雄英高校の正門前に、黒塗りの高級車が止まった。
折しもその日は雄英高校の入学試験の日、運転手―――雷銅瞬太が主人ために先に車から降りてきて、扉を開ける。
受験生の少年少女たちはそれをみて『ああ、どっかの金持ちが記念受験に来たんだな』と思った。
ヒーロー業界では屈指の名門校である雄英高校ヒーロー科の倍率は驚愕の300倍。
特にヒーロー科に入学できるのは合計しても50名にも満たない極少数。
合格しないにしても、記念に受験したという思い出の欲しい学生はそれこそ五万といた。
もちろん、本気で入学する気でいる学生もいるが、300倍の合格率に届くのはその中でも僅かだ。
「アクトさん、雄英高校に着きましたよ。
13時に迎えに参りますので、それではこれで失礼しますね」
車から降りてきた少年―――アクトは瞬太から迎えの時間を聞くと頷いた。
15歳にしては平均を下回る小柄な体格をしているが、それ以上の威圧感のある覇気、そして端正な容姿に右半分を覆う黒い眼帯は見る者の第一印象を釘付けにするには十分なほどだった。
「それでは雷銅、行ってくる。
予定が変わるようなことがあればまた連絡する」
中性的だが確りとした声が聞こえる、まだ変声期前なのだろうが、これもまた覇気に満ちている。
「ご武運を」
「クハハ、期待に応えよう」
一言、そう声かけた瞬太の声音もどこか優しいものを感じさせ、お互いの関係が良好なことが伺える一幕だった。
アクトは少し離れた場所で転びかけている縮れ毛の少年の受験生に印象を浮かばせる個性を持っているのか―――同じく受験生の少女が助ける場面を視界に映すが、構わずアクトは行動へと向かっていくのだった。
***
『今日は俺のライヴへようこそー!!
エヴィバディセイヘイ!!』
マイクヒーロー、プレゼント・マイク。
アクトは最近まで海外で暮らしていたので知らないが、雄英高校以外でもラジオのパーソナリティを務めているほど人気のあるヒーローだと、隣の少年―――緑谷出久(以下デク)は小声だが若干興奮気味に語っていた。
ヒーローオタクなのか、彼は視界に映る教師側のヒーローたちを見ては興奮して、周りから白い目で見られていた。
『こいつぁシヴィーー!!
受験生のリスナー!
実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!
アーユーレディー!?』
ハイテンションなプレゼント・マイクの声掛けに対し、会場は冷め切っていた。
アクトも冷めた目でプレゼント・マイクを眺めており、ハイテンションな彼のプレゼンを聞いていた。
学力試験後、動きやすい体操服に着替えたのち実技試験が待っている。
模擬市街地演習、持ち込みは自由、プレゼン後は各自指定された演習会場へ向かっていくこととなる。
試験時間はたった10分、その間4種の仮想
1点、2点、3点の仮想ヴィランはそれぞれ特徴があるものの、アクトの個性を以てすれば容易い相手だが、全力を出す気はない。
この試験では情報収集、機動力、判断力、対応能力、戦闘能力、そしてヒーローとしての姿勢が評価されるものだろうと大よその当たりを付けたアクトは、試験中はそれに見合った対処をして見せれば合格は容易いだろうし、何より自らの個性をひけらかして対策されようものならたまったものではないからだ。
『―――物見遊山のつもりなら即刻
いかにもエリート青年から指摘を受けた出久は髪の毛同様縮こまってしまうが、アクトはそっと声をかける。
「気にしなくてもいいぞ出久よ、君以外にもざわついている受験生はたくさんいる。
この程度の雑音で集中力を乱されるようなら、端からそんな受験生は合格出来んさ」
アクトとしてもエリート青年の言は一理あると思ったが、記念受験だろうと本気の受験だろうと『結果』がすべてだ。
不真面目に見えようと凶暴であろうと根暗だろうと、試験次第で倍率300倍は皆平等である。
ただ、個性と本人の才気によって不平等なだけだ。
「あ、ありがとう、加減くん」
「礼はいらない、では出久、俺とは違う試験場所のようだから、これで。
また雄英高校のヒーロー科で会えることを祈っておこう」
「うっ、うん、またねっ!!」
おどおどしていた態度が一変、その瞳に強い覚悟を見たアクトは出久の個性を知らないが彼がこの試験に合格し、雄英高校の正門をくぐり抜けることを幻視した。
「俺からは以上だ、最後にリスナーへ我が校の“校訓”をプレゼントしよう!
かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!
真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者と!」
―――
「それでは皆、良い受難を!」
プレゼント・マイクのプレゼンが終わると受験生達は、それぞれの会場に向かった。
***
試験会場Aでは、それぞれの高校の体操着を着た受験生たちが
試験会場は高層ビルが乱立したりと臨場感に溢れている。
彼は海外で通っていたジュニアハイスクールでは体操着というものがない。
その為彼は入学式で着ていた落ち着いた服装ではなく、適当に持ってきていた無地のシャツと
黒の短パンという格好でいたが、それでも近寄り難さがあるのか、アクトに声をかける者はいない。
アクトはこうした試験ではお互いがライバルではあるが、協力体制を築いて合格率を上げようとする受験生がいてもおかしくないと思っていたのだが、お互いをライバル視していて緊張した表情をした受験生ばかりで少し失望していた。
アクトは周囲を見回して、見所のありそうな受験生を探していく。
別段強力な個性持ちではなく、補助にも応用可能な万能個性持ちが望ましいと眺めていると、一人の少女と目があった。
クールな印象のする、耳たぶにイヤホンのようなコードという
「では響香、俺と協力体制を取らないか?」
「…え、なに言ってんの?
ていうか、協力なんて…」
当初、信じられないといった表情をする耳郎だが、アクトの評価はそれに反して現在進行形でうなぎのぼり中だった。
「君を見て確信した、戦闘能力はあまり高くは見えないが、その冷静さの伺える印象はこの試験でも強い武器だ。
協力体制をしてはいけない、なんてルールはプレゼン中にはなかった。
同校同士で協力はさせていないようだが、実際の現場では他事務所での急場のペアなんていくらでもあるだろうから、この程度の協力何ら問題はないだろうさ。
それに俺との会話中、俺がどういう思惑で自分に話しかけてきているのか、メリットデメリットを測り続けている。
及第点だ、たとえ俺の助力があろうとなかろうと、君はこの試験に合格するだろうと予言しておこう」
アクトは耳郎との会話中、アクトの思惑が一体何なのか、この状況を眺めている受験生たちとを見比べ、アクトと手を組むのが最良なのかを天秤にかけ続けていた。
アクトの言葉を聞いて、慌てて協力体制を組もうとする受験生たちもいたが、お互いの足を引っ張ろうと表情に出ているのか、組めた者は殆どいないし、組めたとしても油断ならない相手が身近に出来たというデメリットにしかならないお粗末なものだ。
「…上から目線なのがちょっとムカつくけど、いいよ。
アンタと組んで、この試験クリアする」
「グッド、それでこそ俺が見込んだ同級生候補だ。
では響香、簡単な個性の紹介をして計画を立てるとしよう。
なに、俺と響香なら余裕だ」
「…何だかウチ、変な奴に目をつけられたのかも」
自信に満ちたアクトに、やや呆れと諦観の表情を浮かべた耳郎は実技試験開始まで、大雑把ではあるが作戦会議に入るのであった。
ありがとうございました。