とあるお姫様のまちがいだらけな青春ラブコメ   作:ぶーちゃん☆

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初めましての方は初めまして!ぶーちゃん☆と申しますm(__)m
そして初めてじゃない方はいつもお世話さまです!ぶーちゃん☆と申します(^皿^)


さて、私は今まで何人かオリヒロを書いてきたのですが、作者の予想とは違い、なぜか読者さま方からの好感度がなかなか高い愛されキャラなキャラクター達でした。
なので、今回は愛され度ゼロな……それどころかマイナスに振り切れるくらい最低なオリジナルヒロインを書いてみちゃいました!


※今回のはヒロインと呼ぶにはちょっとアレなキャラなので、イメージしやすいように後書きにラフ画イメージイラストを載せておきました。
グロ注意ですが、それでもよろしければ参考までにどぞ。






before
このお姫様は性格がかなりアレである


 

 

 

「……ごめん、ウチ、今日限りで遊戯部を辞めさせてもらうから……っ!」

 

「え!? な、なんでですか、まくら先輩!」

 

「そ、そうですよ……! なんでまくら先輩が辞めちゃうんですか!? 辞めないでくださいよぉ!」

 

 私の突然の退部宣言に、後輩部員の相模君と秦野君が、驚愕と悲哀の様相で私に退部届け提出の願い下げを懇願してくる。

 私はそんな二人の様子に内心ゾワゾワっと身震いしながらも、二人には内緒のその気持ちを決して表には出さないよう、目の端にうっすら浮かべた水溜まりをことさらに強調するように、とても哀しげな表情を作って退部する理由を告げる。

 

「……ごめん。だってウチ、仲良しの二人が真剣にゲームに向き合って、とっても楽しそうにしてるのを見てこの部に入ろうと思ったのに、今では二人がウチのせいでいがみ合ってるんだもんっ……! そんなの……ウチ、もう嫌なの……っ」

 

「そんなぁ……。す、すいません先輩! 俺たち、もう絶対いがみ合ったりしないですから! な、な! 相模!」

 

「そ、そうですよ! ホラ! ホラ! こ、これ見て下さいよ! 俺も秦野も、もう先輩に嫌な思いさせないですからぁ!」

 

 必死に私の退部を引き止めようと、無理してガッチリ肩を組む二人を見て、私は先ほどよりもさらにゾワゾワが増す。ヤバい、このままだと今にも溢れてしまいそうな気持ちが表情に出ちゃいそう。

 

「……ホントごめん! もう決めた事なの! ウチが居なくなっても……、んーん? ウチが居なくなるから、二人で遊戯部を盛り上げて行ってね……っ!」

 

「「ま、まくら先輩ーーー!!」」

 

 泣いて縋る二人の後輩を背に遊戯部の部室を飛び出した私は、目元と口元を両手で覆い隠して一目散に駆け出す。だって……あの二人にこんな表情、見られたくないもん!

 

 二人が追っかけてきてるかどうかは分からないけれど、とりあえずもしも追ってきていたのだとしても絶対に彼らには入ってこられない安全地帯、すなわち女子トイレへと駆け込んだ私は、水滴で滲んだ瞳ごしに鏡を覗きこんだ。

 

 

 

「……あ〜、やっばい、超気持ちいい〜!」

 

 これが、決して綺麗に磨かれているとは言い難い女子トイレのくすんだ鏡に、ツインテールに束ねた艶やかな黒髪と、目元口元を酷く歪ませた恍惚の表情を写した私、鎌倉まくらの第一声である。

 

× × ×

 

 私はいわゆる所の、オタサーの姫とかって呼ばれる人種。

 生まれ持った美貌と愛嬌で、色んな部活に入部しては男子達からお姫様扱いされるのが大好きな、どこにでも居る歪んだ趣味を持つ高校二年生の女の子。どこにでもは居ないかな。うん、そんなには居ないよね。

 

 ほんの一年ほど前までは大してオタク趣味に精通していなかった私ではあるけれど、私をお姫様扱いしてくれる一部の男の子達と上手く話を合わせる為に、必要に応じて知識や物資を増やしていくうちに、いつの間にかそこそこのオタクへと変貌していた。

 まぁ言うなればビジネスオタクとでも言えばいいのだろうか。

 

 そう。オタクになったのはあくまでも本来の目的の為であり、そんな歪んだ趣味の為に必要最低限のオタク知識を増やしていった私は、オタサーの姫というよりは、どちらかといえばサークルクラッシャーとかって括りでもいいのかも知れない。

 けど、姫って響きが気持ちいいし気にいってるから、やっぱりオタサーの姫でいっか。

 

 色んな部活と言っても、そこはやはりオタサーの姫の名が示す通り、地味系な男子部員がいる地味な文化系ばかりを狙ってる。

 漫研アニ研ゲー研などなど、ソッチ系の代表的な部活を一年の頃から片っ端から制覇して、今や私の元取り巻きは結構な数にのぼっている。だってそっちの方が女の子慣れしてないキモオタばかりだから、地声よりも少し高い音階の猫なで声でちょっと甘えただけで、超簡単にお姫さま扱いしてくれるし。

 

 別にこれは、リア充の巣窟であるサッカー部辺りの女マネとかだと、マネージャーやってるのもリア充美少女率が高くて自分が埋もれちゃいそうだからとか、そういう負け犬根性が働いているってわけでは決してない。ないったらない。

 

 ……てかなに? あの先月生徒会長になったサッカー部の女マネ一年。明らかに私と同じく猫被ってキャラ演じてる癖に、私と違って表の世界でも姫扱いされてるとかマジ腹立つ。あの女、絶対性格とか超最悪だよねー。見ればわかるもん。

 どんなに可愛くたってどんなに愛嬌良くたって、ああいう性格ブスは死ねばいいのにって感じ。

 あぁ……やば。なんか考えただけで劣等感と嫌悪感に苛まれちゃうわ。リア充はリア充ヅラして調子に乗ってるだけでもムカつくのに、さらに猫被って男に媚びてるとか、もうなんなの? って感じ。ああいうのとは絶対に関わりたくない、私の一番嫌いな人種だ。

 ……おっと、どうせ私の高校生活の中で関わる事なんか絶対にないであろう下級生のことなんてどうだってよかった。ただただ胸くそ悪くなるだけだから、もう考えるのはヤメヤメ。

 

 そこいくと地味な文化系だと女子部員も地味でビジュアルレベルも高くないから、ちょっと顔が可愛いくて、ちょっと愛想よく相手を持ち上げてやれば、男子全員にちやほやされるのとか超ヨユー。

 だから私は、別にリア充の巣窟にビビってるんじゃなくて、ただ楽してちやほやされたい省エネ派ってだけなのだ。

 つまり楽したいから地味なオタ系の部活をターゲットにしてるだけであって、私が本気だせばサッカー部とかバスケ部でちやほやされるのだって超余裕なはずに決まってる。よし、負けてない負けてない。

 

 

 今回の遊戯部は去年の十一月くらいから在籍してたんだけど、やっぱりお姫様扱いされてちやほやされるにしても、私がちやほやされてる様子を指を食わえて憎々しげに眺める事しか出来ない敗北者がいないと、結構つまんないのよね。

 ちやほやはしてもらえるし、仲の良かった友達同士が私を取り合うとかすっごいゾクゾクしちゃう。でもそれは、私のご機嫌を窺う男子を見た女子が悔しがっている姿を見て、ようやく心を満たしてくれるってトコもあるのだ。

 その観点で考えると、遊戯部の満足度は正直イマイチだった。なぜなら私の他には相模君と秦野君しか居なかったのだから。

 

 うちの学校は生徒の自主性を重んじる校風で、普通の学校に比べると部活動の制約がとても薄く、仮に部員がたった一人でも部活動として認められてしまうのだ。

 というワケで生徒の趣味趣向に沿った多種多様な部活動が認められている学校ゆえに、部活を乗り換えるのがライフワークになっている私みたいなのにはうってつけの校風ではあるんだけど、その分こうして部員の少なさで飽きてしまうのが早いってのも、また考えどころだったりする。

 ゲームを製作する事にかけてはとてもストイックだった仲良し二人が、ストイックさも友情も忘れて「我こそは!」と争うように私をお姫様扱いしてくれるのはまぁまぁ気持ち良かったんだけど、さすがにそれがたったの二人だと飽きが早くなっちゃうのが自然の摂理というもので、ついに三学期初日である本日、めでたく退部と相成ったわけである。

 私が居なくなったら、二人には元の仲のいいお友達同士に戻って欲しいなぁ、なんつって。

 

 でも飽きてきてたとは言っても、最後にプリンセスが去ろうとしているのを必死に食い止めようとしてくる瞬間というのは、さすがに最高に気持ちいい。

 なんてゆーのかなー? 最後にどっかぁん! って、綺麗に打ち上がった花火みたいなぁ?

 うん、男子相手の作った口調は、相手が居ないトコで一人でやるとかなりキモいって事は分かった。

 

 と、そんなこんなで今年度に入って三つめの退部を果たしてきた私は、もう一度ニンマリと鏡を覗きこむと、肩に掛かったテールをふぁさっと払い、颯爽とトイレをあとにするのであった。

 

× × ×

 

「あ、そんなの鎌倉さんに職員室持ってっといもらえばいーんじゃーん?」

 

「あ! だよねー、こんなん別にわざわざあたしが持ってかなくたって鎌倉さんでいいじゃんねー。……え、いーよね? はいコレ」

 

「ウ、ウチぃ……? う、うん、わかったぁ、いーよぉ。じゃあウチがもってくね♪」

 

 恭しくこうべを垂れる臣下達には愛され系なお姫様を気取る私も、クラスにはびこるカースト上位な恐めのリア充女子には滅法弱い。てかこういうキャラだから、女子からはまあ嫌われている。

 

 とはいえ別にこの境遇に不満を持っているわけではなく、なんなら有名税とかまで思ってる。もしくは妬まれ税?

 ああいう連中って、表向きには「男に媚びててムカつく。女のプライド無いのかよ」などと綺麗ごと言って誤魔化してるけど、結局のところは男子にちやほやされてるからムカつくだけの話なのよね。……あれ? なんか多少耳が痛い気がするんだけど、気のせい気のせい。

 

 部活だけではなくクラスの一部男子からもなかなか可愛がられている以上、キャラも相まって女子達が私を快く思っているわけがない事くらいは重々承知している。

 好きでやってるぶりっ子キャラだからこそ、女子にハブられてたって私は決して憂いたりはしない。憂いちゃったら負けまで思ってる。だからむしろ喜んでこのレポート運びをやってやる。

 

 おいふざけんな、今日の当番はテメェだろうが!? 自分で持ってけよクソビッチが! なんて事はこれっぽっちも思ったりなんかしない。しないったらしない。それが、キャラを演じてモテるのを愉しんでる女の矜持ってね。

 

「……ばーかばーか! てめーの仕事くらいてめーでやれよ……! 化粧がケバいんだよこのクソビッチ……!」

 

 ニコニコ笑顔でレポートを受け取って、教室からいくらか離れた辺りでぽしょりと文句を垂れながす私。

 キャラっ娘の矜持はどこいった? 思いっきり憂いちゃってるけど私。

 でもそれはしょうがない。だって重いんだもん。

 

 なんでこう紙ってのは、一枚だけだとこんなにも薄っぺらいくせに、束になるとなにゆえこうも重量増し増しになるんですかね。こんなに重い物をか弱くてか細い私一人に運ばせんじゃないわよ。ばーか!

 あー……イラつく。早くちやほやされて心を満たしたい……

 

 とはいうものの、つい数日前に遊戯部を辞めてしまったものだから、今の私をお姫さま扱いしてくれる場所がない。くっそ……、退部するの早まったかな。せめて次のターゲットを見つけてから辞めれば良かったかも。

 クラスの一部男子にはそこそこモテてはいるんだけど、お姫様扱いとはちょっと違うのよね。やっぱ派手でヒエラルキー上位のリア充女子共の目があるから、教室の中だとヘタレ系の連中じゃ、おおっぴらにはちやほや出来ないというね。

 

「うー、おっも……。チッ」

 

 はぁ〜……、やっぱクラスの男子に手伝ってもらえば良かったなぁ。てか、まくらが困ってんのなんて見りゃ分かるんだから、気を利かせてあんたらからお手伝いを志願してこいよ。なにクラスのケバいビッチギャル共の目なんか気にしちゃってんの? 使えねー。

 

 と、矜持なんてどこかに放り投げ、もう何度目になるかも分からない恨み言をこぼして軽く舌打ちを鳴らした時だった。とてもダルそうな猫背を晒した男子生徒の背中が視界に入ったのは。

 

「ん、あれは……」

 

 私、ああいう暗そうなオーラをびしびし放っている背中を持つ男子には造詣が深いのよ。なぜなら、私はああいうタイプを転がしてちやほやされるのを生きる糧としているのだから。

 後ろ姿だけでもよく分かる。自信のカケラも見当たらないほど丸まった背中に、セットする気とか皆無のぼっさぼさな頭、そして人生の先へ進むのを躊躇っているんじゃないのかってくらいの重々しい足取り。あれはそう……見るからに陰キャ。てかもう陰キャ丸出し。あんなドヨッとしたのにはなかなかお目にかかれないぞってレベル。

 

 よし、心優しいお姫様としては、ここは彼の助けを借りて あ げ ま し ょ う。

 私は荷物を持ってもらえるし、さらにクラスの女子共に対するイライラのせいで枯渇しちゃったちやほや欲求も満たせる。そして彼は、普段であれば決して叶う事のない可愛い女の子との会話を楽しむという夢心地な時間を得られる。それはもうこの上ないWIN-WINな関係。

 

 

 重い荷物を抱えた可愛いお姫様がドジってレポートばっさぁ! と落としちゃえば、男子であれば助けざるを得ないでしょ。そこで頬を染めてお礼の一言でも言ってあげれば、キモオタ陰キャなんて一発で私の虜。

 さらに、上手くいけば私の次なるターゲットへの道が開けるかもしれないチャンスまでゲット出来るという寸法。

 そうと決まれば即座に実行に移すのみ。

 

 重い荷物を抱えていることも忘れて一気にスピードを上げた私は、前方をのそのそ歩く陰キャへとまっしぐら。

 どよんとした背中の横をするりと抜けた瞬間、今まで前へ前へとスムーズに進んでいた足取りをふらふらな千鳥足へと変化させ、思わず助けてあげたくなるように弱々しく歩きだした。

 

「きゃっ」

 

 追い抜いてから若干の距離を確保した私は、庇護欲をくすぐるように小さく高く可愛らしい悲鳴を上げ、ばっさぁ! とレポートの束を辺り一面へと撒き散らす……つもりが、演技がかったふらふらな足取りを保ちつつ、上手く撒き散らそうと張り切りすぎた為に、脳と身体がバラバラになって足がこんがらがってしまい、あろうことか、どっしーん☆と前のめりにこけてしまった。

 

「ぐぎっ……」

 

 あまりの恥ずかしさに、私のお口の中は歯軋りを奏でる。

 ちょっとドジッ娘なお姫様を演出して庇護欲を誘うだけのつもりだったのに、陰キャなんかにこうも無様な姿を晒してしまった自分が情けなくて仕方ない。

 危うく舌打ちまでもがお口から出かかったのだが、さすがにそれは無理矢理理性で押さえ込んだ。

 

 吐き出し掛けた悪態と舌打ちをなんとか堪えつつ、前のめりに倒れ込んだ身体をむくりと起こして女の子座りになる私。しかし、廊下にぺたんと座り込んだ自身の状況にハッとする事となる。

 絶対領域を作り出すレースのニーハイを越えて、白くスベスベの太ももが付け根近くまで露になるほどスカートが捲れ上がっている事に気付いた私は、慌ててスカートをぐいっと押さえ付けた。

 

 ──っんだよ……! さすがにパンツまでは見られてないだろうけど、ちょっと荷物を運んであげさせようとしただけの男子一人にサービスしすぎだろ……!

 

 ただでさえ無様にこけて恥をかいたというのに、さらに追い打ちをかけるような痴態に頬と身体がカァっと火照る。これでは、たかだか一時の運び屋として使ってやるだけじゃ全然割りには合わない。まくらの脚線美……下手したらパンツまでも堪能したかもしれない以上、今後しばらくコイツには、お姫様の貪欲な優越感を満たしてもらわなくては。

 

「いったぁーい! うー、もうやだぁ……レポート重いよぉ……!」

 

 そして私は渾身の力を込めて、男心をこれでもかと揺さ振る弱音を吐き出す。

 ふふん、ざまぁみろ。ツインテ美少女の思わず守ってあげたくなるこんな姿を見たら、女に縁がなさそうな男子がときめかないわけがない。心配を装った下心丸出しのヘラヘラ顔で「だ、大丈夫?」とブヒブヒ声を掛けてくるのは必定である。

 そこで頬をポッと染め上げて「うん、ありがとっ」とか言ってあげれば、あとはオートメーションで荷物持ちマシンが起動するって寸法だ。

 そして照れを纏った空気のままモジモジと愉しげにお喋りしてあげれば、あとはもう私が飽きるまでの間、お姫様を持て成すだけの臣下の出来上がりである。たっぷりとサービスしてあげたんだから、職員室までの道程で色々と聞き出して、もしもなんか地味系の部活に入っているのなら、しばらくの間はまくらの優越感の為に働かせてあげるからね。

 

「……」

 

 しかし、しかしである。

 すぐさま駆け寄ってきて、大丈夫!? とでも言いながら散らばったレポート用紙を拾い上げるであろうと思われたこの男子が、駆け寄ってくるどころかなぜか声さえも掛けてこない。

 

「うぅ〜……ぐすっ、いたぁい、ウチもうやだぁ……」

 

 もしや私の渾身の猫なで声が聞こえなかったのか? と、もう一度猫を被って弱音を吐いて、チラリと様子を窺ってみる。

 

「……」

 

 しかしそれでも一向に動きを見せない男子に対して、私はまたも舌打ちを出しかけてしまう。ギリギリのラインで踏みとどまった自分を褒めてあげたい。

 

 ──ああ、チッ、そういうタイプね。チッ。

 

 コイツはアレか。慣れてないどころか、一ミリも女の子に免疫がなくて、自分から女の子に声なんて掛けられないチキン野郎か。たまに居るのよね、こういう陰キャの中の陰キャ、どうしようもないコミュ障ってのが。

 ……あ〜あ、めんっどくさいなぁ。こういうタイプって、いくら手懐けて臣下にしても、なんかモジモジしてゴニョゴニョ喋るばっかりで、ちょっとキモいし危なそうだしで、あんまり私の心を満足させてくれないのよね。

 しくったなぁ。こんなんだったら、コレに運ばせようだなんて思わなきゃよかったじゃん。

 

 それでもここまで身体を張ったんだから、どれだけ妥協したとしても、せめて荷物だけでも運ばせよう。その後、あわよくばコイツが入ってるかもしれない部活まで狙ってやろう、という作戦は、この際白紙撤回でいいや。てかこっちから願い下げ。

 こういう輩は、今まで女の子とのコミュニケーションが不能だった分、下手に優しくしすぎると、なんか知らないけど急に調子に乗り出したりもするし、必要以上に懐かれてストーカーにでもなられたらやだから、名前も名乗らず名前も聞かず、ただただベルトコンベアー替わりの働きを見せてくれればいいだろう。

 

 やれやれ、それじゃ仕方ない。声を掛けられないのであれば、こちらから「通路塞いじゃったよね……! ごめんね!」とでも声を掛けて、手を貸しやすくさせてあげましょうか。優しすぎでしょ私。

 

「……え」

 

 しかしそこで私は驚愕の光景を目の当たりにする事となる。

 不承不承で私が声を掛けてあげようと男子の方へと顔を向けようとしたら、なんとコイツ、あろうことか散らばったレポートの隙間をそろそろと避けて、この場から立ち去ろうとしていたのだ。

 

 ──は? え、なにコイツ。この状況で女の子に手を貸さないで逃げちゃう気……?

 いくら免疫なくて女の子に声を掛ける勇気がないチキンだからって、困ってるお姫様の横を素通りするなんて有り得なくない!?

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 あまりの衝撃的展開に、私は思わずそいつの背中を呼び止めてしまう。

 助けられるでもなく、助け易いように仕向けるでもなく、まさか私から助けを要求する事になろうとは、まったくもって計算外だわ。

 

 すると、なぜか一度キョロキョロと辺りを見渡した男子が、ここでようやく声を発した。そしてようやく出てきたその声も、私の予想からは大きく外れていたものだった。

 コミュ障らしく、どもるでも噛み噛みになるでも声が裏返るでもなく、それはなんとも面倒くさそうで嫌々そうな、とてもとても曇った声だったのだ。

 

「……なにか用か?」

 

 特に振り返るでもなく、横目でチラリとこちらを窺うようにそう答えた男子。

 

「……わひゃ! ご、ごめんねっ……!? あ、通るのに邪魔だよねっ!? ……え、えへへっ? 重くてふらついちゃって、つい落としちゃったぁ……、ウチちょおハズぅいっ」

 

 予想外の低音に一瞬惚けてしまった私ではあるが、そこは百戦錬磨の鎌倉まくらである。

 すぐさま気持ちを切り替えて立ち直ると、可愛らしく作り上げたキャラを見事に演じきった。

 そしてあくまでも自然に、散らばった紙へと意識を向けさせるように誘導するのだ。拾ってもいいんだよ? と。そして拾い集めた重い紙束を女の子に返したりしないよね? と。そのまま職員室まで運んでくれるよね? という思いを言外に込めて。

 

 ちなみに初見の相手……どころかまだ顔を見合せてもいないけど、そんな相手にタメ口で接しているのも作戦のひとつだったりする。

 私が二年という事もあり、この男子が私の上級生という確率は実に三分の一。いや、三年生は三学期に入ってから自由登校で出席していない生徒も多いだろうから、その確率はさらに下降するだろう。

 ほぼほぼタメ口でも問題ないであろうことから、出会いからフレンドリーに接する事が出来るというメリットがまずひとつ。

 

 よしんばコイツが上級生だったとしても、それが発覚した瞬間に「……ご、ごめんなさい! ウチみんなからちょっと天然だよね〜とか言われててぇ……、だからてっきり同級生と勘違いしちゃってました……。ホントにスミマセンせんぱい! ……うぅ、ウチまたドジッちゃったよぅ……」とでも言ってやれば、逆にドジッ娘の可愛い後輩女子というアピールが出来て一石二鳥というメリットもある。

 つまりどちらに転んでもメリットしかないという素晴らしき作戦。

 

「……いや、別に気にしないんで」

 

 しかしそんな数々の目論見は、またも脆くも崩れさる事となる。なぜなら、私の熱弁がまさかのスルーなのだから。

 コイツはこちらを見もせずに、散らばったレポート用紙の隙間を縫うように廊下の先へと進んでいった。

 

「そ、そのぉ! もし良かったら、そっちのを拾ってくれると、た、助かるんだけどぉ……」

 

 その態度にあまりにも唖然としてしまった私は、自主的に手伝わせるという当初の作戦も忘れ、思わず自分からそう声を掛けてしまった。

 ……なんという失態だろう。これではまるで物乞いではないか。計画もなにもあったものではない。

 

 お姫様は、黙っていたって臣下が勝手に喜び勇んで奉仕を行い、自分は大切に扱われているんだ、自分は特別なんだ、という悦に浸って楽しむものだ。

 それなのにこれはなに? 自分から施しを要求しないとちやほやされないなんて、そんなのは私が望むお姫様扱いなんかじゃない。

 はぁ……こんなんじゃこのあと多少ちやほやされたって、満足とは程遠いよ。

 でもま、今日のところは仕方ないからこれで我慢してあげる。どうせこの使えない男子と関わるのは今日だけだし。

 

「……はぁ〜」

 

 私からの切なるお願いに、この男子はようやく進む足を止め、心底面倒くさそうに頭をひと掻きすると、深く溜め息を吐き出しながらダルそうに散らばったレポート用紙を拾い集め始めた。

 溜め息吐き出したいのはこっちだよ、とか思いながらも、こちらからのお願いとなってしまったからには自分も動かざるを得ないわけで──

 

「……わぁ! ありがとぉ! ……んしょっ、と」

 

 と、手伝ってくれる事に対しての喜びをアピールしつつ可愛らしく立ち上がると、ウチも頑張って拾い集めてます。どう? 健気でしょ? いじらしいでしょ? という空気を目一杯振りまいて、散らばったレポート用紙に手を伸ばすのだ。

 

 しばらくすると、廊下いっぱいに散らばっていたレポート用紙の回収がようやく終わった。

 使えないと思っていた男子ではあるけども、いざご奉仕となると黙々と作業をこなし、私がいそいそと胸に数枚の用紙を抱えた頃には、他の用紙は全て回収が済んでいた。

 

 やれるんなら初めからやれよと言いたい衝動を堪え、私はとびきりの笑顔を振りまいて、そいつの元にとてとてっと駆け寄る。

 なにせここからがメインなわけ。自主的に職員室に運ばせるという作戦のね。 というわけで、ここでいじらしさをアピールしておかないといけない私としては、本心をぐっと堪えて甘え声をプレゼントしてあげなければならないのだ。

 

「あはっ、コケちゃうとかめっちゃ恥ずかしかったぁ……! ウチってばそそっかしくて、ホントやんなんちゃうよぉ」

 

 そう言って頭をこつんとして舌をちろっと出した私は──

 

「でも、えへへ、拾うの手伝ってくれて、ホントありがとぉ。ウチ、めっちゃ助かっちゃったぁ♪」

 

 ポッと頬を染め、潤々な上目遣いでコイツを見上げた。

 そしてこの時、レポートの束を抱えたこの男子と初めて正面から向き合う事となり、ようやくハッキリとコイツの顔を拝む事となった。

 

 こてんと倒した私の笑顔とキーの高い甘え声に、てっきりキモくドギマギしてるものかとばかり思っていたそいつ。

 でも、そこで見たそいつの様子は、予想していたそんなモノとは大きく掛け離れているものだった。

 

 

 

 正直、思っていたよりはずっと整った顔をしていた。特筆するほどイケメンってわけではないけど、まぁ横に置いておく分にはそこまで悪くないかなってくらいの、そこそこの顔立ち。

 どうせキモくてブサイクなオタクだろうと思ってハードルをめっちゃ下げていたから、通常であればラッキーと思わなくもないかもしれない。

 

 でも、私はそれに対してラッキーとかは一切感じる事が出来なかった。なぜなら、せっかく中々に整った顔立ちを台無しにするくらい、そいつの目も表情もすこぶる淀んでいたから。

 そして、どんよりと腐った目を訝しげに細めて私を見たそいつは、嫌そうに目元をひくつかせて口元を引きつらせ、とても小さく……そう、とても小さく、「うわぁ……」と呟いていたのだった。

 

 

 

 ──これが、私 鎌倉まくらの青春を一変させるかもしれない男、比企谷八幡との初めての接触であった。

 

 

続く

 





というわけでありがとうございました!
いやぁ、性格悪いですねぇ。あまりにも腹黒すぎて、個人的にはキャラクターとしては大好物です(^皿^)
てか作者自身がすこぶる性格悪いので、こういうキャラの内面は今までにないくらい書きやすいというね。


今までずっとオタサーの姫的なヒロインを書いてみたかったのですが、今回ついに書いてみてしまいました笑
というか、実はスランプで連載作品の筆が全く進まなかった期間に、ほんの気晴らしで書いてみただけのお話なのです(^^;)

そんなわけでして、正直投稿しようかどうしようか迷ってたくらいの作品ですので、このあと続くかどうかは分かりません(-ロ-;)
でもずっと何も書かないままでいるとなんにも書けなくなってしまいそうなので、手慰み程度になんとなーく続けていけたらなぁ、と思っております。


さて、色々と余計なフラグを立てまくって、とっても痛い目を見る未来しか見えない最悪なヒロインではありますが、もし続けられそうであれば、次回もよろしくお願いいたしますm(__)m




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