ため込んでいるのは7話ほどなので、間隔をそこそこ空けて投稿する予定です。
とりあえず、まずはプロローグから2話までを投稿する予定です。
アメリカ―――カリフォルニア州サンフランシスコ
100万ドルの夜景と謳われる魔都をバックに、ある捕り物が行われていた。
夜の高層ビルを滑空する鳥男―――ヴィラン名『ナイトホーク』は背後から迫りくる脅威―――猟犬から全力で逃げていた。
アメリカ―ヒーロー界では現在、とある『システム』が運用されている。
このシステムによって、個性社会となり治安の悪化したアメリカにおいて、ヴィラン、そして『潜在犯』と呼ばれるヴィラン予備軍を徹底的に隔離、排除、取り締まることで平和と秩序を齎した。
システムの名は―――『シビュラシステム』。
個性社会の台頭と同時期に産まれ、サイマティックスキャンによって計測した生体力場から市民の精神状態を科学的に分析し、そこから得られるデータをサイコパス―――人間の精神状態を科学的に分析して数値化したデータを指す―――として数値化したあと、導かれた深層心理から職業適性や欲求実現のための手
段などを提供する、包括的生涯福祉支援システムである。
アメリカ国民はこのシビュラシステムにより
未だこの更生施設から出てこられた潜在犯は『特例』を除き現れたことはない。
ナイトホークは街頭の簡易スキャンに引っかかっただけで潜在犯にされ職を追われ、更生施設へと移動中強引な脱走を試み成功した経歴を持つ潜在犯だ。
その後は軽犯罪を繰り返し、裏社会に潜んできた。
そしてその潜在犯たちを取り締まるのが厚生省ヴィラン対策課―――通称猟犬課である。
ヒーロー資格と得た後、厚生省の試験を
だが、アメリカにいるヴィランたちは絶対に彼らをヒーロー等とは呼ばない。
ヴィランを見つければ殺意を以て狩りに来る輩を、間違っても
「―――くそっ、くそっ!!
よりにもよって
ナイトホークの焦りは次第に逃走の精彩を欠いていき、ナイトホークが口にした『マッドスピード』と呼ばれた人物の哄笑が夜闇に響いた。
「クハハハハハッ!!
どうしたヴィランよ、ヒーローたる俺の職質に対し踵を返すとは意気地のない!!
貴様の速さでは俺から逃げ切る事など不可能、早々に観念し投降するがいい!!
抵抗は無意味と知れ!!」
まだ変声期も終えていない子供の声が聞こえてくる。
ナイトホークは逃走している最中にちらりと後方を見る。
そこには全身を黒尽くめのヒーロースーツで着込んだ小柄な少年がナイトホークのような空を飛ぶ羽もないのに重力を無視して追走し、後方10メートルまで迫ってきていた。
最年少ヒーローにして、下半期ヴィラン
アメリカヒーロー界における彼の名はノンストップヒーロー、グッドスピード。
アメリカ西部に大規模な勢力を持っていた
その後カリフォルニア州を中心にアメリカ西部にいるヴィランを捕縛、処分するまで止まらない過激派ヒーローとして僅か半年でアメリカ全土どころか、世界中にその名を知られる新進気鋭のヒーロー。
アメリカヴィラン界における彼の名は虐殺系ヒーロー、
ヴィランと聞けば容赦なく襲い掛かってくる狂気の死神。
軽犯罪だろうが重犯罪であろうと老若男女問わず、サイコパスを濁さず殲滅仕切る、狂気と畏怖の象徴だ。
ナイトホークよりもはるかに凶悪なヴィランを屠ってきた彼にとって、ナイトホークを狩るなど容易いことだと―――ナイトホーク自身はそう判断して決して反撃もせず、逃げに徹したのだ。
これまで数多のヒーローたちから逃げ切ってきた個性を使って。
だが、そのちっぽけな自負もこれまでなのか、10メートルの距離は段々と詰められていき、遂に背後まで近付かれてしまう。
「―――さぁ、懺悔の時間だ。
墜落するまで、己の罪を数えるがいい!!」
瞬間、ナイトホークの背中に名状しがたい苦痛が彼に襲い掛かり、それがマッドスピードによって齎されたと理解するのは当然の帰結であった。
墜落するまで約10秒、己の羽があれば墜落は免れないが体勢を整れば致命傷は避けられる。
激痛を頭の隅に何とか押しやり、背中に力を入れようとして気付いた。
「―――半分、ない?」
ナイトホークは再度背中に力を籠める。
これまで25年間共にいた相棒に、己の一部に激励した。
さぁ起きろ俺の翼、その力強い羽ばたきで俺を守ってくれ。
だが、ナイトホークの激励に個性は答えなかった。
―――否、
「あ、ああ。
あああああああああああああああぁっ!?
ない、ない、ないぃっ!?
おれの、俺の羽がああっ!?」
ナイトホークのサイコパス係数はマッドスピードに追われていたことで危険域に迫ってきていたが、ここにきて己の個性に起こった
「―――オーバー300、残念だが、これまでのようだな」
ヴィラン対策課に所属した
これはアメリカ社会において一般でも知られていることで、犯罪係数が300を超えると執行対象に対して
端的に言って、ナイトホークはこの世にいらない人間とマッドスピードに―――シビュラシステムに宣告されたのである。
「ヴィラン名ナイトホーク、本名ヴィル・ミーガン。
エリミネート、執行する」
漆黒の拳銃がナイトホーク―――ヴィルに向けられ、引き金が引かれる。
閃光はヴィルの胸に吸い込まれ、同時に、彼の体は奇形に膨らみ破裂した。
地面にナイトホークだった残骸がまき散らされるが、すぐにヴィラン対策課が保有している対策チームによって、周囲の住民へのサイコパスを
こうして、サンフランシスコの夜の捕り物は容疑者死亡で幕を下ろしたのだった。
***
仕事を終えたマッドヒーロー、もといグッドスピード、本名
シャワーを浴びると手早く自動機械に軽い夜食を作るよう指示し、己は髪を乾かしながらテレビを見ている。
手首には所属している厚生省ヴィラン対策課から貸与されている通信端末もあり、いつでも対応可能な状態で待機している。
アクトは未成年だが
実力主義であるアメリカにおいて、年齢制限などなく緊急出動もあるからの行動であった。
夜食が出来上がるとすぐにレンジからトレイを取り出す。
食事を終えると最低でも日が変わるまで起きておくことを決めているアクトはテレビをサウンド代わりに黙々と本を読んでいる。
するとそこへ、通信端末がアラートを鳴らす。
緊急出動かと手首を見やったアクトだが、怪訝な顔をして端末に触れた。
指向性スピーカーから、アクトも聞き慣れた、だが決して心を許していない相手からの通信だった。
『―――ヒーローグッドスピード、夜分遅くに失礼致します。
こちらは
プライバシーもへったくれもない言葉を聞いたアクトだが、本人は気にしない。
高度な人工知能を持っていようと所詮はシステム―――機械仕掛けに自室を覗かれようと、やましいものなどないからだ。
「用件は何だ、俺は緊急出動がなければもう寝る時間だ」
『承知しております。
ですが、緊急の連絡を要すると判断し、こうして貴方と話をしている次第です』
これまでの経験から、シビュラシステムから個人的な連絡が入るなど聞いたことのなかったアクトは手早く済ませようと話を進める。
「…ロクでもない用のようだな。
用件を言え」
『―――貴方に、長期派遣任務の命令を下します』
それはアクトにとって願ってもなかった機会であり、シビュラシステムにとって利益のある、いわゆるWin-Winな任務であった。
ありがとうございました。