保存してあったものを再保存して投稿します。
誤字などあったらまた後ほど……。
こんな自分ですが、今年もよろしくお願いします。
「……うわぁ」
望遠鏡を覗いていた青年は、一体何を見つけたのか、ピューと、小さく口笛を鳴らした。
「どうしたんですか? 珍しい」
その青年……シュグイの様子を物珍しそうに眺めてから尋ねたのは、傍らにいる黒猫……いや、一見猫に見えなくもないが、正確には猫ではないだろう。
彼の背中からは小振りな、しかし間違いなく本物であろう、蝙蝠に似た黒い羽が見えていた。
彼はシュグイの主が使役している魔物であり、彼がこの世に存在するための憑依の器として用いているのが猫の体であるために、今はほとんど猫に近い姿になっている。分類上は「使い魔」とされる、名をビンティと言った。
「いやぁ。珍しい知人を見かけたものだから、ついね」
そう答えてシュグイは笑う。ビンティはその知人を知らないが故に、首を傾げるに留めたが、それをシュグイは続ける事への許容と解釈した。
「あの二人がいること、シャンに知らせた方が良いよね? ……でも黙ったまま、気付かなかったシャンとばったり出くわした所を見るのも面白そう。……迷うなぁ。どうしようかなぁ」
ウキウキと、玩具を与えられたばかりの子どものような笑みを浮かべるシュグイは、間違いなくこの予定外の鉢合わせを楽しんでいた。
普段ならば仕事の間は、主と呼ぶべき主人のことを、思わず実名……シャンと、呼び捨ててしまうほどだ。
仕事中で無ければ、楽しんでいるのを傍観するだけで済むのだが、これは仕事中の出来事。
不測の事態はそのまま、シャンの……ビンティの使役者の危険となり得る。
それは、彼を主として生み出されている……「式神」と言う立場であるシュグイにも変わりは無いことなのだが。
「迷うまでのことでもないでしょう。さっさと通信回路を繋いで、連絡を取って下さい。それで、知人とは誰のことですか?」
知人となると、自分達と同じ「
少なくとも、彼と同じ分類には該当しない存在だろう。
「ビンティも名前くらい知っていると思うけど……「
「は? 知り合いだったのですか? シャンが彼らと?」
「スモール・イーブル」……それは、
彼らが名を知られ始めたのは今から数年前。
それにも関わらず、彼らは齢十にも満たない年齢で、満足な後ろ盾も持たないまま個人として名を馳せ、成果を上げた。
長い
「……でも、その主張で行くならシャンだって似たようなものだよ? 後ろ盾もないし、名は通っているじゃん」
いつになく饒舌となっているビンティに対して、己の主を蔑ろにされているように感じたのか、シュグイは、不満げな様子で物申した。
「シャンはあくまで強奪が主目的であり、そこに命のやりとりが入ることは稀でしょう? 彼らの場合は常に命の危険が付きまといますし、その分成功報酬もこちらとは比べものにならないものになっているんでしょうね」
しみじみと零される言葉の裏にあるのは羨望か。
その分苦労も色々あると言うことまで思い至らないのだろう、まだ人生経験は浅いこの使い魔に、苦笑を返して、シュグイは改めて望遠鏡の向こうに向き直った。
「さてと……じゃあちょっと行ってくるね?」
「……はい?」
にっこりと笑ったシュグイに対して、最初は訝しむ様子を見せたビンティだったが、直ぐさまシュグイの内心を察したのか、次いで呆れたようにため息を零した。
「通信回路で連絡を取ればすむ話でしょう。わざわざあなたが動くことではありませんよ」
「えぇ? でもさぁ、それだと不測の事態が起きたときに迅速な行動がとれないでしょう? やっぱり事件が起きるのは現場なんだから現場にいなきゃ意味ないよねぇ!」
「……あなた今、途中から説明自体面倒になってきていませんでしたか?」
ジト目でこちらを見つめるビンティに乾いた笑みで誤魔化そうとするシュグイの旗色は悪い。
その場の勢いで乗り切ろうとしたようだが、元々直情的でないビンティにそれはあまり効果がない事だった。
「うぅ……ビンティ~」
「まぁ、いいですけど」
成人男性の姿を持つシュグイと、猫の姿であるビンティ。
二人の体格差故か、ビンティを抱え込むような形で言い募っていたシュグイに、折れたのはビンティの方だった。
元より同じ人物であるシャンを主としている二人ではあるが、片や「式神」として、彼のもつ力によって形作られた生命体であるシュグイと、「使い魔」として、契約によってこの世界に存在しているとはいえ、異界に確固とした生命として独立しているビンティとでは、主に対する執着心も異なる。
(執着心よりも、依存度かもしれませんが)
「わぁい! ビンティ、ありがとうっ!!」
変わり身が早いと言うか何というか、と思わず考えてしまうほどの表情の変化に、再びビンティは、深い、深いため息を落とした。