Reincarnation of Z   作:秋月 皐

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 第二章.北の楽園
温かな家庭


グレートブリテン島の北西にあるフェロー諸島。そのひとつであるノルソイ島の、今は使われなくなった港にU-231は寄港していた。

 

 第一次降下作戦時にジオン軍が築き上げた天然の要塞基地。オデッサ作戦で敗走したジオン兵と、その関係者が住み着いて、いつしか北の楽園(ノースエデン)基地と呼ばれるようになっていた。

 

 奪取したコンテナを、さざ波に揺られるU-231から地上へと移すクレーンの上で、晴れた空の下、海鳥達が自由気ままに飛んでいる。

 

 整備の為に愛機であるジュリックを基地の格納庫まで移動させると、機付長に機体を任せて、海に近い住宅地にあるケードルの家へと向かい、扉を叩いた。

 

「少尉どの、きましたか」

「邪魔させていただくよ」

 

 家に入ると、入ってきたカリートに気づいたのか、モビルスーツに似たロボットのおもちゃで遊んでいた幼子がどたばたと歩いてきた。

 

「しょうい!」

「ルークスも大きくなったな。今年で三歳だったか?」

 

 第一次降下作戦の時にケードルが出会った女性と結婚して生まれた子、ルークスの頭をカリートが撫でてやると、嬉しそうな笑みを浮かべながら「はい!」と元気に返事をした。

 

「あら、カリートさん。いらっしゃい」

「リラさん、お邪魔させていただきます」

 

 ケードルの妻であるリラに挨拶をしていると、奥からよい香りが漂ってきた。

 

「ちょうどシチューができた所だから、座っていてくださいね」

 

 リラに言われた通り椅子に腰掛けると、隣にケードルがルークスを座らせて、ケードル自身はカリートの正面にある椅子に座った。

 

 隣に座ったルークスがカリートをキラキラとした瞳で見つめている。

 

「こいつ、少尉どののことが大好きみたいで。父親である私よりも少尉と会うのを楽しみにしていたみたいなんですよ」

 

 カリートはルークスが生まれたばかりの頃から知っていた。赤子の頃にも遊んでやっていた覚えがあったが、そこまで懐かれていたとは思っていなかった。

 

「本当なのか?」

「これ、しょういにプレゼントです!」

 

 ルークスはポケットから、はがき程度の大きさの紙を取り出すと、カリートに手渡した。

 受け取って裏返すと、紫色で描かれたモビルスーツと金色の髪をした青年が描かれていた。

 

「これは、私とジュリックか? よく描けているじゃないか」

 

 頭を撫でて褒めてやると、彼は嬉しそうに笑った。

 

「お待たせしましたね」

 

 リラがテーブルにホワイトシチューが入った皿を並べる。シチューには一口大に切られたにんじんやじゃがいも、ブロッコリーと鶏肉が入っていた。

 

「さぁ、召し上がれ」

 

 スプーンを手に取り、更に沈めるとシチューと具材がスプーンの中へと転がり込む。すくい上げ、口元に運びほおばると、シチューの温かさと野菜の食感に鶏肉の味が口に広がる。

 リラの作るシチューが美味しいことは知っていたが、以前食べたよりも更に美味しくなっていた。

 

「これだけ美味い料理を作れるのなら、奥さんは店が開けるかもしれんな」

「もう、おだててもなにも出ませんよ」

「店を開くなら、看板はルークスが描くのが良いだろう」

 

 野菜を除けることもなくスープを食べるルークスの絵の腕を褒めてやりながらも食事を進める。

 

「まかせて、ママ!」

 

 口に入れていたパンを飲み込んだルークスが自信満々に言う。

 

「そうなると私と少尉どので料理を食べることになりますな?」

 

 食卓に笑みが巻き起こる。カリートは温かな家庭の中にいることを感じる一方で、家族として充実しているケードルと、その子であるルークスに羨ましさを感じていた。

 

 自分を軍に売った親父の顔が脳裏を横切る。振り払うようにシチューをもう一口、口へと放ろうと皿にスプーンを沈めると、スプーンは皿の底を突いた。いつのまにか、食べきってしまっていたようだった。

 

「カリートさん、おかわりしますか?」

 

 空になった皿に気づいたリラが尋ねてきた。親父のせいでリラの作るスープを十分に味わうことができなかったのが不満だったので、おかわりを頼むことにした。

 

「多めに作ってあるから、ルークスもあなたも、おかわりするのなら言うのよ」

 

 カリートの空になった皿を持って、キッチンへとリラが向かった。

 

******

 

 食事を終えたカリートは食事と絵の礼をリラとルークスに言ってからケードルと共にモビルスーツの整備を手伝うべく、格納庫へと向かうことにした。

 到着すると、ちょうど機付長がジュリックから昇降機を使って降りてきている所だった。

 

「ジュリックの調子はどうか」

「マグネットコーティングは問題ありません。ですが、消耗したパーツの替えが効かなかったので鹵獲したパーツを使用しました。こちらも問題はないかと思いますが、一度起動のテストをされたほうがよろしいかと」

 

 機付長と入れ替わる形で昇降機を使い、ジュリックのコクピットへと上がる。

 

「ありがとう、今すぐ動かすとしよう」

 

 コクピットへと乗り込むとルークスが描いた絵をコクピットに貼り付けて、メインとなる電源のスイッチを入れて、機体の立ち上げを開始する。メインコンソールが点いて、続いてジェネレーターを立ち上げる。

 機体の立ち上げを手順通りに行っていると、何度かの爆音が鳴り響いた。

 

「なんだ!」

 

 コクピットハッチを閉じながら通信系のスイッチをオンにするが、ノイズが酷い。このノイズの掛かり方は明らかにおかしいものであったが、ひとつだけ納得する理由をカリートは知っていた。

 

「ミノフスキー粒子か!」

 

 レーダーや通信機器に障害を発生させるミノフスキー粒子が突如として発生することは無い。それはつまり、ミノフスキー粒子を散布した何者かが居るということであって、何者かとは、連邦軍以外にあり得なかった。

 

 手順を飛ばしてジュリックを急いで立ち上げて、格納庫から出ると、三機の紺色をしたモビルスーツが住宅地に上陸していた。

 その内の三機に、カリートは見覚えがあった。二機はかつてジオン公国軍で運用されていた水中戦仕様のザクだ。

 鹵獲したザクを連邦が運用しているのは知っていたから、大した問題ではない。

 だが、残りの一機と共に運用されていることが、1人のジオン軍人にとって、堪らなく不快であった。

 V字型のアンテナと赤いゴーグルに隠れてはいるものの、はっきりと分かるツインアイ。ジオン軍人の皆が憎むと言っても過言ではないであろう悪魔。

 

「ガンダム、だと……?」




 第二章に突入です。
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