Reincarnation of Z   作:秋月 皐

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シミュレーター

 クラノは日誌を読み終えると、ミデア輸送機に搭載されていた、ジム・コマンドを借りさせて貰い、コクピットに座って、シミュレーターを起動させた。

 

 地球連邦軍のモビルスーツには、標準機能として、シミュレーター機能が搭載されている。

 本来は敵の新型機が現れた際に、前線で性能を分析し、対策を練る為に使われるべき物であるが、戦後となってしまった現在では、パイロットの個人トレーニングと言う名目で、主に暇潰しに使われているようだ。

 

 モビルスーツなど操縦した事の無いクラノにとっては、何よりの頼りとなった。

 宇宙世紀の世界で目覚めてから、配属先のロンドン基地に向かうまでの間、毎日シミュレーターを起動させては、モビルスーツを操縦して、仮想敵であるザクやドムを撃破していた。

 

 操縦技能は身体が感覚で覚えていた。なんて夢のような話は存在しなかった。

 クラノは一からマニュアルを熟読して、起動の手順を覚えて、起動させれば次は操縦方法を確認して、武器を扱い、敵を撃破する訓練を積んだ。

 

 パイロット候補生用の初心者モードから始めて、エリートパイロット用の上級モードの、地上版と宇宙版をクリアした時、ようやくティターンズとしてのスタートラインに立つことが出来たのだ。

 

 今日は上級モードの更に上である、伝説の相手との戦闘シミュレーションを行うことを決めていた。

 誰もが知っているモビルスーツ、ガンダムとの戦闘だ。

 

 ジム・コマンドのコクピットに座ってシミュレーターを起動すると、メインモニターには荒野が映し出された。

 実在する地球連邦軍の軍事演習場を、モデルにした場所だ。

 

 ピロローン。

 電子音がコクピット内で鳴る。敵モビルスーツをレーダーが捉えた音だ。

 

 メインモニターの直下に設置された、円形のレーダーモニターには、一つの菱形が表示されて、菱形の中にはRX-78という、ガンダムの型式番号が、シンボルマークとして表示されていた。

 

 望遠スコープを使用して、レーダーの反応がある方向を見渡すが、ガンダムは見当たらない。

 

 ジム・コマンドとガンダムでは機体性能の差が大きい。

 ハンディキャップとして、ガンダムのレーダーには、ジムは映らない設定になっている。

 その事を利用して、クラノは正面戦闘は避け、背後からの不意打ちを仕掛けることにした。

 

 ガンダムの左後方に回り込み、主兵装であるビーム・ガンの銃口を、ガンダムの頭部へと向けて、トリガーを引く。

 

 ピンク色の粒子の塊がピチュンと空を切りながら、ガンダムへと真っ直ぐ伸びていく。

 

 不意打ちは成功したとクラノが確信したその瞬間。

 ガンダムはバックパックのスラスターから火を吹かして、前へとステップし、ビームを回避した。

 

「うっそだろっ!」

 

 ビームを回避したガンダムは、機体各部のスラスターを自由自在に操り、旋回する。

 

 完全な不意打ちを避けられた事に動揺しながらも、クラノはブーストペダルを思いっきり踏み込み、スラスターを吹かせて、一気に後退しながら、ビーム・ガンを撃ち続ける。

 

 ガンダムはビームに怯む様子を見せない。

 それどころか、最小限の回避運動だけで、全てのビームを回避しながら、ジムへと急接近してくる。

 ガンダムがジム・コマンドを正面に捉えると、ガンダムの黄色いデュアルアイが、ピンクに光った。

 

 誰もが知る伝説の白いヤツ。

 悪魔の異名は伊達では無く、向けられたビームライフルの銃口に、シミュレーターであることを忘れた身体からは、汗が吹き出していた。

 

『殺される』

 

******

 

 気がつくとシミュレーターは終了していた。

 

 コクピットハッチが開き、格納庫の薄暗い灯りが見えた時、ようやくクラノは自我を取り戻した。

 

 大量に汗を吸ったフライトジャケットを脱ぎながら、誰に宛てるでも無く言葉を漏らす。

 

「あれは悪魔だ」

 

 コクピットから出て、着替えを済ませたクラノは、シミュレーターの記録を何度も見返していた。

 

 他の対ガンダムシミュレーションのログを漁るが、他のパイロットも同じ様に、ガンダムの威圧感に負けていた。

 

 似たり寄ったりな負け方をしているログの中、WINの文字が目に止まる。

 

「ガンダムに勝ったパイロット……!?」

 

 慌ててパイロットネームを確認する。

 

「ユウ・カジマ……? 聞いた事のない名前だ」

 

 確実にシミュレーションを熟して自信をつけていたが、名も知らぬパイロットに負けたことで、クラノは大きく溜息を吐き出そうとして――止めた。

 

 やるせない気持ちを心に抱えていると、ミデアに取り付けられたスピーカーから、声が流れる。

 

「そろそろロンドン・ヒースロー基地に到着する。席についてシートベルトをするように」

 

 席に座ってシートベルトを締めると、着陸に備えながら、窓から見える外の風景を眺めた。


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