グッドスピード!!   作:夢落ち ポカ

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第02話 圧倒的にして

 

『はいスタート』

 

 プレゼンに続いて、実技試験の中継はプレゼント・マイクが行うようだった。

 

 開始の宣言は唐突に行われた。

 

 プレゼント・マイク曰く、実践ではカウントはしないから。

 

 既に賽は投げられている以上、駆け抜けるしかない。

 

 受験生たちが走り出すが、その中で一際早かったのはアクトだった。

 

 その小柄な体格に見合わない圧倒的速さは、個性からくるものだろうと察した受験生たちだがどうすることもできない。

 

 アンチヒーロー的な行為、妨害などはルール上禁止されていた。

 

「クハハハハハッ!!」

 

 先頭集団をあっという間に引き離し、目についた仮想ヴィランを片っ端から哄笑と共に殴りつけていく。

 

 殴ったと同時に、仮想ヴィランはまるで重力を無視したかのように宙を舞っていくのを先頭集団はそれを見て驚愕した。

 

 開始10秒と経たず、アクトは仮想ヴィランを10体以上破壊する。

 

 先頭集団の視界からポイントとなる仮想ヴィランが消えたことで、受験生たちは周囲に散開していった。

 

 アクトたちの近くにいれば、片端から先手を打たれて最悪ポイント0になってしまう可能性があるからだ。

 

 切り替えの早い受験生たちはすぐさま方向転換して、アクトたちから離れていく。

 

「は、はやっ!!

 アクトの奴、ホントにやっちゃったよ」

「クハハハハッ!!

 さぁ響香、俺の手を取れ、試験会場の奥へと突っ込むぞ!!」

 

 耳郎は作戦会議中、アクトが『開始直後に仮想ヴィランを10体以上ぶっ飛ばす』という宣言を実行して見せたことを聞いてはいても実際に目にして驚いていたのだったが、すぐさま戻ってきたアクトに手をつかまれる。

 

 計画の第二段階がやってきたのだ、試験時間はたった10分、時間は有限である以上お互いの個性を使ってポイントを稼ぎ続けるしかない。

 

「あ、ちょっ、いきなり掴むなってええぇぇぇぇっ!!」

 

 体格に見合わない怪力に耳郎は引っ張られながらも悲鳴を上げるが、意に介さずアクトは突き進んだ。

 

 辿り着いたのは周囲に受験生のいない絶好の穴場。

 

『テキハッケン、テキハッケン』

『ハイジョ、ハイジョ』

『リアジュウブッコロシテヤルー!!』

 

 1体おかしな発言をした仮想ヴィランがいたのだが、『リアジュウ』なる言葉を知らない帰国子女のアクトには通じなかったのだった。

 

「響香、この場は君に譲ろう。

 危ない場面じゃない限り俺は手を貸さないから、あの仮想ヴィランをガラクタに転生させてやれ」

「ありがとアクト、仮想ヴィランがここから東側に集まってきてるよ。

 お勧めはそこかな」

 

 高ポイントの仮想ヴィランがやってきて、アクトは耳郎にこの場を譲った。

 

 アクトはその間何もせず突っ立っている訳ではない、少し離れた場で更なるポイント稼ぎだ。

 

 あまり協力しているようには見えず、耳郎がアクトにおんぶにだっこ状態と見られなくもないが、これも協力体制の一つである。

 

 耳郎の個性『イヤホンジャック』。

 

 彼女の耳たぶから伸びたイヤホンを対象、例えば地面に刺すことで反響定位(エコーロケーション)のような索敵を可能にしていた。

 

 伸縮可能なイヤホンを仮想ヴィランに突き刺し、自らの心音を大音量の衝撃波として放ち仮想ヴィランを破壊していくのを遠目から見たアクトはやはり自分の目に狂いはなかったと思うのだった。

 

 相手が人でない以上、一切の容赦なく仮想ヴィランを破壊していくアクトはさながら破壊神さながらの活躍をして受験生たちとのポイント差を引き離していく。

 

 途中からアクトの破壊ぶりを見て試験途中で諦めて後退していく受験生がちらほら出始めていたが、アクトからしてみれば『記念受験お疲れ様』程度の感情しか湧かなかった。

 

 そして終了3分前になった頃、全長約30mはあるだろう巨大凶悪な機械人形が受験生たちに迫ってきていた。

 

 圧倒的脅威、巨体ということもあって高速ではないものの、高層ビルにぶつかりながらも物ともせず強引に瓦礫を撒き散らしながら突っ込んでいることから、頑強という点においてはこれまでの仮想ヴィランとは一線を画している。

 

 自らの個性では倒せないとすぐに判断してか、後退していく受験生たちがいる中で、アクトとだけ耳郎は違った。

 

「クハハハハッ!!

 来たぞ響香、壊し甲斐のある仮想ヴィランだ!!」

「アクトー!!

 楽しそうなのはいいけど優先順位!!」

「わかっているともっ!!

 さぁ響香、一番近い逃げ遅れた(・・・・・)受験生の場所はどこだ!?」

 

 破砕音で聞き取り難くなっている為、大声で声を交わしている2人は確実に逃げ遅れた受験生たちを確保して誘導していく。

 

 ヒーローとしての姿勢を見せる為、アクトたちは戦闘不能となった受験生たちを探しては動ける受験生たちに押し付けて後退させていった。

 

「クハハハハッ!!

 さぁ、後は俺たちだけだな響香!!

 時間はあと1分を切っている。

 俺はここで巨大仮想ヴィラン(メインディッシュ)を頂くから離れているがいい!!」

「ちょ、ちょっとアクト!?」

 

 アクトを止めようとした耳郎だったが、話も聞かず巨大仮想ヴィランへ突撃していってしまった事から、その声は届かなかった。

 

 アクトはこの巨大仮想ヴィランを圧倒的脅威とは認識していない。

 

 自らの個性に自信を持ち、10年近く個性の研究、研鑽を重ねてきたアクトにとって、対象の生物・非生物の体格差による対処法などとうに確立していた。

 

 巨大な右腕を振り上げ打ち下ろす巨大仮想ヴィランの一撃をアクトは難なく避け、轟音と共に右腕が地面にめり込んだ所をアクトはすかさず腕に乗り移ると、一気に頭頂部まで駆けていく。

 

 心臓部を破壊すれば機能停止する、アクトがこれまでの仮想ヴィランを破壊して感じた感想だった。

 

 あとはやる事は簡単だ。

 

「さぁ、塵芥(チリアクタ)になるがいいっ!!」

 

 アクトの拳が巨大仮想ヴィランの頭頂部、そのメインカメラ周辺を殴りつけた。

 

 演習場に響き渡る轟音がして、巨大仮想ヴィランの頭頂部が吹き飛んだ。

 

 人間でいえば、殴りつけたら首が千切れ飛んだ、という大惨事だ。

 

 仰向けに倒れるように、巨大仮想ヴィランは倒れ、そして二度と動くことはなかった。

 

 そして―――、

 

『終~~~了~~~!!』

 

 プレゼント・マイクの試験終了の宣言が演習場に響き渡る。

 

 アクトは怪我をすることなく地上へ降り立ち、耳郎のいた場所にまで戻っていく。

 

「どうだ響香、あの巨大仮想ヴィランを破壊して見せたぞ!!」

「…0ポイントなのに張り切って壊しちゃって。

 お疲れ、凄かったよ」

 

 耳郎はアクトが仮想ヴィランを殴りつけた拳に目をやるが、傷一つしていないことに驚きつつ、呆れと労いの言葉をかけて、耳郎はアクトに苦笑していた。

 

 こうして、アクトの雄英高校の受験は終わりを迎えたのだった。

 

 

 ***

 

 

 実技試験終了後、雄英高校では試験の集計結果を試験官、教師たちが眺めていた。

 

 救助P(レスキューポイント)0の爆豪勝己と敵P(ヴィランポイント)0の緑谷出久という両極端が話題に上がる中、ある1人の受験生もまた話題に上がった。

 

「…加減阿久戸(カゲンアクト)か。

 アメリカからの帰国子女で半年間だがプロヒーローの相棒(サイドキック)経験者をもつ異色の存在か」

 

 敵ポイント135点、救助ポイント105点という2位の爆豪の3倍以上の240点という圧倒的1位。

 

 雄英高校史上始まって以来の最高得点を叩き出したアクトに、教師たちはわいわいとざわめいていた。

 

 普通科、経営科、サポート科、ヒーロー科と4つの学科がある雄英高校は日本屈指のヒーロー養成学校。

 

 次代の金の卵の選別をしている彼らにとって、これほどの『極上級』のヒーロー候補がやってきたとなれば、一緒に見ていた一般事務職の彼らも興奮が冷めないのか、アクトの実技試験の映像を反芻していた。

 

 仮想ヴィランを高速で破壊しながら周囲の警戒、耳郎響香という急場で相棒を作るという機転、そして連携しながらの他受験者を巨大仮想ヴィランから逃がす手際の良さ。

 

 極めつけはその巨大仮想ヴィランを一撃で倒してしまう圧倒的戦闘力。

 

 強大な個性というのは大味で大雑把な制御がよく見られるが、アクトの見事な制御は既にプロヒーローに匹敵、いやそれ以上だ。

 

「確か加減って元プロヒーロー『アクセルマイン』と『ダウンオーバー』の一人息子だったろ?」

「アクセルマインって…ああ、あのスピードヒーロー!!」

「エンデヴァーの事件解決数No.1に匹敵する事件解決スピードNo.1ヒーロー。

 一時期は個性婚でエンデヴァー以上に叩かれたけど…」

「…海外でのヒーロー名は…ノンストップヒーロー、グッドスピードか」

「アメリカ西部…いや、アメリカどころか世界でもトップクラスに知れている過激派ヒーローだったな」

「シビュラの申し子…と呼ばれていたはずだ。

 通常なら犯罪係数が跳ね上がるような惨劇をどれだけ見ても起こしても(・・・・)変動しないという特異な精神構造を持つ…我々からしたらそれこそ異常者(サイコパス)と呼ばれているような人種だぞ」

 

 アクトの複雑な家庭の事情、留学先での活動を知っている一部の者たちは難しい表情をしている。

 

 家庭事情はともかく、留学先での相棒(サイドキック)時代は僅か半年だったにも拘らず、血生臭い話がここ日本にまで伝わってきていたのだ。

 

 ―――曰く、グッドスピードの通った跡にはヴィランの死体しか残らない。

 

 アメリカヒーロー界ではシビュラシステムが一部のヒーローへ殺人許可(ライセンス)を認可している。

 

 無論、厳正なサイコパス診断を通過している者が必須であり、この殺人許可を持っているヒーローは現在15まで減った州に5人もいないほど僅かだ。

 

 アクトはアメリカヒーロー界史上最年少でこの殺人許可を取得していた。

 

 彼が関わった事件はアクトの父アクセルマインのように被害が拡大することなく早期解決を見せていたが、その結果ヴィランはアクトの容赦ない個性によって排除(エリミネート)、または精神崩壊という強引な解決手段を取っていた。

 

 一時は国家権力による殺人とこの許可が認可された際にメディア槍玉に挙げていたが、それに比例して治安が安定し、ヴィラン発生率が着々と低下していった実績もある。

 

 つまりは、シビュラシステムの正しさの証明となったのだ。

 

 日本のオールマイトとは違った方法で、彼らはシビュラシステムで国を守っていた。

 

 アクトが活動していたアメリカと違い、日本では殺人許可は認可されていない。

 

 そんな彼がどうして日本へやってきたのか疑問に感じた者は多くいて、日本のヒーロー界では彼の流儀(・・)とは合わないと一時は合格取り消しの話も上がるが、待ったをかけたのは雄英高校根津(ねづ)校長だった。

 

「アメリカ政府からの推薦もある、突っぱねる事は出来ない。

 だけど、郷に入っては郷に従え、アメリカとは違う、日本のヒーローというものを知ってもらい、素晴らしいヒーローに導けばいいのさ!

 その為にも、みんなの協力が必要だ、よろしく頼むよ!」

 

 根津校長の鶴の一声で、他の教師たちの懸念も解消されてく。

 

 とはいえ、未だにアクトを危険視する教師がいない訳ではない。

 

 一悶着はあったが、加減アクトの雄英高校受験は、こうして合格という形で終了する。

 

 新入生たちは決まっていき、アクトに合格通知が届いたのはその一週間後のことだった。

 




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