中野千歳は航洋艦 梨 の艦長を務めていた。
「お久しぶりです。岬さんも。」
曳航索の取り付けはまだ初航海の子たちが多いのでまだまだ時間がかかるものと思う。
ちなみに、ほのかと明乃は梨に来ているので、晴風の指揮は航海長の知床さん―艦長があだ名をつけるので全体としてあだ名を使うことが多いので今後はリンちゃんにしておく―に任せている。
航洋艦 梨は松型というおよそ『45年前』に造られた艦型である。そう、戦争がない分、技術的にも、予算的にもブルーマーメイドの艦船開発とほのかの前世の艦船には大きく隔たりがある。
主に主砲が主兵装であること。新型艦の改インディペンデンス級などの軽装甲中型艦は前世のミサイルの出現に伴ったものではなく主砲命中率が高く、かつ戦争が起こりづらいので対艦隊戦が起こりづらく哨戒などの任務のために速度と敏捷さと燃費が良い方が優先されるということで中途半端な装甲が廃れてきていること。この間のミサイルの廃止もその一端である。
もちろん、昔ながらの艦も未だに建造されている。この間、横須賀女子海洋学校の学園艦ドックに入渠した艦船に進水したばかりの陽炎型があるはずである。
話は戻るが、この松型は世界一『売れている』航洋艦である。建造費の割に性能が悪くないのである。さらに建造時間もたったの4ヶ月で済む。ちなみに、航洋艦のブルーマーメイド及びその養成学校以外への販売はこの松型と神風型のみ(海外でも型落ちの旧型艦のみ)であり、護衛業を営む民間護衛会社は販売されている航洋艦を使用することが義務付けられている。まあなんだかんだいって世界的に見ると松型や神風型も海賊に対して護衛出来るほどの性能はあるのである。(尤も、最近の海賊艦は魔改造された艦が多く民間護衛会社の被撃沈率が高い傾向にあるが。)
簡単に言うと、大湊海洋学校は比較的予算に恵まれていないのである。ブルーマーメイド養成学校は基本的に卒業時の成績とそれまでの教育艦としての活動歴でブルーマーメイドでの准士官・下士官に任命される。よって、ブルーマーメイド養成学校やホワイトドルフィン養成学校は予算的にほかの学校よりも特に多い。のだが、准士官以上の割合の多い学校にこそ予算が多く割り振られるため、三大海洋学校以外では予算が厳しめである。
補足すると、ブルーマーメイド・ホワイトドルフィンの組織はあのかわぐちかいじの沈黙の艦隊にあった『やまと保険』に近い。
やまと保険
やまとが存在し続けることが他国の利益になるような政治的構造を作ることを目的とした保険。イギリス大手保険会社を介して日本政府がやまとに保険をかけ、理念に同意した各国政府を保険の引受人、国連を受取人とする。これにより軍産複合体のように戦争が利益を生む構造ではなく、平和が利益を生む構造へシフトさせ、結果的に軍事バランスとも条約とも無関係に平和関係が成立するという、新しい安全保障体制である。国連の沈黙の艦隊実行委員長曰く「平和を金で買う」保険であり、彼は世界市民一人一人に1ドルからの株主を募り、配当として世界の核兵器廃絶と軍備永久放棄を目指す株式会社を設立することを提唱した。(引用・参照:Wikipedia)
ブルーマーメイド・ホワイトドルフィンの組織はブルーマーメイド憲章署名国が予算と技術を出し合って運営する、全ての署名国に対する抑止力であり、非署名国に対する防衛力である。上のやまと保険に形は近いものがある。一応、日本をはじめとした各国の海上安全委員会もあるが、それはあくまで港とブルーマーメイド・ホワイトドルフィン及びその養成学校への発言権があるだけである。
そんな話をしているうちに曳航索は取り付けを終えた。
私たちは晴風に戻った。
その空は、先程までの澄み渡ったそら色と言うよりはどんよりとした青色が広がっていた。
☆☆☆☆☆
「航海長より、艦長へ。指揮権を戻します。」
「はい、了解です。指揮権を受け取ったよ。ありがとね、リンちゃん。」
「は、はい。」
晴風に戻ってから各科の中で休息などのローテを組みつつゆったりとした空気が流れる中、指揮権を戻した明乃は機関室へ向かう。
「機関室どう?」
「てやんでぃ!どーもこーもなんでぐずってるのかがわからん。」
「ホント、総点検になっちゃってるわよねぇ。」
そうボヤくのは機関長の柳原麻侖と機関員の伊勢桜良である。
「2人ともボヤいてないで手を動かしてよ。」
「マロンは動かしてるんでぃ!」
「ちょっと瑠奈、それは違う。」
「えー!?このバルブってここじゃないの?」
「瑠奈は分解できても組み立てはダメね。」
2人に突っ込む若狭麗緒にその後ろで言い合い(掛け合い?)をするのは駿河留奈と広田空である。
明乃が機関室に入ってきたことすら気がついていない。
「やれやれ…宗谷さんがいないなんて…」
ブツブツ独り言を言いつつ黙々と機関長並みの速さで手を動かすのは機関助手の黒木洋美だ。どうやら試験会場で出会ったましろに一目惚れしたそうだ。
乾いた笑みを浮かべつつ機関室を後にする明乃。まったりした空気の流れる晴風の中でこの機関室だけは言葉だけ聞くとホンワカしてそうだが、殺伐とした空気が漂っている。しかも発電機は回し続けているので機関操作室ならともかく機関室は暑い。これには明乃もうへぇという顔を浮かべてしまう。
「あれ?美波さん?」
「ん?艦長。どうかしたか?」
「こんなところで美波さんこそ何してるの?」
「ああ。…迷った。」
「迷ったのかぁ…迷った!?」
「ああ。…全ての道はローマに通ず。狭い艦内だ。歩いていればいつか帰れる。」
「そ、そっかあー。」(その泣きそうな目で言われても…)「案内しようか?」
「……不本意だが、頼む。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。」
「ちょっと違うような気がするけど…」
「………そうか?気にするな。医務室に着いたら茶くらいだそう。」
「まさかと思うけど砂糖なしの塩ココアじゃないよね!?」
「意外と美味いぞ?」
「え、遠慮しとくよ…はいここだよ。」
「かたじけない。」
塩ココア砂糖なしはどうやら天才に好まれるようである。ほのかといい美波といい。
☆☆☆☆☆
「猿島が反乱!?」
晴風が学校に戻ってから数時間がたって、日本船籍の貨物船が砲撃を受けたとブルーマーメイド西太平洋北方司令部から横須賀女子海洋学校の宗谷真雪に連絡があった。
猿島は父島や母島などの離島を結ぶ小型貨物船を砲撃。これを中破させ負傷者を多数出したと。
これに対しブルーマーメイド西太平洋北方司令部は非常事態を宣言。日本会場安全委員会は全ての港に出港禁止を発令し、付近の国も同じような反応を示した。
「速やかに学内で処理せよ。これ以上の犠牲が出るようであれば強硬手段もやむなしと判断する。ブルーマーメイド西太平洋北方司令部発、横須賀女子海洋学校宛。以上。」
養成学校は一応ブルーマーメイド・ホワイトドルフィンの一部隊の教育隊としての扱いである。
ブルーマーメイド・ホワイトドルフィンの階級は上から、
上級海将(名誉職)
海将
准海将
海将補
総監
1~3監
1~3正
1~3尉
准尉
曹長
1~3曹
士長
1~3士
となっており、海将補以上が将官、総監から3正までが士官、1尉から3尉が准士官、准尉と曹長が下士官、1曹から3士が…いわゆる兵卒である。
あくまで准士官・下士官を育成するための学校である、養成学校の生徒は各艦の役職によって仮階級が与えられる。
例えば、士官候補生が入っていない場合、
艦長→曹長
副長→1曹
航海長・砲術長・水雷長・機関長・主計長→2曹
応急長・機関助手・医務長・記録員・給養長・予備操舵員→3曹
その他→士長
と言った具合である。
晴風の場合、士官候補生が2人居るので、
艦長→3尉
副長→准尉
となっている。
さらにブルーマーメイドには部隊内で問題が発生した場合、まずその部隊の中での解決が求められることが多い。その方が大事になりづらい。
「今動ける艦は?」
「間宮・明石と護衛の浜風・舞風、速吸と護衛の秋風、学校にいる晴風、教員艦として長良・浦風が学校で待機中。他に山城、加賀、伊吹、生駒、青葉、萩風、谷風がドック入りしています。」
「伊吹と生駒所属の空挺団は?」
「あれは現在使われていないため…学生が3年次に選択科目として使うための艦ですから…ただ、青葉だけは最速で前倒しすれば4月の下旬には間に合います。その他はどれだけ急いでも航洋艦クラスで3ヶ月はかかります。」
「そう…通信の取れない艦は?」
「比叡、鳥海、摩耶、五十鈴、名取、天津風、磯風、時津風、照月、涼月、アドミラル・グラーフ・シュペー…そして武蔵です。」