朝の光が窓から差し込んでくる。
引きこもりをしていた時には、そろそろ寝始める時間だが、昨日は夜の内に寝た。
ウインドウを開いて、時刻を確認すると、九時だった。
こんな時間に起きるのは久しぶりだろうと思いながら、体を起こす。
辺りを見回すと、木で出来た壁、布で覆われた窓、ふかふかの藁。
そう、馬小屋である。
何故ここに寝ているかと言うと、理由は二つある。
あの後、喫茶店を出た俺達は、今日泊まる宿を探すために、街を歩いていたが、この街は一万人近くの人間がいるのだ。
当然、宿もいい部屋から埋まっていく。
設備がいいところ、店に近いところ、そして、安いところだ。
ゲームクリアまで、この街で暮らすことを決めた人は、当然、所持金を長く保たせるために安いところを選ぶ。
その結果、安い宿はどんどん埋まっていき、俺達のように懐が寂しいプレイヤーは路地や馬小屋で寝るしかないのだ。
座った状態のまま、溜め息をつく。
そして、隣を見ると、
「ぐがーーー」
女が寝ていた。
いや、俺が連れ込んだわけじゃねえからな。
こいつの名はアクア。
昨日から行動を共にしている、友人?いや、知り合いだ。
見た目は、かなりの美少女で、普通なら惚れるかもしれないが、こいつは中身があれだ。
昨日も、馬鹿っぷりを散々見せつけてくれたし、寝てる時も、腹を出して、まるでおっさんのようだ。
「くしゅん」
アクアが、くしゃみをする。
SAOには風邪などのバッドステータスはないはずだが、寒いとくしゃみは出るらしい。
今のくしゃみで起きたアクアが、目をこすりながら上体を起こす。
「あ、おはよーうカズマー」
「おはよーじゃねえ。昨日はお前が寄り道したせいでここに泊まることになったんだぞ」
そう、俺がここに寝てる理由がこいつだ。
喫茶店を出た後も、アクアがその辺の気になる店に興味を持ちすぎて、三歩歩けばすぐに寄り道をする。
それを数十回も繰り返した結果、泊まる宿がなくなったのだ。
「そんなこといわれても、どうせお金無かったんだから、いいじゃない」
「その金も、お前がまともなクエスト受けてれば稼げてたんだけどな」
「でも、刀がてにはいったからよかったじゃない」
「まあ、そうだな。よし、今日から頑張るか」
俺がそう言うと、アクアが立ち上がり、
「任せて頂戴。この女神アクア様なら楽勝よ!」
女神ってなんだよ、と苦笑しながら、俺は外に出るために立ち上がった。
時刻は昼過ぎ。
温かな光が太陽から降り注ぎ、植物達も喜ぶ時間帯。
街から少し離れた草原を、
「いやあああああああ」
「うわあああああああ」
悲鳴を上げながら走っていく男女二名。
俺達だ。
その後ろには、十を超える狼が。
狼達は今にもこちらに飛びついてきそうな、血走った目をして、俺達を追いかけてくる。
「か、カズマさん。なんとかしてー!」
「む、無茶言うな。お前がこんなに引っ張ってくるのが悪いんだろ!」
ダッシュしながら、後ろにピックを投げる。
それが狼の足に当たり、一匹少なくなるが、それでも焼け石に水だ。
「ちくしょう。なんでこんなことに」
遡ること数分前。
俺が、近づいてくるワームを切っていると、
「ほらほら、殺されたくなかったらアクア様ごめんなさいをいいなさい」
近くの草原で、アクアが狼相手にそんなことをやっていた。
どうやら、攻撃が当たってHPを減らしたから調子に乗っているようだが。
アクアの前の狼は、アクアを威嚇していたが、突然お座りをする。
「いい子ね。そのまま私に頭を下げて」
と、アクアが言った途端、
「アオーン!」
狼が遠吠えを始めた。
そういえば聞いたことがある。
狼はHPが少なくなると、遠吠えを始める。
その遠吠えで、そのエリア内にいる狼が全員集まってくると。
俺はそんなアクアを見て、ついさっき覚えたスキル、《索敵》を使用した。
索敵を使うと、範囲内にモンスターが近づいてきてるか分かる。
索敵スキルによると、どんどんこっちにモンスターが近づいてきており、
「おい、アクア!早く逃げるぞ!」
「待ってカズマ。この子に芸を...って、痛い痛い」
アクアが目の前の狼に噛みつかれる。
「そいつのせいで、他の狼も集まってきてるんだよ!わかったらさっさと」
そこまで、言って俺はあるものを見つけた。
それは遠くに見える土埃。
十を超える狼の群れだった。
「えっ、あれなに?」
アクアも土埃に気づく。
「狼の群れだよ!いいからさっさと逃げろ!」
「あっ、ちょっと待って!」
俺達は遠くからやってくる狼から逃げた。
そして、今に至る。
俺達と後ろの狼との距離は、すでに十メートルぐらいになっている。
「カズマさん。もう疲れたー」
「馬鹿!止まったら死ぬぞ!」
俺もそう言うが、先ほどから周りのモンスターも合流して、どんどん数が増えている。
街まではまだあるし、このままでは。
俺は走るのをやめて振り返る。
「アクア。このままじゃジリ貧だ。だからここで迎えうつぞ」
「えっ!嘘よね?」
アクアがこちらを振り返るが、俺の行動を見て、嘘じゃないとわかる。
アクアは一瞬考えて、
「う、もう一か八かよ!」
槍を握りなおして構えた。
俺も腰の刀を抜き、構える。
「かかってこいやー!」
目の前から大量の狼が飛びついてきた。
俺はソードスキルを発動させる。
刀だが、一応片手剣に分類されるため、片手剣のソードスキルが使える。
《ホリゾンタル》で横なぎを繰り出し、射程に入る敵をノックバックさせる。
しかし、横の敵は防ぎきれず、スキルの反動で後退することで、掠るだけだった。
「てやあああああああ!来ないでー!」
ちらりと、アクアの方を見ると、槍を振り回しまくってるおかげで、狼が近づけないようだ。
ひとまず、安堵しつつ、狼に向き直る。
真ん中辺りの敵はHPを三分の一まで減らしているが、両側は無傷だ。
軽く舌打ちしながら、飛びついてくる狼を剣で受け流す。
そんな戦闘をどれくらい続けただろうか。
二十に近い数の狼は、六匹に減り、かなり順調だ。
このまま終わってくれればいいが。
そんな内心の心配が、フラグの神様に聞こえたのだろうか。
「そりゃ!」
アクアの槍によって弾かれた狼がこちらに飛んでくる。
もちろん防ぎきれず、俺は地面に倒された。
「ガルルル」
狼達がこちらに滲みよってくる。
この数に攻撃をくらい続ければ、俺のHPは間違いなく吹き飛ぶ。
「アクアー!助けてくれー!」
アクアに助けを求めるが、
「カズマ、こっちは無理だからなんとかしなさい!」
あっちはあっちで忙しそうだ。
俺は増援には期待出来ないと思い、懸命に刀を振り回すが、
「ガルッ!」
「ああっ!」
狼に弾かれてしまい、俺の手の届かないところに。
他の狼達によって、減っていくHPを見ながら、
「助けてくれー!」
と、俺は叫んだ。
すると、
「お待たせしました!」
という声が聞こえた。
声の方向を見ると、丘の上の、黒いマントを羽織り、眼帯を付けた少女が、巨大な斧を持って立っていた。
少女は巨大な斧を持っているとは思えないスピードで疾走し、
「はあああああ!」
俺の周りの狼のHPを一撃で消し飛ばした。
そして、こちらを向いて、
「この私が来たからにはもう安心です。こんな獣風情、この私が消し飛ばして見せましょう!」
と、宣言した。
しかし、丈の短いスカートを履いているせいで、あるが丸見えなのは黙っておこう。
そんなことはつゆ知らずの、少女は、アクアの方に駆けていき、そこの狼も全滅させた。
「ふう、助かったわ」
「いえ、当然のことをしたまでですよ」
ふっ、と笑いながら言う少女。
か、かっこいい!
俺は回復ポーションを飲みながら立ち上がる。
「いやあ、助かったよ。君が来なかったら危なかった」
「いえいえ、おいしいところを頂くという、本能に従ったまでですよ」
「おお、かっこいい!」
「カズマ、女の子にそのほめ言葉はないとと思うわ」
おっと、確かにそうだ。
「いえ、私の先ほどの活躍を見ればその言葉が出るのは当たり前でしょう」
「ま、眩しすぎるわ」
アクアが神々しいものを見るように、少女を見る。
その反応に満足したのか、マントを翻し、
「では、私はこれにて。私を呼んでいる声がしますから」
俺達の前から立ち去っていく。
それを見たアクアが、
「あの、せめてお名前だけでも」
と、声をかけた。
ふむ、普通はお礼をさせてくださいって、言うんだけどな。
その声を聞いた少女は、こちらを振り返り、
「我が名はめぐみん。バーサーカーの称号を持ち、最強の攻撃力を持つ両手斧を操るもの。そして、やがてはこの世界を解放するもの!」
中二感溢れる名乗りをした。
普通なら、ちょっと引くところだが、ここがゲームの中だからか、かっこいいと思ってしまった。
そんなことを考えていた俺はあることに気づいた。
「めぐみん、危ない!」
名乗りを終えためぐみんの後ろに、一匹のワームがいた。
それに気づいためぐみんが、ステップでかわすが、掠り傷を食らう。
だが、最強の攻撃力を誇る両手斧がワームを襲い、
ーーバタッ
はしなかった。
掠り傷をくらっためぐみんはHPを、三割も減らして、倒れてしまった。
俺は慌てて駆け寄り、ワームを倒す。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。危ないところでした」
「掠り傷しか食らってなかったみたいだけど」
あの両手斧を軽々と扱っていたのだから、相当の高レベルのはずだが。
「はは、私は攻撃力にステータスを全フリしてますから。HPはレベルアップで少し上がってるだけですよ」
「は?」
こいつは何を言ってるのだろうか。
「スキルも、防御系は一切取っていませんし、両手斧の威力上昇や、攻撃力アップしか取る気はありません」
「つまり?」
「防御は紙同然です」
使えな!
掠り傷受けただけでそれとか、終わってるよ。
「えーと、防御系スキル取ったり、体力にステフリしたりは?」
「しません。私は両手斧を取るために筋力のステータスを上げ、攻撃力を上げるために攻撃力上昇のスキル取ったりしか道はありません」
「いや、馬鹿かよ!というか、なんでそんなに両手斧にこだわるんだ?」
俺の質問にめぐみんはフッと笑い、
「私はあの力に一目惚れしてしまったのです。あの、圧倒的な攻撃力!そして、全てをなぎ倒す力!そう、私は両手斧しか取ることは無い。だって私は両手斧しか愛せないのだから!」
大声でそう宣言した。
すると、今までおとなしくしていたアクアが、
「素晴らしい、素晴らしいわ!あなたのその両手斧への愛。私は素晴らしいと思うわ!」
といって、めぐみんを誉める。
ああー、こいつ駄目な奴だ。
アクアと共感してる時点でわかるが、駄目な奴だ。
「そっかー。茨の道だろうけど頑張れよ。いいパーティメンバーに恵まれるといいな」
俺のその言葉にめぐみんは、ハッと思いついたように言った。
「そうです。私とパーティを組んでくれませんか?」
え?
「いいわね。カズマも大賛成でしょ?」
アクアがさも当然のように言う。
俺はもちろん、
「チョー断る」
「「え?」」
「だって、紙装甲のアタッカーっていらないじゃん。ボス戦とかで掠り傷食らったら即死だよ?」
「うっ」
めぐみんが、痛いとこをつかれた用に言う。
「ちょっとカズマ。なんで断るのよ」
「なんでって、さっき言った通りだよ」
「かずま、でいいですか?ちょっと耳寄せてください」
俺はめぐみんの指示通り耳を寄せる。
「私をパーティに入れないでいいんですか?」
「ああ、もちろん」
「うっ、即答ですか。でも、私がこのままソロの場合、いつ死ぬかわかりませんよ?」
「うっ」
確かに、こいつがソロ活動を続けた場合、命を散らす日は近いだろう。
「カズマも、言葉を交わしたことのある人間が死んだら目覚めが悪いでしょう?」
「むむむ」
「なら、ここで私を拾っておくべきですよ。大丈夫です。攻撃を受ける前にモンスターは倒せますから」
そこまで話して、めぐみんは俺から離れた。
むむむ、こいつ、賢い。
俺に話しためぐみんは、何事もなかったように、
「で、どうするんですか?」
と、聞いてきた。
さすがにさっきの話を聞いた後だと、断りづらい。
俺はしばし考えてから、
「わかった」
と、答えた。
その言葉を聞いためぐみんはウィンドウを操作し、パーティ申請のメールを送ってきた。
俺はそのメールのOKボタンを押す。
それに満足したのか、満面の笑みでこちらを見て、
「それではこれからよろしくお願いしますね」
と言った。
その時の顔は、年相応の笑みで、俺は思わず、
「可愛い」
と言ってしまった。
それを聞いためぐみんは顔を赤くして答えた。
「あ、ありがとうございます」
「.......」
「.......」
お互い無言になる。
しばし、静寂が続けたが、やっぱりあいつが、
「ねえ、二人共。私のこと忘れてない?」
「あ、忘れてたわ。よし、帰ろうぜ」
「そうですね」
「なんでよー!」
確実に問題児が増えていってる気がするが、俺達のデスゲームはまだまだ続いていく。
アクア「そういえば。私、パーティ入ってないんですけど」
めぐみん「えっ?そんなはずは......あ」
カズマ「すまんアクア。忘れてたわ」
アクア「なんでいつもこうなのよー!」