Reincarnation of Z   作:秋月 皐

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再出撃

 後続の部隊がラダー隊を発見したのは、ズゴックが爆発してから七時間が経った頃だった。

 

「こりゃ酷い」

 

 そう話したのはジム・スループのパイロットだ。

 クラノの水中型ザクはコクピットを守ろうとした両腕がひしゃげていて、こじ開けてクラノを救出するのにも時間が掛かった。

 

 レイエスの機体も似たような状況であったが、爆発の中心近くにいたラダーの水中型ガンダムは回収不可能と判断されて、水面近くまで浮上させてから水中でコクピットをこじ開けた後に投棄されたそうだ。

 

 爆発の際、コクピット内に走った衝撃は強いものだったが、パイロットスーツを着ていたおかげでクラノはまる一日の気絶で済んだ。軍医からは養生のため一日医務室のベッドで休むように言われていたが、ブリーフィングルームに呼び出された。

 

 嫌な考えを振り払うように頭を振りながらクラノが廊下を歩いていると、レイエスと合流した。

 

「クラノさん、お疲れ様です」

「レイエス、身体は大丈夫なのか?」

「なんとか。でも、ブリーフィングルームに呼び出しって……まさか、今から作戦じゃないですよね?」

 

 そんなわけないだろうと思ったが、同時にフラグが立ってしまったとも思ってしまった。

 

「それにしても、クラノさん。隊長のこと、どう思います?」

 

 何と答えるべきか逡巡したが、ただ一言「ヤバい」とだけ答えた。

 

 エリートであるティターズのパイロットなら、コクピットだけを潰すぐらい出来てもおかしくない。しかし、核反応炉のジェネレーターだけを破壊するなんて、もはや神業の域だ。

 

 それに、今回はジオン残党の基地でやったから致命的な被害を与えることができたが、起きる被害の規模を考えれば普通はやらない。

 

「隊長、仮にもガンダムを壊してしまいましたから、始末書に追われていると思ったんですけどね……」

 

 ブリーフィングルームに着くと、先に来ていたラダーが二人を見て、席に座るよう促した。

 

「レイエス、クラノ。全快前で悪いが、前回の後始末をしに行く」

 

 ブリーフィングモニターに表示されたのは、ユーコン級潜水艦と北大西洋の地図だ。

 

「フェロー諸島に潜伏していたジオン残党の潜水艦だが、どうやらあの爆発から逃れたらしい。奴らが逃げるとしたら、大西洋を渡った先にあるアメリカ大陸だ。が、奴らの物資を考えると大西洋を横断するのは不可能だ」

 

 モニターに表示されていた地図が、グリーンランドとラブラドル海周辺を拡大して映す。

 

「奴らはグリーンランドを経由して、ラブラドル海を渡るつもりだろう。我々はそこを叩く」

「叩くって言ったって、この具合ですよ。それに、機体もありません」

「機体なら新型のガルバルが用意されている。具合だって、心配性な医者が言っているに過ぎん」

 

 そうまで言われれば、二人は言い返すことができなかった。

 

 何よりも、自分たちが取り逃した敵であることは間違いない。放っておけば、ジオン兵が多くの人を殺す可能性だってあるのだ。

 

「テロが起きる前に鎮圧できるなら、それに超したことはないだろう。作戦開始は十二時間後だ。ガルバルに慣れてみせろ」

 

 無茶としか言えない要望に応えるべく、クラノはレイエスとともに格納庫へと向かった。

 

 ガルバルディβの姿を見たレイエスが「またジオンのモビルスーツ」と嘆いたので、クラノは「仕方ないだろ」と慰めにもならない声をかけた。

 

「なんだこの機体、癖が強すぎる! これが新型機なのか!?」

 

 今まで乗ったスタンダードな量産機に比べて、妙に癖のあるガルバルをねじ伏せるように操縦しようとするが、どうしても振り回されてしまう。

 それはレイエスの方も同じのようで、普段よりもスコアが低い。

 

「これだからジオンの機体は嫌なんだ!」

 

 シミュレーションを終えたレイエスが吐き捨てるように呟く。

 

「ジオンの機体だって、乗りこなしてみせないとな」

 

 自販機で購入した缶コーヒーをレイエスへ投げ渡す。

 

「……ありがとうございます。クラノさんって、絶対モテますよね」

 

 レイエスからの言葉でコーヒーを吹き出しそうになってしまった。

 

「いきなり何を言っているんだ!?」

 

 口元を袖で拭いながら目を見開く。

 

「顔は地味ですけど日系人でティターンズに入るぐらい優秀ですし、何より気遣いができる。今まで何人と付き合ったんです?」

「恋人なんて考えたこともなかった。そういうレイエスの方こそ、お前は顔が良いんだからモテるんじゃないのか?」

 

 レイエスの顔立ちは整っており、時代が時代ならモデルや俳優をしていてもおかしくない顔だ。恋人の一人や二人、居てもおかしくない。

 

「俺の親父、FF-6のパイロットだったんです。それで、子供の頃からパイロットに憧れてたんですよ。そしたら、突然モビルスーツなんて物が出てきて。戦闘機の時代が突然終わってしまって。仕方なくモビルスーツに乗っていたら、今やエリートですよ」

 

 笑いながら話すレイエスの表情は、どこか寂しそうなものであった。

 掛けるべき言葉が思い浮かばず、青白い山が描かれた缶コーヒーを飲みながら、話を聞き続ける。

 

「でも、連邦のモビルスーツは好きなんです。格好いいですから。だけど、コロニー落としをするような連中の機体になんか!」

「あまり大声で言うな。ガルバルだって、扱いは難しいが高いスペックを持つ機体だろ?」

「あんなのに乗るぐらいなら、旧式のジムに乗りたいですよ……」

 

 文句を言いながらも仕方がないことを理解しているのか、レイエスはガルバルのコクピットに戻って再びシミュレーションを始めた。

 

「まぁ、気持ちは分かるけどな……」

 

 これから先に開発されるティターンズのモビルスーツは、どれもこれもモノアイ(ジオン系)の機体だと言う事実を伝えてやる気にはならなかった。

 

「何にしても、慣れるしかないんだろう」

 

 自分にそう言い聞かせると、クラノも再びシミュレーターを起動した。


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