これはゾンビですか?~いいえ、彼は黒の剣士です。 作:西じゃない東(斎藤 隆)
キリトside
あのあと、俺はアユム達と合流し(俺の姿を見たハルナが少しうるさかった。あと、アユムは少し俺の姿を見てびっくりしていた)アユムの家の居間でくつろいでいた。
俺は貫かれたあの傷をポーションで回復中だった。
(じわじわと治っていくんだなあ。でも回復結晶はあと二つしかないし我慢するしかないか)
と、疲れでやや散文的になっている俺の横で、アユムはユーに話そうとしていた。
心配でもしていたのかな、と軽い気持ちで耳と顔を(ユーが何を言ってるのか分からないから)傾けてみる。
そして驚いた。
アユムside
居間ではいつものようにユーがお茶を飲みながらバラエティ番組を見ている。
「今日は大丈夫だったか?」
首も動かさず、ちらりと目だけを動かして俺を確認すると、一つ頷いた。いつもと同じく、アゴを少し引くというくらいの小さな動きだ。和人が話しかけた時の方が若干動きが大きいような気がするが多分気のせいだろう。
ハルナは二階に上がってしまっている。セラはテーブルを挟んで俺の前に座り、和人は俺の横にいてテーブルに頬を預けている。
「ユー聞きたい事があるんだが?」
俺の言葉に呼応するように、ユーが体をこちらに向けた。俺の声は少し威圧的になっていたかもしれない。その証拠に、和人はテーブルに頬を預けるのをやめた。
でも、それを抑えるつもりはサラサラなかった。
「俺たちが出会った日、ユーは俺を助けてくれたんだよな?」
銀色の髪が揺れる。肯定。
「じゃあ、俺を助けたあと、俺が意識を取り戻すまで時間があったよな?その間何をしていたんだ?」
篭手に包まれた手がボールペンを強く握る。
「(歩の傍にいた)」=『お兄ちゃんと一緒にいたよ?』
可愛い妄想ユーの声も耳を通り過ぎていく。
「本当に?・・・・お前に家族を殺されたって情報を得たんだ。おかしいだろ?被害者の人間と、訳のわからない力を持った人間と、どっちの証言を信じる?ユー、頼むから真相を説明してくれ!」
今まで以上に、首を横に振った。嘘は吐(つ)いていないと主張しているのだろう。
「歩、少し口調が強すぎませんか?ヘルサイズ様は嘘を言うようなお人ではない」
セラが間を取り持とうとしてくる・・・が、和人は何故か腕を組んだまま目を瞑っている。
「そうだな、少し強く追求してしまった。それは謝るさ。・・・・・・すまんかった。
______じゃあセラ、お前が判断してくれ。被害者側の人間がユーの姿を指摘出切る理由はなんだ?
さあ、答えてくれよ。どっちの言葉に信憑性がある?」
「歩、少し落ち着いてください」
「俺は冷静だ。冷静に、真実を聞きたいんだ」
「(嘘は言ってない)」=『お兄ちゃん、信じてよ!』
「信じてやりたいさ。だから、そういう言葉じゃなくて、もっと簡単で確実な証拠はないのか?お前が人殺しをしていないっていう確証だ」
「アユム、」
すると、今まで黙っていた和人が声をかけてきた。
「何だ」
イライラしている俺はついその声にも刺々しくこたえてしまう。
「それは、俺の事も疑ってる・・・・っていうことでいいんだな?」
「なんでそうなるんだ」
「俺はユーと一緒にお前を運んだんだ。一度も目を離さなかった、ということはだ。ユーと一緒にいた俺の事も疑ってるってことでいいんだなと言ってるんだ」
「だけど、ただの人間のお前には無理だろう」
「今日の事を忘れたのか?屋根の上から屋根へと飛び移ってきただろ?それにセラとも戦って・・・勝ってる」
そういえば・・・そうだ。そう意識した瞬間に和人にも疑念がむくむくと頭をもちあげてきた。
「なら、お前なのか?俺を殺したのは?」
もう何がなんだか分からん。
「それを証明してやるよ。明日の夜に墓場に来い。魔装錬器も持ってだ」
「何をするつもりだ?」
そう聞くと少し自虐的に笑って、
「だから言っただろ?俺にお前が殺せるかどうかの証明だよ」
~次の日~
俺の今日の学校生活についてはほとんど覚えていない。
俺の前にいる、和人が今にでも教室で誰かを殺すのではないかという疑念が起こってくるのだ。
少し前ならそんな事まったく思わなかっただろうが、今は違う。和人のことを疑っているせいでそんな事を考えてしまう。
そして深夜。
あの墓場に来たそして、大きな木の下。クマッチを倒したすぐ近くに和人は座っていた。
「よ、来たな。なかなか時間は忠実に守るんだな」
「それはそうだろ、あんな事を言われて時間に遅れてこれるわけがないだろうが」
それはそうだな。と飄々とした感じでいる和人に、耐え切れなくなって
「さっさと始めようぜ」
「焦るなよ。よいしょっと」
そう言って和人は立ち上がった。黒一色のファンタジー世界でよく見られるような服を着た和人が構えるのはこれまた黒色の剣だ。
そして、背中にはなぜかセラの葉っぱの剣をしょっている。
「もういいぜ」
「俺をなめんなよ」
俺は魔装錬器を持って突撃をかけた。
「いきなり200%だ!」
しかし、その攻撃は片手で持った剣で防がれる。
まいったね、和人は手に全く力をこめてるような気配がない。本当にただ立ってるだけみたいだ。
「なんで変身しないんだ?」
「そんなの、使うまでもないからに決まってるだろ。魔力なんて毛ほども感じないんだそんな相手に変身するなんて・・・・」
「甘いな」
そういった瞬間和人の体から青色のとても鮮やかな魔力が間欠泉の如く流れ出した。
「毛ほども感じないだって?それは俺が魔力を限界まで抑えてたからだ。お前の察知能力は、俺が微弱に出している魔力すら感じられないほど低い」
そう言って俺のミストルティンを弾き、俺のみぞおちに蹴りをぶち込んだ。
「がっ!」
肺から空気が無理やり押し出される不快な感覚。
おいおい、これは俺が変身しないで出せる限界の300パーセントと同じくらいじゃないか?
「それに、毛ほども魔力を感じないから変身しない・・・だって?それは優しさじゃなくて傲慢だよ。
アユム、本当にお前を殺した相手に復讐するならそんな甘い判断はするなよ。こいつには変身しなくてもいいなんてそんな考えを持ったままだったら自分より弱いあいてにだって負けるぜ」
言っておくが、俺は俺の真髄をまだ出してないぞ。そう言いながら和人はゆるく立つ。
くそっ、そこまで言うならなってやる。
「ノモブヨ、オシ、ハシ
そこまで言ったところで和人の姿が一瞬掻き消え俺の目の前に現れ、俺の顔を殴り飛ばした。
俺はどこの誰かも知らない墓石を粉々にふっ飛ばしながら転がる。
「魔法を唱えるなら敵の攻撃を避けながら、じっと立ったままなんて愚の骨頂だ。まあ、これはクリスの受け売りだけどな」
くそっ!くやしいがまったく歯が立たない。和人は剣すらまだ使ってないのだから。
いや、まてよこの砂煙を利用すれば・・・
俺は、ぎりぎり和人に聞こえないぐらいの音量で呪文を唱える。
「ノモブヨ、オシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ!」
すると、俺の元から着ていた服がブリーン!と破け、その代わりに女の子が着たらさも可愛いだろうというような服が俺の体を包み込む。
そして、砂煙が晴れてあらわになった和人をにらみつける。
「はあ、アユムにしては頭を使ったな」
と不敵に笑いながら話しかけてくる。
もう頭にきた。これはぼこぼこにしても気がおさまらん。
チェーンソウがルビー色に輝きながら動き出す。
「600パーセント!」
そして和人の剣とまた鍔迫り合いになる。しかし今回はじりじりと押している。
いける!そう思ったのだが。
「相手の剣を押し込んでも気を抜くなよ」
そう言うと和人は右足を滑らせるように後ろに出し、剣を肩に担ぐかと言うところまで後退させる。
いったい何がしたいんだ、とそう思うまもなく剣の周りに青色の魔力が瞬間的に集まりライトイエローの輝きを作った。
そして、和人の剣がすごい力で斜めに切りつける動きで進んでくる。
すごい力だ。これがさっき言っていた和人の真髄・・・・?
とっさに受けきれないと思って後ろに飛ぶが、ありったけの力で飛んだにも関わらず俺の胸板に少し深めの斬撃のあとが残る。
「これが、一応お前に教えられる全てだ」
「なにを・・・・教える?」
「わからなくていい。いや、まだ残ってたな本当に俺にお前が殺せるのか・・・だったな。なら二番目に強い技を出してやる」
そう言って、背中に吊っていたセラの葉っぱの剣を抜き、二刀を構える。するとまた魔力が集まり剣がとても鮮やかな光に包まれる。そう認識した瞬間に、
「シッ!」
短い気合と共にこちらに飛び込んできた。
そして、二刀流による斬撃を次々にたたみこむ、星屑のように煌き飛び散る白光は、空間を灼くかの如き様だった。連続十六回のその攻撃が終わった瞬間、俺の体はばらばらになっていた。
「じゃあな、これで俺はお前を殺す事ができると言う事になったわけだ」
飄々とした態度はなりをひそめ、打って変わって冷たい刃のような鋭さで和人は言う。
そして、和人は歩いていく。
「待て、和人!」
そう引き止めると、
「どうせ、学校で会うだろ。それと俺の事は和人と呼ばないでくれ」
そういうと顔だけをこちらに向けてくる。
「俺はキリトだ」
そう、感情の何もかもを削ぎ落としたかのような冷たい声を残し、和人は墓場から出て行った。
和人・・・キリトside
家まで戻った俺はセラに呼び止められた。
「あそこまでやる必要があったのですか?」
「ああ、ユーへの疑いをそらす為・・・というのもあったんだけどな」
「・・・・・」
黒のコートをアイテムボックスにしまいながら俺は言う。
「アユムが俺にうらみを持って自分を鍛えようとするならなおよし、少なくとも無力さを感じるくらいにぼこぼこにしておいた」
と笑いながら言う。いや、完全に苦笑いなのが自分でも分かる。
「なぜ、あなたはそこまで損をしようとするのですか?」
なんでだろうか・・・考えた事もなかった。キリトの姿で転生したから?いや違う。死ぬまで、坂本彰人だったころからそうだった気がする。
「たぶん」
そう、たぶん。
「人が悲しそうにしてたら俺も悲しくなるからさ。ユーには負の感情に包まれて欲しくないんだ」
これが本音だ。まごうことなく、坂本彰人として、桐ヶ谷和人としての・・・
「俺はこの家をでる」
「そこまですることは・・・」
俺は首を振り、
「いや、ちゃんとあてはあるしな。それと、セラはアユムの従撲だけど始めて戦ったときの罰ゲーム扱いとして命令したい事がある」
「・・・・・」
「だれが相手でも、ユーやアユム、ハルナを守ってやってくれ」
「・・・はい、このセラフィム。命を懸けてもその命令をまっとうしましょう」
「そうか・・・なら」
じゃあな と、自分でも驚くほど小さな声でそういった。
これが最初の、16年生きてきて初めての親友との仲違いだった。
思ったよりも早い決着がつくのだが、それはまた別の話である。
これゾンじゃねえなこれ。