グレートブリテン島の上空でモビルスーツを乗せたベースジャバーが三機、デルタ隊形を取りながらサウサンプトン基地へと飛んでいた。
「基地には高濃度のミノフスキー粒子が撒かれているようだ。無線は使い物にならんぞ」
「サウサンプトンには自分の友人が配属されている空母が寄港しています。ティターンズには入隊できませんでしたが、かなり優秀なパイロットです」
レイエスの声には緊張と焦りが混ざっていた。「彼なら大丈夫だ」と自分に言い聞かせているように聞こえる。
「スロットルを10パーセント上げる、遅れるな」
ラダー隊長の声は、はっきりとした聞き取りやすい声だ。
淡々としゃべる声は機械のようだが、機械にない優しさを感じる一言だった。
置いていかれないようにと、スロットルを上げるようにベースジャバーに指示を出す。
基地に近づくにつれて、音声にノイズが混ざり始めた。遠目に見えるサウサンプトン基地からは、いくつもの煙と炎が上がっている。
爆発が目視では確認できない。戦闘が終わった後のように見えた。
「基地が見えてきた、二人は互いのカバーを優先しろ」
「了解です」
「了解」
隊長であるラダーの合図で二番機のレイエス機が、そして三番機のクラノ機がベースジャバーから飛び降りる。降下中の隙をカバーする為に、ベースジャバーが前に出て、メガ粒子砲を発射した。
ユーコンに物資を積み込んでいたアッガイは作業を中断して、頭部バルカンをベースジャバーに撃つ。しかし、射角の限られた頭部バルカンでは、ベースジャバーに命中させることはできなかった。
仕方があるまいと、アッガイが腕部メガ粒子砲をベースジャバーに向けた時、三つの影が太陽を背にしながら降り立った。
ジム・クゥエルがシールドを構えながらトリガーを引き、放たれた弾丸がアッガイのモノアイレールを砕き、メインカメラが機能しなくなったことに動揺したアッガイのコクピットをビームサーベルで貫く。
コクピットだけを潰せば、機体の核融合炉が爆発することはない。場所を問わず、ジオン残党を鎮圧する目的で設立されたティターンズには必須とも言える技だった。
レイエスとクラノの乗る、陸戦型ジム改が教本通りにスラスターの噴射を利用して、ゆっくりと着地した。
「紺色の機体、噂のティターンズ様かよ」
憎らしい紺色の機体に向けて、腕部ロケットランチャーを放つ。
放たれたロケット弾は白い煙を吹きながらレイエスのジムへと向かう。
レイエスはシールドを使ってロケットから機体を守るが、爆発で機体のバランスを崩してしまった。
ロケットランチャーの命中を確認して、追撃を加えようとしたアッガイに、クラノの放ったジム・ライフルの弾丸が吸い込まれるように直撃して、左腕を吹き飛ばす。
周りに被害をだすことなく、敵を鎮圧する。
特殊部隊でありながら、ミリタリーポリスのような役割を持つティターンズならではの戦い方をなんとか身につけることができていたようだ。
「大丈夫か、レイエス少尉」
声をかけて、相手に声が届かないことを思い出す。
クラノにとって初めての実戦だが、多少の緊張はあれど、想像以上ではない。
焦って取り乱すとは真逆で、妙に頭が冴えていることに気づいた。
「こっちに動くなら、この辺りか」
アッガイの動きに合わせてトリガーを引く。
3発の弾丸が銃声を鳴らしながらアッガイへ飛んでいくと、左脚部に命中して、アッガイがバランスを崩して、転がり込むようにコンテナの影に身を潜めた。
「ティターンズ、エリートを名乗るだけのことはあるか」
左腕を吹き飛ばされたアッガイのパイロットがコクピット内で誰に宛てるでもなく呟き、歯を食いしばる。
アッガイ四機……いや、三機でティターンズ三機を抑える程度ならまだしも、コンテナを搭載したユーコンを守るのは難しいだろう。
戦闘が長引けばティターンズの増援がくることは容易に想像できる。
速やかに撤退する為にも、陽動をしかけた中尉を呼ぶべきだとジオン兵は考えた。
コンテナの陰に隠れたまま、霧掛かった空に信号弾を放つ。
「頼むぜ、ニュータイプの坊ちゃんっ……!」
信号弾の赤い光が、霧がかった空で輝いた。
更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
お詫びに二話の投稿をと考えていたのですが、難しいので代わりにフルアーマーガンダムに関する報告書を13日夕方頃に別のシリーズとして掲載予定です。よければそちらもご覧ください。