Reincarnation of Z   作:秋月 皐

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氷床の上で

 一面真っ白な氷床の上を、三機のガルバルディはスラスターを併用して進む。

 

 最大望遠で視認出来る距離には、二機のモビルスーツ。バケツ頭のザク改と、背部にバックパックを背負ったドム寒冷地仕様だ。

 

『仕掛けるぞ』

 

 ラダー機が一段と加速して、それに二機のガルバルディが続く。

 

 クラノがドムを射程内に捉えるのとほぼ同時に、ラダーとレイエスが射撃して、クラノもトリガーを引く。

 

《ちっ、連中はしつこいな》

 

 平然とかわしながらも、しびれを切らしたザクは後ろを振りからずに、ドラムマガジンがセットされたマシンガンを後ろへと向けた。

 

『うわっ!?』

 

 放たれた通常弾をラダーは予測していたかのように躱し、レイエスはシールドで弾く。

 

 更に距離を詰めたラダーがビームライフルを撃って、まるで次は当てるとでも言うかのように、ザクとドムの進む先へと着弾させた。

 

《中尉どの、ここで仕留めますか?》

《まだだ、と言いたいが……!》

 

 二機は交差してから左右へと広がるように進み、更にもう一度交差すると、そのままターンをしてラダー小隊と相対した。

 

「来たか」

『焦るな、時間を稼げれば良い』

『了解っ!』

 

 正面には二機のモビルスーツ。そして友軍は自分を含めて三機。数の上では有利だが、経験では圧倒的にジオンの方が上だ。

 

 ビームを三発ほど撃つが、まるでこちらのコンピューターの予測する場所を知っているかのように、予測先から消えて当たらない。

 

 一方で敵の弾はどれもが正確で、避けようにも当たってしまうのだから、クラノとレイエスはシールドを遣って受けるので精一杯だった。

 

 このまま直進して距離を狭めれば、より命中させやすくなるだろうが、それは敵も同じだ。

 

《後ろの二機は案山子ですなぁ!》

 

 ドムがジャイアント・バズーカを両手で構えて、こちらへと狙いを定めているのが見えた。

 

 マシンガンはシールドで防げても、バズーカの直撃には耐えられない。避けようにも当たってしまうのなら、奇策で避けるしか手は残ってなかった。

 

「ぐぅぅっ……!」

 

 バックパックから全力で噴射して機体を持ち上げるのと同時に、両足を前へと突き出し、思いっきり歯を食いしばって、機体に急制動をかける。意識をブラックアウトさせながらも、更に左側へと飛んで、バズーカを避けながらビームライフルを撃った。

 

《なんとっ!?》

 

 奇策で躱されたことに怯んだドムは、横に回るような動きで回避する。クラノも逃がすまいと続けて撃つが、急激に襲ってきた巨体の割りに高機動なドムに直撃をあてることは出来なかった。

 

 パイロットスーツを着ていても、襲いかかってきた強烈なプラスGのせいで、頭痛が酷い。それでもなんとか機体を着地させて、そのままスラスター移動へと移行する。

 

 ラダーとレイエスのガルバルディは、ザク改へと更に距離を詰めていた。

 

《接近戦を挑むか!》

 

 ザク改はマシンガンを持ったまま、ガルバルディはライフルを持ったまま。それぞれハンド・グレネードとビームサーベルを左手で抜く。

 

 接近する直前。放たれたビームライフルを、ザク改は右肩のシールドで受け流し、持っていたグレネードを投げる。ラダーがグレネードの爆発をシールドで受け止めた時には、ヒートホークを左手に握ったザク改が、ガルバルディの眼前まで迫っていた。

 

『ラダー隊長っ!』

《ちぃッ!》

 

 一条の光がレイエス機のライフルから放たれるのと同時。ザクは足裏のスラスターを吹かせて後方へと跳び、マシンガンをばらまいて、更にバレル下部に設置されたグレネードランチャーが火を吹かせた。

 

『その程度っ――!』

 

 マシンガンの弾を受けたシールドは、傍目からでも分かるぐらいボロボロになっていた。続くグレネード弾を受ければ、破壊されてしまうだろう。そう判断したラダーは防御姿勢から切り替えて、左手に持ったサーベルでグレネード弾をたたき切った。

 

《やるかッ!》

 

 グレネード弾をきられた事に驚きと感心を覚えながらも、カリートはヒートホークを構えて、グレネード弾の爆煙へと突っ込む。

 

 対するラダーも、接近するザクの気配に合わせてビームサーベルを振るった。

 

 煙を裂いて、二機のモビルスーツが激突する。

 

《〝きさまがティターンズの指揮官か。他の二人に比べて、随分とイイ動きをするじゃないか”》

 

 オープンチャンネルで発せられたジオン残党の声を聞いて、ラダー達は驚愕した。

 

 ジオンの残党にしては、声に若さがあった。

 

 一年戦争から既に四年が経って、当時学徒兵だった少年達でさえ今は成人している頃だろう。だと言うのに、敵の声は部隊最年少のレイエスの声よりも若く聞こえた。

 

『〝サウサンプトンから追っていた残党が、まさかこんな若造とはな”』

 

《〝……ら、がっ”》

 

 ミノフスキー粒子の影響か、ノイズが混ざった通信に小さな声が混ざる。

 

《〝お前らが、みんなをッ!”》

 

『隊長っ!』

 

 刃を交えている状況では、射撃で援護しようにも誤射してしまう危険がある。

 

 レイエスはライフルを腰にマウントし、右手でサーベルを抜いて、動きの止まっているザクへと切り掛かった。

 

 しかし、振られたビームサーベルは宙を切る。

 

『へっ?』

 

 直後、レイエスに横からぶん殴られたかのような衝撃が襲いかかった。

 

 切り結んでいたザクは小さく後ろに身体を反らして斬撃を躱し、巧みにホバー移動を操って、そのままレイエスのガルバルディに蹴りを入れたのだ。

 

「レイエスっ!」

 

 呼びかけるが、返事がない。

 

 直接コクピットを焼かれたわけではないのだから、気絶しているだけなのだろう。だが、地面に倒れて動かないモビルスーツなんて、ただの的だ。

 

《トドメは頂きますぜ!》

「させないっ!」

 

 クラノがカバーするように機を移動させると、レイエスを狙ったドムのバズーカを半分のサイズに縮ませて、分厚くさせたシールドで弾くように受け止めようとした。だが、バズーカの直撃にシールドが耐えきれる筈もなく、目の前で砕け散って、体勢を崩してしまう。

 

《墜ちろぉぉッ!》

「まだッ――!!」

 

 ドムは真っ直ぐに、握ったヒートサーベルを赤熱化させて、確実に仕留めようという意思を感じさせる。仲間を、そして妻と子供を奪われた者の叫びをクラノは知らない。

 

 ガルバルディはシールドを破壊された衝撃で、後ろ側へと押されている。そんな体勢でも、クラノは諦めていなかった。

 

 自由に動かせる右腕に握られているビームライフル。銃口の先にはジオンのドム。

 躊躇うことは一切ない。殺さなければ、殺される。

 

 だから、クラノは引き金を引いた。


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