グッドスピード!!   作:夢落ち ポカ

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大変遅くなりました。
FGOとか陰陽師とかキングスレイドとかRebelとか映画見てたら1か月以上過ぎたので慌てて書いた次第です。

誤字脱字ありましたらどしどし連絡ください。

あと、後進の催促をしてくださった のびにたか 様に謝罪と感謝を。

拙作を待ってくださり、ありがとうございます。

ではでは、どうぞ。



第016話 予選

 

 

 開始直後、アクトは選手たちに奇襲を受けた。

 襲撃した選手の大半は普通科や経営科、サポート科といったヒーロー科以外が同盟を組んで体育祭そっちのけで2週間前にさんざん扱き下ろしてくれた怨敵(アクト)を討ち取らんと反撃を一切許さない波状攻撃でアクトを足止めせんとしていたのだ。

 

 今回体育祭で設けられた特別ルール、アクトに課せられたハンデを十分に利用すべく、一秒でも長くゴールを潜り抜けまいと(・・・・・・・・・・・・・・・・・)必死の抵抗をみせていた。

 

 集中砲火を浴びるアクトといえばゼロフィールドを展開したまま襲撃してくる選手たちの個性による弾幕を停止させて盾にし、あるいは軌道をずらして消極的な自衛をしていた。

 

 

 『第一種目は障害物競走!! この特設スタジアムの外周を1周してのゴールだぜ!!ルールは簡単、コースアウトさえしなければ何でもありの残虐チキンレースだ!! 各所に設置されたカメラロボが興奮をお届けするぜ!!』

『おい、実況に(これ)俺いらないだろ』

 『解説はこの俺プレゼントマイク&ミイラマン!! そしてそして特別ゲストとして参加選手の1人にしてプロヒーロー―――』

 『―――グッドスピードだ、よろしくお茶の間の諸君。本日はなるべく血生臭いシーンは一切無しのクリアな映像をお届けさせて頂こう』

 『よろしくぅっ!! ところでグッドスピード、開始と同時にお前レースそっちのけで選手たちに襲われてるけど、めっちゃ冷静だな!!』

 『人気者はつらいな、どんな反撃(ファンサービス)をしようか考え中だ』

 視聴者(リスナー)が卒倒するような刺激的なシーンは勘弁してくれよ!?』

 『大丈夫だ、問題ない』

『問題しかないぞこの実況・・・』

 

 

 相澤の不安をよそに、先頭は轟を筆頭に第一関門を少しずつだが着実に突破していく。

 

 第一関門、雄英入試にも現れたヴィランロボ、その筆頭―――0ポイントに該当していた超巨大ロボット、通称ロボ・インフェルノが選手たちに立ち塞がる。

 

 A組は実戦経験を積んだ成果が早くも表れているのか、他クラスよりも一歩早く突破する生徒が多く突破していく。

 

 所変わってアクトは未だスタートゲートを潜り抜けず攻撃してくる選手の対処に追われていた。

 

 特別ルール上、アクトは直接選手に触れる訳にはいかず、現状スタートを潜り抜ける事すら出来ていない状況だ。

 

 本気を出せば5秒と掛からず攻撃してくる選手―――およそ100名を殺戮することも可能だが、ここはアメリカではない、おおっぴらに潜在犯を殺戮するような選択肢は最初から除外される。

 

 相手の体力の限界まで相手にするのを待つのが狙い目であるかもしれないが、襲撃に参加している選手の中にもヒーロー科に落ちた者もいてそれなりに鍛えている者も多く、最低でも10分も持ち堪えられるとアクトのプロヒーローとしての実力を疑問視される懸念も低い確率だが出て来ると考え、この案も除外した。

 

 残された選択はただ一つ、

 

「―――ゼロフィールド、領域最大展開!!」

「ちくしょう、体が動かねぇ!?」

「あああっ、コースアウトしていっちゃう!!」

「まだ戦えるのにいいいいいい!?」

 

 ルール違反をせず、生徒たちに退場してもらう事だった。

 

 直接触れてルール違反をさせようとする接近する選手を皮切りに、フィールドに触れた者を領域制御下においてスタジアムの選手席に向けて適当に放り込んでいく。

 

 少しでも領域内で走りでもすれば後はこちらのもので、コツを掴み始めると更に処理速度を上げていくアクトにプレゼントマイクの実況が響いた。

 

 『おおっと!!? なんてこった!! ついにグッドスピードの反撃が始まったぜ!! 瞬きする間に1人2人と選手席に放り込まれてコースアウトしていくぅ!! 明らかに軌道とかおかしいんだがそれでも選手はコースアウトしていく、直接触れられないという特別ルールの穴をついた頭脳プレイが炸裂だぜ!!?』

 『頭脳プレイとはあまり言えないな、正直この程度アメリカ本土のカリキュラムより楽だぞ』

 『答えられる範囲で教えて欲しいんだが、アメリカのシビュラシステムの出される試験はどのくらいの難易度なんだ?』

 『そうだな、日本で例えると・・・自衛隊の特殊部隊クラスの戦闘能力を持ったドローン1個中隊と時間制限つきで全機破壊する戦闘訓練とか、無人島に道具を現地調達して1ヶ月生活するサバイバル訓練があるな。ちなみに俺は全て最高評価だ・・・こういう時、『ドヤ顔』と言えばいいと部下が言っていたのだが、ドヤ顔とはなんだ?』

 『シビュラシステムこっわ!?!!? ヒーローというよりバトルマシン作ってるぜ!! ヒーローの本場が世紀末だなんてなんてシヴィーーーー!!??』

『アメリカは人口の割にヒーローの数が限られている分シビュラシステムが管理している戦闘用ドローンも配備されているからな。その戦闘用ドローンに不測の事態が起きても対処できる人材育成の為に想像を絶する訓練を課しているんだろう。参考になるか分からんが、そのうち学校のカリキュラムの参考になる課題がないか聞いてみてみたいものだな、あとドヤ顔についてはネットで検索しろ』

 

 

「こうなりゃ一秒でも長く時間稼ぎを・・・!!」

「距離を取れ、フィールドから離れて更なる時間稼ぎを!!」

「全てはグッドスピードに赤っ恥を掻かせるためにぃっ!!」

 

 自分たちは努力したがそれでも目の前のアクト(プロヒーロー)には敵わない。

 

 彼我の実力差を最初から気付いていた選手たちだがそれでもやめなかったのは意地があったからだ。

 

 この場に残った彼ら彼女らの殆どが中学受験時、ヒーローには向かない中途半端な個性だからとヒーロー科を受験せず箔付けも兼ねた雄英の普通科や経営科を受けたという引け目があった。

 

 それを知ってか知らずか、アクトは『それは間違っている、勝手に諦めて逃げ出したお前たちが悪い』と言葉を選ばない物言いは悔しさと、かつての夢を思い出すきっかけとなった。

 

 幼い頃の自分は無邪気に将来自分はヒーローになって家族を、友人を、そして見知らぬ人たちを助けるんだという夢があったことを。

 

 たった2週間で劇的な変化が起きるなど寝ぼけていない。

 

 だけど、せっかくの機会を最初から諦めて逃げ出すなんて無様を、自分の人生にこれ以上重ね塗りしない為に全力で立ち向かうと決めたのだ。

 

 一部努力の方向性を間違えた者もいたが、激しい抵抗を続ける選手たちも次第に数を減らしていき、そして―――、

 

 『スタートゲートを抜けてないグッドスピード以外の最後の選手がコースアウト!! 特別ルールにあった全ての選手がゲートを超えて5分後に出発の条件を誰にも触れることなくクリアしたぜ!! 現在スタートして4分を過ぎたところだが・・・1位の轟は既にコースを半分超えて第二関門に到着!! ここから5分後となると予選通過は厳しいかもしれないがそこはどうだいグッドスピード!?』

 『クハハハハッ!! 十分なハンデだ、お茶の間の視聴者に怒涛の展開をお届け出来そうで演出にも手が抜けないな!!』

 『全く意に介さず!! この男追い詰められている筈なのになんだこの傲慢さは!! ちなみに俺はこの状況下だと絶対に予選落ちしちまうな、ミイラマンどう思うよ!?』

『グッドスピードの個性は早さに由来した個性(・・)だからな、体力次第じゃ4㎞程度の距離を難なく突破出来るだろう。ただTV的には恐らく残像がギリギリ映るか土煙しか映らない面白くないシーンにしかならないだろうがな』

 

 全ての選手を場外送り(コースアウト)させたアクトは真っ新にしたスタートゲートからモニターを優雅に眺め、スタートまでの5分間を待つことにした。

 

 勿論プレゼントマイクとの実況も忘れない。

 

 参加選手にも拘らず、レースの実況をモニター越しにしているアクトは爆豪の言葉を借りると『舐めプ』としかとられない状況だ。

 

 距離は見る見る離されていく、先頭にいる轟、そして徐々に距離を詰めていく爆豪、そして3位集団をしり目にアクトは呑気に実況をしていた。

 

 『1位の轟選手はやはり個性の使いどころが上手いな、第二関門がまるで意味を成していない。自分を十全に活かせる環境、舞台を作り出すのもまたヒーローに必要な要素だ。それを追いつかんとペースを上げている爆豪、彼もまた爆風を活かしながら空を滑空するというのは並大抵の練習量では実現できなかっただろう、空中戦というのは数あるアドバンテージの中でも最上位に位置する要素(ファクター)だ。それをあの年で実用レベルに持ってきているというのは日本のヒーローの卵は粒ぞろいだな。3位集団もそれぞれ自分のペースを保って予選を勝ち抜かんとゴールを目指しているようだ、それぞれ自分の個性を活かしてペース配分にも気を使っているように見える、大変結構(グッド)だ。4位集団は・・・ほう、なるほどな(・・・・・)?』

 『賞賛の嵐!! 丁寧なコメントと俺の言いたいことほぼ全部言われていうことねえゼ畜生!! ちなみにヒーローにおいての環境設定とかについてグッドスピードはアメリカではどうだったんだ?』

 『無論出来ていた、個性の応用で空中戦も可能な俺は街への被害を最小限に潜在犯―――日本でいうところのヴィランだ―――を逮捕等していた。俺の個性は極めれば汎用性は増していくからな、戦闘、救助、災害対応と俺の活躍の場は留まるところを知らんのだ、ドヤァ』

『―――おい、予選中にネット検索するのはよせ、あと使い方間違っているぞドヤ顔(それ)

 

 相澤に指摘されて仕方なしにネット検索をやめて思索を続ける。

 

 轟焦凍―――現在1位を走る少年の個性の汎用性の分析だ。

 

 1年次において頭2つは抜きん出た逸材、少々雑さも見られるものの、特大の原石であることはまず間違いない。

 

 ―――サイコパスの濁りさえなければ、是非ともアメリカにスカウトしたい人材なのだが。

 

 渡米する前から知っていたが改めて情報収集して詳細に調べて分かった事だが、轟にはエンデヴァーというヒーロー界トップクラスの父親を持つがいて、その下で虐待としか見られない訓練を個性が発現した頃から続けてきていたらしい。

 

 その常軌を逸した訓練に母は夫を諌めるも効果はなく、次第にその母も心を病んでいき自らの子供―――轟に煮え湯を浴びせたという。

 

 左目周辺の痣がその証拠で、それがきっかけで母は精神病院で現在まで入院している。

 

 優しかった母からの仕打ちに幼かった轟はその頃から歪んでいった。

 

 分別の付く頃になってきたと同時期の仕打ちと周囲の噂―――父親が母親の個性目当てで結婚して最強のヒーローを生み出そうとしている、いわゆる個性婚と呼ばれる倫理観が欠落した行為によって生み出されたのが自分たちだという言い表しようのない憎悪が生まれた瞬間だった。

 

 父親の(個性)は使わない、母親の(個性)で頂点に立つ。

 

 歪んだ願望が生まれてからは父親とは没交渉、ある程度の性能水準を満たしたからか、父親もそこまで干渉はしなくなっていた。

 

 報告書を読み終えてからアクトが思ったのは『度し難いほどに狭窄な視野を持ったバカの反抗期』だった。

 

 多角的な視野を持たない、証拠足り得るものが全て他者から与えられたものしかないという悲劇以下の茶番なのだからどうしようもないというべきか。

 

 この件がきっかけで彼のサイコパスが常時ワインレッドという攻撃的で自分の世界に閉じ籠ってしまう傾向の強い精神状態に陥ってしまっているのだろう。

 

 少なくとも、アクトの知った真相()をわざわざ轟に伝える気は今のところないし、そもそも伝えたところで現状の本人の心に届くとは思っていない。

 

 訳知り顔で真実を伝えたところで、ぽっと出のアクトの言葉をプロヒーローだからとバカ正直に信じられるほどの余裕が今の焦凍にはない。

 

 ただ、彼の父であるエンデヴァーに心から同情(・・・・・)しただけだった。

 

「・・・まったく、愛されて(・・・・)いながらそれが見えていないとは度し難いアホウが」

 

 マイクを切った状態でアクトは呟いた。

 

 そして―――条件()が整った瞬間である。

 

 『さぁさぁさぁ!! 遂にやって来たぜこの瞬間が!! プロヒーローグッドスピードの超速逆転劇が始まるぜぇっ!! リスナー、瞬きせずに―――』

 『―――さぁ、刻限だ。死に物狂いではしゃいでみせろ、有精卵ども!!』

 

 ×××

 

 アクトの宣言と共に、スピーカーからアクトがスタートしたと予選中の選手たちに知れ渡る。

 

 先頭を走っていた轟の表情に緊張が走った。

 

 『第一関門・・・は一瞬か、見えたか?』

 『何とか見えたぜ!! グッドスピードは向かい来る巨大ロボに一切触れずに通り過ぎていきやがった!!! これじゃあ足場が悪い程度の100メートル走だぜ!!』

 

 現在自分が走っているのは第3エリア『怒りのアフガン』と呼ばれるエリアで走り難い砂場を走破するという自分の個性であれば何の障害にもならないエリアだが、一つだけ難点があった。

 

 それは砂場の中に地雷が仕掛けられていて、それを踏んでしまうと凄まじい音と衝撃を周囲に撒き散らすのである。

 

 地雷自体はよく観察すれば避けることも可能とプレゼントマイクは言っていた。

 

 踏むことにより生じる衝撃は氷で防げるが、音に関して防ぐことは可能だが後続の道を作ってしまうという懸念が頭に過ぎり決断する事が出来ずにいた。

 

 だが事態は一変し、最初に宣戦布告した緑谷よりも更に上位にいる加減(アクト)がスタートしたという。

 

 単純な速さを見たのは体力テストの時のバカげた速度、50メートルを1秒と掛からずに走破したあの個性だ。

 

 あれが全力なのか測り切れていない自分では、最悪を想定するしかない。

 

 既に残りの距離を1キロを切っているが、アクトは自分がゴールに辿り着くよりも早く背後に追い付かれる可能性があると。

 

 しかもスタートと殆ど同時に第一関門をクリアしている、猶予はない。

 

 轟は決断する、例え後続に道を作ってしまうことになろうと一刻も早くゴールに辿り着くことを。

 

 右足から氷を生成、砂場に氷の足場を連続して生成することで移動しこのエリアの突破を図った。

 

 後背には空中を滑空する爆豪が迫ってきていて油断している場合ではない。

 

 加速し始めようとした時、第3エリアの後方から通常よりも大きな爆発音がしたことに思わず振り返ってしまった轟は思わず舌打ちしてしまう。

 

「・・・緑谷っ!!」

「デクだとっ!?」

 

 自分が宣戦布告をしたクラスメイト。

 

 実力的には確実に自分が上だがそれでも目で追ってしまう程に気になる個性を持った男。

 

 緑谷出久が空を飛んで一気に先頭にまで躍り出たのだ。

 

 否、自分を超え、首位になった。

 

 『A組緑谷爆発で猛追―――・・・っつーか!!! 抜いたあああああぁっ!!!』

 

「デクぁっ!!!!

 俺の前をいくんじゃねえっ!!」

「あれこれ悩んでる場合じゃねえか!!」

 

 爆豪が更に加速していく、彼の声音も緊張が孕んでいて余裕がないのが分かる焦りようだ。

 

 氷に乗ってデクに追い付かんと轟が加速していく。

 

 デクがやったことに轟が予測すると砂場にある地雷を一か所に集め、ワザと起動させることで発生した爆発の衝撃で飛んできたということ。

 

 となるとあれは飛行というよりもジャンプと見ればわかりやすい。

 

 つまり、跳ねた後は落ちるだけ(・・・・・)、着地した時の衝撃はかなりのものとなる。

 

 立て直すよりも早く抜き去れば二度目はない。

 

 だが、轟の予測は思わぬところで外れることになる。

 

 デクは轟と爆豪が己を抜かした瞬間、着地するより前に盾代わりにしていた鉄板を砂場に叩きつけた。

 

 いくつかの地雷に鉄板が当たったのか、爆発が連鎖して衝撃が不意打ちの形で抜き去った2人の背後に襲い掛かった。

 

 デクはその衝撃を一度目と同様利用して2人を追い越す。

 

 突風が起きて(・・・・・・)砂場エリアに一時的な砂嵐が起きたこともデクに運が味方したのか、2人の立て直しに時間がかかっていた。

 

 後はただ一直線、何の障害も見られない距離約100メートルを走り抜けば誰もが予想していなかったデクの予選1位通過が決定する。

 

 『緑谷間髪入れず連続妨害!!! なんと地雷エリア即クリア!!! イレイザーヘッドお前のクラスすげえな!! どういう教育してるんだ!!!?』

 『俺は何もしてねえ、奴らが勝手に火ィ付け合ってんだ・・・ろってオイ、マジか』

 『さぁさぁ序盤の展開から誰が予想できた!? 今一番に・・・って、なんだよイレイザー今いいとこ』

 『画面よく見ろ、有り得ないもん(・・・・・・・)が見えるから』

 『はあ? 画面って・・・え? はああああああぁ!!!?? おいおいおいおいどうなってやがる!!!?? 俺たち幻でも見てんのか!?』

 『GPSに不備はない・・・ってことは、幻覚じゃあないんだろうな』

 

 実況をしているプレゼントマイクとイレイザーヘッドの困惑した声がスピーカーから聞こえてきて、走っていたデクが訝しんだ。

 

 今は自分が1位だとデクは思っていた。

 

 自分の前には誰もいない。

 

 爆発に巻き込まれた轟と爆豪が立て直して追いかけてくる以外、不安などないはずだ。

 

 ゴールゲートが見えてきて、潜り抜ければそれで終わりだ。

 

 変わった着ぐるみが白いゴールテープを持っていてゴールゲートの真下に待っていた。

 

 走って、走って、考えるよりも前に体を動かしてゴールゲートを潜り抜ける。

 

 ゴールテープが切れた瞬間、プレゼントマイクの声がスピーカーから響き渡った。

 

 『―――ゴ~~~~ル!! さぁさぁ序盤の展開から誰が予想できた!? 俺は予想していなかったぜ、まさかこんな展開(・・・・・・・・)があるだなんてな!!! 今、緑谷出久が・・・』

 

 プレゼントマイクがデクに称賛の言葉を向けていた。

 

 観客たちもデクに歓迎の拍手を向けている。

 

 だが、デクは偶然だが気付いてしまった。

 

 歓迎の拍手の中、デクに向けた視線に若干の『哀れみ』が含まれていたことに。

 

 『緑谷出久が・・・・・・2位(・・)でゴオオオオオオオオオオオル!! 続けて3位轟、爆豪は4位だあああああああああ!!!』

 

 2位という言葉に驚いたデクはプレゼントマイクの言い間違いと思った。

 

 自分の前には誰もいなかった。

 

 ゴールゲートにもいなかった。

 

 いたのは二頭身の着ぐるみだけで、他にはいない。

 

 混乱しているとゴールテープを持っていた着ぐるみがデクの前にやってきていた。

 

 丸い、雪だるまに手足を付けたようなキャラクターだ。

 

 ジャケットシャツにネクタイまで黒という格好で胸元に光るバッジが一際デクの目に留まった。

 

『お疲れ様だったなデク(・・)、2位入賞おめでとう。

 いや、まだ予選なのに2位で入賞というのは使うのが早すぎたか?』

 

 バッジには原色の青、アメリカ国旗を背景に中央に天秤とアスクレピオスが描かれており、アメリカのヒーローを調べるときに見たロサンゼルス警察(・・・・・・・・)の物とそっくりだった。

 

 そして着ぐるみの口調、それだけで中にいる人間が誰か判ってしまった。

 

「・・・あ・・・・・・」

『ん?

 ああすまないな、ホロコスをしていたら誰か分からないか。

 今解除しよう』

 

 腕時計型の携帯端末に着ぐるみが触れると着ぐるみが消えて、代わりに1人の少年が現れた。

 

 立体映像を着込んだ着ぐるみだったのかとどこか抜けた考えをしていたが、次第に状況も理解してきてデクは苦笑いするしかないのか、乾いた笑みが零れた。

 

加減くん(・・・・)・・・いつの間にゴールしてたの?」

 

 どういう訳か、第3エリアではまだ第1エリアを抜けたばかりだった筈の加減アクトがそこにいた。

 

「ついさっきだ、20秒ほど前だったか?

 お前たち3人が混線した時に抜いてな、爆発(・・)で見えなかったのだろう。

 俺が1位になるのは当然として、2位の奴は頑張った褒美としてゴールテープを勝手に用意して待っていたのだ。

 クハハハハハ!!

 たかだか4キロ程度、俺の速さがあればハンデにもならんかったということだな!!」

「どこから突っ込めばいいんだろう・・・」

「すまないな、こういう時、どういった顔をしたらよいかわからなくてな・・・」

「・・・・・・笑えばいいんじゃないかな?」

「そうか?

 ではそうするとしようか、クハハハハハ!!!」

 

 適当に返すことにしたデクは予選を突破した疲れと目の前にあるアクト(理不尽)に表情が沈んでいく。

 

 予選とはいえ、2位になった人間の表情ではなかった。

 

 『審査が終わったぜ!! リスナー驚け!! 俺も驚いたぜ!! 第1位の発表だ!! ついさっきまで第1エリアを走っていたプロヒーロー、グッドスピードがいつの間にかゴールしてやがった!! え、何を言ってるかだって!? 俺もそう思うさ!! だろうと思って編集さんに急いでもらって証拠画像を用意してもらったのがこれだ!!』

 

 会場のディスプレイに映像と写真が半分ずつ現れた。

 

 第1エリアを抜けた辺りにあるカメラの前で何故かポージングしたアクトが腕時計型の端末に表示された時間とカメラの時間が大きくクローズアップされ、ズルをして近道をしてゴールした訳ではないという証拠が約50ほど現れた。

 

 しかもこの証拠の映像、場面が全て違っている(・・・・・・・・・・)という非常識な写真である。

 

 ちなみに、コースに配置されたカメラロボットは全部で100台あるという。

 

 その半分のカメラの前で一々違うポージングをしながらコースを進んでいったという事実をプレゼントマイクが説明し終える頃には予選を突破した殆どの選手が到着していて、アクトの奇行(・・)を見ていた者も何人かいたのか証言していた。

 

 とはいえ、アクトの奇行に大して驚いていない者もいた。

 

「アクト、何やってんの?」

「響香か、俺の速さを理解できない人間に分かりやすい証拠として携帯端末の時間とカメラの時間の誤魔化しが出来ないように見せたこと、別々のポージングをして合成写真でないように見せていたのだ」

「あの写真見たけど数秒ごとに違うカメラにポーズとってから消えるって・・・なにお化けみたいなことしてるのさ」

「いや、暇潰しも兼ねていた」

「・・・・・・どこから突っ込めばいいんだろう」

「笑えばいいらしいぞ?」

「笑えるか!!」

 

 こうして、予選会は終わり、本選43名が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




拙作を読んでいただき、ありがとうございました。
久々に書いたせいか、なんか主人公が天然寄りのトンチキになっている気がしてならない気分でした。

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