Reincarnation of Z   作:秋月 皐

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 第一章.メリーさんの羊
日誌


 ハミルトン基地からロンドン基地へ転属となったクラノは、補給物資を乗せて各地を飛び回るミデア輸送機に便乗して、イギリスのロンドン・ヒースロー基地へと向かっていた。

 

 移動の途中、ハミルトン基地の自室にあった、クラノの所有物であるノートブック型のコンピュータ内に残された、日誌データを眺めていた。

 この世界の事とこの世界のマサシ・クラノと言う人物について知る為だ。

 

 宇宙世紀の世界で目覚めた事に意気揚々としていた矢先、ティターンズへの転属命令が下った事で、クラノは冷静さを取り戻す事ができた。

 ティターンズという悪役組織の末路は、敗北と崩壊だ。

 慎重に立ち回る事が出来なければ、死んでしまう可能性が極めて高いグリプス戦役が待っている上に、敗北で終わるのではお先真っ暗と言う他にない。

 

 無事生き伸びてたとしても、軍法会議で銃殺刑にされる可能性があった。そんな未来は誰もが嫌だろう。

 銃殺刑にされない為にも、クラノはまず知識を得る事にした。その知識の源になる物こそが、この世界のクラノが書いた日誌だ。

 

 日誌には、二度に渡るコロニー落としに関する出来事が、事細かに記述されていた。

 スペースノイド達の手で、二度に渡って行われたコロニー落とし。

 増えすぎた人口を宇宙へと移民させ、移民した人々の新たなる大地として建造されたコロニーを、巨大な弾頭に見立て、地球へと降下させて地上に致命的な打撃を与える悪魔の所業。

 

 二度目のコロニー落とし。コロニー、アイランド・イーズは、0083年11月に、大規模な穀倉地帯である、北米大陸へと落着した。

 

 当時、ハミルトン基地所属の新米モビルスーツパイロットとして、地球連邦軍に所属していたクラノは、軍の休暇を利用して、生まれ故郷である日本へと帰っていた。

 その為、コロニー落着の被害から免れる事が出来たのは幸いだったが、北米大陸に存在していた、ハミルトン基地は甚大な被害を負う事となった。

 

 被害状況の調査と復興の為に、休暇は取り止めになって、日本から呼び戻されたクラノは、大急ぎで戻ったが、北米に到着した時、眼前に広がる光景は、言葉にするのも憚れる程の惨事であった。

 

 宇宙から降ってきたコロニーの欠片は、基地のあちこちを抉り、基地の近郊でトウモロコシや小麦を育てて、基地にパンの差し入れをしてくれていた、気のいい老夫婦の住まう家付近は、もはや何があったのか分からない程だ。

 

 立派であったハミルトン基地は見る影もなく、仮設の司令部と、急造の滑走路だけが置かれて、基地の周辺に散乱するコロニーの残骸を、作業用のザクと、タンク型のモビルスーツ達が回収していた。

 

 スペースノイドが落としたコロニーの被害を、スペースノイドが作ったモビルスーツが片付けをしている奇妙な光景は、クラノの気持ちを複雑にさせた。

 

 ハミルトン基地に所属していた仲間達は見当たらず、その名前が死亡リストに刻まれているだけだった。

 

 クラノは悲しみ、嘆きながらも、地球連邦軍のモビルスーツパイロットとして、北米基地復興に尽力した。

 復興に集中する事で友人を失った悲しみを紛らわそうとしたのだ。

 

『もし、あの時あいつらを日本に誘っていれば』

『もっとあいつらと話していれば』

 

 そんな後悔が、心を揺るがせていた。

 

 やがて時は過ぎて、年を越した0084年5月までの間に、大方の基地施設は修繕されて、基地機能はなんとか回復した。

 しかし、コロニーの落着で大きなクレーターを作られてしまった穀倉地帯は、復興するのにかなり長い年月がかかる。

 

 アイランド・イーズ落着について、地球連邦軍はコロニー移送中の落着事故だと、世間に公表したが、宇宙で決起したジオン軍残党デラーズ・フリートが、コロニー落しを行ったのは、誰の目にも明らかであった。

 

 このような惨事を二度と繰り返さない為にと立ち上がったティターンズに、クラノが同調したのは当然の帰結であっただろう。

 

 日誌を読み終えたクラノは、この世界のマサシ・クラノという人物がティターンズに入隊した理由を理解したが、同時に別の疑問が生まれた。

 

 ジオン公国軍が行った一回目のコロニー落とし、ブリティッシュ作戦では、同じスペース・ノイドの住まうコロニー、アイランド・イフィッシュの住民約二千万人を毒ガスで虐殺した。

 

 スペース・ノイドの自治独立を謳うジオン公国が、スペース・ノイドを虐殺したのだ。

 

 それだけでは留まらず、二回目のコロニー落としを行った、ジオン残党軍デラーズ・フリート。これに怒りを覚えるのはアースノイドなら当然の事だろう。

 

 しかし、スペースノイド達の犯した過ちを、ティターンズが再び行う。

 ティターンズは30バンチに住む住民を毒ガスで虐殺するのだ。

 

 コロニーの住民を同じ毒ガスで虐殺したジオン軍に対して怒りを覚えた筈の連邦軍ティターンズが。

 

『ティターンズの正義はどこにあるんだ』

 

 一度はエゥーゴに離反する事も考えたクラノだったが、日誌を読んだクラノは理由を探す事にした。

 毒ガスを使って30バンチコロニーの住民を虐殺した本当の理由。

 

 それこそがこの宇宙世紀の世界にティターンズのパイロットとして、目覚めた理由に繋がる。

 そんな予感がしていた。


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