グッドスピード!!   作:夢落ち ポカ

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*注意*
このお話には残酷な描写が多分に含まれています。
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あ、このお話はオリジナルのお話です。


第06話 狼男退治

 ―――狼男、異形型の個性の中でも戦闘にかなり特化した個性と言えるその特性は多岐に渡る。

 

 鋭く頑丈な爪と牙、闇夜を見渡せる瞳、長距離を走破する体力、純粋な狼と違い、腹部が硬い腹筋で割れていて弱点はすぐには思いつかないほどには、強力である。

 

 そして、アクトも異形型のヴィランとは何度も戦闘を行ってきている。

 

 とりわけ狼男は対処の難しい相手だったが、今回は更に勝手が違った。

 

「くそっ、くそっ、クスリぃ、クスリがぁっ!!

 早く金集めて買わねえとクスリが来ちまう!!

 12時までに揃えないと俺の俺のクスリがっ!?

 …あああああっ、クソ、黙れ、うっとうしい!!

 ムシが…ムシがうるせえぇんだよ!!」

 

 支離滅裂な発言に瞳孔の開き切った状態、全身の震え。

 

 他にも見所は多々あるが、これだけ条件が少なくとも、答えはすぐに見つかった。

 

「…ドラッグ漬けのヴィランだな。

 面倒な相手だ、ただでさえ強力な個性なのに、何時暴発するか分からん…いや、既に暴発していたか」

 

 愚痴るアクトだが、その表情には余裕が多分にあった。

 

 同じく身を低くしていたデク達は若干高揚気味でこれからどうすればいいのか悩んでいたが、アクトの余裕な表情を見て段々と落ち着いていく。

 

 こっそりとレジ付近を飯田が見てみると、狼男が店員を脅してレジの中の売り上げと金庫をよこせと怒鳴りつけているのを見て歯噛みする。

 

 ―――個性の無断使用は原則法律違反、この場で狼男を取り押さえるとなると今の実力では間違いなく個性を使用してしまう事になると分かっていたからだ。

 

「くっ、付近のヒーローが来るまで、ただ見ている事しかできないのか…!!」

「となると、ファミレスに居る客を何とかして逃がすしかないけど、どうすれば…」

「けど、見つかったら…」

「ど、どうしよう、パトロール中のヒーローがいつ来るのか分からないし…」

 

 今できる事を探したり、不安を口にするクラスメイト達を見て、アクトは考えが纏まったのか、口を開いた。

 

「―――まったく、揃いも揃って不甲斐無い。

 まだ数日足らずだが、お前たちはそれでも雄英生か?」

 

 とはいえ、口を開いて早々罵倒されたのに目を点にしたクラスメイト達は小声ではあるが憤った。

 

「じゃあどうするんだ!!

 入口には狼男のヴィランが居て、ファミレスには多くの人質候補がたくさんいる!!

 しかも入口を塞がれた上、店員が目の前で怒鳴り散らされているのをいったいどうしろと!?」

「アクト、大丈夫なの?

 分かっているとは思うけど、個性は使えないんだよ?」

「当然、知っている。

 ヒーローを志すのなら、ありとあらゆる手段を以てしてヴィランを殲滅(・・)する。

 個性が使えない、或いは使わないのであれば、個性を使わずしてヴィランを行動不能にする、それしかあるまい」

 

 そういうと、アクトはテーブルから備え付けの箸、ナイフやフォーク、それにタバスコソースと塩、一味唐辛子にゴマを混ぜ合わせたりと、戦闘準備を始めた。

 

 手持ちのコスチュームは使用することはできないし、未だ隠している個性を使う気もない。

 

 この場でアクトはクラスメイト達に示そうとしていた。

 

 アクトの―――ノンストップヒーロー、グッドスピードの実力を。

 

 ヴィランにとっての大敵、死神、虐殺者。

 

 畏怖を以てして、彼のヒーロー名をこう揶揄する者もいた。

 

 虐殺系ヒーロー、マッドスピードと。

 

 

 ***

 

 

 狼男のヴィラン、本名大上一狼27歳。

 

 高校中退後、ドラッグの売人をしながら過ごしていた彼の人生は堕落していた。

 

 上納金を集める為に個性を使って強引に売り捌く、強面な異形型の個性である彼にとって、金銭集めは比較的楽な物だった。

 

 楽だったが故に、彼は売り物であるドラッグに手を出した。

 

 自らを否定した社会から逃避するのにドラッグへと走ったのは需要と供給が一致した結果である。

 

 ドラッグを使った者がどういう末路に至ったのか、売り捌いていた自身が知っていながらも使ったことは愚かの極みでしかない。

 

 そしてドラッグの使い込みがバレてしまってからは、堕落から転落へと悪化した。

 

 大本であるヴィジランテ―――昔でいうところのヤクザ―――が大上へペナルティとして上納金の10倍の金額を集めろという指示が下ったのである。

 

 期限も僅かで、いくら大上が上客にドラッグを売り捌いても目標額まで届かない。

 

 至らないが故に、薬漬けの頭は最悪の手段を取ることに戸惑いがなかった。

 

 真昼間からの強盗、しかも覆面をして客の少ない時間を狙うといった考えに至らないあたり、彼の状況は破滅的だった。

 

 そしてその終局に、彼は出会ってしまった。

 

 禍々しい二つ名を多く持つ、ヴィランの天敵に。

 

「…ああ?」

 

 薬漬けの頭でも、大上の認識におかしなところはなかった。

 

 大上の膂力を以てすれば紙の様に引き裂けるほどの小柄で細身の体躯、しかもプロテクターといった防御的な要素を一切身に纏っていない眼帯を付けた少年が、大上の前に現れたのである。

 

「んだぁ?

 金でもくれるっていうのか?

 ははっ、お礼にヤクやるぜ?」

「―――臭い口を開くな、ヴィラン風情が。

 黙っていろ、殺したくなる」

 

 圧倒的弱者にしか見えない少年は大上を開口一番に罵倒した。

 

 大上が何を言われたのか一瞬固まったのを見逃さず、アクトはベルトの腰に隠していたナイフ3本を片手で投擲する。

 

「―――ぐっ!?

 あぁっ、めぇっ、俺の目がああぁ、てめぇ…!!

 俺のヤクが抜けてっ!?」

 

 顔面目がけて投擲されたナイフを大上は反射的に腕で庇って防ぐが、それは悪手だった。

 

 ナイフは中ほどまで深く刺さり、血が流れ出す。

 

 そして運悪く、大上の目にまでそのナイフは突き刺さってしまった。

 

 狼男の個性を持つ大上にとって、食事用のナイフが自分の腕や目に刺さったという人生初の経験に驚愕と激痛が襲う。

 

 自分の腕でナイフを防ごうとしたが、それでも相手から目を離さないというまともな思考が生きてしまった事が大上にとって1つ目の不幸だった。

 

 2つ目の不幸は、腕と目に刺さったナイフの痛みで身体が硬直してしまった。

 

 しかも、ただの痛みではない。

 

 ナイフにはこれでもかと言わんばかりのマスタード(・・・・・)が塗りたくられていて、ナイフが刺さった以上の痛みが走ったのである。

 

 支離滅裂な発言をする大上にアクトは追撃とばかりに接近した。

 

 薬漬けではあるが、大上の個性は優秀だった。

 

 片方の視界は塞がれていたが、狼男の個性で嗅覚が通常よりも利いている大上はアクトが急接近している事に気付き、カウンターの蹴りをしようと咄嗟に膝を低く下ろし、蹴りを放つ。

 

 威力だけを見れば、小柄なアクトの体など小石を蹴飛ばすように吹き飛ばせただろうが、威力はあっても雑な攻撃でしかないそれを喰らうほど、アクトは鈍磨ではなかった。

 

 必要最小限の身のこなしで避け、大上の伸びきった足に乗る(・・)と、いつの間にか腰から補充していたナイフを大上の下顎に突き立てるが、頑丈な大上の皮膚には届かない。

 

「こ、このぉっ!!」

 

 大上はもはや自らの腕に刺さったナイフを抜かず、アクトを捕まえようと下顎にあるアクトの腕を掴んだ。

 

 あとは狼男の個性が持つ凶悪無比の腕力でその腕を握りつぶしてしまえばアクトの細腕などぐしゃり―――と妄想するが、全ては遅きに失した。

 

 アクトは大上の掴んだ腕を視点に、全力でナイフの柄に膝蹴りを叩き込んだ。

 

 ―――その結果、大上の下顎から口の中にナイフが生える(・・・)という悍ましい光景が出来上がる。

 

「―――■■■■■■■■■■っ!!」

 

 身も気もよだつ悲鳴が大上から放たれ、これまで以上力強く暴れ回るが、その射程圏内にアクトは既になく、大上の無様な姿を眺めていた。

 

 この惨状を運悪く見てしまった店内の客たちは甲高い悲鳴を上げ、大上の神経を更に興奮させた。

 

 暴れ回る中、大上の焦点がアクトにようやく向けられ、報復の一撃を喰らわせようと腕を振りかぶるが、時すでに遅く、

 

「先制必縛ウルシ鎖牢!!」

 

 ―――シンリンカムイ、人気急上昇中の若手実力派ヒーローが大上に個性を生かした必殺技を繰り出し、拘束した。

 

 意識が完全にアクトに向いていた為、大上は捕えようとする木の枝に簡単に拘束されてしまい、地面に押さえつけられたのだった。

 

「遅くなってすまない!!」

「シンリンカムイだ!!」

「助かった!!」

 

 口々にヒーローが来たことで喜びの声が上がるが1人の男性の一声で再度レストラン内が凍りついた。

 

「シンリンカムイ、まだヴィランの子供がいるんだ、捕まえてくれ!!」

「狼男のヴィランも、その子がしたの、気を付けて!!」

 

 アクトの容赦ない大上への仕打ちに、店内の客たちも震え上がっており、やってきたシンリンカムイへ早く逮捕して欲しいと訴えたのである。

 

「なんだって?

 …そこの少年、少し話を…って君って雄英生じゃないか!!」

 

 シンリンカムイは用心しながらアクトへ声をかけるも、アクトの着ている服に見覚えがあった。

 

 数年前まで自分も着ていた制服―――雄英高校の制服だったからだ。

 

 シンリンカムイは捕えた狼の状態を確認する。

 

 見るからに重傷でいて特に口蓋を貫いているナイフを見てすぐさま救急車へ応援要請をかけた。

 

「君、個性を使ってヴィランに敵対するのは法律違反だ!!

 雄英生なら当然知っている事だろう!?」

「お言葉だがヒーローシンリンカムイとやら、俺はこの程度のヴィランに個性など使っていない。

 使っていたら今頃こんな汚れた色持ちなどミンチにしていた所だ」

 

 シンリンカムイの注意に対して吐き捨てるように否定したアクトは隠し持っていたナイフや刺激的な混ぜ合わせの調味料を見せて細かく説明する。

 

 その発想にシンリンカムイは容赦のないアクトの仕打ちにうすら寒さを感じるが、アクトの視線は既にシンリンカムイにはなく無様にも足掻こうとする大上にあった。

 

「そ、そんな馬鹿な…異形系の個性の持ち主に個性を使わず?」

「アメリカにいた頃、個性封じ対策として学んだ戦闘術だ。

 表皮が鉱物のような個性ならともかく、柔らかい(・・・・)のなら対処は容易いことだ。

 なんだ、日本のヒーローはこの程度の戦闘術すら会得していないのか?」

 

 アクトが学んだのは中国拳法、柔術、ナイフ術、拘束術など多岐に渡る。

 

 これら数々の技術をミックスし、シビュラシステムが用意した戦闘用ロボットの最高レベル10と互角以上の戦いを繰り広げる程に卓越した戦闘能力を有していた。

 

 シンリンカムイは半鎖国状態のアメリカから来た目の前のアクトを奇異の目で見るが、本人は気にした様子もなく装備していた道具を取り外してテーブルに置いた。

 

「それで、どうするのだシンリンカムイ?

 拘束するのか、しないのか?

 拘束しようものなら徹底的に抵抗してアメリカ大使館に逃げ込んで抗議するのでそのつもりでかかってこい。

 しないのならとっととこの場を収めて俺たちを解放しろ」

「シ、シンリンカムイ!!

 ほ、本当なんだ、アクトは個性を使わずにこの狼男のヴィランを倒したんです!!」

「あ、ああ、本当だぜ!!

 加減のやつが個性使ってたらこんなに酷い怪我させずに済んだんだ!!」

 

 高圧的な態度でこの場の主導権を握ったアクトはシンリンカムイに対して居丈高な態度でいる。

 

 アクトのクラスメイト達も、シンリンカムイにアクトが個性を使わずに大上を倒したこと、正当防衛を主張した結果、拘束はしないが参考人として事情を聴く為、警察署まで同行することで譲歩した。

 

 アクトとしては不満の残る結果ではあったが、クラスメイトからの援護がなければ睨み合いは応援のヒーローたちが来るまでこの押し問答は続いていただろうことは容易に想像できていたアクトは、素直に要求に応じたのだった。

 

 そしてアクトは自らの身分、現状、今回の事件の聴取を担当した警察官に説明し、迎えの雷銅が来るまで必要最低限の証言をして帰って行った。

 

 警察署を出てから軽く周囲を見回すもアクトの迎えは雷銅だけだ、クラスメイト達が駆け寄ってくる気配もない。

 

 おそらくはヒーローたちに解散するように言われたのか、それともアクトがどの警察署に任意同行されたのか分からなかったのか。

 

 期待した訳ではなかった、時間も既に20時を過ぎていて夜も更けている。

 

 あれだけアクトのサイドキック時代を聞きたがっていた面々がやけにあっさりしているなと思う程度の認識だったが、それ以上にアクトは軽い頭痛に襲われていた。

 

 迎えの車の中で、アクトは雷銅に今日の出来事を一切隠さずに伝えた。

 

「…失態だった、あの程度のヴィラン風情を軽く撫でた(・・・)程度で任意同行を求められるとは…日本の平和ボケを甘く見ていた。

 あの程度、アメリカでは…いや、対策課では始末書も書かないレベルだった筈だ」

「余計な注目を浴びてしまわれたようですねアクトさん、貴方ほどの方が珍しい失態をされたものです。

 アメリカと日本の価値観…これが大きく乖離(かいり)していたのが原因かと」

 

 雷銅は今回のアクトの失態を冷静に分析して指摘し、アクトも同意した。

 

 平和ボケしているが故に、刺激的な場面を見てしまったが周囲の客たちの精神を大いに揺さぶってしまった、これが大きな要因であるとアクトも自覚している。

 

 良い意味でも悪い意味でも甘く見ていたと舌打ちしたアクトは今回の失態で任務に支障が出ないか思考を巡らせる。

 

「今日の出来事でどれだけの波紋を呼び込むのか気になるところだが…こればかりは前向きに考えるしかない。

 今回の出来事を呼び水に、対象人物の一派を誘い出してしまえばいいか?」

「釣り針にエサはありますから喰いつきはするでしょうが、お目当ての人物が喰いついてくるか不明な点が懸念されますね」

 

 雷銅はアクトのこうした頭脳的な面を補佐する為にも一役買っており、アメリカ時代にも幾度となく助けられていた。

 

 補佐する人材はもう1人いるが、そちらはまだアメリカでの後始末をしてから合流する予定となっており、雷銅1人で諸々の仕事を任せていた。

 

「もっともな指摘だな、俺もそこは不安がある。

 …もともと長期戦を見越しての長期派遣任務だ、情報網もまだ発展途上な段階ではこれが妥当な一手だろう。

 この一手を補強する為の一手を打って、相手の出方を窺うとしよう」

「何なりとお申し付けください。

 この雷銅、万事を恙無く達成してみせましょう」

「クハハハハッ、期待しているぞ」

 

 数日後、新聞の一面に2つの記事が載っていた。

 

 1つはオールマイトが雄英高校に教師として赴任したこと。

 

 2つめはアメリカでヒーロー活動をしていた最年少ヒーロー、グッドスピードが雄英高校に入学したこと。

 

 アクトの物語は加速していった。

 

 

 ***

 

 

 オールマイトが雄英高校に赴任した記事を見たのは一般人だけでない。

 

「…おい、見たかこの記事?」

 

 どこかにある古びたバーで、この記事を読む者がいた。

 

 身体の要所要所を手のマネキンでまるで抑え込むような姿をした青年が記事を読み終えた。

 

「なぁ…どうなると思う?

 平和の象徴が…」

 

 

 ―――(ヴィラン)に殺されたら?

 

 

 真に賢しいヴィランが、蠢き始めた。

 

 だが、彼らは知らない。

 

 狙いを定めた死神が手ぐすね引いて待ち構えていたことを。

 

 




原作キャラクター、シンリンカムイ登場。
そして主人公は容赦の無さからヴィラン扱いに…まぁ、秦から見ればそうなりますわな、怖いですもん。

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