グッドスピード!!   作:夢落ち ポカ

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書き貯めはこれで最後、何とか続きを書いていきたいですね…。


第07話 異端なるヒーロー

 

 平和の象徴、オールマイトが雄英高校の教師になったことが新聞、ニュース、ネットといった情報媒体を介して日本中で知られるようになってからは連日お祭り騒ぎのように雄英高校に記者やパパラッチ、そしてファンたちが押し寄せてきていた。

 

 記者たちはオールマイトの雄英高校での印象を学校側に許可も取らずにインタビューを行うというマナー違反を侵し、インタビューを受ける生徒たちはそれぞれ真面目に答える者、答えようとして窮する者、一時メディアで知られた生徒などは足早とインタビューから背を向けたりと様々だ。

 

 だが、記者たちはオールマイト以外にも生徒たちに聞き出したいことがあった。

 

 アメリカどころか世界にも知られているヒーロー、グッドスピード(アクト)についての情報だ。

 

 半鎖国状態のアメリカにおいてその実情を知っているアクトの生の情報を得ようと、間接的に生徒たちからアクトの、アメリカの実情を知ろうとしていたのである。

 

 とはいっても、アクトと直接話したことのない生徒が殆どで、クラスメイト達も昨日の一件以来アクトとまともな会話など出来ていない状況だ。

 

 現場にいなかったクラスメイト達もニュースを視聴して知った者、居合わせた者から聞かされたのか、アクトに声をかける者はいない。

 

 クラスメイトの中でも特に交友関係のある耳郎も同声をかければいいか分からずに遠巻きしていた。

 

「…HR始めるぞ」

 

 朝のHRで担任の相澤の一声で、教室にいたクラスメイト達が一瞬でしんと静かになる。

 

 たった数日で見事に適応している彼らをよそに、HRが始まる。

 

「昨日のV(ブイ)と成績見させてもらった」

「―――!!」

「爆豪、お前もうガキみてえなマネすんな。

 能力あるんだから」

「……わかってる」

 

 相澤から小言を爆豪は若干俯きながら返事をする。

 

 彼にとっても昨日の出来事は乗り越えた気持ちでいたかもしれないが、改めて言われて思うところがあるのか、爆豪は若干遅れて返事をした。

 

「…で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。

 個性の制御…いつまでも『できないから仕方ない』じゃ通さねえぞ」

 

 デクが相澤から威圧感のある注意を受け、アクトも思わず同じ感想を抱いていた。

 

 個性の制御、それさえできてしまえばデクの個性は一気に汎用性のある個性に早変わりする。

 

 最近になって判明した個性であろうと、このクラスに居続ける為には早急に個性の制御が必要となるだろう。

 

「俺は同じこと言うのが嫌いだ、個性の制御(それ)さえクリアしてしまえばやれることは多い。

 焦れよ緑谷」

「はいっ!」

 

 アクトは初めて相澤がまともな教師らしい助言をしている場面を見て若干だが評価を修正した。

 

「加減は…さすがの一言だったな、己の力を過信しているような発言はヴィラン役だったからか?」

「いや素だが?」

 

 アクトとしては過信している訳ではなく純然たる事実として告げており、あまりにも当然と言わんばかりのアクトの発言に相澤も一瞬黙ってしまった。

 

 爆豪と轟がこの中でアクトに対して並々ならぬ視線を向けてきているが、アクトのスタンスとしては依然として無視だった。

 

「……アメリカと日本じゃ温いと感じるかもしれんが、油断はするなよ。

 あと、放課後の一件は警察署から感謝状が届いている、あとで事務課に行って受け取っておけ」

「了解した」

 

 一貫として態度を崩さないアクトに相澤もそれ以上言うことはなかったのか、生徒たち一人一人に短くはあるが助言をしていく。

 

「急で悪いが今日は君たちに…学級委員長を決めてもらう」

「学校っぽいの来た――!!」

 

 また臨時テストがあると思ったのか、思わぬイベントに教室が一気に賑やかになった。

 

 殆どの生徒が手を挙げて自推していく中、アクトは手を挙げずに朝の記者たちの質問を反芻していた。

 

 ―――残虐なヒーロー、グッドスピードについてどう思われますか?

 

 ―――ヒーローでありながらヴィランを殺害する彼の思想をあなたはどう思われますか?

 

 アクトの―――ノンストップヒーローグッドスピードのヒーローとしての姿勢に対して否定的なマスメディアの偏った質問に、日本においてのアクトのあり方が歪なこと、日本のヒーロー社会にとって自分がいかに異物であるかよくわかる一幕だったと理解させられた。

 

 かといって、その出来事がアクトの精神に何か大きなさざ波を立てたのかと聞かれれば、本人は即座に否定し笑い飛ばすだろう。

 

 そんな謂れは覚悟でアクトは対策課に所属していたし、その道を選んだ事を後悔したこともない。

 

 冷血、冷酷、残忍、残酷、残虐結構。

 

 小を犠牲に全体を救うことが出来るのなら本望だ。

 

 ヴィランの殺害―――サイコパス値が黒色(オーバー300)ばかり、社会に何ら生産性を齎さないゴミだ、生かしておくだけ収容所の維持費に負担がかかる。

 

 切り捨てる事は国が認めている、国のメディアもアクトの活躍を称賛していた。

 

 諸外国、特に日本のようなヴィランを生かしておくような将来に禍根を撒き散らすより遥かにマシだ。

 

 年々ヒーローが増えていながらヴィラン発生件数を抑える事の出来ていない日本が治安維持率世界一の国家を非難とは、口先国家がしゃしゃり出るんじゃない。

 

 価値観が対極的な以上、たとえ同郷の人間でも相容れないものは相容れないと切り捨てたアクトは静かにHRが終わるのを待つのだった。

 

「静粛にしたまえ!!

 ”他”を牽引する責任重大な仕事だぞ……!

『やりたい者』がやれるモノではないだろう!」

 

 と、自推するクラスメイトたちに待ったの言葉を上げたのは真面目な印象の強かった飯田だった。

 

 将来ヒーローを率いていくのであれば、上手く指揮を執って事件を解決したいと考えるのが普通だ。

 

 となれば、早い内から経験があった方がいい、学級委員長という役はまさにうってつけだろう。

 

「周囲からの信頼があってこその聖務…!

 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!!」

「そびえ立ってるじゃねーか!

 何故立案した!?」

 

 と、きっちりと右腕を上げているあたり、正直な性格なのだろう。

 

「日も浅いのに信頼とかクソもないわ飯田ちゃん」

「だからこそ複数票をとった者こそが真に相応しい者といえないだろうか!?」

「そんなん自分で投票すらぁ!!」

 

 クラスのほとんどから突っ込みを受けた飯田はそういって、最終的に相澤も許可を出したことで無記名での発表が始まった。

 

 飯田の年相応な姿に苦笑したアクトは飯田の名前をメモ用紙に記入した。

 

 最初はデクの名を書こうとしたが、現状の期待値は高いものの実戦を想定した際の2人の動きを想像し、飯田に配が上がったのが理由である。

 

 先日の爆豪との戦闘でのデクの分析力・判断力には光るものを感じたアクトだが、個性の制御をみて、委員長という―――率いる者が度々怪我をして満足に指揮も出来ない状況になってはいけないと感じ、飯田に入れたのである。

 

 自分ほどではないが出遅れても早さで挽回でき、現場に辿り着けるのならば、時間を誰よりも早く有効に使える飯田ならばと1票を入れたのだ。

 

 無記名投票な為、自分の名前を記入することも出来たが長期任務がある以上余計な枷はない方がいいと思い書こうとは思わなかった。

 

 そもそも自分が投票されるとも思っていなかったが。

 

 すぐに開票され、結果が発表される。

 

 投票が最も多かったのは緑谷出久(デク)が3票、次いで八百万の2票、そして1票のクラスメイト達がいて、このほとんどは自分の名を記入した者たちだろう。

 

 アクトには票は入っていない…と思っていたのだが、意外なことに1票入っていた。

 

 心当たりがなく、思わず周囲を見回すと耳郎と目が合い、その動揺した様子に当たりをつけて鼻を鳴らした。

 

「僕3票―――!!!?」

「なんでデクに…!!

 誰が…!!」

「まーおめえに入れるよか分かるけどな!」

「1票…!!

 誰かがぼ…俺に清き1票を!!

 だが、やはり聖職といったところか…!」

「他に入れたのね…」

「お前もやりたがっていたのに……何がしたいんだ飯田…」

「…あ、アクト…残念だったね?」

「構わんさ、アメリカで一通り経験済みだ」

 

 素っ気なく流したアクトにうなだれる耳郎という図が珍しかったのか、何人かのクラスメイト達の目を引いたが、声を掛ける者はいない。

 

 未だ、アクトにどう声を掛ければいいのか分からないからだ。

 

 アクトの過去は高校になったばかりの彼らでは重過ぎて遠巻きに見る事しかできなかった。

 

 唯一入試試験でクラスの中で付き合いの長い耳郎ですら二の足を踏んでいるのである。

 

 他のクラスメイト達ではなおさらだった。

 

 委員長には投票の多かったデクが、次いで八百万が副委員長になり、授業は過ぎていく。

 

 そして昼食時、アクトは1人で食堂へ来ていた。

 

 天ざるうどんを啜りながら、アクトは後からやってきた耳郎を見ると若干だが眉間にしわが寄った。

 

 次いで近くに座ったデクや麗日、飯田を見やりながら、囲まれたと内心でぼやく。

 

「…アクト、なんか言いなよ。

 食事中は1人で食べたいとか、失せろとかさ…」

「…響香、俺は別段一匹狼を気取っている訳ではないのだが?

 お前たちが遠巻きにしているから、自発的に離れているだけだ。

 話しかけてくるのなら、俺は普通の対応を取るだけだぞ」

「そ、そうだけど…」

「俺の過去は昨日知っての通り血生臭い経歴で満載だ。

 近付きたくなければそうすればいい、去る者は追わんし、追いかけもしない。

 俺はそういう風に生きると既に決めて、アメリカで過ごしてきた。

 理解しろとも言わん、むしろしない方がお前たちの精神衛生上良いことだろう。

 お前たちは俺を理解せずともいい、加減アクトという存在―――ノンストップヒーローグッドスピードはそういう存在なんだと別物と思っていればいい」

 

 理解されないのは慣れっこだと言わんばかりに、アクトは先手を打って拒絶の言葉を吐き出した。

 

 誇張もなく、謙遜もなく、ただ在るが儘を受け入れる。

 

 それが理解不能なアクトという存在のあり方だ。

 

 アメリカにいた頃も日本と然程変わらない、異常者を見る目で見られることも多かったアクトはそれで傷ついたりはしない。

 

「アクトはさ、それでいいの?」

「理解者はなくとも俺の行く道に変わりはない。

 後悔はない、俺の生き方は間違っていないと胸を張れる。

 …食事時にする話でもなかったな、忘れろ」

「…いい、覚えとく。

 …アクトは強いね、うちもアクトみたいに強くなりたいよ」

 

 耳郎は自分の道を歩んでいるアクトに憧憬の念を抱き、自分なりの道を考えさせられたのだった。

 

「じゃあ、この話は終わり!!

 緑谷は委員長就任おめでとう!」

 

 切り替えたのか、耳郎は近くに座って聞き耳を立てていた緑谷に声を掛けた。

 

 耳郎のこういう切り替えの良さにアクトは好感が持てた。

 

 冷めているのではなく、割り切る潔さを持っている。

 

 アメリカにも僅かにいたアクトの数少ない友人たちは総じてそんな強さを持っていた。

 

「うーん、いざ委員長やるとなると務まるか不安だよ……」

「ツトマル」

「大丈夫さ。

 緑谷くんのここぞという時の胆力や判断力は“多”をけん引するに値する。

 だから君に投票したんだ」

「(君だったのか!!)」

 

 飯田はデクに入れたことを口にし、当の本人は思わぬ投票者の1人が飯田だったことに驚いた。

 

「でも飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの?

 メガネだし!」

「お茶子よ、メガネは関係ないと思うぞ」

 

 アクトとしてはメガネの有無で委員長は出来ないと感じながら一言突っ込みを入れた。

 

「“やりたい”と相応しいか否かは別の話…()は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

「「僕…!!」」

 

 デクと麗日が同時に飯田の一人称に気付くと、麗日の『坊ちゃんなの?』発言に飯田は気まずい表情を浮かべた。

 

 ヒーロー一家の次男坊だと白状していく内に、実兄でもあり東京都でも規模の大きな事務所を開いているヒーローインゲニウムの話題に移ると気まずかった表情が嘘のように誇らしげなものを語る少年特有の顔をしていた。

 

 その表情はデクがオールマイトを語る姿に酷似していて、アクトは飯田の語るインゲニウムが憧れの類のものと思ったが、何も言わず食事に集中した。

 

「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!!

 そんな兄に憧れて俺はヒーローを志した…人を導くのはまだ俺には早いんだと思う。

 上手の緑谷君が就任するのが相応しい!」

 

 場も和み始め、昼休憩も半ばに差し掛かってきた頃、食堂の上部にあるスピーカーが警報を鳴らした。

 

 その場にいた全員が食事を止め、スピーカーからの続報を待つ者、警報に慌てて騒ぎ始める者もいてアクトは食事を邪魔されたとスピーカーを睨みつける。

 

『セキュリティ3が突破されました。

 生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください。

 繰り返します―――』

 

 セキュリティ3、何者かが正門にある通称『雄英バリアー』を突破し侵入した者がいる事を知らせる警報が鳴ったことで、食堂中から悲鳴が上がった。

 

「セキュリティ3って何ですか!?」

 

 事情を知らない新入生―――飯田が食堂から出ようとしている3年生に尋ねようとしたが、逃げる事に必死なのかその場で止まって答えを返してくれる者はいない。

 

 ただ分かることは、この事態が上級生たちでも予想外の自体である、ということだ。

 

「セキュリティ3、言ってみれば校舎内に誰かが侵入したということだ。

 学生手帳にも書いているぞ飯田…こっちに来るといい、この波だと身動きは難しいからな」

 

 アクトの個性を使った応用技『ゼロフィールド』で人の波を操作してぶつかる方向を流すように個性を展開していたおかげで、生徒たちはぶつかることなくアクトたちにぶつかることなく左右に流れていく。

 

 その余裕がある為なのか、飯田の質問にアクトは律儀に答えていた。

 

 既に耳郎はアクトの傍にいて安全を確保していて、デクと麗日も合流しようとしている。

 

「つ、ついたぁ…痛かったぁ」

「にしてもすごい波…アクト様々だね」

「ゼロフィールドは向かってくる慣性をゼロにして止めるっていう技だったと推測していたのに今僕たちは減速することなく加減君の傍にまで行けたってことは部分的な展開も可能としているのかなということは今の状況を見るとぶつかろうとして止まったりする生徒がいない辺り流れなんかも操作できたりするのだとしたら慣性をゼロにし切れないほどの高速の飛び道具が来ても…」

「あ、ありがとう加減君!!

 そ、それにしても、いったい何が進入したというんだ!!」

 

 デクがブツブツとアクトの個性を推測しているのにアクトは暢気なものだと呆れながらも、アクトが外にいる元凶を指差した。

 

「マスコミだな、どういう手管を使ったかは不明だが連中が侵入者のようだ。

 対応しているのは相澤教師とプレゼント・マイクか…マスコミではあるが不法侵入者、ヴィランも同然だな」

 

 マナーのなっていない報道関係者は自分たちが持つ報道の自由を掲げて入ってきたのか、悪びれたりする事なくマイクを2人に突きつけて何かコメントをもらおうと必死のようだ。

 

 アメリカにもかつてはパパラッチという芸能人や政治家のスキャンダルやゴシップを手に入れようと犯罪すれすれのグレーから犯罪行為を犯して情報を手に入れようとする者が多くいた。

 

 現在ではその手の輩は更正施設送りとなっていて、滅多な事でスキャンダルやゴシップは起きたりしない。

 

 その辺りの監査も見守り(・・・)続けているシビュラシステムが選別している為、民衆のサイコパス指数も健全を保っていた。

 

「飯田、俺はここから動くつもりはない。

 このパニック状態を鎮めてみせろ」

 

 現状アクトがこの場を動いてしまえば人の流れに歪みが出て大惨事になり兼ねないことから自分の世界に入り込んでしまったデクよりも、解決策を模索しようとしている飯田に声を掛けた。

 

「い、行き成りそんなことを言われても…こんな大人数に大丈夫だと理解してもらうには…」

「現場はいつもその行き成りを対処している、お前が褒めたデクは今使い物にならん。

 麗日も響香もその手の対処は難しいだろう。

 助言くらいはする、やって見せるがいい」

 

 アクトに促され、飯田は周囲を見回しながら考える。

 

 今生徒たちがは一直線に食堂の出入り口に向かっている、つまり視線は一方に限られているわけだ。

 

「分かり易く伝えろ、短く端的に、そして大胆にだ。

 お前が褒めたデクのように、自慢の兄ならどうするか…模倣からでもいい」

 

 

 ―――Plus(更に)Ultra(向こうへ)だ、壁を乗り越えてみせろ。

 

 

「~~~っ!!

 やってみせるさ!!

 麗日くん、僕を軽くしてくれ!!」

「えっ!?

 う、うん!!」

 

 麗日は飯田の手にタッチすると、個性の効果で飯田が宙に浮かび、飯田の個性で非常口の上に飛び乗った。

 

 一瞬バランスを崩しそうになったのか、近くにあった配管を右手で掴むと、大きく息を吸い込み、そして―――、

 

 

大丈~夫!!

 

 

 飯田の声に一斉に生徒たちが非常口付近を見上げる。

 

「ただのマスコミです!

 何もパニックになることはありません、大丈~夫!!」

 

 飯田の声に、次第に足が止まっていった生徒たち。

 

 アクトは周囲の状況を確認し、個性の展開を解除した。

 

 飯田はアクトの求めた要望を叶えてみせた。

 

 後は、繰り上がった計画(・・・・・・・・)を若干の修正を入れて実行するのみだ。

 

 アクトはポケットから携帯端末を取り出し、事前に記憶していた番号へ素早くタッチする。

 

「…失礼します校長(・・)、少々お時間をいただけますか?」

 

 アクトの足元には、アタッシュケースが置かれていた。

 

 

 ***

 

 

『オールマイトとグッドスピードを出してくださいよ!!

 いるんでしょう!?』

『一言コメント頂けたら帰りますよ!!』

 

 報道関係者の身勝手な言い分に、対応に追われていた相澤とプレゼント・マイクはこの場から立ち去るよう伝えるが、言葉が通用しないのか帰ろうともしない姿に苛立ちを覚えていた。

 

 正門を破壊したことによる器物破損、加えて許可なく土地に不法に侵入したこと。

 

 綱渡りは報道関係者もよく渡っているのだろうが、既にやっていることは犯罪行為、言ってみればヴィランだ。

 

「…不法侵入だぜ、これもうヴィランだ、ブッ飛ばしていいかな」

「やめろマイク、あることないことかかれるぞ。

 警察を待とう」

 

 プレゼント・マイクの我慢が限界に達しようとしたところ相澤が嗜める。

 

「―――その必要はない」

 

 だが、そこに来てしまってはいけない人間が相澤たちの前に現れた。

 

 黒を基調としたソフトハット・マント・外套・スーツ・手袋・ブーツに至るまで全てが黒のヒーロースーツ。

 

 ソフトハットを目深く被っているからか、素顔は放送されてもばれる事はない辺り計算してこの場に現れたのだろう。

 

 相澤も先日の記録を見たばかりで、未だに覚えている姿だ。

 

 加減アクトのヒーローとしての姿、ノンストップヒーローグッドスピードだ。

 

「………グッドスピード」

「ヤベぇんじゃねえのかこれ?」

 

 呻く様に相澤は声を絞り出し、プレゼント・マイクも最悪だった状況にニトロを突っ込んだ事態になるのが想像に難くなかったのか、表情が引き攣っていた。

 

「彼がグッドスピード!?」

「一言、一言お願いします!!」

「ヴィランを殺すことについて、何か思うところはないのですか!?」

「どうして日本へ!?」

 

 相澤の小さな声をインタビュアーの耳が捉えたのか、一斉にアクトの―――グッドスピードの前に押し寄せマイクを突きつけた。

 

「……127か、ゲスだな。

 汚い色はこれだから好かん」

「ひっ!?」

 

 吐き捨てるかのようにインタビュアーを罵倒し、アクトは腰からある兵装を手に取ると、目の前の男に構えた。

 

 それは異形の銃で、日本では存在しない銃の類でカメラマンはアクトの姿を全体から映すために若干だが後ずさる。

 

 異形の銃―――ドミネーターを突きつけられたインタビュアーは一瞬で固まってしまった。

 

「おい、あれって…」

「ああ、おそらくはドミネーターと呼ばれている特殊拳銃だ。

 アメリカのヴィラン対策課に所属しているヒーローのみが持つことを許されている…グッドスピード、分かっているとは思うが殺人行為はたとえヒーローであろうと…」

 

 相澤はアクトぶ日本のヒーローにとって当たり前の絶対的ルールを伝えたが、帰ってきたのは嘲笑交じりの返答だった。

 

「むろんだともイレイザーヘッド、たとえ目の前にいる輩が潜在犯…日本では普通にヴィランだったか、何であろうと殺しはご法度いう事は入国前に調べている。

 ちなみにこの状態で撃ったとしても目の前のこいつは麻酔で眠るだけだ、アメリカなら更正施設送りだな。

 これを見せたのは、俺がアメリカからの留学生であり…ノンストップヒーロー、グッドスピードだと証明するためだ、それ以上の行為はしない。

 だが―――」

 

 アクトは言葉を途切れさせると、ドミネーターを腰に装着しているホルダーに戻し指を鳴らした。

 

 いわゆる―――フィンガースナップという練習すれば誰にでも出来る簡単な動作だ。

 

 だが、アクトが個性を駆使して行使すれば、それは凶悪な武器へと早代わりする。

 

 マイクやカメラ、音響などの機材がアクトの『フィンガースナップ(指パッチン)』で、両断されたのだ。

 

 あまりの早業に、全員がそれに気付いたのは機材がボロボロと音を立てて地面に落ちたときだった。

 

「うわぁっ!?」

「きゃあ!!」

「い、いったいこれは!?」

 

 悲鳴を上げた報道関係者たちをよそに、アクトは今度は両手を大きく広げると、両掌を打ち鳴らした。

 

 普通ならばこれだけの喧騒の中であれば、アクトの打ち鳴らした音などかき消されるはずだったが、予想に反してアクトの起こした音は後者に大きく響き渡り、騒いでいたマスコミを一瞬にして黙らせた。

 

「犯罪者をこのままただで帰す訳にはいかん、貴様らの名前、顔写真、所属している組織、すべて吐いてもらい警察へ突き出してやる。

 イレイザーヘッド、プレゼント・マイク、この件については根津校長から許可を得ている、手伝ってもらおうか」

 

 アクトは雄英高校校長、根津に根回しの連絡をし、今回のマスコミへの対処を特例として認められていた。

 

 それは2人の教師にとっても寝耳に水だったようで、相澤が確認の電話をするとすぐに返事は返ってきた。

 

 全面的な協力要請―――相澤はこの一件をアクトに任せることで、アクトが日本でどう対処するのか試金石にしようとしているのだと察すると、電話を切る。

 

「…拘束は俺がする、マイクは全体を見ろ、グッドスピードは抵抗する奴の制圧…ただし、昨日のヴィランのような容赦ない制裁は必要ない。

 分かったな?」

「当然だ、特例とはいえ、俺の現在の身分は学生だ。

 教師の指示には基本従おう」

 

 アクトの目的達成のため、手段を選ばず状況の制圧を試みたのは最初の一手、その成果の確認だ。

 

 この中にアクトの求めている存在に繋がっている人間がいれば、警察から釈放された彼あるいは彼女を尾行しアジトを急襲。

 

 これで任務達成となるとは思ってもいないが、その尻尾でも掴めればと思い、行動に移したのだ。

 

 難なく捕縛した報道関係者たちは所属も確かなものだが経歴が公務執行妨害や暴行、不法侵入などを両手では足りないほど犯した紛れもない犯罪者たちだった。

 

 アメリカならば更正施設で一生を過ごしていただろう者たちだ。

 

 実刑を受けていないのが不思議と思えるほどの犯罪者ばかりで、アクトも頭痛がした。

 

 絞れるだけの情報を絞り出していく。

 

 手を変え品を変え、時には調子に乗らせ時には鞭と表現の使用のないキツイ口調で情報を絞り出す。

 

 その手際は同年代とはもはや格の違う、正規のヒーローと同等かそれ以上の優秀さで、相澤もアクトの手腕に思わず感心した。

 

 不満があるとすれば、鞭を振るった時相手の心を圧し折るどころか殺しにかかった所だろうか。

 

 既に準備万端と正門前に交通渋滞を起こさない程度に配置されたパトカーにマスコミたちを押し込んだアクトは、相澤やプレゼント・マイクへ礼を言って自らの教室へと戻っていく。

 

「…加減、一つ聞いてもいいか?」

「どうかされたか相澤教師?

 マスコミへの対応が苛烈な事については後日叩かれるのは俺だから気にしないでもらえるといいのだが?」

 

 アクトはこれから教室へと戻ったとしても午後の授業は既に遅刻であるからか、相澤の質問に快く答える。

 

 実際に今回のマスコミへの対応は雄英高校としてはマスコミにそれほど叩かれる事はないだろうが、アクトは―――グッドスピードはこれを機にさらに炎上するだろう。

 

「どうして日本へやってきた、日本にはお前の家族は既にない。

 親類も…日本にいた頃から絶縁状態だと聞いている。

 はっきり言って、既にアメリカヒーロー界で高い評価を受けているのに、態々水の合っていない日本へ来てまた一からヒーロー免許を取ろうとしているなんて非合理的だ。

 …何が目的だ?」

 

 相澤の言っている事は全て事実で、プレゼント・マイクも常々疑問に思っていたことだった。

 

 半鎖国状態のアメリカへの入国審査をパスし、更にはシビュラシステムの学習プログラムを最年少記録で卒業。

 

 以降ヒーロー過程を取得しアメリカでも最高のステータスを手に入れたというのに、それを簡単に捨て日本へやってきたアクトが理解できなかった。

 

 理解出来ないが故の不可解、何か裏があると思いあえて誰も聞こうとしなかった質問を相澤は本人へと投げかけた。

 

 無論本音が聞けるとは思ってもいない、アクトの返答を分析しどんな思惑があるのかを推察するしかないだろう。

 

「…まぁ、もっともな質問だな。

 既に送っていた入学希望の通りでは納得はいかないのか?」

「あんなネットに転がっていそうな志望動機で信じられれば苦労はしない」

「それもそうか」

「認めんなっての…」

 

 相澤が吐き捨てプレゼント・マイクが呆れたように、アクトが雄英高校へ送った志望動機はネットに転がっていたものをコピペしただけのものだ。

 

 元よりアメリカ政府からの推薦文がある以上受かると思っていたアクトは真面目に志望動機を書こうとせず、ネットに転がっていたのをコピペしたのだ。

 

「そうだな、どうせ止められんだろうし、言っても構わないか」

 アクトは不敵な笑みを浮かべて、相澤とプレゼント・マイクに向き直った。

「俺が日本へ来たのはアメリカ政府からの密命があるからだ」

「やっぱりか…内容は…教える筈もないか」

「さすがにそればかりは教えることは出来ん。

 まぁ、この辺りは日本政府も一部のヒーロー…相澤教師も想像していた通りかな?

 俺の監視をして意図を探ろうとしているヒーローや公安、情報屋…そして直接的な接触を図ろうと企む勢力も何もかもがまだ掠りもしていない。

 正直拍子抜けだ、つまらん」

 

 傲慢とも取れるアクトの態度に2人が一瞬不快な表情を浮かべるが、アクトの立ち回りは一流ヒーローでも真似することが難しい。

 

「…ヒーロー側に情報を流したところで、欲しい情報は得られないだろうからな。

 故に先日から行動を派手にしてみた。

 そして今日動きがあった。

 …気付いているだろう、正門のアレ(・・)を?」

「……ああ」

 

 マスコミ関係者から事情聴取をしていくうちに、不可解な事が判明する。

 

 どうやって正門の『雄英バリアー』を突破したかだ。

 

 彼らの個性を調べていったが、正門を粉々(・・)することが可能な個性の持ち主はいなかった。

 

 であれば、誰が正門を突破してみせたのか。

 

 順序立てて考えれば答えはすぐに辿り着く。

 

「マスコミは囮…これは宣戦布告だ」

「グッド、その通りだイレイザーヘッド」

 

 まるで出来の悪い生徒を褒めるような態度に相澤(イレイザーヘッド)もこめかみに血管が浮かぶが、アクトは答え合わせを楽しむかのように声音が弾んでいく。

 

「近日中に再度雄英に侵入者が現れるだろう。

『雄英バリアー』を強化しようと、更に一枚上手の手段を以って盛大にやってくる。

 ふふふ…カリキュラムの見直しを進言しておこうか、流石にクラスメイトに犠牲者(・・・)が出るのは忍びない。

 向こう一ヶ月…いや一週間くらいか。

 演習実習のある授業の教師の増員をノンストップヒーロー、グッドスピードが進言させていただく」

「てめぇ…雄英高校(ここ)を戦場にする気か?」

 

 企みの一端に気付いた相澤はアクトをヴィランに対した時と同様の鋭い眼で睨みつける。

 

 アクトは相澤の詰問を笑顔で返す。

 

 まるでイタズラがばれた子供の表情をするアクトに、プレゼント・マイクは気持ち悪いものを見る目でアクトを見てしまうが、それも仕方のないことだろう。

 

 自らの立ち位置を有利な状況に合わせる、言うのは簡単だが、実際にその状況へ持っていくまでどれだけの労力と時間を必要とするかは難易度にもよるが求める結果を出すにはそれだけの手間が必要だ。

 

 それを短期間にやってのけた手腕はもはや常軌を逸していた。

 

 敢えて言葉に落とし込むとするのならば、『異端』という言葉が相応しいのか。

 

「結果的にはそうなるなが、勘違いしてもらっては困る。

 俺がやったのはヴィランどもをこの雄英高校に誘導してはいるが、オールマイトがいる時点で遅かれ早かれヴィランどもは雄英高校(ここ)に来ていた。

 時計の針を進めただけだ」

「……正直退学処分にしてやりてぇところだが、アメリカ政府からの意向もある。

 見過ごすしかねえって事か」

 

 相澤はこれまで100以上も退学者を出してきた。

 

 その誰もがヒーローを志すには不適格で、ヒーローになれたとしても数年と持たず不幸な現実と直面するだろうと相澤は彼らを退学させていった。

 

 相澤の基準からいって、加減アクトの能力は既に学生レベルを超えている。

 

 正直に言ってヒーロー協会はアクトへアメリカからの密命とやらを果たすまでの間、限定的なヒーロー資格を与えてもいいというほどに。

 

 その弊害が雄英高校へとしわ寄せとなってきていた。

 

「そういうことだな。

 では俺はこれで失礼する。

 午後の授業へ行かないとな」

「…グッドスピード、よく覚えておけ」

 

 正門から去ろうとしているアクトの背中へ相澤は声を投げかける。

 

 アクトは振り返ろうとはしなかったが、足を止めて相澤の次の言葉を待った。

 

「…お前のやり口は合理的だが…度を超えた外道な真似までしてみろ。

 あらゆる手段を講じてお前をふんじばってアメリカへ叩き返す。

 よく覚えておけ」

 

 アクトは返事をせずそのまま去っていく。

 

 その様子から耳には入ったのだろう。

 

 あとはそれをどうアクトが思い行動に移すかだ。

 

 普通ならばこれで少しは大人しくなるだろうと思うだろうが、相手は数多の忌み名を持つヒーローだ、油断はできない。

 

 ヴィランへの対策も必要だが、内なる問題―――アクトの行動へも注視しなければと相澤はため息をつくのだった。

 

 その後、委員長となった緑谷が昼休みの飯田の対応にやはり飯田こそ委員長に相応しとその座を譲る一幕もあり、授業は進んでいく。

 

 アクトはその場に居合わせなかったが、嬉々として大きな身振りをする飯田に苦笑いしながら席に着いたのだった。

 

 

 

 




アクトの在り方は一種の狂人のそれです。
…サイコパス要素があんましないなぁと思ったので、ドミネーターだけ出してみました。
12000文字はちょっと多かったですね、申し訳ない。
それでは、また次回。
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