「これだけ攻撃しておいて降伏勧告か、ティターンズのやり方だな」
ジュリックが出たのとほぼ同時にロケットが飛来し、破壊された格納庫に身を隠しながら、ティターンズの降伏勧告をカリートは聞いていた。
破壊されたとはいえ、格納庫内の機体はそう簡単には破壊されていない。ゴッグのパワーなら、自力で瓦礫を押しのけてくるだろう。
様子を窺っていると、覚えのある振動がした。隠しドックの扉が開くときのものだ。
「誰がドッグの扉を開けと言った!」
カリートはコクピットの中で怒声を飛ばす。気づいたティターンズのモビルスーツは、海中へと飛び込んでいった。
「ケードル、私は奴らを押さえる。部下を退避させたらすぐに来いよ」
応答はないが、格納庫の残骸から逃げ出す整備兵たちが見えた。おおかた、ゴッグが瓦礫を押さえて、兵達の逃げ道を作っているのだろう。
下手に手助けをすれば、かえって瓦礫を崩落させてしまう危険がある。手助けはせず、敵を追うようにして海中へと飛び込んだ。
******
現れたズゴックに対して、水中型ガンダムを中心に、レイエスとクラノの水中型ザクが左右に展開すると、ズゴックは水中型ガンダムへと向かって突進してきた。
ラダーはズゴックの突進を、受け流すようにして躱す。
突進したズゴックにサブロックガンの照準を合わせようとしていると、後方からのロックオンアラートが鳴る。
開いた扉から現れた二機のアッガイが放つメガ粒子砲を、レイエスとクラノはぎりぎりのところで回避し、ズゴックをラダーに任せて、レイエスとクラノはアッガイと正対する。
すると、見慣れない機体が現れた。アッガイと似たような胴体をしているが、異形とも言える頭部を持つ機体。
アッグガイは、両腕に装備する鞭のようなヒートロッドを海中でなびかせている。
アッグガイの更に奥、扉の向こうには二隻の潜水艦の姿が見える。
片方はサウサンプトン基地を襲撃したものだろう。
だとすると、レイエスの陸戦型ジム改の足を撃ったゴッグとジュリックがいるはずだ。
現れたアッガイも僅か二機。ズゴックやアッグガイと合わせても基地守備隊と言うには少ない。
ユーコン級潜水艦二隻に満載できるだけのモビルスーツがいると見るのが、妥当なところだろう。
こちらの戦力があまりにも足りていない。ガンダムがいるとはいえ、水中型ザクは、アッガイ二機どころかズゴック一機にすら勝る性能の機体ではないのだ。
二機のアッガイが、レイエスとクラノの水中型ザクに迫る。距離を詰めて放たれたロケットランチャーを、水中バレルロールで回避して、サブロックガンを撃つが、中々当たらない。
「連邦風情が我らジオンに水中戦を挑むとはなぁ!」
至近距離まで接近してきたアッガイが右腕を伸ばし、アイアンネイルで斬りかかる。咄嗟にアッガイの腕を左手で押さえ、爆発ボルトを作動させて、胸部ロケットランチャーを切り離して、頭部機関砲を向ける。
「自爆するつもりか!?」
左腕を振りほどき、逃げようとするアッガイの前で、頭部機関砲を胸部ロケットランチャーに撃ち込む。全力で距離を離すアッガイに、クラノは思わず笑みを浮かべる。
機関砲の弾がロケットランチャーに当たるが、既に打ち切ったロケットランチャーは爆発するはずがない。
距離を取りながらサブロックガンをアッガイへと撃つが、やはり当たらない。シミュレーターのアッガイよりも機動力が良いように見える。
「この俺をこけにしやがって!」
再び突進してくるアッガイに、頭部機関砲を放つクラノ機の横で、ラダーの水中型ガンダムはズゴックにビームライフルを撃っていた。
******
「ズゴックのパイロットもさすがに手練れか」
メガ粒子砲とビームライフルを撃ち合う二機の距離は自然と縮まり、格闘戦へともつれ込む。ビームピックを突き出し、ズゴックのコクピットを狙うが、ぎりぎりの所で避けられて、脇腹を掠める。
カウンターと言わんばかりに突き出されたズゴックのアイアンネイルを避けながら、左腕に装備されたハープーンガンを撃ち込むが、重モビルスーツであるズゴックの装甲を貫くことができず、指向性の爆薬が小規模な爆発を起こした。
******
アッガイとアッグガイと対峙しながら、レイエスは妙な不快感とも戦っていた。
頭が重くなったような感覚を振り払うように頭を振り、気を晴らすべくアッガイに頭部機関砲とサブロックガンを撃つ。
「やけくそで撃った弾など、当たるものか!」
あざ笑うジオン兵の乗るアッガイが弾を避けるが、三発目の弾が吸い込まれるようにして、アッガイの左足に当たった。
「なんだと!」
「てぇぇいっ!」
左足を破損したアッガイに、肩のスパイクを突き出しながら突進を仕掛ける。
ぶつかった瞬間に強い衝撃で機体が揺れて、動きが止まってしまう。
すかさずアッグガイがヒートロッドを絡ませようと腕を伸ばす。避けようとレイエスは機体を動かすが、サブロックガンにヒートロッドが触れてしまった。
「しまっ――」
声を漏らそうとした瞬間、ヒートロッドの高熱がサブロックガンの弾薬を爆発させる。
サブロックガンから手を離すが、爆発に巻きこまれた右腕が損傷してしまった。
近接用の武器もなく、頭部機関砲以外にまともな武装はない。なんとかアッガイとアッグガイから距離を取れたが、このまま交戦を続けても勝てる見込みはゼロだろう。
この後の自分がどうなるか、考える必要もない。だが、ここで自分が死ねばより多くの人が、ジオン残党の手で苦しめられることになる。そんなことは死んでもごめんだ。
撤退用の閃光弾をセットして、頭部機関砲から放つ。放たれた閃光弾が強烈な光を水中型ザクと、ジオンのモビルスーツとの間に発生させた。
反転し、撤退しようとしたその瞬間。紫色の鉄の塊が海中へとダイブしてきた。
******
「ジュリックか!?」
突進ばかりのアッガイをいなしたクラノは、ジュリックに向かってサブロックガンを撃つ。
現れたジュリックは異常とも言える速度でクラノの撃った弾をかわし、まともな武装を持たないレイエス機を無視して、クラノの水中型ザクに迫る。
何発撃っても、まるで撃たれる場所が分かっているかのようにかわすジュリックに、恐怖を覚える。
「まさか、ニュータイプなのか」
胸の鼓動が早くなり、自分に死が近づいていることを知らせる。コクピット内のアラームが、耳を貫くほどにけたたましく警報を鳴らしている。
死ぬ。
一度は死んだことのあるクラノではあったからこそ、死への恐怖は人一倍強いものだった。もう二度と、全てが遠ざかっていくような、あの感覚を味わいたくはない。
ピンク色に光るジュリックのモノアイから、背けるようにして強く目を閉じる。
機体に強い衝撃が――――こない。
恐る恐る目を開くと、水中型ガンダムのビームピックと、ジュリックのアイアンネイルがつばぜり合っていた。
「ガンダムか、一度落としてみたかったんだよなぁ!」
******
「部下をやらせるわけにはいかん」
互いの格闘武器が弾き合うと、ジュリックの胸部メガ粒子砲が、水中型ガンダムに放たれる。
黄色の閃光をロールすることで回避した水中型ガンダムは、左手に持ったビームピックのリミッターをマニュアル操作で解除し、出力を限界まで上げて、ジュリックに向かって投げつける。
水中を高速で回転するビームピックのビーム部分に向かって、水中型ガンダムはビームライフルを撃ち込み、ビームを拡散させた。
拡散したビームが極小規模な水蒸気爆発を起こし、白い煙のような泡を大量に発生させる。
「目眩ましごときで」
大量に発生した泡を掻き破るように直進してきたジュリックに、水中型ガンダムは右手のハンドアンカーを射出する。
易々とかわされてしまうが、かわした先にいたズゴックの右足を、ハンドアンカーが掴んだ。二本目のビームピックを左手に持ちながらズゴックを中心に周回するようにしてハンドアンカーを絡ませる。
一気に巻き取り、動けなくなったズゴックに近づくと、ビームピックの出力を下げて、ズゴックの核反応炉(ジェネレーター)の位置を確認する。
「あいつ、なにをするつもりだ」
「十分に研究された機体を使うから、こういうことをされるんだ」
ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉の、コアとも言えるIフィールドジェネレーターを、ビームピックで焼き切る。
「レイエス、クラノ対ショック姿勢!」
******
ズゴックを蹴飛ばしたラダーの通信に驚くも、言われた通りに対ショック姿勢を取る。
次の瞬間、Iフィールドで守られていない状態で融合した重水素とヘリウム3が再び分離することで生み出されたエネルギーが核爆発として現れて、ティターンズもジオンも関係なく周囲にあるもの全てを強い衝撃と共に吹き飛ばした。
衝撃はやがて巨大な津波となり、放射線で汚染された波が