。
「お前、何やってんだ?」
「首が折れてないか確認してるの」
「アバターだから大丈夫だろ。はあ、疲れた」
まさか、カエル一匹でこうも疲れるとは。
まあ、大半は自分の運動不足だが。
俺は反動を付けて立ち上がる。
「よし、じゃあ帰るぞ」
「あ、置いてかないでー」
と、俺に抱きついて、いや、しがみついてくるアクア。
「ああ、離せ生臭い」
「ひどい!それ、女の子に言う言葉じゃないでしょ!」
「女の子って認めて欲しいなら、その臭いをなんとかしろ!」
「私、女神なのにー」
「お前が女神なわけないだろ。仮に女神だったとしても、駄女神だな」
「あー!カズマが駄目神って言ったー!」
その後、しばらくの間、しがみついてくるアクアと、取っ組み合いの喧嘩をしていた。
俺達は今、始まりの街の大衆浴場に来ている。
理由は、大体わかると思うが、アクアがあまりにも臭いからだ。
実際、ここに来るまでの間にすれちがった人も、臭がってたし。
まあ、そんなわけでついでに俺も入ったわけだ。
で、感想はというと、
「最悪。なんだよあれ」
「私、ここの水嫌いなんですけど」
最悪だった。
ナーヴギアの液体の再現が、あまりにもできてなさすぎて、風呂に浸かってるのか、スライムに埋まってるのかわからなくなった。
「ベータ版の時は、ここの風呂は入ってなかったからな。上の風呂が恋しいぜ」
「もっと上ならいい風呂あるの?」
アクアが目を輝かせて聞いてくる。
「ああ、あるぞ。特に三層の野営地の風呂は、薬草入りだったしな」
「じゃあ、三層まで行ければ.......」
「「ちゃんとした風呂に入れるー!」」
そんな風に二人で、くだらないことで喜びあっている
と。
ーーリンゴーン
大きな音で鐘がなった。
この鐘がなったのは、ベータ版でも、一回のみ。
強制テレポートの時。
「ねえ、これなんの鐘?」
「強制テレポートだな。後少しでテレポートするぞ」
「ふーん、なんで?」
「知るか。というかこっちが聞きたい」
流石に配信してから、一日目で不具合発見は無いと思うが。
そんなことを話していると、俺達を青い光が包んだ。
「ちょっと、これなに?!」
「強制テレポートだから、慌てるな」
青い光に包まれて、視界に何も映らなくなる。
テレポートの理由はよくわからないが、なにか嫌な予感がした。
カズマ「とりあえず、一話目が終わったな」
キリト「俺、一応主人公だよな。出番無かったんだが」
カズマ「そういえば、作者がキリトの出番は当分は無いってい言ってた気がするが」
キリト「嘘だろ!」