遠洋航海実習を急遽中断した私達はドイツでの模擬戦という“単位”が未履修に終わってしまった。教官たちは慌てて国内での試合の日程を組んだ。
日程は『ブルーマーメイドフェスタ・ウィンター』の最終日。午前中を予定している。最終日を盛り上げるイベントの1つである。
相手は金剛型大型直接教育艦比叡、陽炎型航洋直接教育艦天津風・時津風・浦風の4隻。
こちらは最上型重巡洋直接教育艦三隈(私達の艦)・熊野、阿賀野型軽巡洋直接教育艦矢矧、白露型航洋直接教育艦時雨・涼風の5隻。
ルールは審判3人により損傷判定を受け、各陣営のどちらか全ての艦が撃沈判定を受けたとき決着となる。もちろん使用する弾は教練弾。とは言え、徹甲弾や三式弾や水中弾なども教練弾として再現されており判定に影響を与える。
海域は横須賀沖特設演習海域。もちろん観客に生中継するためである。
飛行艇の使用は制限されている。この状態ならいくら横須賀女子海洋学校の先輩とはいえ、いい試合が出来ると信じている。
……と言いたいところなのだが、こちらの三隈乗員の士気が低く旗艦を務める艦としてまずいと言わざるを得ない状況なのである。
はて、どうしようかしら。
って一応乗組員のことを考えてる時だから公式な口調にした方がいいかな?まあ、誰も聞いてないし普段通り行きましょ。
あの戦闘のことをどうブレイクスルーするかね。本来なら時間が解決してくれるけど、これじゃ訓練の意味もないわ。気は進まないけど、中村教官にでも相談してみようかな。
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「それは簡単ですよ。気にしてられないくらい訓練に勤しめば良い。訓練終わってシャワー浴びてすぐに寝ちゃうくらい激しくね。」
中村教官は優しそうな微笑みを見せながら、なかなか恐ろしい事を口にする。
職員室で私と中村教官は応接セットを挟んで向かい合っていた。
「そんなことして、求心力が失われませんか?」
私自身、そこまでカリスマがないことは自覚している。天才だろうがカリスマはまた別の才能なのです。
「大丈夫。必ず……」
「どうすれば良いのでしょうか?」
「ふふっ、あなただって分かっているでしょう?」
中村教官は優しげな微笑みを黒い笑みに変えながら言う。
「訓練後に熊野をフルボッコにすればいい。」
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私は必要書類を提出した後、三隈の主計長以下主計科メンバーを召集し、こう告げた。
「三隈の出港準備にかかってください。航海日程は1週間。途中、学校の足摺型補給直接教育艦塩屋で4日目に洋上給油と砲弾薬の補給を受けます。そちらの手配も主計科に任せます。詳しくはこの資料を見てください。」
今井彩主計長は疑問に思ったらしく、
「なぜ日帰りでの訓練ではなく1週間も戻らないのでしょう?」
と聞く。
無論、本当の理由は伝えられないので、
「中村教官から行ってきなさいって言われちゃってね。今の練度なら横須賀女子海洋学校の先輩達には勝てない。だから、かな。」
と答える。
「そうですか。了解しました。今井彩、ただ今より出港準備及び塩屋との打ち合わせに入ります。」
「よろしくね。」
私はぞろぞろと出ていく主計科の人達を見送っていた。
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次に呼んだのは機関科。浅井楓機関長以下16名。こちらにもあることを知らさなければならなかった。
「では揃いましたね。機関科…特に応急員は各部動力接触部分の修理点検と交換用部品の積み込みをいつもより少し多めにお願いします。機関もぶん回すのでそのつもりでお願いします。」
「まあ、最善はいつも尽くしてるけど、自分らも焼き切らないように使ってな。」
機関長の浅井楓は似非三重弁(自称)を使うことで三隈の中で有名である。
あなたの出身は長野でしょ!とつっこみたくなる人。腕は確か。と言うより、機関を動かし続けることに関しては恐らく世界一上手い。
「常に動き続けて打ち続けるということですね。了解です。準備しますね。」
こちらは応急長の望月梓。彼女も一癖あり、オタクなのだ。それも重度な。
この間も即売会でR-18を描いて販売してたとか。ちなみに彼女の守備範囲は百合から純愛系、BL、コメディまで非常に広く深い。そして濃い。メタいお話になるが作者よりも濃いのである。おそらく。
黙っていれば美少女…否、美幼女であるのに。
ちなみに、幼女みたいな外見のくせに力は強い。
「そういうことです。よろしくお願いします。」
某魔法高校の生徒は魔法科高校に一般人はいないと言ったが、浪江中学校は士官候補生の集まりだけあって変人の集まりだった。
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―ドゥン!
4番5番主砲が7時の方角の水柱を作る。
続いて三隈の1~3番主砲が右舷前方へ向かって指向した。
―ドゥドゥン!
『敵艦撤退を確認』
かれこれ20時間に及ぶ訓練は乗員の体力も気力も奪い、底がとうに見えていた。が、ほのかにはまだ終わらせる気はない。
『追撃戦に移行する。機関、第5戦速。面舵。』
未だに終わらない上に時間のかかる追撃戦訓練に移行したことで連続訓練24時間を超えることが確定した。
しかしながら、砲術長の宗谷ましろ以外は分かっていなかった。艦長たる葉月ほのかは精神を削りながら訓練を指揮していることを。ほのかは虚弱体質であることを最近多少改善していたとは言え、それは“多少”。もっとも、元が虚弱過ぎて戦闘訓練など2時間も全力で指揮を執っていれば限界を迎えることはほのかの中でも分かっていた。いつ失神してもおかしくない状態なのである。
いわゆる、とある剣客が「精神が肉体を凌駕している」と言った状態なのである。
否、彼女は精神が肉体の状態に“気がついていない”が正解である。彼女の心は小さなキズから大きなキズまで多種多彩な損傷がある。表面的には気づかせなくても彼女の心は壊れていた。と言うより治る速度が遅すぎる、というのが正しいか。それは転生という非条理な理を通過したせいであった。知らないでは済まされない非条理。そんな爆弾がついに爆発しかけようとしていた。
『追撃を断念、以上をもって長時間連続訓練を終了する。このあとは規定航路に戻りつつ当直6時間の3交代制で休息せよ。』
ほのかはこの放送を入れた後、記憶がもうなかった。いや、訓練の途中から飛んでいた。
「艦長!?」
「真梨ちゃん!担架持ってきて!」
『艦橋航海長より医務長!艦長が倒れた!受入準備頼む!』
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「――ん……―――」
「艦長?」
私は艦長の顔をのぞき込む。別に起きたわけではなさそうだ。
「大丈夫です。私がいますから。」
少し、眠いけど、艦長のためならまだまだ大丈夫です。
初めてあったときは約2年前の入試の時。あの時は周りを見ているほど余裕はなかった。実技でダントツのトップってことは分かってたけど、それだけ。
2回目にあったのは入学式の日。入学式の後、自己紹介をした後彼女はいなくなってしまった。この時までは別になんとも思わなかった。ちょっとか細いと思うくらいで。
でも次にあった時から彼女は変わった。なんだか見てられない感じ。
私は昔から感情を読み取ることが得意だった。だから気遣いのできるいい子と言われてきた。でも、汚い感情も読み取ってしまうため自身の心も蝕んでいた。だからこそ気づいたのかもしれない。
“彼女も一緒だ”と。
私と彼女は似ている。過程は違うにせよ、周りから褒められてすごいすごいと言われ結局すごいと言われていた分野で傷ついてしまった。
いや、私の方がまだいい。徐々に壊れていたことを自覚出来ていなかったのだから。彼女を見て私が壊れていたことを自覚した。
彼女はショックのあまり自覚した記憶を封じてるみたいだけど。
彼女をこれ以上壊れさせたくない。
それが今の私に出来るかもしれないことだから。
曲がった気持ちかもしれないけど、“あなた”に押し付ける気はありません。でも今なら聞いてないよね?だから言わせてね。
「ほのかちゃん、真梨はあなたが愛しいです。だからこそ守るよ。この気持ちは多分仲間を失いたくないただの独占欲かもしれない。でも…
真梨はほのかちゃんが大好きです。」
あえてサイドチェンジを書かなかったのですがどうでしたでしょうか。
まさかの真梨→ほのかという図ですね。
ましろと離れてますし、この先どうなるかはキャラがどう動いてくれるかによりますが楽しみです。
また次話もお楽しみに。(*´∇`)ノシ ではでは~