これはゾンビですか?~いいえ、彼は黒の剣士です。 作:西じゃない東(斎藤 隆)
あの音の正体だが、それに関しては理科室から外に出た瞬間にはすでに分かっていた。
それは、
「クジラなのか?ずいぶんとデカイな」
そう音の正体はクジラのメガロのせいだったのである。
より性格に言うのなら、クジラのメガロが出した潮のせい・・・なのだが。
ともかく、その潮のせいで町は水に沈みそうになっていた。
これはやばいと思い加勢に出ようとした瞬間、
『ドンッ』と大きい音がして、一歩進んだらそのままぶつかってしまいそうな距離にメガロが現れた。
(アリクイのメガロ・・・・かな?ボクシングの構えをとっているのを見るに、徒手空拳か。
そう思っていると、・・・いや思っている暇など本当はなかったのだ。
なぜなら次の瞬間、アリクイ(仮)はすさまじい速度で俺の顔にむけてのジャブを放ったのだ。
「くっ!」
間一髪、俺は首を傾けてそれを避ける。
追撃されないように、ありったけの力で別の家の屋根に飛び移る。そこは、そこそこ広くて割と戦いやすそうな場所だった。
いつアリクイがこっちに飛び移り俺に攻撃をしかけてくるのか分からないので、俺は背中に吊ってあるエリュシデータを抜く。
対するアリクイは、ゆっくりとこちらに飛び乗り軽めのフットワークをしながらクリクリとした目でこっちを見つめてくる。
あれだけ動きが早くては、ソードスキルはよほど相手に隙があるときにしか使えない。
しかも、一つのソードスキルで決めなくては、スキル後の硬直時間をつかれてそこでゲームオーバーだ。
(ともあれ、あいつに隙を作る!)
「シッ」
短い気合の声と共に剣を自分に出せる最高の速度で振るう。
もちろんカウンターに対応できるように考えて、だが。
その攻撃は案の定相手の拳に防がれた。
そして、あいてがカウンターとして放ったジャブを弾き防御《パリィ》する。
攻撃、そして防御、切る、弾く、切る、防ぐ、切る、防ぐ そしてまた切る。
無数の斬撃の音が、日の沈んだ空に鳴り響く。
とても長い、いやまだ一分もたっていないのかもしれない。戦闘の中で時間の感覚が緩やかになっているせいでどれぐらいの時間がたったのか、長かったのか短かったのかも分からない。
だが、終わりは訪れた。
これまで、ジャブやストレート、フックなど拳を使った攻撃をしていたアリクイが、突如その長い舌
で俺を貫いたのだ。
「ウッ・・・・・。ぉ、おオオォォォォッッッ!」
俺はその舌をつかみ、ありったけの力で引きちぎった。
そう、俺は避けれなかったのではない。避けなかったのだ、最小限の傷で済むように貫かせた。
アリクイはその痛みに耐えられなかったのだろうか。少し足をふらつかせる。
少しの隙、しかし俺にとっては大きな隙だ。
俺はソードスキルに設定された動作を瞬時にとり、剣にライトエフェクトが宿る間もおしみ技を放つ。
黒のライトエフェクトを宿した俺の剣が半ば勝手にアリクイの体にすいこまれる。
片手剣最上位剣技『ノヴァ・アセンション』十連撃。
日が沈んでいるにも関わらず、はっきりと濃密な黒の軌跡が見える。
それはまるで黒炎をまとっているかのようだった。
全十発。その全てがアリクイの体に叩き込まれ、アリクイは倒れ、そして四散。
俺は少しの間息を整え、そしてアユムたちと合流するべくアユムたちがいる家屋の上に向かった。
クジラはもう倒したようで、みずはもうすっかり引いていた。