青春は神憑りにつき……   作:蓬操

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序章の3話目です。

序章が何話まで続くのかわかりませんが
自分の中で決めている区切りまでは
ずっと序章のままと考えてます。

書くペースが上がっていますが
気にせず、マイペースに進めていきます。



青春が始まる前日のこと。

学園よりも奥。登坂を歩くこと15分。

辺りが森で囲まれた別荘のような建物、学園寮に辿り着いた。

華凰はもちろん疲労することなく、涼しい顔して鼻歌まで歌う余裕っぷりだ。

登坂の序盤から息が上がっていた僕にとって、目の前でそれをやられるのは堪忍袋の緒をチクチク刺激した。

しかし頂上で見る景色は、木々で埋め尽くされていて、より自然を感じられた。

その清々しさで苛々は冷却され、平常心を取り戻すことができた。

まずは寮長さんへ挨拶。

この時期に編入するのは稀だから、部屋を確保できたのは奇跡に近いとのこと。

白髪のオールバックがよく似合うおじいちゃんで、困ったら寮長室にいつでもおいでと言ってくれた。

それと、もう君に神様はいるのかい?と聞かれ、返答に困ったが、神原学園の関係者だし知っているものと判断し、素直に答えた。

ただ神様がもたらすのは必ずしも良いことばかりではないから気を付けた方がいいと忠告された。

当然憑いて来ている華凰はおじいちゃんをジーっと睨み付けていた。

怒る気持ちも分からなくないが、見えないからって好き放題に動かないでほしい。

寮は屋上付き4階立て構造で、3階の212号室が僕の部屋だ。

ご丁寧にドアに掛けられた表札には天城大地の名前が筆のタッチで書かれている。

微妙に残る空白の意味は無視してドアを開けた。

家にあった自分の部屋より、ちょっぴり狭い。

片隅に積まれた段ボール以外何も無い部屋。

収納の中には、おじいちゃんが説明してくれた通り布団一式揃っている。

玄関そばに小さなキッチンがあり、小さな冷蔵庫も付いている。

暖房、冷房の設備があるのも嬉しい。

 

「内装は意外と新しいですね。最近改装したのでしょうか?」

 

キラキラに目を輝かせてはしゃぐ華凰。

 

「珍しげに見てるけど、僕に出逢う前にも見てるんじゃないの?」

 

「何を言いますか。あの美術室から離れてませんよ」

 

華凰はやれやれと呆れて言葉を吐いた。

 

「じゃあなんで学園の敷地内把握してるの?」

 

当然の質問を投げると、華凰は冷静にそれを取って返した。

 

「あの校舎は2年前まで使われていました。だからあそこにあった作品や教科書もあれば、美術室内の掲示物もあります」

 

よく見てなかったから、あんまりわかんないけど話に合わせておこう。

 

「確かに教科書は散らかってたね」

 

「校舎が使われなくなるのなら当たり前ですが、生徒にお知らせしますよね」

 

「それは学園側の義務だし」

 

「お知らせと一緒に学園内の地図を配布されましたが、美術室内の掲示板にも貼り出されました。それを眺めながら新校舎の構造を想像するのが楽しみでした」

 

「それは……悲しい楽しみだね」

 

「今日はほんの一部でも拝見出来たのが幸せでした。天城くん、ありがとうございます♪」

 

普段真顔なくせに、こういう時に微笑むのは卑怯だね。

 

「お礼は、僕の左手にでも言いなよ。これが原因で、ここに来たようなものだから」

 

そう言いながら、左手の甲に残る傷痕を擦る。

過去を覗けるのであれば、口に出す必要もないと僕はそれ以上も何も言わなかった。

 

「先程手を繋いだときに思いましたが、どうされたんですかそれ?」

 

華凰は純粋に疑問を投げつけてきた。

嫌な思い出を面白可笑しく話せるほど、僕の心は強くない。

 

「気になるんなら頭の中を覗けばいいだろう」

 

「……いえ、それは止めておきます」

 

声色と言葉で華凰は察したのか、追求しようとはしなかった。

ただ、「貴方は今のままじゃいけません」、あの言葉からして、てっきり覗かれてるんだと思っていたけど……勘繰りが過ぎたかな。

 

「真剣な話は後にするとして、日がある内に荷物整理するよ」

 

「家族まで捨てた割には随分と自宅から持ち込みましたね?」

 

「僕自身が働いて得たお金で買ったものだし。自分の物は全部持ってきた。色々準備が必要だったから、そのお金も底を突いてるけど」

 

「働く気力はあったんですか」

 

「事が起こる以前の話。野球をやってたから、周りに比べて劣るものの、体力には自信を持って……そういえばさ」

 

「ん? どうしました?」

 

「華凰に憑かれてから、体力の減りが早いというか、疲れやすくなってるんだけど、金縛りとかしてないよね?」

 

短距離走より持久走が得意な身として、無視できない問題だ。

馬鹿みたいな体力があったからこそ、野球しながら働くこともできた。

神原学園編入後も働くことを視野に入れていた僕からすれば、金縛りであってほしいと願う所だ。

しかし僕は彼女の返答を、理解しようとしなかった。

 

「金縛りは知りませんが、学園内において天城くんは神憑りしてるので、私の能力と合わさった状態なんですよ」

 

「………………は?」

 

「私は体力からっきしなので、恐らく体力の他に運動能力も下がっているはずです」

 

神憑り……? よくわからないけど、体力無くなったの他に運動音痴にでもなったんだと言いたいのか?

 

「聞かれるまで黙ってるつもりでしたが、試しに段ボールのどれか1つ持ってみてください」

 

言われた通りに段ボールの1番上を取った……その瞬間である。

 

「!!? おもっ!?」

 

「危ないですね」

 

と華凰は涼しい顔して段ボールを支えてくれた……支えて?

 

「あ、ありがとう。でも、どうして段ボールに触れてるの?」

 

「それは実体化したからです。貴方と2人っきりの時しかならないと心に決めてるのでご安心を」

 

幽霊が実体化出来たら生きてるのか死んでいるのか、よくわからなくなるね。

 

「実体化出来るのは学園の敷地内に限定されてますし、何より普通に幽霊でいる時よりも疲れますしお腹も空きます」

 

「生きてるのと変わんないな。あと遠回しにご飯が食べたいって言ってるのそれ」

 

「天城くんに逢えたからこそ、こうしていられるんです。それに食べ物を見てるだけって想像以上に耐え難いものなんですよっ!」

 

お供え物として置いていればいいってわけではないらしい。

 

「晩御飯は後で考えるとして、実体化しているなら模様替え手伝ってよ」

 

「…………………………」

 

「露骨に不満そうにしない。働かざる者食うべからず、だからな」

 

「……ナンデスカソレハ?」

 

「壊れたフリしても無駄だから諦めて」

 

ブツブツ文句を呟きながら、渋々段ボールを運んでくれる華凰。

何故か体力と運動能力が落ちたようなので力仕事は任せる。男も女も人も神も関係ない。

 

「終わったら神憑りとか実体化とか、その他諸々の事について話してもらうからね?」

 

「話さなくても天城くんが私の頭を覗いてくれたら……」

 

「それが出来ないから話せと言っとるんだ阿呆。一般人なめてるのか?」

 

 

夕陽が山に隠れ始めた頃、殺風景だった部屋はようやく僕の色に染まった。

床には水色のカーペットを敷き、窓には黒いカーテン付けた。

窓際に組み立て式のベッド。部屋の中央に足が折り畳める丸い木製のテーブル。

収納の襖を塞がぬよう、これまた組み立て式の本棚を2つ設置。漫画や雑誌、教科書の類いはここへ。

コンセントも念のため蛸足を持ってきたので、繋いでテーブルの下へ。

そこへ全財産の5分の3を注ぎ込んだノートパソコンに繋いでいる充電器を差込み、テーブルにパソコンを置いて完成。

寮長のおじいちゃん曰く、ネット環境は2、3年前に整えたので使えるとのことなので、早速慣れた手つきでパソコンの設定を終わらせた。

 

「天城くん」

 

作業を終えて一息吐くと、華凰に名前を呼ばれた。

 

「晩御飯ならもうちょい待ってて。流石に休ませてほし」

 

「どうして私のマストアイテム、キャンバスが無いんですか」

 

荷物を整理しながら華凰の話を聞いた。

何でも自分は【芸術】の神様だとのこと。

この【芸術】という枠組みが非常に広いため、得意な事は多いが、知識量あっても専門家に劣る。

所謂、広く浅くというやつだろう。

その華凰に神憑りされている僕はその恩恵を受けているらしく、下がった能力もあれば上がった能力もある。

それが何なのか分からないが、上がった能力は元々鍛えれば、それだけの力を発揮できるというもので、言うなれば生まれた時から持っていた才能に似ている。

能力が意味わかんない事になっているのは、この学園内での話であって、外に出れば恩恵の影響は受けないとのこと。

小学生の頃から鍛えてきた筋肉が最早飾りとなってしまったのは、今までの努力を否定された気がして嫌になるよ。

 

「キャンバスなら、あのオンボロ校舎から自分で持ってきなさい」

 

「神様の言う通りにしないと罰が当たりますよ」

 

「対等だって言ったろ? 君も一心同体って言った以上、上も下もないよ」

 

部活動に入る気は無いのに、そんな重たいものを持ってこようなど思わない。

 

「それに僕は絵が下手だし、あっても邪魔くさいんだよね」

 

「私の恩恵を受けている今の貴方なら絵を上手く描けます。神様の保証付きです」

 

「描く機会があればね。とりあえず生徒手帳にパソコンのメアド書いとかないと」

 

「あれ? 同級生達とは仲良くなるつもりはない、そんなようなことを仰ってませんでした?」

 

華凰は露骨に僕を煽る。

言ってやったことへの満足感なのか、ここぞとばかりのどや顔を決めていた。

 

「華凰のせいで、あんな状況になっちゃったし。それに僕は現状から変わらないといけないんだろ? なら簡単な所から変えてみるんだ」

 

行動。これほど手軽に変えられるものはないだろう。

大概日々生活する中で詳細は違えど、大枠そのものは変化しない。

起床→朝食→洗顔→歯磨き→身支度→登校→授業→昼食→授業→部活→下校→勉強→晩御飯→風呂→就寝。これが学校に通う人間の生活サイクルだとして、何回も繰り返されると、当たり前に思うか飽きてくるかのどちらかになるだろう。

固定される箇所は別にして、その他自由に出来る時間帯は、慣れないことをすることにしよう。

そこを変えるだけでも、日々過ごすのも楽しくなるのではと僕は思う。

 

「と言っても、華凰に憑かれた事が何よりも大きい変化だよ」

 

「天城くん…………」

 

「まあその変化が、どういったベクトルに向くのかわからないけどね」

 

「私の感動返してください」

 

「真顔にならない。晩御飯の準備……と言っても、調理器具は鍋とフライパンくらいしかないし、今日の所はカップ麺だな」

 

「カップ麺……全然お腹が満たされなさそうです」

 

「君が想像するよりも量があるから安心して。じゃあ貴重品を持って、購買所に行こう」

 

靴を履き、ドアを開ける前に後ろを振り返り、開けたときは違う風景を見て、新しい生活が始まることを再度自覚した。




3話が終わりまして、
ようやく2人以外の人物が出ましたね笑

1話目もそうですが、名前が判明するまでに
話数を跨いだりしてますが、
特に決まってないとかではなく、
適切な時に名前を出したいというだけです。

物語の語り手は天城くんなので、
彼と関わりを持つことで初めて名前が分かる。
現実においても私自身関わりが浅いと
教えられたとしても忘れてしまいますし笑

次は4話目ですね。
やっと学園生活始まります。
朝から同級生達とちゃんと授業を受けます。

思えば学園ものって登場人物が多いですね。
各々キャラクター像を書き分けられるように
じっくり時間をかけて書いてきます。

ここまで読んで下さった皆様へ
まだまだ拙い作品をお読みいただき
ありがとうございます。
この作品がいつまで続くのか
私にもわかりませんが
温かい目で見守って頂ければ幸いです。
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