グッドスピード!!   作:夢落ち ポカ

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遅くなりました。
今年最後の投稿となります。
なろうの方は一時凍結して、当面はこっちで活動していきます。


第08話 開戦の時来たれり

 この日のヒーロー基礎学は人命救助(レスキュー)訓練だった。

 

 あれからアクトとクラスメイト達の関係に若干だが変化はあった。

 

 当初離れて様子を窺っていた飯田やデク、麗日、上鳴、切島、蛙吹がアクトに声を掛けたのだ。

 

 来る者拒まずの態度をとっていたアクトも短期間に自らに近付くクラスメイトが多いのに内心驚いていた。

 

 そんな中、耳郎は何か吹っ切れたのか、アクトに事あるごとに声を掛けていた。

 

「アクトはアメリカだとどんな活動をしていたの?」

 

 バスでの移動中、耳郎はアクトの隣の席に座り質問した。

 

 アクトはアメリカにいた頃のヒーロー活動に思いを馳せる。

 

 だが、思い出すのは殆どが凶悪なヴィランを血生臭い処理をしている自らの過去にすぐに考えるのを止めてしまう。

 

(もっぱ)らヴィラン退治だったな。

 来る日も来る日もヴィランヴィランヴィラン!!

 僅か半年の間だったが、随分と濃い生活を送っていたな」

「ケガとかしなかった?」

「殆ど無かったな、ゼロフィールドが使えない状況でも何とかしていた。

 俺の個性は応用が利くからな、指一本あれば大概のヴィランなど塵芥だ」

「相変わらず自信だな加減は!!」

「当然だ、世間は血生臭いだの何だの扱き下ろしているが、その程度で右往左往する俺ではないからな。

 大体日本のヒーロー社会は人気取りだの高給取りだのと緩過ぎる!!

 この前などヴィランが暴れていてヒーローが近くにいるからどのような対処をするのか見ていたが、報道陣が来るまで放置するなんていう戯けがいたくらいだ。

 あんな輩に免許を出した公安委員会の怠慢が伺えたな」

 

 アメリカのヒーローは日本と同じ絶大な人気を誇る職種ではあるが、年間にヒーローが何人誕生するかは厳正な審査が行われていた。

 

 そもそもアメリカ社会では個人の将来すらもシビュラシステムがサポートしており、自由に職を決めるという立場は個人にはない。

 

 シビュラシステムの提示した未来から外れて自分の求めた職に就いたとしても、そこで待っているのは職場からの迫害一択だ。

 

 シビュラシステムに逆らったというその個人に、その個人の傍にいて接していけばサイコパスが濁ってしまうのではという恐怖からか、誰もが離れていってしまうからだ。

 

 シビュラシステムが導入された当初は特にそういう行動を起こした潜在犯(・・・)は多くいて、その度に矯正施設は大量の潜在犯を収容していった。

 

 現在ではそのような誤った(・・・)判断をせず、シビュラの神託のままに生きている者が殆どだが。

 

 ちなみにアクトはヒーロー職から省庁まで全ての職種に適合しており、一種の伝説を作り上げていた。

 

 故に彼のことを一部の人間が『シビュラの申し子』と呼ぶものがいた。

 

「緑谷ちゃんの個性、オールマイトに似てるわね」

 

 少し離れたところで、蛙吹と緑谷が話をしていて、アクトも気になっていた話題をしていたので加わった。

 

「そそそそそうかな!?

 いやでも僕はそのえー…」

「だが蛙吹ちゃんよ、デクの個性とオールマイトの個性とでは決定的な差があるだろう」

「そうだね、オールマイトはケガをしないけど、緑谷はケガをしちゃっている」

 

 最近発現した個性、デクはそう言っていたことをアクトは思い出し、こうも仮定した。

 

 ケガをしなければ、つまり制御してしまえばケガもなく、増強型の個性は出来る幅は一気に広がる。

 

 相澤が以前言っていた通り、制御が出来ればの話である。

 

「デクよ、お前は個性をどういう風に使っているのだ?」

 

 ふと気になったのか、アクトはデクがどのように個性を発動しているのか尋ねていた。

 

「えっ?

 えっと、電子レンジに見立てて…」

 

 デクは自らを電子レンジの卵と変わった調整の仕方をしているようで、アクトはそのやり方に呆れた。

 

「なるほど100%のスイッチを着けては切ってと繰り返しているのか呆れた奴め。

 体が作れていないのに100%を使う奴があるかあほう」

「えっと、加減くん?」

 

 興が乗ったのか、アクトは見所のある個性を持っているデクに発想の転換を示した。

 

「必要な時に必要な個所に個性を発動?

 それがそもそも違うのだ。

 全力の100%ではない、せいぜい5%程度の出力を全身に張り巡らせろ。

 それを常時発動(・・・・)するのだ。

 常に100%を行使してケガをして回復しての繰り返し?

 いったい何時になったらケガをせずに個性を使いこなすのだ、ヴィランはお前の成長なぞ待っていないぞ?

 制御のマスターに生涯を費やす気か?

 デクよ、相澤に発破をかけられて焦る気持ちは…分からんが、もっと軽く考えろ。

 20分の1と侮るかもしれんが、それでも十分な火力はあるだろうさ…俺には届かんがな!!」

 

 スイッチを着けたり切ったりをすれば二手、三手とすぐには続かないだろう。

 

 体力テストの時に見せたような、指一本につき一撃と考えても実戦になれば足りないだろう。

 

 アクトはデクが今まで個性を使ってこなかったことから個性という当たり前(・・・・)を教えることにしたのだ。

 

 常に100%を使っている者などそうはいない。

 

 使えば自分の身がどうなるか身を以て知っているからだ。

 

 幼い頃から使っていれば感覚でその調整を測れるのだろうが、デクはその勝手が違う。

 

 デクには3年しかない、焦らなければならないが、闇雲に走っても何も変わらない。

 

 だからアクトは方向性を示すことにした。

 

 具体的で的確なアドバイスでもある。

 

「あ、ありがとう加減くん!!

 早速着いたらやってみるよ!!」

「ああ、すぐにはモノに並んだろうが、慣れていけば後はとんとん拍子に出来る事は増えていくだろう。

 俺の個性も制御には苦労した、何せ応用が利き過ぎてやれる事が多過ぎるからな。

 全てを極める時間がないからこそ効率的な手段を以てして最短で高める。

 制御が出来れば後はそれまで出来なかった事に時間を費やせばいい。

 要は順序の問題なのだ、分かるか?

 焦るのもいい、試行するのもいい、ケガをしてもいい。

 だが、恐れるな、自分を信じ続けろ。

 努力すれば夢は叶う?

 それは違うな、間違っているぞ。

 夢が叶うまであらゆる努力、手段を以て続ける(・・・)のだ、叶い続けるまでな」

 

 そういって満足したのか、ソフトハットで光を隠して演習場まで昼寝を始めたアクトの自由人ぶりに周りはどっと疲れてか、大きなため息をついた。

 

「さっすがプロのヒーロー、言ってる事が適格だし重いしで緑谷以外のウチらにも為になることばっかだね」

 

 耳郎が隣で昼寝をしているアクトになるべく小さい声でフォローを入れた。

 

 アクト本人は気にしないだろうが、こうして印象を悪く思われないよう草の根活動をするのが耳郎の誠意の見せ方だった。

 

「にしてもアクトの奴、到着まであと10分もねえんだけど、休めるもんなのか?」

「どうなんだろう、やっぱ休める時には休むっていうのが、染み付いてるのかな?」

「なるほど、プロヒーローとしての在り方を見せてくれているのか、流石だな加減くん!!」

「委員長声おっきいって」

「すっすまない…」

 

 それに乗じてか、アクトの株を上げるグループが好意的にクラスメイト達との溝を少しでも構築しようと頑張っていた。

 

 本人にやる気は無い為、対人関係は基本放置しているが委員長となった飯田やデクたちは加減にもクラスメイト達と仲良くなってほしいと思っているのだ。

 

 アクトがどんな思惑で日本に来たかなんて知らない。

 

 ただ、この雄英高校で少しでも一緒に成長していけるクラスメイト―――仲間として。

 

 そんな思いを知らず、アクトは全力で休息に入っていた。

 

 耳の周囲にゼロフィールドという完全防音状態で。

 

 彼らの頑張りがいつ実るのか。

 

 それはまだ、誰にもわからない。

 

 

 * * *

 

 

 アクトたちが着いたのは、およそ学校にある筈のない光景の映る場所だった。

 

 水難事故、土砂災害、火事、あらゆる事故や災害を想定し、設計された演習場。

 

 その名も―――、

 

ウソ(U)災害(S)事故(J)のルーム!!

 僕が作りました」

 

 全身を宇宙服のようなコスチュームで身を包んだヒーロー、スペースヒーロー、13号だ。

 

 災害救助で目覚しい活動をしていて、丁寧な救助で人気を博しているヒーローだ。

 

 ファンなのか、特に麗日が興奮して騒いでいるが、相澤がクラスメイトたちを一睨みするとしゅんと静かになった、アクト以外は。

 

 アクト以外のクラスメイトたちは短い間で実に調教されていた。

 

 アクトは周囲を見回すが、この場には相澤と13号の2人しかヒーローがいない。

 

 警備レベルを上げるよう忠告していたが、雄英高校側は聞き入れていないのだと思うと落胆するも、自身がいればどんな相手でも対処してみせると奮起した。

 

「えー始める前にお小言を1つ2つ…3つ…4つ」

(((増えてく…)))

 

 小言の数の多さに萎えていくクラスメイトたちをよそに、13号は口を開く。

 

「皆さんご存知かと思いますが、僕の”個性”は”ブラックホール”。

 どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

 この個性を使ってあまたの人々を救ってきたのだと13号は語り、一部のクラスメイトたちも13号の言葉を黙って聴いていた。

 

「しかし、簡単に人を殺せる力でもあります。

 皆にもそういう”個性”の人もいるでしょう」

 

 心当たりがあるのか、自らの個性を思い返していくクラスメイトたち。

 

 13号は語る。

 

 超人社会は”個性”使用を資格制にし厳しく規制することで一見成り立っているように見えるが、それは一歩間違えれば容易に人を殺せる”いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れてはいけない。

 

 相澤の体力テストによって自らの個性の秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘で人に向ける危うさを体験した。

 

 今回の演習では心機一転、人命の為に”個性”を使うことを主題にやっていくことを伝えた13号は、再度クラスメイトたちに厳しくもやさしい声音で語る。

 

「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。

 (たす)ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな。

 以上、ご静聴ありがとうございました」

 

 ぺこりと一礼した13号に口を閉ざしていたクラスメイトたちが個々に感嘆の声と拍手を13号に送った。

 

 そんな中、アクトの表情は険しくなっていた。

 

 これまである機能によって情報収集を続けていたところ、『回線遮断』と突然打ち切られたのである。

 

 ハッキングといった違法な手段ではなく、クラスメイトたちのサイコパスを見ていたというだけのアクトにとっては当たり前の行動だったのだが、ここに来て異常事態が起きたと周囲を警戒していたのである。

 

 危惧していた事態が起きたのだとアクトは周囲を見回す。

 

 近くには異常は無い、ここが教育機関だとは思わないほどの広大な施設だが、電波の広域封鎖を通達も無しに行うなど通常では有り得ない。

 

 アクトの右眼(・・)からは頻りに『通信エラー、システムとのリンクを構築できません』と指向性音声によるアラートが鳴り続けている。

 

 予期していた異常事態だが、ここまで大掛かりな手段を使って来るとは予想していなかったアクトは舌打ちするもすぐさま相澤に声掛けた。

 

「相澤教師、異常事態だ!!

 通信が何者かによって遮断された―――!!」

「なに―――っ!?」

 

 相澤もアクトの警告に眉を寄せる。

 

 元々この演習ではオールマイトがつく予定だった。

 

 演習を行うときは校舎を離れることから、アクトの警告に従い最低でも5人の教師を常駐していたが、オールマイトがいれば少数でもいいだろうという楽観と、運悪くオールマイトが通勤中にヒーロー活動をして休憩中(・・・)という事態にならなければここまで不利な状況には陥らなかっただろう。

 

「響香、障子、周囲を警戒しておかしな音が紛れ込んでいないか調べろ!!

 八百万は通信遮断を突破できる機材を今すぐに製作開始しろ!!

 電気、お前は八百万が機材を作り次第電力源だ、無闇に個性を使うなよ。

 他の者は周囲を警戒、急げ!!」

「え…?」

「てめぇ眼帯ヤロウしきってんじゃ―――」

 

 矢継ぎ早にクラスメイトたちに指示を下したが、彼らはどうしてアクトがそんな指示を下したのか理解できないのか動かないでいた。

 

 それに加えて命令が気に食わなかったのか、爆豪がアクトに掴みかかろうとした時、相澤が声を上げた。

 

「――-ひとかたまりになって動くな!!」

「え…?」

「13号!!

 生徒を守れ!!

 加減、悪いがお前にも出てもらうからな!!」

「はい!!」

「了解だ、大船に乗った気でいるといい」

 

 ここに来て異常事態だと気付いたのか八百万、轟らが漸く周囲を見回し、それに気付いた。

 

「あ、あれは何ですの!?」

「黒い渦から…人が?」

「なんだありゃ!?

 また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

 広場の中央から、黒い渦のような物体が突然現れ、中から全身を手首の模型でまるで押さえ込んだような男を皮切りに、本来現れる筈の無い者たちがぞろぞろとやってきた。

 

「黙れ、動くなお前たち!!

 あれはヴィランだ!!」

 

 鈍いクラスメイトに苛立ったのかアクトが声を上げる。

 

 黒い渦からは異形型を中心とした不法侵入者たちが続々と現れてくる。

 

 アクトは黒い渦―――否、黒い霧を移動系と異形型の個性を持ったヴィランと判断し今日何度目かの舌打ちをした。

 

「―――13号に…イレイザーヘッド、それにマッドスピードですか。

 先日頂いた(・・・)教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが…」

 

 黒い霧がだんだんと人型を作っていき、そこから男の声が聞こえてきた。

 

 声音は落ち着いた男性の声だが、言っていることがまるきり犯罪者だ、アクトがドミネーターを使わなくても分かる。

 

「ちっ、オールマイトが狙いということは俺の方は外れか?」

「アクト、どういうこと?」

「…どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…」

 

 響香がアクトに事情を聞こうとしたが、最初に現れた手だらけ男(・・・・・)がだるそうな声をあげた。

 

「オールマイト…平和の象徴…いないなんて」

 

 聞く者を不快にさせるような声音で体をゆらゆらと揺らす手だらけ男はしっかりとクラスメイトたちを怖気の走る目で見やった。

 

「子どもを殺せば来るのかな?」

 

 それは途方もない悪意が人の形をしたもの。

 

 ヒーローと対を成す、闇の住人たち。

 

 これが後にヴィラン連合と呼ばれる彼らの最初の事件。

 

「響香、唐突の事態だが現実を見ろ。

 これは―――」

 

 ヴィラン襲来という、雄英高校始まって以来の大事件。

 

 そして、1年A組にとって早すぎる実戦の時が、今始まった。

 

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。
若干の編集程度で、なるべく原作準拠…からの最終的に改変を予定しています。
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