これはゾンビですか?~いいえ、彼は黒の剣士です。 作:西じゃない東(斎藤 隆)
「うっ・・・・」
不快な感覚と共に意識が戻る。
少しずつ、少しずつ目を開けていく。しかし一体どうなったのだろうか?アユムがバラバラになった後意識がなくなって・・・。
考えるだけの余裕ができた事に安堵しながらも今の状況を確認する。服装はインナーまで黒のいつもの黒ずくめだ。背中にごつごつした感触があることからちゃんと愛剣も背負っている事が分かる。
体には傷は残っていないが妙な倦怠感がある。
いや、
妙な倦怠感とはいえないだろう。なぜならこの倦怠感は一度死ぬまでに、俺が桐ヶ谷和人に転生するまでにさんざん付き合ってきたのだから。
体を少しずつ少しずつ持ち上げていく。体の休めという命令に逆らった代償か、鋭い痛みが俺の頭を貫く。
そして、木に寄りかかっているはずのアユムの元に進み声をかける。
「大丈夫かよ、役立たず」
「ああ、大丈夫だ。ったくとんだかませ犬だ」
無理やりに、気を強く持とうとしているのがばればれだ。
アユムは、すぐに立ち上がり京子のもとへと歩いていった。止めを刺すつもりだろう。それを止めるつもりはない。
ハルナ達の様子を見ようとした瞬間、
チリッ・・・・
うなじの辺りに違和感を感じた。
―――誰かに見られている?夜の王だろうか?いや、この殺気は俺とアユムにのみ注がれている。
アユムはまだ気づいていない。今にも魔装錬器を振り下ろそうとしている。
どうせ間に合わないのだ。傍観を決め込むつもりなら構わない。
瞬間、
アユムの手をがしりという擬音がつきそうなほど強く握った人物がいた。
中学生でツインテールで貧乳の女の子。今にもロリっという音が背景に描かれるのではないかというほど可愛い女の子が人間の力を超えているアユムの腕をあの細腕で支えている。
こんな事ができるのは『魔装少女』のみ。
そんな時、
「大先生!」
いつの間に現れたのかハルナが大声でそう呼んだ。
「ハルナ!あいつがどんな奴なのか知っているのか?」
「あたりまえだろっ!あの人はな!メガロ二百匹を一人で片付けた事もある人なんだぞ!あんたがいくら強くても大先生にかなうわけがないんだっ!バーカ!」
残念ながら力の差は痛々しいほど分かる。何をとっても俺は大先生のステータスに届くものはないだろう。あるとしたらこのこざかしい頭だけか・・・・。
自分にしては弱気な事を考えているとその『大先生』はこっちを向いてにっこりと笑った。
「あなたもぉ、私の大事な生徒に危害を加えようとしたのですかぁ?」
「ああ、確かに俺達は京子に危害を加えようとした。だけど、そもそもはそいつが俺たちの世界の人間の魂を刈り取っていたからだ」
「騙されないで下さい!アリエル先生!」
説得を試みようとしたものの京子の妨害のせいでいまいちな説得感になってしまった。
さすがの俺も今のには怒りを覚える。図々しいにも程がある。
「大先生!アユムは気持ち悪いですけど二人は悪くないんです!」
ツッコミは今はおいておくとして、こればかりは全員でかかるしかないか。
「セラ!アユム!俺が陽動をしかけるから援護を頼む!」
「分かった!」
「委細承知」
返事が返ってくると同時に、俺は大先生との距離を一瞬と言ってもいいほどの速さでつめる。
そして同時にソードスキルに設定された動作を瞬時にとる。
『バーチカル・スクエア』縦方向四連撃の大技でかなり使い勝手がいいその技を大先生に向かって打ち出す。一撃目、相手の体の正中線に向かって打ち出す。
完全に捉えたはずなのだが、その一撃は空を切った。
なぜなのかを頭の中で思考するまでもなかった。
大先生はただ単純にサイドステップで避けただけだ。
ただ、そのスピードが速すぎただけなのだ。
―――俺の目でも捉え切れなかった―――
すくなからず気落ちしてしまった俺に対して大先生は相も変わらずこっちが眠くなるぐらいののんびりとした声で俺に話しかけてきた。
「わあ、すごいですねえ。あなた、本当ににんげんですかあ?」
「このごろはそれに疑問すら覚えてきたよ」
さて、軽口を叩き虚勢をはってみたはいいがどうしたものか・・・。
そう考えている間に(ほんの一、二秒だ)木陰からセラとアユムが出てきた。
セラとアユムはほとんど同時に攻撃を仕掛けた。
セラは俺からみて、左から、身を沈めて足を、アユムは全速力で走りながら上半身を横薙ぎにする動きを見せている。
今度も大先生は目にも止まらぬ速さで、避けるのかとも思ったが大先生はセラの攻撃をギリギリまでひきつけた後で半歩ほどの動きでよけ、セラの背中を思いきり蹴り上げる。
そして、そのエネルギーは面白いほどに吹っ飛ばされる推進力に変わり、セラはアユムにぶつかるようにして倒れた。
セラの動きの速さを見越してこその防御・・・いや攻撃も兼ね備えているのだから攻防一体とでもいえばいいか。
よし、ここは・・・
「セラ!剣を貸してくれ!」
セラは身を起こしている最中だったが俺に葉っぱの剣を投げ渡してくれた。
セラが使うようなクナイのような形をしたものではなく、もっと長く幅広だ。しかも両刃にしてくれている。
―――相手が二刀流ならこっちも二刀流だ。手数の多さで攻める!
いささか、単純な手だとも思われたが残念ながらこれ以上の案は浮かばなかった。
ここには利用できる地形なんか見つからないだろうし、油断を解かれてしまったら俺たちは壊滅だ。
深呼吸をして脳に酸素を届け、いらない気体を口から吐き出す。
そして、俺はソードスキルを発動させる。
システムアシストと、敏捷力の高さによって速度が加速される。
そして、それと同時に脳のクロック数も上昇し、世界の速度がややおちる。
そして、大先生に向かってライトエフェクトがかかった剣を右から振るう。しかしソノ一撃は左手の剣で受け止められる。
しかし、俺の攻撃はまだ終わってはいない。
コンマ一秒遅れで左から剣が大先生に襲い掛かる。
二刀流突進技『ダブルサーキューラー』・・・。
その左から襲い掛かった剣も相手の剣で防がれてしまう。
しかし、これでつばぜり合いに持ち込んだ。足が滑らないように靴を地面にしっかりとかませる。
どうやら力のほうは相手と同じのようだ。
・・・いや、やや上から押さえ込んでいる形になっているこっちのほうが力は弱いか。
「なかなかやりますねえ。あなたが魔装少女だったら多大な戦力になるでしょうねえ」
「あんたこそ、こんなに、思いっきり、力を加えているのに、ちっとも押せないなんて、どうにかしてるぜ」
そう答えると、大先生はふふっと笑った。
そのすぐ後、
ビシッ・・・という鋭い音が左のセラが作ってくれた剣から聞こえてきた。
ふとその剣を見るといくつものひびがはしっていた。
―――やっぱり強度に問題があったか・・・!
このままだと剣を壊されてバランスを崩して攻撃をモロにくらってしまうとそう判断しバックステップで距離をとる。
「あらあ、もったいですねえ」
―――いってろ
そう心の中で毒つく。
こうなったら京子を直接狙うしかない。
「アユム!少しだけ大先生の気をひいてくれ!」
「まかせろ!」
アユムが少しの間大先生の気を引いている間に京子のところまで移動する。
そして、一撃でしとめるためにソードスキルを発動しようとした瞬間。
「やらせませんよお」
「な!」
いつの間にか先回りしてきた大先生が俺と京子の間に現れた。
―――このまま・・・ぶち抜く!
俺は血色の光をまとわせたその剣を大先生に向かって渾身の力をこめて突き出す。
ジェットエンジンのような轟音をとどろかせて大先生に向かっていくその技の名前は・・・・・・
「奪命撃(ヴォーパルストライク)!」
両手の重槍のスキル並の威力があり、リーチも刀身の2倍もあるその技が大先生もろとも京子に襲い掛かる。
しかし、突如ルビー色の壁に食い止められる。
大先生が結界をはったのだときづいたがそんなものは関係ない。
「いっけええええええええええええええええええええええええェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!」
徐々に押し込んでいく。
このままだといける!
と、不覚にもそう気を緩めた瞬間だった。
「楽しい余興だった」
その声が聞こえたと意識する前に、京子の体からでた影が俺と大先生を貫いた。
「ぐっ!」
短い悲鳴しか出てこない。
徐々に体の先の方から力が抜けてくる。
眩む視界のなか、ユーの驚愕の顔だけがやけに印象に残った。
そして、俺は意識を失った。
受験勉強がしんどすぎる!
なんか元気の出る曲とかないのかー!