皆さん、暖かく過ごしてください? 今年は特に寒暖差が激しく感じます…体調を崩さないように、ね?
さて、まさかの幕間。3.5です。せっかく良いそz…ん”ん失礼。気合の入ったボイスがあるのだから、入れないと逆に怒られちゃいますよね。
遂にあの御方たちが登場します。かつての遊撃部隊の再編成、そして時雨ちゃん、満潮ちゃんの思いとは?
彼女たちは地獄を抜けきることが出来るのか!
どうなる秋イベント!? では、どうぞ!
…ちょっと冗長し過ぎた?
- 敗北。
この言葉に、どれだけの「重み」があるだろうか
イノチより重い、ものであろうか
…そんな纏まりのつかない考えを、私はぐるぐると考えていた。
この国は最早、風前の灯であった。
世界という包囲網をもってしても、彼らは「大和魂の見せ所」などと言うのだ。
別に、非難する訳ではない。
ただ…それは正義という名の「盲目」ではないのか…そうは思った。
だが、それを分かっていたとしても、その大きな流れは、既に止められない所まで来てしまった。
敗戦に敗戦を重ねた結果、遂に自国の危機を招いてしまった我が軍は、最後の戦、と言わんばかりに嬉々として全勢力を投入しようとしていた。
そんな足掻きを見せたところで、私たちは助かるわけがない…だって、私はもう拠り所を「失って」いるのだから。
私だけじゃない。隣に数珠つなぎに並べられている「仲間たち」も、姉妹、或いは戦友を喪失している。
生き残った私たちに待っているのは、練度もクソもない「寄せ集め」部隊による防衛…ただの絶望だった。
それでも、自我を保つため。怒りで我を忘れてしまわないため…私はいつものように、こう言うんだ。
「…ったく、なんで私が「こんな部隊」に」
自分でも意地張りだとは思うが、それでも「私」にはこんな言葉しか思いつかなかった。
…姉さんなら、妹たちなら、何と言うだろうか?
そんなことを考えていると、横から声を掛けられている「ような」気がした…
「…あ、満潮。お疲れさま」
「時雨? アンタ何でこんな所にいるの? …まさか同じ部隊に?!」
先程から言っている「部隊」とは、重要拠点を守るため編成された遊撃部隊…ニンゲンたちは「西村艦隊」と呼んでいた。
…もっとも、遊撃と銘打っているが、実際は程の良い特攻部隊なのだろうが。いや、私が言いたいのはそうではない。
時雨…日本海軍で知らぬものはいないであろう武勲艦。あの雪風と並び称される強運艦。
そんな彼女が、何故こんなところに? 時雨ほどのモノなら「栗田」辺りに編成されると思っていたのだが?
「そうみたいだね? …「第一遊撃部隊、第三部隊」……ここが、そうなんだね?」
「…時雨? アンタどうしたの?」
時雨は普段から少し落ち着いているが、今日は少し「影」があった。
「…ううん、なんでもない。雨に当たったせい、かな? あはは…」
…ああ、そうか。
彼女も同じなんだ、今の私の心境と。
いや、それは失礼か? 彼女は私以上に姉妹や仲間を失っているはず。…報われないのは、どこも同じか
「…元気、出しなさい」
「…え?」
「ああもう! 何回も言わせないで!! とにかく、今日からよろしくね!」
怒り気味に、投げやり気味に、私は不器用ながら彼女を「励まそうと」していた。
「…ははっ」
「ふんっ!」
彼女の少し安堵した声を聞くと、私は意固地になりながら嬉しく思った。
…その後、私たちはあの「地獄」へと赴くことになる。
それが、私とアイツの今生の別れとなってしまうことを、この時、私は…私たちは知らなかった。
・・・・・
「ん……?」
すっかり真冬の気温になってしまった寒空の下、彼女…「満潮」は立ち尽くしていた。
最後の演習の帰り…自主練習のつもりだったが、神通が教導艦を買って出てくれた。
そんな彼女の格好は、かつての死地へ赴いた頃を思い出す衣装…決戦に相応しい勇ましさを感じるものであった。
「………」
彼女は過去の自分を反芻しながら、曇天の空を見上げている。
泊地の玄関前で背中をもたれていると、彼女に近づく影が
「いよぉー! 奇遇だねぇ、みっちー」
「……」
現れたのは「江風」。チラリと見るやすぐに視線を逸らしてしまう。
「…おいおい、無視はないンじゃねーかい?」
「何?」
面倒くさそうに短く用件を聞くと、江風が両手に握られたものを差し出す。
「寒いだろ? ホットコーヒー。ブラックで良いか?」
アツアツのホット缶コーヒー。江風が持って来た片方を、彼女は受け取る。
「…ふー、ふー」
缶コーヒーを開けて、飲み口からの熱気を口で冷ます。口をつけると…
「…あちっ!?」
「ン? お前さン猫舌なの?」
「うるさい! …ふー! ふー!!」
ムキになり、意地でもホットを冷まそうとする。
そういうとこは改二になっても変わンないのな? と思いながら満潮の隣にもたれる江風。
「あー寒いねぇ〜? お前さン演習帰りかい? よくやるねー?」
「…そういうアンタは?」
「アタシ? まー暇させてもらってるけどン?」
缶コーヒーに口をつけながら「コイツ馬鹿じゃねぇか?」と思っているだろう目で見つめる満潮。
「…その目は酷いンじゃね?」
「そんな言い草だからよ」
「いやいや、ちゃンと緊急時に備えてダネ?」
「はいはい」
「ふぃー弁解の余地なし! アタシゃ悲しいよぉ」
独特の間合いで話し合う二人。コーヒーで身体を温めながら、満潮は改めて江風に用件を伺う。
「…アタシ、お前さンの演習、影から見させてもらったンだわ?」
「…そう」
「ンでさ? 神通さンに教えてもらったっていうこともあるだろうけどね? ちょっち…「突っ込み過ぎ」じゃないかい?」
核心を突く江風。満潮は驚きはせずに、一言。
「…そう? 全然気づかなかったわ? 私は突入訓練のつもりだったんだけど?」
これから行われる彼女たちの一大作戦…「レイテ突入」において、彼女がやっていることは、決して無駄ではない。
だが、江風からしてそれは突入というより
「こう…死にに行くような?」
「……」
「ああ、黙ったネ? アタシゃ気づいたンだけどサ、アンタ饒舌になると取り繕ってるよネ? 今だンまりしてるアンタが「素」で、つまりやましーこと隠してる。だロ?」
「よく喋るわね?」
「やはは、一番の姉貴がアレじゃね?」
一呼吸置いて、満潮が回答する。
「仮にそうだとしても、アンタに何の関係があるの?」
「いや、ただのお節介さ? アンタたちの目的が「生きて帰ること」なら尚更さ」
「そう、良いご身分ね? まあ、ありがとう」
皮肉を言いつつ礼を言う満潮に対し、江風はそれを真摯に受け止め、こう返した。
「…なぁ満潮、お前さン何がしたいンだい?」
「………」
「アンタ、生きて帰りたいンじゃないのかい? あの地獄だっつってた海域を、アンタら全員で突破するンじゃないのかい?」
「勘違いしないで」
真っ直ぐ江風を見つめる満潮。
「…私は死ぬつもりなんてない。私は…守りたいだけ」
「…そっか」
その瞳の中にある思いを見た江風は、それ以上その件について、何を言うこともなかった。
「なあ、もひとついいか?」
「何よ?」
「お前さン、時雨の姉貴のことどう…」
「満潮?」
と、二人の会話に入るように、ある人物が歩み寄って来た。
・・・・・
「時雨? こんなところにいたの?」
泊地の隅にある廊下の窓から、曇り空の景色をぼうと眺めていた時雨。
彼女に話しかけてきたのは、彼女と同じく西村艦隊の一人、扶桑型戦艦姉妹の長女「扶桑」。
どこか儚げな印象だが、その実芯が強く、西村艦隊の一員としてメンバーを引っ張っている。
「扶桑…」
「提督がお呼びですよ? とうとうE3の任務を完遂したみたい」
「そうか…なら、僕たちの出番だね?」
「ええ、遂にこの時がやって来たわ。私たち、西村艦隊の大舞台…そして、越えるべき壁を乗り越えていく時が」
扶桑はどこか誇らしげに言う。それを聞いた時雨はその顔に陰を作り
「…扶桑、気をつけて? 大舞台だけど、油断は全然出来ないんだ。僕も…僕も、全力で守るから」
「時雨…」
扶桑は時雨を心配してか、普段より少し明るく振る舞い、朗らかに笑いながら言う。
「時雨? 大丈夫よ。私達、第三部隊「西村艦隊」、七隻!一緒にスリガオ海峡を抜けましょう!…今度こそ!」
「…そうだね? ありがとう、扶桑」
「いいのよ? ふふ…良かった」
扶桑は安堵すると、時雨の手を引いて提督の元へ行く。
…だが時雨の瞳には、まだ暗雲が立ちこもっていた。
(…そうじゃない、扶桑……「そうじゃない」んだ………)
・・・・・
「…山城?」
満潮と江風の前に現れたのは、同じく扶桑型姉妹の次女「山城」
姉である扶桑をこよなく愛し、顔は姉と瓜二つだが性格はどこか勝気である。
しかし史実の不遇のためか、事あるごとにネガティブ発言を繰り返していた。
「アンタが呼びに来るなんて、珍しいじゃない? しかも扶桑なしで、一人で」
「…ふん、改二になって素直になったって聞いたけど、そういう生意気な口は変わらないのね?」
「そうね、アンタも大切な仲間よ? 不幸女?」
「好きで不幸になったわけじゃないから!? ったく、不幸だわ…」
山城は扶桑と同様、来るべき決戦に備えて、西村艦隊の招集をかけていた。
「時雨とアンタ以外は、もう提督のところに集まってるわ。抜錨前に皆に激励したいんですって?」
「…そう」
「満潮、これからは何が起こるか分からないわ。それでも」
「そうね? 役目はしっかり果たさせてもらうわ」
「そう? …じゃあ、小さいのは任せたわ」
「ええ、でも…「夜戦」は私たちの領分だから、大物も狙っていくわ。アンタたちの出番はないかも…ね?」
「…ふふ、ホント生意気ね? …姉様を、守ってね?」
「アンタこそ、不意打ち食らってやられないようにね?」
「努力するわ」
そう言う山城は、くるりと背中を向けて、一言。
「…ホント、不幸だわ」
恨み節に聞こえるが、その声色は晴れやかで、そして顔もにこやかな笑顔であったという…
「やれやれ、ゆっくり話してる場合じゃないみたいだねぇ?」
「ええ、江風…ありがと? 話せて良かったわ」
「いいンだよ? それより…時雨の姉貴のこと、頼ンだぜ」
「誰に言ってるの? …もちろん、言われなくてもそのつもりよ」
「ヒヒッ、サンキュ!」
二人は握手を交わし、江風は満潮の健闘を祈った。
・・・・・
「皆ぁ集まったかよ?」
提督の前に、ズラリと並ぶ七隻の艦娘。
扶桑、山城、時雨、満潮、最上、朝雲、山雲。
かつての第一游撃部隊、その第三部隊である「西村艦隊」がここに集結した。
「まずは…いよいよやな、皆? オレなんかが言うたちなんちゃぁならんと思うけんど」
「そんなこと、ありませんよ? 提督…ありがとうございます」
「ああ扶桑。それに、山城も? 頑張りや! オマエらぁが今日まで猛特訓してきたっちゅうのは知っちゅうきにゃ?」
「…そういうの、わざわざ言わなくていいから? 気分が萎えるわ」
「もう山城? …すみません、提督。本当は山城も、嬉しいのですよ?」
「ね、ねえさま!? そ、そそそんなこと、んな、ナイシ!?」
「動揺しすぎよ…」
「ねー♪」
山城の分かりやすい態度に突っ込む朝雲と山雲。
提督は自然に静まるのを見計らうと、そのまま続ける。
「…オマエらぁにとってはこの戦いは、どんなモノかは分かっちょるつもりよ? でもな…なんぼ大切やからって、オマエらぁの命を投げ出してまでやることやとは、オレには到底思えん」
「提督…」
「オマエらぁの気持ちを汲まん言葉で、すまんにゃ? そんでも…上手く言えんけど、失敗しても、また戻って来ればえいき」
提督の言葉にならない感情を表した表現に、笑みを浮かべる西村艦隊一同。
「ありがとうございます、提督。ですが…これは私たちの、悲願でもあります」
「ええ。あの時の雪辱を晴らそうって、この作戦が決まってから皆で決めたんです」
扶桑姉妹が言うと、全員が頷く……時雨以外。
「ほうか…すまんにゃ、本当に、オレもしっかりとせんと」
「ううん! いいんだよ! それにボクたちは、提督がそう言ってくれるのが、何より嬉しいんだから!」
最上の力強い言葉に、一同は肯定の意を示す…時雨以外。
「…ありがとうにゃぁ? んじゃぁ…「西村艦隊、総力を挙げてスリガオ海峡突破を図れ。武運を祈る」…かや?」
「了解。二戦隊は、第一遊撃部隊、第三部隊旗艦戦力として、夜のスリガオ海峡を抜け、レイテ突入を目指します!」
扶桑の凛とした宣言と共に、西村艦隊一同は提督に向けて敬礼をする…時雨も渋々という具合に応じる。
…それを見た提督は、わざとらしく咳き込み
「ごっほん! あーすまん、急に時雨をモフモフしたくなってきたわ?」
「えー、何それ? やったらいいじゃない?」
「いやいや、二人っきりでにゃ?」
「あ〜エッチなことするんでしょお〜〜? ねぇ〜?」
「せんわや、こんな時に?! ほら、準備してきぃ?」
「…そうですね? 皆、行きましょう?」
扶桑に促されるままに、一同は時雨を残して提督執務室を出て行く。
「…提督」
「にゃぁ時雨? …こんなこと、今のオマエに言うたちいかん思うけんど?」
時雨の肩にポンと手を乗せ、真っ直ぐ彼女の顔を覗き込むように見る提督。
「…オマエの言葉やけど、えいか…どんな時も「止まない雨はない」。この戦いは、きっとオマエにとってえいもんになるはずや」
「………うん」
「うん、良し! 行ってきぃや!」
背中を押されるまま、時雨は執務室を後にする…力なくフラつきながら。
…入れ替わるように、満潮が入って来た。
「満潮?」
「司令官…時雨には、やっぱりアンタの言葉も届かなかったみたいね?」
「…おう、残念やけんどにゃぁ?」
「いいのよ? 別に責めてる訳じゃないわ。…ありがとう、アイツのこと、気にかけてくれて」
「えいわえ。オレの嫁やきにゃぁ?」
「そうね…まあ、カッコカリだけど?」
「わかっちゅうわや! …オレにはもったいないヤツよ」
「…そうね、でもそれはそれでアイツの力になってると思うわ…だからこそ、私はアイツを」
- 超えなきゃいけない。
「…満潮」
「アンタからもらった力、そしてアイツに元からある力。全ての力を出したアイツを超えなきゃ…私はアイツを救えない」
「それが、今のオマエのやるべきことながやな?」
「うん、だから…これは「決意表明」かな? 司令官…アンタを困らせるつもりはないけど、私もどうなるか分からない。だからこそ死ぬ気で…全身全霊で事に当たるつもりよ?」
「満潮…オマエ、そこまで」
「だから…どうかアイツを見守って? そして…助けてあげて?」
「分かった。任せちょき?」
満潮の思いに応え、優しげに返事する。
彼女たちの戦いの行方は、果たして…?
・・・・・
(…提督、満潮、皆も……頑張っているんだ。僕も……全てを出し切らないと)
(必ず送り届ける。例え……僕がどうなっても!)
「皆、準備は良いわね?」
「ボクは大丈夫!」
「私も!」
「ね〜?」
「………」
「…時雨、行ける?」
「…うん!」
「ふっ…頼りにしてるから?」
旗艦に山城を据え、第一遊撃部隊、第三部隊「西村艦隊」の編成は完了した。
(…西村中将。どうか…どうか、私たちの奮戦を見守りください)
副旗艦の扶桑の号令。
「行きましょう! スリガオ海峡を抜け、レイテに突入します!」
「了解です、姉様。私たち…第三部隊、"西村艦隊"の出撃よッ!!」
吼える山城。その気迫に押され、西村艦隊は加速しながらも前進する…
目指すは、彼女たちの因縁の地。
そこに待つのは、鬼か、地獄か………
〇宿毛泊地メモver.4
〇扶桑
扶桑型戦艦姉妹、一番艦。西村艦隊の一人で、同部隊のまとめ役をしている。
儚げで物静かな風貌だが、実際は誰よりも勇猛で芯が強い。
史実で「スリガオ海峡」を越えられなかったことを後悔しており、今作戦でその雪辱を晴らそうとしている。
〇山城
扶桑型戦艦姉妹、二番艦。西村艦隊の一人で、史実、今世共に同部隊で旗艦を務めている。
扶桑と瓜二つな顔立ち。だが性格は真逆で、勝気な態度の反面後ろ向きな言動が目立つ。
彼女なりの、今作戦に対する思いがあり、仲間たちと共に目的を達成しようとする。
― next e4
「進むんだからぁーーッ!!」
『過去ハ変エラレナイワ……』
「許さない……!」
「時雨ッ!?」
「私が守ってやるって言ってるの!」
to be continued…