「うーーん」
もうすっかり集合場所になった酒場で、メニュー画面を見ながら、俺はそんな唸り声をあげた。
その前には、椅子の上だというのに、器用に正座している三人の仲間達。
俺はそれから数秒ほど唸ってから、
「はぁ」
と、ここ数日で何度目かわからない溜め息を吐いた。
俺は目の前の仲間を見ながら喋り始める。
「それじゃあ話をしようか。言いたいことがある人」
一番右端に座ってるアクアが手を上げる。
俺が、喋るように促すと、
「えっとね、あれは私が大通りのカフェの近くを通った時なんだけど、その時そこに置いてあったエール酒が、どうしても飲みたくなったのよ。いや、駄目かなっては思ったのよ、でも」
「それで、飲んだのか?」
「.........」
途端に無言になるアクア。
俺が目線で圧を掛けると、
「飲みました.....」
と、自白した。
「それで?」
「それの持ち主が、私が飲んでいたのを見つけて、弁償しろって言ってきたの。でも、お金がなかったから」
俺はアクアのその反応を見て、ウインドウからクエスト受注欄を見せる。
「このクエストを受けたのか?」
「はい」
俺は二回目の溜め息を吐いて、クエストを見る。
『山の頂上に住み着いている、巨大ゴーレムの討伐。
報酬 五万コル 』
うん、無理ゲー。
めぐみんの、両手斧の火力を使いまくっても、勝てるかどうかでは定かではない。
俺は本日三度目の溜め息をつく。
「アクア」
「は、はい!」
「弁償代はやるから、クエスト取り消してこい」
「ありがとねカズマさん!」
俺の言葉に、表情をパァっと輝かせたアクアは、走って店の外に出て行く。
一つ目の問題を片付けた俺は、次の問題に向き直る。
「はい、次」
今度はめぐみんが手を上げる。
「えっとですね。これは昨日の事で、私が大通りを歩いていると、隣を歩いている人に肩が当たったのです」
「ふむ、それで?」
「そしたら、肩が当たっただけで、その人が痛がりだして、慰謝料としてちょっと付き合えって言われたのです」
つまり、チンピラが絡んできて、そいつがめぐみんみたいなのが好きな、
「それで、その隣にいた人が、お前ロリコンかよって言ったのです。私を馬鹿にしたってことは、殴られても文句は言えませんよね」
「ようするに、お前は暴動を起こしたが、反省はしてないと」
「はい、私は悪くありません。私を馬鹿にしたあの人達が悪いのです」
「........」
俺は無言で、めぐみんの頬をつねる。
それを見たダクネスが、なぜかもじもじしている。
「はい、次ダクネス。お前は何をやらかした?」
「おい、私の頬をつねりながら話を進めるのはやめてもらおうか」
「その、だな」
と、ダクネスが喋ろうとした瞬間、
「あ、ここにいたんだねダクネス!」
銀髪の少年が、酒場に入ってきた。
「久しぶりだね、元気にし、て.......何してるの?」
少年は、正座させられているダクネスを見て、段々声のボリュームを落としていく。
「クリス、取り込み中だからもうちょっと待ってくれ。後少しで、きつい罰を受けられそうだから」
「お前そう思ってたからさっきからもじもじしてたのか!」
それを聞いたクリスは、あははと笑いながら、
「ごめん、どんな状況か全然わかんない」
と、言った。
俺だってなんでこうなったのかわからない。
「おい、だから私の頬をつねるのはやめてもらおうか!」
「はじめまして。私はクリス。一応盗賊やってるよ」
自己紹介をするクリス。
確かに格好は、かなり薄着で、盗賊に見えなくないが。
俺はクリスのある部分を見て、最初に思った疑問にけりをつける。
そして、クリスに言った。
「女でボクっ子は可愛いと思うけど、男で私だとちょっと気持ち悪いかな」
それを聞いたクリスは口を開けたままフリーズする。
そして、何故か俯いていく。
「おい、クリス大丈夫か?」
「......だよ」
クリスが小声で何かを言っている。
「なんて?」
俺が、聞き取れなかったため、もう一度聞くと、クリスが答えた。
「私、女だよ」
「え?」
クリスがそう言った途端、時が止まった。
さっきまで、クリスを宥めていたダクネスも。
眼帯を伸ばして遊んでいためぐみんも。
誰もが止まった。
止まった時間に耐えられなくなったのか、クリスが、
「うわあああああーーーーん」
大泣きし始めた。
「く、クリスとりあえず落ち着け。カズマも、早く謝れ!」
「カズマ、さすがにさっきのはひどいですよ。きちんと謝るべきです」
俺は、全員からの責めの言葉に、椅子から立ち上がると、床に座り、
「本当にすいませんでしたー!」
必死の土下座を敢行した。
すると、
「ニャハハハハハ」
と、何もない空間から、笑い声がした。
俺たちがそちらを向くと、何もなかったはずの空間は波のように揺らいでいき、そこから金色の巻き毛の少女が現れた。
「クーちゃんに付いて来てみたら意外といいモンが見れタナ。これはいくらで売れるカナ?」
金髪の少女は、こちら側に、歩いて来ながらも、その笑い声を止めず、俺の座っていたところに座った。
「まっタク、友達のよしみで忠告しておくケド、クーちゃんを怒らせると怖いゾ?」
ニャハハと笑いながら、言う少女。
俺は土下座の姿勢から、起き上がり、少女の方を向く。
ボロボロの外套を羽織った少女は、金髪の巻き毛もかなり特徴的だが、頬に付いている髭がもっと特徴的だ。
さらに、俺をあの名前で呼ぶ奴は、一人ししかいない。
俺の思考がそこまでいったのに気づいているのか、いいないのか。
髭を付けた少女が、特徴的な自己紹介をした。
「製品版でははじめましてダナ。オネーサンは最近話題の情報屋、鼠のアルゴ。久しぶりダナ、カー坊」
俺達は、六人用のボックス席に座って、話をする事にした。
こちらの席には、俺とめぐみん。
向かいの席には、ダクネスととアルゴとクリス。
アクアは未だに帰ってきてない。
「で、最近話題の情報屋がなんでここに?」
俺の質問に答えたのはクリスだった。
「いや、私がダクネスに会いに行くって言ったら、アルゴも付いてくるって言って」
「てことは、お前らパーティ組んでるのか?」
「それはちょっと違うナ、カー坊。オネーサンとクーちゃんは、情報屋とその助手みたいなものだからナ」
「クリスが助手か。助手って具体的にはどんなことするんだ?」
俺の質問にクリスはアハハと笑って、
「助手って言っても、警戒されないように情報集めたり、効率のいい情報収集の手伝いぐらいだけどね」
「まあ、オネーサンみたいに有名な情報屋になるト、助手の一人や二人はいてもおかしくないからナ」
「えっ、それってつまり、アルゴがいないからって安心しても駄目ってことか?」
「ニャハハ、そうダナ。どこに逃げてもオレっちの魔の手からは逃げられないんだゼ」
わざわざ口調を変えて、怖がらせようとするアルゴ。
すごく怖いので、やめてください。
「そういえば、二人はどこで知り合ったのですか?」
めぐみんが、疑問に思ったようで聞いてくる。
それに関しては、あまり答えたくないのだが。
そんな俺の事情もつゆ知らずのアルゴは、
「そうだナ。この情報はこれぐらいダナ」
と言って、広げた手を出す。
しかし、めぐみんは意味がわからなかったようで、キョトンとしている。
「アレ?ひょっとしてわからなかったかナ?」
「はい、一体どういう意味ですか?」
と、困惑気味のめぐみんを見て、俺は溜め息をつく。
「こいつが言いたいのは、五百コル払えば情報を教えるってことだ」
「え、情報教えるのに金取るのですか!」
「当たり前じゃないカ、めーちゃん。情報屋なんだから情報で商売しないトナ」
「な、なんてあくどって、今私のことなんて言いました?」
「めーちゃんって言ったケド、どうかしタカ?」
さも当然のように言うアルゴ。
「いやいや、なんで私の名前知ってるんですか?」
「え、それはダナ」
「おい、アルゴ。こっち来い」
アルゴを店の端に呼ぶ。
俺の手に握られているのは、五百コル硬貨で、一見アルゴを買収してるように見えるが、
「で、なんダ、カー坊」
俺はアルゴに五百コル硬貨を渡す。
買収してるように見えるんじゃない、してるのだ。
「これだけ渡すから、あの情報は喋るな」
「ニャハハ、それはいいケド、向こうがそれ以上を出してきたら」
「その上を出す」
「即答とは、いっそ清々しいナ」
話が終わると、俺達はテーブルに戻る。
「なんの話をしてたのですか?」
「いや、なんでも。というか、アクアが遅いな。探しにいくか」
立ち上がろうとした俺の手をめぐみんが掴む。
「なに逃げようとしてるんですか?話は終わってませんよ」
と、感情のこもってない笑顔で言うめぐみん。
そして、その笑顔のままアルゴに向き直る。
「アルゴ」
「な、なにカナ?」
「確か、情報屋は情報を売ってくれるのでしたよね?」
「そうダナ」
「なら、先ほどカズマと何を話してたかの情報を買います。いくらですか?」
そのめぐみんの言葉に俺の背筋は、凍りついた。
いつもは飄々とした態度を取っているアルゴも、今のめぐみんの迫力に気圧されているようだ。
「そ、そうだな。口止め料も含めて、千コルだよ」
おい、アルゴ口調が戻ってるぞ。
「わかりました。これでいいですか?」
といって、千コルをオブジェクト化させる。
その千コルを指で摘まむと、ホッと息を吐く。
しかし、
「おい、アルゴ。解放されるために教えようとするんじゃねえ。千百コル出す」
俺は、千百コルをオブジェクト化させ、アルゴの前に置く。
「か、カー坊、おいらは話した方がいいと思うんダガ」
「誰が話せるかー!めぐみんの追加が無いならこれで」
「聞き出すまで続けますからね。千二百コル」
「こっちも絶対はなさせないからな。千三百コル」
「く、クーちゃん、この二人こ怖いんだケド!」
と、アルゴがクリスに助けを求めるが、
「あはは、今までの行いの報いが来たんだろうからあきらめなよ」
「クーちゃん、薄情ダヨ!」
場がどんどんカオスになっていく中、
「私はどうすればいいのだろうか........」
と、ダクネスがつぶやいた。
「まったく、金のために仲間を売るとは最低です」
酒場からの帰り道の途中、めぐみんが言ってきた。
結局、アクアに金を渡した俺の方が先に折れ、アルゴに情報を喋らせてしまった。
その情報とは、俺がアルゴにめぐみん達の情報を売ったことで、その後、正座させられて説教された。
まあ、アルゴは一つの情報でかなり儲けたと、ホクホク顔だったが。
「まあ、めぐみんもそのぐらいにしておいてやれ。あれぐらいの情報、遅かれ早かれ広まったのだから」
ダクネスが不機嫌なめぐみんを宥める。
「それに、良いことも言っていたぞ。めぐみんは攻撃力だけなら、最強だと」
「それも、筋肉馬鹿の称号付きでしたけどね」
と、めぐみんが溜め息を吐く。
「今回は許しますけど、次したら体を八つ裂きにしますからね」
「は、はい。気をつけます」
こんな会話をしながら、俺はこんなに日常もいいかなと思っていた。
みんなと馬鹿なことで話しあったり、変なことして怒られたり、後は、厄介事にさえ巻き込まれないならいいのだが、
「あれはアクアじゃないですか?」
遠くを見ると、青色の髪をした女がこちらに走ってくる。
アクアは俺達を見つけると、こちらに全速力で駆け寄ってきて、
「大変よ。私、ストーカーされてるの!」
と言った。
ああ、厄介事に巻き込まれないならいいのにな。
キリト「俺、本当に主人公だよな?」
アルゴ「まあ、そうだナ」
キリト「普通は俺が最初に出ると思うんだけど」
アルゴ「この頃のキー坊は、ぼっちだったらしいゾ」
キリト「ぼっちじゃないよ!」