これはゾンビですか?~いいえ、彼は黒の剣士です。   作:西じゃない東(斎藤 隆)

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遅くなって申し訳有りませんでしたw
忘れ去られているかもしれませんが、原作小説第一巻の最後あたりまで、どうぞ!


エピローグ

ゆさゆさと誰かに揺すられている。

 

ためらいがちにしているのだろう。僅かばかり力がこもっていない。

 

しかし、その行動は俺の意識を覚醒させるには十分だったようで俺は水の中にいるかのような倦怠感を感じながら、これまた糊付けされたかのように全く開こうとしないまぶたを開けた。

 

そして、ピントの合わない視界に映ったのは純銀のような髪であった。

ピラっとどこから取り出したのか分からないメモ用紙を見せてくる。あいにくまだ何を書かれているのかはわからないが、その行為によって視界に映っているのはユーであることが分かった。

 

「お……ユー、おっす」

 

やや気だるげに返事をすると、ユーはまた新しいメモ用紙を見せてきた。

今度は目が慣れてきたのか、何が書かれているのかはおぼろげに読み取ることができた。

曰く

 

「(大丈夫?)」

 

の一言だった。

いなくなったことに怒ることもなく、まず俺の心配。

感情を表すことができないことを差し引いても、糾弾の言葉がでてくるより早く心配の言葉を表すユーはやっぱり優しいなと思ってしまう。

そうそう、思い出した。俺はあのよく分からない霧みたいな闇に体を貫かれて気絶させられたんだったな。

 

今改めて思ったが、俺って短期間に意識を失いすぎじゃないか?

それぐらい俺が弱くて、他のやつが強いということなんだろう。

情けない。自己嫌悪で消えてしまいそうだ。言葉に出したらユーに怒られるだろうが死んでしまいそうでもある。

 

前世でも自己嫌悪、劣等感と劣悪感、その他もろもろで死にそうになったっけか。

でも、いまは死ぬわけにはいかないんだ。前世と違うのは見た目と力の大小だけではない。人間関係が周りに築かれているのだ。

 

前世とは比べ物にならないぐらい根深く。

みんなの心の中に浅く、深く絡んで、縛って、俺の存在が突き刺さっている。

前は、絡むことすらもできなかった。

だから、俺はこの世界で過ごしたいんだ。紙の世界でも、ライトノベルの世界だとしてもこの世界は立体的で現実的で分厚くて大きい。決して『偽物』なんかじゃない。

 

少なくとも、俺以外は。

 

ああ、大丈夫だ。そう短くユーに答えて足に力を入れて立つ。

ややふらつくが、そんなのは気にするもんか。

俺はユーの手をやや強引に引っ張って、回復を待っているセラ、ハルナ、そしてアユムの目の前に行く。

 

そしてユーを俺の前に押し出すような形で俺の方に向かせる。

そのまま俺はユーから二歩分ぐらい距離をとって、アユムたちを見据えた。いや、見据えるといってもそんな高圧的じゃないか……。

そのまま俺は体の上体のみを前に傾け、お辞儀の形をとる。

そして、

 

「ごめんなさい」

 

あやまった。

 

こうして皆にあやまっているが、実を言うとというかお察しのとおりかなり怖い。

軽々しく許してもらおうとしてるわけである。

今回は深いわけもない。なにか思慮や策を巡らせているわけでもない。

そんな俺に飛び込んでくるのはトラウマよりもっと黒々しくてグロテスクな前世での記憶。

罵詈雑言なんかはまだ良かった。効きもしない蹴りとかの暴力が一番辛かった。

それで、体育座りのまま人形を抱きしめながら痣のひとつも残らない俺を見てみんなは同じような言葉の刃を突き刺していく。

 

 

そんなものを向けられて『一向に擦り切れない自分の心が一番怖かった。』

 

 

だから、この世界で赤ん坊からもう一度育てられて、心が擦り切れないように捨てたものをもう一度拾ってつないでいくのは本当に楽しかったし嬉しくて。

本当にどうしようもなく。

だからよく泣いた。精神は赤ん坊よりも発達していた俺なのに、よく泣いていた。

 

 

今、謝ろうとする前。俺の心は『勝手に』謝ろうとする対象の表情を切り取っていた。

そんな俺だけれど。許してくれるのだろうか。

ここで誰も許してくれなくて三流のダークファンタジーのようになるのは嫌だ。

戻らないつもりだったけど。やっぱりヒトなんだから。耐えきれるわけないじゃないか……!

 

「当たり前だろ」

 

そんな風に最初に口火を切ったのはハルナ……ではなく意外にもアユムだった。

 

「俺のことを殺したのはお前じゃなかったけど、でも結構ひどいことされた。だから謝るのは当然

だ。当然だけど、それでプラマイゼロだ!種ももう全部聞いてんだよ!」

 

そして、セラのほうを見ると何も言わずにただ頷いた。それは、アユムに全部教えたのは自分だというのと、自分も許すということを示しているようだった。

 

「しゃ、しゃーなしだな!しゃーなしだ!だけどその代わり私の弁当食えよな!」

 

ほとんど何も考えていなさそうなバカにみえる天才さんはそんな風に明るく答えた。

 

「(私も許す)」

 

いつもどおりに見えるユー。でも今日は何かが違った。まだ、今はそれを読み取ることはできないけれど。

わずかに笑う(ユーはいつもどおりの無表情だが)みんなの前で心の奥の奥で嬉しさと安堵を噛み締めながら、俺は精一杯の感謝の言葉を叫んだ。

で、なんでこうなった?

今、目の前にはメイド服を着たアユム達がいた。それだけならまだ腹を抱えて笑うことができるのだ

が、いかんせん自分がメイド服を着ているので笑えない。

 

まあ、自分の姿はまだ中性的な方なのでアユムより見苦しくはなっていないと思う。多分……。

やっぱりこういうふうにワイワイしてるのが自分には合っているのかな。

 

無理やり持たされたギターを握り締めながらそう思った。

やっぱり自分はここにおさまりたい。

心の底からそう思う。ずっと思ってる。

 

 




これを書いていて一番迷ったのは、キリト君にメイド服を着せるかどうかでしたw

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