とあるお姫様のまちがいだらけな青春ラブコメ   作:ぶーちゃん☆

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こんなクズヒロインのお話だというのに、1話目をたくさんの読者様に読んでいただき、感謝いっぱいであります。

というわけで、少しだけ続けてみよっかな?と、なんとか2話目も書いてみました(^^)





歪んだお姫様と真っ直ぐな三十路

 

 

 

 ──拾い集めた重い紙束を女の子に返したりしないよね?

 

 

 などと高を括り、ふふんと余裕の笑みを浮かべていた何分か前の自分に折檻してやりたい。

 いや、折檻してやりたいのは、か弱い私にではなく、そんなか弱い私にあっさりと重い紙束を返還し、今まさにこちらに向けて猫背を晒している男に対してだろう。なんていうか、あの背中に思いっきり飛び蹴りかましたい。正に蹴りたい背中である。

 

 コイツは、こんなにも素敵なお姫様に向かって蔑みの視線を向けたのだ。こんなにも可憐なお姫様に向かって「うわぁ……」と声を漏らしたのだ。そしてこんなにも愛らしいお姫様に「……ほらよ」の一言のみを告げて、こんなにも重い荷物をあっさりと押し付けて、とっとと去っていくのだ。

 おい待てコラ、職員室まで運んであげさせようと頑張ってた、私の努力と恥辱をどうしてくれんのよ。

 

 頭ぼっさぼさの癖に……! みっともない猫背の癖に……! キモい陰キャの癖に……! ああ……なんという許されざる所業か。身の程わきまえろ、ばーかばーか!

 まぁ押し付けてもなにも、この荷物は私のだけど。

 

 

 イライラで我を忘れ、思い付く限りの罵声を廊下に響かせかけたものの、腕にのしかかるズシリとした重量にようやく覚醒した私は、次第に遠ざかってゆく背中を忌々しげに睨めつけながら、そんな呪咀を脳内でヤツに叩きつけるのだった。

 

「……チッ」

 

 ま、とはいえ……とはいえなのよ。確かにはらわたが煮えくり返るほどの不愉快さを味合わせていただきましたけども、結果的に見れば、これは私にとってのプラスである事は間違いないわけ。

 なぜなら、この陰キャは決して関わりを持ってはいけない日陰者だから、だ。

 

 そう。私はコイツを知っている。いや、正確には知っているというほど知ってるわけじゃない。廊下を歩いているコイツに対し、教室内から侮蔑の笑いを向けていたクラスの女共の噂話が勝手に耳に入ってきたって程度のお話。

 

 ……ヒキタニとか言ったっけ? 文化祭で悪名が轟いた嫌われ者。

 確か文実で適当な仕事をして文実メンバーから総スカン食らってた上に、終了間際に実行委員長の女子相手に暴言を吐いて泣かせて、エンディングセレモニーを滅茶苦茶にしたとかいう学校一の嫌われ者。

 

 まぁ? なにがあったのかまでは知らないけど、正直な話、私から言わせればあの文実委員長に暴言を吐いて泣かせたというのは、むしろ褒めてあげたいくらい……だったりなんかして。

 だって相模南でしょ? じゃあしょうがない。

 

 一年のとき体育とか家庭科であの女のクラスと合同だったから知ってるんだけど、あいつってマジでウザイのよね。

 なんちゃってリア充オーラ振りまいて調子に乗って騒いでる勘違い女……ってのが、私の中の相模南の印象。ただ同じ姓ってだけで、相模君より秦野君の方を可愛がってた事もないってくらい、相模姓の印象を悪くさせた女だったりする。ごめんね相模君、とんだとばっちりだったね。

 

 あの女に暴言吐いたというのなら、ヒキタニって陰キャにも腹に据えかねた物があったのだろう。クラス内カーストが低い人間にとっては、自分を見下す敵でしかないからムカつくもんね。うん、仕方ない。どうせあの女、調子に乗ってなんかしたんでしょ?

 だから私自身は、その噂の主に悪感情を抱いてたりはしてなかったのだ。いや、今現在は悪感情超抱きまくりだけども。

 所詮は低俗な女連中が電波塔となって広めた噂で、それを受信したのもバカビッチ共……なんていう噂に踊らされるほど素直な女の子ではないのである。てか姫にとっては所詮下々の下世話話ってね。

 

 とはいうものの、やっぱり周りの目があるからね。

 

 まくらちゃんがヒキタニと楽しそうに廊下歩いてたんだって! みたいな噂を流された日には、私の評判めっちゃ下落しちゃうしぃ、それよりもなによりも、もしそんな噂がクラスのビッチ共の耳にでも入っちゃったりしたら、まーたお姫様な私への妬み攻撃の新たなネタを提供する事になっちゃうわけで、そうなっちゃったらまくら超悲しぃ!

 うん、やっぱキモい。

 

 だから結果的に見れば、私は決してあんな陰キャに負けてない。なんなら天がまくらちゃんに味方したまである。

 それに、私は決して見逃さなかった。あの男、私にレポートの束を渡すとき、凄い緊張の面持ちで、絶対に私の手に触れないよう、慎重に慎重に渡してきたのよ。

 そう。つまりアイツはただ可愛い女の子相手に緊張してただけ。

 あれは決して蔑みの目を向けてきてたんじゃなくって、ドキドキで目が泳いでいただけに違いない。

 あれは決して呆れた「うわぁ」じゃなくって、「う、うわぁ、こんな可愛い子に声かけられちゃったよ!」という照れの「うわぁ」に違いない。

 

 これは決して、私が無理矢理なポジティブシンキングで現実見ないようにしてるわけじゃないのだ。だって、私があんな陰キャに負けるはずがないのだから。あの程度の陰キャがお姫様の虜にならないわけがないのだから。

 

 だいたい落としたレポート用紙を広い集めさせた時点で、私にとってはマイナス要素が皆無なわけだし。うむ、大丈夫。私はお姫様らしく、ちゃんとヒキタニとやらを利用出来てた。

 

「よっし、負けてない負けてない♪」

 

 こうして勝利を確信した私は、気を取り直して職員室へと歩を進める。

 そもそもレポート用紙を落とすという小細工をしていなければ、現時点ですでに提出が完了していたであろう事……すなわち運ばせる事に失敗した時点で、時間的にも精神的にも損しかしてないんだよ! とかいう事実などは、頭の中からまるっと追い出して。

 

「……チッ」

 

 なんとかかんとか自身の中で負けてないと折り合いを付けた私は、別にこれっぽっちも悔しくなんかないから、舌打ちなんかしたりしない。

 だからいま聞こえたチッっていう音は、ただのラップ音に決まってる。ラップ音が聞こえちゃった方が怖いよ。

 

 

 ──ふん、別にいいもんね。だってもうあんな陰キャに関わる事なんかないんだし!

 

 

× × ×

 

 

「失礼しまぁす」

 

 結局重くて憎々しい紙束をえっちらおっちら一人で運び、ようやく辿り着いた職員室。

 こんなものをビッチに運ばされる事になったのも、道中で嫌われ者に軽くあしらわれて不愉快になったのも、元を正せば可愛い生徒にこんな課題をやらせた教師が悪い。だからいつまでも結婚できないのよざまぁみろ。

 

「あ、せんせぇ、クラスのレポート提出しにきましたぁ」

 

「やぁ、鎌倉か。ありが……ん?」

 

 完全に八つ当たりな恨み言を心の中で呟きながら、とある三十路女の机の横へ移動すると、不思議そうな顔の三十路の視線が、私の顔と胸に抱えるレポートの間を往復している。

 三十路が不思議に思うのも無理はない。なぜなら私が持ってくるという状況が不思議な事態なのだから。

 

「おや? 今日の当番は確か足柄じゃなかったか?」

 

 足柄? だれそれ。ああ、あのケバビッチか。

 

「それがぁ、なんかビッ……、友達が忙しいみたいでぇ、お願いされちゃいましたぁ。えへへ」

 

「ビ?」

 

 ん? と首をかしげた三十路に、えへへと誤魔化してお茶を濁し、レポートをどさりと机に置いた。危ない危ない。

 しかし、とりあえずビに関しては誤魔化せた様子ではあるものの、それ以外の真相までは誤魔化せなかったようで──

 

「……友達、な」

 

 三十路は小さくそう呟くと、はぁ〜と深々と溜め息を吐いた。

 

「なぁ、鎌倉」

 

「なんですかぁ?」

 

「君、また部活を辞めたみたいだな。今度は遊戯部だったか。確か今年度に入ってから三つめ、だな」

 

「はい、そぉなんですよ〜。すっごく楽しかったんですけど、ちょっとウチには向いてないかなぁ? とか思っちゃってぇ」

 

「……」

 

「……えへ」

 

 

 ──あーあ、だからこの三十路苦手なのよねー。察しがいいと言うよりは、むしろ察しどころか全部見抜いてるぞって目で訴えてくる。

 この三十路は全部分かっていて、それでいて尚ハッキリとは口にせず、自分で答えを出せと私へ委ねてくるのだ。二年になってうちのクラスの現国担当となり、しばらくして私の有りように気付いた時からずっと。

 

「……まったく。本当に困ったもんだ。……大学時代にも君のように異性に対して要領のいい女友達がいてね。……くっ、ホイホイと簡単に男を吊り上げては遊び回ってたくせに、そういうヤツに限って早く結婚できちゃったりするんだよ……。葉子め、クソが……っ!」

 

 誰だよ葉子。

 

「えっとぉ、ウチよく分かんないんですけど、先生だってまだ結婚出来てないのに、先生と同じ歳ですでに幸せな家庭を築けてるんなら、それってめっちゃ幸せじゃないですかぁ? 超羨ましい〜! 先生も早く結婚すればいいのにぃ」

 

「グハァ!」

 

 まるで天然で口走っちゃったかのような、確信犯な私からの会心の一撃により、憐れな三十路はゆっくりと崩れ落ちる。

 甘いんだよ独身。先生が解っていて尚そんな話をしてくるのと同様に、私だって先生がなにを言いたいのかを解ってんの。これはもう一年近く続いている、女と女の化かし合いなのだから。

 そして解ってて尚こういう生活を続けてるからこそのお姫様なの。

 

「……ぐっ、だ、だがな、」

 

 でも、がっくりと崩れ落ちた三十路は、それでも心を折らずに私と向き合おうとする。

 大きな瞳にたっぷり浮かべた涙をごしごし拭い、ぐすっと鼻を啜り上げながらも折れないハートは称賛に値しちゃう。

 

「……ぅ、ぅぇぇ」

 

 前言撤回。これはもうばっきばきに折れてるね。折れてるのにこれだからこの人ってカッケー。

 

「葉子……いや、もう葉子の話はよそう。そういう連中はそういう連中で、ちゃんと同性とも上手いこと付き合えていたのだよ。……だが君の場合、異性と同性の反応がちょっと極端すぎてな。まぁ友達ではないがそういう極端なのも居たには居たんだが、そういう連中は漏れなくロクな目には合っていなかったように思う。……ま、それはあくまでも私の主観でしかなく、彼女らの中ではそれが本当に楽しくて、それで良かったのかもしれんがね……」

 

 そう言って真剣な眼差しを容赦無くぶつけてくる三十路に向けて、私が発する言葉はたったひとつ。

 

「んー、なんか難しくて、やっぱウチにはよく分かんないですぅ」

 

 

 

 ──ロクな目には合ってない、ね。

 まぁ? 私も好きでこういう事やってますから? こういうキャラやって男にちやほやされてたら、いつか痛い目にあっちゃう人も居るよね、って事くらいは織り込み済み。

 現時点でも十分手遅れかもだけど、当然同性からは避けられるし、なんならそこから陰湿な虐めに発展する事だってあるだろう。

 別に同性関係だけじゃなくて異性関係だってそう。ちやほやされたいがあまりに簡単に男に股開いて、弄んでるつもりがいつの間にか玩具にされちゃってた、なーんて事だってなきにしもあらず、なのよね。

 でもそれはね、そうなったヤツが単に三流だってだけ。

 

 虐め? 笑える。虐めなんてのは惨めにならなければこっちの勝ちだし。モブがピーチクパーチク騒いでるからなんなの? って話。

 そりゃいくら心が太平洋くらい広いと評判の私だって、たまにイラっときちゃう時くらいはあるけども、イラっとするのと傷ついて惨めになるのは別モンだから。

 ぷぷっ、どこの世界に動物園の檻に繋がれた猿にウキキッと笑われて傷つく人間様が居んのよ? つってね。

 

 玩具? それこそ笑える。ちやほやされる為に簡単に股開くとか、なんでお姫様が臣下にご奉仕してんの? お姫様とは、臣下に無償のご奉仕をさせるモノだから。

 そんな無償の奉仕に対してのご褒美は、ポンと軽く肩に触れてあげたり、ごくたまに「ウチ、こう見えて手相とか見れるんだぁ! あー、今、なんでこう女子ってのは占いとか好きなんだ? とかってちょっと笑ったでしょお! もぉ!」とかなんとか言いつつ、ちょっと手相見るフリして手をニギニギしてあげたりする程度のスキンシップで十分。

 

 それでちやほや要員を引き留めらんないんなら三流以下。お姫様気分で愉悦を味わいたいなんて願望は分不相応。とっとと辞めちまえ。

 だいたいキモオタ世界じゃ、中古呼ばわりされた瞬間から、愛しのお姫様を見る目から、童貞を卒業させてくれる姫始め様を見る目に変わんのよ。

 ちやほやされて持て囃されたいのに、よりによってキモオタに見下されるのなんて本末転倒以外のなにものでもないわけ。

 

 つまり、私がそうなるわけがない。だって、私はお姫様なんだから。

 そこには当然なんの根拠も確証もありはしない。でも、それでも私は胸張ってこう言ってやる。この鎌倉まくら姫が、ロクな目に合わないわけないだろうが! ばーか! と、ね。

 

「ったく、本当に歪んでいるな、君は」

 

「えー、先生ひどいですよぉ、こんなに素直な女の子に歪んでるなんてー」

 

 知らず知らず不遜な微笑でも浮かべていたのであろう私を見やり、深く溜め息を吐き出し、こめかみに手を当てて頭痛を抑えるかのようにかぶりを振る三十路の額にはぷっくりと血管が浮き上がってはいるものの、その表情は怒りという感情ではなく、呆れ笑いという感情が色濃く出ている。

 ふん、こっちこそやれやれよ。ようやく今日もまくらちゃんを言い負かすのを諦めてくれたか。

 もお〜、あんまりしつこいと結婚出来ないですよぉ?

 あ、これは今更の失言でしたね。

 

「……ところで鎌倉」

 

 と油断したのも束の間、独身はまたも鋭い視線を向けてくる。

 マジしつけー。だから結婚出来ないとあれほど。

 

「君、今はなにも部活に入ってなかったな。どうだ? 部活動大好きな君に、いい部活を紹介してやろうか?」

 

「は? ……あ、ふぇ?」

 

 鋭い視線から突如放たれた思いもよらない提案は、思わず素がひょっこりと顔を出しちゃうくらいに衝撃的かつ危険な香りに満ちていた。

 えと、この人は急になにを言い出してるのだろう。入退部を繰り返してはちやほやを楽しんでいる私にお節介を焼いている人物が、よりにもよって部活を紹介してくるって、なに……?

 もう嫌な予感しかしない。

 

「本当の事を言うとな、前々から何度か鎌倉を更せ……教育しようと、とある部活を強制的に紹介したいと思っていてね」

 

 やばい。強制的に紹介とか、それもう紹介じゃないし。それに更正とか言いかけたでしょ、この独身。

 

「しかし、なぁ……」

 

 なんだかよく分からない危機感を感じて、ひくっと顔を引きつらせていると、この三十路はうへぇと苦い顔をして、つらつらと愚痴のようなものを溢しだす。

 

「さすがに強制的に部活に放り込むのは色々と問題があってね。……職員会議で何度も議題に挙がり、生徒指導に丸投げされるような問題生徒であれば、多少強引でも後々学年主任に小一時間説教を食らう程度で納得してもらえたんだが、同じ問題生徒でも鎌倉の場合は表向きには要領のいい優良生徒に見えるからなぁ……。残念な事に、たぶん却下されてしまうんだよ」

 

 全然残念じゃないから。さらっと軽く言ってるけど、「説教を食らう程度で納得して“もらえた”」って、この人すでに強制入部経験者だよ。

 あとさっきは紹介とか言ってた癖に、放り込むとかあっさり認めちゃってるし。恐いよマジで。

 

「それに二学期が始まってから、長いこと色々とゴタゴタしていてな。下手に新入部員を入れるわけにもいかなかったんだよ。だがここにきてようやくいい雰囲気になってきてね、さらに部外者一名も上手く交わりはじめた今なら、新しい部員も受け入れられそうなんだ」

 

「へ、へー、そぉなんですかー。……て、てか、こんな可愛い生徒捕まえて、問題生徒とかひどくないですかぁ?」

 

 なんだか危険な香りが強くなる一方なので、興味ありませんとばかりに話をはぐらかしに掛かる私。満面のいい子ちゃんスマイルを浮かべてこの話題を軽くやり過ごそう。

 だいたいそんな怪しげな話題の振り方して、はいそうですかと入部を希望するわけないじゃない。これは流されたらいけない。

 

「鎌倉が問題生徒か問題生徒じゃないかと言ったら、それは自分が一番良く理解している事だろう? さて、それでどうするかね?」

 

 チッ、全くはぐらかせなかったか。

 

「……えっと、ウチ、しばらく部活はお休みしよっかな? とか思ってるんで、それはちょっとお断わりしよっかなぁ……?」

 

「ほう、鎌倉が部活をしない、ね。そりゃまた珍しい事もあったもんだ。……もちろん強制はしないが、別に遠慮しなくてもいいんだぞ?」

 

「え、えへへ、遠慮とかそんなんじゃないんですよぅ。……ち、ちなみにどんな部活なんですかぁ?」

 

 と、別に聞かなくてもいいのについ聞いてしまう部活マニアな私。

 確かに怪しげだし、この独身の紹介じゃロクな部活じゃないんだろうけど、現在絶賛部活募集中の私としては、どんな部活なのかがなんとなく気になってしまったのだ。もちろん受諾する気はゼロだけど。

 

「ふむ、どんな部活かと言われると難しいのだが、……君はボランティアに興味はあるかね?」

 

「……ボランティア?」

 

 

 それを聞かされた瞬間、受諾する気ゼロどころか、大きくマイナスに振り切れた。

 ボランティア、すなわち奉仕活動。部活動におけるボランティアとは、大概の場合は地域の清掃活動に参加したり地域の催し物の手伝いに行ったり、なんなら校内の草むしりとかを自主的という名の強制でやらされるアレであろう。

 

 

 ──ハッ、ばっかじゃねーの? なんで私がボランティア部なんかに?

 私は奉仕する側ではなく、あくまでも奉仕される側。従順な下僕たちに満足という富を分け与え、そのお礼に無償の奉仕を受けるお姫様。

 その私がなんで無償で奉仕なんぞをしてやらないといけないのか理解に苦しむんですけどー。私がボランティアとか真逆もいいとこでしょうが。馬鹿らしい。

 

 それにそんな偽善活動な部活動に進んで入部してる連中なんて、リア充でもなければキモオタ陰キャでもない。意識高い系か真面目ちゃん達の集まりに決まってる。ああ、あとは三十路に強制入部させられたとかいう問題児だっけ。

 ハッキリ言って、私が好んで関わるような連中ではない。

 

 ……そもそもね? 楽しみってもんは自分で見付けるものであって、決して誰かに与えられるものではないのだ!

 

「……んー、えっとー……どぉしよっかなぁ……」

 

 聞いた瞬間からすでに答えは出ているようなものではあるが、一応考えるような仕草だけでも披露しとかないと、この三十路はこのまま帰してはくれないだろう。

 

「……んっと、色々考えたんですけどぉ、そういうのはウチにはちょっと向いてないかなぁって」

 

「色々もなにも、ほんの一瞬考えたフリしただけだろうが……」

 

「やだぁ、そんな事ないですよぉ」

 

「ぐっ……この小娘、そろそろぶん殴りたい……!」

 

 ま、バレバレなのも織り込み済みである。要は、提案されて考慮した、という体裁が欲しいだけの話。三十路言ってたもんね。強制的に放り込めはしないって。

 

 だから、私はちゃんと考慮しましたよ。熟考に熟考を重ねた末に、否という答えを提示しましたよ。

 って、それをアピールしただけ。

 

「はぁ……本当にしょうのない奴だなぁ、君は。……ま、こうなるだろうとは思ってはいたがね」

 

「だから先生がなんの事を言ってるのか、ウチわかんないですよぉ。えっと、お話も終わったみたいですし、ウチそろそろ行きますね♪」

 

 

 

 そして私はくるりと踵を返すと、とてとてっと出口へ向かう。つまりこれにて、絶賛売出し中と売れ残りの会合は幕引きとなる。

 

 ただ、この人との狐と狸の化かし合いがこれで何度目になるかは忘れちゃったけど、これからも懲りずに何度も続けてゆくのだろう。

 そして私は、意外にもこの下らない化かし合いがそんなには嫌いではない。猫被りな私が本性をチラチラと垣間見せて、良くも悪くも真っ直ぐすぎるこの人に真正面からぶつかられるというのは、ちやほやされる快感とはまた違う快感を愉しませてくれるから。

 んー、なんてゆーのかなぁ? 猛牛に向けて赤いマントをひらひらさせたマタドールになっちゃった気分〜?

 

「なぁ、鎌倉」

 

 ほらね、これからも続ける気まんまんな三十路が、職員室の扉に手を掛けた私に再戦の申し出をしてきた。

 

「はい、なんですかぁ?」

 

 振り向いた私の瞳に映った三十路の表情は、とても真剣で、それでいてどこか悪戯っ子のようで。

 

「またなにかあったら、ちゃんと私に言ってこい。新しいターゲッ……部活の相談なんかにも乗ってやるぞ。私はこう見えても生徒指導担当だ。部活動にも色々と詳しいからな」

 

「……失礼しましたぁ」

 

 

 特に答えることもせず、ぺこりと頭を下げた私に目一杯の苦笑を浮かべ、手をひらひらさせる三十路の姿に十分満足した私は、クソビッチや陰キャに対するイライラもすっかり忘れ、明日からの新たなちやほや探求に心を浮き立たせるかのような愉しげな足取りで、一月初旬の冷たい空気で良く冷えたリノリウムを、軽快にキュキュッと鳴らして歩きだすのだった。

 

 

 

続く

 




というわけで、股開くとか言っちゃう可憐なヒロインの物語ではありますが、今回もありがとうございました!


ありがちな
『先生に強制入部させられた先に居たのは、もう関わることなんかないと思ってたムカつくアイツ!
やだ!もしかしてこれって運命☆…!?』
的な展開かと思いきや、なんとまくらさん、上手いこと奉仕部入りという地獄の一丁目に足を踏み入れるのを回避してしまいました(・ω・)
さて、この歪んだヒロインの間違いだらけな青春はどうなってしまうのか?待て次号!


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